○ 第九十六章 「冥府より来たりし者たち」 ○ 
221年08月

8月下旬、揚州は曲阿。
甘寧率いる楚水軍は、懲りずにまたやってきた
倭女王の艦隊と戦っていた。

 倭、またまた曲阿侵攻

   甘寧甘寧   倭女王倭女王

甘 寧「懲りねえな〜。いい加減に諦めたらどうだ」
倭女王「何を言うか! 何度も何度も敗れた屈辱、
    今回こそ、何倍にもして返してやろうぞ!」

倭軍の兵力は倭女王隊2万、倭巫女隊1万、
倭武将B隊1万の計4万である。
対する楚軍は甘寧2万、韓当・蒋欽・凌統・黄祖が
それぞれ1万5千を率いており、計8万。
数の上では2倍、圧倒的に楚軍の方が勝っている。

さらに倭軍は倭からの長征なのに対し、楚軍は
曲阿から近い地の利を得ており、兵の士気も高い。

いくら倭が強力な陣形・船を持っているとはいえ、
これで楚軍に敗れるのは自明の理というものだろう。

それでも倭の将兵は健気に戦い続ける。

   倭武将B倭武将B  黄祖黄祖

倭将B「攻撃を集中させよ、一点突破するぞ!」
黄 祖「ぬうっ、包囲の一部が切り崩されてしまうぞ」

倭武将Bの強攻で楚軍の包囲網に若干の隙間が開く。
そこへ、女王は倭巫女隊を突っ込ませた。

倭女王「巫女! 開いた所から曲阿へ向かうのじゃ!
    楚軍め、曲阿には兵をさほど置いてはおらぬ。
    港に肉薄し、物資を略奪しつくしてしまえ!」
甘 寧「ちっ、無駄なあがきを……韓当、凌統!」

   韓当韓当   凌統凌統

韓 当「おうっ」
凌 統「何だ」

甘 寧「倭巫女隊を速攻で打ち破れ!
    帰る港をボロボロにされてはかなわんからな」
韓 当「承知した!」
凌 統「了解っ! 逃がすものか!」

倭巫女隊を追いかける韓当・凌統の艦隊。

 曲阿ぴんち?

    倭巫女倭巫女

倭巫女「追いつかれる前に、カタをつけます!
    港に向けてありったけの矢を撃ち込みなさい!」
倭 兵「イーッ! やれ撃てそれ撃て」

曲阿港に降り注ぐ矢の雨。

曲阿港を守っているのは朱桓と3千の兵。
戦いが始まる時、彼は所用で港を離れていたため、
今回彼は部隊を率いずに港を守る役目を負っていた。

    朱桓朱桓

朱 桓「ちっ、港に敵部隊を近付かせてしまうとは。
    甘寧どのも存外、抜けているな」
楚 兵「ど、どうしましょう!?」
朱 桓「どうしましょうも何も、やることはひとつ。
    敵艦の侵入だけは必ず防ぐんだ!」
楚 兵「ははっ!」

倭巫女隊に攻撃されて多少肝を冷やしたものの、
大きな損害を受けるまでには至らなかった。
そうしているうちに韓当・凌統の隊が倭巫女隊に
追いつき、背後からこれを叩く。

倭巫女「う、後ろからなんて……ああっ」
韓 当「なんか気分が盛り上がってきたな!」
凌 統「おいおい爺さん、自重しろ」

倭巫女隊は攻撃に耐え切れず、壊滅。
一方、倭女王隊、倭武将B隊も甘寧ら3部隊に
撃ち減らされ、全滅の危機に瀕していた。

倭女王「う、うぬぬ……。またか!
    また負けてしまうのか!? なぜじゃ!」
黄 祖「ふふふ……。それは!
    わしがダンディだからじゃ
甘 寧「それは無い。確実に無い。
    まあ、単純に数の差だろ。それじゃあな」
倭女王「おーのーれー!」

