221年07月
武関へ向かおうと東進する馬超隊を阻止せんと、
魏興城塞の魏延らの軍が攻撃を仕掛ける。
そして魏延と馬超の大将同士の一騎打ち。
激しい打ち合いが続き、両者の体力も尽きるという時。
二人の最後の一合が交わされようとしていた。
馬超
魏延
馬 超「駆けよ! はっ!」
魏 延「はあはあ……行くぞ!」
二人とも、騎馬を駆けさせた。
すれ違いざまに最後の一撃を放つつもりだ。
これで、勝負がつく。
だが、魏延は思うように身体が動かない。
気をつけねば、手にした長刀を取り落としそうに
なってしまうほど、握力もなくなっていた。
それまでずっと馬超と激しく打ち合っていた中で、
体力をほとんど消耗してしまっていたのだ。
魏 延「(くっ……私もこの程度か! 情けない!)」
???『限界か? ならば俺が力を貸そう』
魏 延「むうっ……!?」
魏延の身体に、力が戻ってくる。
長刀を掴む手にも、感覚が戻ってくる。
馬 超「魏延! 勝負!」
魏 延「むっ……! でえいっ!」
二人はすれ違いざまに一撃を放った。
二人の駒が止まる。
金目鯛
孟達
金目鯛「どっちだ? どっちが勝った!?」
孟 達「さ、さあ」
馬 超「み、見事だ魏延……。
いずれ、完全なる決着をつけるとしよう……」
魏 延「…………」
両者、ゆっくりと自軍へと戻っていった。
魏延は姿勢を正していたが、一方の馬超はというと
痛みに顔をしかめ、馬上で前かがみになっていた。
どうやら、勝者は魏延のようである。
馬謖
蛮望
馬 謖「魏延将軍、お見事!
……大丈夫ですか、表情が優れませんが」
蛮 望「もし怪我してても大丈夫よ。
山頂から取ってきたこの薬草があるわっ!」
魏 延「心配いらん、怪我はない。
それより、その毒々しい草が薬草なのか?」
蛮 望「そうよ!
煎じて飲めば一発で下痢になるわ!」
魏 延「そういうのは薬草とは呼ばないぞ。
それより、好機を逃すな。攻撃を続けるんだ」
魏延は部隊に馬超隊への攻撃の続行を命じると、
そこでようやく一息ついた。
その時、魏延のそばに何者かの気配が現れた。
項羽
項 羽『これでひとつ貸しだぞ』
魏 延「私個人としてはあまり嬉しくはないが……。
礼は言っておかねばなるまいな」
項 羽『ん? 何を不機嫌になっている?
俺は最後の一撃を放つ体力を貸しただけだ。
奴を倒したのは、紛れもなくお前だぞ』
魏 延「それでも、納得いかんのだ」
項 羽『やれやれ、お前の自尊心は限度がないな』
魏 延「うるさい」
(※ 項羽については続金旋伝六十九章を参照されたし)
最後に項羽に助けを借りたとはいえ、魏延は
馬超との大将同士の一騎打ちを制した。
そのまま呉懿隊・金目鯛隊と共に攻勢を強め、
負傷した馬超の部隊を容赦なく攻め立てる。
刑道栄「どうりゃああああ!!
