○ 第九十九章 「至高の座への道」 ○ 
221年10月

 曲阿出撃

倭軍を迎撃するため、曲阿を出撃した楚水軍。
そのうち、先行した朱桓隊・黄祖隊が先に
倭軍と交戦を開始した。

   黄祖黄祖   黄射黄射

黄 祖「そーれ、荊州水軍の強さを見せつけい!」
黄 射「ち、父上、もう少し歳を考えてくだされー!」

黄祖隊の黄祖・黄射・劉Nが強攻。
この年齢を感じさせない会心の攻撃によって、
倭女王隊は8500もの兵を減らしてしまう。

   倭女王倭女王  烏丸大王烏丸大王

倭女王「ど、どういうことじゃ!
    楚軍め、こちらに合わせて兵を減らすどころか、
    全軍連れてきておるのではないか!?
    于吉の言っていたことと、全く逆じゃぞ!」
烏丸王「目論みが外れた、か。
    あの道士も、大してアテにならんな……」
倭女王「むむむ……。だが今回の我らは前とは違う!
    さあ張梁、お主の力を見せてやるのじゃっ!」

    張梁張梁

張 梁「おうさ! 太平道の術を食らえっ!」

 キラキラキラキラ

倭女王隊の船団から張梁の船が進み出たと思うと、
張梁が術を発動させる。彼の得意の幻術だ。

突如、楚軍の周りをぐるっと囲むようにして、
黄色の布を付けた大艦隊が現れた。

 黄巾艦隊

   韓当韓当   朱桓朱桓

韓 当「黄色い布……黄巾党!?
    な、なぜこんなところに奴らが!?」
朱 桓「それより、こんな大軍がいつやってきた!?」
黄 祖「ええい、き、ききさまららら!
    お、おおおちおちおちおおおちつけけけけ!」
黄 射「父上がまず落ち着いてください!」

朱桓隊・韓当隊・黄祖隊が混乱。
さらに部隊内で恐慌に陥った兵のため、各隊とも
2千近い被害を受けてしまった。

   蒋欽蒋欽   吾粲吾粲

蒋 欽「黄巾……だと?」
吾 粲「蒋欽どの、おそらくこれは幻術です。
    見たところかなりの大艦隊であるはずなのに、
    隊列が全く乱れておりません」
蒋 欽「なるほど、倭軍は妖しげな術を使うからな。
    だが、なぜ黄巾なのだろう……」

蒋欽隊は吾粲が看破したため、被害を受けなかった。
また、甘寧隊も遠距離のため影響を受けていない。

倭女王「おーっほっほっほ! ブザマよのう楚軍!
    幻のせいで混乱している様は実に愉快!」
烏丸王「しかし女王、先ほど黄祖隊から受けた攻撃で、
    こちらも大分兵を失ってしまったが」
倭女王「フフン。死んだ兵はどうにもならぬが、
    負傷兵は傷さえ癒えればまだ戦える。
    ……ほぉ〜れ、この女王の癒しを受けよ!
    ホイミベホイミべホマズン!!

 キラキラーン

倭兵A「おおっ、傷が塞がっていくぞ!?」
倭兵B「これが女王の癒しの力か!」

倭女王「おーっほっほ! わらわの力を見たかえ!
    さあ、混乱している敵部隊を倒しておしまい!」
烏丸王「女王、盛り上がってる所悪いんだが、
    もう敵部隊は混乱を収拾してしまったようだぞ」
倭女王「な、なんと!?」

楚兵A「これまで何度も倭軍の幻術を受けてるから、
    混乱から脱するのも早くなるよな〜」
楚兵B「毎回食らえば慣れてくるってもんよ」
朱 桓「……だったら最初から看破しろ」

