○ 第三章 「三位一体の計」 ○ 
221年12月

金旋が小沛城へ現れた頃。
曹操のいる孟津では……。

 孟津

   曹操曹操   諸葛亮諸葛亮

曹 操「あー」
諸葛亮「お加減はまだ良くなりませんか」
曹 操「うむ。頭が割れるように痛い。
    たまに本当に頭が割れているのではないかと、
    直接触ってみるほどだ」
諸葛亮「貴方様あっての魏国です。
    お早い回復を願っております」
曹 操「もう少し痛みが和らげば、なんとか動ける
    ようになるのだがな……。
    全く、この頭痛には困ったものだ……」
諸葛亮「私も頭が痛いところです」
曹 操「なんだ、お前も頭痛がするのか」

曹操の疑問に、諸葛亮は首を振った。

諸葛亮「殿の頭痛とは、また違うものですが。
    殿が回復して動けるようになるまでの間、
    楚との戦いを、どうやって凌げばよいのか。
    その悩みの種が、頭を痛めております」
曹 操「そーか、楚ーか」
諸葛亮「無理してダジャレを言わずとも結構です」
曹 操「痛みが紛れるのではないかと思ってな。
    ……で、戦いの状況はどうなっているのだ。
    陳留が落ちたことは聞いたが」
諸葛亮「はい。陳留に続き、濮陽も旗色が悪いと」
曹 操「増援は出せんのか?」
諸葛亮「黄河以北の都市には多少兵もおりますが、
    それを送ったところで間に合いません。
    濮陽が落ちた後のことの守備等も考えると、
    これを動かすわけには参りません」
曹 操「やはり、この孟津が動かんと勝てぬか」
諸葛亮「はっ、そのために殿には一刻も早く
    良くなってもらわねばなりません」
曹 操「……ううむ。お主がわしの名代となって、
    軍を率いるわけにはいかんのか」

曹操が激しい頭痛を訴え始めてから大分
月日が経過してはいるが、未だその痛みが
収まる様子は見えなかった。

諸葛亮「残念ながら、それをしてしまいますと
    殿が病であることがバレてしまいます」
曹 操「わしが戦を人任せにできぬ性格だからな」
諸葛亮「はい。ですから回復までの間、なんとか
    楚の攻勢を凌げぬか、考えておるのですが。
    東部戦線の戦力の乏しさは如何ともし難く」
曹 操「徐州はどうなっている?」
諸葛亮「……小沛に楚の大軍が向かっている由。
    城には曹洪さまと2万ほどの兵がおりますが、
    これを守り切るのはかなり難しいかと」

曹操は痛む額をさすりながら思案する。

曹 操「……確か、小沛には周瑜がおったであろう。
    奴に全て任せておけば何とかなる」
諸葛亮「は……周瑜どのですか」
曹 操「奴は、不利な状況にあっても凌げる才がある。
    指揮の全権を周瑜に任せるようにせよ」
諸葛亮「いや、それは」
曹 操「古参の者が周瑜の命に従わぬと申すのなら、
    わしの命であるとはっきり言ってやれ。
    そうすれば渋々でも従うだろう」
諸葛亮「は、はあ……」
曹 操「よいな、あ奴に全て任せるのだ」
諸葛亮「はっ……」
曹 操「くっ……また熱が上がったようだな。
    今日は休むぞ……」
諸葛亮「ははっ、それではこれにて」

諸葛亮はその場を辞して部屋を出た。
だが、その表情はあまり良くはない。

諸葛亮「……殿は病で気が回らぬのか。
    かの者は殿が無理矢理に登用した将……。
    才は確かにあるだろうが、信用はできぬ。
    そんな者に全権を任せるなど、余りに無謀」

諸葛亮は曹操の指示を無視し、指令を送らなかった。
周瑜に兵を与えて裏切られるよりは、ただ城を
奪われるほうがまだマシと考えたのである。

    ☆☆☆

3万の兵が篭る小沛城を、楚軍10万が取り囲む。
その包囲網の中から金旋が城へ向け、呼びかけた。

 小沛攻め

    金旋金旋

金 旋「あー小沛城の諸君、聞こえるかね。
    君たちは完全に我が軍により包囲されている。
    おとなしく城を明け渡してくれたまへー」

    曹洪曹洪

曹 洪「なめるな金旋! 戦わずして城を渡すほど
    この曹洪、気前は良くないぞ!」

金 旋「流石は吝嗇将軍の異名を持つ曹洪よ。
    それならば全力で奪い取るまでのことだ。
    全軍、かかれー!」
曹 洪「来るぞ、迎え撃て!
    この城を相手にしたことを後悔させてやれ!」

