220年7月
建設部隊を使って山越軍を自軍の側に誘い出し、
これをおおいに破った霍峻の山越討伐軍。
今度は、本当に砦を建設する部隊を派遣した。
霍峻自ら、馬良・向寵を伴って南城へと向かった。
それが5月半ばのこと。
砦を建設する間、山越軍の邪魔も入ることなく
工事は滞りなく進んだ。
そして6月、南城砦は完成。
高昌の陣から、残っていた将兵が移動してきた。
霍峻
馬良
霍 峻「皆さん、山越の本拠はもう目と鼻の先です。
各自、準備は怠りなきように」
馬 良「はい、準備万端、整えておきましょう」
雷圓圓
魯圓圓
雷圓圓「それじゃ、今からお弁当作っておきますね!」
魯圓圓「今からじゃ腐るからやめときなさい」
そして7月半ば。
いよいよ、山越を討つ時がやってきた。
その少し前に、翻陽に駐屯していた金閣寺が、
全ての兵を率いて始新城塞を陥落させた。
金旋が阜陵を落とし、霍峻が南城に砦を築いたので、
翻陽を攻められる心配がなくなったためである。
金閣寺が動いたことで、霍峻隊も山越のみに
集中することができるようになった。
この機を逃さず、山越との決着をつけるべく
霍峻は山越城の攻略部隊の派遣を決定する。
霍峻
馬謖
霍 峻「さて、今回の部隊編成ですが……」
馬 謖「大将はまた金満どのと鞏恋どのですか?」
霍 峻「いえ、今回は私も出ます。
私と金満どので2万ずつ率いて前面に出ます。
残り1万は投石部隊とし、向寵どのに任せます」
向 寵「承知」
霍峻隊には関興・張苞・馮習・張南が、
金満隊には鞏恋・魏光・雷圓圓・魯圓圓が。
向寵隊には馬良、馬謖、忙牙長が配属となった。
総勢5万の軍が南城を出て、山越の本城へと向かう。
対する山越城の兵は1万余りしかいない。
張苞
関興
張 苞「いくら屈強な兵でも、この数には勝てまい。
この戦いで山越軍もおしまいだな」
関 興「攻城戦なら、奴らお得意の奮迅も出せぬ。
こちらとしても戦いやすいというものだ」
馮 習「なるほど、つまり屈強な山越軍も、
くっ今日(くっきょう)で終わりということか」
張 南「そして、攻城戦ならこちらの士気も
向上(こうじょう)するということですな」
張 苞「お前ら黙れ」
そして戦いが始まった。
楚軍は霍峻の号令による弩連射で先制すると、
張苞・関興の斉射、鞏恋の騎射などで削っていく。
山越大王
山越武将A
山越王「ウヌヌー。我ラノ本拠ヲ、ヨクモ……。
オマイラ、絶対ユルサンゼヨー!
反撃! カウンターアタックデース!!」
越将A「オー、大王、身ヲ乗リ出スと危険デース」
鞏恋
鞏 恋「……はぁっ!」
ひゅん……しゅばっ
山越王「アウチッ! 矢ガ頬ヲ掠メタデス!!」
越将A「ダカラ言イマシタノニー」
山越王「血ガー、血ガー!!」
越将A「ハイハイ、ピーピー泣カナイデクダサーイ。
ハイ、バンドエイドデース」
山越王「泣イテナイ! 泣イテナイモンネ!」
金満
魏光
金 満「す、すごい……! なんて腕前だろう」
魏 光「むむ、もう少しで顔面に刺さったのに。
惜しかったな……」
金 満「いえ、今のは違いますよ」
魏 光「違う? 何が?」
金 満「今のは寸分違わず、狙った所に行ったんです」
魏 光「は? でもかすっただけ……」
金 満「初めから『かすめる』のを狙ったんです」
魏 光「何だって? なぜそんなことがわかるんだ」
金 満「フフフ、それはですね……。
かすった瞬間、鞏恋さんの口元がちょっとだけ
にやりと笑ってましたから」
魏 光「なにっ!?」
金 満「あの笑みは、自分の思い描いた通りの
結果になったがための笑みだったんですよ。
鞏恋さんは狙って撃った矢が外れて、
それで笑うような人じゃないですからね」
金満は魏光に得意顔で説明した。
がしかし、魏光は別なことに意識が行っていた。
魏 光「コラ満作! 私が見ていないというのに
お前が鞏恋さんの表情を見てるっていうのは
一体どういうこっちゃー!!」
金 満「な、なんですかその満作って……うぐっ!?