   韓当韓当   孫朗孫朗

韓 当「というわけでお返しだ! 孫朗!」
孫 朗「はいっ! 水罠を食らえ、ポチっとな☆」

韓当艦隊の孫朗の仕掛けた水罠が発動される。
水面下に仕掛けられた杭が、倭軍の船の船底に向け
突き刺さる……はずだったが。

倭女王「何度も戦って慣れるのはこっちも同じじゃ!
    水罠対策要員、潜るのじゃ!」
倭 兵「おおー! 女王さまのためならエンヤコーラ」

水に潜った工作員が身を挺して、船へ向かってくる
杭の方向を逸らした。
結局、孫朗の罠は不発に終わる。

   朱桓朱桓   朱拠朱拠

朱 桓「ふむ、異民族とはいえ馬鹿ではないか……。
    では、力でねじ伏せる! 狙いは倭武将隊だ」
朱 拠「御大将に続くのだ! 強攻!」

朱桓・朱拠の強攻。
朱桓隊は先の黄祖隊の強攻と同じくらいの激しさで
倭武将隊に突っ込んでいく。

   倭武将A倭武将A  烏丸武将烏丸武将

倭将A「も、もしかして今回の出番これだけ!?」
烏丸将「ちょっと扱い酷いんじゃないかー!?」

しかし実際やられるだけだったのだから仕方ない。
倭武将隊は朱桓隊に蹴散らされ、壊滅した。

   甘寧甘寧   倭女王倭女王

甘 寧「倭女王、残るはお前たちのみだぞ。
    また前回と同じような結末を迎えるつもりか?」
倭女王「フッ、愚かなり楚軍。わらわたちがこの程度の
    戦力のみで挑むと思っていたのか?」
甘 寧「……隠し玉があるというのか?」
倭女王「そう、そこまで来ておる!
     さあ、第二陣の部隊よ、出ませい!」

北より疾風のように進んでくる倭の艦隊。
倭武将B、于吉、張芽、それぞれが1万を率いている。

   倭武将B倭武将B  張芽張芽

倭将B「ご無事でしたか、女王!」
張 芽「これが楚軍、か。相手にとって不足なし」

    于吉于吉

于 吉「ほっほっほ。ここを抜ければ曲阿の地か。
    再び揚州に戻るのも悪くないものじゃ」

 新手登場

その新手の登場に、驚く楚軍の面々。
彼らが驚いているのは、部隊が現れたこと自体
ではなく、その陣容にである。

   韓当韓当   黄祖黄祖

韓 当「う、于吉……だと!?
    馬鹿な、奴は孫策さまが殺したはずだ」
黄 祖「張芽とやらも、曹操に殺されたと聞くぞ」

   倭女王倭女王  張宝張宝

倭女王「フフフ、いいのう、いいのう。
    うろたえる様を見ていると楽しいわ」
張 宝「女王、ここでわしの力を見せてやりたいが」
倭女王「よし張宝、やっておしまい!」

張宝の船が艦隊から前に進み出て、
そこで手にした剣を振り上げる張宝。

張 宝「楚軍よ、わしは黄巾党地公将軍の張宝だ!
    地獄より舞い戻ったわしの力を見よっ!」

禍々しい力が張宝の周りに集まってくる。
倭女王の使う術とはまた違った彼のその妖術は、
それまで穏やかだった海の波を一気に荒げさせ、
大きな波となって楚の艦隊に襲いかかった。

   凌統凌統   甘寧甘寧

凌 統「これは……! でけえ波が来るぞ!
    操舵手代われ! まともに被ると沈む!」
甘 寧「……于吉に張芽に張宝だと?
    奴ら、死んだ者を生き返らせたというのか?」

大波に襲われる楚軍。しかし楚軍も手馴れたもので、
多くの船は巧みな操船で大波を逃れることができた。
それでも、波を被った船も中にはおり、
転覆などで被害は少なからず出てしまった。

倭女王「フフフ。いいのう、いいのう。
    いつになく勝てそうな予感がするぞ」
烏丸王「いやはや、全くだな。
    我らの力は見事なものであろう、フフン」
倭女王「……何じゃその勝ち誇った顔は。
    お主は何もしとらんじゃないか」
烏丸王「わしの力を見たいなら、陸地を用意してくれ」
倭女王「もういいから黙って見学しておれ。
    さあ、倭武将B、弱った楚軍にトドメを刺せ!」

