221年10月
場所は益州、漢中。
蜀炎の饗援は、10万近い兵士をそこに集め、
士気を上げるための演説を行った。
饗援
饗 援「涼は戦略を誤った。我ら炎と戦っていながら、
新たに楚という強国との戦端を開いた。
攻めはしたものの、楚の要害を攻めあぐね、
大量に投入した戦力を減らすばかり……」
兵は皆、黙って彼女の声に耳を傾ける。
饗 援「涼が力を浪費する一方、我らは力を溜めた。
焦って事を仕損じてしまわぬよう、まずは
圧倒的優位を作り上げることに専念したのだ。
そして今こそ、我らが涼を飲み込む時である」
おおっ、と兵士たちが声を上げようとする。
だが、饗援はそれを手で制した。
饗 援「初めはただの小さな一部族であった炎だが、
今やこれほど大きな国へと育った……。
この私に従ってずっと戦い続けてきた皆に、
礼を言わねばなるまいな」
饗援はそこで言葉を切り、再び語気を強める。
饗 援「だが、まだここで満足するわけにはいかぬ。
まずは、目下の敵である涼を打ち倒し、
中華の西を全て我ら炎のものとしよう。
さあ、炎の旗を涼の地に立てに参るぞ!」
『おおっ!』
拳を振り上げた饗援に続き、居並ぶ兵士たちも
その拳を上げ、歓声を上げた。
炎の兵士は他と違い、女も多い。
それでも領土が広がり、国が大きくなるにつれ、
男の兵のほうが多くなってきていた。
その男たちが、饗援のために拳を振り上げている。
饗援はそんな兵たちに手を振り、屋内に入っていく。
そこには、軍師の櫂貌が待っていた。
櫂貌
饗援
櫂 貌「見事なものです。冷遇してきた男たちすら、
あのように熱狂させてしまうとは」
饗 援「私が熱狂させているわけではあるまい。
そういう空気ができてきただけのこと」
櫂 貌「フフフ、御謙遜を。
貴方様の為政者としての威風の賜物です」
饗 援「……私も歳を取ったものだ。
兵に対し、礼を言わねばならん、などと……
昔の私なら絶対に言わなかっただろう」
櫂 貌「そうでしょうか。それは、君主としての自覚が
もたらしたものだと、私は思いますが」
饗 援「自覚?」
櫂 貌「ええ、人民を治める者の自覚。
ただ己の理想のために人をこき使うのはなく、
民を慮ることのできる者こそ、真の君たる者
といえましょう」
饗 援「……昔はそんなにこき使っていたか?」
櫂 貌「ええ、そりゃもう。男も女も問わず。
それでも反乱が一度も起きずに済んでいたのは、
その武に太刀打ちできる者がおらなんだゆえ」
饗 援「……そ、そうか。
さ、さて、そろそろ私も出陣の用意をせねば」
櫂 貌「はい。下準備のほうも整えております」
饗 援「下準備……将の切り崩しの件か」
櫂 貌「はい。すでに涼の馬玩、范彊は涼を捨て
こちらに向かっている途中とのこと。
また、陳式も遠からず裏切ることでしょう」
饗 援「古参の将も裏切るようになったか……。
そうなってしまっては、涼もおしまいだな」
櫂 貌「天水の地を奪えば、涼の崩壊の速度も
一気に加速することでしょう……。
有限実行、期待しております」
饗 援「うむ。中華の西、取りに行ってくるぞ」
饗援は、軍を引き連れて漢中を出た。
饗援自らが大将となり、5万の兵率いる。
さらに後続として、柳隠が3万の部隊で続く。
北の陽平関を抜け、目指すは天水だ。
☆☆☆
天水。
漢代では、広大な西涼の地を治める重要な地であり、
涼国においても、経済・軍事共に重要な都市である。
陽平関のすぐ北は陳倉だが、饗援は陳倉は無視し、
直接天水へと向かった。
その行軍を、陳倉を預かる馬岱が眺めていた。
馬岱
楊任
馬 岱「この陳倉ではなく、天水へ向かったか……」
楊 任「馬岱どの、ここは奴らの背後を襲おう!