う、うぐぐぐ……く、首を絞めないでください」
魏 光「いいか満作〜!! 鞏恋さんは! 絶対!
わ・た・さ・ん・ぞぉぉぉ!!」
金 満「ギブギブ! チョーク、チョークゥゥゥ」
鞏恋の腕前を見抜いた金満、騎射を憶える。
なおこの時、金満隊の指揮系統がなぜかちょっとだけ
乱れたとか乱れないとか、そんなことがあったそうな。
☆☆☆
開戦から20日ほど経った、8月初旬のこと。
楚軍が絶対的有利な状況を得ているとはいえ、
山越軍もただではやられるつもりはない。
楚軍にも死傷者が出、兵の士気も落ち始めていた。
城の陥落も間近なのだが、あと一押しが足りない。
金満
魏光
金 満「うーむ、どうも中だるみしているなぁ。
少しでいいから兵の士気を上げるような、
何か突発的な出来事があればいいのに……」
魏 光「士気を上げるような突発的な出来事……?」
もんもんもん……
鞏恋
鞏 恋「ほら、君たち。
頑張ったらイイコトして、あ・げ・る」
楚 兵「うほー! 頑張るッスー!!」
……もんもんもん
魏 光「い、いかん、いかんぞー!
そんな羨ましい……もとい、いかがわしい!
確かにそれなら士気はあがるが絶対ダメだ!」
金 満「は? どういうことですか?」
魏 光「ここは私たち男が士気を向上させてやるのだ!
女性に手を借りているようではダメだ!
全くもってダメダメちゃんになってしまう!」
金 満「は、はあ……。
鞏恋さんや魯圓圓・雷圓圓には頼らずに、
ということですか」
魏 光「そうだ! 私たちの手でやらねば!
……というわけで、どうすればいい!?」
金 満「いや、どうすればいい、と言われても……」
魏 光「何も考えてないのかー!」
金 満「うわあ、勘弁してくださいよぅ!
士気を上げるようなことが起きればなあ、と
ただ願望を言ったに過ぎないのにー!」
???「ははは、一体どうしたのですか。
部隊の将同士が、そのように口論するのは
やめた方がいいですよ」
金 満「ああっ、貴方は!?」
魏 光「そ、その顔はっ!?」
らでぃぃぃぃぃぃん!
金 満「誰なんだー!?」
魏 光「一体何者ーっ!?」
金閣寺
金閣寺「何を言ってるんですか、金閣寺ですよ」
金 満「え? あ、ああ……! そう言われてみれば」
魏 光「た、確かに、髭さえ見なければ見知った顔だ」
金閣寺「兵3千を増援に連れてきたので隊に編入を。
これで多少、兵の士気も上がるだろうから」
金 満「あ、ありがとうございます、兄上」
金閣寺「いや、我らが始新城塞を落としたのも
山越攻めを支援するため。気にしなくていい。
今頃は、霍峻隊には髭髯龍、向寵隊には
李厳どのが増援の兵を受け渡しているはず」
魏 光「おおー。全体の士気が低下気味だったのが、
これで解消されたなぁ」
金 満「私が願ってたことが叶ってしまいましたか。
瓢箪から駒という奴ですね」
鞏恋
鞏 恋「あら」
金閣寺「あ、鞏恋さん。お久しぶりです」
鞏 恋「元気そうね」
金閣寺「ええ、それはもう。
病気なんかしてる暇はないですからね」
金 満「(魏光さん魏光さん)」
魏 光「(なんだよ満作、いきなり小声で)」
金 満「(だから何ですか、その満作って……。
それよりもですよ、鞏恋さん、私らと違って
最初から自然な反応でしたね)」
魏 光「(あ、ああ……そう言われればそうだな)」
金 満「(これって、鞏恋さんが閣寺兄を意識している、
ということなのでは?)」
魏 光「(な、ななな何なんだ、その理屈は〜!?)」
金 満「(私らは最初、閣寺兄と気付かなかったのに、
鞏恋さんはすぐに正体を見抜いてしまった。
もし、ただの同僚以上に思っているとすれば、
