真心戦隊トゥハート

written by 李俊

1、悪の秘密結社
 
…暗い洞窟の中。
明らかに人の手の加えられた跡がある。
奥へと入っていくと、やがて明かりがもれている所に着く。
そこは、ホールのような、ちょっとした大きさの空洞になっていた。
その奥の壁に、大きなレリーフがある。
葉っぱのマークの真ん中に、2つの目のような穴が開いている、怪しいものだ。
その前には祭壇のようなものが築かれており、レリーフに描かれているものを祭ってあるようだった。
 
…男が2人、祭壇の前に立っていた。
「ふわっはっはっは、今日の破壊活動も大成功だ!これもリーフ様の御威光の賜物じゃろうて」
大口を開けて笑う初老の男。
タキシードでも着ていれば、どこぞの富豪の執事か運転手といったところだろうが…。
彼は、紫の生地のハデハデな軍服を着ていた。
「セバス大佐。あまり調子に乗っていると足元をすくわれるぞ」
もう1人は、幼い顔つきをした、少年といっていいくらいの男だ。
表情を変えず淡々としゃべる様は、氷を連想させる。
彼の着ているのは、黒い皮でできたまがまがしいスーツにマントと、どことなく中世の吸血鬼を思い浮かばせるいでたちだった。
…セバス大佐と呼ばれた初老の男は、くるりと向き直ると、
「ふっふっふ、私が活躍するのをねたんでの言動かね?マサシ伯爵」
と言って唇を歪ませた。
「…そうではない。我ら『リーフ』の世界征服のためには、油断は禁物だと言っているのだ」
マサシ伯爵と呼ばれた男は、また淡々と言った。
 
…リーフ。
それは世界征服を企む悪の秘密結社である。
彼らは、世界中の秩序を破壊しつつ資金を貯め、混乱に乗じて世界を征服しようとしていた。
その方法は…。
ある時は幼稚園バスのハイジャック。
またある時は、バキュームカーの破壊。
またある時は、全国の未成年に無修正Hビデオテープの無料配布。
ほかにも万引き、食い逃げ、のぞき、下着ドロ、駐車違反、信号無視などなど、実にさまざまな悪事で世界を混乱に陥れていた(笑)。
ちなみにリーフ(LEAF)とは、『ラブラブ エロエロ 危ない ふたり』の略称であるとか、『リンゴを選ぶなら 青森か 福島』の略であるとか諸説いろいろあるが、どれが真実かは定かではない…。
 
「ふわっはっはっ!このわしが油断などするものか!ふあっはっはっはっはっはっはっはっ…ぐえっ…ゲホゲホゲホ!」
セバスは笑いすぎて、むせて咳き込んだ…。
「歳を考えずにバカ笑いするからだ」
マサシの氷のツッコミ。
「な…なに…ぐほっ、ゲホゲホゲホッ!」
セバスは何か言いたそうだったが、むせるのが止まらず何も言えなかった。
 
ういいいいいいん
横の方に設置されている銀色の扉が開く。
その奥から、黒皮のボンテージを着た、いかにも女王様風の女性が入ってくる。
ぴしぃっ!
手にした鞭(固めの棒状のもの)を壁に叩きつけながら2人の元に歩いてきた。
「ええいっ、またしても邪魔をされたわ!」
その女性は、不機嫌な口調で吐き捨てるように言った。
「アヤカ将軍…また奴らにやられたようだな」
マサシは目だけをアヤカに向け、言う。
「そうよ!奴らさえいなければこんな無様な真似をするものですか!ええい、いまいましい『トゥハート』め!」
 
『トゥハート』。
それは、故・来栖川累三(くるすがわるいぞう)が、リーフに対抗すべく結成した私設治安部隊である。
来栖川グループの総帥である来栖川累三は、リーフに身の代金目当ての誘拐をされるが、自力で脱出。
そして、リーフの力を直に見て脅威に感じた彼は、『真心戦隊トゥハート』を結成したのだった。
ちなみに来栖川累三は今年の正月、モチを咽喉に詰まらせ窒息死という壮絶な死を遂げている(笑)
「来栖川累三め。やっかいなものを残してくれたわ!」
セバスは、むせるのも止まったので、またでかい声で言い放った。
…ビコーンビコーンビコーン。
急に、壁のレリーフの目の部分が赤く点滅する。
「あっ、リーフ様のおこしよ!」
アヤカがそう言うと、3人は慌ててひざまずく。
ぶうぅぅぅぅぅん。
やがて目は青く光り出した。
「…どうだ。事は順調に進んでいるか」
低い声が響いてくる。『リーフ』の声だ。
「は…、全て順調にございます」
マサシが、ひざまずいたまま答える。
平静を装ってはいるが、額にアブラ汗がにじんでいる。
「…本当か?セバス大佐」
「は、ははっ!これもリーフ様の御威光の賜物にございます!」
声を向けられたセバスも、かなり緊張した面持ちである。
よく見ないとわからないが、その手は小刻みに震えているようだ。
「…わかった。各自、一層の奮起を期待する」
ぶうぅぅぅぅぅん。
目の青い光が消える。
 
「…ふぅ」マサシは安堵の溜息をつくと、スッと立ち上がった。
「トゥハートに邪魔されたこと、ばれずにすんだようだな」
セバスも立ち上がり、ハンカチを取り出すと額の汗をぬぐった。
「しかし、このままではまずい。ばれたらどんな罰が待っているか…」
アヤカはゆっくりと立ち上がり、多少青ざめた顔で言う。
「そうだな。いくら他の所で順調にいっても、肝心な所で奴らに邪魔されては意味がないな…」
マサシが腕組みしてしばし考え込む。
そして顔をあげると、
「よし、次の作戦はトゥハートをつぶすことに全力をあげるとしよう」
「うむ」「そうね…」
マサシの言葉にうなずく2人。
「しかし、この中で実際に奴らを見たことがあるのは、アヤカ将軍のみだ。的確な情報を教えてくれ」
「わかったわ」
その後3人は、どうすればトゥハートを倒せるか、作戦会議に入った。
そして、導き出された答えは…?



