221年02月
夫婦の契りを果たした劉備と孫尚香は、
その後、西へと向かい、2月には益州に入った。
炎の領内に入った劉備は、旧知の趙雲を頼り、
漢中に駐留している彼の元へ向かった。
かつての主の突然の来訪。
趙雲は複雑な表情で劉備を迎え入れる。
劉備
趙雲
劉 備「元気そうで何よりだな」
趙 雲「は。劉備どのも、お変わりないようで」
劉 備「いや、大分変わったぞー。
ほれ、苦労を重ねてきたせいで、こんなに
耳たぶが伸びてしまったぞ」
趙 雲「耳が長いのは以前からでしたが。
それより……孫尚香どのがなぜここに?」
孫尚香
孫尚香「……」
趙雲は、部屋の端のほうで居心地悪そうに
している孫尚香に目をやった。
劉 備「ああ、彼女か。彼女はマイワイフ」
趙 雲「え?」
劉 備「ワイフ、つまり妻。女房。夫人。嫁。
奥さん。家内。かみさん。かかあ。配偶者」
趙 雲「い、いや、何度も言われなくとも理解できます。
そ、そうですか……奥方ですか。
昔お会いした時は、男勝りな雰囲気でしたが」
劉 備「はっはっは、それが今はもう従順よ。
契りを交わして以来、わしにメロメロ……」
孫尚香「……っ!」
ごいーん
趙 雲「……何か飛んできましたが」
劉 備「ははは、照れているだけだよ」
趙 雲「頭に大きなコブを作りながら言われても、
全く説得力はありませんが……。
そうですか、妻を娶られましたか……」
劉 備「何がっかりした顔してるんだ」
趙 雲「い、いえ、何もがっかりなどしてません。
ところで、私を尋ねて参られた用向きは?
結婚の報告をしに、わざわざこんな所にまで
来たわけではありますまい」
劉 備「いや、単に若くて綺麗な嫁を自慢しにきた」
趙 雲「帰ってください」
憮然とした顔で立ち上がりかけた趙雲を、
劉備は笑って制した。
劉 備「冗談だ、そう怒るな。
お前さんが女に興味がないのは知ってるし。
実は、紹介状を書いてほしかったんだ」
趙 雲「紹介状?」
劉 備「そう、お前さんの今の主人宛てに、な」
趙 雲「……なるほど、炎に仕えるおつもりですか。
わかりました。では、しばしお待ちください」
趙雲は、現在の主君である饗援に宛てて
紹介状を書き上げ、劉備に渡した。
劉 備「それじゃ、またな」
趙 雲「はい、また近いうちに……」
劉備と孫尚香は、饗援のいる江州へと向かう。
そこで彼らは、思いがけない人物と出会う……。
☆☆☆
3月。そろそろ春も終わりに近づき、
暑い夏を迎えようかという呉郡。
楚国首脳部では、現在揚州に集中している兵を、
他地域にどう配分すべきかと話し合っていた。
金旋
金玉昼
金 旋「兵力配置を決めるったって……。
よくわからんが、浮いてる分の兵力は全部
寿春に集めりゃいいんじゃないの?」
金玉昼「そういうわけにも行かないんだにゃー。
一箇所に兵力を集中させると、国境を接する
敵側の拠点も防備を固める結果になるにゃ」
・兵配分案:何も考えてない金旋の場合
庖統
徐庶
庖 統「ここは、余剰兵力の全てを魏侵攻のための
兵力とすべきでしょうな。一方は曲阿より水路で、
寿春より陸路で北の徐州へと侵攻する軍とし、
もう一方は洛陽より北東の冀州へと侵攻する。
複数方向からの侵略、魏軍は防ぎきることなど
できますまい」
徐 庶「それはどうかな。
確かに侵攻する段になれば、勝機は確実……。
しかし、それまで相手が指を咥えてずっと
様子を眺めているだけとは思えない」
・兵配分案:積極的なホウ統の場合
庖 統「ですから、迅速に事を運び……」
徐 庶「幾万の兵全てに迅速な行動は要求できない。
ここは、余剰分の兵力全てを予備兵力として
まず国内に駐屯させ、必要に応じて少しずつ
必要な前線に投入していくべきだと思うが」
・兵配分案:慎重な徐庶の場合
庖 統「貴殿は慎重ですなぁ。貴殿の見た目通りに、
もっと派手な策を考えたほうがよいのでは?」
徐 庶「ほっといてくれ。
格好と策のどこに関係があるってんだ」
金玉昼「……なんで庖統さんがここにいるのにゃ」
金 旋「いや、軍議にぜひとも混ざりたいって言うから。
呉でも軍師やってたし、徐庶と同門だし……」
金玉昼「その徐庶さんと意見対立しまくりだにゃ」
金 旋「俺もこうも仲が悪いとは思わなかったんだ」
徐 庶「いや、仲は悪くないぜ」
庖 統「左様、ただ意見が合わぬだけです」
金 旋「……だってさ」
金玉昼「そう言われても……こう意見が対立してちゃ、
何も決められないにゃー」
金 旋「玉がばっさり決めてくれりゃいいんだって」
金玉昼「それじゃ軍議の意味がないにゃ。
今回は合議で決めるつもりだったからにゃー」
金 旋「甘寧はまだ来ないのか?