   倭武将B倭武将B  倭武将C倭武将C

倭将B「はっ! いくぞ楚軍め!」
倭将C「うほっ、ようやく活躍できそうな予感!」

倭武将隊が甘寧隊へと向かっていく。
だが、その側面にピッタリとくっついてくる船が。

倭将B「なんだあの船は……?」
倭将C「なんかいい臭いがするぞ」

    陳表陳表

陳 表「倭軍の皆さん、お腹空いてませんかー。
    上海ガニを使ったカニ炒飯がありますよー」
倭兵A「おおっ! 美味そう……」
倭兵B「いい匂いだ、腹が減るぅ〜」
陳 表「これを食べるための条件は簡単!
    今、楚軍に寝返るだけでいいんです!
    それだけでこの炒飯が食べ放題!」
倭兵A「そ、それだけでいいのか、じゃ寝返る!」
倭兵B「ま、待て、俺も行くから食わせろ!」
陳 表「はいはい、慌てないで〜。
    ゆっくり倭の艦隊から離れてくださーい」

倭将B「なっ、なにー!? 離反者のせいで
    艦隊の陣形がぐちゃぐちゃになっただと!?」
倭将C「炒飯、わしも食いたい……」

    陳武陳武

陳 武「よくやった陳表!
    さあ、この隙に切り込むぞっ!」

蒋欽隊の陳表の心攻で500ほどの兵を寝返らせ、
さらに無陣となった倭武将隊に陳武が強攻。
これで倭武将隊の兵の半数を討ち取った。

   甘寧甘寧   凌統凌統

甘 寧「他の奴らにいい格好をさせるな!
    凌統、留賛と共に倭武将隊をやるんだ!」
凌 統「よっしゃ、任せておけっ!」

さらに凌統と留賛の強攻で、倭武将B隊を攻撃。
この蒋欽隊・甘寧隊の速攻により、先ほどまで
無傷だった倭武将B隊を殲滅してしまった。

 速攻退場

倭女王「なにっ!? 倭武将隊が全滅!?
    馬鹿な、先ほど到着したばかりではないか!」
甘 寧「見たか、倭女王!
    貴様がどんな妖しげな術を使ってこようとも、
    楚軍はそれを打ち破る強さを持っている!」
倭女王「ええい、やかましい!
    于吉、張芽! お主らで奴らを片付けい!」

   于吉于吉   朱桓朱桓

于 吉「では失礼をしまして……」
朱 桓「させるか! 朱治、朱拠! 強攻だ!」

   朱拠朱拠   朱治朱治

朱 拠「承知! 行くぞっ!」
朱 治「もう一度殺してやろうぞ、邪教の徒め!」

朱桓隊は于吉隊の1/3を討ち果たした。
だが、于吉は怯まない。

于 吉「フフフ……ではこちらの番じゃな!
    ふぬぬぬっ! 出でよ、邪神!

  邪神
  モッコスゥゥゥゥン

韓 当「なっ……なんという禍々しい姿だ!」
蒋 欽「こんなにも凶悪な姿をしているのだ、
    きっと攻撃も恐ろしいものに違いない」
甘 寧「皆、注意しろ!
    この邪神から目を離すんじゃないぞ!」