2、平和な昼下がりに
 
昼休みの学校の屋上。
そこにいるのは、浩之とあかりだけだった。
「うん、美味かった。やっぱあかりの弁当が一番だな」
弁当を食べ終わった浩之は、弁当箱を隣りにいるあかりに渡した。
「ふふふっ、私も作り甲斐があってうれしい」
あかりは弁当箱を片づける。
「うーん、腹いっぱいで眠くなってきたな。あかり、膝マクラしてくれ」
浩之はうーんとひとつ伸びをすると、あかりの膝をマクラに寝転がった。
「やだもぅ、浩之ちゃんたら」
苦笑するあかり。しかし、いやがってはいない。
 
…しばしの沈黙。
ややあって、あかりが口を開く。
「ねぇ…浩之ちゃん」
「ん…?」
目をつむったまま答える浩之。
「あったかいね…」
「そうだな…」
…また、静かになる。
「平和だね…」
「そうだな…」
…。
「気持ちいい…?」
「そうだな…」
……。
「そろそろ昼休み終るよ…」
「そうだな…」
………。
「…私ってかわいい?」
「いや。(きっぱり)」
…………。
あかりはブーたれている…。
浩之はぱちりと目を開けると、起き上がってあかりの頭を撫でた。
「ばーか。本気にすんなっての」
「浩之ちゃん…」
浩之に撫でられるままのあかり。
「あかりがかわいくないはずがないだろ…?」
そう言って、浩之は顔を近づけた。
あかりも、目を閉じて顔を近づける。
「浩之ちゃん…」
「あかり…」
 
互いの唇が触れようとした、その時。
ぴこんぴこんぴこん…
2人の腕についている、Gショック型の時計のような物から音が鳴り出す。
『いや、お取り込み中すまん』
そして、浩之の腕についてる方から声が聞こえてきた。
「!!!!!」
口をパクパクさせる浩之。
…まるで鯉か金魚だ…もしくはパックマン。
「緊急司令だ。至急、研究所まで来てくれ」
「あ、で、でも私たち、まだ学校なんですけど…」
まだパックマン状態の浩之の代わりに、あかりが答える。
「…来栖川グループがバックにいるんだ。心配はいらない」
「じゃ、タクシーで行っても全然かまいませんよねえ?」
そこにパックマン状態から回復した浩之が、間髪入れず尋ねる。
少しの間があって、
「うーん…しょうがない、領収書はもらってきてくれよ…」
…と声は元気なく答える。
「わかりましたー!」
対照的に元気よく答える浩之。
「じゃ、至急頼む」
通信を終える声。
…切れる間際、
「…ああ、また経費オーバーだ…」
という声が聞こえたような気がしたが、多分気のせいだろう。
「しょうがねえ、いくぞあかり!」
「はいっ!」
2人はスックと立ち上がると、駆け出した。
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダ…。
…。
…おまえら、校舎内は走るなって。


3、研究所にて
 
『来栖川ロボット工学研究所』。
来栖川グループの、ロボット工学の最先端を研究するところである。
…しかし、それは表の姿であり、その実態は…。
『真心戦隊トゥハート作戦本部』なのであった。
 
…その地下通路。
カンカンカンカンカン…
冷たい無機質な廊下を、浩之とあかりが走る。
 
藤田浩之。ここでは彼は、真心戦隊トゥハートの隊長である。
(隊長なので、戦いはしない。指示を出すのみである)
 