楚軍の兵が、堰を切ったように城へと群がっていく。
魏軍の兵も、それを防ごうと弓を射ったり岩を落とす。

そんな中、周瑜は特定部署を守る他の魏将と違い、
独自に動いて遊撃する任を与えられていた。
とはいえ、与えられているのは少数の手勢のみで、
大した影響力は持っていなかった。

    周瑜周瑜

周 瑜「要するに、どうでもいい扱い、ということか」
魏 兵「周瑜さま、東門が押されているようですが」
周 瑜「分かった。東門へ向かおう」

    李通万億

万 億「周瑜さま」
周 瑜「万億どの、助太刀いたす。
    とはいえ、大した足しにはならないが」
万 億「いえ、そんなことは。心強いです」

万億(李通娘)が守るこの東門には、金閣寺隊の
髭髯豹と髭髯蛟が攻めかかっていた。

   髭髯豹髭髯豹  髭髯蛟髭髯蛟

髭髯豹「おんどりゃあ、ぶち破れぇぇぇ!!」
髭髯蛟「兄者、出すぎだぞ!」
髭髯豹「何言ってやがる、蛟!
    おケツに入らずんばイボ痔を得ず
    って言うだろうがよ!」
髭髯蛟「それを言うなら虎穴……。
    って、もう行っちまいやがったよ」
髭髯豹「どおおりゃああああ」

   李通万億   周瑜周瑜

万 億「髭髯豹の攻め手が勢いがあるようです。
    矢を集中的に射かけ、退かせるように」
周 瑜「いや、ああいう将にその手は効かない。
    器用にはじき返されて終わりだ」
万 億「では、どのようにすれば?」
周 瑜「そうだな、あの将の周りの兵士を狙い、
    孤立させたほうが良いと思う」
万 億「なるほど……いかに豪傑といえども、
    兵がついてこなければ怖くありませんね」

万億は、弓兵に髭髯豹に従う兵士を狙わせた。
髭髯豹が突き進む脇で、兵が次々と倒れていく。

髭髯豹「おりゃあああ! ついてこいお前ら!
    ……ありゃ、周りに誰もいねえじゃねえか。
    どういうことだこりゃ」
髭髯蛟「兄者、一旦引き揚げろ。
    兵が全て倒されては何もできないだろう」
髭髯豹「ちっ、やられたのか。軟弱な奴らだな」
髭髯蛟「兄者が無謀なだけだ」
髭髯豹「しょうがねえ、引き揚げるか」

万 億「……上手くいったようですね。
    ご助言、ありがとうございました」
周 瑜「いえ、恐縮です。
    この程度のことしか私にはできませんから。
    ……ようやく、日も暮れてきました」

日が沈み、辺りも暗くなってきた。
東門だけではなく、他の楚軍も攻める手を止め、
引き揚げ始めている。もっとも、それは今日だけで
明日にはまた押し寄せてくるだろうが。

万 億「楚軍も攻めるのをやめたようですね。
    この分だと、朝まで何とか休めそうです」
周 瑜「夜討ちの警戒は怠ってはいけませんがね。
    しかし、ゆっくり食事を取れるのは有難い」
万 億「あ、周瑜さま。
    よろしければ、夕食を一緒にどうですか?」
周 瑜「夕食を一緒に? それは光栄ですが、
    父君は私の同席を快く思わないのでは?」

彼女の父の李通は、譜代の将としての自負が
特に強いため、外様の将を嫌っていた。
そんな男が、周瑜の同席を認めるわけはないが。

万 億「父は前の戦傷がまだ癒えてませんので、
    宿舎は別になっているのです」
周 瑜「髭髯鳳との一騎打ちでの傷か……」
万 億「ですので、父を気にする必要はありません。
    私も気分転換のために料理を振る舞いたく
    思っただけですので、遠慮は要りませんよ」
周 瑜「そうですか、そういうことなら」