甘寧も入ってくれば、ある程度まとまるだろ」
金玉昼「出席予定のはずだけどにゃー。
この時間にやることは伝えてあるけど……」
甘寧
甘 寧「いやー失敬失敬。すっかり遅くなった」
金 旋「お、噂をすれば。遅刻の理由は?」
甘 寧「いや、ちょっと腹を下してしまったもんで。
今はもう収まりました」
徐 庶「どうせ、また生の川魚でも食ったんだろ」
甘 寧「おお、よくわかったな。
地元の漁師に大物を貰ってな、刺身でちょいと」
金 旋「……お前、いい加減にナマモノ食うの辞めろ。
そのうち下痢で死ぬぞ」
甘 寧「ははは、まさか……。
腹下し程度で死ぬほど、ヤワではないですぞ」
金 旋「んー、お前だってもういい歳なんだし、
もう少し体に気を使うべきだと思うがな」
金玉昼「そんなことより、軍議進めたいにゃー」
甘 寧「おお、これは失礼」
ようやく話は本題に入る。
徐庶と庖統、それぞれの意見を甘寧に聞かせた。
金 旋「甘寧はどうすべきだと思う?
お前のことだ、曲阿の水軍の兵力を増強して、
水路で魏へ侵攻すべきだー、とか言いそうだが」
庖 統「それなら、私寄りの意見となりますな」
甘 寧「おいおい、勝手に決めんでくれ。
殿、俺の意見は今言われたのとは全く逆だ。
水軍の兵力は、そう多くすべきではない」
徐 庶「どういうことだ。水軍はいらないのか?」
甘 寧「いらないわけではない。
水軍に多くの兵は必要ないというだけだ」
金 旋「よくわからんな。具体的に説明してくれ」
甘 寧「兵力の集中は、敵兵力の集中も生む。
揚州侵攻の初期、呉領だった陸口を巡って
何度も大きな戦いになったが、あの戦いも、
こちら側の大兵力に呉が対抗できるだけの
兵力を用意したから起きた」
庖 統「うむ、楚の大軍が対岸にいるからこそ、
呉軍は陸口に多くの兵を置いていたわけです」
甘 寧「曲阿に多くの兵を置けば、魏もそれに対抗して
多くの兵を対岸に置くことになるだろう。
無論、それと戦っても負けるつもりはないが、
港というものは攻めやすく守りにくいものだ。
水路ばかりに頼ると痛い目に遭うだろう」
金 旋「そういや、以前に呉も魏に侵攻し領土を
一気に拡大したが、すぐに奪い返されたな。
あれも、水軍に頼りすぎたからか」
甘 寧「そう、だから水軍の兵は一定数にとどめ、
陸路中心の侵攻にすべきだろう、と考える」
金玉昼「陸路なら、城を落とすごとに足場を固めながら
侵攻することができるからにゃー」
甘 寧「無論、陸軍と連動させて水軍を動かすことには
大賛成だ。上手く連携を取れれば、陸だけでは
不利な戦いも、有利に運ぶことができるだろう」
金 旋「ふむ。流石は楚国水軍の第一人者だ」
甘 寧「てなわけで、曲阿の兵力はそれほどいらない。
後は庖統と徐庶の意見の対立のことだが、
まあ中をとって、半分を前線、半分を予備兵力。
そう分ければ、問題はないと思うんだが?」
庖 統「ふむ」
徐 庶「そう言われてみれば、そうだな」
金玉昼「うまく話がまとまったにゃ。
それにしても、流石は甘寧さんだにゃー。
ただ強いだけの将ではないにゃ」
金 旋「うむ、素晴らしい。
才色兼備とはお前のためにあるような言葉だな」
徐 庶「は?」
庖 統「才色?」
金玉昼「ちちうえ……。
いつから男にも興味持つようになったのにゃ」
甘 寧「殿、流石にそれは遠慮したいが」
金 旋「え、え? 何か変なこと言ったか、俺!?」
徐 庶「『才色兼備』の『色』は色気を表してる。
つまり、甘寧に、才能と共に色気を感じると
言ってるわけで……」
庖 統「多分、本当に言いたかったのは『智勇兼備』
ではないかと思いますが」
金 旋「あ、ああっ、それそれ!