神岸あかり。ここでの彼女は、隊員ナンバー1『アカリレッド』である。
彼女は、腕にあるブランニューハート装置を使うことにより、アカリレッドに変身できるのである。
 
2人は、通路の一番奥にある『司令室』と書かれた自動ドアの前まで来た。
…よく見ると『司令室』と書かれたその下に、小さく「兼・司令用住居」とマジックで書いてある…。
浩之は息を整えながら、横にある『OPEN』と書かれたボタンを押す。
うぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん。
扉が開く。
「失礼します」
中に入る2人。
中は、太陽の光は入らないものの、社長室のようなおごそかな雰囲気の部屋…。
…。
…だったのだろう、元々は。
今はもう、布団やら紙屑やらスナック菓子の空き袋やらエッチ本やらが散乱しており、
机の上に置いてあるコンピュータが点いていなければ、絶対にゴミ捨て場と思うほどだった。
「や、来てくれたね」
どことなく抜けた顔の男が、椅子に座っている。先ほどの司令の声と同じ声だ。
彼の名は長瀬源五郎。
この研究所のロボット開発主任であり、また真心戦隊トゥハートの総司令である。
「司令。…また汚くなりましたね。この前、俺らが掃除したばかりだってのに」
ジト目で話す浩之。それをとなりのあかりがつっつく。
「浩之ちゃん…今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
ばん、と机を叩いて立ち上がる長瀬司令。
「あかりくんの言うとおりだぞ、浩之くん!今、部屋が汚いとか彼女が出来ないとか最近抜け毛が多いとか、そんなことを言っている場合ではないんだ!」
「そうですかぁ」
しかしそれに対して、浩之は哀れみの目を向けるのみ。
…2人の間に、緊張が走る。
「…そ、それより司令、緊急の用とは…」
なだめてなんとか先へ進めようとするあかり。
あかりの言葉に、長瀬は気を取り直して話し出した。
「…またリーフが出現したのだ。今回はダイヤモンド採掘場を占拠している…」
「ちょっと待ってください!日本でダイヤモンドなんて採れるんですかぁ!?」
思いっきり疑問を投げかける浩之。
長瀬は、頭をポリポリと掻いて一言、
「…ある、ということにしておけ」
「はあ」
まだ浩之は納得できないようだったが、かまわず続ける長瀬。
「…他の隊員たちは、すでに現地で待機しているはずだ。君たちも至急、現地に向かってくれ」
「わかりました」
2人は敬礼すると、部屋を出ていった。
「…ふう」
ひとり長瀬は溜息をつく。
「…別にいいじゃないかぁ。彼女が出来なくたって…」
 
ここは地下格納庫…。
ぶおおおおん!
浩之用の改造バイク、「スーパー熊さん1号(命名・あかり)」がうなり声をあげる。
このバイクはものすごい性能を持っており、全開にすればマッハを超えることも可能である。
(もっともそんなことをすれば搭乗者は無事ではいられないが)
浩之はバイクにまたがると、熊が描かれたヘルメット(あかりデザイン)をかぶる。
あかりは、浩之とおそろいの熊ヘルメットをかぶると、後部座席に座った。
「あかり、しっかり掴まってろよ」
ぶおおおおおおおおおおお…
エンジンを吹かす浩之。
あかりは、浩之の腰に掴まった。
「準備OKだよ、浩之ちゃん」
「よし、行くぞ!」
ぶろろろろろろろろろろろろろ…
2人を乗せて、バイクは暗がりの中を走っていく。
(浩之ちゃんの後ろに乗れるなんて…幸せ。このまま、2人でどこかに行きたいな)
ぎゅ…
浩之に掴まる手に力が入る。
「あかり…?」
浩之の呟きは、バイクの音にかき消されて聞こえない。
(そして2人は、海辺について…夕日が綺麗だね、なんて言って…うふふっ)
(あかりの奴、なんか変なこと考えてるな…?)
やがて、光が見えてくる。出口だ。
バイクは猛スピードで飛び出すと、そのまま交通ルール完全無視で爆走していった…。


4、採掘場での戦い
 
岩場の多いある山のふもとに、その採掘場の入り口はあった。
「く…奴ら、人質を取ってますね。これじゃ、うかつに攻撃できませんよ」
遠くの茂みから、松原葵が様子を見ていた。その隣りには、来栖川芹香がいる。
「………」
「『幹部クラスが3人…あと、怪人が2人います』ですって?かなりの戦力ですね…」
入り口近くに人影が見えるが、葵の目には人数まで確認することは出来なかった。
「…ほかのメンバーもすでに来ているはずでしょうけど…人質をどうにかしないと、一方的にやられるのは目に見えてますね」
こくり。…芹香がうなずく。
「………」
「『もう少し近くに行きましょう』?…そうですね、なるべく近くで様子を見ましょう」
2人は、そそくさと物陰を移動していく…。
 
一方、採掘場入り口。
「お願いだ…離してくれよう…」
人質の矢島くんが、涙を流して哀願する。
「キシャー!」
矢島の腕を掴んでいるナメクジ怪人が、口を開けて威嚇した。
「あ、い、いや…何でもないですぅ…えへ、えへえへ」
ナメクジ怪人の隣りにはカマドウマ怪人が、直立不動で待機している。
その後ろの方、少し影になっている場所に、3幹部がいた。
「奴ら…来てるわね。身を隠しているつもりでしょうけど、気配は感じられるわ」
アヤカ将軍は、呟きながら周りを見渡す。
「さてセバス大佐…採掘場を占拠して人質を取った、そこまでは出来た。ここからどうするのだ?」
マサシ伯爵はいつものクールな口調でセバスに言った。
セバスはフッと鼻で笑う。
「どうするだと?決まっとるだろう。トゥハートの奴らが出てくるのを待ち、ぶち倒すのだ!」
その言葉にマサシは首をかしげる。
「…は?じゃ、何か?おまえの作戦とは、ここを占拠して人質を取る、ただそれだけか!?」
「そうだ」
…がくっ。
マサシが片膝をつく。
「…わしにいい作戦がある、任せておけ…とか言って、これだけなの?」
アヤカが肩を落として、セバスに聞いた。
「…悪いか?これでもわしの灰色の脳細胞をフル回転させて出した作戦なんだがのう」
「…。(フル回転してこれだけなのね)」
アヤカは呆れてしまった。前々から猪突猛進タイプとは思っていたのだが、ここまでひどいとは。
怪人2人も呆れているようだ。…矢島も呆れている。
「この程度でやられるトゥハートならば、とっくの昔にアヤカ将軍が倒しているはずだろうが!そんなことにも気付かんのか!」
いきなりマサシの怒声。
普段クールな彼だが、やはりキレる時はあるのだ。
しかしセバスはケロリとして、
「以前は怪人が1人であったのだろう?今回は2人、しかも幹部が3人もいるのだ。負けるはずがなかろう」
とのたまう。
「…はぁ。(このジジイは…)」
「…ふぅ。(何がいい作戦だ…)」
アヤカとマサシが同時に溜息をついた。
「はっはっは、そう心配するな!我らが力を合わせれば、トゥハートなどちょちょいのちょいじゃ!ぐわっはっはっはっはっはっはっはっはっ…」
あたりにセバスの笑い声が響き渡る…。
 
