○ 第八十九章 「蒟蒻畑は死の香り」 ○ 
221年06月

6月中旬。
魏軍が動いたことはすでに前章にある通りだが、
実は、それ以外にも動きを見せた軍があった。

それは倭である。

 第三次曲阿海戦

倭女王に率いられた倭軍は、再び4万の軍を
繰り出し、揚州、曲阿を目指していた。

   倭女王倭女王  倭武将A倭武将

倭女王「フフフ……。聞けば楚は涼に宣戦布告を受け、
    その侵攻を受けておるらしいのう。
    さらには最近、魏も侵攻を開始したとか」
倭武将「はあ、そう聞いております」
倭女王「ここでさらにこの倭軍が動くのじゃ……。
    楚王金旋は、大いに慌てておるじゃろうな!」
倭武将「はあ、まあ困っているとは思いますが」
倭女王「プププ……。いい気味じゃ!
    今頃はウ○コを漏らしながら、白目を剥いて、
    口からは泡吹いて慌てておるじゃろうな!」
倭武将「いや、流石にそこまではないかと」

そんな時、倭巫女が怖い顔でやってきた。

    倭巫女倭巫女

倭巫女「女王!」
倭女王「なんじゃ、巫女。騒々しいぞ」
倭巫女「騒々しくもなります! どういうことですか!」
倭女王「な、何がじゃ」
倭巫女「これです、これ!」

そう言って彼女が出した書状には、こうあった。

 『お前らもう帰ってよいぞ』

倭女王「……なんじゃ、それは」
倭巫女「なんじゃ、って……。
    女王が書いたんじゃないんですか」
倭女王「そんなものをわらわが書いてどうするのじゃ。
    大体、これから曲阿に戦いに行くのだぞ?
    どこに帰るというのじゃ」
倭武将「ですよねー」
倭巫女「え? で、でもこれ……。
    女王からだと言われたのですが」
倭女王「はぁ?」
倭巫女「同じものが倭武将B&Cの部隊にも行って、
    彼らが帰ってしまったとも聞きましたよ」
倭女王「なんじゃとーっ!?」

倭女王隊と一緒に行軍していたはずの倭武将B隊、
倭武将C隊が、いつのまにかUターンしていた。

 ほなサイナラ

倭女王「な、なんで帰るんじゃー!!」
倭巫女「いえ、ですからこの命令書……」
倭女王「この書状は敵が仕掛けてきた計略じゃ!
    ちょっと考えればすぐわかるじゃろうに!
    こんな子供騙しの策に引っかかるでないわ!」
倭武将「でも、女王の字にそっくりですよね。
    信じてしまうのも無理はないというか……」
倭女王「馬鹿か、おぬしは!?
    わらわの字はもっと上手いわ! 見ておれ!」

  さらさらさら

倭女王「どうじゃ! この達筆を見よ!」
倭巫女「……同じですね」
倭武将「うむ、そっくり」
倭女王「…………」

   _| ̄|○ ←倭女王

倭女王「と、とにかく! 計略に引っかかってしまった
    馬鹿者どもを呼び戻すのじゃ!」
倭武将「は、はい。すぐに早船を出します!」

使いをやり、再び曲阿へ向けることはできたが、
倭女王隊と他の部隊との距離は開いてしまった。

それこそが楚軍の計略の狙いだったのだ。

    ☆☆☆

さて、倭軍を迎え撃つことになる曲阿では。

   甘寧甘寧   凌統凌統

甘 寧「こうもあっさりかかるとは思わなかったな。
    どうやら倭軍の将は頭が弱いようだな」
凌 統「はは、魯粛どのの書状のお陰だろう。
    さて、倭女王隊を迎え撃つ準備をするか」
甘 寧「うむ。分断したことで大分有利に戦えるな。
    今回も前回同様、部隊を小分けして出そう。
    黄祖も荊州組と共に準備を頼むぞ」

    黄祖黄祖

黄 祖「あー、すまん。
    荊州組は今回休みにしてもらって良いか」
甘 寧「休み? どうした、腰でも痛いのか」
黄 祖「ワシじゃないわい。
    いや、実は蔡和が風邪をこじらせてしまってな。
    どうも出陣は無理そうなんじゃ」
凌 統「夏風邪はなんとかが引くと言うが……。
    では、代わりに魯粛どのを入れれば良かろう」
黄 祖「あー、蔡和がいないと蔡中の馬鹿が目立つし、
    兵法連携もし辛くなるからのう。
    歳食ってる連中が多いし、今回は休ませてくれ」
凌 統「むう。確かに兄弟間は連鎖しやすいからな」
甘 寧「まあ、今回は余裕があるし、よかろう。
    では、甘寧・朱桓・蒋欽・韓当の4部隊で出る」