背後からなら、多少の数の不利は補える!」
馬 岱「楊任どの、それは無理です。
蜀炎は大くの兵を出してきましたが、それでも
まだ陽平関に兵が残ってます。そこから部隊を
出されてしまえば、我らは挟み撃ちにされる」
楊 任「む、むう……しかし天水の兵は2万程度。
炎の奴らは8万、これでは天水は奪われるぞ」
馬 岱「ええ、天水を守らねばならぬのは確か。
ですので、この陳倉にいる将と兵4万。
この全軍を率い、北側から天水に向かいます」
楊 任「全軍か」
馬 岱「はい。残念ながら、天水、陳倉、どちらも
守れるほど、兵力に余裕はありませんからね」
馬岱は陳倉を引き払い、天水へ向かった。
天水に入った馬岱は、すぐに部隊を再編。
そして彼らと同じく救援にやってきた馬休と共に、
城外にてやってくる饗援の部隊を待ち受ける。
馬岱隊が2万、馬休隊が2万だ。
対する饗援の部隊は、5万の兵はいるものの
井蘭を中心にした城攻め用の兵装である。
孫尚香
陸遜
孫尚香「……ちょっと不利なんじゃないの、これ」
陸 遜「確かに、この隊の編成で涼の騎馬隊を相手に
するのは、辛いものがありますね……」
饗援隊の副将である孫尚香・陸遜はどうも
不安げな様子だった。
だが、若い饗嶺と鴻冥は楽観的だった。
饗嶺
鴻冥
饗 嶺「心配は要りません。
柳隠隊3万がまもなく追い付いてきます。
そうすれば倍の兵数で圧倒できますよ」
鴻 冥「不利なのは最初のうちだけでしょう。
守備隊形で上手く受け流せば大丈夫です」
離れていく二人を見て、孫尚香は首を捻った。
孫尚香「うーん……どう思う?」
陸 遜「数に頼りすぎですね。
特に饗嶺どのは以前、同じように天水を攻め、
敗れた経験があるはずなのに……」
孫尚香「そうよね。国の跡取りがこんなことじゃ、
饗援も困るんじゃないかしら」
陸 遜「まあ、彼女もまだ28歳。若いですから。
経験を積めばまた変わってくるでしょう」
孫尚香「私と1歳しか違わないわよ」
陸 遜「貴女はこの数年で、彼女らの何倍もの経験を
しましたからね。ま、主に負け戦ですが」
孫尚香「そうね。お陰様で、なんとなく負ける空気、
ってのが分かるようになってきたわ。
まあ、こんなの分かっても嬉しくないけど」
陸 遜「その負ける空気を采配で消すのが大将の役目。
それが分かるようになったのなら、常勝、
とは行かぬまでも大きな敗戦は防げましょう」
孫尚香「そんなものかしら」
陸 遜「そうです。……この際、饗援の跡目を継ぐのは
貴女になったほうが、この国にとって良い
のかもしれませんね」
孫尚香「はいはい、冗談はそこまで。
とりあえず、この場は私たちのできる範囲で
負けないようにしっかり戦う。いいわね」
陸 遜「わかりました。
……冗談のつもりはなかったのですがね」
孫尚香「え? 何か言った?」
陸 遜「いえ、何も」
数の上では優位にある蜀炎軍。
しかし、涼軍の騎馬軍団は、その数の差など
ものともしない勢いで、饗援隊に突撃をかけた。
馬岱
楊任
馬 岱「攻城兵器を城に近づけさせるなっ!」
楊 任「蜀炎の蛮兵どもを打ち倒してやれ!」
馬休
馬 休「例えここに兄上がおらずとも!
我ら涼州軍団の騎馬兵の強さは変わらぬ!」
孫尚香らの危惧は現実のものとなる。
攻城兵器中心の饗援隊は涼軍の騎馬兵に蹴散らされ、
後続の柳隠隊が到着してからも、涼軍の勢いは
止まりそうもなかった。
柳隠
阿会喃
柳 隠「饗援さまが危ない!