…同時に。
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
セバスの声ではない笑い声が聞こえてきた。
「なに!?今のキチガイみたいな笑い声は!?」
アヤカの声に全員が辺りを見渡す。
「NO!キチガイじゃないネ!」
抗議の声がした方を見ると、そこには金髪の少女が、放置されたショベルカーの上に立っていた。
「誰だ!」
セバスがお約束の声をあげる。
少女はウンウンと頷く。
「よくぞ聞いてくれたネ。私は宮内レミィ。またの名ヲ…トウッ!」
レミィは大きくジャンプする。
「ブランニューハート、チェェェェエエエンジ!」
ピカァッとレミィの姿が光ったと思うと、次の瞬間、彼女は金色のラバースーツを装着していた。
スタッと着地。そして、
「またの名を正義の味方、真心戦隊ナンバー5、『レミィゴールド』ネ!」
と親指をビッと出して叫ぶ。
「ダイヤを一人占めしようなんて許せないネ!世界中のダイヤは全てアタシの物ヨ!」
「おまえ…本当に正義の味方か?」
レミィゴールドの言葉にツッコミを入れるセバス。
 
一方、葵と芹香は…。
「あっちゃあ…。宮内先輩、人質がいるっていうことわかってるんだろうか…」
葵は顔を手で覆い、様子を見ている。
「………」
「え?『宮内さん1人では危険です』、ですって?でも…いや、そうですね。私たちも行きましょう!」
「………。(コクリ)」
がさごそ…。
「ん!そこにも誰かいるのか!」
2人は、セバスに見つかった。
がさがさと出てくる葵と芹香。
「アオイ!セリカ!」
呼びかけられた2人は、レミィゴールドに駆け寄った。
「…サア、早く2人もカッコヨク名乗りを挙げて変身するネ!」
と、レミィゴールドは言うが、葵はモジモジしている。
「いや、あの、私緊張して…」
その言葉に芹香は、ポンと肩を叩く。
「………」
「え?『私も一緒にやります』?」
「…。(コクリ)」
葵の言葉に頷く芹香。そしてくるりとセバスらに向き直る。
「………」
名乗りを挙げてるつもりの芹香…しかし全然聞こえない。
「アーッ、しょうがないネ!アタシが代弁するヨ!エー、『私は来栖川芹香、そしてこちらにいるのが松原葵です。よろしくお願いします』…ってお願いしてどうするネ、セリカ!」
「………」
「『ごめんなさい』って言ってますが」
葵が代弁する。
「謝るのはいいから、早く変身するネ!」
2人が頷く。
「………」「ブランニューハート、チェンジッ!」
2人同時に変身。
次の瞬間、芹香は黒、葵は青のスーツを身にまとっていた。
「真心戦隊ナンバー4、『アオイブルー』!」
「………」
「『真心戦隊ナンバー3、【セリカブラック】』って言ってるネ」
恥ずかしそうにポーズを決めるアオイブルーとセリカブラック。
 
「………終ったか?」
セバスはウンコ座りから立ち上がった。
…変身中、相当ヒマだったようだ。
その横では、アヤカとマサシが地面で○×ゲームをしている…。
「さあ!人質を解放しなさい!さもなくば、どうなっても知らないですよ!」
ビッと人差し指を向けて叫ぶアオイブルー。
その後ろでレミィゴールドがひそひそと話す。
「アオイ、変身したら人が変わったネ…」
「…。(コクコク)」
頷くセリカブラック。
「…バカが。そう言われて、はいわかりました、と言うと思うのか!やれ、ナメクジーン!」
「シャギャー!]
セバスの言葉に、ナメクジ怪人ナメクジーンは、アーンと大きく口を開けた。
「う、うわああああああああああ!!」
脅える矢島。
「な、何をする気なの!」
「ふふふ、見ていればわかる!」
アオイブルーの言葉に、不敵に笑うセバス。
…べちゃ。
「う、う、うぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」
叫ぶ矢島!
ナメクジーンはなんと、矢島の顔を舐めまわし始めた!
べちゃっ、べちゃっ。
「ひ、ひえええええええ!き、気持ちわりいよおぉぉぉぉ!」
矢島は半泣きになって暴れる。
「ふはははははは!どうだ!恐ろしいだろう!」
得意げに叫ぶセバス。
「た、確かに恐ろしいわ…」
目を背けるアオイブルー。マスクの下は、青ざめていることだろう。
セリカブラックもレミィゴールドも、かなり嫌そうだ。
「ははははははははは!もっとやれ、ナメクジーン!」
すっかり得意げなセバスは、もっと過激な事を要求した。
「な、何を…」
矢島の言葉をよそに、ナメクジーンは上着を脱がす。
そしてまた…。
べちゃっべちゃっ。
「ううっ!」
矢島の背中、首筋、脇腹、脇の下、耳たぶとあらゆる所を舐めまわす。
「ううっ、ああああっ!いっ、いや、や、やめ…き、気持ちい…」
身体中を舐められているうちに、矢島は感じてきている…。
「やっ、あ、ああっ!はうっ、ん、うああっ!!」
………悶える矢島。
「おい…セバス大佐…。見てるこっちが気持ち悪くなる…やめさせろ」
マサシが青い顔でセバスに訴える。…今にも吐きそうだ。
「お…、おお…そうだな、おい、ナメクジーン、やめろ」
同じく青い顔のセバスが、ナメクジーンに命令した。
ぴたっと止めるナメクジーン。…ぐったりとする矢島。
「ええーっ!なんでやめさせるのよぉ!いいとこだったのにぃ!」
矢島のあえぐ姿を観賞していたアヤカは、抗議の声を挙げる。
「………をい」
そのアヤカをジト目でにらむマサシ。
「…とにかくだ、トゥハート!近づけば、こいつはこんなものではすまんぞ!わかったな!」
セバスは、アオイブルーらに向き直り、半ばやけくそで叫んだ。
「くっ…このままじゃ手出しできないわ!どうすれば…」
ギリっと歯噛みするアオイブルー。
その後ろでレミィゴールドは…。
「アオイ、なんか1人だけで話進めてるワネ」
「…。(コクコク)」
頷くセリカブラック。
 
