○ 第九十四章 「海老で鯛を釣る」 ○ 
221年08月

汝南からやってきた夏侯惇隊3万。
金旋の部隊は、李厳隊と共にそれを迎え撃つ。

 夏侯惇隊迎撃

楚 兵「夏侯惇隊、来ます!」

   金旋金旋   馬良馬良

金 旋「あわあわわあわてるななな、おちつけけけ。
    まままだ、たた戦いは、はは始まったばかりだ」
馬 良「まず貴方から落ち着いてください」

   下町娘下町娘

下町娘「しっかりしてください!
    始まりからそんな前後不覚でどうするんです!」
金 旋「そんなこと言ったって、相手は夏侯惇だぞ!
    そこらの二流武将とは桁が違うだろ!」
馬 良「ご心配には及びません。
    そのためにこの陣形、兵法を採用したのです」

 方円&治療×3

金 旋「兵法治療を3人が用意して、完全防御陣形で
    堅く守り続ける……というコンセプトな。
    しかし、それで本当に大丈夫か?」

    諸葛瑾諸葛瑾

諸葛瑾「この部隊だけではジリ貧になるでしょうが、
    攻撃のための李厳隊がついておりますから。
    まあ、大丈夫と思いますが……」
金 旋「『が……』ってのはなんだ、諸葛瑾」
諸葛瑾「何分、私は楚王の指揮ぶりを知りません故」
金 旋「……やはりそこに来るか」
馬 良「大丈夫です、諸葛瑾どの。
    いくら戦下手と言われても、楚王は中途半端に
    下手なだけです。他の酷い連中とは違います」
諸葛瑾「ふむ。ならばこちらが堅く守っている間に、
    李厳隊に攻撃を頑張ってもらいましょう。
    途中で計算違いの出来事が起きなければ、
    それでなんとかなりましょうか……」

だが、えてしてこういう時こそ計算違いのことが
起きるものである。

   夏侯惇夏侯惇  李通李通

夏侯惇「我らの本命はあくまで金旋隊だ!
    だが、その前に邪魔な李厳隊を牽制するぞ!
    弩隊、李厳隊に連射をかましてやれ!」
李通娘「弩隊、撃て!」

ひゅんひゅん ぐさぐさ

   李厳李厳   諸葛恪諸葛恪

李 厳「ぐっ……! やられた!」
諸葛恪「李厳どの!?
    なんてことだ、李厳どのが討たれるとは!
    こうなったらこの部隊の指揮はこの私が!」
李 厳「い、いや、まだ死んではいない……!」

李厳が狙撃を受けて重傷を負ってしまった。
その報を聞いて慌てる金旋。

金 旋「李厳が重傷だと!?」
楚 兵「ははっ! その後、夏侯惇隊はこちらの隊に
    その攻撃を集中させている模様!」
金 旋「ど、どうする、どうすればいい!?
    そ、そうだ、今こそ治療を使うんだ!」

 キラキラーン

金旋は治療を発動。
金旋隊の負傷兵が百ちょっと、李厳隊の負傷兵が
千ほど回復した。

下町娘「開戦まもなく、負傷兵もほとんどいない
    この時点で発動させてどうするんです!
    もったいなさすぎですよー!」
金 旋「う、うるさーい!
    発動すらできない人に言われたかないぞ!」
下町娘「むかーっ! 人が気にしてることを!
    そこまで言うなら今発動させてみせます!」
金 旋「ほほう、やれるもんならやってみな!」
馬 良「やめてください! 今、治療を行っても
    全く意味がありません!」

夏侯惇「なんだ、金旋の部隊はバタバタしてるな」
李通娘「今こそ好機です、弩を撃ち込みます!」
夏侯惇「よーし李通、やってしまえ!」

李通の斉射が金旋隊に降り注いだ。
金旋隊の兵士たちは、次々に倒れていく。

諸葛瑾「くっ……これほどとは!」
馬 良「諸葛瑾どの、何を驚かれているのです。
    敵のこの攻撃は、さほどではありますまい」
諸葛瑾「いえ、楚王の戦下手がこれほどとは」
馬 良「ああ……。今回は確かに酷いですね」
諸葛瑾「これほど下手な人は、前線には出さぬように
    したほうがいいのではないでしょうか」
馬 良「確かに……。
    今回のようなことが毎回起きるのは困りますね」