于吉の呼んだその凶悪そうな邪神の姿を見て、
楚軍は驚き、警戒した。

倭女王「おおっ、なかなかやるのう、于吉。
    口先ばかりではなかったようじゃな!」
烏丸王「あの邪神、どんな攻撃をするのだ?」

    張角張角

張 角「あの術を使ったか、于吉め」
倭女王「お? 影の薄い黄巾の長ではないか」
張 角「……影の薄い、は余計ですな」
倭女王「それより、お主はあの邪神を知っておるのか。
    あれはどんな攻撃をするのじゃ?」
張 角「いえ、女王。あれは攻撃をしません」
倭女王「え?」
張 角「あの邪神は、ただ見つめるのみです。
    その視線だけで、相手の精神を追い詰める。
    そういう邪神、いや幻術です」
倭女王「幻術……。
    言われてみれば、あの邪神から力は感じぬな。
    では、ずっとあのままなのか?」
張 角「ええ。于吉が呼び出している間は、そうです」
烏丸王「……あのままずっといるのか。ウザいな」

だが、その邪神がそこにいるだけで、効果はあった。
楚兵は、その視線に怖れを抱かずにはいられない。

楚兵A「い、いつになったら攻撃してくるんだあ!
    もう耐え切れないっ!」
楚兵B「ずっと見られてる……! もういやだ!
    お、俺は逃げるぞっ!」
楚兵A「おおお俺も! 逃げるが勝ちだ!」
朱 桓「ああっ、持ち場を離れるんじゃない!」

朱桓隊ばかりではなく、韓当隊、甘寧隊、蒋欽隊も
この于吉の幻術によって兵に被害が出てしまう。
恐慌したまま船から海に飛び込み、それで溺れて
しまう者が続出した。

于 吉「ふはははは! 脆い、なんと脆いものよ。
    人間の精神など、紙のように脆いわい!」

烏丸王「うーむ、やるな于吉」
張 角「ハッタリで驚かしておるだけですがな。
    そのハッタリをここまで大ごとにできるのが、
    于吉の凄さなのでしょう」

倭女王「……と、とにかく好機!
    敵の目が邪神に向いているうちに攻撃じゃ!」

倭女王が攻撃を仕掛けようとした時。
そこへ矢の雨が射掛けられた。黄祖隊だ。

黄 祖「させんわいっ!」
倭女王「な、なにっ!?
    き、貴様はあの凶悪な邪神が怖くないのか!」
黄 祖「はっ、何が凶悪か。
    ただブサイクなだけではないか」
倭女王「ブサ……」

楚兵A「……確かにブサイクなだけだな」
楚兵B「さっきから全然動かないし」
甘 寧「これは……!? 幻だ!
    全軍、邪神は無視だ、攻撃を再開しろ!」
于 吉「ぬうう!? わしの幻術が見破られただと!」

黄祖の一言で、楚軍は邪神の呪縛から解き放たれた。
我に返った甘寧隊が、于吉隊に襲いかかる。

甘 寧「留略、蘇飛! 強攻だ!
    奴に騙されたお返しをしてやるぞっ!」

甘寧、留略、蘇飛の強攻で、于吉隊は蹴散らされた。
(さらに甘寧の武力+1、彼の武力は95に)

甘 寧「フン、見たかこの腐れ詐欺師め!」
于 吉「おのれ、甘寧ー!
    こうなったら、貴様に呪いをかけてやる!
    一生下痢の止まらぬ呪いをかけてやるー!」
甘 寧「ハン、ハッタリなどもう通用しないわ!
    やれるものならやってみろ、このエセ道士!」
于 吉「言いおったな! 後悔するでないぞ!」

 于吉退場

于吉隊を殲滅し、残るは倭女王と張芽隊だ。

倭女王「ええい、于吉も弱いではないか!」
烏丸王「まあ、部隊統率は素人だからな……」

倭 兵「甘寧隊、こちらへ突っ込んできます!」
倭女王「迎撃せよ! 張角、お主もなんとかせい!」
張 角「今回は治療しかできませぬがな。
    とりあえず使っておきましょうか……」

