○ 第八十二章 「新人さんいらっしゃーい」 ○ 
221勢力地図
220年01月

年は明け、221年となった。
楚国では新年を祝う宴が各地で行われており、
その席で新しく軍に加わった新人も紹介された。

寿春では、金目鯛の三男、金魚鉢(きんぎょほう)
が成人した。

   金魚鉢金魚鉢  トウ艾燈艾

金魚鉢「金魚鉢です。祖父金旋をはじめ、
    父、兄たちがお世話になってますです。
    以後、よろしくお願い致します〜」
燈 艾「これはこれは……。
    こちらこそ、期待しております」

その様子を見ていた魏延が、感心した様子で
隣りにいる金胡麻に話しかけた。

   魏延魏延   金胡麻金胡麻

魏 延「なかなか礼儀正しいお子ではないか。
    金胡麻も弟を見習うべきではないかな?」
金胡麻「魏延さんよー。アンタはあいつの本性を
    知らないから、んなこと言ってられるんだよ」

    金目鯛金目鯛

金目鯛「こら、胡麻。魚鉢の本性はともかく、
    礼儀については魏延どのの言う通りだぞ」
金胡麻「むー」
魏 延「本性? 隠された何かがあるというのか」
金胡麻「それは、あいつが……」
金魚鉢「兄上〜?」

金胡麻が言いかけた時、彼の後ろのほうから
挨拶を終えた金魚鉢がにこやかな顔で声をかけた。

金胡麻「うっ!? ……ええと、そこらへんはだな、
    おいおい知ることになるだろう、てことで。
    よ、よーし魚鉢、お前の成人祝いの日だ、
    お袋と一緒に祝いの杯を交わすとするかー!」
金魚鉢「そうですねー。わかりました。
    では魏延将軍、今後よろしくご指導のほどを」
魏 延「あ、ああ。こちらこそよろしくな」
金魚鉢「父上、私たちは先に戻ってますね」
金目鯛「おー」

二人は、先に母親の待つ自宅へ戻っていった。

魏 延「あの怖いもの知らずの金胡麻が怯むとは。
    一体、どういうことなのだ」
金目鯛「魚鉢はウチで二番目に怖い奴だからな。
    胡麻も強くは逆らえないのさ」
魏 延「よくわからんが、表裏があるということか?
    ん、二番目に怖い? では一番は?」
金目鯛ウチのカミさん

一方、会稽では。
霍峻の子の霍弋(かくよく)が成人した。

   霍峻霍峻   霍弋霍弋

霍 峻「つい、この間に生まれたと思っていたのに、
    お前ももう元服する歳になったんだな」
霍 弋「はい。
    今後は、父上を助けられるように頑張ります」
霍 峻「ははは、成人したとはいえまだまだ若いんだ。
    そう気負うことはない、今は多くを学ぶ時だと
    思っておけばいいだろう」
霍 弋「は、はい」
霍 峻「……ところで、お前、いつの間にヒゲを?
    その歳ではヒゲはそう生えないだろうに」
霍 弋「あ、これは付け髭です。
    歳よりも大人であるように見せたかったので。
    最近の楚軍では、髭をたくわえて貫禄あるよう
    見せるのが流行りと聞きましたし」
霍 峻「誰の影響かは知らないが……。
    見かけばかりにこだわるのはよくないな」
霍 弋「は、はい、気をつけます」
霍 峻「まず、着実に仕事をこなせるようになるんだ。
    派手な活躍は他の方々に任せておけばいい。
    地味でもいずれ、その働きが認められるだろう」
霍 弋「父上のように、ですね」
霍 峻「そう煽てるんじゃない。……まあ、自分でも、
    手堅さでは楚軍でも屈指だと思っているが」
霍 弋「では、父上以上に手堅い男だと言われるよう、
    精進して参ることにします」
霍 峻「うむ、『楚国で一番カタイ男』という
    称号を得られるよう、頑張りなさい」
霍 弋「いや、その称号はちょっと……」

    ☆☆☆

年が明けて、しばらくしてのこと。
呉郡では捕らえていた捕虜の登用が本格化する。

前年の呉郡陥落の折に、孫尚香、劉備、陸遜、徐盛、
朱然、孫桓、呂岱、全綜は逃亡してしまった。

それでも、庖統、魯粛、張昭、郭攸之、虞翻、
顧雍、顧譚、是儀、諸葛恪、諸葛瑾、諸葛均、孫奐、
薛綜、程秉、駱統、陸績、劉基、朱拠、朱治、王惇、
程普、太史慈、周泰、髭髯虎、太史享、丁封、李異、
馬忠、蘇飛、糜芳、胡班、趙範、劉度、劉賢、公孫康、
このような者たちを捕らえ、捕虜にしたのである。

