〜後章〜『反撃!必殺トゥハートフォーメーション!』
「フフフ…。早く来い、トゥハート…」
打ち捨てられた廃工場に、彼らはいた。
捕らえられたコトネとトモコは、2人一緒にロープでぐるぐる巻きにされ、クレーンにつるされている。
…ここらへんは、定番の演出だ。
「ふっ、どうだ?ボロボロにされて吊るされる気分は?」
セバスは見上げて、意地悪く2人に聞いた。
「そやなぁ、てるてるぼうずにでもなった気分やな!明日は晴れるで!」
吊るされてもなお悪態をつくトモコ。
「フン、強がっているのも今のうちだ!そこで仲間が倒されるのをじっくりと見てるがいい!」
そう言ってセバスはガハハと笑った。
「それにしても…アヤカ将軍はどうした。姿が見えんが」
腕組みしてあたりを見回すマサシ。
「ああ、あやつなら『気持ち悪いから帰る』とか言っておったぞ」
「気分が悪い?」
「ふん、結局は女だからな。どうせ『あの日』ではないのか?」
「…そうか」
実際は違うのであるが…マサシは納得したようだ。
「さぁて…マサシよ。戦闘指揮はワシが執らせてもらうが、よいな?」
トゥハートに痛い目に合わされたセバスは、復讐を誓っていたのだ(前回参照)。
「ああ、かまわん…そこらで見物させてもらおう」
敷地内には、リーフの精鋭部隊が配置されていた。
カエル怪人ケロッガー。「ケロリン!」
イソギンチャク怪人イソギーン。「イソイソ…」
モグラ怪人モグタン。「モーグタン!」
タヌキ怪人ドラエモン。「ボクドラエモン」
その他大勢のリーフ戦闘員、ホの1番からへの50番までの100人。「リーフ!」
「ふふふ…ワシから見てもなかなかの陣容だ。これなら奴らを倒せるぞ…ふっふっふ、ふわーはっはっはっはっ…ぶはっ!?ゲホゲホゲホッ!」
調子に乗って笑ったセバスは、むせ返ってしまった。
「全く、学習しない人だな…」
呆れるマサシ。
「ゴホッ!ゴホッ!」
目は抗議しながらも、何も言えないセバスであった。
「…リーフ!」
そこへ、偵察をしていた戦闘員への13番が報告に来る。
報告を聞くマサシ。
「…うむ、すぐそこまで来ているか」
「なにっ!来ているのか!ならば総員戦闘配置!」
立ち直ったセバスが怒鳴って号令する。
「リーフ!」「モグ!」「ケロッ!」「イソイソ…」「ボクドラエモン」
怪人、戦闘員それぞれの返事をした。
「…さあ来いトゥハート!今日が貴様らの命日だぁっ!」
☆☆☆☆☆
「ここか?セリオ」
「――はい。この中に2人の反応があります」
工場の入り口に立つ浩之たち。
セリオの探知装置で、2人の反応をここに見つけたのだった。
「この中に2人が?」
シホがゴクリと唾を飲む。
その隣りにはアカリが肩を貸してもらって立っている。
「多分、大部隊が待ち伏せしているんでしょうね」
ぽんぽん。
…レミィが浩之の肩を叩いた。
「ネエ、ヒロユキ」
「何だ?レミィ」
振り向く浩之。
「この際、トモコとコトネは見捨てて、外から工場ごとドッカーンってのはドウ?」
いきなりの爆弾発言に、葵が色めき立つ。
「だ、ダメですよ、宮内先輩!」
「ハハハ、わかってるヨ。タダの冗談ネ」
そう答えるレミィ。…しかし、彼女の目は本気だった…。
「………」
セリカが発言する…がしかしいつものように全然聞こえない。
「とりあえず、2人を助けることが先決です、とおっしゃってますー」
マルチが代弁した。
「…先輩の言うとおりだ。真心戦隊は10人の心が揃って、初めてトゥ(10)ハートなんだ!」
ぐっと握り拳を作り、浩之は語った。
しかしレミィがそれにヨコヤリを入れる…。
「ベツにエイト(8)ハートでもセブン(7)ハートでもイイんじゃない?」
「大体、戦隊モノって5人が相場じゃない。この際だから5人に縮小しない?『ファイブハート』とかさ」
便乗して言いたいことを言うシホ。
「ええいうるさい!トゥハートじゃなきゃ俺らが出る意味がないだろ!」
「浩之ちゃん、何のこと言ってるの…?」
浩之の意味不明な発言にあかりが怪訝そうな顔をした。
「だあっ!もう、つべこべ言わずに行くぞ!」
☆☆☆☆☆
「ぐはははははっ!よくぞ来たなトゥハートよ!待っておったぞ!」
いきなりスポットライトが点き、工場の中央にセバスが現れる。
「あっ!あのジジイは!?」
派手な登場に驚く浩之たち。
「そう!ワシは…」
「…誰だっけ?」
ガクッ。
浩之のお約束の言葉にセバスもトゥハートの一同もコケる。
「な、何言ってるの浩之ちゃん…前回闘った相手でしょ!?」
疲れた表情で話すアカリ。
ダメージを負っているため、コケるのも一苦労だ。
「前回?…ああ、あれね!」
浩之はぽんと手を叩く。
どうやら思い出したようだ。
「お、思い出したか!そう、ワシがあの時の…」
気を取り直して語ろうとするセバス。
…しかし。
「あの、ひき逃げアタックでボロボロになったジジイか!」
「んが…」
浩之のミもフタもない言い方に、セバスは続きが言えなくなってしまった…。
「…え、ええいええい!過去のことはもういい!お前ら、ここがお前たちの墓場だ!」
ヤケクソで言い放つセバス。
「それより、姫川さんと保科先輩はどこ!?」
葵の言葉にセバスはフフンと笑う。
「…ほれっ、そこを見るがいい!」
ばばーん!