  キラキラキラ

倭女王「兵の数はあまり変わっておらぬぞ!?」
張 角「先ほど女王が治しましたからな」
倭 兵「甘寧隊来ます! ものすごい勢いです!」

甘 寧「留略、蘇飛! 強攻だ!
    于吉隊の時と同じようにやるぞ!」

先ほどの于吉隊への強攻を再現するかのように、
甘寧は留略・蘇飛と共に倭女王隊へ強攻。
倭女王隊はそれを防ぐことはできなかった。

倭女王「また負けかーっ!!」

残ったのは張芽隊。
こちらも他の楚軍の包囲され、壊滅寸前だ。

    倭巫女倭巫女  張芽張芽

倭巫女「もう負けですね……」
張 芽「でしょうね。
    ですが、このまま一方的にやられるのも癪です。
    最後に痛い目に合わせてあげましょう」
倭巫女「痛い目、ですか?」
張 芽「ええ。貴女もまた違う術を使えるようですが、
    ここは私が力を披露いたしましょう……」

   黄祖黄祖   黄射黄射

黄 祖「おお、旗艦を見つけたぞ! 突っ込めぃ!」
黄 射「父上、我々だけでは危険です。
    他の部隊と呼吸を合わせて攻撃しましょう」
黄 祖「何を言っておる黄射!
    見よ、あの敵将。なかなかの上玉ではないか。
    わしが捕らえずしてなんとするー!」
黄 射「だめだこりゃ」

張 芽「飛んで火にいる夏の虫……。
    さあ来るがよい! キエエエエエッ!!」
黄 祖「おお、行くぞい!」

黄祖の艦が近づいた時、空を覆っている雲の
一部が突然開き、何かが降ってきた。

黄 祖「な、なんじゃ!?」
張 芽「天の怒り! 受けるがよい!」

隕石が、張芽の旗艦へと落ちた。
それによって生まれた衝撃が、すぐそばにいた
黄祖隊の他、甘寧、朱桓、韓当、蒋欽の隊を襲う。

    甘寧甘寧

甘 寧「なっ……自爆攻撃!?」
楚 兵「申し上げます、キャプテン。
    今の一撃で敵の部隊は消滅しました」
甘 寧「そんなのは見りゃわかる!
    味方の被害はどうなってるんだ!?」
楚 兵「えーと……。
    黄祖隊は兵3千近くを失っておるようです。
    他の部隊も軒並み1千〜2千の被害を受け、
    合計するとその数は8千ほどかと」
甘 寧「くそっ、最後っ屁をかまされたか……。
    勝ちはしたが、今回は大分やられちまったな」

12月上旬、戦いは終わった。
当初9万で出撃した彼らの兵数は、この戦いの後、
6万ほどにまで減ってしまっていた。

負傷兵、捕虜にした兵を加えれば戦前の数にまでは
戻りそうではある。しかし、数的優位を作りながら
ここまで減らされてしまったのだ。
甘寧の表情がこう渋くなるのも、仕方がない。

甘 寧「今後もシメてかからないとならないようだな。
    ……そうだ、黄祖はどうなったんだ?
    あの様子では無事では済まなそうだが」
楚 兵「黄祖さまですか? それなら……」

   黄祖黄祖   凌統凌統

黄 祖「いやあ、死ぬかと思ったぞ」
凌 統「な、何でそんなにピンピンしてんだ!?」
黄 祖「わしは神に守られておるからな。
    ま、一緒におった黄射はかなりの大怪我で
    今、手当てを受けておるがのう」
凌 統「な、なんつー悪運だ……。神じゃなくて
    何か違うものが憑いてるんじゃないのか」

甘 寧「……ありゃもう殺しても死ななそうだな」

さて一方、隕石が旗艦に落ちた張芽と倭巫女は。

    倭巫女倭巫女  張芽張芽

倭巫女「こ、殺す気ですか!?」
張 芽「生きているからいいではありませんか。
    とっさに身を守る呪を使って衝撃を防ぐあたり、
    流石は次期女王と言ったところでしょうか」
倭巫女「やめてください、そんな呼び方」
張 芽「さて、後はどうやって帰るかですが……」
倭巫女「……どうしましょうね、これから」