(※このうち、既に公孫康は病死している)

その中でいくつか、登用風景をお見せするとしよう。

   孫奐孫奐   孫瑜孫瑜

孫 奐「兄の孫皎を殺した楚に降れ……。
    そう兄上は申されるのですか」
孫 瑜「孫皎のことは残念だった。だが……。
    いや、だからこそ、私はお前と共に参りたい」
孫 奐「兄上」
孫 瑜「私は、呉公亡き後の孫家をまとめる役目を、
    楚王より仰せつかった……。
    だが正直、自分一人では荷が重いのだ。
    孫家に対する皆の疑いの目から身内を守り、
    またその疑いを解消していかねばならない」
孫 奐「孫匡、孫朗といった方々がいるのでは?
    そちらを頼ればよろしいのではないですか」
孫 瑜「私を含め、皆、呉を裏切った形だからな。
    なかなか、信用を得ることが出来ないのだ。
    その点、呉に残っていたお前が間に立てば、
    呉にいた者たちは心を許すだろう」
孫 奐「しかし、呉公が後を託された孫尚香どのは、
    外へと逃れ、生きておるのですぞ?
    ならば、亡くなった呉公のためにも、それを助け
    盛り立てるのが、血族の務めでしょう」
孫 瑜「では、お前は残った者たちを見捨てるのか。
    確かに命だけなら私でも守ることはできよう。
    しかしその心は、私では救うことはできぬ」
孫 奐「む……」
孫 瑜「孫尚香どのと戦えと言っているわけではない。
    この国で孫家を守る役目を、私と共に担って
    欲しいと言っておるのだ」
孫 奐「……わかりました、兄上。
    孫家を守るため、楚の将となりましょう」

孫家の生き残りの一人、孫奐。
孫堅の弟である孫静の四男は、兄の孫瑜の
説得により楚につくことを選んだ。

    ☆☆☆

   庖統庖統  徐庶徐庶

庖 統「よいでしょう」
徐 庶「ほへ?」
庖 統「ほへ?じゃないでしょう。
    私は登用を受けましょうと言ったのですよ」
徐 庶「あ、いや、席に着いた途端に言われてもな。
    色々と説得材料を考えてきたのに」
庖 統「無駄になりましたなぁ〜。
    昔から貴殿は、余計なことに時間をかけて
    無駄を作って来ましたからな」
徐 庶「ほっとけ。そういう性分なんだ」
庖 統「呉公から軍師など任されていたので、
    日に日に楚軍に追い詰められていく状況が
    わかりましたからな……。
    よく逃げなかったと自分でも感心するほどです」
徐 庶「それがアンタの責任感さ。
    軍師まで任された呉公の信頼を、裏切ることが
    出来なかったんだろう?」
庖 統「いや、これもいい経験だろうと思ったので」
徐 庶「経験ねえ……。ま、いいか。
    それじゃ登用の話は、これで終わりだ」
庖 統「それでは早速、旧交を温めるため、
    酒でも飲みに参ることにしましょうか。
    あ、もちろん、貴殿のおごりで」
徐 庶「……そーだよ、アンタ昔からそういう人だ。
    厚かましいにも程がある」
庖 統「こんなことを言うのも貴殿だからこそ。
    つまり、貴殿を評価しておるということです」
徐 庶「へいへい、それじゃ行くか」

呉国の軍師であった庖統は、使者の徐庶が
説得をする間もなくあっさり楚に降った。
呉が滅亡するまで付き合った、ということで
最低限の義理は果たした、と思ったのだろうか。