最後の出番、いただきぃぃぃぃ!!」
最後は、金目鯛隊が馬超隊を殲滅した。
涼軍で抜擢された韓振藩、党斉という将も捕らえ、
武関へ向かおうとしていた馬超を阻止した。
こうして、馬超という脅威を打ち払ったのだ。
魏延
鞏志
魏 延「……(ぶっすー)」
鞏 志「魏延どの、どうされました?」
魏 延「どうもせん!」
鞏 志「は、はあ」
太史慈
呉懿
太史慈「うーん。せっかくの勝ち戦だというに、
なぜ彼はあんなに不機嫌なのです?」
呉 懿「私もさっぱりわかりませんな」
魏延らは魏興城塞へと戻っていった。
魏延の機嫌はともかく……。
これで武関は馬超という脅威の来襲を免れた。
武関の郭淮・于禁らの部隊が馬騰隊を倒し、
その後も戦いを優勢に進めることはできたのは、
魏延らの働きがあったからこそであったのだ。
☆☆☆
武関・魏興では涼軍の侵攻を食い止めつつあった。
だがそれとは対照的に、魏軍に攻められた孟津は
中途で放棄し、さらに虎牢関も攻撃を受けている。
7月下旬、洛陽。
霍峻
李典
霍 峻「虎牢関の防備には兵が1万しかいない?」
李 典「うむ。司馬懿の指示らしい……。
残りの兵はこの洛陽に引き上げてきた」
霍 峻「どういうことですか。
それでは、敵に虎牢関を取ってくださいと
言わんばかりではありませんか!」
孟津を捨て洛陽に引き上げた霍峻だったが、
洛陽の守備のためにと派遣されてきた李典に
現在の状況を聞き、驚いていた。
李 典「魏軍の虎牢関へ向かう部隊は、陳留からの
梁習隊の他、濮陽などからも出ているらしい。
そこに来て、守るのは1万の兵と一人の将。
確かに、意図が掴みかねるな」
霍 峻「虎牢関の守将は王惇どのと申されましたか。
確か元呉軍の、楚軍に入って日が浅い方と
聞いてますが……」
李 典「うむ、そこそこの能力は持っているようだが、
流石に1万の兵のみでは荷が重かろうな。
司馬懿は、本気で虎牢関を捨てるつもりか」
霍 峻「まさか……」
李 典「いや、わからんぞ。
孟津と同じように、兵力を無駄に消費せぬうち、
洛陽に集中させようというのではないか?」
霍 峻「いえ、孟津を捨てるのと、虎牢関を捨てるの
とでは、全く意味が違います」
李 典「意味が違う? どう違うのか」
霍 峻「孟津は防衛に向かぬ施設です。
ですから、そこでの防衛に拘れば、多くの兵を
失うことになり、また多くの兵を必要とします。
孟津の放棄には大いに意味があるのです」
李 典「うむうむ」
霍 峻「しかし虎牢関は、堅牢な防衛施設です。
場合によっては、通常の城に篭っているよりも、
少ない被害で防ぐこともできましょう」
李 典「ふうむ、言われてみれば確かにな。
虎牢関は難攻不落と名高い要塞だからな」
霍 峻「また、関には民はおりません。
逆に、城の中には多くの民がおります……。
ですから、敵の侵攻を食い止めるのならば、
城よりも関で、というのが上策です」
李 典「民のためにも、城を戦場にするな、と?」
霍 峻「ええ、城を戦場にしてしまうと、都市機能が
大きく低下し、多くの民が失われます。
ですから、それだけは避けねばなりません。
それが漢の古都、洛陽ならば尚のことです」
李 典「では、司馬懿の意図は違うところにあると」
霍 峻「そう……思いたいものですが」
渋い表情で霍峻はそう言った。
否定はしてみたものの、彼も、司馬懿の意図は
さっぱりと分かっていない。
李 典「では霍峻どの、どうされる。
今のところ、貴殿には明確な指示はない。
虎牢関、そしてこの洛陽に迫っている危機を、
貴殿はどう防ぎ、どう乗り越える?」
すぐ西には魏軍軍師、諸葛亮と6万の軍がいる。
そして虎牢関には、敵の攻撃部隊が迫っている。
だがこの危機にあっても、霍峻へ司馬懿からの
明確な指示は、まだ届いてはいない。
つまり、今の霍峻は自らの判断で動けるのだ。