…しばらくにらみ合いが続いた時だ。
べんべろべん…。
「ん?何よ、今のヘタクソなギターの音は!」
アヤカが声をあげる。
「…ヘタクソとは何よ、ヘタクソとは!」
全員の視線が、声のした岩場の方に集中した。
そこには、アコースティックギターを抱えた、長岡志保がいた。
「ふっふっふ、長岡志保見参!」
ピースをする志保。
「シホ!なかなかカッコイイ登場ネ!」
「ふっふっふ、まあねぇ」
レミィゴールドの言葉に酔いしれる志保。
「ちょっと待てい!目立つ場所から登場するのはいいとして…なんなんだ、そのギターは!」
セバスのツッコミに答える志保。
「バカね〜。ヒーローの登場には、必要不可欠のアイテムじゃないの」
志保よ…おまえいつの時代の人間だ?
「ヒーローって…おまえ女だろう。ヒロインっていうんじゃないのか?」
マサシの冷静なツッコミ。
「あ、あれ?…そ、そんなことどうでもいいでしょ!いくわよ!ブランニューハート、ちぇいいぃぃんじ!」
カッ!
光に包まれた志保は、次の瞬間、黄色に染められたラバースーツに身を包んでいた。
「真心戦隊ナンバー2、『シホイエロー』!」
しゃきいいいいいいいいいいいん!
彼女は、ハタ目には変な、それでいてどことなくカッコイイポーズを取った。
 
「…フッフッフ、続々と現れおるわ…返り討ちにあうとも知らんで」
セバスは不敵に笑う。
その時であった。
「…ウギッ!」
セバスたちの後ろにいたナメクジーンが悲鳴をあげる。
「ど、どうしたナメクジーン…」
そう言って後ろを振り向くセバスたち…。
「…っておい!なんでおまえがここにいる!?」
そこには、ナメクジーンにハイキックを食らわせた、アオイブルーが立っていた。
セバスたちがシホイエローに気を取られているスキに、ダッシュでここまで来たのだった。
「さあ、早く逃げて!」
そう言って矢島を逃がすアオイブルー。
「あ、ありがとう…」
そう言い残して、矢島はスタコラ逃げた。
「おのれ、アオイブルー!生かしては返さん!」
せっかくの人質を逃されたセバスは、逆上する。
「…おじいさん、そんなに怒ると血圧あがりますよ」
それに対しチャチャを入れるアオイブルー。
 
…マサシは呆れていた。
(この男、ここまで抜けているとは…巻き添えを食ってやられるのはごめんだ)
「セバス大佐」
「何だ!邪魔するなら,おまえでも容赦せんぞ!」
セバスはすっかり我を忘れている。
(やれやれ…)
「…邪魔などせんよ。私はもう付き合いきれん、後は任せる」
そう言うと、マサシは大きくジャンプし、岩場の上に消えていく。
アヤカが慌てて後を追う。
「あ、まちなさいよマサシ!」
アヤカも岩場の上に消えていった。
「お、お主らあああああ!」
顔を真っ赤にして怒るセバス。
…まあ、怒るのも無理はないが。
「お仲間は帰っちゃったわね。あなたも一緒に帰りなさい!」
なおも挑発するアオイブルー。…いつもの礼儀正しい彼女はどこに行った?
その言葉にセバスはますます逆上する。
今にもブチ切れそうだ。
「貴様!ギッタンギッタンにのしてやるぞ!覚悟はいい…」
「ひっさああああつ!スーパー志保ちゃんギタークラアアアッシュ!」
ばきょ!!
「▲◇×○□☆!!」
いきなりのシホイエローのギターによる打撃!
ギターは粉々に砕け、セバスの後頭部にはでっかいタンコブが出来上がった。
「ふっ。油断大敵よ,じいさん!」
ちょっと目を離したスキの出来事であった。
こういう時の彼女のズル賢さは定評がある。
「お、お、おお、おおおおおおおおのれええええええい!」
セバスは、2度も不意を突かれたことにより、完全にブチ切れた。
怒髪天を突くとは、こういう状態をいうのであろう。
「ナメクジーン!カマドゥーマ!こいつらをギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてしまえい!」
「シャギャー!」「カマカーマ!」
セバスの命令を受けて襲いかかる2人の怪人。
「ちょ、ちょっと待った!」「わっ!危ないじゃないですか!」
怪人の攻撃をかわすアオイブルーとシホイエロー。
「ふははははは!さすがにトゥハートといえど、怪人と1対1では分が悪いようだな!」
セバスの言う通り、怪人の方が優勢だった。
「くっ、さすがに1対1ではキツイわ…レミィに芹香先輩!助けて!」
そう言って2人に助けを求めるシホイエロー。
しかし…。
「………」
「ふんふん、サタンを呼び出すには、まずイケニエが必要なのネ!?」
レミィゴールドは、セリカブラックにサタンの召喚方法を教えてもらっていた…。
「ちょっとコラーッ!さぼってんじゃなーい!」
シホイエローのその言葉に、セバスが警棒を片手に近付く。
「ふっふっふ、仲間に見捨てられるとはな」
…おまえも見捨てられたんだろが。
警棒を振り上げるセバス。
「ああ、志保ちゃんの可憐な人生も終ってしまうのね…」
しかしその時!
ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
けたたましいエンジン音が鳴り響いた!