倭軍はまた負けた。
倭女王と将たちは、ボロボロになった一艘の船で
倭へと帰っていく。

   倭武将A倭武将A  倭武将C倭武将C

倭将A「やらーれちゃったー悔しいなー♪」
倭将C「今ー度こーそー勝ちましょうー♪ 」
倭女王「お主ら、全く悔しそうに見えぬぞ……」
倭将A「何を言われます!
    活躍の場もなく負けて悔しい限りだというのに」
倭将C「全くその通り、わしなどはこれまで一度も
    カッコいい所が出ていないのですぞ」
倭女王「もとよりカッコ悪いのだから仕方あるまい」
倭将C「そんなご無体な!」
倭女王「はあ……。馬鹿の相手は疲れるのう。
    のう巫女。なぜ、わらわは負けたのかのう」
倭巫女「兵力の差ですわね」
倭女王「やはり、そういうことになってしまうか。
    敵将甘寧も、数の差だと言っておったな」
倭将B「女王、本国の兵は十分過ぎるほどおります。
    次回はもっと多くの兵を投入すべきでしょう」
倭女王「わらわもそう思わんでもないがのう。
    しかし如何せん、兵を率いる将が足りぬ。
    わらわとお主ら全員を大将にしても、5部隊。
    兵数にして6万じゃ。これでは奴らには勝てぬ」
倭巫女「そうですね……もっと将がいれば……。
    しかし、将に相応しい人物はおりませんし」
倭女王「どこかから連れて来るしかないかのう。
    ……ん? どこかから連れてくる……か」
倭巫女「どうかなさいましたか?」
倭女王「ふむ。いないのなら連れてくればよい。
    ただそれだけのことじゃったな」
倭巫女「……?」
倭女王「よし、反省はこれくらいにして、早く帰るぞ。
    温かいご飯が早く食べたいからのう」
倭将A「早く帰る……とは申されましても。
    そう簡単に船の速度は上がりませんが」
倭将C「風も弱いですからなぁ」
倭女王「ふむ。ならば漕げ!」
倭将A「こ、漕ぐのですかぁ〜!?」
倭女王「文句を言うでないわ、この腑抜けども!
    漕がぬのなら海に叩き落とすぞえ!」
倭将C「ひい、漕ぎます漕ぎます! えっさ、えっさ」
倭将A「よいしょ、こらしょ、どっこいしょ」

そんなこんなで倭へ帰った倭女王。
途中、倭武将Cが海に落ち、鮫に尻をカジられるという
面白出来事があったが、無事に戻ることができた。

    ☆☆☆

 倭

戻ってから何やら準備をしていた倭女王だったが、
その後、倭巫女や倭武将Aを呼び出した。

   倭女王倭女王  倭武将A倭武将A

倭女王「というわけで、新たな武将を連れてこようぞ」
倭将A「……兵を率いる将が足りぬという話ですか?
    しかし、連れてくると言っても、一体どこから?」

    倭巫女倭巫女

倭巫女「何やら、儀式の準備をしていたようですが。
    もしや、連れてくるというのは……」
倭女王「巫女は察したようじゃの。
    そう……冥府より連れて参るのじゃ」
倭将A「め、冥府!?」
倭女王「死した魂を反魂の術で召喚する。
    そしてその魂を、用意した人形に封じるのじゃ」
倭巫女「魂を封じた人形は、生きていた時と同じように
    動き回ることができるのです。
    ……無論、簡単な術ではありませんが」
倭将A「女王はそのような術まで使えたのですか。
    それで、冥府より強い武将を連れてくる、と?」
倭女王「左様。今は死しているが、生前は大陸で
    活躍していた強い将を連れて参るのじゃ」
倭将A「しかし、大丈夫ですか?
    大陸で生きていた者が、異国の我々のために
    働いてくれましょうか?」
倭女王「その点は心配はいらぬ。
    生き返らせた者がこの世に在り続けるためには、
    わらわの力が必要じゃ。逆らうことはできぬ」
倭将A「なるほど、ならば安心。
    して、誰を連れて参るのでしょうか」
倭女王「さあ、そこが問題じゃ」
倭将A「問題?」