敵部隊との間に、我らが割って入らねば……」
阿会喃「わいがやりましょ。
北育ちの馬乗りやらなんやら、いてもうたる!」
柳隠隊の阿会喃が割って入ろうと突っ込む。
だが、馬岱の反撃でなんなくはね返された。
阿会喃「きょ、今日はこのくらいにしといたるわー」
馬 岱「はっ、南の蛮兵などこの程度か」
さらに、涼軍の援軍が到着。
張横、侯選の部隊が饗援隊に向けて殺到する。
張横
侯選
張 横「涼州は俺らの縄張りだ!
貴様らなどに渡すものかよ! 行くぞ!」
侯 選「饗援の隊を集中的に狙うのだ!」
涼軍の増援が到着したことで、兵数の差も
7万対5万ほどと、かなり縮まってきた。
馬 岱「覚悟せよ饗援!
この天水を狙ったのが貴様の運の尽きだ!」
饗援隊もこれで万事休すか?
だが、饗援はいつになく不敵に笑うのみだった。
饗援
張横
饗 援「『勝兵はまず勝ちて、しかる後に戦う』
孫子兵法の基本、これから教えてやろう」
張 横「はっ、ハッタリかましても意味ねえぞ!
野郎ども、あのオバハンをたたんじまうぞ!」
孫尚香
陸遜
孫尚香「ぷっ、おば……」
陸 遜「孫尚香さま、笑ってはいけません」
孫尚香「そ、そうね。仮にも君主だもの。ププ」
陸 遜「それより、敵が切り込んできます!」
孫尚香「……っ!」
張 横「どりゃああああ! 往生せいやあああ!」
張横隊が先頭に立ち、涼軍の軍勢が一挙に
饗援隊へ切り込んでいく。
……だが、彼らの進軍は止められてしまった。
疾風のように現れた新手の部隊。
その部隊だけで涼軍の猛攻のほとんどを受け止めた。
趙雲
劉備
趙 雲「仮にも公の身分にある方をオバハン呼ばわり。
その罪、お主たちの命で贖ってもらおう」
劉 備「よいせっと。よー尚香、待たせたな」
孫尚香「劉備!……じゃなかった、旦那様〜」
劉 備「気持ち悪いから普段通りに劉備でいいぞ。
体裁を繕うガラじゃないだろうに」
孫尚香「や、やかましい!
人がせっかく夫を立てようとしてるのに!」
黄忠
張翼
黄 忠「この黄忠を忘れてもらっては困るな。
さて、ワシの矢の餌食になりたい奴はおるか?」
張 翼「我等が来たからにはもう安心ですぞ!」
櫂貌
饗援
櫂 貌「炎公。遅れて申し訳ありません」
饗 援「構わぬ。
これで奴らのわずかな希望も潰えたであろう」
趙雲隊4万が炎軍の増援として現れた。
(副将に劉備、黄忠、張翼、櫂貌)
さらにその後ろからやってきたのは孫桓隊4万。
(副将に祝融、楊懐、劉潰)
孫桓
祝融
孫 桓「趙雲隊に美味しい所を持って行かれたか」
祝 融「いいんじゃないのかい?
その分、楽ができるというものさね」
馬 岱「な、なんという数なのだ……!」
張 横「その後ろからもまた何か来る!?」
董荼那
雍闇
董荼那「おーい阿会喃、生きとるかー」
雍 闇「この雍闇が来たからにはもう安心じゃい」
雍闇隊2万(副将:董荼那)まで到着。
総勢10万の増援が到着した蜀炎の大軍に、
もはや涼軍はなす術もなかった。
饗 援「まずは城外の敵部隊を殲滅せよ!
しかる後、城を包囲し攻撃を仕掛ける!」
張 横「くそっ、せめて饗援に一太刀浴びせてやる!」
趙 雲「おっと……進ませはせぬ。
我らがいる限り、炎公には触れさせぬぞ」
張 横「うるせえ、かっこつけてるんじゃねえ!
そこをどけえええええ!!」
趙 雲「気合は充分だが……技量はまだまだだな」
バシッ!!
張 横「ぐあっ……」
趙 雲「敵将を捕らえた! さあ、敵を蹴散らすぞ!」
趙雲に挑みかかった張横だったが、逆に
趙雲の振るった槍の柄で叩き落とされてしまう。
張横を捕らえた趙雲は、そのまま部隊を率いて
涼軍へ攻勢をかけ、次々に倒していく。
馬岱
涼 兵「張横隊、侯選隊はすでに壊滅!
