○ 第七十六章 「前に虎、後に狼、左に狐、右に……」 ○ 
220年10月

徐盛を捕らえ、士気上がる金満隊。
さらに、東からは始新城塞から出撃してきた
李厳隊・金閣寺隊がやってきていた。

李厳隊には馮習、張南、忙牙長などがおり、
金閣寺隊には髭髯軍団の3人と孟達がいる。

 李厳・金閣寺合流

   李厳李厳   金閣寺金閣寺

李 厳「こちらは会稽城の攻撃を始める。
    金閣寺どの、そちらは陸遜隊をお願い致す」
金閣寺「承知した! 髭髯軍団、そして孟達どの!
    目標は眼前の陸遜隊だ!」

   孟達孟達   髭髯鳳髭髯鳳

孟 達「はっ! 各隊、野戦準備!」
髭髯鳳「陸遜隊など、一気に片付けましょうぞ!」

   髭髯豹髭髯豹  髭髯龍髭髯龍

髭髯豹「よおし、やってやるぜーっ!」
髭髯龍「どうした豹、いつになく張り切ってるな」
髭髯豹「なんたって皇子が見ているからな!
    俺がただの武力馬鹿ではないってことを、
    今、見せてやるぜ! うおおおおっ!!」

髭髯豹は馬を駆けさせながら、矢を何度も放つ。
これまで見せたことのない、見事な飛射だ。

金閣寺「顔に似合わず、高度な技を見せてくれる!
    確かに、ただの武力馬鹿ではないですね!」
孟 達弓の得意な武力馬鹿ですな」
髭髯豹「なんでそうなるーっ!?」

陸遜隊は、それまでずっと金満隊の連弩によって
かなりの兵をやられていたが、髭髯豹の必殺の
飛射によって、壊滅的な打撃を受けた。

    陸遜陸遜

陸 遜「……ここまでだな。
    呂拠! 諸葛恪を連れ、会稽城へ戻れ!」

少し離れたところにいる呂拠にそう叫んだ。

    呂拠呂拠

呂 拠「城へ戻れだって……?
    貴方は一体どうするつもりだ!?」
陸 遜「私は大将だ、すでに幾重にも囲まれている!
    ここから城へと戻るのは至難の業だろう!」
呂 拠「み、見捨てろというのか! 
    孫皎さまを失い、徐盛どのを捕らわれて、
    今また貴方を見捨てろと!?」
陸 遜「この陸遜、死にはせぬ! それより今は!
    孫皎さまが討たれたこと、貴殿が城へ伝えよ!
    あの方の死を、戦いの糧とするのだ!」
呂 拠「くっ、それでも……」
陸 遜「呂拠! 大将の命が聞けぬか!?」
呂 拠「……ええい、承知っ!!
    諸葛恪、我らは城へと戻るぞっ!」

陸遜隊の呂拠と諸葛恪は、部隊が壊滅する混乱を
脱し、会稽城へと戻っていった。

陸 遜「そうだ……。貴殿らだけでも戻るのだ。
    若い者たちが無駄な血を流すことはない……」

   鞏恋鞏恋   雷圓圓雷圓圓

鞏 恋「貴方もかなり若いと思うけど?」
雷圓圓「そうですよねー、全然差が感じられませんよ」
陸 遜「いやいや、私はもう30代後半ですから……。
    20代の彼らには負けます」
雷圓圓「もうそんな歳!?」
鞏 恋「若づくり……」
陸 遜「見た目が若いのは否定しませんがね。
    若く見られて損することもあるのですよ」

   魯圓圓魯圓圓   金満金満

魯圓圓「何をのん気に話し込んでるんですか。
    陸遜将軍、貴方はもう完全に包囲されてます。
    おとなしく、我々に投降なさい」
金 満「そうです、これ以上戦っても無意味です。
    楚王金旋が子、金満が身柄の安全を保障
    致しますから、すぐに降伏してください」

すでに四方を金満隊の将たちに囲まれていた。

陸 遜「やれやれ……。
    前門の虎、後門の狼どころではないな」

鞏 恋「虎は私ね」
雷圓圓「じゃあ私が狼ですねー」
魯圓圓「それでは、私は何でしょう?」
陸 遜「前が虎、後が狼、左が狐という所か……」
魯圓圓「狐……。微妙ですね」
金 満「で、では私は?」
陸 遜「そして右が……栗鼠だーっ!!」
金 満「えっ……」

包囲され、それまで大人しくしていた陸遜が、
いきなり金満に向かって切りかかっていった。

陸 遜「孫皎さまの命の代償!
    金旋の子の血であがなってもらうっ!!」
金 満「う、うわあああ!?」

 ガキーン!