5、トゥハート全員集合!
 
「おらおらおらーっ!舗装されてない道は走りにくいぞー!」
文句を言いながらバイクに乗った浩之登場!そして後ろにあかりも乗っている。
「みんな、無事だったか!?」
バイクを降りる浩之とあかり。
「隊長!」「ヒロユキ!」「バカヒロ!」「………」
4人がそれぞれ浩之を呼ぶ。
「…貴様がトゥハートの隊長か!」
セバスの矛先がシホイエローから外れた。
 
(今がチャーンス!逃げろ!)
かさこそかさこそ。
…ゴキブリのように逃げるシホイエロー。
が、セバスは志保にかまわない。
アオイブルーもそれに付いて皆のところまで逃げていった。
 
「まずはあかり、変身だ!」
腕組みして命ずる浩之。
ノリはまるで熱血スポーツモノの鬼コーチといった感じだ。
「はい!神岸あかり、行きます!ぶらんにうはーと、ちぇえええええんじ!」
ピカァ!
次の瞬間、あかりは赤いラバースーツを身にまとっていた。
「真心戦隊ナンバー1、『アカリレッド』!」
「いいぞ、あかり!明日はホームランだ!」
意味不明な言葉で誉める浩之。
 
「ふっふっふ…そういえば、まだわしの名を教えてなかったな」
先ほどの怒りが幾分冷めたセバスは、仁王立ちになり、名乗りをあげようとした。
が、しかし。
「いいわよ、ジジイの名前なんて聞きたくもないわ!」
拒否するシホイエロー。
「いや!聞けい小娘!我が名はセバス大佐、リーフの3幹部の1人だ!
トゥハートよ、全員揃ったところで、まとめてブチ倒してくれよう!」
セバスはかまわず続けた。
…だが、それを聞いて笑い出す浩之。
「ふっ…はははははははは!」
「何がおかしいのだ!貴様!」
セバスは怒って浩之に問い掛ける。
 
しかし、その問いかけに答えたのは、浩之ではなかった。
「はははっ!トゥハートは、5人で全員じゃないねんで!」
全く別の場所から聞こえる、関西弁。
「だ、だれだ!」
まったく予期していなかった事態に、セバスは戸惑う。
その場所から現れたのは、おさげ髪に眼鏡を掛けた少女であった。
「ふっふっふ、真打ちは遅れて登場するもんや。保科智子推参!」
その後ろからまた1人現れる。
「あの…遅れ過ぎだと思いますが…。あ、姫川琴音、只今参りました」
またまたもう1人。
「ごめんなさーい、私が道に迷ったからなんです。…雛山理緒、遅れてすいませーん」
その後ろから、大きな耳飾りを付けた2人が現れる。
「途中で、道に落ちてたお財布を交番に届けてきましたー。…マルチですー」
「−−私は早く行こうと言ったのですが…。セリオ、到着いたしました」
 
5人は、浩之の元へ駆け寄る。
「みんな!早速、変身するんだ!」
その声に頷く5人。
「ブランニューハート、チェーンジ!」
5人の声がハモる。
5人の姿が…以下省略。
「真心戦隊ナンバー6、『トモコパープル』やっ!」と智子。
「真心戦隊ナンバー7、『コトネピンク』です!」と精いっぱい叫ぶ琴音。
「真心戦隊ナンバー8、『リオホワイト』!」と元気な理緒。
「−−真心戦隊ナンバー9、『セリオブラウン』」とこれはセリオ。
「真心戦隊ナンバー10、『マルチグリーン』ですー」と最後にマルチ。
 
…セバスは、あっけに取られていた。
「…ちょ…ちょ、ちょっと待ていおまえら!戦隊モノって普通5人じゃないのかあっ!」
セバスの言うことも、もっともだ。
しかし浩之が反論する。
「フッ、そんなこと誰が決めたんだ?いつ?どこで?何時何分何秒?」
なんという屁理屈であろう。…まるでガキのケンカだ。
「くそお…アヤカ将軍め!なぜ10人であると教えなかった!わしの才能に嫉妬してのことかぁぁぁぁ!」
天に向かって吠えるセバス。
 
