221年07月
寿春。
各戦地の報告がひっきりなしに入ってくる中、
この地の十数万の軍は全く動いていなかった。
魏 光「出番が欲しい!」
金旋
魏光
金 旋「なんだ魏光、やぶからぼうに。
仕事したいんなら、焼き討ちにでも行ってこい」
魏 光「いえ、そうじゃなくて……。
涼との戦端が開かれ、魏も攻めてきているのに、
焼討や探索程度でお茶を濁したくないんです」
金 旋「ほう?」
魏 光「父は涼との戦いの増援として西へ赴きました。
なのに私は、寿春に留め置かれたままです。
私も、活躍の場が欲しいんです!」
金 旋「……そりゃ殊勝な心がけだな。
しかし、どっかの戦場に派遣するのはいいが、
お前、鞏恋と離れるようになってもいいのか」
魏 光「いや、そこは一緒の方向で」
金 旋「わがままだな、おい。
ふむ、ではお前にしかやれない仕事をやろう」
魏 光「ははっ! なんなりとお命じを!」
金 旋「よし。じゃ、飯を作れ」
魏 光「……めし?」
金 旋「おう。今日の俺の分の晩飯な」
魏 光「な、なんか、以前にもこれと同じようなことが
あったような気がしますけど……。
お付きの料理長はどうしたんです?」
金 旋「夫婦喧嘩で嫁が実家に帰っちゃったんだと。
それを迎えに行くんで、しばらく休みを取ってる」
魏 光「はあ。そういうことなら仕方ない……。
いや、仕方なくない! なんで私なんですか」
金 旋「活躍したいんだろ。
お前のその料理の腕をもって大活躍してくれよ。
さあ、さあ、さあさあさあさあ!」
魏 光「いや、だからですね。
私は、もっと戦いの中で活躍したいんですよ。
一緒に戦っている鞏恋さんも見惚れてしまう、
そんな感じの大活躍を……」
鞏恋
公孫朱
鞏 恋「戻ったよ」
公孫朱「失礼します」
魏光が金旋に訴えている中、焼き討ちのため
徐州へ行っていた鞏恋・公孫朱が入ってきた。
金 旋「おう。二人とも、焼討ゴクローサン」
魏 光「お、お疲れさまですー」
金 旋「それで、魏光。どんな感じの活躍だって?」
魏 光「い、いえっ。何でもないです!」
金 旋「むっふっふ。お前もまだまだ青いな」
魏 光「む、むむむー」
鞏恋にイイところを見せたい、という内容を
その本人の前で言うのは、やはり憚られるようだ。
鞏 恋「……なんの話?」
魏 光「い、いえ、大した話じゃ……」
金 旋「魏光が戦いに参加したいんだとさー。
寿春でただ暇な時間を過ごしたくないそーだ」
魏 光「う……」
鞏 恋「そう。行ってらっしゃい」
魏 光「い、行ってらっしゃいって!?
鞏恋さんも一緒に行きましょうよー!」
鞏 恋「今は気分が乗らない」
魏 光「そ、そんなー」
鞏恋にむべもなく断られ、涙目の魏光。
金 旋「やれやれ……。この頃ようやくいっちょまえに
なってきたと思っていたが、まだまだのようだな」
公孫朱「私もそう思います」
金 旋「だよな。もう少し強気で攻めていかないと、
いつまでも落ちないんじゃないかと……」
公孫朱「あ、いえ、そうではなくて」
金 旋「ん?」
公孫朱「私も、このままこの寿春で無為に過ごすのは
どうかと思うんです。
焼き討ちなども確かに大事だとは思いますが、
直接、戦いに参加したほうがより役に立つ
というものでしょう」
金 旋「あー、そっちのほう」
公孫朱「洛陽方面の戦況はあまり思わしくない、とも
聞いています。そこで、そちらの増援に
私たちを派遣してはもらえませんか?」
金 旋「ふむ。確かに中途の報告は芳しくなかったな。
だが、すでに霍峻や魯圓圓などを派遣している。
ここでお前たちまで行くことはない」
公孫朱「ですが……」
なおも食い下がろうとする公孫朱だったが、
金旋はそれを笑って制した。
金 旋「はっはっは、まあまあ、もうしばらく待て。
秋になって兵糧も入ったし、この寿春を起点に、
そのうち軍を動かすことになるだろう」
魏 光「え、何か計画があるんですか?」
金 旋「玉がしばらく時間をくれと言っていた。
何か、魏に対する反攻策を考えているようだな」
魏 光「おー」
金 旋「お前たちを留めているのも、そういう理由でだ。
だから焦らず、その時が来るのを待て」
公孫朱「はあ、そういうことなら待ちますが」
鞏 恋「ね、焦ることはないって言ったでしょ」
公孫朱「貴女は知ってたんですか?」
鞏 恋「玉ちゃんから話聞いてた」
公孫朱「なら、最初からそう言ってくれれば……。
まあ、別にいいですが。そういうことならば、
今は待つしかありませんね。失礼します」
金 旋「ああ、待て公孫朱。
ただその時が来るのを待つのもなんだろう。
その間にどうだ、見合いでもしてみんかね」
公孫朱「み、見合い?」
金 旋「うむ、いい話があるんだ。
話聞いてちょっと考えてみるだけでも……」
公孫朱「そ、そんなこっつぁかね話しっちくね!