金 旋「聞こえてんぞ、お前らー!」
夏侯惇「むっ、見つけたぞ楚王金旋!
    その首、この夏侯惇がいただいていくぞ!」

夏侯惇隊、そのまま金旋隊に襲い掛かる。

金 旋き、キター!!
諸葛瑾「楚王、防御をしっかり固めてください!
    兵たちのそれぞれの間隔を狭めて密集させて、
    敵の前進を食い止めるべきです!」
金 旋「そ、そういうのはもっと早く言えー!」
諸葛瑾密集させて防御です!
金 旋「あ、アホかー!
    早くっつーのは早口って意味じゃないわ!
    早めに言っておけと言ってるんだ!」
下町娘「き、来ますよ!」

夏侯惇「ははは、何をやっている!
    さあ、今こそ金旋を討つ好機ぞ!」
金 旋ひ、ひいいい!!

金旋隊、崩壊の危機か。……その時。

 「どりゃああああ!!」

   髭髯龍髭髯龍  髭髯虎髭髯虎

髭髯龍「そこまでだ夏侯惇!
    これ以上はこの髭髯龍がやらせんぞ!」
髭髯虎「このわしもいるぞ!
    髭髯軍団の突撃を受けてみろーっ!」

夏侯惇「な、なんだこのむさ苦しい部隊は!?」

北から戻ってきた髭髯龍隊。
それが、夏侯惇隊の横腹を急襲した。

   張昭張昭  髭髯蛟髭髯蛟

張 昭「ご無事ですかな、楚王」
髭髯蛟「後は我らに任せてくれい!」

金 旋「髭髯龍隊が戻ってきたのか!」
下町娘「はあ、助かりましたね……」

   金閣寺2金閣寺  髭髯豹髭髯豹

金閣寺「夏侯惇隊を殲滅する! いくぞ!」
髭髯豹「おお! 髭髯軍団の強さを見せてやるぜ!」

髭髯龍隊の後から、すぐに金閣寺隊も到着。
この二隊は北での戦闘を他より早めに切り上げ、
汝南の軍を迎え撃つため戻ってきたようだ。

 味方到着

そしてさらに、怪我を負っていた李厳も復活。
李厳隊が夏侯惇隊の右側面を叩く。

   李厳李厳   李豊李豊

李 厳「怪我の借りを返してやる! やれっ!」
李 豊「しかし、ちょうど華佗が通りかかってくれて
    助かりましたね、父上」
李 厳「うむ、それにしても流石は天下の名医。
    楚軍に欠かせないこの私が怪我を負うことを
    察して、怪我の直後に現れるとはな」
李 豊「いや、流石にそこまでは……」

    華佗華佗

華 佗「(ピキーン)むっ……北にまだ怪我人が!?
     この感覚は鞏恋……はよう行かねば!」

名医華佗は北へ赴き、鞏恋の怪我を治した後、
またどこかに行ってしまった。

さて、戦況のほうはというと、金閣寺・髭髯龍隊の
参戦もあって大勢はほぼ決したような感じだった。

金 旋「……俺が出る必要なかったんでは?」
馬 良「そ、そんなことはありません……多分」
下町娘「とりあえず寿春に戻りましょ。
    私たちがここにいても意味ないようですし」
金 旋「そうだな、そうしよう……。
    そう言えばなんだなぁ、出す出す言ってたのに
    今回も町娘ちゃんの治療は見れなかったな」
下町娘「ぐっ……つ、次こそは!」
金 旋「まあその時は頑張って出してくれなー」
下町娘「くっ、自分は出したからって……」

後を他に任せ、寿春に引き上げていく金旋隊。
夏侯惇はそれを見て、歯噛みして悔しがる。

夏侯惇「お、おのれーっ!
    あと少しで金旋が討てたというのに!」
張 昭「フォフォフォ、愚かなり夏侯惇。
    お主は、楚王という餌に吊り上げられた魚よ」
夏侯惇「なに……言ってくれたな!?
    この老人め、ならばせめて貴様を斬ってやる!」
張 昭「ほほう、やれるもんならやってみい」
夏侯惇「やってやるわ! そこを動くなーっ!」

夏侯惇の前に現れた張昭。
その白髭の老人に向かって夏侯惇は馬を駆けさせた。
その張昭の目の前まで来た時、いきなり地面が沈む。

夏侯惇「なんだと!? 落とし穴っ!?」
張 昭「はっはっは、実に愚かだのう夏侯惇!
    獲物を取り逃がし、逆に自分が罠に嵌るとはの。
    さあ、この阿呆を捕らえるんじゃ」
夏侯惇「く、くそう! なんという屈辱……!」