馬休隊もこれ以上の戦闘継続はほぼ不可能、
撤退を始めているとのこと!」
馬 岱「楊任どのはどうされた」
涼 兵「敵の猛攻を何とか防いでくれています。
しかし、いつまでも持ちますまい」
馬 岱「わかった。では、すぐに引き揚げるように
と伝えよ。ここで命を落とすことはない」
涼 兵「では……」
馬 岱「ああ、終わりだ。ここまで戦力差が
大きく開いているとは思わなかった……」
涼 兵「馬岱様!」
馬 岱「退くぞ。もはや天水は奪われた。
捲土重来を果たすため、速やかに引き揚げる」
涼 兵「ははっ」
馬 岱「(だが……その捲土重来のための戦力すら、
用意することができるかどうか……)」
11月下旬。
涼軍の野戦部隊の敗戦からほどなくして、
天水城も炎軍の攻撃に耐え切れず、陥落。
蜀炎軍はこれで涼州への侵攻の足がかりを作った。
饗援
張横
饗 援「さて……張横と言ったか」
張 横「ふん。殺すならさっさと殺せ」
饗援の前に捕虜として引き出された張横。
だが、張横は臆することなく饗援を睨み付ける。
饗 援「命ごいはせぬのか?」
張 横「ハッ、戦いの時にあれだけのことを言ったのだ。
命ごいなどするだけ無意味だろう」
饗 援「……ああ、『オバハン』のことか。
別に私は何とも思ってはおらぬぞ?」
張 横「ははは、何を言っている。
その年齢で気にせぬわけはあるまい」
饗 援「お主の尺度で量るでないわ。
しかし、お主も捕虜の身でよくそこまで
ズケズケと言えたものだ。気に入ったぞ」
張 横「気に入られるために言ってるつもりもないが」
饗 援「張横。どうだ、私に仕えぬか。
私の理想は、少なくとも涼公馬騰よりは
高いところにあるぞ」
張 横「俺は涼州のために生き、涼州のために死ぬ。
理想がどうとかには興味はない」
饗 援「ならば、私が涼州のためになるかどうか、
我が元にいて見極めてみよ」
張 横「なんだと?」
饗 援「私が涼州の益にならぬと思えば、その後は
お主の好きにすればよい。どうだ?」
張 横「……なんつー自信家だ」
饗 援「フフフ、そうでもなければ、ここまで
成り上がっては来ぬよ」
張 横「よーし、わかった。
しばらくあんたを見定めさせてもらうぜ」
捕虜の張横・侯選を登用した蜀炎軍。
饗援は、涼国領内へのさらなる北上を目論んでいた。
☆☆☆
西の情勢を伝えた後は、東に戻る。
時は多少さかのぼり、10月。
場所は楚軍の水軍拠点、曲阿。
ここで、一人の武将が息を引き取った。
楚兵A「惜しい人を亡くしたものだ……。
まあ上司にはしたくない人だったが」
楚兵B「ああ、あれだけ親しみのある人はいなかった。
自分の命を預けるには怖い人だったが」
甘寧
朱桓
甘 寧「『脱糞将軍、逝く』か。残念だ」
朱 桓「……真剣な表情でそんなことを言われても」
かつて脱糞しながら敵を撃退したこともある
楚軍の将、蔡中が逝った。享年は54歳だった。
なお死因は、厠でウンコをしようと踏ん張りすぎ
脳卒中を起こしたためとのことだった。
甘 寧「7月には蔡和が倒れ、今度は蔡中か。
荊州時代からの同僚が次々と倒れてしまって、
黄祖も気を落としているだろうな」
朱 桓「それより、蔡中の分の欠員はどうされる?