霍 峻「……虎牢関を取られるわけには行きません。
李典どの、私は文聘どのや魯圓圓、雷圓圓らと
共に虎牢関への救援に向かいます」
李 典「それはいいが、洛陽の兵を割いてしまうと、
孟津の魏軍が一気に攻めて来ぬか?」
霍 峻「確かに、隙は見せたくはありませんが……。
ですが、孟津の兵はまだ士気が低いままです。
もうしばらくは動きはしないでしょう」
李 典「……まあ、万が一攻めてきたとしても、
この洛陽なら簡単には落ちぬだろうしな」
霍 峻「負傷兵を3万以上抱えているのです。
魏軍も、そう無理はして来ないでしょう。
その間に、虎牢関の敵軍を片付けます」
李 典「……あい分かった。よろしく頼むぞ」
霍 峻「任せてください。
では、さっそく準備にかかりますので」
李 典「あ、ちょっと待った」
準備にかかろうとする霍峻を呼び止めた李典は、
窓を開けて外が見えるようにした。
霍 峻「どうかしましたか」
李 典「いや、どうせだからアレを持っていって
もらおうかと思ってな」
指差した、その先にあったのは……。
霍 峻「こ、これは!?」
李 典「以前、二足歩行をする自走式兵器を試作した
のだが、結局歩けずに終わってな……」
(※ 超絶重機動攻城兵器『美具座無』のこと。
続金旋伝五十四章、六十〇章を参照されたし)
李 典「こいつはその反省を元に小型・軽量化し、
二足歩行を実現した改良型だ。
その名も、『目樽技亜』!!」
霍 峻「目樽技亜!?」
李 典「武装は6連の大型連弩、2連の火矢などだ。
だが、こいつの最大の売りは何と言っても、
どんな悪路も走破できる、『脚』だ」
霍 峻「そ、それはすごいですね」
李 典「うむ。動力には牛一頭を使う。
内部に牛を入れ、その力を利用することで
二足歩行をさせることに成功した」
霍 峻「そ、そんな兵器ができたのですか……」
李 典「まあ、まだ試作品1機のみだがな。
しかし、1機でも十分、戦力になるはずだ。
あいつを使い、虎牢関を守ってくれ」
霍 峻「わかりました。お預かりします」
霍峻は深々と礼をして、出ていった。
霍峻は4万の部隊を編成、自らを大将とし、副将に
文聘、魯圓圓、雷圓圓、霍弋を連れ、洛陽を出撃。
魏軍が攻めかかる虎牢関へ、救援に向かった。
その頃、虎牢関では王惇が1万の守備兵のみで
押し寄せてくる魏軍と戦っていた。
敵軍の兵数は5万以上もいる、絶望的な戦いだ。
いくら虎牢関が難攻不落とはいえ、この戦力差で
戦い続ければ、いずれは落ちるだろう。
王惇
王 惇「どうした、騒がしいぞ」
楚 兵「そ、それが、敵の卑衍隊1万が!」
王 惇「ほう、また新手が現れた……と?」
楚 兵「は、はい」
王 惇「はっはっは、そう慌てる必要はない。
初めにやってきたのが梁習の2万の部隊、
次にやってきたのが曹叡の3万の部隊だ。
今更、1万増えた程度で何を驚く?」
楚 兵「そ、それもそう……ですかね」
王 惇「そうだ。近づいてくる敵に矢を放ち、城壁を
登ってくる敵に石を落とす。やることは変わらん。
分かったら、死力を尽くして戦うのだ!」
楚 兵「は、ははっ!」
威勢よく叱り飛ばす王惇。
だが、これが勝ち目の薄い戦いだということは
彼が一番わかっていた。
王 惇「……(兵を減らし、俺のような降将を置く。
つまりこれは、敵兵を減らせるだけ減らして、
後は死ねということなのだろうな)」
王惇は、虎牢関へ彼を差し向けた司馬懿の意図を
そう判断していた。
だがそれは、呉が滅んだことで仕方なく楚に仕えた
彼にとって、逆に望ましい指令であった。
梁習
梁 習「王惇! 楚には大した義理もあるまい!
ここは我らに降伏すべきではないか!?」
王 惇「馬鹿を申せ!
楚に降ってしまったことさえ屈辱だというのに、
さらに裏切り行為を俺に働けというのか!
それならば、潔く死ぬことを選ぶわ!」
梁 習「そうか、ならば望み通りにしてやろう!