李通娘「夏侯惇将軍!?
    くっ……皆、汝南へ向かう! 逃げ延びよ!」

夏侯惇隊は張昭の穴罠によって殲滅。
夏侯惇は捕らえられ、李通は汝南へ逃げ延びた。

北では徐庶・金満・金胡麻の隊が小沛・陳留からの
魏軍を殲滅。敵兵力を削り取ることに成功した。

 楚軍、有利

今回の作戦により魏軍の徐州・豫州の戦力は、
いちじるしく低下。
黄河以南の地域全てを楚軍が抑える可能性も
これでかなり現実味を帯びてきた。

    ☆☆☆

8月下旬、寿春。
作戦を終えた金玉昼らが、戻ってきた。

   金玉昼金玉昼  金満金満

金玉昼「ただいまー」
金 満「金満・徐庶隊、無事到着いたしました」

    金旋金旋

金 旋「ご苦労さん、戦果は上々のようだな。
    ……ん? 金胡麻の隊はどうしたんだ?」
金玉昼「なんか撤退命令無視して、まだ戦ってる」

 金胡麻隊、命令違反

  金胡麻金胡麻  魏光魏光

金胡麻「まだまだ行くぞー!」
魏 光「うう、いい加減帰りたい……」

金胡麻隊のみ、まだ敵軍と交戦を続けていた。

金 旋「大丈夫なのか?」
金玉昼「やられるほど敵に兵力は残ってないし。
    別に放置しておいても問題ないにゃ。
    それより、機を逃さず占領作戦に移るにゃ」
金 旋「占領作戦か。
    てーことは、小沛城を落とすのか?」
金玉昼「違うにゃ。汝南城を先に落としまひる」

 汝南侵攻

金 旋「汝南を?」
金玉昼「そもそも先の作戦は、汝南の軍をおびき寄せ
    叩くためのものだったのにゃ」
金 旋「なに? それはどういうことだ。
    徐州の軍を叩くためだったんじゃないのか」
金玉昼「確かに徐州の軍を減らす目的もあったけど。
    こちらが徐州ばかりを見ているように思わせ、
    汝南の兵を城から外へ誘い出し、叩く……。
    それこそが一番の目的だったのにゃ」
金 旋「敵の目を欺くにはまず味方から、か。
    徐州攻略ばかり狙ってると思わせておいて
    実は汝南を一番に狙っていたとは」
金玉昼「夏侯惇はそれに引っかかったということ。
    ちちうえの存在も、いい餌になったみたいにゃ」
金 旋「そうだったのか……。
    そのために俺はこき使われて怖い目見たと」
金玉昼「怖い目を見てわかることってもあるにゃー。
    さて、この後はその汝南をまず攻略するにゃ」
金 旋「徐州攻略は?」
金玉昼「その後になるか、あるいは同時進行にするか。
    どちらにしろ、まず汝南からになるにゃ。
    汝南を抑えてしまえば、寿春からの兵を余さず
    徐州侵攻に使えるからにゃ」
金 旋「なるほど……。
    わかった、そのまま作戦を進めてくれ」
金玉昼「はいにゃー」

    ☆☆☆

金玉昼が汝南侵攻作戦を説明していた頃。

すでに汝南は、別の部隊の侵攻を受けていた。
許昌から出撃した、燈艾率いる4万の部隊だ。

夏侯惇に後を託されていた魏将孫韶は、
兵1万5千を率いて燈艾隊を迎撃したものの
力及ばず、今まさに打ち破られようとしていた。

 許昌から侵攻

    孫韶孫韶

孫 韶「くっ、燈艾め……。
    寿春侵攻で兵が減った隙を突いてくるとは」
魏 兵「御大将! もう無理です!
    敵軍はこちらの3倍近く、敵いません!」
孫 韶「弱音を吐くな!
    陳留から援軍が来るとの知らせがあった!
    それが来るまで持ち堪えるのだ!」

   トウ艾燈艾   費偉費偉

燈 艾「……孫韶もなかなか粘る」
費 偉「彼も統率力には定評がありますからね。
    ですが、そろそろ限界が来る頃でしょう」

   文欽文欽   伊籍伊籍

文 欽「しかし、いいのか?
    独断で汝南を攻めるような真似をしちまって。
    後でとばっちり食うのは勘弁だぜ」
伊 籍「いきなり『汝南を攻めます』と言われるとは
    思ってもいませんでしたからな。
    許昌に守備兵を1万ほど残してきたとはいえ、
    陳留から攻められる可能性もありますし」