スポットライトに照らされ、暗闇にクレーンが浮かび上がる。
「ああっ!保科さんと琴音ちゃんが!」
シホがクレーンの先に吊るされている2人を指差した。
2人とも、かなり弱っているようだった。
「…なーんだ、エッチなことされてるのかと期待したんだが…」
ぼそっと不謹慎なことを言う浩之。
「…なぁんやてぇぇぇっ!もう一遍言うてみぃ、このアホ藤田ぁっ!」
それに対してトモコは顔を上げると、バカデカい声で反応した。
「げっ…なんつう地獄耳…」
浩之はビックリだ。
「ふむ…そう言われれば、今回は人質をいたぶるのを忘れておったな…。おい、イソギーン!やれ!」
「イソ!」
セバスの言葉でイソギーンが現れ、2人の方にシュルシュルと触手を伸ばして行く。
「ちょ、ちょい待ちぃ!何する気やぁっ!」
「変なことすると、18歳未満お断りになっちゃいますよーっ!」
トモコとコトネが嫌がって左右に身体を揺さぶる。
「フハハハ!何のことを言っている!かまわんイソギーン、やってしまえ!」
セバスは笑うと、イソギーンに命じた。
「イソ!」
どんどん触手を伸ばしていくイソギーン…。
それを見てガッツポーズをとる浩之。
「…よし、いいぞ!行け!」
スパーン!
「何が行けなのよヒロ!」
それをシホがハリセンで叩く…。
「あっ!触手が、お2人のところまで行ってしまいますー!」
マルチの言葉に、全員が息を呑んだ。
…浩之&セバスが呑んだのは唾だったが。
その時。
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁっ!」
いきなり大音量で響く声。
「だっ、誰だ!」
お約束に洩れず、聞き返すセバス。
『声』はなおも続ける。
「…天知る地知る人ぞ知る、朝にはやっぱりお味噌汁。…愛の貴公子、矢島見参!」
ばばーんっ!
スポットライトを浴びて、矢島が登場する!(彼に関しては前回参照)
「げげっ…」「なっ…」「やぁん」
その姿に全員絶句した。
…それもそのはず、矢島はビキニパンツ一丁であったのだ。
「とおっ!」
ひと声上げたかと思うと矢島はジャンプし、イソギーンの目の前に華麗に着地する。
「イ、イソ…?」
ひるむイソギーン。
「そこな怪人!彼女たちを襲うのなら、この俺を襲ってからにしろ!」
びっと親指で自分を指差し、挑発する矢島。
心なしか、彼の歯がキラリと光ったような気がした…。
「イ…イソーッ!」
「いかん!やめろイソギーン!」
挑発に乗るイソギーンを止めようとするセバスであったが、遅かった。
しゅるしゅるしゅる…。
べちょ。
「ああっ!」
触手の動きに悶える矢島…。
「ああっ…しびれるようなこの感じ…いいっ!」
「イソイソ!]
イソギーンはなおも責める。
「ああっ、あんあん、ああーん…」
…浩之もセバスもめっちゃ青い顔をしている。
「おい…ジジイ、やめさせろよ…」
「お、おお。おいイソギーン、やめろ」
セバスの命令で、ピタリとやめるイソギーン。
「ああ、もっと、もっとぉ」
矢島は恍惚の表情だ…。
「ええい、そんなやつ投げ捨ててしまえ!」
ポイッ!