(そんなつまらない話したくありません)
し、失礼しますっ!」
金 旋「ああ、話を聞くだけでも……」
公孫朱はそのまま出ていってしまった。
金 旋「……すまん張苞。俺では力になれんようだ」
鞏 恋「張苞?」
金 旋「あ、いや。何でもない。
じゃあ魏光。今日の飯の用意、頼むぞ」
魏 光「……はいはい、仕方ないですね。
やるからには腕によりをかけたのを作りますよ」
鞏 恋「それじゃ私は毒見役で」
金 旋「はっはっは、毒見か。
毒見と称して味見をしたいのはわかるが、
全部食ったりするんじゃないぞ、なんてな」
鞏 恋「……ちっ」
金 旋「本当に全部食う気だったのか!?」
魏光と鞏恋は出て行く。
金旋はそれを見送ると、ため息をついた。
金 旋「やれやれ、若者は血気盛んだな。
しかし……。皆が心細くなるのもわかる」
魏光らには見せなかった、不安げな表情。
彼とて、味方が勝てるかどうか心配なのだ。
金 旋「司馬懿、霍峻……。洛陽は漢の大事な都だ。
必ずや守り抜いてくれよ……」
☆☆☆
さて、その孟津。
孟津港の攻防は、諸葛亮・張遼らの攻勢に押され、
楚軍が不利な状況を迎えていた。
なんとか態勢を立て直すべく、部隊を港内に戻し
再編しようとした霍峻であったが……。
信じられぬ内容の書状が、彼らに届けられていた。
霍峻
文聘
霍 峻「司馬懿どのが、本当にこの内容を?
この孟津を、魏軍にくれてやれ、などと……」
文 聘「し、信じられん。
兵も残っているというのに、拠点を捨てるなど」
司馬懿から届けられた書状。
それには「孟津を捨て、洛陽に退却せよ」とあった。
書状を受け取った霍峻、またそれを見せられた文聘。
二人ともそれをすぐに飲み込むことはできなかった。
使 者「本当です。
すでに弘農にも使者が送られており、
そこに駐屯されていた閻柔将軍は、すでに
城塞を破棄して、河南に撤退されました」
霍 峻「弘農の城塞が、すでに破棄された?」
文 聘「そんな。急すぎる話ではないか。
本当にこの書状、司馬懿どののものなのか。
そ、そうだ、これが偽手紙である可能性もある」
使 者「敵の計略である、とお疑いなのですか。
では、本物だという証拠をお見せ致します」
文 聘「証拠?」
使 者「はい、こちらにございます。
司馬将軍よりお預かりした、証書です」
そう言って、使者は証書を取り出して見せた。
見せられたそれは確かに、司馬懿が連絡時などで
使用している証明書だった。
霍 峻「確かに、この証書は本物ですね……」
文 聘「だ、だが……そ、そうだ!