他の2艦隊と分断され、先行して来る倭女王隊を
迎え撃つため、甘寧は迎撃艦隊を出撃させた。
留守番には魯粛と、黄祖、黄射、張允、蔡和、蔡中の
荊州組の面子、そして1万6千の兵を置いた。

○迎撃艦隊の陣容
 甘寧隊(留賛・留略・蘇飛・凌統:闘艦)1万5千
 朱桓隊(朱異・朱拠・陳武・陳表:闘艦)1万5千
 蒋欽隊(周泰・朱治・董襲・吾粲:闘艦)1万5千
 韓当隊(孫瑜・孫奐・孫匡・孫朗:闘艦)1万5千

7月。
楚の迎撃艦隊は倭女王隊2万と交戦を開始。
3倍の兵力差で、楚軍は倭女王隊を圧倒した。

   蒋欽蒋欽   周泰周泰

蒋 欽行くぞ、周泰!
周 泰おお、参るぞ蒋欽!

蒋欽・周泰のゴールデンコンビ強攻が決まる。

   朱拠朱拠   朱桓朱桓

朱 拠「それ、水罠を発動せよ!」
朱 桓「よし、よくやったぞ朱拠!
    この隙に強攻だっ! うおおおおっ!

朱拠の罠で生じた隙に、朱桓のタイガー強攻が。

   韓当韓当   孫瑜孫瑜

韓 当「ここでトドメだ! いくぞ孫瑜!」
孫 瑜「了解! 孫匡、孫朗! 飛べタイ!」

   孫匡孫匡   孫朗孫朗

孫 匡よーし行けェ! スカイラブ!
孫 朗ツイン! 矢嵐ーっ!!
韓 当「……良くわからんが、これで終わりだ!」

そしてこの韓当隊の攻撃がトドメとなり、
倭女王隊は反撃すらままならず、敗れ去った。

    倭女王倭女王

倭女王「つ、次は覚えておれぇぇぇぇ!!」

   倭巫女倭巫女  倭武将A倭武将

倭巫女「すっかりヤラレ役ですね、私たち」
倭武将「もう慣れましたな」
倭女王「慣れるなー! うわぁぁぁん!!」
倭巫女「おお、よしよし」

その後、遅れてやってきた倭武将B・Cの艦隊も
待ち受けていた楚軍に蹴散らされてしまった。

この戦いで、楚軍はほとんど被害らしい被害もなく、
逆に1万もの負傷兵を得て、曲阿の兵数を増やした。

   甘寧甘寧   凌統凌統

甘 寧「順調に兵も増えてきているな」
凌 統「この調子でいけば、いずれはこちらから
    仕掛けていくこともできるだろうな」

こうして意気揚々と港に戻った彼ら。
だが、それを待っていたのは、どんよりと暗い
表情をした黄祖だった。

    黄祖黄祖

黄 祖「……おう。早かったのう」
甘 寧「どうした、暗い顔をして。
    せっかくの勝ち戦だというのに景気が悪いぞ」
黄 祖「……蔡和が死におった」
凌 統「ええっ!?」
甘 寧「な……。風邪をこじらせたのが原因でか?」
黄 祖「いや、これじゃ」

首を振った黄祖はあるものを取り出した。

凌 統「ゼリー?」
黄 祖「うむ。こんにゃくゼリーじゃ。
    どうも飯が食えぬというので、ゼリーならば
    食えるだろうとこれをやったのだが……。
    丸呑みして咽喉に詰まらせてしまってな……。
    あっけなく、逝ってもうた……」
甘 寧「なにーっ!?」
凌 統「そ、そんなアホな死に方で!?」
黄 祖「くっ……。確かに蔡和はアホじゃった。
    だが、奴の勇姿はワシらの記憶に残っている!
    死しても、奴の魂は生き続けるのじゃ!」
甘 寧「勇姿というのはどうだろう。
    いや、全く活躍しなかったわけではないが」
凌 統「いつも蔡中とセットだったしな」
甘 寧「だが、まあ……。
    陰ながら楚の水軍を支えてくれたのは確かだ。
    ここは、彼のために黙祷を捧げるとしよう」