セバスの言葉に、イソギーンは何のためらいもなく矢島を捨てる。
ドカッ!
「あうっ!な、何…身体がしびれていくぅ…」
床に叩き付けられた矢島は、自分の身体の異変に気付いた。
「そりゃあ、イソギーンの触手には毒があるからな…しびれて当たり前だ」
呆れたように言い放つセバス。
「なにぃっ!?お、俺を罠にハメたのか!?」
「罠って…自分で挑発したんじゃ…」
浩之の鋭いツッコミにも、矢島は聞く耳なし。
「くうっ!い、いやだ、もっと襲ってくれぇっ!」
彼はじたばたともがいている…。
「…おい、戦闘員ホの20番から23番!そいつをそこらへんの川にでも捨ててこい!」
「リーフ!」
セバスの命令で、戦闘員たちが矢島を抱え上げようとする。
「わっ!ちょ、ちょっと待て!お、おーい!トゥハート、助けてくれえっ!」
矢島は慌ててトゥハートに助けを求めた。
…んがしかし。
「さらばだ…もう来んでいいぞー」
浩之は手を振って見送るのみ。
「そ、そんなぁぁぁぁぁぁっ!」
「リーフ!リーフ!」
戦闘員たちに担がれて矢島は退場した…。
「ふう…変な奴は消えたか」
やれやれといった感じのセバス。
くるりとトゥハートたちの方へ向き直る…。
…そこには。
「…おいっ!どさくさに紛れてなにやろうとしとるかっ!」
そこには、ハリセンを手に殴りかかる体勢のシホがいた…。
「ちっ、失敗ねっ!」
言うが早いか猛ダッシュで浩之のところまで戻るシホ。
「…へぇはぁ…危ないところだったわ…」
「お前って、こういうの得意だよな…」
浩之は呆れている。
「ったく、油断もスキもないな!お前ら、人質がどうなってもいいのか!」
トモコとコトネを指差すセバス。
「そやそや!私らがおるんや、おとなしくしときぃっ」
セバスの言葉に同調するかのように、トモコが叫ぶ…。
「あ、あの…こういう場合、『私たちにかまわないで』と言うのがお約束なのでは…」
「死ぬのはイヤや(きっぱり)」
…トモコのきっぱりとした物言いに、コトネは何も返せない。
「ほれほれ、当人たちもああ言っておるし、観念するがいいぞ!ぐははははは!」
得意そうに高笑いをするセバス。
それに対し浩之は悔しそうな表情。
「くそっ、こうなったら…セリオ、2人を吊るしているロープを断ち切れ!」
「えっ、そんなことをしたら2人は…」
彼の言葉に、あかりが驚きの声をあげた。
「大丈夫だ、俺に任せてろ。さあ、やるんだセリオ!」
セリオはうなずき腕に内蔵された銃を構えた…。
…しかしその前にレミィがズイッとでしゃばる。
「ワタシがやるネ!」
そう言うとレミィは、自信満々で弓を構えた。
「だあああっ!レミィはやらんでいいっ!」
慌てる浩之。
…しかしレミィはお構い無しだ。
「大丈夫ヨ!えいっ!」
ひゅん!
矢が放たれる!
ぐさっ!
「あだぁっ!」
矢は大きく逸れ、見事セバスのケツに突き刺さった…。
「アレ?」
「き、貴様!なんてことをしてくれる!」
ケツを押さえて抗議するセバス…かなりマヌケなカッコである。
「と、とにかく、今がチャンスだ、セリオ!」
「――照準OK。発射します」
ばひゅんばひゅん!
…ちゅきーん!
セリオの腕から放たれた弾丸は、見事2人を吊っているロープを撃ち抜いた!
「わわっ、落ちるぅ!」
支えがなくなった2人は重力に引かれて落ちていく。
「待ってろ!俺が2人とも抱きとめてやるっ!」
2人を受け止めるべくダッシュする浩之!
だだだだだだだっ!
…こけっ。
「あ」
ずざざざざっ!