首を傾げた倭武将に、倭巫女が説明する。

倭巫女「冥府の門を開くのは女王しかできませんが、
    それだけで女王は手一杯なのです」
倭女王「うむ。
    そしてそこから魂をこの世に引っ張り上げるのも、
    これまたかなりの力を要するのじゃよ。
    これは巫女に任せるが、誰を連れてくるのか
    選ぶ者は別に必要になってくるのじゃ」
倭将A「なるほど……。つまり、誰を連れてくるかは、
    女王や巫女以外の者が選ぶことになる、と。
    いや、その者の責任は重大ですな」
倭女王「そうじゃな。頑張れよ」
倭将A「は?」

彼は女王の言葉の意味が分かってなかった。
すると、倭巫女が倭武将の腰に紐を巻きつけ始めた。

倭将A「え? 巫女、何をされておるのかな?」
倭巫女「見て分かりませんか?
    紐を腰に巻きつけているんですよ」
倭将A「いや、それは分かりますが、何のために?」
倭巫女「女王、結わえました」

巫女は倭武将の問いには答えず、そのまま
女王に紐を結わえ終えたことを伝えた。

倭女王「よし。では、こっちに参れ」
倭将A「いいですけど、何をするんですか」
倭女王「お主は、これより冥府に落ちる。
    そこから武将を連れてくるのじゃ」
倭将A「え」
倭女王「ではいくぞ! キエエエエエエッ!!」

女王は倭武将Aの足元に手刀を叩きつけた。
すると、叩きつけた場所にヒビ割れが走り、
倭武将の足場がグラグラとし始めた。

倭将A「う、うわ!? なんですかこれは!」
倭女王「冥府への入り口を作ったのじゃ……。
    わらわはこの穴が閉じないようにしておく。
    お主は、できるだけ多くの使える武将の魂を
    冥府で見つけ、連れてくるのじゃ」
倭将A「連れてくるって……うわあああああっ」

足場が崩れ、倭武将Aは落ちた。
見たこともない空間を、彼は落ちていく。

    ☆☆☆

    倭武将A倭武将A

倭将A「いててて……頭打った」

彼は、暗い洞窟かと思うような所にいた。
ここが冥府の底なのだろうか。

倭将A「ここが冥府か? しかし、将を選ぶ役目、
    なんで私がやらなくちゃいけないのだろう。
    こういう時こそ武将Cの出番だろうに」

だが、倭武将Cは怪我をした尻の治療のため、
動けない状態であったことを思い出した。

???「いでででで……。頭が痛い……」
???「大丈夫ですか、大王。
    上から何かが大王の頭に落ちてきましたが」

すぐそばから声がする。
よく見るとそこには、人影が二つある。

   烏丸大王烏丸大王  烏丸武将烏丸武将

烏丸王「……誰だお前? 見ない顔だな」
烏丸将「髪型も見ない感じですな」
倭将A「え、あ、えーと」
烏丸王「まあいい、ワシから先に名乗るとしよう。
    ワシは烏丸大王。王だったのは生前の話だが」
烏丸将「私はその配下の烏丸武将。
    貴殿は誰かな? 新たに来た新入りか」
倭将A「あ、失礼。私は倭国の将です。
    もしや、あなた方は死してここにいるのか」
烏丸王「何をトチ狂ったことを……。
    死してない者がここに来るわけがあるまい」

図らずも強そうな将を二人も見つけた。
異民族を率い、中華と戦った王とその武将だ。
女王のめがねにも必ず適うに違いない。

倭将A「実は私は、まだ生きているのです。
    貴方がたのような強い者を生き返らせるため、
    倭女王の命を受けてこの冥府へ参ったのです」
烏丸王「生き返らせる……だと?」
倭将A「倭の武将として、中華との戦いに加わって
    いただきたいのです。どうでしょうか」
烏丸王「中華との戦いだと?」
烏丸将「おお、ということは曹操とも戦うのですな!」
倭将A「え? あ、えーと。
    まあ、その、それもいずれはあるかも……。
    ですが生き返らせる以上、倭女王の下僕として
    その命には従っていただくようになりますぞ」
烏丸王「ふむ。よかろう。元は烏丸の大王であったが、
    また奴らと戦えるなら身分にはこだわるまい。
    倭女王の忠実なる将となることを誓おう」
烏丸将「私も、大王と共に戦いましょう!
    必ずや中華の奴らをギャフンと言わせますぞ」
倭将A「では交渉成立ということで。
    ……でもどうやって連れていくんだろう」