 さらば、蔡和……!
  君のことは忘れない、絶対に。

甘 寧「たぶん、忘れないとは思う……」
凌 統「わ、忘れないんじゃないかな?」
黄 祖「ま、ちょっとは覚悟しておけ、と」

なにはともあれ、倭軍の侵攻は撃退した甘寧ら。
蔡和の死という大きな悲しみを乗り越えた時、
彼らの次の戦いが始まる。

甘 寧「これでますます蔡中の影が薄くなるな」
凌 統「下手すると黄祖の隊も解散の危機だぞ」
黄 祖「代わりの荊州組メンバーを探さんとなぁ」

えー、悲しみを、乗り越えた時……。
さ、さらば蔡和! 君のことは忘れない!

    ☆☆☆

さて、時間を戻し、再び6月中旬のこと。

上党の魏軍が動き、総勢8万の軍が動員された。
彼らは諸葛亮の指揮のもと、孟津へと向かう。

 上党動く

先鋒を行くは張遼の蒙衝艦隊、兵4万の部隊。
そしてその後ろを、本隊の諸葛亮の楼船艦隊、
兵4万の軍が悠然と進んでいく。

旗艦の船べりから行く先を眺めていた諸葛亮に、
参謀の賈駆が近寄ってきた。

   諸葛亮諸葛亮  賈駆賈駆

諸葛亮「これは賈駆どの。どうされましたか」
賈 駆「諸葛亮どの。
    孟津の楚軍を圧倒する兵力は用意できた……。
    だが、それだけでは楚には勝てぬのでは?」
諸葛亮「ほう。それはどういうことですか」
賈 駆「楚軍は水軍の整備が進んでおる。
    その彼らに水軍で自由に戦わせてしまっては、
    如何に兵力で勝っていようと苦戦は必至」
諸葛亮「確かに」
賈 駆「で、貴殿はその対策を考えているのか?
    策がなければ、また敗れてしまうかもしれんぞ。
    こうも負けが重なってくると、軍師としての
    貴殿の力量を疑う者も出てきかねん」
諸葛亮「心配はご無用です。
    孟津は必ず落として御覧に入れますよ」
賈 駆「……では、策はあるということか」
諸葛亮「ええ。……先鋒隊に持たせた『鎖』。
    あれこそが、我らの勝利の鍵となります」
賈 駆「おお、そういえばそんなものを積んでいたな。
    あれを使って策を講じるというのか」
諸葛亮「左様です」
賈 駆「だが、果たして彼らがその策を無事に
    実行できるか、不安は残るが……」
諸葛亮「大丈夫です。張遼どのが大将なのですよ。
    それに、副将たちもなかなかの猛者たちです。
    必ずや、作戦を遂行してくれるでしょう」
賈 駆「そうかのう……。わしは逆に、副将たちが
    はみ出すくらい猛者すぎて心配なのだが」

さてその頃。
当の心配されている張遼隊では……。

   張飛張飛   張遼張遼

張 飛「なあ張遼、酒飲んでいいか?」
張 遼「……これで何度目だろう。
    良いか張飛どの、駄目と言ったら絶対に駄目だ。
    今は駄目だが、楚軍との戦いに勝った後ならば、
    好きなだけ飲んで貰ってかまわぬから」
張 飛「そうは言うが、船に酔っちまいそうでなぁ〜。
    それだったら、船に酔う前に酒に酔った方が
    マシなんじゃねーかと、まあそういうわけで」
張 遼「とにかく駄目」
張 飛「ちぇっ、全くケチだな」

    曹彰曹彰

曹 彰「(もぐもぐ)戦の前に酒とか、(もぐもぐ)
    (もぐもぐ)許せるわけないだろ(もぐもぐ)」
張 飛「……おめーはバナナ食ってんじゃねーよ」
曹 彰「(もぐもぐ)そうは(もぐもぐ)いうが(もぐもぐ)
    はらが(もぐもぐ)へっては(もぐもぐ)」
張 飛「食いながらしゃべるんじゃねえ!
    食うのか喋るのか、どっちかにしろよ!」
曹 彰「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
張 飛「食うのが優先かよ!?」
曹 彰「もぐもぐ、ごっくん。
    ……腹が減っては戦はできぬって言うだろう。
    ま、大事な戦の前の栄養補給ってところだな。
    アンタが酒を欲しがるのとは全然違うぜ、っと」
張 飛「……ほほう、それで?
    また新たにバナナを取り出してどうする気だ?」
曹 彰「食うに決まってるだろ。もぐもぐ」
張 飛「何本食う気だおめーは!?」