浩之は、コケた。
「何やってんのヒロ!」
「そ、そんなことより2人がっ!」
トモコとコトネは、まっ逆さまに落ちていく。
ひゅううううん…。
「し、死ぬぅっ!」
トモコは死を覚悟した…。
…ピタ。
「…あ、あれ?無事や…」
地面に激突すると思った瞬間、いきなり2人の身体が落下をやめて静止した。
トモコは何が起こったかわからないという表情だ。
「すいません、私『ちから』があるの、すっかり忘れてました…」
申し訳なさそうに謝るコトネ。
…彼女が『ちから』を使って、落下を止めたようである。
「よ、よかった…」
安堵の表情を見せるアカリ。
「ふぅ…何とかなったようだな…」
…そして冷や汗を拭う浩之。
「何とかなった、じゃないぃぃぃっ!こンのアホ藤田ぁぁぁぁぁっ!」
げしぃぃっ!
コトネとロープで繋がったまま、トモコは浩之に蹴りをくれた!
「いでぇっ!な、何すんだ!」
いきなりの攻撃に浩之は抗議する。
「やかましいっ!『俺に任せてろ』とか言っといてなんや!コケちゃ話にならんやろ!」
「ほ、保科先輩…ロープをほどかないと…」
トモコの背にいるコトネが、話しかけたが…。
「あんたは黙っときっ!」
「は、はいっ」
しかし、トモコのあまりの剣幕に黙ってしまった。
げしげし!
トモコは続けて、倒れた浩之にストンピング攻撃をくれる。
「いでいで!た、助かったんだからいいだろっ!」
「よかないわい!ていっ!ていっ!」
「あだだっ!」
蹴られまくりの浩之…。
…自分の発言には責任を持とう。
☆☆☆☆☆
セバスはリーフ戦闘員に、尻に刺さった矢を抜いてもらっていた。
「リーフ!」
「そうか、抜けたか…うぐっ…こらっ、軟膏はもう少し優しく塗らんかっ!」
尻に薬を塗っている戦闘員に怒鳴るセバス。
「リ、リーフ…」
「うくく…やっと終わったか。…おお?トゥハートの奴らめ、仲間割れか?」
パンツをあげズボンを変えていると、トモコに蹴られる浩之が目に入った。
「チャンスだ!総員、戦闘開始!トゥハートを殲滅せよ!」
セバスの号令で怪人、戦闘員がトゥハートに襲いかかる!
「こいつめっこいつめっ!うりうり!」
「いいんちょ〜、もう止めてくれ〜」
…トモコのウサ晴らしは、まだ続いていた。
「保科さん、ヒロ!敵が動き出したわよ!」
シホが見かねて声をかけた。
驚くトモコ。
「ええっ!ウサ晴らししてて気付かんかった!」
「…気付けよ!とにかく迎え撃つんだ!」
トモコを非難しつつ、浩之は反撃命令を出す。
「らじゃー!」
各々が攻撃態勢に入った。
「ワタシカラ行くヨ!スパークアローッ!」
レミィの見境のない攻撃!
ひゅん!
…バリバリバリバリ!
「私も遠慮しないでいくわよ!マイクミサイルランチャー!」
シホの大量殺戮兵器!
ばしゅん!
…どっかーん!
トゥハートの2人の破壊の天使のおかげで、リーフ戦闘員はいきなり1/3に減らされてしまった。
「なにっ…くそ、怪人カルテットよ前へ!」
セバスがフォーメーションを変え、怪人たちを前に出させる。
…一応4人だからカルテットだ。
「イソイソ」「モグモグ」「ケロケロ」「ボクドラエモン」
怪人たちはそれぞれ戦闘態勢を整えた。
「どりゃーっ!とりあえずあんたらで代わりにウサ晴らししたるーっ!」
そこへトモコが飛び込んでいった。
「保科さん、ダメ!まだどういう敵かわからないのに!」
アカリが止めるが、遅かった。
「たぁーっ!炎のツッコミーッ!」
ケロッガーに向かってトモコは手刀を繰り出す。
「ケロッ」
ぼよよ〜ん。
しかしケロッガーは、その攻撃を腹で弾き返してしまった。
「わっ!な、なんやて!?」
必殺技を跳ね返され、驚くトモコ。
「あの弾力…まるでゴムみたいですね」
コトネが冷静に分析する。
「ふははははっ!ケロッガーの腹の弾力は、いかなる攻撃をも撥ね返すのだ!」
得意そうにセバスは解説する。
「くっ、これでは攻撃のしようがないわ!」
戸惑うシホ。
しかし、浩之は何か考えがあるようだ。
「俺に作戦がある!奴にも、攻撃を跳ね返せない所があるんだ!」
「どうするんですかぁー?」
マルチが教えて欲しそうに聞く。
「フッ、奴の弱点はケツの穴だ…マルチ、そこに槍を突き刺せ!」
「はーいっ」
浩之の命令に、マルチは躊躇せずにモップジャベリンをケロッガーのケツ穴に突き刺した。
ぐさっ!