蔡和が逝った時には劉綜に来てもらったが、
もう劉表系の水軍要員はいないだろう」
甘 寧「うーむ、そうだな。相性が良さそうな誰かを、
殿に送ってもらうしかあるまい」
しかし、悲しみに暮れている暇はなかった。
またしても倭からの艦隊が来襲してきたとの報が、
彼らの元にもたらされたのである。
南下する倭の艦隊。
その旗艦の上に連戦連敗の女がいた。
倭女王
烏丸大王
倭女王「連戦連敗とはなんじゃ!……コホン。
フフフ、今回の軍は前回とは違うぞよ……。
楚軍め、覚悟するがよいわ!」
烏丸王「あー女王、盛り上がっている所悪いが」
倭女王「なんじゃ烏丸王。
あ、王とは行ってもわらわとは何の関係もないし
便宜上、名前として呼んでいるだけじゃ」
烏丸王「わざわざそんなこと言わんでいい」
倭女王「いやいや、たった2章前のことを忘れてしまう
鳥頭の輩がいるかも、と思ったまでのこと。
で、何か用かの、わらわの下僕の烏丸王」
烏丸王「……今回の軍の編成だが。
もっと動員しようと思えば出来たはずだろう。
なぜ、この規模なのだ?」
今回の倭軍は、2部隊での構成だ。
倭女王隊が2万、倭武将A隊が1万。
倭女王隊の副将は烏丸王・張角・張宝・張梁、
倭武将A隊の副将は烏丸武将である。
倭女王「これは于吉の提案じゃ。
『軍の規模を大きくすると敵も用心するであろう。
だが少なめならば、前回勝利している楚軍は
油断して迎撃に出す兵を減らしてくるはず』
とな。だから、今回はこの規模なのじゃ」
烏丸王「なるほど」
倭女王「それに、これで終わりではないしの」
烏丸王「ん、それはどういう意味だ」
その問いに、倭女王は思わせぶりな笑みを見せる。
倭女王「ま、それはおいおい分かるであろう。
それにわらわもお主らがどれくらいやれるか、
まだ分からぬところがあるでな……。
今回の遠征はそれを量るのも目的じゃ」
烏丸王「わしらを試そうというのか。
ならば、わしらの力を見せ付けてやろうぞ」
倭女王「期待しておるぞよ」
烏丸王「任せておけい。
ところで、いつになったら陸に上がれる?」
倭女王「陸?」
烏丸王「陸に上がらねば、得意の騎馬も使えぬからな」
倭女王「…………」
『ちょっとばかり選ぶ奴を間違えたかな』
と今になって思い始めた倭女王であった。
☆☆☆
黄射
黄祖
黄 射「父上! 倭軍が迫ってきておりますぞ!」
黄 祖「フゴフゴ……。
わしの朝はケロッグコーンフレークからじゃよ」
黄 射「父上! ボケてる場合ですか!」
黄 祖「ボケもするわい……。
蔡中が死んでしまって、荊州水軍も解散じゃ。
倭軍なんぞもう関係ないわい。
甘寧や朱桓らに任せてしまえばいいんじゃ」
黄 射「何言ってるんです!
まだ私がいるし、張允どの、劉綜どのもいます!
それに助っ人も来てくれたんですよ!」
黄 祖「助っ人?」
黄 射「ささ、こちらへ」
そこに現れたのは……。
孔奉
孔 奉「……(ぺこり)」
黄 祖「おおっ、お主は!
……えーと、うーむ、誰だったかのう」
孔 奉「……(がっくり)」
黄 射「ああっ孔奉どの!
ほら、父上も歳なんで忘れっぽいんです!
だから肩を落として帰ろうとしないでー!」
黄 祖「おう、孔奉……何となく思い出したぞ。
抜擢で入ってきた奴じゃったの」
黄 射「ええ、彼がこちらに派遣されてきたんです。
相性も荊州組に近いですし」
黄 祖「蔡中の代わりがこやつになったか……。
……ふはははは! 荊州水軍は不滅よ!」
黄 射「元気出たようですね。
では、召集がかかってますので参りましょう」
孔 奉「……(こくり)」
黄 祖「はっはっは!