    曹仁曹仁

曹 仁「はっはっは、曹彰は身体が大きいからな。
    体力の維持のためには仕方がない」
張 飛「俺もデカイんだがな。
    俺サマのこの巨体を動かす燃料としてだな、
    是非とも酒が必要というわけで……」
張 遼「絶対駄目」
張 飛「ちぇ、全く話になんねえな。
    そもそも、なんで俺が張遼の副将なんぞを
    やらねばならんのか……」
曹 彰「張遼どのの方が官職が上なんだから、
    そりゃ仕方ないことだろう?
    指揮能力だって張遼どのの方が上だ」
張 飛「む」

    曹泰曹泰

曹 泰「そうですわ、曹彰さまのおっしゃる通り。
    曹彰さまとて、魏王の御子という立場ですのに
    張遼どのの指図に黙って従っているのですよ」

張 飛「……誰だよ、この生意気な娘っ子は」
曹 仁「これは失礼、紹介が遅れましたな。
    これは我が娘、曹泰にござる」
張 飛「曹仁の娘だぁ?」

張 遼「うむ、なかなかの才の持ち主で。
    父曹仁どのにも匹敵する能力を持っている」
曹 泰「そういうわけですの。
    覚えておいていただきたいですわね」
張 飛「ふーん、曹仁の娘ねえ。
    いや、何だ……。母親に似てよかったな」
曹 仁「そりゃ一体どういう意味だ、コラ!」
張 遼「まあまあ、曹仁どの」
張 飛「それにしても、将だったのか。
    以前に、曹彰の後ろを金魚のフンみたいに
    ついて歩ってるのを見たことがあったな。
    俺はてっきり、副官か何かと思っていたぜ」
曹 泰「だ、誰が金魚のフンですか!
    魏国の公子である曹彰さまに付き従うことに
    何かおかしいことがあるのですか!?」
張 飛「お前だって張遼の副将だろうが。
    付き従うのなら、張遼のほうが先だろうに」
曹 泰「あ、貴方にそんなことを言われる筋合いは
    これっぽっちもありませんわ!
    私にとって、曹彰さまは特別なのです!」
張 飛「……あー、なに?
    お前、曹彰に惚れてんのか?」
曹 泰「ほ、惚れるとか掘られるとか!
    そんなこと今は関係ありませんわ!」

そんな感じで曹泰が張飛と口論を続ける横で、
曹彰は曹仁にうんざりした顔を見せていた。

曹 彰「曹仁どの……彼女はどうにかならんのか。
    こうベッタリくっつかれていては、疲れる限りだ」
曹 仁「すまない。
    あれの『曹彰さま好き好き病』は、
    どうにもならんところまで来ておってな」
曹 彰「むむむ」
曹 仁「この際、あれをお主の嫁に貰ってくれれば、
    私としても幸いなのだがなぁ……」
曹 彰「いや、それは……。彼女の器量は悪くないが、
    同姓の者を嫁にするのには抵抗があってだな」
曹 仁「左様か、残念」

張 遼「……もうそろそろ孟津が見えて来る頃だ。
    ふざけているような時間はもうない。
    各自、手はず通りに作戦を実行すること」

 「うぇーい」「ああ、任せてくれ」
 「了解した」「ご安心くださいませ」

張 遼「……大丈夫、なんとかなる。
    個性が強いだけだ、個性が……」

    ☆☆☆

さて、それを迎え撃つ孟津では。
元からいた文聘の他、許昌から派遣された霍峻、
霍弋、魯圓圓、雷圓圓、鄒横、管念慈などが
急ピッチで港内の艦隊の整備を急いでいた。

   霍峻霍峻   文聘文聘

霍 峻「準備を急いでください!
    すでに魏軍はそこまで来ています!」
文 聘「積荷がまだ外に出ているぞ!
    艦内に積み込め! 手早く、大事にな!」

   魯圓圓魯圓圓  雷圓圓雷圓圓

魯圓圓「各自、ID登録を急ぐようにー。
    未登録者は負傷時に保険が下りないですよー」
雷圓圓「トイレ列は三十分待ちでーす。
    最後尾の札のあるところに並んでくださーい」