間違っただけだ、俺はホモじゃないぞー」
甘 寧「ほっ、良かった」
金玉昼「町娘ちゃんがいなくてよかったにゃ。
聞かれていたらもうホモ認定にゃ」
下町娘
下町娘「すいませーん、誰か私のこと呼びました?」
金 旋「呼んでない! 誰も全く呼んでない!」
下町娘「はあ、呼ばれた気がしたんですけど……。
それより、何か楽しそうな話をしてたんじゃ
ありませんか?」
金 旋「してない! 全くもう真面目な話です!」
下町娘「そうですか? では、失礼しますー」
金 旋「……あの嗅覚はなかなか侮れんな」
金玉昼「ある意味、腐女子の鑑にゃ」
その後、再度話し合いによって細部を詰める。
結局、余剰兵力の半分を許昌方面に移動させ、
うち何割かを予備兵力とすることで決着した。
この後、まず呉郡から寿春・廬江方面へと
兵の異動が順次行われていくことに決まった。
・兵配分案:折衷案(決定項)
……それが決まってすぐのこと。
兵 士「申し上げます。
倭より、4万の艦隊が出撃したとのことです。
こちらの曲阿港に向かって南下中とのこと」
庖 統「なんと」
徐 庶「ちっ、倭の連中め、なんて間が悪いんだ。
異動の内容を決めたばかりだってのに」
甘 寧「殿、曲阿には5万ほど兵がいたよな」
金 旋「ん? うーんと、玉、どうだったっけ?」
金玉昼「現在は5万強の兵が駐屯してるにゃ」
徐 庶「それは俺らが年末に倭軍を迎え撃った時、
守りに置いてきた兵だな」
甘 寧「それだけいれば十分だろう。
殿、奴らを迎え撃つのは俺に任せてくれ」
金 旋「む、頼もしいな。では、甘寧。
曲阿の水軍の都督を、お前に命ずることにする。
これは倭軍を追い返した後も続けてもらう」
甘 寧「水軍の都督……!
はっ! その命、喜んでお受けする!」
徐 庶「気をつけろ、倭の水軍は強いぞ。
武将自体は大したほどでもないが、奴らの船の
強さは半端じゃないぞ」
甘 寧「ふっ、任せておけ。船の性能がそのまま
戦力の決定的な差にはならないということを
奴らに教えてやるとしよう……」
庖 統「この戦い、要は『人』でしょう。
どうですかな、楚王。ここは、元呉の手練たちを
甘寧どのに率いらせてみては?」
金 旋「ふうむ、呉水軍の手練か」
金玉昼「賛成だにゃ。
国を失った彼らにここで新しい仕事を与えて、
新たな目標を作ってやるのがいいと思いまひる」
金 旋「呉将を加えた、新たな楚の水軍を形成するか。
よし、ではそうしよう。いいな、甘寧」
甘 寧「了解した。それじゃ、主だった者たちを連れ
曲阿に向かうことにしよう」
こうして、倭の侵攻を防ぐため、甘寧と共に
20数名の水軍の手練たちが曲阿へと向かった。
荊州水軍、及び他方からの降将を母体とした軍に、
元呉の者たちが加わった、新生楚水軍である。
☆☆☆
4月、倭軍が曲阿に迫る。
倭女王が率い、倭武将A、倭巫女が所属する2万、
倭武将Bの率いる1万、倭武将Cの率いる1万。
総勢4万の艦隊である。
倭女王
倭武将
倭女王「前回は不覚を取ったが……。
今回は前回よりも兵を1万増やして4万じゃ。
ふっふっふ、数で勝れば楚軍になど負けぬわ」
倭将A「しかし女王。
今回は楚軍も兵を増やしておるようですぞ」
倭女王「なにっ!? なんと卑怯な奴らじゃ!」
倭将A「なんでですか」
一方の曲阿では、倭艦隊の姿が見えると、
甘寧がそれぞれ艦隊出撃の命を下した。
甘寧
甘 寧「いいか! 楚の水軍こそが最強!