それも分かるというものでは?)」
魏 光「(ななな何を言っとるのかね、ききき君は。
この私を動揺させようとしてもむむむ無駄だよ。
おおお大人をからかうものじゃないよ、君ぃ)」
金 満「(動揺しまくってるじゃないですか)」
魏 光「(と、年は金閣寺の方が7歳も若いんだぞ)」
金 満「(その程度の差はアリだと思いますよ〜?)」
魏 光「(こ、こやつめハハハ)」
金 満「(……ひ、引きつった笑いのまま
首を絞めないでくださいよう〜)」
金閣寺「では、私はこれで。頑張ってください」
鞏 恋「それじゃ」
金閣寺は挨拶をして去っていった。
それに手を振って見送る鞏恋。
金 満「(ほ、ほら……手なんか振ってますよ……。
そ、それより、首から手を離してください〜)」
魏 光「(ふぬぬ……これはどういうことじゃ〜!)」
鞏恋は見送りを終えると、魏光の方に振り向く。
鞏 恋「ねえ」
魏 光「あ、え? な、なんでしょう」
鞏 恋「ひとつ教えてほしいんだけど」
魏 光「あ、はい、何をです」
「今の、誰?」
☆☆☆
さて、兵の補充と士気向上を得たそれぞれの隊は
城への攻勢を強め、8月中旬には城内へと突入。
一気に城の制圧へと動いた。
霍峻
霍 峻「各隊の兵は私が統括します!
各将は各々の判断で速やかに城内の施設を
占拠し、山越大王の身柄を確保してください!」
諸 将「了解!」
霍 峻「ただし、一般市民への手出しは禁じます!
略奪、暴行は一切禁止! いいですね!
では、行ってください!」
諸将が城内へと散っていく。
そのうち張苞と関興は、武器庫と思われる
場所へと向かった。
張苞
関興
張 苞「なんで着いてくる?」
関 興「そりゃこっちの台詞だ。
山越大王ならこんな所にはいないだろう」
張 苞「フン、何言ってるんだ。
俺のカンがここにいるって言ってるんだよ。
いないと思うなら、お前は何故ここに来た?」
関 興「そ、そりゃ、武器庫を押さえてしまえば、
もう敵も抵抗しないだろうと考えたからだ」
張 苞「いーや、違うな」
関 興「な、何が」
張 苞「『山越軍のお宝の武器とかあるかなー。
先にそれを見つけて貰っちゃおーっと』」
関 興「なっ……俺の心の中を読んでいる!?
貴様、張苞ではないな! どこの仙人だ!」
張 苞「普通の張苞だよ、俺は。
お前、いつも武器欲しがってたじゃん」
関 興「う、た、確かに、無銘の武器しかないから、
いい武器が欲しいな、とは言っていたが……」
張 苞「まあ、いいのを見つけたら渡してやるよ。
それより今は、山越大王を探すのを手伝え」
関 興「分かった分かった……。
と言っても、ここにはいないと思うぞ」
張 苞「いいや、いるね……。
この奥に、誰かが隠れている」
関 興「……むっ、確かに。何者かがいる気配だ」
武器庫の中に入っていく二人。
その奥にいたのは……。
山越武将D
越将D「ハーッハッハ! 残念ダッタナ!
ココニハ、大王ハイナイゾー!!」
張 苞「ちっ、外したか……。雑魚しかいないとは」
越将D「ザ、雑魚言ウナー!!」
憤慨する山越武将の前に進み出た関興。
剣を突き出し、降伏を勧告する。
関 興「とりあえず……降伏しろ、山越武将。
貴様の軍はもう負けたんだ」
越将D「ウルサイデース!
軍ハ負ケテモ私自体ハ負ケテナーイ!
イザ、尋常ニ勝負シナサーイ!」
関 興「仕方ないな……。張苞、手出し無用だぞ」
張 苞「ご勝手に。俺もうやる気なくなっちゃった」
張苞はごろん、とその場に横になってしまった。
そんな二人を見て、山越武将はますます憤る。
越将D「貴様ラー! 舐メクサッテ!!