    魏光魏光

魏 光「全く、危なっかしい。
    腕っ節の弱い大将は前に出ないでほしいな」
金 満「魏光さんっ!!」

振り下ろされた陸遜の剣は、魏光の肉包丁が
しっかりと防いでいた。

陸 遜「くっ、左にいたのは栗鼠だけではなかったか」
魏 光「ふっふっふ、そうだな……。
    私は熊とでもしておいてもらおうかな」
鞏 恋「……せいぜい熊猫(パンダ)あたりかと」
魏 光「な、何言ってるんです、知らないんですか?
    パンダも結構、凶暴なんですよ!?」
鞏 恋「へえ、そうなんだ」
雷圓圓「ぱんださんは人間襲うよー」
魯圓圓「いや、本当にパンダでいいんですか?
    もう少し見た目重視の選択を……」
金 満「リスとパンダはどちらも可愛いですからね。
    お仲間ですね、お仲間」

陸 遜「(な、なんなのだ、これは。
    これが我らが何度戦っても勝てなかった、
    あの楚軍の将たちだというのか……!?)」

陸遜はすっかり毒気を抜かれてしまった。
金満への不意討ちが失敗に終わってしまった彼は、
結局、金満隊の捕虜となってしまった。

    ☆☆☆

会稽城になんとか逃げ込んだ呂拠たち。
息を切らせながら、陸遜に後を任されていた大将の
程普に、部隊の壊滅、そして孫皎の死を伝えた。

   程普程普   周泰周泰

程 普「なんと……孫皎さまが!?
    わしのような老人こそ、まず先に死ななければ
    ならぬのに! なんという痛恨の極みかっ!」
周 泰「おまけに陸遜と徐盛も捕らえられたか。
    兵も当初の数からすでに三分の一となっている。
    一体、どうやってこの会稽を守ればよいのか」

    呂拠呂拠

呂 拠「陸遜どのは、孫皎さまの死を戦いの糧とせよ、
    と言ってましたが……」
程 普「確かにそれで将兵は発奮するであろう。
    だがそれでも、今の兵の数ではどうにもならん。
    楚軍は未だ10万以上の兵が残っておるのだ。
    せめて、あと2万ほど兵がおれば……」

 ワー ワー

程 普「どうした!? 騒がしいぞ!?」
呉 兵「た、大変です!!
    偽伝令が飛び交い、兵が混乱しております!」
程 普「なんと!?」

……その頃、城外の霍峻隊。
馬謖が霍峻へ、策の成功を伝えていた。

   馬謖馬謖   霍峻霍峻

馬 謖「呂拠らの退却時に潜り込ませた間者が、
    上手く城内を混乱させたようです」
霍 峻「ふふ、流石は馬氏の五常の末弟ですね」
馬 謖「いえいえ、当然の結果です。
    私の知は、ますます冴え渡って来てますよ」
霍 峻「それはそれは、これからが楽しみですね。
    ……各隊、この隙を逃さず、弩を連射せよ!」

混乱が成功し、馬謖の知力が上がった。
(知力+1→93 ※官職ボーナス含む)

城内の混乱に乗じて放った霍峻の連射が、
容赦なく呉軍の兵たちの頭上に降り注ぐ。

呉兵A「うわああっ!!
    お、俺たちはどうすりゃいいんだ!?」
呉兵B「おかしな命令がいくつも届いて、
    どれを信用していいんだかさっぱりだ!」

楚間者「(へっへっへ、馬謖さまの言った通りだ。
    どれ、この調子でもっと混乱させてやるぞ)」
???「そこのお前、待て」
楚間者「へ、へい!? なんでしょう……」

 ズバッ!!