さあ、寡兵の虎牢関など打ち壊してやれ!」
6倍ほどの敵兵が押し寄せている。
倒しても倒しても魏軍の兵は城壁に取り付いてくる。
王惇がふと気付けば、虎牢関の兵はもう半分にまで
減らされていた。
王 惇「そろそろ限界か……。
まあ、死ぬのが半年ほど遅かっただけのことだ。
後がどうなろうが、もう、俺の知ったことか」
その時、虎牢関の城門が開いていく。
王 惇「どうした、なぜ城門が開く?
もう魏軍が入り込んでしまっていたのか?」
楚 兵「い、いえ、違います! 味方です!
洛陽から来た援軍が出るようです!」
王 惇「援軍……誰だ?」
楚 兵「霍峻隊です! 霍峻隊が城門から打って出て
敵軍を押し返してます! 助かった!」
文聘
雷圓圓
文 聘「退け退け、この魏軍の弱兵ども!
この文聘の武は丘でも河でも変わらんぞ!」
雷圓圓「そこ退けそこ退け! 雷圓圓が通るー!
轢かれて死んでも知らないよー!」
魯圓圓
霍弋
魯圓圓「数は多くても攻城兵器の部隊が主体。
野戦であれば私たちののほうが有利よ!」
霍 弋「押せ押せ!
敵軍を虎牢関から突き放してしまうんだ!」
霍峻隊は、押し寄せていた魏軍を一気に押し返す。
魏軍を一叩きした後、彼らは虎牢関へと引き返した。
一旦、守備兵や部隊を再編するためである。
霍峻は王惇と面会し、その腕を取った。
霍峻
王惇
霍 峻「王惇どの。よく防いでこられましたな。
今後は私たちに任せてください」
王 惇「霍峻どの……。救援、感謝します。
だが、誰の指示でこちらに来られたのですか」
霍 峻「指示ではありません。
虎牢関を魏軍に奪われるわけにはいかない。
そう思ったからにすぎません」
王 惇「左様ですか。
では、司馬懿どのに睨まれるかもしれませんぞ」
霍 峻「……貴方は、司馬懿どのが虎牢関と貴方を
見捨てたものと思っているようですね」
王 惇「そうではないと?」
霍 峻「……答えを出すのを急ぐ必要はありません。
今はまず、目の前の魏軍を叩きます」
霍峻らが来たことで虎牢関の一気の陥落は免れたが、
魏軍の曹叡隊、梁習隊、卑衍隊は再び虎牢関に
押し寄せてきていた。
曹叡
梁習
曹 叡「救援が入ったとはいえ、こちらの方が数は多い。
休む間を与えずに攻めるのだ」
梁 習「はっ、敵を圧倒せよ! かかれ!」
虎牢関での攻防はまだ始まったばかりなのだ。
☆☆☆
さて、霍峻が洛陽から虎牢関へ救援へ向かった、
それと同じ頃の許昌。
各所への兵の移動任務を終えた燈艾・文欽らが
この地にやってきたところだった。
燈艾
文欽
燈 艾「……司馬懿どのはおられぬのか」
文 欽「おいおい、そりゃないだろう。
俺たちが兵の移動を終えてやってきたってのに、
一体、何処に行ったんだ?」
出迎えた費偉が、それに答える。
費偉
費 偉「司馬懿どのは洛陽に向かわれました。
お二方には『この許昌でしばらくの間、待機して
いただきたい』との伝言を戴いております」
燈 艾「……しばらく、待機ですか」
文 欽「いいのか、そんなのんびりとしたことで。
洛陽近辺の戦況はかなり逼迫してると聞いたぞ」
費 偉「逼迫しているからこそ、司馬懿どのは自ら
指揮するために洛陽に向かわれたのでしょう。
……まあ、彼女の指令には疑問も残りますが」
燈 艾「疑問?」