その二人の懸念に、燈艾は首を振った。

燈 艾「……その心配は要りません」
文 欽「なぜそう自信ありげに言えるんだ?
    司馬懿からは待機を命じられていたはずだぜ」
燈 艾「彼女の命は『しばらく、許昌で待機せよ』
    という内容でした」
文 欽「ああ、そういう内容だったはずだ」
燈 艾「……つまり。その言の裏を返せば、
    意図は、『機が来れば動け』と読めます」
費 偉「ふむ、なるほど。
    裏がある、という前提ならそう受け取れますな。
    司馬懿どのは汝南を落とすための駒として、
    燈艾どのを許昌に置いた、ということですか」
文 欽「そ、そうなのか?」
燈 艾「……まあ、私の勝手な判断ですけれども」

伊 籍「では、陳留から許昌への侵攻は?」
燈 艾「陳留から、許昌へ向かうことはありません。
    戦力はこの汝南の救援に回されることでしょう」
文 欽「確かに、このままじゃ確実に汝南は落ちる。
    救援は送ってくるだろうな」
燈 艾「汝南への侵攻を放置して、許昌を攻める。
    そんなことをする度胸と無責任さを持ち合わせる
    そんな将は、今の魏軍にはおらぬでしょう」
費 偉「例え許昌を落とした所で、汝南を取られては
    ほとんど意味がありませんからな」
燈 艾「『帝がおられる』という意味で、我らは
    許昌を奪われるわけには行かないのですが。
    ですが、魏側に許昌を落とすだけの利はない」
伊 籍「……なるほど。現時点で許昌を攻めるのは、
    魏にとっては嫌がらせ程度にしかならないと」

その時、敵将孫韶が陣頭に立ち、彼らに向け
声を張り上げてきた。

孫 韶「我が名は孫韶!
    燈艾に一騎打ちを申し込む! 勝負せい!」

燈 艾「……大将の孫韶自ら、一騎打ちを望むと。
    そろそろ部隊の維持も難しいようですね」
費 偉「燈艾どのが受けて立つまでもありますまい。
    ここは無視してよろしいかと」
文 欽「いや、ここは俺に任せてもらおう」
費 偉「文欽どのが?」
文 欽「ここらで敵にも名を売っておきたいんでな。
    そんじゃ、行ってくるぜ!」

文欽は、孫韶の前に進み出た。

孫 韶「ケ艾ではないな。貴様、何者だ」
文 欽「俺の名は文欽。
    大将の代わりに、俺が一騎打ちを受けてやる」
孫 韶「……ふん、雑魚に用はない。下がれ!」
文 欽「そういうことは腕を確かめて言いやがれ!
    どりゃあっ!!