敵が証書を偽造したのかもしれない!」
使 者「ではこちらを。
証書が本物だと証明する証書です」
文 聘「そ、それも偽造した可能性も……」
使 者「ではこちらも御覧ください。証書が本物だと
証明する証書を証明する証書です」
文 聘「む、むむむ。そ、それも偽造……」
霍 峻「文聘どの、そこまで。
こうまで念を押されては疑うこともできません」
文 聘「だ、だが、内容が。
これは明らかに敵を利する行為だぞ」
霍 峻「確かに、孟津港という重要拠点の放棄は
短期的に見れば利敵行為かもしれません。
ですが、このままずっと戦い続けてたとしても、
防衛に向かぬ港を守りきれるのかどうか。
先行きが不透明なのは確かです」
文 聘「……確かに、それはそうかもしれない。
だが現在、この港には負傷兵が1万もいる。
港を放棄して魏軍にくれてやるということは、
その兵も魏軍にくれてしまうことになるが」
霍 峻「戦い続けたほうが、それ以上の損をする。
彼女はそう判断したのでしょう」
文 聘「むむ……。では、どうなさる?」
霍 峻「他ならぬ上官の命です。
また、撤退する作戦にも確かに一理あります。
ここは退くとしましょう」
文 聘「そうか。貴殿がそう言うなら仕方ない」
霍 峻「……そういうわけです。
司馬懿どのには、承知したとお伝えください」
使 者「ははっ」
使者は返事を受け、戻っていった。
文 聘「……しかし、本隊を無事に撤退させるには、
殿を残し、撤退の時間を稼がねばなるまい」
霍 峻「殿には兵5千を残し、これを秦朗に預けます」
文 聘「5千? 多すぎぬか。それに、秦朗は……」
霍 峻「ええ。
秦朗は魏公の子、曹丕と親交があります。
彼ならば、魏軍に捕らえられても斬られたりは
しないでしょう。また、5千の兵が残れば
時間は十分に稼ぐことができます」
文 聘「……なるほど、貴殿らしい選択だ。
多少の損は仕方ない、ということか」
霍 峻「それ以外は、港を引き上げます。
私の他、文聘どの、霍弋、魯圓圓、雷圓圓で
3万5千の兵を率い、応戦しつつ撤退します。
その他の者は、百ほどの兵と共に真っ直ぐに
洛陽に向かってもらいます」
文 聘「承知した。早速手配しよう」
霍 峻「……ふーっ」
霍峻は大きくため息をついた。
文 聘「どうされた。
やはりこの孟津を捨てるのが不満だと?」
霍 峻「いえ、そうではありませんよ。
撤退の判断自体は、冷徹ではありますが
間違ってはいないと思います」
文 聘「では、なぜ不満げなのか」
霍 峻「……孟津を奪われれば、次は洛陽です。
20万の民の住む古都が、戦場となるのは……
あまり、気分のいいものではありません」
文 聘「ふむう、なるほど。確かにこれまで、
城が戦場となることは多くはなかった……。
大都市洛陽が戦場となってしまっては、そこに
住む民も皆無事というわけにはいかないか」
霍 峻「彼女とて、それは分かっているはずなのに」
文 聘「だが、孟津で戦うより洛陽城で戦うほうが
はるかに有利に戦えるはず。違うかな」
霍 峻「いえ、そうです……。
だから私も、こうして彼女の命に従うのです。
ですが、頭では分かっているはずなのに……」
文 聘「御大将……いや、霍峻。思いつめるな。
そう悩みすぎるとハゲるぞ」
霍 峻「……!」
文聘は、以前のように呼び捨てで霍峻を呼んだ。
……昔、劉表の重臣だった文聘は、彼と同じく
劉表に仕えていた霍峻よりも立場は上だった。
文 聘「まずは目の前のことから片付けよう。
引き上げるとなれば、さっさと引き上げだ」
霍 峻「……先ほどまで、偽手紙ではないかと
疑っていた人の言葉とも思えませんね」
文 聘「私は一旦決めたら早いんだ。
そういうそちらこそ、一度決断したはずなのに
グズグズとするのはどうかと思うが?」
霍 峻「確かに、そう言われてみれば。
フフ、では、今やるべきことをしましょうか」