「ケロッ!?」
ケロッガーは痛そうにするが、倒れる気配はない。
「フン、その程度の槍でケロッガーを倒せると思ったか!」
余裕のセバス。
しかし浩之は、続けてマルチに命じた。
「いまだマルチ!空気を送り込め!」
「はいっ!」
マルチは槍の柄の先を取り外す。
見ると、槍はストロー状になっているようだ。
柄を取り外した部分に、マルチは自転車用の空気入れをつなげた。
しゅこーっ、しゅこーっ、しゅこーっ。
そして一生懸命空気を送り込む。
「おおっ!?ケロッガーの腹が!?」
ぷう、ぷう、ぷう…。
ケロッガーの腹がどんどんと膨らんでいく。
「ケ、ケロ?」
ケロッガーは、動こうにも大きくなった腹が邪魔で動けない。
「ターボだ、マルチ!」
「はいっ!わかりましたっ!」
しゅこしゅこしゅこしゅこしゅこ…。
ぷうぷうぷうぷうぷう…。
ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
「ケロッ!」
ついにケロッガーの腹は破裂した。
「そ、そんなバカな!?」
驚愕の表情のセバス。
「ははははは!カエルはケツから空気を入れられて殺されると、昔から相場が決まっているのだ!」
「そ、そうだったのかあっ!うかつだったぁっ!」
…んなわけあるかい。
「おのれぃ、カタキを取れ怪人トリオ!」
一人倒されて怪人トリオになってしまった彼らは、カタキをとるべくトゥハートへ襲いかかった。
「みんな!怪人1人に3人づつで当たれ!」
「らじゃーっ!」
9人は浩之の命令で3グループに別れた。
モグラ怪人モグタンに対して、シホ、セリオ、セリカの3人が対峙する。
「さて…モグラさんとの戦いか…セリオ、弱点はわからない?」
シホがセリオに問うた。
セリオは少し間を置くと(多分衛星回線をつないでいたのであろう)、進言した。
「――モグラの生態についてでしたらデータがありますが」
「ホント?教えて!」
シホが耳を近づけると、セリオはゴニョゴニョと耳打ちする。
「へえ…じゃあどうすれば…」
セリオの言葉を聞き、考え込むシホ。
…そこにセリカの姿が目についた。
「あ、芹香先輩!一発ちょっとかまして欲しいんだけど!あのねゴニョゴニョ…」
彼女は何か思い付いたようである。
セリカはシホの言葉にコクコクとうなづくと何やら呟き始めた。
「………………………」
何かの呪文のようである。
彼女は手にした杖を、モグタンに向けた。
「モグ?」
何だろうといった感じのモグタン。
…その瞬間。
ぴかっっっっっっっっっっっっっ!!
セリカの光の魔法!
目が眩むほどの光量がモグタンを包んだ!
「モ、モグゥーッ!」
どさっ。
モグタンは断末魔の声を上げ、倒れた。
「どうしたというのだモグタン!」
何が起こったのか理解できないセバス。
「ふっふーん。モグラは強烈な光を浴びると死んじゃうのよん!」
シホはあたかも『私が倒しました』といった感じで説明した。
「な、なんだとぉっ!」
かなり強引な展開である。
タヌキ怪人ドラエモンに対しては、アカリ、コトネ、トモコが当たった。
「たぁっ!逆ギレキィーック!」
トモコの遠慮のない蹴り!
ガシィィィィッ!
しかし、そのダンゴのような手で、ドラエモンは蹴りを受け止めてしまった!
「なっ!私の蹴りを…受け止めおった!?」
驚くトモコ。
「ぐふふふふ。ダメだなぁしず○ちゃん」
「…誰がし○かちゃんやっ!」
どっちかといえば○ずかちゃんはあかりである(髪型変える前)。
ぶんっ!
ドラエモンは掴んだ足ごと、トモコをぶん投げた。
「わきゃぁぁぁっ!」
ずでんっ!
その大きなお尻で尻餅をつくトモコ。
「保科さん!大丈夫!?」
「いったぁ〜。…このタヌキ、強いで!」
そのセリフを待っていたかのように、セバスが解説した。
「はっはっは、ドラエモンは我々の技術の粋を集めて開発された高性能万能怪人だ!今までの奴らとはひと味もふた味も違うぞ!」
「確かに、今までの奴らとは全然違い過ぎます…!」
「はっはっは!やれ!ドラエモン!」
調子に乗って命令するセバス。
「しょうがないなぁ、の○太くん」
「…だれが○び太だ!」
命令を受け、ドラエモンは腹に付いているポケットをまさぐる。
そして何かを見つけたのか、それをポケットから抜き出した。
「ぱんぱかぱーん!『フツーのエアガン』!」
ばばばばばば!