    ☆☆☆

   張昭張昭   凌統凌統

張 昭「よいでしょう」
凌 統「えっ!? 良いのですか、張昭どの」
張 昭「何を驚いておるのかな、凌統。
    わしを説得するために参ったのであろう?」
凌 統「い、いや、正直言って、こうもあっさりと
    承諾してくれるとは思ってなかったので」
張 昭「確かに、主を奪われた恨みはある。
    子を殺された恨みもある。だがのう、凌統。
    わしごときが恨みを持ち続けたとて、何になる」
凌 統「……」
張 昭「わしのようなつまらぬ者は、必要としてくれる
    者のためにただ働くしかないのだ。
    たとえそれが、どんな相手であってもな」
凌 統「張昭どの……」
張 昭「それにのう、凌統」
凌 統「は?」
張 昭「楚軍は自由な気風が売りと聞いておるが、
    時にそれは、全体の気の緩みに繋がりかねん。
    ある意味、わしにとってはこれまで以上に
    働きがいがある、というものではないかな?」
凌 統「……えーと」
張 昭「もし、ダラダラとしておる者がおれば、
    誰であろうと小言を聞かせてやるわい。
    皆には覚悟をしておいてもらおうかの」
凌 統「は、はははは……。
    お、お手柔らかにお願いします……」

呉の重鎮であった張昭は、凌統も驚くほど
素直に登用の話に応じた。
主君と息子を失い、逆に開き直ったのだろうか。

    ☆☆☆

   髭髯虎髭髯虎  髭髯鳳髭髯鳳

髭髯虎「長い時間を要してしまったが、これからは
    またお前たちと共に戦えるのだな」
髭髯鳳「おお、では義兄上……」
髭髯虎「うむ。主家が滅んでしまった以上、
    意地を張り続けたところで意味はあるまい。
    これからよろしく頼むぞ」
髭髯鳳「は、こちらこそ。髭髯軍団の筆頭の義兄上が
    来てくだされば、もう怖い者はありません。
    これで、義兄弟の5人のうち4人が集まった
    ことになりますな。残るは、蛟ですが……」
髭髯虎「蛟は魏にいると聞いたが。
    5人全員が揃うのは、少し先になりそうだな」

髭髯兄弟の長兄、髭髯虎。
兄弟中でも最強を誇る男だが、呉ではその武を
振るう機会はそう多くはなかった。
彼自身、呉に対し、さほど義理は感じてなかったが、
弱者を見捨てて去るわけにはいかないという
義務感のみで残っていたのだろう。

    ☆☆☆

   周泰周泰   蒋欽蒋欽

周 泰「呉公は孫尚香どのに孫家再興を託された。
    お前は、私にその遺志を捨てろと言うのか」
蒋 欽「遺志は遺志だ。生きている者の志ではない」
周 泰「蒋欽!?
    貴様、恩義ある呉公を悪し様に言うか!?
    そこまで貴様の心は腐ってしまったか!」
蒋 欽「……恩義は恩義。呉公の死は、心苦しく思う。
    しかし、死んだ者のために戦い続けることが、
    果たしてこの世のためになるのか?」
周 泰「そんなこと、知るか!」
蒋 欽「討逆殿(孫策)が平らげ、呉公が作り上げた
    この江東の行く末なども、知らぬというか?」
周 泰「む……」
蒋 欽「お前も楚王にお会いしただろう?
    あの方ならば、江東の平和を保てるだろう。
    そして、この乱世をも治めることができる、
    私はそう思った。お前はどうだ」
周 泰「楚王金旋か……。なんとも調子の狂う相手
    だったのは覚えているがな」
蒋 欽「お前も、あの方に託してみないか。
    あの方の進む先には、呉公が目指したものと
    同じものがあるはずだ。だから……」
周 泰「……わかった。お前がそこまで言うのなら、
    しばらくこの身を預けることにしよう」
蒋 欽「おお」
周 泰「この72の傷に誓う。亡き呉公のためにも、
    この乱世を治めるために戦い続けると」
蒋 欽「……また一段と傷が増えたな、お前」

孫策の代から仕えていた周泰。
誰よりも孫家に強い思い入れがあった彼だが、
友の言葉に動かされ、楚につくことを承知した。

    ☆☆☆

   太史慈太史慈  鞏恋鞏恋

太史慈「断る」
鞏 恋「あっそ。それじゃ、これで」
太史慈「ま、待て!! そ、それでいいのか!?
    登用というものはもう少し、説得しようと
    粘ってみるものではないのか?」
鞏 恋「無駄なことはしたくない。それじゃ」
太史慈「ま、待て!
    無駄かどうかはまだわからんだろう!」
鞏 恋「……そうやって引き止めるということは、
    実は登用される気があると?」
太史慈「む、そ、それは……」
鞏 恋「じゃ」
太史慈「あーっ! わかった、登用を受ける!
    それでいいんだろう!!」
鞏 恋「……それで構わない。それじゃ」
太史慈「だから待てい。
    『なぜ登用を受ける気になった?』とか、
    聞いてみたくはなったりしないのか?」
鞏 恋「ナゼ登用ヲ受ケル気ニナッタ?」
太史慈「棒読みか……。まあいい。
    私もまだ、埋もれていく気にはならぬからな。
    死ぬまで一線で戦い続けたいのだ」
鞏 恋「ふうん。それじゃ」
太史慈「……なんとも淡白だな」