費 偉「戦力となる燈艾どのを、この許昌に待機させた
ままにしておくのも、疑問ではありますけども」
文 欽「他にも何かあるってのか」
費 偉「ええ……。
虎牢関の半数以上の兵を洛陽に引き上げさせて
わざと虎牢関の守備を薄くしたり、かと思えば、
洛陽の南の河南城塞に、兵3万を留めたままで
何処の救援にも送らずにいることとか」
文 欽「細かいこたーワカランが。
わざと負けるような采配してるってことか?」
費 偉「そう見えるだけ、だとは思いますが。
ですが彼女はその戦略の意図を語ろうとはせず、
『いずれ分かることでしょう』としか言わず。
結局、疑念ばかりが募ってしまっています」
燈 艾「いずれ分かる……ですか」
費 偉「多少なりとも不安でしたので、このことは
楚王に報告の手紙を送ってあります」
文 欽「ふむ、楚王に判断してもらおうってワケか。
……それって、大丈夫なのか?」
費 偉「文欽どの、失礼ですよ。
寿春には軍師がおられるのですから」
文 欽「ふむ、『軍師が』ってか。
アンタも楚王には期待してないんじゃないか」
費 偉「うっ……そ、そんなことは」
その時、赤い何かが彼らのところにやってきた。
『燃える男のォ〜♪ 赤いトラクタァ〜♪』
伊籍
伊 籍「やあ、お三方。
伊籍、寿春より参りましたぞ」
文 欽「……なんでトラクターに乗ってきてんだよ」
伊 籍「まあ細かいことはお気になさらず。
それより、寿春の本軍が動くらしいですぞ」
費 偉「寿春の軍が?」
文 欽「いよいよ、徐州あたりに侵攻するのか!?
ちっ、こんな時に俺たちは留守番かよ!」
☆☆☆
寿春。7月下旬のこと。
前述の費偉の書状が、金旋の下に届いていた。
金旋
金玉昼
金 旋「うーむ。費偉もまあ心配症というか、
なんというか……」
金玉昼「ここは、どういうつもりなのか、彼女に
説明をさせたほうがいいかもしれないにゃ」
金 旋「んー。それはどうだろうな」
金玉昼「ちちうえ、何を考えての策であろうと、
その意思を確認することは必要じゃないかにゃ」
金 旋「確認して、一体どうするんだ?」
金玉昼「どうするって……。
皆が、疑心暗鬼になって来ているのにゃ!
なのに何も説明がなくては、統率が……」
金 旋「統率取れてるだろ。
まあ、孟津や虎牢関の戦況は良くないようだが、
司馬懿の命令のせいで負けたわけじゃない」
金玉昼「ちちうえ!」
金 旋「落ち着け、玉。
彼女はキレ者だ。彼女に敵う知謀の主は、
我が軍にはお前以外は誰もいない」
金玉昼「……まあ、そうかも知れないにゃ」
金 旋「そんな彼女のことだ、利敵行為を働くなら、
もっと気付かれないようにするはずだろう。
そうは思わないか」
金玉昼「む……確かに」
金 旋「どんなことを考えてるかはわからんが、
彼女は楚のための策を講じているのだろう。
俺は、そう思うがね」
金玉昼「ちちうえは、彼女に甘いにゃ」
金 旋「そうかな? 玉にも甘いつもりだが」
金玉昼「ちちうえー!」
金 旋「そう怖い顔をすんな。
分からないことを知ろうとするのは大事だが、
何でもすぐに暴いてしまうのが良い事だとは
俺は思わんなー」
金玉昼「え?」
金 旋「要するに、司馬懿が何を考えてるのかが
分からないから、知りたいだけなんだろう?