泣カス! 泣カシチャルケンノー!!
ヌオオオオオリャアアアア!!」
関 興「弱い奴ほどよく吼える……。でやあっ!」
山越武将の大振りの一撃をかわした関興は、
すぐに山越武将の胴を剣で横に薙いだ。
ガキン!!
だが、山越武将の鎧は傷ひとつつかない。
それどころか、関興の剣がポッキリと折れていた。
関 興「なっ……剣が折れた!?」
張 苞「なにっ?」
越将D「フハハハ! 切レテナイ、切レテナーイ!
コノ鎧ハ、大王秘蔵ノ『ハードアーマー』ダ!
ドンナ剣デモ、傷ヒトツ、ツケラレンワ!!
無駄無駄無駄、無駄ナノダァァァ!!」
関 興「ぐっ……そんなものを着ているとは」
張 苞「どんな剣でも……か。おい関興、これ使え」
張苞は自分の剣を、鞘ごと関興に放り投げた。
関 興「えっ? い、いいのか」
張 苞「貸すだけだ。後でちゃんと返せよ」
関 興「折れても知らんぞ……」
張 苞「大丈夫、お前の腕なら折れたりせんよ」
関 興「……ま、その煽てに乗るとしますか。
では、もう一度いくぞ、山越武将!!」
越将D「何度デモ同ジコトダ!
ソノ剣モ折レルダケノコトヨー!!」
関興は受け取った剣を鞘から引き抜くと、
再び、山越武将の胴を横に薙いだ。
ズバッ!
……次の瞬間、山越武将の胴から血が吹き出す。
越将D「ア、アレ……? 切レテル?
切レナイハズノ、鎧ガ……切レテール?」
張 苞「天をも貫く、という倚天の剣だ。
その程度の鎧、切れて当たり前だぜ」
関 興「……すげぇ切れ味だ。流石、天下の名剣」
越将D「ガッデーム……。ソンナノ反則デース……」
山越武将は、ガクリとその場に倒れた……。
関 興「やっぱりいいな、この剣……欲しいなぁ」
張 苞「ちょ、おい! 貸しただけだって言ったろ!」
なお、武器庫の中をくまなく探した二人だったが、
お宝の武器は何も見つからなかったという。
☆☆☆
一方、魯圓圓と雷圓圓は金庫へと向かった。
雷圓圓
魯圓圓
雷圓圓「お姉さま〜。なんで金庫なんですかー。
私はてっきり、鞏恋お姉さまと一緒に
本城に行くのかと思ってたのに」
魯圓圓「ぞろぞろ本城ばかりに固まって行っても
しょうがないでしょう。それに私は、
貴女についてきてなんて頼んでないわよ」
雷圓圓「ああん、つれないこと言わないでください。
私とお姉さまの仲じゃないですか♪」
魯圓圓「あのねー。貴女がそういう態度だから、
いつもセットで扱われちゃうのよ!
そのうち給料までセットにされるわよ!」
雷圓圓「お部屋も一緒にされちゃいますねー。
きゃうーん、そうしたらどうしましょう」
魯圓圓「……ああ、もういいわ。ちょっと黙ってて」
雷圓圓「了解なのです」
それきり二人は黙々と金庫の中を進む。
コツコツ、という足音以外の音は聞こえない。
魯圓圓「あー。やっぱり黙らなくていいわ」
雷圓圓「はい?」
魯圓圓「貴女が黙ってると、ものすごく違和感がある」
雷圓圓「はあ。それじゃ、しゃべりますけど。
それにしても、ここって金庫のはずなのに
さっぱりお金が入ってませんね〜」
魯圓圓「使いすぎたのか、持ち逃げされたか。
ま、敗軍の金庫はどこも同じようなものよ」
雷圓圓「実は、隠し金庫とかがあったりして」
魯圓圓「あはは、まさか」
雷圓圓「わかりませんよー。
例えばこの壁の部分がスイッチになっていて、
ここを押し込むと隠し扉が開くとか……」
魯圓圓「そんな安直な……」
魯圓圓はそう言いながら、雷圓圓が指差した
その壁をちょっと押し込んでみる。
ゴゴゴゴゴゴ……
魯圓圓「うそっ!?」
雷圓圓「壁がせり上がっていきますよ!?」
魯圓圓「じゃこの中に、山越の隠し財産が……!?」
何が出てくるのかドキドキしながら、
壁があがっていくのを見守る二人。
壁が完全に上がって、現れたのは……。
山越武将C
越将C「ナッ!? キ、貴様ラハ!?」
雷圓圓「あーっ!?」
魯圓圓「あの時のハゲ山越武将!!」
越将C「ハゲジャナイ!