何の変哲もないエアガンでBB弾をばらまくドラエモン。
「痛い痛い痛い!」
「くぅっ!痛くて近づけんで!」
どうやらガス圧を変えているようだ。
「続いて…ぱんぱかぱーん!『ただの手持ち花火』!」
しゃわーっ!
そこら辺のコンビニで売っていそうな手持ち花火を、火を点けて振り回すドラエモン。
「熱い熱いですっ!」
「せ、せこい攻撃だけど近づけないわ!」
セバスは喜ぶ。
この際、攻撃がセコイとかそういうことは問題ではないようだ。
「ふはははは、いいぞ!最高だぞドラエモン!」
「ぐふふふふ」
3人の目の前にドラエモンがババーンと立ちはだかった。
「うくっ…どうしたらいいんや…ん?ネズミがこんなとこに…」
ふと気づくと、ねずみが一匹、ドラエモンの元へ走ってきた。
「ちゅう」
「ネ、ネズミ!こ、こわいよーっ!」
ばひゅーん!
ドラエモンはダッシュで逃げていってしまった!
「ど、どうしたの?」
あっけに取られるアカリ。
「さあ…ネズミが嫌いなんじゃないでしょうか…?」
同じくコトネもあっけに取られている。
「ま、とりあえず倒したってことでええやないの!」
トモコだけは前向きのようだ。
「………」
セバスは…開いた口がふさがらない。
☆☆☆☆☆
イソギーンVSアオイ、レミィ、マルチ。
ここの3人は苦戦していた。
ひゅん!
イソギーンの触手がうなりをあげる!
びしぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
「痛いっ!」
マルチがそれをもろに背中に食らった。
「マルチ!?ダイジョブ!?」
心配そうに駆け寄るレミィ。
「は、はいー。私、頑丈なのがとりえですので…」
そう言ってフラフラと危なっかしく立ち上がる。
「でも、触手には毒がありますし、下手に近付けないですよ」
2人をガードしつつ、アオイはそう言った。
「レミィさんの矢があるじゃないですかー」
「あ、それダメヨ。どこ行くかワカラナイから、危なくて使えないネ」
さすがのレミィも、今の状態でぶっ放すのは危険であると知っているようだ。
「大丈夫、3人とも!?」
そこへ他の怪人を倒したアカリ以下6人プラス浩之が集まる。
「何とか…でも、触手があるのでなかなか近づけないんです」
アオイの言葉に、浩之はふむ…と考え込むと、
「よし…こうなったら合体攻撃だ!」
と命令した。
合体攻撃。
真心戦隊トゥハートの最大奥義である。
それにはいくつかのフォーメーションが存在するが、それを実行するには戦隊全員の力を合わせなければならない。
「ちょい待ちぃ!雛山さんがおらへん!」
ふと周りを見渡し叫ぶトモコ。
いわれてみれば最初っからいない。
「全然気づかなかったわ!」
「存在感がないからネ!」
志保&レミィのキッツイ一言。
確かにおまけキャラクターという扱いではあるが、それでも散々な言われようだ。
「このままじゃ、合体攻撃ができないぞ…」
その時。
入り口の方から走ってくる白い影。
「あーっ、やっと見つけました!リオホワイト、只今参上!」
悪びれる様子もなく元気な声を上げるリオ。
ヒク。
浩之の頬の筋肉が震えた。
「…遅刻してきて何が『参上』じゃーっ!お前に『惨状』を見せてやるぅーっ!」
…そのままリオに飛び掛かった!