文 聘「そういうことだ。御大将、頼むぞ」
7月中旬。
霍峻の指示で、港の大部分の兵は洛陽へ撤退。
残った秦朗と5千の兵の防御を、諸葛亮の隊は
飲み込み、孟津港を制圧した。
諸葛亮
秦朗
諸葛亮「ふむ……。
では、貴殿を残し、皆洛陽へ撤退したと」
秦 朗「は……。霍峻どのは私にこう申されました。
港が落ちるまでは楚の将として戦うように、
その後は貴殿の自由にしてよいと……」
諸葛亮「で、貴殿はどうしたいのか?」
秦 朗「できますれば、魏に仕えとうございます。
魏を一度裏切りはしましたが、私は曹家に
恩義がございますゆえ……」
諸葛亮「承知した。だが、こちらにも都合がある。
すぐ復帰してもらうわけには参らぬな。
しばらくは牢に入っていていただく」
秦 朗「ははっ」
魏軍が捕らえていた秦朗を登用するのは、
その1ヶ月ほど後のことになる。
曹彰
諸葛亮
曹 彰「おう、軍師。
港を落としたというのに、景気の悪い顔だが」
諸葛亮「景気が悪いからそういう顔になるのですよ。
……できれば、楚軍の兵力はもう少し
削っておきたかったのですが」
曹 彰「しかし、張遼どのも張飛も怪我を負っていた。
長引けばどうなっていたか分からないが」
諸葛亮「いえ、必ず勝っておりました。
我らの後詰に関羽将軍が来ておりましたから。
この陣容で勝てぬようでは、軍師失格です」
曹 彰「おお、関羽どのが来ているのか」
諸葛亮「魏公はこの戦いに賭けているようです。
精強、精鋭の将兵を次々にこちらのほうへ
送り込んできているようですね」
曹 彰「それだけ洛陽を奪還したいということだろう。
洛陽はただの一都市じゃないからな」
諸葛亮「ええ。『漢』という国の象徴ですから。
さて、曹彰どの。まだまだ仕事はありますぞ。
魏の公子にも、骨を折っていただきます」
曹 彰「うへえ……勘弁してほしいな」
諸葛亮「では先ほどから貴殿を探している曹泰どのに、
貴方がここにいることを教えてあげましょうか」
曹泰
曹 泰「曹彰さま〜。どこですの〜」
諸葛亮「さて、どうします?」
曹 彰「それも勘弁してくれ。
ようやく静かになったんだから……」
諸葛亮「では、仕事をやっていただきましょう」
曹 彰「わかったよ、やればいいんだろう」
諸葛亮は、降伏した負傷兵の取り込みのために
魏公の次子である曹彰をあてた。
楚軍の負傷兵を取り込み、後詰の関羽隊が
港へ到着すれば、ここの最終的な兵力は
8万に到達することだろう。
(ただし、負傷兵が完全に回復するには
しばらく時間を要することになる)
霍峻らが逃げ込んだ洛陽の楚軍の兵よりも、
こちらの方が、兵数は上回るのである。
諸葛亮「さて……どんな手を打ってくるか。
このまま我々に洛陽を奪われてしまうのを
待っているわけもなかろうし、な」
洛陽を巡り、どう戦況は動いていくのか。
☆☆☆
さて、楚涼の戦いの方に目を移そう。
多少時間は前後して6月下旬。
魏興城塞の増援のため穣県に派遣された魏延。
他の者たちと共に、どうやって涼と戦うか
協議をしていたところであった。
……が、議論は多少過熱気味のようである。
魏延
楊儀
魏 延「我らがここに来たは、魏興を守るためぞ!
その任を忘れるんじゃない!」
楊 儀「将軍は一戦場のみを見ておられるのですか?
いやはや、なんと視野の狭いことか」
魏 延「なんだと!?」
楊 儀「涼との戦い全体を見てください。
魏興が落ちるのも防がねばなりませんが、
武関を落とさせるわけにもいかないのです」
楊儀が、武関に迫っている涼の韓徳隊への偽報を
進言したのだが、魏延はそれを許さなかった。
魏延としては、魏興の救援こそ第一。
武関の守備のことは、武関や宛にいる者たちに
任せるべきだという判断であった。
魏延も楊儀も譲らない。
本来なら、魏延が却下すればそれで終わりのはず
なのだが、楊儀は下がろうとはしなかった。
楊 儀「よいですか将軍?