皆の不安どうこうは方便でしかない。違うか」
金玉昼「……うっ」
金玉昼は言葉を失う。
まるで、自分の心の奥底を見透かされた気がした。
相手は、耄碌し始めようかという老人なのに。
これが、親というものか。
金 旋「なまじ人より頭の出来がいいもんだから、
自分が知らないことを知りたがる。
だが、彼女の意図を今、暴いてしまうことは
何にも繋がらんだろうな」
金玉昼「そ、そんなことはないにゃ。
疑心暗鬼になっている皆の不安を拭えるにゃ」
金 旋「司馬懿の考えている戦略を引き換えに、な。
それを今バラせば、これまで隠していたことに
何の意味も無くなってしまうだろうな」
金玉昼「むむむ……。でも、彼女がそんなことを
考えているという保証はないにゃ……」
金 旋「疑ってかかっては何も信じられなくなるぞ」
金玉昼「でも……」
金 旋「でもじゃない。さ、その話はこれで終わり。
状況が変わったら、また検討することにしよう。
今はそれでいいんじゃないか?」
金玉昼「あまり納得できないけどにゃ」
金 旋「今はそれより優先すべきことがあるだろ。
さ、お前の考えた策で打って出ようじゃないか。
こっちの状況は待った無しなんだろう?」
金玉昼「……わかったにゃ」
しぶしぶながら、金玉昼は寿春の軍を動かす
魏への侵攻計画の内容を金旋に説明し始めた。
金 旋「……彭城に城塞を築くのか?」
金玉昼「そう。彭城に城塞ができれば、徐州の小沛や
下[丕β]という城を攻める重要な拠点となるにゃ」
金 旋「そりゃ、寿春から攻めるには若干遠いし、
城塞が出来ればそうなってくるだろうなあ。
だが、そんな拠点が出来上がってしまうのを、
魏軍は黙って見てるだろうか」
金玉昼「黙って見ていれば、それでよし。
でも、敵軍がそれを阻もうと出てきても……
ううん、出てきてもらうほうが、実はいいのにゃ」
金 旋「そりゃどういうことだ」
金玉昼「言わば、城塞建設は『餌』なのにゃ」
金 旋「餌?」
金玉昼「敵軍をおびき出す囮にゃ。
敵が城塞建設を防ごうと部隊を派遣してきたら、
待ち構えていた味方の迎撃部隊が飲み込む。
これは、そういう策なのにゃ」
金 旋「ははあ、こっちのほうに敵をおびき出して、
それを叩こうってことなのか……。
ふむ、どっちに転んでもいい策じゃないか」
金玉昼「でしょー」
作戦は決まった。
金旋は金玉昼の言った策通り、城塞建設のため
兵2万と下町娘、李豊を連れて寿春を発った。
金旋
下町娘
金 旋「さて、彭城へ赴くとするか」
下町娘「本当に魏軍は出てくるんでしょうか……。
金旋さまはどう見ますか?」
金 旋「うーん、どうだろうな。
だが、俺という高級な餌が出てきたことで、
罠ではないかと気付く奴がいるかもしれん」
下町娘「じゃあ、出てこない?」
金 旋「いや、気付いたとしても、出てこなければ
自軍の領内に拠点を作られてしまうわけだ。
玉砕覚悟で出てくるか、黙って見ているか。
……結局は、大将の性格次第かなァ」
下町娘「なるほど、性格で変わると……。
えーと、彭城から一番近い小沛の大将って、
今は誰になってましたっけ?」
金 旋「ん、小沛の大将? えーと、誰だったっけ。
李豊、お前、知ってるか?」
李豊
李 豊「いえ、知らないです。申し訳ありません」
金 旋「そうか。ま、出てくりゃ分かることだしな。
そういえば李豊、お前の親父はどこ行った?
ここ数日、顔を見てなかったが」
下町娘「李厳さんなら廬江に行ってるはずですよ」
金 旋「廬江?」
李 豊「ええ、そうです。軍師の指示で参りました」
金 旋「ふーん。今回の作戦とは別の何かかね。
しかし、玉もいろいろと考えてんだなー」
下町娘「金旋さまが考え無さすぎるんじゃないですか」
金 旋「なにー!?
俺より知力低いくせにそういうこと言うか!」
下町娘「ふふーん。下駄を履かせて上になってる人に
偉そうに言われたくありませんよー」
李 豊「下町娘さん、もう少し言い方を変えた方が……。
相手は王なんですよ。一応は」
金 旋「一応ってなんだ李豊!?」
さて、そんな彼らが発ってから少しして。
寿春からまた、部隊が出撃していく。
今度は、純粋な戦闘部隊である。
魏軍の部隊が金旋を狙って出てくればそれを叩き、
出てこなければそのまま彭城に完成する城塞へ
入る予定となっている。
軍師金玉昼の策によって小沛の魏軍に突きつけられた、
どちらにしても不利となる究極の選択。
彼らは一体、どちらを選ぶのか。
そしてこの策に本当に穴はないのだろうか?
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