周瑜は、万億の招待を受ける。
彼女の手料理と酒を振る舞われ、久しぶりに
彼は気分の良いひと時を過ごした。

   李通万億   周瑜周瑜

万 億「戦に出るような男勝りの女の料理で、
    申し訳ありませんでした」
周 瑜「いえ、なかなか美味でした。
    あり合わせの材料で作ったとは思えません。
    亡き妻の作った料理を思い出したほどです」

「亡き妻」という言葉を聞いて、万億は驚いた。
周瑜の妻といえば美人で名高い小喬である。
その彼の愛妻が亡くなっていたとは。

万 億「……奥方は、いつ?」
周 瑜「楚軍が呉を落とした際に。
    その時の混乱の中、殺されたそうです」
万 億「そうだったのですか……」

万億はそれ以上は何も聞かなかったが、
周瑜が周りから冷ややかな目で見られながらも、
魏のために戦っている理由はこれなのかと思った。

周 瑜「……ときに、万億どの。
    お願いがあるのですが、よろしいか」
万 億「お願い、ですか?」
周 瑜「この城はそう長くは持たない。
    いずれ、楚軍に落とされるでしょう」
万 億「……でしょうね」

万億も、そう言うしかなかった。
攻める楚軍と守る魏軍、戦力の差が大きすぎる。
今は何とか守ってはいるが、いずれ敗れるだろう。

周 瑜「そこで……この城が落ちた時のために、
    罠を仕掛けておこうと思うのだが」
万 億「罠?」
周 瑜「今回は金旋自らが出陣してきている。
    城は落とされたとしても、金旋を討つこと
    さえできれば、我々の勝ちだ」

楚は金旋の存在があるから団結している。
金旋がいなければただの寄り合い所帯であり、
後継を巡って内輪での分裂が起こるだろう。
そうなれば、他の勢力にも逆転の目が出てくる。

万 億「金旋個人を狙うのですか。
    わかりました、して私は何をすれば?」
周 瑜「死を厭わぬ勇士が、3人必要です。
    貴女の部下より選び出して戴きたい」
万 億「それなら、曹洪さまに頼んだほうが……」
周 瑜「曹洪さまでは、おそらく要らぬ者を
    預けられるだけでしょう。
    また、総大将である方に相談してしまうと
    策が事前に漏れてしまう可能性がある」
万 億「わかりました。なんとか致しましょう」
周 瑜「その3名ですが。
    できれば特徴ごとに選んでいただきたい。
    一人は、声の大きい者。
    一人は、傷を負ってもなお戦える屈強の者。
    一人は、足が速く、剣の扱いに長けた者」
万 億「なかなか厳しい条件ですが、承知しました。
    では、明日にでも選抜いたします」
周 瑜「お願いします。この『三位一体の計』なら、
    相手が警戒をしていようとも討てましょう」

    ☆☆☆

一方、楚軍は。
城から距離を取り、一晩限りの陣を構えていた。

   金玉昼金玉昼  司馬懿司馬懿

金玉昼「ちちうえ」
司馬懿「閣下」

    金旋金旋

金 旋「お、玉に司馬懿。揃ってどうした」
司馬懿「はい。……小沛城の攻略についてですが。
    想定よりも多少手間取っております。
    兵力の損害も多少出てきておりますし」
金 旋「なに、魏軍とて易々と明け渡したくはない
    だろう。多少長引くのも、犠牲が出るのも
    仕方ないと思わねばなるまい」
金玉昼「だけどこの戦い、早期に決着できれば
    それに越したことはないにゃ」
金 旋「まあ、そりゃそうだが」
金玉昼「そこで、策を考えてみたのだけどにゃ」
金 旋「ほう、二人で?」
司馬懿「はい、二つの策を考えて参りました。
    それで、どちらの策を使うかを閣下に
    選んで頂きたく思い、参りました」
金 旋「二つの策を、か。
    それ、両方やるわけにはいかんのか」
司馬懿「やろうと思えばできなくもありませんが」
金玉昼「一つは速戦即決、多少犠牲の出るの策。
    もう一つの策は少し時間を使うけれど、
    戦力の損害を抑える搦め手の策。
    片方やるともう片方の利点を潰すのにゃ」
金 旋「ふむう。
    あちらを立てればこちらが立たず、てか。
    それじゃ、それぞれの策を聞かせてくれ」