 『武将は見つかりましたか』

倭武将の頭に声が届いた。

倭将A「これは……巫女か?」
倭巫女「『はい。思念を飛ばしております』」
倭将A「強そうな方を二人見つけた……はいいが、
    ここからどうすればいいのであろう?」
倭巫女「『その方々を、貴方を結んでいる紐のそばに
    立たせてください。私が呪術で引き上げます』」
倭将A「承知した」

烏丸大王と烏丸武将を、紐のそばに立たせる。
すると、彼らの姿が上へ向かって昇っていく。

彼らの姿が見えなくなってからしばらくして、
巫女の声がまた聞こえてきた。

倭巫女「『引き上げ終わりました。
    貴方は引き続き、強き将を探してください』」
倭将A「やはり二人では足りぬか。了解した」

冥府の底を歩く倭武将。
……周囲を眺めてみると、冥府という所は
思っていたよりも怖い場所ではないようだ。

鬼 A「安いよ安いよ! 今ならサービス価格だ!
    大特価! ビール1本3000ペリカ!」
鬼 B「おう兄ちゃん、いい子いるよいい子。
    ちょっと寄っていかねえか?」
鬼 C「大解放だよ! 今日の設定は甘めだぜー。
    ジャンジャンバリバリ出るぞー」

別な意味で怖いが。

???「うう、ビール飲みたいぞ」
???「兄者、ここは我慢だ、我慢」
???「そうだ、節制しなければ破産じゃぞ。
    この1ヶ月前に買った柿ピーでも食うのじゃ」
???「父上、これカビ生えてますけど」

ビール売りのそばに佇む4つの影。
男3人、女1人のその集団に倭武将は近付いた。

倭将A「もし、貴方がた。
    生前は名のある武将ではありませんでしたか」

   張梁張梁   張宝張宝

張 梁「誰だお前」
張 宝「名のある武将かだと?
    貴様! 我らのことを知らぬのか」

   張芽張芽   張角張角

張 芽「叔父上、何もそう喧嘩腰にならずとも」
張 角「そうじゃ。冥府に落ちた者に、名の有る無し、
    身分の貴賎などは全く関係ないことじゃ」
張 宝「しかし、この黄巾を知らぬとは……」

黄巾と聞いて、倭武将は何か思い出した。

倭将A「黄巾……黄巾党。聞いたことはありますな。
    確か、中華のアブナイ宗教団体だと……」
張 宝「貴様! 殺す! 死んでいても殺す!」
張 角「待て待て張宝。……この者、生きておる」
張 宝「え?」

張 角「生ある者が冥府に何用じゃ」
倭将A「私が生きていることがわかるのですか?」
張 角「この大賢良師、張角。
    死してもそれくらいのことは分かる」
張 宝「ふっ、兄者は妖術・幻術に通じておるからな。
    わしも多少かじっておるが、兄者には敵わん」

倭将A「なるほど。実は私、倭という国の武将でして。
    かくかくしかじかというわけです」
張 角「ふむう、強き将を探して冥府へ来たか」
張 梁「すごいな兄者、かくかくしかじかだけで
    全て分かってしまうとは!」
張 角「この張角、死しても力は衰えてはおらぬ。
    ……どうであろう、我ら4人を使ってみぬか。
    中華に黄巾の国を作るという夢、わしは
    死してもまだ捨てきれておらぬのじゃ」
張 芽「兵を統率する力は、皆高いものがありますわ」

張角・張梁・張宝・張芽がなかまになった!
彼らの魂は、同じように巫女により引き上げられた。

倭巫女「『引き上げ終わりました。それにしても、
    一度に4人も見つけるなんて、すごいですね』」
倭将A「そ、そう? そんなにすごい?
    それじゃ巫女、今度一緒に食事でも……」
倭巫女「『社交辞令にいちいち反応しないで下さい』」
倭将A「社交辞令……」
倭巫女「『さて、そろそろ女王も疲れてきたらしいので、
    早くこちらに戻ってきてください』」
倭将A「疲れてきた?」
倭巫女「『ええ。早く戻らないと、穴が閉じて永遠に
    戻れなくなりますよ。そうなりたくなければ、
    早く紐を伝って上ってきてください』」
倭将A「わわ、戻ります戻ります!」