壊れた船板を寄せ集めた簡易的な小型イカダに、
二人は寄り添うように乗っていた。

彼女たちが倭に帰るまでの長い旅は、なかなか
壮絶なものになるのだが、それはまた別のお話。

    ☆☆☆

さて、ここで視点を金旋がいる寿春に戻そう。
時間はまた、10月頃に戻る。

金旋は徐州攻撃のため、金閣寺に兵4万を与え、
副将に軍師金玉昼の他、庖統・髭髯豹・髭髯蛟
の4人をつけて出撃させた。

 徐州侵攻

   金旋金旋   下町娘下町娘

金 旋「あんまり無理すんなよ。
    不利だと思ったら引き揚げて来ていいからな」
下町娘「怪我しないようにね〜」

   金玉昼金玉昼  金閣寺2金閣寺

金玉昼「ふふーん。吉報を待っているがいいにゃ!」
金閣寺「では行って参ります」

彼らを見送った金旋はその後、寿春で
君主としての仕事に追われる日々であった。

    金旋金旋

金 旋「なになに、内政予算配分の確認……承認。
    同僚の葬儀出席のため忌引……承認。
    賃上げ要求……却下。美少年派遣……却下。
    欠員補充のため人事異動の稟議……承認。
    ふぁいなるふゅーじょん……承認」

上司はハンコを押すのが仕事である。
いつの時代もこれは変わらない……はずである。

さて、そんなある日の夜更け。
仕事を終えた金旋は、そろそろ寝ようとして、
明かりを消した。

その暗闇の中……。

???「閣下」
金 旋「……誰だ?」

差し込む月明かりでようやく見えたその人影は。

   金旋金旋   司馬懿司馬懿

司馬懿「私です、閣下」
金 旋「司馬懿? 一体どうした、何故ここにいる。
    洛陽方面の統括はどうした」
司馬懿「……重大な話を致したく、こちらへ参りました。
    話を終えましたら、また舞い戻ります」
金 旋「そういえば、お前には名馬を与えていたな。
    ……それで、話というのは何なんだ。
    こんな夜更けにしなくちゃならない話か?」
司馬懿「はい、他の者には聞かれたくない話です」

司馬懿の口調に、只ならぬものを感じた金旋。
姿勢を正し、司馬懿に向き直った。

金 旋「……聞こうか」
司馬懿「はい。ではまず、いくつか質問をさせて
    いただいてよろしいでしょうか」
金 旋「答えられる範囲なら答えよう」
司馬懿「は。では……。
    閣下はこの乱世を終わらせたいと思いますか?」
金 旋「改めて聞くほどのことか。当たり前だろう。
    終わらせられるものなら終わらせたい」
司馬懿「では、この乱世を終わらせるためならば、
    どんなことでもするつもりですか?」
金 旋「どんなことでも、というのは違うな。
    民を不幸にすることは、あまりしたくはない」
司馬懿「なるほど。では……。民を不幸にせず、
    乱世を終わらせる良い方法があるのならば、
    閣下はそれを選びますか?」
金 旋「その方法が一番の近道なら選ぶ……かな」
司馬懿「分かりました。
    それならば、私からお願いがございます」
金 旋「お願い? なんだ」

司馬懿は一呼吸おいて、金旋に告げる。

 『皇帝におなりください』

金 旋「……今、なんと言った?」
司馬懿「皇帝におなりください、と申しました」
金 旋「言っていい冗談と悪い冗談があるぞ。
    司馬懿、それは本気で言っているのか」
司馬懿「ええ、本気です。貴方様が皇帝になること、
    それが最善の道であると申しているのです」