一方、影で戦況を見守るアヤカ。
「あ、全部で何人かって、教えてなかったわね」
うっかりしてた、という表情。
「おまえな…」
そばにいたマサシは呆れ返っている。
 
「…オチを言うとだな…10人揃って、初めてトゥ(とお)ハート、ということなのさ」
得意げに話す浩之。
「そ、そんな…そんなアホみたいな話が…」
ショックを隠し切れないセバス。
今までの作戦は、全部『トゥハートが5人』という前提のものだったのだ。
「10人いるとわかっていれば、怪人をあと2人…いや、1人だけでも増やしたものを!」
地団太を踏んで悔しがる。
「ま、俺も最初に司令から聞かされた時は、しばらく立ち直れなかったぜ」
フッ、と自嘲気味に笑う浩之。
「ぐ、ぐぅ…もうやけくそだ!やれ、ナメクジーン!カマドゥーマ!」
セバスはもう自暴自棄になっていた。
 
「気を付けて!ナメクジの方は、舐めまわしを使ってくるわ!」
シホイエローの注意の声に、全員の嫌悪感ポイント+10。
しかしその時、アカリレッドがナメクジーンに向かって駆け出した。
「あかりさん!」
コトネピンクが止めようとする。が、
「ナメクジは私が何とかするから、みんなはあっちのコオロギをお願い!」
アカリレッドは、そう言ったまま、突っ込んでいく。
「バカめ!他の奴らがかなわなかったのに、おまえ1人で何をしようと!」
せせら笑うセバス。しかし次の瞬間、その表情は驚愕へと変わる。
「ソルトアターック!アンド、シュガーアターック!」
アカリレッドは、どこからか食塩の袋と砂糖の袋を取り出し、ナメクジーンにブチ当てた!
「ギャ…ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
みるみるうちにナメクジーンは溶けていく!
「なっ、なにぃぃぃぃぃぃ!どういうことだっ!」
セバスは何が起こったのかわからないといった表情だ。
「それはね」
アカリレッドが説明する。
「ナメクジのような浸透圧の低い生物は、その表面の浸透圧をあげる…例えば、塩や砂糖でおおうことによって、その身体の水分が出てきてしまうようになってるの。それで、溶けるように見えるわけ」
…まるでN○K教育番組のお姉さんのような口調。
「な、なんだとおっ!?初めて聞いたぞ!」
驚きの声をあげるセバス!
 
…ひそひそと話す浩之とトモコパープル。
「今時、小学生でも…いや、幼稚園児でも知ってることだよな?」
「…そやな」
 
説明を終えたアカリレッド。
「そーだったんですかー。あかりさん、すごいですー」
マルチグリーンはパチパチと拍手する。
「うぬぬぬぬぬぬ…くそぉっ、カマドゥーマ、やれ!」
戦力的に見れば、リーフ側の劣勢は明らかなのだが…セバスは頭に血が上り、冷静な判断が出来なくなっていた。
「フッ…まだやろうってか。各員、攻撃準備!」
浩之の命令に、各自武器を手にカマドゥーマを取り囲む。
「攻撃開始!」
その言葉と同時に攻撃を開始する。
「まずはあたしよ!カラオケマイクソォォォド!」
シホイエローは、マイク型の剣を手に突っ込む。
ズバァッ!
「カマァァァァアアアアアア!!」
袈裟斬りにするシホイエロー。
「次はワタシネ!スーパーハマヤァッ!」
レミィゴールドは弓を手に、次々と矢を放つ!
ザクッ!
「カマカマァァァァァァッ!」
10本ぐらい放ったうちの1本がカマドゥーマの右肩に刺さる!
「よっしゃ!次行ったるで、ファイヤーチョップや!」
トモコパープルの右手が炎に包まれる!
「たあぁっ!」
ジュワッ!
「カ、カマァァァァァン!!」
トモコパープルのチョップ(というよりツッコミ)が、カマドゥーマの喉元に突き刺さった。
「じゃ、次は2人連続でいきまーっす!シンブンシバァァァァァット!」
「モップジャベリンですー!」
リオホワイトは丸めた新聞紙でぶん殴り、マルチグリーンはモップ型の槍で突き刺す!
「カッ!カマッ!」
 
ふらふらのカマドゥーマ。
だが、トゥハートの攻撃はまだまだ続く。
コトネピンクの不幸な予知!
セリカブラックの浮遊霊アタック!
セリオブラウンの内臓武器による一斉射撃!
そして…。
 
「はああああ!!ハリケーンラッシュ!」
ドカドカドカバキィィィィッ!
アオイブルーの連続パンチからの廻し蹴り!
「グホッ!カ、カマ…」
カマドゥーマは、すでに意識朦朧だ。
「最後、行きます!ハイパーオタマクラァァァァッシュ!」
アカリレッドは超合金Z製のオタマを振りかぶり、大きくジャンプ!
「ヤアァァァァァァァァァッ!!」
すこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!
乾いた音が響き渡る。
アカリレッドの振り下ろしたオタマは、見事にカマドゥーマの頭に命中していた。
「…カ…カマ…カマァァァァァァァァァァァッ!」
ずがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!
断末魔の叫びを残し、カマドゥーマは爆発した。
その叫びはまるで、『俺の出番はこれだけかぁぁぁぁぁっ!」と言っているようだった…。
 