えっちらおっちらと、上から垂れ下がっている紐を
伝って上っていった。

倭将A「……うう、なんか背中が重いな」

疲れを覚えながらも、倭武将は急いで上っていく。

    ☆☆☆

   倭女王倭女王  倭巫女倭巫女

倭女王「も、もう限界じゃ……」
倭巫女「女王、辛抱を! あと少しです!」

冥府への穴を両手でこじ開け続けている
女王が音を上げる。

その穴から、倭武将が姿を現した。

    倭武将A倭武将A

倭将A「つ、着いたっ!」
倭巫女「お帰りなさい。もう少し遅れていたら、
    冥府の住人が一人増えるところだったわ」
倭将A「そ、それは勘弁してほしいな」
倭巫女「何にせよ、無事に戻ってくれてよかった。
    貴方が戻ってこなかったらと思うと、私……」
倭将A「えっ?
    そ、そんなに気にかけてくれていたのか。
    もしかして巫女、君は私のことを……」
倭巫女「もし戻ってこなかったりしたら、
    労災の手続きとかが全く面倒ですからね。
    本当によかったわ」
倭将A「労災……」

どうやら彼女は、事務的に困るので死んでほしく
ないだけらしい。

倭女王「で、お主。最後に誰を連れてきたのじゃ」
倭将A「え? 最後?」
倭女王「その背中に張り付いておる者じゃ」
倭将A「背中?」
???「ふう。ようやく戻ってこれたか。
    あの孫家の小僧を呪い殺して以来じゃな」

    于吉于吉

倭将A「あ、あんた誰だ!?」
于 吉「わしは于吉じゃ。
    話は張角らに話しておったのを聞いていたぞ。
    つまりわしの力を欲しておるということじゃな」
倭女王「于吉……。江東の呪術師じゃったな」
于 吉「仙人と呼べい」
倭女王「仙人? 笑わせるでないわ。
    地下組織を扇動しておった癖に、何が仙人じゃ。
    してお主……わらわに従うつもりがあると?」
于 吉「正直、倭のことなどどうでもよいがの。
    再びまたこの世で活動ができるのであれば、
    倭の者として戦ってやってもよいぞ」
倭女王「ふむ」
倭将A「……一体誰なんですか、このジジイ」
倭女王「張角などよりもしたたかな宗教家……
    いや、扇動家と呼ぶべきかのう。
    孫策にその目論見を潰されたようじゃが」
于 吉「信仰心によって国を安寧に導こうとしたのじゃ。
    張角よりもっと合理的な形で、世界の変革を
    目指しただけのこと」
倭女王「世界の変革のう。モノは言い様じゃな」
于 吉「やってることはお主も大して変わるまい。
    それを、悪し様に言われるとはのう」
倭女王「……まあ、お主の事情などはどうでもよい。
    お主のような者もおれば役立つ」
于 吉「おお。では、生き返らせてもらえるのじゃな」
倭女王「どうせ、かりそめの人形の体じゃ……。
    所詮、わらわがおらねば、この世に有り続ける
    ことはできぬのだしな」

かくして、于吉も生き返り、倭の将となった。

倭巫女「これで、烏丸大王、烏丸武将、張角、張梁、
    張宝、張芽、于吉……7人増えましたね」
倭女王「これでようやく、にっくき楚の連中に
    逆襲することができるというものじゃ。
    次こそは、勝つぞよ!」

大幅に強化された倭軍。
今までのように、楚軍は勝てるのだろうか。

    ☆☆☆

9月。
許昌より軍を発し、汝南を攻めていた燈艾。

 汝南攻め

汝南城の攻略戦を進めていると、東より数万の軍が
やってくるのが見えた。

   文欽文欽   費偉費偉

文 欽「どこの軍だ、魏軍の増援か!?」
費 偉「落ち着きなさい、文欽どの。
    東よりやって来るということは、味方です」

費偉の言った通り、それは寿春よりやってきた
李厳の部隊3万であった。

   李厳李厳   トウ艾燈艾

李 厳「李厳参上! 燈艾将軍の加勢に参ったぞ」
燈 艾「ありがとうございます。
    ……こちらに来られたのは、軍師のご命令で?」
李 厳「うむ。共同して汝南城を落とすように言われた」