倭軍なんぞワシらだけで蹴散らしたるわー!」
黄 射「……調子乗りすぎじゃないか、コレ」
甘寧
朱桓
甘 寧「遅かったな。まあいい、軍議を始めよう」
朱 桓「今回の倭軍の構成は3万。
倭女王隊2万に倭武将隊1万です」
韓当
蒋欽
韓 当「前回より少ないのう」
蒋 欽「ふむ……。この程度の規模が相手ならば、
迎撃部隊も少なくて済みそうですね」
黄 祖「前回も楽勝だったし、4万いれば蹴散らせよう。
一隊はワシが率いるから、もう一隊誰かに……」
甘 寧「待て」
黄 祖「何じゃ甘寧、ワシを出さんつもりか?
だが欠けた人員ならホレ、そこにいる孔奉で
補充されたばかりじゃぞ」
甘 寧「出さないとは言ってない。
むしろ、大いに働いてもらうつもりだ」
黄 祖「じゃあ何なんじゃ」
甘 寧「今回はこの港にいる全ての兵を出す。
兵9万、全てだ」
朱 桓「全て?」
蒋 欽「甘寧どの、敵は3万しかいませんぞ?
なのに全てを動員すると?」
甘 寧「そうだ。何か臭う」
黄 祖「臭うか? 風呂なら5日前に入ったぞ」
韓 当「いや、そりゃ臭うわい」
黄祖の体を張ったギャグ(本人は真面目なようだが)
に甘寧は笑いもせず、言葉を続けた。
甘 寧「違う。倭軍の動向が臭うと言っている。
倭軍の兵はまだ10万以上はいるとの報告だ。
それならば、以前と同じ3部隊4万の構成にも
できるはずなのに、数を減らしている」
朱 桓「倭軍に何か策があると?
では、どんな策があると言われるのか」
甘 寧「そこまではわからん。
その策がわからん以上、全力で叩き潰すのみ」
韓 当「考えすぎではないか?
倭軍が3万で来襲したこともあるだろうに」
甘 寧「……ただの取り越し苦労かもしれん。
だが、それでも全力で叩き潰してしまえば、
憂いはあるまい」
黄 祖「『楚軍必死だな』と笑われぬかのう」
甘 寧「笑いたい奴は笑わせておけ。
では、部隊割りを決め、すぐ出撃する!」
楚軍は5部隊を編成し、曲阿を出撃した。
甘寧隊2万(副将:凌統・蘇飛・留賛・留略)
朱桓隊2万(副将:朱異・朱拠・朱治・董襲)
黄祖隊2万(副将:孔奉・黄射・張允・劉j)
韓当隊1万5千(副将:孫瑜・孫奐・孫匡・孫朗)
蒋欽隊1万5千(副将:周泰・陳武・陳表・吾粲)
(※全て闘艦)
凌統
凌 統「鬼の甘寧もそろそろ耄碌か。
ここまで戦力差つけちゃ、ただのイジメだろ」
凌統は船上で一人、そう呟いた。
だが、そこに現れた人影が。
甘寧
凌統
甘 寧「イジメ結構。楚軍の勝利が第一だ」
凌 統「ひいっ!?」
鬼の甘寧その本人に独り言を聞かれてしまい、
凌統は何かされるのではないかと身構えた。
だが、甘寧は静かに敵のいる方向を見るのみ。
甘 寧「俺も、数の上の比較では出しすぎだと思う。
だが……今回ばかりはどうも嫌な気がしてな」
凌 統「嫌な気ねえ。いくら倭女王が変な術を
使ったって、これまで勝ってきたじゃないか。
どう見たってこれはやりすぎだぜ」
甘 寧「本当に、それで済むのならいいんだがな。
どうも、不安が先に立ってしまうんだ」
凌 統「(やっぱ耄碌か。来年で60歳だもんな)」
ジロリ
甘 寧「戦いが始まるまでに便所掃除してこい」
凌 統「は!?」
甘 寧「ただの独り言なら多少は我慢はできるが、
そう顔に出されてしまうと頭に来るんだ!」
凌 統「なんじゃそりゃ!?」
甘 寧「その馬鹿にした顔が気に食わんのだ!
わかったらとっとと行ってこいや!」
凌 統「い、いじめだー!」
甘寧の大人げない用兵は吉と出るか凶と出るか。
新戦力を加えた倭軍と、どのような戦いをするのか。
そんなこんなで楚軍と倭軍との戦いが始まる。
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