今ハモウ、HAIR FOR LIFEデFUSAFUSAダ!」
雷圓圓「じゃあヅラか」
越将C「ヅラ言ウナ!」
出てきたのは、以前に雷圓圓にハゲにされた(※)
山越武将であった。
(※ 続金旋伝 第63章を参照のこと)
越将C「シカシ、ナゼコノ部屋ノ存在ガワカッタ!?
ココナラシバラクノ間、隠レテイラレルト
思ッテイタノニ!!」
雷圓圓「なぜ、って言われても」
魯圓圓「ほんとにマグレだものね」
どうやら彼は、ほとぼりが冷めるまで
この隠し部屋に隠れているつもりだったらしい。
越将C「マグレデ見ツケタ……?
ソレナラバ、ココデ貴様ラヲ殺ッテシマエバ
マダシバラクハ、大丈夫トイウコトダナ!」
雷圓圓「わー、この人殺る気満々ですよ、お姉さま!」
魯圓圓「何言ってるの!
私たちはその殺られる側なのよ!」
越将C「ソノ通リー!!
ツイデニMeノ食料ニナルガイイー!!」
魯圓圓「きゃあああああ!!」
剣を持って魯圓圓に襲い掛かる山越武将。
だが、その刃が魯圓圓に届くことはなかった。
雷圓圓「ゴールデンハンマー!! 撲殺モード!!」
雷圓圓が取り出したゴールデンハンマー。
彼女の声に手にしたハンマーが反応し、
ジャキン、と表面にいくつものトゲトゲが生えた。
そのちょっと当たっただけで痛そうな武器を、
雷圓圓は思い切り山越武将の頭に叩きつけた。
ドグシャァァァ!!
雷圓圓「人肉を食らうような畜生以下の下郎めっ!!
たとえ私が許しても、私の正義が許さない!」
魯圓圓「ら、雷……!?」
雷圓圓「撲殺! 撲殺! 撲殺ッッッッ!!」
魯圓圓「ちょ、ら、雷ってば!」
雷圓圓「撲殺撲殺撲殺撲殺撲殺撲殺撲殺撲殺!!
ぼくさぁぁぁぁぁつ!!」
何度も何度も必殺攻撃を叩き込む雷圓圓。
見かねた魯圓圓がそれを止めた頃には、
山越武将はもはやピクリとも動かなかった。
魯圓圓「……助けてもらって言うのもなんだけど、
これはちょっとやりすぎじゃないの?」
雷圓圓「えー、何言ってるんですか。
相手は人肉を喰うような悪魔なんですよ?」
魯圓圓「今は貴女の方がよっぽど悪魔に見えるわ」
雷圓圓「可愛い小悪魔ってことですね? ウフフ♪」
魯圓圓「都合のいい脳内変換しないで……」
雷圓圓「でも悪魔というよりは天使ですよね、私」
魯圓圓「あー、そうね。撲殺天使という感じね。
じゃ、天使ならこの人、生き返らせて」
雷圓圓「何言ってるんです、そんなマンガみたいな
ことができるわけないじゃないですか。
天使は笑顔を振りまくのみです♪」
魯圓圓「はあ、左様ですかー」
二人はその後も金庫内を捜索したが、結局、
山越武将以外に見つけたものはなかった。
魯圓圓「安らかに……は無理かもしれないけど、
とにかく眠れ、山越武将……」
雷圓圓「私たちに見つかった己の不運を呪うがいい!」
魯圓圓「化けて出てきそうなこと言わないで」
☆☆☆
魏光は他の者と別れ、食料庫へと入った。
そこに並ぶ珍しい食材を前にして、彼は思わず
今が戦闘中であることを忘れてしまう。
魏光
魏 光「うわ……すごい種類の食材だな。
大王に出す料理に使うのだろうか……。
むむ、こんな食材で料理を作ってみたいな」
趣味の料理のことを考えながら見て回っていると、
ふと、小さな檻を見つけた。
魏 光「何か、生き物が入っているようだが……。
むむっ、こ、これはっ!?」
猫 「ぶにゃ〜」
魏 光「か、かわいいっ……!!」
檻の中に入っていたのは虎縞模様の猫だった。
魏光の方を見て、カリカリと檻に爪を立てる。
魏 光「な、なんて可愛いんだ……。
しかし、なんでこんな所に猫がいるんだ?