「さすがヒロユキ、ナイスギャグネ!」
「浩之ちゃん!今はそんなことしてる場合じゃないよ!」
アカリが何とかなだめる。
…少し落ち着いた浩之。
「ちっ、わかったよ!みんな、合体攻撃!フォーメーション『ときめきシンパシー』だっ!」
ビッと親指を立て、命令する。
…それに対しリオは不満の声を上げた。
「えーっ、来た早々あれをやるの!?」
「…遅刻しておいて何言うかこの口はぁぁぁぁぁぁっ!!」
びろーんとリオの口を開く浩之。
「ひたひ、わひゃった、わひゃいまひた!(痛い、わかった、わかりました!)」
「…よし。じゃ、再度…。フォーメーション『ときめきシンパシー』!」
「らじゃー!」
彼女たちはそう言うと、各自持っていた武器を融合させていく。
どうやったか知らないが、やがてそれは人ひとりが入りそうな大きな大砲へと姿を変えた。
「――電力供給開始」
「開始しますー」
セリオとマルチが、こたつのケーブル…に似た電源供給ケーブルを、自分たちの腰についているコンセントに接続した。
ヴン…と大砲のランプが点く。
「ボイスパワーチャージ!」
「メンタルパワーチャージします」
「………」
シホ、コトネ、セリカが同じようにケーブルをつないだ。
大砲の細かいランプ群がどんどんと点いていく。
「よし、セットアップや!」
「わかりましたっ!」
「OK!」
トモコ、アオイ、レミィが、よっこいせと大砲を担ぎ上げた。
「照準合わせ開始!」
アカリが大砲の後ろのスコープからイソギーンへと狙いを定める。
「目標敵怪人、発射角度5度修正、丑寅の方角、温度16℃湿度30%、今日の運勢は吉!」
アカリが調整を終えると、大砲はひかり輝く。
「よし!理緒ちゃん、やれ!」
「えーん、いやなのにぃー」
しぶしぶと彼女は大砲の中へと入っていった。
そして全員が叫ぶ。
「必殺!トゥハートフォーメーション、『ときめきシンパシー』!」
ずどんっ!
どこら辺が『ときめきシンパシー』なのか判らないが、とにかく重低音を発して大砲は放たれた。
「うひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
奇声を上げてリオがイソギーン目掛けて吹っ飛んでいく!
ゴインッ☆
…見事にリオの頭とイソギーンの頭がゴッツンコ。
アイタタごめんよその調子状態である。
…イソギーンの手のひらは、パーであった。
ピカッ。
ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!
イソギーンは爆発した。
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
その爆発でまたも吹っ飛ばされるリオ…。
そのまま、みんなの元まで飛ばされてきた。
「大丈夫、雛山さん?」
心配そうにアカリが気遣う。
「あひょ〜うぴゅ〜おきょ〜」
…全然大丈夫ではないようだ。
「うんうん、やっぱこれは石頭の理緒ちゃんがいてこそできる技だな」
浩之は満足気に頷いた。
工場の外で戦況を見ていたマサシは、怪人が爆発したのを確認した。
「フン…セバス大佐め、この様子では失敗だな」
そう言うと、懐からリモコンのようなものを取り出した。
「まあいい…このボタンを押せば、あの工場は木っ端微塵だ。セバス大佐には気の毒だが、ま、これもリーフ様のため…」
マサシはリモコンのボタンを押そうとする。
「マサシ伯爵…止めなさい」
いきなり彼の背後から声が聞こえた。
「だ、誰だ!」
驚き振り向くマサシ。
「はっ!」
彼の背後にいたその影は、マサシの腕からリモコンを奪い取った。
そして、間合いを取る。
…その人物は、坂下であった。
「貴様…トゥハートの仲間か!?」
ギッと睨みつけるマサシ。
坂下は、ゆっくりと口を開いた。
「…いや、仲間などではない。…私は謎の格闘家、坂下」
…自分で『謎』などと言わないでほしいものである。
「仲間でないならば、なぜ邪魔をする?」
「…トゥハートを倒したければ、このような姑息な手は使わず、正々堂々と戦って勝つのだな」
坂下はそう言い残すと、掻き消えるように消えた…。
「なんなのだ、奴は…?私の名を知っていた…?」
…ただ呆然とするマサシであった。
再び工場の中。
「さあ、まだやろうってのかい?サービスさん」
浩之はふふんと余裕の笑いを見せた。
「わしはセバスだっ!」
間違いを訂正するセバス。
しかし、浩之はそれに構わず続けた。
「それとも、さっきの怪人みたいに吹っ飛ばされたいか…ええ?鳩バスさんよ」
「セバスだっちゅーに!…ふん、今回の勝負は譲ってやるわ!退却だ!」
精一杯強がりを言うと、残っている者たちへ退却命令を出した。