「そ…そんな…これほどにあっさりと倒されるとは…」
セバスには信じられなかった。
アヤカに聞かされた話の、何倍もの強さであった。
「ふっふっふ、どうだ!俺たちの強さを見たか!」
浩之が勝ち誇ったように叫ぶ。…浩之は何もしていないが。
「くっ…くそ…ひとまず撤退だ!さらば!」
くやしい表情でそう言い残し、走って逃げ出すセバス。
「逃がさん!」
浩之はバイクに飛び乗り、スーパー加速ボタンを押す。
ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
耳が聞こえなくなるくらいの爆音を発し、バイクが猛スピードでセバスに迫る!
「食らえ!熊1号轢き逃げアタァァァァァァァァァァァック!」
ドカッ!
「おぴょおおおおおおおおおおおおっ!」
奇妙な叫びを残し、はねられるセバス。
(こ…こんなはずでは…なかった…のに…)
セバスの意識は、次第に薄れていく…。
 
「おい、じじい。いいかげんに起きろ」
浩之の声。
「うぐ…」
全身の痛みを堪えながら、ゆっくりと目を開けるセバス。
目を開くと、周りを取り囲むトゥハートの面々が映った。
「ふっふっふ、どう?志保ちゃんと10人の下僕にしてやられた気分は?」
シホイエローが勝ち誇ったように言う。
「誰が下僕や、誰が!」
それにツッコミを入れるトモコパープル。
「…く…お主らの力、予想以上であった。今回はわしの負けだ」
口惜しそうに語るセバス。
「へっ、やけに素直じゃないか…だが、次回はないぜ。ここから逃げられるわけないんだからな」
浩之はバカにしたように話す。
しかしセバスは、フッと鼻で笑い、そして…。
「かあああああああああああああああああああああっ!!」
大音量で叫ぶ!
いきなりのことに全員、身をすくませた。
「はっ!」
その一瞬のスキをついて、セバスは逃げ出した。
今度はバイクにはねられないように、森の中へと…。
「や、やられた!」
口惜しがる浩之たち…。
だがこれで、トゥハートはリーフの野望をまたひとつ阻止したのだった。


6、戦い終わって日が暮れて
 
「いだだだだだだだだ!と、年寄りはもうちょい優しく扱わんか!」
「何言ってんのよ、都合のいい時だけ年寄りにならないでちょうだい」
ここはリーフアジトの医務室。
…セバスは、アヤカに包帯を巻いてもらっていた。
「ほい、これでOKよ」
ポン、と包帯を巻き終えた腕を叩く。
「あだっ!…くそ、元はといえば、おまえの人数言い忘れが原因なのだぞ!」
痛みに顔をしかめながら、アヤカを罵る。
「それは悪かったって何度も言ってるじゃないの。でもそれを知ってたからって、あなたの立てる作戦じゃ勝てっこないわよ」
「なにっ!…いでででで!」
アヤカの言葉に反論しようとするセバスだったが、傷の痛みでそれ以上は出てこなかった。
「…アヤカ将軍の言う通りだ。大佐、もう少し作戦というものを勉強した方がいいぞ」
傍らに立っていたマサシが口を開く。
「うぐ…」
反論したくてもできないセバス。
「しかし…奴らの強さは予想以上だった。綿密な作戦を立てねば、奴らには勝てん」
「そうね…このままでは、リーフ様にもバレかねないわ」
マサシの言葉に、アヤカが真剣な表情で答える。
「ぐ…奴ら、このままでは済まさん。ワシがこの手で倒してやる!」
セバスが痛みを堪えて声を絞り出す。
マサシはセバスを一瞥すると、
「セバス大佐…わかった、作戦は私が立てる。あなたはそれを実行すればいい…」
そう言い残して、医務室を後にした。
「セバス…復讐もいいけど、まずは怪我を治してからよ。いいわね」
続いてアヤカも医務室を出る。
………。
静寂が部屋を包む。
(…奴らめ…トゥハートめ!この痛み、この口惜しさ、何十倍にして返してやる!ギャフンと言わせてやるわぁぁぁぁ!)
セバスは復讐を心に誓った。その身体が怒りのためにガタガタと震える。
その時。
ずるっ!
「うおっ!?」
興奮しすぎたあまり、ベッドからずり落ちるセバス。
ごっ!
「ギャフン!」
床に頭から落ちたセバスの意識は、急速に遠のいていった…。
 

☆☆☆☆☆


一方、ここは来栖川ロボット工学研究所。
その地下のトゥハート作戦本部の一室、会議室。
そこは会議室とは名ばかりの、宴会場である。
今夜は、祝勝会ということでドンチャン騒ぎが繰り広げられていた…。
 
「はっはっは!飲めや歌えやー!」
「よーし、じゃあたしが歌唄ったる!ぶらーんにゅーはー…」
「長岡先輩、歌うまいですね。あ、お酒どうぞ」
「あ、ありがと、葵ちゃん。…琴音ちゃんは飲まないの?」
「あ、私はもういいです…」
「HAHAHA!悪者ブチ倒して飲むお酒は格別ネ!」
「………」
「え?この薬を飲めば悪酔いしないやて?じゃ遠慮なく…(グビッ)」
「ああっ、ごちそうがおいしいーっ!」
「宴会って、楽しいですねー。…あれ?司令はどこですかー?」
「−−司令室にいると思われますが」
 

☆☆☆☆☆


…司令室(兼司令用住居)。
真っ暗な部屋。
コンぴゅータの画面から洩れる明かりのみが、唯一の光である。
長瀬司令は、コンピュータに向かって何やら打ち込んでいた…。
「宴会費、マイナスっと…」
打ち込みを終り、Enterキーを押す。
画面にズラリと並ぶ赤い数字。
「…予算、大幅オーバー…か」
 
 
 
(TO BE CONTINUED………………………?)


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