檻に入れていては、ネズミも捕れないだろうし」
猫 「ぶにゃ、にゃっ、にゃにゃ」
魏 光「……あまり考えたくはないが、山越の奴ら、
この猫を食材にしようとしていたのだろうか?
ちっ、なんて残酷なことをするんだ……」
猫 「にゃ、にゃにゃー」
魏 光「しかし……。食材にするということは、
実際に食べてみたら美味いのかな」
猫 「ぶにゃっ!? に゛ゃに゛ゃ!!」
魏 光「ははは、本当に食べたりはしないさ。
それより、今そこから出してやるよ」
猫 「にゃ!」
カチャカチャと檻の蝶番を開ける魏光。
……その時、背後より白刃の煌きが襲いかかる!
猫 「に゛ゃーーーーーっ!!」
魏 光「えっ……うわあっ!?」
猫が騒いだため、魏光はそれに気付き、
すんでの所で避けることができた。
山越武将B
越将B「オー、ヨク避ケマシタネー」
魏 光「山越武将! こんな所に隠れていたのか!」
越将B「ソノ通リデース。ココデ食料サエ確保スレバ、
イツマデモ隠レテイラレルト思ッタノデース」
魏 光「いや、それは流石にどうだろう。
普通に見つかってしまうと思うが」
越将B「ウルサイデース! トニカク、死ネ!」
山越武将は短刀を何度も繰り出してくる。
対する魏光は、防戦一方であった。
彼の得物の肉包丁を振り回すだけの広さが、
この場所にないためである。
越将B「ムハハハ、ドウシタドウシタ。
ドンドン追イ詰メラレテイルゾ?」
魏 光「くそ、少しでも広さがあれば……。
この狭さじゃ、頭から叩き込むくらいしか
できないじゃないか……」
山越武将に少しでも隙があれば、肉包丁を
頭から叩き込んで倒すこともできるだろう。
だが、それは完全に警戒されていた。
そうしているうちに、魏光は端まで追い詰められる。
魏 光「くっ……このままじゃ、やられる」
越将B「フフフ、覚悟ナサーイ。オマエヲ殺ッタラ、
解体シテ美味シク戴クコトニシマース」
魏 光「げ、人肉を喰うのか」
越将B「久シブリニ焼肉モイイデスネー」
魏光、絶体絶命。
しかしその時、檻から出てきた先ほどの猫が、
山越武将の頭に飛びかかり、爪で引っ掻いた。
猫
猫 「にゃーっ!!」
越将B「ギャー!? 目ガ、目ガーッ!!」
魏 光「今だっ!」
魏光は肉包丁を、渾身の力で叩き込む。
山越武将は目をやられながらも、攻撃を察して
防御のため頭の前に短刀をかざしていた。
だが魏光の刃は、それを叩き折ってなお
山越武将の頭へと及んだ。
魏光は肉包丁の血を払い、傍らに佇む猫を見る。
魏 光「お前に助けられたな。ありがとう」
猫 「にゃー」
魏光の言葉に返事をしたかと思うと、
猫はぴょんと魏光の肩に飛び乗った。
魏 光「なんだ、私と一緒に行きたいのか?」
猫 「にゃん」
魏 光「そか。命の恩人……恩猫だものな。
よし、ついてきていいぞ!」
猫 「にゃにゃ!」
……こうして、魏光に小さなお供ができた。
☆☆☆
本城に突入した鞏恋らは何に出会うのか。
そして、まだ見つからない山越大王はどこに?
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