そう知らしめる戦いぶりを、お前たちには
期待する! では、出撃!」
楚軍の部隊は、それぞれ1万の艦隊を5つ。
総勢5万の兵力を、戦いに投入した。
甘寧隊(留賛、留略、蘇飛、凌統):闘艦
朱桓隊(朱異、朱拠、陳表、陳武):闘艦
韓当隊(朱治、蒋欽、周泰、吾粲):闘艦
孫瑜隊(孫匡、孫朗、孫奐、董襲):闘艦
黄祖隊(黄射、張允、蔡和、蔡中):闘艦
黄祖
黄射
黄 祖「うーん……」
黄 射「どうしました、父上」
黄 祖「いや、部隊割を見ていて思ったのだがな」
黄 射「はい」
黄 祖「朱桓の部隊はシモネタ部隊じゃな」
黄 射「はあ? 何でですか」
黄 祖「ほれ、武将の姓をよーく見てみよ。
陳表、陳武、朱桓、朱異、朱拠といるであろう。
ちん・ちん・しゅ・しゅ・しゅ……」
黄 射「……父上がいるこの部隊のほうが、
よっぽどシモネタ部隊だと私は思いますよ。
今言ったこと、朱桓隊の方々の前では絶対に
言わないようにしてくださいね」
かくして、倭水軍4万、楚水軍5万による
第二次曲阿海戦が始まった。
朱桓
朱拠
朱 桓「ううむ……。朱拠。
出撃時に、誰か悪口を言ってなかったか」
朱 拠「さあ、私は聞いてませんが……。
気のせいではありませんか?」
朱 桓「それならいいが」
朱 拠「しかし、こうやって再び、従兄上と同じ船上に
立つことになるとは、思いもしませんでした」
朱 桓「そうか?
私はいずれこうなるだろうと思っていたぞ」
朱桓と朱拠は、同じ一族の出である。
年齢は13歳ほどの差があるが、朱拠は朱桓を
従兄(あに)と呼んでいる。
朱 拠「正直、楚に仕えるかどうかについては、
かなり迷いましたが……」
朱 桓「では、なぜ仕えることにしたのだ?」
朱 拠「今の朱家の長は、従兄上以外にはおりません。
なれば、朱家のため、従兄上と共に戦おうと。
従兄上を助けることが、呉の朱家に生まれた私の
務めなのだろうと、そう思い直したからです」
朱 桓「呉の朱家、か……。以前の呉国では、
朱家といえば朱治どのの一族だったからな。
よし、楚の朱家といえば、我らだと呼ばれるよう、
頑張っていこうじゃないか」
朱 拠「はい。……では、まず目の前の倭を!」
朱 桓「うむ。行くぞ! 朱異も良いな!
我ら朱家の者で、倭女王隊に強攻だ!」
他部隊より先んじて、朱桓艦隊が倭女王艦隊に
向かって船を走らせ、強攻する。
5千の被害を与え、倭軍の出鼻をくじいた。
倭巫女
倭女王
倭巫女「女王、敵に先手を打たれました」
倭女王「何をやっておる!
ええい、こうなればアレを使うしかあるまい」
倭巫女「アレですか」
倭女王「そうじゃ、妖術じゃ。
驪龍(りりゅう)を呼び出すぞ!」
倭巫女「ええ? あのスケベ龍を呼ぶのですか?
大体、昼に出てきた試しがありませんよ」
倭女王「心配はいらぬ。わらわの色香を持ってすれば、
驪龍も必ずや、姿を現すであろう……。
ほれほれ、早う、祈祷の準備を急ぐのじゃ」
倭巫女「はあ……」
幾千、幾万もいる、まつろわぬ神の中でも
最強の部類に入る驪龍……。
深い海の奥底に眠っており、月明かりすら無い
新月の夜にのみ、その姿を現すという。
全てがどうかはわからないが、倭女王と約を結んだ
驪龍は、とてつもないスケベな龍であった。
何しろ倭女王と契約を結ぶ代償に、彼女に対して
あんなことやこんなことを要求するくらいである。
倭女王「……あれだけのことをやったのじゃ。
呼び出しに応じてもらわねば困るわ!」
もし驪龍が呼び出され、その力を振るったならば、
楚軍は壊滅を免れることはできないだろう……。
それだけの力を持った、妖(あやかし)である。
だがその時、それは現れた……。
???「倭女王さまー。お届け物でーす」
倭女王「何、届け物とな?」
???「クール便になってます。生ものですね。
こちらにサインお願いします」
倭女王「生もの……。美味いモノかの?