上流に張遼の艦隊が見えてきた頃。
なんとか迎え撃つための準備を終える。

孟津5万強の兵のうち、5千を港の守備に残し、
残りを霍峻、魯圓圓の2艦隊に割り振った。

 霍峻隊  2万5千(霍弋・文聘・蘇由・王修)
 魯圓圓隊2万2千(雷圓圓・鄒横・管念慈)

霍 峻「よし、なんとか間に合いましたね。
    それでは、各艦隊、出撃します!」

港から発進しようとする楚水軍。
だが、その時。魏軍は驚くべき行動に出た。

    張遼張遼

張 遼「よし、今だ! 連環!」

艦隊の先頭に横一列に並んだ蒙衝。
その並んだ隣同士の艦体を、鎖で繋いだ。

 連環蒙衝

    張飛張飛

張 飛「よっしゃー! つっこめー!」

そして、横に繋がれた一直線の蒙衝の群れを、
張飛の指揮で港の入り口へと突っ込ませる。

霍 峻「なっ……」

 ずがーん

連環蒙衝は、港へ特攻。
港から出る途中だった楚の艦などを巻き込み、
港の入り口を端から端まで、完全に塞いだ。

 連環蒙衝成功

魯圓圓「こ、これでは艦隊を出せないわ!
    というか、こんなのってアリなの!?」
雷圓圓「審判さん! 判定お願いします!」
魯圓圓「え、審判?」

    審判審判

審 判セーフ!!

雷圓圓「セーフだそうです。アリということで」
魯圓圓「ちょっと待て! 奴は何!?」
雷圓圓「審判さんは審判さんですよぉ。
    袁紹に仕えた審配の一族で、袁家が滅んだ後
    あらゆることを判定する仕事をやってるんです。
    あ、彼の判定は絶対ですから、覆りませんよ」
魯圓圓「そ、そんなのがいたんだ。
    ……ま、まあ、それはいいとしましょう。
    問題は、港を塞いだあれをどうするかだけど」

   管念慈管念慈  鄒横鄒横

管念慈「所詮は、蒙衝を繋いだだけのもの。
    ここは、火矢を使って燃やしましょう!」
鄒 横「馬鹿、火なんて使えるか!
    煽られた火が、港全体を焼いてしまうぞ!」
管念慈「くっ……。それでは、どうすれば!」
魯圓圓「手でどけようにも、敵の攻撃に遭うだろうし。
    困ったわね、打つ手がないわ」

文 聘「御大将。ここは出港を諦め、陸上に上がり
    弩で攻撃するしかないと思うが……」
霍 峻「そうですね……。各隊、陸上に上がり、
    そこから敵艦隊へ弩による攻撃を」

霍峻隊、魯圓圓隊とも艦隊の出港を諦め、
陸上から弩による攻撃を仕掛けることにした。
張遼隊は連環蒙衝によって港を塞いだ後、
本隊が距離を詰めて港への攻撃を始めている。

張 飛「はーっはっは! 見たか楚軍め!
    こうなってしまっては、いくらてめえらが
    水軍が得意であっても関係ねえな!」

雷圓圓「自分で考えた策じゃないくせにー!」
張 飛「あんだとー!? この小娘が!
    この張飛さまを馬鹿にするのかー!」
雷圓圓「ええい、うるさい、このハゲ!」
張 飛「は、ハゲちゃうわ! まだフサフサだ!」
雷圓圓「問答無用! 連弩、撃てー!」
張 飛「げっ」

雷圓圓の連弩の矢が、張飛の周りに降り注ぐ。
張飛、絶体絶命か。

   曹彰曹彰   曹泰曹泰

曹 彰「なっ、張飛ー!?」
曹 泰「惜しい人材を亡くしましたわね」
曹 彰「は、早いわ!
    まだ死んだと決まったわけじゃ……」
曹 泰「あんな大量の矢を浴びせられてしまっては、
    生きてるほうが不思議なくらいですわよ」

張 飛「あー、びっくりした」
曹 彰「お、おお!? 生きているぞ!」
曹 泰「ま、まさか!? 信じられない!」

張 飛「いてて……。何本か矢を食らっちまったな。
    だが、俺はそう簡単には死なないぜ!」
魯圓圓「ど、どう見ても『何本か』程度じゃなく
    刺さってるんだけど……どうなってるの」
雷圓圓「むむ、流石は天下の豪傑ですね!
    この程度の矢は屁でもないということですか!」
魯圓圓「え、そ、それで済んじゃうの!?」