司馬懿「では、先に搦め手の策を……。
    まず、周瑜に内応の手紙を送ります」

司馬懿の言葉に、金旋が表情を変えた。

金 旋「なに? 周瑜が内応するのか?」
司馬懿「しないでしょうね」
金 旋「……それじゃ意味ないだろう」
金玉昼「ちちうえは短絡的だにゃー」
金 旋「なんだとー?」
司馬懿「まあ、最後までお聞きください。
    その手紙には、『妻の安全は確保している。
    例の件、よろしくされたし』と記します」
金玉昼「これはちちうえも知ってるだろうけど、
    周瑜さんの奥さん、つまり小喬さんは
    今も呉で暮らしてるにゃ」
金 旋「うむ、それは報告で聞いている。
    確か、彼女の姉の孫策夫人(大喬)と共に、
    孫瑜が保護しているはずだな」

呉陥落の折、孫家の血族等については、
孫家に連なる立場の孫瑜に保護を任せていた。
(※続金旋伝八十一章を参照)

金玉昼「その彼女のことを、まあ言い方は悪いけども
    人質みたいな感じで、伝えるのにゃ」
金 旋「いや、しかし……。
    それを知らせても周瑜は裏切らんだろう」
司馬懿「そうですね。
    いくら妻を人質に寝返りを強要しても、
    彼の気骨では受け入れられないでしょう。
    ですので、その手紙を他の魏将に送ります」
金 旋「……他の魏将に?」
司馬懿「魏軍での周瑜の立場は微妙なものです。
    彼に疑いの目をかける者も少なくない」
金 旋「おい、もしかして……」
司馬懿「そんな中、彼の妻が楚領内にいること、
    そして怪しげな文面が届けば、他の将は
    『周瑜は楚と通じている』と思うでしょう」
金玉昼「でも、中には楚の計略かと疑う者も出てくる。
    そうなると、周瑜の処遇を巡って、それぞれ
    将たちの意識が分かれてくるはずにゃ」
金 旋「むう」
司馬懿「その後は臨機応変に立ち回ります。
    追い込まれた周瑜に、本当に寝返りを薦める。
    周瑜を弁護する将も裏切り者に仕立て上げる。
    色々な策が考えられます」
金玉昼「別にその次の策を打たなくても、
    周瑜さんが外されるだけで有利になるにゃ」
司馬懿「ええ。彼がいなくなってしまえば、
    その後の計略の心配は要らなくなります」
金 旋「うーん、確かに効果はありそうだが……」
司馬懿「お気に召しませんか」
金 旋「2人とも周瑜を脅威に思ってるんだろうが。
    そこまで追い詰めるような策を使うってのは、
    ちょっとな……」
司馬懿「周瑜という人物、聡明にして果断。
    戦力比ではこちらが大分有利であるとはいえ、
    彼を放置すべきではありません」
金 旋「いや、有利だからこそ採る策じゃないな。
    城を落として彼を捕虜にすれば、以降は彼を
    味方にできるかもしれないだろう」
司馬懿「……左様でございますか」
金 旋「それに今でも周瑜は微妙な立場なんだろ?
    なら、心配はいらんと思うが」
司馬懿「そう言われればそうなのですが」

司馬懿は残念そうな顔を見せた。
対して、金玉昼は苦笑している。

金玉昼「ほら、私が言った通りにゃ。
    だからこの策は言うだけ無駄って言ったにゃ」
金 旋「ん、どういうこった」
金玉昼「さっき2人で検討している時に言ったのにゃ。
    有効な策だけど、ちちうえは絶対選ばないって。
    でも司馬懿さんが提案だけでも、って言うから、
    とりあえず話してみたのにゃ」
金 旋「なんだ、分かってるんじゃないか。
    今回の戦いは正攻法で十分勝てるんだから、
    あまり後ろ暗い策を使う必要はない」
金玉昼「うんうん。そう言うと思ったにゃ。
    というわけで、正攻法、速戦即決の策を
    お奨めするにゃ」