武関が落とされれば、宛城が狙われます。
そして宛から新野へと敵の手は進み……。
北と南を分断され、楚国は立ち行かなく
なってしまうのですよ」
魏 延「知ったふうな口を!
貴様は軍師でもなければ司令官でもない!
何様のつもりだ!?」
楊 儀「確かに今の私は一介の補佐官……。
ですが、この戦局全体を広い視野で見、
大将に助言をするというこの行為は、
すなわち補佐官の役目と申せましょう?」
魏 延「それが助言をする者の物言いか!」
鞏志
馬謖
鞏 志「ま、まあまあ、魏延どの。
そう熱くなることもありますまい」
馬 謖「楊儀どのの策も、一理ある。
武関に迫る涼軍の部隊を偽報にかければ、
関へ一度に来る兵力を分散できましょう」
魏 延「む……確かに武関を守る連中はそれによって
楽になるかもしれん。だがしかし、それは
あちらで対処すべき問題ではないか」
鞏 志「原則はそうでしょうが。計略は誰がやっても
同じ、というわけではありませんし。
今回は、楊儀どのが韓徳をひっかけるための
いいネタを仕入れたのでしょう?
ならば、彼に任せるのが一番だと思いますよ」
魏 延「……むむ」
楊 儀「将軍にご迷惑はお掛けしません。
将軍は思う存分、涼軍と戦ってくだされ」
魏 延「もういい、勝手にしろ!」
楊 儀「はい、勝手にさせていただきます」
7月に入り、秋の収穫により兵糧を確保した楚軍。
魏延は2万の兵、蛮望、鞏志、馬謖、陶商を連れ、
魏興城塞の救援として出撃した。
魏延
蛮望
魏 延「……くそっ」
蛮 望「あらあら、何を怒ってるのかしら。
もしかして、私の美しさに嫉妬?」
魏 延「黙ってろこのクソキモオカマ」
蛮 望「ひ、ひどいっ!」
馬謖
鞏志
馬 謖「……どうも、魏延将軍は楊儀の態度が
気に入らないようですね」
鞏 志「魏延どのはプライドが高いからなぁ。
楊儀も、自分の才を鼻にかけるフシがある。
合わないのも当然なのかもしれない」
馬 謖「私も楊儀はあまり好きではありませんね。
あの場を収めるために策に同意はしましたが」
鞏 志「……君もまた、プライドが高いからねぇ」
魏延隊は魏興城塞へと到着。
そこではすでに、涼軍の馬休隊2万5千、
呂鶴隊1万が金目鯛の部隊1万5千と
交戦を始めていた。
魏 延「視野が狭い、だと……。
何様のつもりだ、奴は!」
蛮 望「もしもーし? 敵は目の前よー」
魏 延「分かっている!
全軍、馬休隊を一気に殲滅せよ!」
蛮 望「はーい」
魏 延「覚悟しろ、涼の者ども。
この魏延と戦う不幸を呪うがいい!」
馬休隊に突っ込んでいく魏延。
その時、馬休隊の陣形が突如乱れ始めた。
魏 延「なに!? どうした」
楚 兵「楊儀さまの撹乱が成功したとのことです!