サインじゃな、さらさらさら……っと」
???「ありがとうございます。ではこれで。
あ、食べ物でしたらお早めにお召し上がりに
なったほうがよいかと思います」
倭女王「そうじゃな、まず包みを開けようかの。
がさがさ……え? こ、これは……」
???「ふっ」
ひゃーーーーっ
急に倭女王の部隊が騒がしくなり、
対峙する甘寧もそれをいぶかしく見ていた。
甘 寧「どうした、倭女王の部隊が騒がしいな。
悲鳴のようなものが最初に聞こえたが……」
???「あれは、かく乱にございます。
倭女王隊は、今や完全に混乱しておりますぞ」
甘 寧「……誰だ、お前は」
いつのまにか、甘寧の横にいた若者。
彼は甘寧の前に跪くと、自らの素性を明かす。
???
???「魯粛さまに遣わされた者にございます。
これは全て、魯粛さまの計」
甘 寧「魯粛の……?
魯粛なら曲阿で留守番させているはずだが。
その魯粛の命でやったのか」
???「はっ。曲阿で取れたてのある物を
倭女王に、贈りましてございます……」
甘 寧「取れたて、だと。何を贈ったのだ?
今の曲阿で取れるようなものがあったか?」
???「はい、プリプリ新鮮な、なめくじ、でして。
それを箱一杯に詰め、贈りましてございます」
甘 寧「なめくじ!? それはまた……。
だが、計など無くとも、我らは勝つ!
帰って魯粛に伝えよ、余計なことはするなと!」
???「は、おそらくそう言われるであろう、と
魯粛さまはおっしゃっておりました……。
ですが、これも魯粛さまが自らの働き場を
楚国に求めてのことにございます」
甘 寧「……むう」
???「これまで仕えている譜代の臣とは違い、
新参、外様の魯粛さまは、その働きによって
自らの存在感を示すしかありません。
ですが今回、他の将と違い、魯粛さまは
曲阿の留守番の役目しかもらっておりませぬ。
全く何もせぬままではおられぬのです……。
その点、都督の甘寧さまには、お汲み取り
くださりたく、切に願います」
甘 寧「それもそうだな。
俺も、もともとは劉表の家臣だった。
楚のために働くことでここまで来たのだ」
???「なれば……」
甘 寧「わかった、魯粛にはご苦労と伝えてくれ。
これからも楚のため、懸命に働いてくれ、ともな」
???「ははっ」
甘 寧「それにしても……。
まだ若いだろうに、お前、なかなかできるな。
名はなんという?」
???「は、滕胤と申します。故あって、
魯粛さまの家に厄介になっております」
甘 寧「そうか。滕胤、魯粛にこうも伝えろ。
滕胤を楚の臣に推薦しろ、とな」
滕 胤「甘寧さま!?」
甘 寧「お前ほどの者、魯粛だけに使わせるのは
勿体無いというもんだ。
魯粛も楚に仕えていこうとしている者、
楚の益になることを断るはずがない。
いいな、今のこと、必ず伝えるのだぞ」
滕 胤「は、ははっ」
滕胤は曲阿に戻ると、魯粛に甘寧の言葉を伝えた。
魯粛は、それを聞いて苦笑いを浮かべ、
滕胤を楚の臣とすべく推薦状を金旋に送った。
かくして。
推薦を受けた滕胤は、楚に仕えることとなる。
だがとりあえず今は、曲阿の海戦の続きを
語ることにしよう。
倭将A「おのれ、楚軍めっ! このような姑息な手で、
女王を亡き者にしようとはっ!」
倭巫女「ナメクジで死んだりはしませんよ。
ただ気絶してるだけです」
倭将A「わかっておる!
だが、お陰で部隊は大混乱だ……」
倭巫女「女王は、ヘビやカエルは大丈夫ですけど。
ナメクジとか、ムカデとか、ゲジゲジとかは
全然ダメなんですよ」
倭将A「それより、この混乱をどうやって収める?
我らでは抑えられそうにもないが……」
倭巫女「気が付くのを待つしかありませんわね」
倭女王が気絶したため、艦隊は完全に混乱した。
何もしていないようでいて、実は女王がいないと
まるでダメなのである。
女王の意識の回復を待つ倭女王艦隊だったが、
その隙を楚軍が見逃すはずはなかった。
孫瑜
孫朗
孫 瑜「行くぞ! 孫朗!