 文欽:武力82 VS 孫韶:武力78

文欽の武は孫韶のそれを圧倒した。
優位を保ったまま、孫韶に勝利を収める。

孫 韶「くっ、文欽……。その名、覚えておこう」
文 欽「おう、しっかり皆にも教えてといてくれよ」

怪我を負って逃げる孫韶を、文欽は見逃す。
22歳の無名の若武者は、孫韶を倒したことで
魏軍にも名を知られるようになった。

燈艾はその後、孫韶隊を打ち破った。
だが、陳留からの救援が汝南城に入ったため、
城の陥落は寿春からの軍が到着してからになる。

    ☆☆☆

さて、寿春周辺の戦闘が一段落したところで、
他方面の戦況を順次見ていくことにしよう。

まずは虎牢関。
時は8月、霍峻が救援として到着し、
魏軍の曹叡隊、梁習隊、卑衍隊と戦っていた。

 虎牢関戦況図

   文聘文聘   霍峻霍峻

文 聘「目標は曹叡隊! 奮戦せよっ!」
霍 峻「よし、これで曹叡隊はほぼ片付きますね」

霍峻隊副将の文聘が奮戦。
それまで魯圓圓隊と共に攻撃を加え続けていた
曹叡隊を、これでほぼ黙らせることができた。

文 聘「しかし、流石にこちら側も大分やられた。
    一時、後を魯圓圓隊に任せて関に引き上げ、
    部隊を再編成して出直したほうがよいのでは?」
霍 峻「確かに、負傷兵も増えてきました……。
    ですが、魯圓圓隊とて疲弊している様子です。
    もう少し粘りたいところですが」
文 聘「ううむ。疲弊した部隊で戦い続けるよりは、
    再編を優先すべきかと思うぞ、御大将」
霍 峻「退く前に、一撃だけでも。
    士気をくじく程度でいいですから」
文 聘「疲れ切った兵に、それをやらせると?」
霍 峻「それも酷ではありますか……。
    そうだ。こういう時は、アレを使いましょう」
文 聘「アレ?」
霍 峻「一台で戦況を動かしうる、秘密兵器。
    李典どのに預かってきた、『目樽技亜』!
文 聘「目樽技亜!?」

 めたるぎあ

霍峻は、目樽技亜を準備させた。
これで突撃すれば、兵を使わずとも敵への一撃を
加えることができよう。

霍 峻「李典どのの作ったこの『目樽技亜』ならば、
    兵を使わずとも戦況を一気に動かせるはず」
文 聘「おお、李典どのはこんなものを作ってたのか」
霍 峻「今、魏軍に一撃を加えることができれば、
    我らの勝利はかなり近づいてくることでしょう」
文 聘「なるほど。それで、誰が乗り込むのか?」

……しばし、沈黙。
ややあって、霍峻は口を開いた。

霍 峻「……文聘どの、どうぞ」
文 聘「いや、こういうカラクリものは苦手で。
    ここは御大将自らどうぞ」
霍 峻「大将は、部隊の指揮が優先ですから」
文 聘「それは私が代行しよう」
霍 峻「いやいや、文聘どのが操縦してくれれば、
    それで万事解決ですから」
文 聘「だが、上手く動かす自信がない」
霍 峻「私だってそうです」

譲り合う二人。
なぜ、ここまで譲り合うのだろうか?
それは、二人とも同じことを思っていたからだ。

 『李典どのが作った兵器だからなぁ』

これまで戦場に現れた李典の兵器は、何かしらの
不具合を抱え、色々と問題が起きていた。
この目樽技亜も、何かしら危険が孕んでいるはず。
二人はそう思っていたのだ。

文 聘「雷圓圓ならば喜んで乗りそうなものだが」
霍 峻「雷圓圓は魯圓圓隊で奮闘中ですから。
    こちらに呼んでいる暇もありませんし」
文 聘「では、くじ引きで」
霍 峻「仕方ないですね、そうしましょうか」

渋々、文聘はくじを作り、霍峻に引かせる。

文 聘「二本の木の枝のどちらかに、切り口を付けた。
    それを引いたほうが乗り込むということで」
霍 峻「良いでしょう。引きますよ」

今まさに、搭乗員が決定する……。
と思っていた矢先、準備させておいた目樽技亜が
突如動き出し、敵部隊に向けて突進していく。

霍 峻「目樽技亜が動き出した!?」
文 聘「い、一体、誰が乗っているんだ!?」

文聘の問いに、準備を担当していた兵が答える。

楚 兵「中には誰も乗っていません!
    ただ流れ矢が一本、目樽技亜に刺さりまして。
    そうしたら、いきなり動き出しました」
霍 峻「もしや、中に入っている牛に刺さったのか」
文 聘「牛が中で勝手に走り出し、それで動いたか。
    それならば説明はつくが……」
霍 峻「そ、それよりも、あれを止めるのだ!
    このまま、まっすぐ前進していっては、敵軍に
    突っ込んでしまう!」
文 聘「しかし、どうやって止める?
    正面に回れば踏み潰されてしまうが」
霍 峻「……えーと」
文 聘「それに、本来の意図とは違ってはいるが、
    目樽技亜のお陰で有利になりそうだ」

中の牛の暴走により、目樽技亜は目前の梁習隊に
突っ込んでいく。
その異様な外見と突進の迫力に、魏軍の兵士は恐慌。
部隊の陣形は崩れ始めた。

文 聘「確か、あれは火薬を積んでいるのだったな」
霍 峻「ああ、火炎を吐くために確か……」
文 聘「あれに火矢を撃ち込め」
楚 兵「ははっ」

兵士たちは火矢の準備をする。

文 聘「あれを火だるまにすれば、敵兵はもっと慌てる」
霍 峻「だ、だがそれでは本来の運用が……」
文 聘「止められないのでは仕方ないでしょうなー。
    それとも御大将、何か他にいい施策があるなら
    お聞きしますが、いかがですかな?」
霍 峻「う、ううむ、仕方ないか。
    敵の手にも渡すわけにもいかんし……」

霍峻も仕方なく納得した。
それ以外に、走り出してしまった目樽技亜を
有効利用する術はないようだった。

霍 峻「火矢、一斉に放て!」
楚 兵「はっ!」

 ぐさぐさぐさ

 んぼー!!