金 旋「それが民を不幸にせず、乱世を終わらせる
    一番の方法か? 俺にはそうは思えん。
    このまま楚王として全土統一を果たせれば、
    それでいいじゃないか」
司馬懿「残念ながら、それで乱世は収まりません。
    漢という国の治世は、もはや貴方様の力でも
    立て直せないところまで来ているのです。
    もう楚国の治世を打ち立てるしかないのです」
金 旋「待て、統一しても乱世が終わらないとは?
    どういうことだ、それは」
司馬懿「ただ統一したとて、世は治まらぬのです。
    統一後にまた、戦いは起こり、世は乱れます。
    戦いが起こらぬ治世にするには、国の主自らが
    国のあり方を変え、導かねばなりません」
金 旋「それは今の陛下では出来ないと言うのか。
    そして俺なら出来ると? はは、バカな」
司馬懿「まあ、確かに個人としての才を比べれば、
    お世辞にも貴方様はいいとは言えませんね。
    凡人、凡才と言えるでしょう」
金 旋「…………」
司馬懿「ですが、位が上がれば上がっていくほど、
    貴方様は人を惹き付ける不思議なお方です。
    貴方様を頂点に、臣下が各々の力を振るえば、
    乱世を治世に塗り替えることができましょう」

金 旋「……流石は司馬懿、その弁は見事だ。
    だが、皇帝陛下を裏切るような真似はできん。
    俺は、陛下をお助けすると約束したんだ」
司馬懿「その点でしたら大丈夫です。
    陛下も貴方様に位を譲るおつもりですから」
金 旋「な、なんだって!? おい、もしや……」
司馬懿「私ではありませんよ。
    陛下自ら、そのご意思をお持ちになっています。
    陛下も、例え統一が為されたとて、自分では
    治められぬことを悟っておられるのでしょう」
金 旋「陛下も……そのようなことを……?」

しばし沈黙が流れた。
思案していた金旋は、じっと司馬懿の顔を見る。

金 旋「司馬懿」
司馬懿「はい」
金 旋「……お前は、何を望んでいる?」
司馬懿「何を、とは?」
金 旋「お前は俺に対し、完全な忠誠を誓っている
    わけじゃない。お前はお前の目的があって、
    そのために俺に仕えている。違うか?」
司馬懿「……ええ。その通りです」
金 旋「なら、俺を皇帝にすることでお前は何を得る。
    ただ平和を望んでいるわけじゃあるまい?」
司馬懿「それは……」

司馬懿は、そこで押し黙った。
その司馬懿が答えるまでは、金旋も自分から
言葉を発するつもりはないようだった。

……司馬懿は再び口を開く。

司馬懿「私は歴史に名を残したいのです」
金 旋「名を残す?」
司馬懿「もちろん、貴方様が統一を果たすだけでも
    私の名は歴史書の一頁に載るでしょう。
    しかし、それでは足りないのです」
金 旋「……俺が皇帝になったら?」
司馬懿「私は国を打ち立てた皇帝の第一の臣として、
    比べ物にならぬほど大きな扱いとなりましょう。
    ……そうですね。私は、韓信になりたいのです」

韓信。
前漢初代皇帝劉邦の元で何度も勝利をもたらし
劉邦の覇権を決定付けた名将である。
張良、蕭何と共に三傑に数えられる人物だ。

金 旋「……韓信は最後、刑死したぞ」
司馬懿「ですが、韓信の名声は四百年経った今も、
    消えることなく残っているではありませんか。
    最後はどんな最後であってもよいのです。
    私は、彼のように後々まで名を残したい」

韓信は反乱を企てた罪で死罪となった。
「韓信になりたい」という言は、ともすれば
「反乱を起こす」とも取れる危険な発言である。

それでも司馬懿は、臆さずそう言ったのだ。

金 旋「……わかった。お前を韓信にしてやろう」
司馬懿「ありがとうございます」

司馬懿のその「韓信になりたい」という弁に、
嘘はない、と金旋は思った。
だから、司馬懿の言うことを全て信じる。

金旋は、自ら皇帝となる道を選んだ。

金旋が実際に献帝より禅譲を受けるのは、
これからしばらく後のことである……。



 続・金旋伝 〜真・中華英雄伝説〜 

      −完−     

モッコス モッコス もう戻れない KOS-MOSに戻れない〜♪

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