彼は、孫家に対する思い入れはあったが、
敗れて孫家についた経歴を持っていたため、
楚につくことにそれほどためらいはなかった。

    ☆☆☆

   魯粛魯粛   諸葛瑾諸葛瑾

魯 粛「諸葛瑾、貴殿も楚についたのか。
    呉公の信頼を誰よりも得ていた、君が」
諸葛瑾「ええ……信頼を得ていたからこそです。
    この呉をさらに栄えさせ、平和を守るのが
    自分の役目であると思ったのです」
魯 粛「その呉を滅ぼしたのが楚なのだぞ。
    全く、抵抗はなかったのか?」
諸葛瑾「まだ魏よりはマシだと思いましたので。
    どうです、魯粛どのも楚で働きませんか」
魯 粛「……魏よりはマシ、か」
諸葛瑾「はい。楚王は、少なくとも曹操のような非道を
    行わぬであろうと思いましたから」
魯 粛「それは、曹操が徐州で行った大虐殺を
    知っている私に対する、登用の説得材料
    なのだろうな……」
諸葛瑾「私は、魯粛どのに良い判断をして戴けるよう
    思うだけです。自分の身をどう処するかは、
    貴方次第ですから」
魯 粛「わかった、こうなったら仕方ない。
    貴殿が選んだ道だ、私もそれに乗るとしよう。
    国の形は変わってしまっても、呉の民は
    残っているのだからな。呉公の残された遺産、
    それを守っていくのが我らの使命であろう」

孫権の代から呉に仕えた魯粛。
同じような経歴を持つ諸葛瑾の説得により
楚に転ずることを決めた。
孫権の作り上げた国や民を保っていくために。

    ☆☆☆

   趙範趙範   劉度劉度

趙 範「やや、劉度ではないか。久しいな」
劉 度「うむ、城の陥落以来かの。
    今日は貴殿を楚軍に登用に参ったんじゃ」
趙 範「楚軍に? では、お主は……」
劉 度「左様、現在は楚軍に籍を置いておる」
趙 範「なにー!? お主、金旋に滅ぼされた恨みを
    忘れてしまったのかー!?」
劉 度「そうじゃのう。
    かれこれ10年以上も前の話だからの」
趙 範「ちっ、これだからボケ老人は」
劉 度「わしの歳は貴殿と同じはずじゃがな……。
    呉も滅びてしまったし、娘も楚に仕えておる。
    おまけに息子の劉賢も登用されたとなれば、
    わし一人がずっと楚に刃向かい続けるのも、
    おかしな話であろう」
趙 範「むう、子か……。そういえば、樊(※)も
    楚に仕えておったな……」

(※趙範の娘の趙樊。演義では兄の妻)

劉 度「曹操どのの命により我らは零陵や桂陽に
    派遣されてはいたが、今さら魏に行っても
    厚遇してくれるはずもあるまい?
    わざわざ楚が登用してくれるというんじゃ、
    ここは甘んじて受けるべきではないかの」
趙 範「今さら魏に行く気もないが……。
    それより、以前は我らと同格だったはずの
    金旋を、主と仰がねばならんのがな」
劉 度「仕方あるまい。能力はともかく、
    時流に乗って王までなった人物じゃ。
    それに元々の家格も我らよりも上じゃぞ」
趙 範「ぐぬうー。一歩違えば、今の金旋の立場に
    いるのは、わしだったかもしれんのに」
劉 度「それを言ったら、わしの軍によって
    貴殿は死んでいたかもしれんのじゃぞ」
趙 範「そうだ! お主が攻めてこなければ、
    荊南はわしの物になっていただろうに」
劉 度「いや、流石にそれはないのう。
    お主にもしその機会があったとすれば、
    衡陽の城塞を落とした時じゃろうな。
    すぐさま武陵を攻めておれば……」
趙 範「もしそうしていたら、お主が桂陽か武陵を
    攻めて来ただろう。だから出来なかった」
劉 度「そうじゃな。
    結局、お主に勝ち目はなかったんじゃ」
趙 範「はあ……。結局は、遅かれ早かれ
    こうなる運命だったということか……。
    仕方ない、登用を受けるとしよう」
劉 度「そう気を落とすでない。
    楚王が統一を果たせば、荊南四君主として
    最初に戦った者として名が残るんじゃ。
    そう考えれば、少しは気が晴れるであろ?」
趙 範「なるほど。そういう考え方もあるのか」
劉 度「あとは、子たちと共に仲良く暮らせれば、
    それに越したことはないであろう」
趙 範「……どうもお主には、群雄としての野心と
    いうものはさっぱりとないようだな」