火に包まれた目樽技亜であったが、中の牛はまだ
死んではおらず、炎の熱さに炙られてますます
その走る速度を速めた。

魏兵A「うわあああ!?
    火に包まれた何かが突っ込んでくるぞ!?」
魏兵B「楚軍の新兵器か!? に、逃げろ!」

火だるまになった目樽技亜のお陰で魏軍は混乱。
それを契機に魯圓圓隊が奮闘、梁習隊の兵を
大いに討ち、勝利を味方にぐっと近づけた。

その後、関に一時退却した霍峻らが部隊を再編、
再び撃って出て、残っていた魏軍と交戦する。
激しい戦いの末、敵部隊を打ち破った。

こうして、彼らは虎牢関を守りきった。

霍 峻「……李典どのになんて説明しよう」
文 聘「ありのままでいいのでは?
    乗り込まぬうちに勝手に走り出してしまっては、
    危なくて今後も使えないだろうし」

……この後、目樽技亜が戦場に現れることは
一度もなかったという。

    ☆☆☆

しばらく続いた虎牢関の戦いはこれで終結した。
また、孟津を奪った魏軍もまだ動く気配をみせず、
洛陽周辺の対魏戦線はひとまず落ち着いた。

次は、対涼戦線の状況をお伝えしよう。

8月。
武関には郭淮・于禁らが入り、馬騰隊を殲滅。
だが、涼軍の侵攻部隊はまだ関に攻め寄せており、
それらを叩くため、ずっと戦いづめであった。

   蒋済蒋済   郭淮郭淮

蒋 済「郭淮どの。
    仕掛けた穴罠に、馬鉄隊が嵌まりました」
郭 淮「よし、ここで一気に馬鉄隊を殲滅する!」

穴罠に嵌った馬鉄隊を、一気に殲滅する。

当初、郭淮隊は2万で出撃した。
副将の満寵・蒋済・劉曄・魏劭と共に戦い続け、
多くの涼軍兵士を討ち、武関を守っていたが、
そろそろまともに戦える兵も半数近くまで減り、
その疲労もピークを迎えていた。

 武関防衛長期化

郭 淮「馬鉄隊は片付いたか。次はどの部隊だ?」
蒋 済「お待ちあれ、郭淮将軍。
    ここで一度、武関に戻って部隊の再編を」
郭 淮「しかし、まだまだ敵部隊が残っている。
    韓徳隊、戴陵隊、馬秋隊、おまけに西から
    朱然隊まで来ているらしいではないか。
    それを于禁隊一隊に任せてしまうのは……」
蒋 済「残っているからこそ、ここで再編するのです。
    于禁隊はまだ2万以上兵がおりますれば、
    敵の残り部隊を一手に引き受けたとしても、
    しばらくは持ち応えることが出来ましょう」
郭 淮「むう……。では、目の前の韓徳隊を叩いた後、
    そこで一旦引き揚げることにしよう。
    それなら、于禁隊も安心できるというものだ」

郭淮隊は次の目標を韓徳隊に定めた。
だが、それと同じくして、于禁隊も韓徳隊を
主目標に設定していた。

于禁隊所属の楽淋は、郭淮隊の動きを見て
手勢の進軍速度を速めさせた。

    楽淋楽淋

楽 淋「郭淮隊には手柄はやらないぞ!
    こちらが先に攻撃を仕掛けるんだ!」
楚 兵「い、いいんですか、陣形が乱れますが。
    仕掛けた後に逆襲される恐れが……」
楽 淋「安心しろ、仕掛けた後は俺が何とかする」

楽淋は韓徳隊の一角に攻撃を開始。
だが、進軍を急がせて陣形を崩したために、敵の
大将である韓徳に、その乱れを突かれてしまう。

韓 徳「我ら西涼の軍を舐めるなよ!
    逆襲だ! 崩れた陣形をかき乱してやれ!」

韓徳の逆襲で、一転して危機を迎える于禁隊。

彼らは武関を守りきることができるのだろうか。
続きは、次回。

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