文 欽「なあなあ。軍師、怒ってなかったか」
李 厳「怒る? いや、そんなそぶりはなかったが」
文 欽「そうか、良かったなー大将。
    軍師も、大将が独断で決めたこの汝南攻めを
    認めてくれてるってことだな」
李 厳「ああ、怒ってはいなかったが。
    次からは何かしら連絡をくれと言っていたぞ」
燈 艾「……はは、気を付けます」

燈艾の独断で始められた汝南攻めだったが、
この李厳隊の合流で金玉昼の思い描く戦略へ
組まれ直されたことになる。

そして、両隊による城攻めが再開された。
李厳隊の楊齢・李豊も城の攻略へとかかる。

 汝南攻め2

   楊齢楊齢   李豊李豊

楊 齢「魏軍が、敵か……」
李 豊「どうしました、楊齢どの。
    魏軍へ攻撃すること、躊躇ってしまいますか。
    魏軍にいた期間は長かったのでしょう?」
楊 齢「いやいや。
    魏軍と戦うこと自体は、それほど抵抗はない」
李 豊「では、その何やら苦い顔は、何故です」
楊 齢「……旧主が魏軍にいるからな。
    この汝南にはおらぬようだが、このままずっと
    魏軍と戦い続けるなら、いずれ戦場で敵同士
    として会うことになってしまうだろう……」

楊齢が以前仕えていた君主。
韓玄は、今も魏軍にいる。

李 豊「……良い主君だったのですか?」
楊 齢いーや、それは絶対ない
李 豊「絶対ない、ですか。それはまた辛辣ですね」
楊 齢「何しろ、人使いは荒いしバカだし足は臭いし
    傲慢だし人の恩はすぐ忘れるしバカだし」
李 豊「今、バカって2回言いましたよ」
楊 齢「要するに最低の君主ということさ。
    だが、それでも……忠誠を誓っていたんだ」
李 豊「……複雑ですね、人の心というものは」
楊 齢「そうだな。
    あの頃に戻りたいとも思わないんだが……。
    だが、敵として出会いたくはないんだ」
李 豊「……」

李豊は黙った。
『どうせ貴方は微妙な能力ですから、そのうちに
 戦闘部隊からは外されるようになりますよ』
という言葉も思い浮かんだが、それを言うのはやめた。

楊 齢「おっと、いかんな。どちらにしろ先のことだ。
    今はこの戦いに集中するとしよう」
李 豊「そう、ですね」

だが、再会は意外な形でやってくる。
『それ』を見つけたのは、李厳隊の馮習だった。

馮 習「李厳どの、北より何か部隊がきたー!」
李 厳「北からキター、か。分かりにくいネタだな。
    それはおいといて、部隊の旗印は見えんか?」
馮 習「少し遠いな……だいぶ小規模の部隊だな。
    あの字は……うーん? 韓?」
李 厳「韓? というと……誰だ?」

    韓玄韓玄

韓 玄「どっけどけー! 韓玄さまのお通りじゃー!」
李 厳「ああ、なんだ。韓玄か」

現れたのは、僅か1千の魏兵を率いた、韓玄。
汝南へ、小沛からの救援の兵を連れてきたようだ。

 汝南攻め3

韓 玄「ええい、そこをどけ楚軍! 怪我するぞ!」
李 厳「はっ、馬鹿か。一体誰が怪我するというんだ」
韓 玄「ワシが」
李 厳「……えーと、何しに来たんだ、お前は」
韓 玄「救援の兵1千ぽっちを送り届けるだけじゃ!
    いいじゃろう、それくらい! そこをどけー!」
李 厳「どけと言われてどくようなら戦争など起こらぬ。
    例え少数でも、城に救援を入れさせはしない」
韓 玄「ええい、このケチ野郎の狭量野郎め」
李 厳「だ、誰がケチで狭量だ!」