曹操により荊南に派遣された趙範。
先に登用され、同じ経歴を持つ劉度に説得され、
渋々と楚に降ることを承服した。

    ☆☆☆

その他、ほとんどの捕虜の登用に成功した。
……ただ一人、老将程普を除いて。

   程普程普   朱治朱治

程 普「おやおや、今度は朱治か。
    ……何度来られても返事は同じだぞ」
朱 治「程普どの、なぜそこまで拒む?
    他の捕虜だった者は全て楚に降ったぞ。
    お前だけ、意地になる必要はないぞ」
程 普「おお、なんということだ。
    孫家三代に仕えた者とも思えぬ言葉だな。
    お主は、昔の心を失ってしまったのか?」
朱 治「……孫家に仕えていればこそ。
    今の楚には、孫堅さまの血を引く孫匡、孫朗、
    その他にも孫瑜、孫奐といった方々がおる。
    これを無視するわけにはいかん」
程 普「楚によって多くを失ったことも忘れて、か」
朱 治「忘れてなどはいない。ただ、過去に縛られ
    未来を捨てるわけにはいかんのだ」
程 普「お主はそれで良いだろう。
    だがわしは、過去を捨てるわけにはいかん。
    主を、子を、武器を楚に奪われたのだぞ」
朱 治「同じく子を失った張昭どのは、楚に降ったぞ」
程 普「張昭どのとわしは違う。
    わしはもう、誰かのために働く気力もない」
朱 治「程普どの……」
程 普「これ以上、わしに構うのは辞めてくれい。
    何度口説かれようと、無駄なことだ……」

   金旋金旋   下町娘下町娘

金 旋「程普は落ちないか」
下町娘「ええ、誰を使者にしても変わらずです。
    他の人はほとんど1回目で受けたのに」
金 旋「むう。朱治でもダメとなると……。
    もう少し時間を置くしかないんだろうか」
下町娘「期間空けて、受けてくれますかねぇ。
    ……もしかして、以前捕らえた時に程普さんの
    武器を取り上げたこと、かなり恨んでるんじゃ」
金 旋「鉄悉蛇矛か?
    いや、武器くらいでそこまで恨むとは……」
下町娘「誰にもあげてませんよね。
    だったら、そのまま程普さんに返しても
    いいんじゃないですか?」
金 旋「むう……。しかし、捕虜に武器を
    与えることはできないからなー(※)」

(※アイテムは登用後にしか与えられない)

下町娘「それじゃ、その蛇矛の偽物を作って渡して、
    登用後にホンモノを渡すという手は……」
金 旋「偽物を渡して登用できるってんなら、
    別にそれでもいいけどな」
下町娘「うーん、難しいですね」
金 旋「ま、しばらく待つしかないな」

だがそれ以後、程普を登用することはできなかった。
……4月、程普が他界したからである。

孫家三代に仕え、呉を支え続けた老将は、
獄中でひっそりと息を引き取った。

   金旋金旋   下町娘下町娘

金 旋「なんか、ものすごく罪悪感が……」
下町娘「いや、しょうがないじゃないですか。
    別に死なせたいがために、ずっと捕らえてた
    わけじゃないんですから」
金 旋「そりゃ、そうなんだが」
下町娘「制圧地域の統治も上手く行ってますし、
    呉の民も、楚の支配下に入ってよかったーって
    思ってくれてます。だから、ちょっとのことで
    落ち込むことはないですよー」
金 旋「そうか……。すまん、町娘ちゃん」
下町娘「いえいえ、気にしないでください。
    これも側で仕える者の務めですからー。
    あ、もし何かくれるというのでしたら、
    遠慮せず戴きますけど」
金 旋「……それは『あからさまに要求している』
    というんじゃないかな?」

新たに多くの人材を加えた楚軍。
これからの戦いに、それをどう生かしていくか。

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