こうして張飛を負傷させはしたものの、
魏軍の孟津港への攻撃はやむ事はなかった。

魯圓圓「くっ……。こうなったら、敵大将を狙う!
    管念慈の分隊は張遼隊の前衛をけん制!」
管念慈「了解! 弩隊、前衛に矢を集中させよ!」

張遼の前衛を守る艦が、その攻撃でひるんだ。
攻撃を避けようと、少しだけ横へと移動する。

魯圓圓「よし、前衛が動いた今が好機!
    連弩隊、旗艦へありったけの矢を叩き込め!」

  ざーっ

一瞬、空が暗くなってしまうほどの大量の矢が、
張遼の乗る旗艦へと降り注いだ。
張遼のいる司令部も、多数の矢を受けてしまう。

張 遼「ぐっ……。
    陸に上がってもなかなか手強いものだな。
    油断したわけではないが、効いたぞ」
魏 兵「御大将!? お、お怪我を!?」
張 遼「そう騒ぐな……。
    負傷したのはわしだ、貴官ではないぞ。
    悲鳴などを上げているヒマがあるのなら、
    さっさとこの矢を抜かぬか」
魏 兵「は、ははっ! ただちに……。
    衛生兵を呼べ、早く治療するんだ!」
張 遼「いや、今はこの矢を抜くだけでいい。
    他の負傷兵を優先しろ。それと他の艦へ伝令だ。
    旗艦は無事である、港への攻撃を続けろ、と」
魏 兵「は、はいっ!」

大将の張遼は矢を受け、重傷を負いながらも、
変わらぬ態度で艦隊を指揮し続ける。

張 遼「魏公の一族である曹仁どの、曹彰らを
    差し置いて大将を務めているのだ……。
    これくらいやらねば、魏公に申し訳が立たん」

驚異的な精神力で戦線を維持し続ける張遼。
そこへ、ようやく本隊の諸葛亮艦隊が到着した。

    諸葛亮諸葛亮

諸葛亮「張遼どの、よくやってくれました。
    さあ、もはや孟津港は落ちたも同然です!
    総攻撃を開始してください!」

諸葛亮隊の曹真、賈駆、関平、劉封が
それぞれ孟津へ攻撃を仕掛ける。

中でも、劉封の気合の入り様は他を上回っていた。

   劉封劉封   関平関平

劉 封「義父劉備との関係を疑われる立場、
    この戦いで変えてみせる! いくぞ!」
関 平「おお、気合入ってるな、劉封!
    よし、私もそれに付き合うぞっ!」

劉封・関平の矢嵐は、残る兵が少ない孟津を襲った。
守る秦朗は、耐え切れず霍峻に助けを求める。

秦 朗「霍峻どのーっ!
    こ、このままでは、落ちますーっ!」

霍 峻「いけない……。魯圓圓隊に伝令!
    港に戻るようにと伝えてください」

その伝令を受けた魯圓圓隊が戻ったことで、
孟津港の兵力は回復し、これで当面の陥落は
免れることができた。

だがこのままでは、港への攻撃は止むことはなく、
完全にジリ貧状態である。

霍 峻「このままではいけない。どうすれば……」

窮する父に、そばにいた霍弋が意見する。

    霍弋霍弋

霍 弋「父上。ここは敵の武将に狙いを絞っては?
    将が負傷すれば、部隊の攻撃力は落ちます」
霍 峻「おお、いい所に目を付けた、霍弋。
    文聘どの! 弩にて敵将を狙ってください!」
文 聘「承知した! 弩を連射だ!」

文聘の弩連射。
その矢が、張遼隊の張飛に集中する。

張 飛「なっ……」

 ぐさぐさぐさ

張 飛「あー、いてーな! こんちくしょー」
文 聘「な、なにー!?」
霍 峻「張翼徳はバケモノかー!?」

何本もの矢を当てても軽傷に終わってしまった。
結局、霍峻も一度、港へと戻ることにする。

霍 峻「隊を再編し直そう。これで敵艦隊を
    押し返し、水軍を出すことが出来れば……」
文 聘「かなり辛い状況だが、仕方ないですな」

すでに月は7月に入っている。
厳しい状況の中で、霍峻は港の中へ戻った。

だが、そこで彼を待っていたのは……。

霍 峻「こ、この書状は、一体!?」

涼との戦いもまだ続いている中で、
孟津を巡る魏との戦いも、混迷を深めていく。

悪化する戦況に、光は差すのか。
今回のオススメ:蒟蒻畑

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