そう言って、金玉昼は司馬懿に説明を促した。

司馬懿「では、正攻法の策をご説明します。
    こちらは、三位一体の計を使います」
金 旋「三位一体?」
金玉昼「簡単に言えば、時間差攻撃にゃ」
司馬懿「まずは閣下の隊に攻撃をかけて頂きますが、
    わざと失敗して引き揚げていただきたい」
金 旋「ふむ」
司馬懿「次に私と金閣寺どのの隊が別方向より
    全力で攻撃をかけます。
    閣下が引き揚げたことで、全ての魏軍が
    我らの攻撃を防ごうとするでしょう」
金 旋「お、分かったぞ。
    その後、俺が取って返し、手薄になった
    ところを攻め落とす……という所か?」
司馬懿「流石は閣下、そこまでお分かりでしたか」
金玉昼「ちちうえ、流石! 察しがいいにゃー」
金 旋「ふふーん!
    なあに、それくらいは当然だがな!」

そう言いつつも、ふんぞり返る金旋。
どうやら知恵者2人に褒められたことが、
大満足だったようである。

金 旋「とはいえ……だ。
    そうなってくると、俺の責任は重大だな。
    取って返した後、頑張って落とさんと」
司馬懿「いえ、そこまで気負わずとも結構ですよ。
    例えこの策が失敗したとしても、彼我の
    戦力比が逆転するわけではありませんし」
金玉昼「気楽に構えてくれて結構にゃー」
金 旋「そ、そうか?」
司馬懿「ですが……。
    この計によって閣下が一番乗りできれば、
    閣下の勇名が天下に知られることでしょう」
金 旋「お、俺の勇名?」
金玉昼「『戦下手の金旋』という評価も覆るかもにゃ」
金 旋「そ、そうなのか?
    もしかして軍神金旋様とか呼ばれちゃう?」
司馬懿「流石にそれはないとは思いますが、
    好意的な評が生まれるのは確実でしょう」
金玉昼「私もちちうえを見直しちゃうにゃー」
金 旋「そ、そうか。
    よーし、パパ頑張っちゃうぞー」
司馬懿「フフ……。
    閣下の奮戦、期待しております」
金玉昼「頑張ってにゃー。ウフフ」

気分がかなり高揚していたからか、金旋は、
含み笑う2人の表情には気付かなかった。

日がまた昇り、三位一体の策が実行される……。

    ☆☆☆

まず金旋が、城の西門へと攻撃を仕掛けたが、
魏軍の激しい抵抗を受けると、すぐに部隊へ
撤退命令を出した。

 三位一体の計、序章

   金旋金旋   下町娘下町娘

金 旋「撤退、撤退ー!」
下町娘「えっ!? 
    ちょっと撤退するの早すぎませんか!?」
金 旋「いいんだ、後は他の部隊に任せる!
    俺には到底無理なことだったんだー。
    俺はダメダメダメのダメ人間なんだー」
下町娘「ちょ、なんて無責任な!」
金 旋「ならば無責任帝王金旋と呼ぶがいい!
    いいから撤退だー! 退け退けー!」

一目散という言葉がピッタリ来るその様子を見て、
守っている西門の魏の将兵もまずは一安心、という
面持ちだった。

   陳到陳到   公孫恭公孫恭

陳 到「ははは、実に見事な逃走劇。
    流石は戦下手の金旋というところですか」
公孫恭「そんな金旋が相手でわしらは助かったのう。
    他の部隊を相手にする方々は大変じゃな」

    田豫田豫

田 豫「南門には司馬懿隊、東門には金閣寺隊が
    現れ、攻撃をかけているとのことです」
陳 到「左様か……。
    激しい攻防になっているのでしょうな」
田 豫「曹洪さまを始め、夏侯威どの、李通どの等が
    守りを固めておりますが、厳しいでしょうな。
    私は、その加勢に向かおうと思うのですが」
公孫恭「よろしいのではないかな?
    金旋も引き揚げて、ここは暇だからのう」
田 豫「ご油断なされますな。
    再び金旋が現れるやもしれませんぞ」
陳 到「はは、ご心配は無用。
    金旋では我らの守りは崩すことはできん」
田 豫「信用しております。頼みましたぞ」