御大将、今が好機ですぞ!」
魏 延「……あやつ、余計なお世話を!」
怒りに満ちた形相で暴れる魏延。
まるで鬼神かと見紛う暴れぶりである。
両軍の戦いはかなりの激戦となったが、穣県から
さらに増援として来た呉懿の部隊2万が参戦し、
涼軍の馬休隊・呂鶴隊は全滅した。
魏興城塞は、ひとまず危機を脱したのだ。
☆☆☆
もう一方、武関の攻防は。
楽淋
張虎
楽 淋「馬鉄の野郎は撤退したか」
張 虎「うむ。韓徳の部隊はなにやらウロウロしてるし、
ようやく一息つくことができるな」
6月末。
それまで武関を攻め立てていた馬鉄隊が撤退。
また、その後続としてやってくると思われていた
韓徳隊は、偽報により行ったり来たりを繰り返し、
まだ武関の前には現れていなかった。
楽 淋「だが、安心はできんぞ。
そろそろ、馬騰の本隊がやってくるらしい」
張 虎「ああ……。兵4万、しかも軍師楊阜もおり、
勇将庖徳、娘の馬雲緑もいるらしい」
楽 淋「気合を入れ直して戦わんとな。
まあ、ようやく兵糧も入ってくることだし、
野戦で奴らを蹴散らしてやるさ」
張 虎「お、おい……野戦たって、将が足りないぞ。
まさか、俺とお前だけでやるつもりか?」」
楽 淋「もちろんそのつもりだが。
なんだ張虎、怖気づいたのか」
張 虎「うぉい! 怖気づくとかの問題じゃないぞ!
勝てるかどうかの問題だろう!」
楽 淋「ふん、俺の武は誰にも負けん。
七星宝刀とスーパーモードがある限りな!」
張 虎「(ダメだこいつ……。早くなんとかしないと)」
???「フッ、スーパーモードか……。
だが、そのようなものに頼っているうちは、
真の武人にはなれんぞ、楽淋!」
楽 淋「だ、誰だ!」
郭淮
郭 淮「フフフ、私は謎の武将刑事!
その名も、カクワイダー!」
楽 淋「……なにやってんすか郭淮さん」
郭 淮「カクワイダー!」
楽 淋「はいはい」
于禁
牛金
于 禁「よく踏ん張っていたな、よくやった」
牛 金「怪我とかはしてないかー」
張 虎「于禁どの、牛金どの!」
于 禁「兵糧も入ってきて野戦解禁だ。
これで馬騰の部隊を叩いてやるとしよう」
楽 淋「ちっ、来てくれなくたって良かったのに」
張 虎「おい、楽淋。失礼だぞ」
楽 淋「いーや。俺たちだけで勝てる相手だぜ。
それとも、美味しい所を奪いに来たのか?」
張 虎「楽淋!」
于 禁「……楽淋よ」
于禁は、失礼なことを言っていた楽淋に、
怒鳴るわけでもなく呼びかけた。
楽 淋「な、なんだよ」
于 禁「スーパーモードはいかん。
アレは諸刃の剣、いずれお前に害を為すぞ」
楽 淋「うるさいな、大して知らん癖に。
あれは楽家に伝わる究極奥義なんだよ」
于 禁「……楽進が言っていたとしてもか」
楽 淋「親父?
親父がそんなことを言っていたのか?」
于 禁「うむ。死の間際にな」
楽 淋「……だ、だとしても、だ。
使う使わないは俺の自由だろう」
于 禁「確かにそうだ。だから、もしそれでお前が
死んだとしても、私は別に構いはせん。
だが、それにより味方が危機に陥るならば、
私はお前を止めねばならん」
楽 淋「……」
于 禁「忠告はしたぞ。後はお前次第だ。
……さあ、分かったら支度をせい」
楽 淋「支度? なんの」
于 禁「野戦だ。私の指揮で馬騰隊を叩くぞ。
それとも、出たくないのか」
楽 淋「だ、誰がそんなことを言った!
よ、よし! 馬騰をブチ倒してやるぞ!」
馬騰隊を野戦で迎え撃つため、于禁を大将、
牛金、楽淋、張虎、夏侯徳を副将とした
3万の部隊が出撃した。
(郭淮は、宛から来る増援の兵を迎えてから
出撃する予定となっている)
楽 淋「いくぜ……! 俺の力を見せ付けてやる!」
迫ってきた馬騰隊に突撃する于禁隊。
その先鋒として切り込んでいった楽淋は、
敵軍の中に涼の勇将、庖徳を見つけた。
楽淋
庖徳
楽 淋「そこに見えるは庖徳だな!」
庖 徳「むっ……。敵将か」
楽 淋「おうよ、行くぜ!
我が名は楽淋! 勝負だっ!」
庖徳に挑みかかる楽淋。
果たして、この勝負の行方は……?
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