楚軍の孫家の存在を知らしめるのだ!」
孫 朗「はい!」
董襲
董 襲「私も参りますぞー!」
孫瑜隊の強攻によって、5千余が討たれた。
さらにいとまなく、朱桓隊の陳武が攻め立てる。
陳武
陳表
陳 武「この陳武を忘れてくれるなよ!
黄顔赤眼のこの顔、よーく覚えておけっ!」
陳 表「流石です、父上!」
これで新たに4千余が討たれた倭女王艦隊。
そしてトドメを刺しに現れたのは、それまでずっと
積極的には動いてなかった韓当の部隊だった。
韓当
朱治
韓 当「朱治! ずっと呉の水軍を鍛えてきたお前が、
このような好機を逃しはするまい!?」
朱 治「当たり前じゃ、わしを誰だと思っている。
孫家三代に仕え続けた朱君理じゃぞ!
途中で他家に走った奴らとは違うわい!」
韓 当「言ってくれるな!
わしとて好きで他家に行ったわけではない!」
朱 治「だが、こうして楚の将となったからには、
新たに生を受けたつもりで働くしかない!
だからこそ今、目の前の敵を叩く!」
周泰
蒋欽
周 泰「蒋欽! 老人たちに遅れを取るな!
そのまま置いていってしまうぞ!」
蒋 欽「自分だっていい歳だろうに……!
途中でバテて追い抜かれても泣き言を言うなよ」
周 泰「誰が泣き言など言うかっ!」
蒋 欽「やれやれ……昔に戻ったかのようだな。
友を待たせるわけにもいくまい。行くぞ!」
まるで喧嘩をしているかのようだったが、彼らは
驚くほどの連携を見せ、倭女王隊を殲滅した。
倭将A「おのれーっ! 楚軍め!」
倭女王「やってくれるではないか……!
次こそは泣かすぞ! 泣かしてやるぞよ!」
倭将A「おお女王、ようやく気付かれましたか」
倭女王「泣かす……! 絶対、泣かしてやるぅ……」
倭将A「おぉ、よしよし。
そうお泣きにならずとも大丈夫ですぞ」
倭女王「泣いてない! 泣いてないもんね!」
倭巫女「やれやれ、結局こうなりましたか。
後は任せましたよ、倭武将B&C」
倭巫女の用意した脱出用の快速艇に乗り、
倭女王以下3名は倭へ向かい撤退していった。
倭武将B
倭武将C
倭将B「任せましたと言われても……」
倭将C「ど う す れ ば い い ん だ」
すでに戦力比は1/2、さらに倭の2隊は共に
大将一人だけの部隊構成……。
この不利な情勢をひっくり返すことは困難であった。
黄祖が「腰が痛い」と言って帰ってしまった以外は
楚軍は倭武将の2隊に容赦ない攻撃を続ける。
朱桓の強攻、そして甘寧隊全員による矢嵐で
あっけなく倭武将Bの隊は壊滅する。
倭武将Cの隊も、孫瑜隊・韓当隊に攻め立てられ
全くいい所もないままに全滅した。
倭将B「覚えていろー!」
倭将C「ばいばいきーん!」
甘寧
凌統
甘 寧「見たか倭の蛮族め!
これが最強の楚水軍の力! そして、それを
束ねる水軍都督、キャプテン甘興覇の力だ!」
凌 統「美味しい所を持っていくなあ。
それよりキャプテン、捕らえた捕虜の兵、
その人数の報告が上がってきてるぞ」
甘 寧「ほう、どれくらいになった?」
凌 統「万は余裕で超えているな。
この戦いで失った兵数を差し引いたとしても、
5千は増える計算だ」
甘 寧「よしよし。それでいい。
最初から兵を多く預かるより、戦うたびに兵を
増やすほうが、功績は大きくなるというものだ」
凌 統「何の話だ?」
甘 寧「フ……何でもない、気にするな。
それより、港に戻るぞ! 凱旋だ!」
見事な勝利を収めた甘寧率いる楚水軍。
意気揚々と、曲阿港へ戻っていった。
今後、彼らを打ち負かす存在は出てくるのか。
敗れた倭は、再び彼らに戦いを挑むのか。
だが、例えどれだけ強大な敵が現れたとしても、
最強の楚水軍は負けることはないだろう。
そう、キャプテン甘興覇がある限り!
行け行けキャプテン甘興覇、海はお前のものだ!
甘 寧「はーっはっはっは!」
凌 統「……ナレーション勝手に書き換えるなよ」
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