後を2人に任せ、田豫は守備兵の多くを引き連れて
南門守備の救援へ向かった。

陳 到「金旋が再び来る……か。
    田豫どのの言葉をどう思われる、公孫恭どの」
公孫恭「さて……どうかのう。
    先ほどの奴のブザマな撤退ぶりを見るからに、
    戻ってきそうには思えんがのう」
陳 到「確かに」
公孫恭「しかし、あんな大将に率いられているのに、
    よく楚は勝てるものだのう」
陳 到「部下がしっかりしているのでしょう。
    ……そういえば、公孫恭どのの娘御は今
    楚軍にいるのではありませんでしたか?」
公孫恭「朱(公孫朱)か。楚に渡ってからは
    武名が知られるようになったようじゃの。
    確かにあやつはわしの娘じゃ」
陳 到「離れ離れになって寂しくはないですかな」
公孫恭「いや、娘といっても養女じゃからの。
    さびしいなどといった感情は特別ない」
陳 到「養女? 実の娘御ではないのですか」
公孫恭「うむ。なにしろ、わしは不能じゃからな。
    作ろうにも作りようがないんじゃ」
陳 到「さ、左様でしたか。これは失礼を」
公孫恭「なに、かまわんよ。
    わしのような者の血を引いて生まれても、
    この乱世では生きておられぬであろう」
陳 到「なるほど。そういう思いがあるからこそ、
    養女であっても娘御が名を上げていることが
    嬉しいわけですね」
公孫恭「な、何を言っておるんじゃ。
    わしは別に娘がどうなろうと……」
陳 到「そうですか?
    娘御のことを話している時の貴殿の顔、
    嬉しそうな表情をしておりましたよ」
公孫恭「な、何を言うか……! わ、わしは……」

公孫恭が言葉に詰まりつつも反論しようとした
その時……再び楚の軍勢が現れた。
金旋の部隊が、戻ってきたのだ。

   金旋金旋   下町娘下町娘

金 旋「よーし、見立て通り守備兵が減ってるぞ!
    全軍、攻めかかれーっ!」
下町娘「金旋さま、すごい!
    敵軍が守備兵を他に回すことを予測して、
    わざと引き揚げさせたんですね!」
金 旋「う、うむ、その通りだよ、はっはっは!
    (策は俺が考えたわけじゃないけど……)」
下町娘「金旋さま、さっすがー!
    (ま、どうせ玉ちゃんあたりの入れ知恵
    なんだろうけど……とりあえずホメとこ)」

公孫恭「金旋が来おったぞ!」
陳 到「ちっ……さっきの退却は狂言か!
    防げ! 兵の数が少なくなったとはいえ、
    金旋ごときにやられては恥だぞっ!」

再び金旋隊の攻撃が始まった。
彼らも正直、田豫とその兵に戻ってほしかったが、
それが出来る状況にないことは分かっていた。

   夏侯威夏侯威  田豫田豫

夏侯威「そっちは任せたぞ、田豫どの!
    こっちはどうにも手が離せそうにない!」
田 豫「承知した、お任せあれ!
    陳到どの、こちらも手一杯で戻れそうにない。
    大変だろうが頑張ってくれ……!」

田豫が向かった南門では、司馬懿隊の苛烈な
攻撃に晒されており、田豫とその兵なくしては
今にも突破されそうな状態であったのだ。

    ☆☆☆

田豫と多数の兵がいない状態ではあったが、
それでも西門守備の者たちは必死に防戦し、
金旋隊がそれを破ることはできなかった。

   金旋金旋   下町娘下町娘

金 旋「な、なんでこんなに守りが堅いんだー!
    金旋軍神計画が頓挫してしまうじゃないか!
    み、皆、なんとか、なんとかするんだー!」
下町娘「はあ……。
    (今更だけど、やっぱりこの人、戦場に
    出さないほうがいいんじゃないかな)」
金 旋「な、なんとかしてくれー!
    こ、このままじゃ、玉と司馬懿の策を
    俺が潰したことになっちゃうじゃないか!」
下町娘「あ、やっぱりそうなんだ」
金 旋「な、何がやっぱりだー!?
    あああ、後で2人に説教されるぅぅぅ」

   公孫恭公孫恭  陳到陳到

公孫恭「どうやら何とかなりそうじゃな」
陳 到「そうですな、このまま行けば……」

司馬懿・金玉昼の三位一体の策は、このまま
失敗してしまうのだろうか。
そして金旋軍神計画はどうなってしまうのか。

その答えは、すぐに出たのだった……。

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