「リーフ!」
ぞろぞろと出ていく戦闘員たち…。
「リーフ!(今日も何とか生き残ったな)」
「リーフ…(だが…アイツは星になっちまった)」
「…リーフ?(…これが戦争だろう?)」
「リーフ…リーフ…(そうだな…明日は我が身、か…)」
このような会話が交わされていたが、浩之たちにはただ奇声を上げているようにしか聞こえなかった。
「さらばっ!」
セバスは全員が退却したのを見届けると、闇の中へと消えたのだった。
☆☆☆☆☆
「だーっはっはっはっはっはっ!!や、やめでぐれ〜」
リーフアジトの一室、拷問部屋…。
そこには、セバスの笑い声がこだましていた。
「リーフ!リーフ!」
「ぐはははははっ!ぐははっ!お、おまえら、ちょっとは手加減せえいっ!うひゃひゃひゃひゃ!」
セバスは10人の戦闘員に囲まれ、罰としてくすぐり地獄を受けていた。
特にセバスは部下に対して厳しいため、こういう時に反撃を食らう。
「うひょ、うひょひょひょひょひょ!」
拷問部屋の前の通路。
うひょひょひょひょひょひょひょひょひょ…。
セバスの笑い声が響いてくる。
「憂うつだわ…」
「…全くだな」
順番待ち状態のアヤカとマサシが椅子に座っていた。
彼らとて、これから同じような責めを受けるのだ…。
「それより、先程の話だが…」
「先程?…ああ、自称『謎の格闘家』に邪魔された話ね」
謎の格闘家、坂下。
彼女の言動が、マサシには引っかかっていた。
「邪魔はされたが…私には敵であるとは思えないのだ」
「敵じゃない?」
「…よくはわからないが…そんな気がするのだ」
しゅいぃぃぃん。
その時、拷問部屋の扉が開き、1人、戦闘員が出てきた。
「リーフ!(次はアヤカ様の番です!)」
「そ、そう…手加減してね」
ものすごく暗い顔のアヤカ。
対照的に戦闘員の方は嬉しそうだ。
「リーフリーフ!(たっぷりサービスしてあげますので!)」
「せんでいいっ!」
しゅいぃぃぃん。
戦闘員に先導され、アヤカは中へと入っていった。
しばらくして…。
「いやぁっ!あはっ、はははははははっ!だ、だめぇぇっ!うひょひょひょひょひょひょ!」
アヤカの苦しそうな笑い声が聞こえてくる…。
マサシはポツリと独り言をつぶやいた。
「全く…憂うつだな…」
☆☆☆☆☆
こちらはトゥハート作戦本部の一室、会議室。
とりあえず戦闘に勝ったので、今夜は祝勝会が行われている…。
「かんぱ〜い…」
だが、そこから聞こえてくる声は元気がなかった。
「ううっ、何でこんなしみったれた祝勝会なのよぉ、ヒロ」
志保はちびちびと紙コップに注がれた烏龍茶をすすっている。
「しょうがねえだろ。予想以上に弁償費がかさんで、金がないんだからよ…」
部屋は暗く、明かりは中心にあるテーブルに乗っている蝋燭一本だけだ。
「でも何で蝋燭ですか?」
「…照明費削減のためにだそうだけど」
理緒の疑問にあかりが答えた。
「セリオもマルチも電力食うから、今は動作停止中やて」
テーブルの上に置かれているのは、袋のスナック菓子がいくつか…。
それも、スーパーの特売で9割引だった大してうまくもないものだ。
「………」
「司令は、夜の道路工事のバイトだそうです」
葵が芹香の言葉を代弁する。
「…こんな祝勝会なんて、ない方がマシです…誰を滅殺すればいいんでしょう…」
ポリポリと菓子をかじる琴音。
その言葉を聞いて、小さくなっているのが約1名。
「まあ今回に限って言えば、責任があるのは…」
浩之の言葉に、全員の視線が彼女に集中した。
「ゴ、ゴメンネッ!ワタシがドッカーンなんてやらなければ…」
レミィはペコペコと何度も頭を下げる。
それに浩之はフッと笑うと、
「ま、いいさレミィ…過ぎたことを言っても始まらないさ…」
そう言って慰めた。
「ヒロユキ…アリガト」
涙ぐむレミィ。
「泣くなよ、俺たちは仲間だろう」
「ウン…」
ゴシゴシと涙を拭く。
「だけど…もうやるなよ?」
ピタ。
浩之のその言葉に、レミィの動きが止まる。
…しばし静寂が部屋をつつんだ。
ぷち。
「おんどりゃぁぁぁっ!何でヌシは返事しないんじゃぁぁぁぁぁぁっ!」
…浩之は、キレた。
「浩之ちゃんっ!落ち着いてぇっ!」
「せんぱい、首締めは反則ですっ!やるんならグーで殴ってください!」
「ああっ琴音ちゃんがドサクサに紛れて滅殺してるぅ!」
「うきょーーーーーーーっ!」
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ちゃんちゃん♪
次回予告 あとがき
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