流石に韓玄には言われたくあるまい。

李厳が思わず怒りの声を上げたその時、
韓玄の前に、李厳隊から進み出てきた人物が。

楊 齢「韓玄どの!」
韓 玄「おお……!? 楊齢ではないか!
    良かった良かった、楚軍に捕らえられたと
    聞いていたが、無事で何よりじゃて!」
楊 齢「韓玄どの……ここはお退きくだされ」
韓 玄「楊齢? どうした、怖い顔をして」
楊 齢「今の私は楚軍の将。貴方の敵です。
    貴方がどうしても汝南城へ行こうとするなら、
    私は貴方と戦わなくてはならなくなります」
韓 玄「な、なに!? 楊齢……。
    お、お主……裏切ったのか、このワシを!」
楊 齢「何でそうなるんです……。
    私が裏切ったのは、あくまで魏なのですが。
    それはともかく、ここは退いてください」
韓 玄「いやじゃ」

楊齢の言葉にも、韓玄は退こうとはしなかった。

李 厳「楊齢、まだるっこしいことはいい。
    韓玄隊など、一気に打ち倒してしまうんだ!」
楊 齢「くっ……」
韓 玄「楊齢、ワシと戦う気か?
    お主はそこまで恩知らずではあるまい」
楊 齢「うう……。
    恩以上に迷惑をこうむっているんだがなぁ」

韓玄隊への攻撃を躊躇う楊齢。
だが、李厳隊が攻撃するより先に、韓玄隊の背後より
別な部隊が攻撃をし始めていた。

  金胡麻金胡麻  魏光魏光

金胡麻「金胡麻隊、到着!
    手初めに韓玄隊を血祭りに上げるぜーっ!」
魏 光「覚悟しろ、韓玄!」

以前に寿春から出て小沛に向かった金胡麻の部隊が、
進行方向を変えてこの汝南へやってきていたのだ。

 金胡麻参上

韓 玄「むっ……貴様、魏延の子の魏光!
    お前もワシの配下じゃろう! 裏切る気か!」
魏 光「いつの話をしてるんだ、このバカ!
    私の今の主君は、楚王金旋さまだっ!」

   張苞張苞   関興関興

張 苞「とりあえず、一気に片付けるぜ!」
関 興「というわけで、運がなかったな。じいさん」

金胡麻隊による背後からの攻撃で、韓玄隊は
その兵をあらかた失ってしまった。

韓 玄「ひけ、ひくんじゃ! 命あっての物真似じゃ」
楊 齢「それを言うなら『ものだね』です……」
韓 玄「うむ、そうとも言うな……。
    げえっ、楊齢! いつの間にこんなそばへ!?」
楊 齢「……それはまあ、気付かないうちにそっと。
    それより韓玄どの」
韓 玄「な、なんじゃ」

楊齢は、真剣な眼差しを韓玄に向けた。

楊 齢「韓玄どの、楚に降りませんか」
韓 玄「はあ? 何でこのワシが、金旋なんぞの下に
    付かなければならんのじゃ」
楊 齢「曹操の下は良いのですか」
韓 玄「曹操どのは元々はワシの上司じゃからの。
    だが、金旋はワシと同格じゃ」
楊 齢「……残念ですね。
    さあ、退くなら早くしたほうがいいですよ」
韓 玄「言われんでも退くわい!
    楊齢、次に会った時は覚悟しておくんじゃぞ!」

韓玄は部隊を失い、小沛へと逃げた。

楊 齢「……ふう」
李 豊「逃がしてしまいましたね」
楊 齢「うわ、李豊どの!? こ、これはその。
     なんというか、魔が差したというか」
李 豊「心配いりません、誰にも言いませんよ。
     それより、今は城攻めに集中いたしましょう」
楊 齢「そ、そうだな……」
李 豊「いずれ、味方になってくれるといいですね」
楊 齢「ははは……。
    あまり味方にしたくない人ではありますけどね」

汝南城攻めを再開する李厳隊。
城の攻略作戦は、順調に進んでいた……。

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