   孫尚香孫尚香  劉備劉備

孫尚香「チッ、このような計略を用いてくるとは。
    楚軍め、狡い手を使ってくれるじゃないの!」
劉 備「しかしよく気付きましたな、こやつが間者だと」
孫尚香「すぐ判ったわ。雰囲気が全然違うもの。
    計が成功して気が緩んでたんでしょう」
劉 備「まあ、何にせよ落ちる前に来れて良かった。
    朱治・呂岱の増援も到着したようですな」
孫尚香「そうね。まず司令部へ行かないと」

呉郡からやってきた孫尚香と劉備は、
程普たちのいるであろう司令部へと向かった。

    ☆☆☆

孫尚香らと2万の増援の到着を喜ぶ程普たち。
だが、孫尚香は従兄弟である孫皎の死を知って
胸を締め付けられる思いに駆られた。

   孫尚香孫尚香  劉備劉備

孫尚香「孫皎兄様……あの優しかった従兄様がっ!
    許さない、楚軍め、絶対に許さない!」
劉 備「孫家は有力な血族を一人、失ったか……」
孫尚香「程普! 出撃するわ!
    この怒りを、奴らに叩きつけてやる!」

    程普程普

程 普「待ちなされ、お嬢。
    確かにその激しい怒りは奴らを苦しめるだろう。
    しかし、冷静さを欠いたまま戦っては、結局は
    奴らにつけ込まれてしまうぞ」
孫尚香「冷静に怒れるほど器用じゃないわ!!
    このまま篭城しろとでも言うの、程普!?」
程 普「部隊は出す。だが、お嬢には残ってもらう」
孫尚香「私以外に大将の任に相応しい者はいないわ!
    一体、他に誰がいると言うのよ!?」
劉 備「フフフ、何をおっしゃる、ここに……」
孫尚香「黙ってろ、このスカポンタン!」
劉 備「す、すかぽんたん!?」

ふう、と一つ溜め息をつき、程普は言葉を紡ぐ。

程 普「よいかな、お嬢。
    孫皎さまを失った今、呉軍に残っている
    孫家の血族は、孫権さま以外には、孫皎さまの
    弟御の孫奐どの、そして貴女しかおらんのだ」
孫尚香「兄上の子がいるじゃない!」
程 普「成人前の方を数えるわけにはいかんよ。
    とにかく、お嬢には絶対に残ってもらうぞ。
    ……大将はわしが務めることにしよう」
孫尚香「程普が!?」
程 普「呉の重鎮たるわしであれば、相応しかろう。
    お嬢、城の守りは頼んだぞ」
孫尚香「しかし……」

   周泰周泰   呂岱呂岱

周 泰「程普将軍の言うとおりです。
    ここは我ら歴戦の将にお任せくださいませ」
呂 岱「孫皎さまのカタキを取ってきましょうぞ」

   朱治朱治   朱然朱然

朱 治「わしも連れていってもらおうかの。
    お嬢! この城、しっかり守るんじゃぞ」
朱 然「義父上が参るのなら、私も行きましょう」

孫尚香「……わかったわ。
    程普、ここはあなたに任せましょう」
程 普「ありがたい……。では、参る!」

すでに月は11月に入っている。
呉随一の宿将であり、齢70になる程普は、
副将4人と1万5千の兵を連れ出撃した。

    ☆☆☆

 程普出撃

程普隊は南門を出て、まず城に取り付いていた
霍峻隊を攻撃すべく、部隊を動かしていく。

   馬良馬良   霍峻霍峻

馬 良「程普隊1万5千が城を出ましたな。
    どうやらこちらに向かってくる様子ですぞ」
霍 峻「構わずにいて結構です。
    こちらは城への攻撃を継続します」
馬 良「放っておくと言われるのですか?
    程普は呉きっての老練老巧な宿将です。
    こちらも迎え撃たねば、無駄に兵を失いますが」
霍 峻「そちらは二人の王子に任せるとしましょう。
    自分の歳の何倍も生きた相手ですからね。
    この戦いの中で学ぶことも大いにあるでしょう。
    また、張苞や関興などには、守る難しさを
    勉強してもらいたいというのもありますし」
馬 良「……以前より思ってましたが、将軍は、
    若い将たちの育成に力を入れておいでですね。
    時には、兵を失うことさえ厭わないようにも
    見受けられますが……」
霍 峻「流石、馬良どのは鋭いですね。
    私は山越討伐の命を受けてからというもの、
    若い方たちの育成を第一にしてきています。
    戦いながら後の楚を支える人材を育てるのが、
    私の役目だと思っていますから」
馬 良「……そのためには、自らが危険に陥るのも
    仕方がないことだと」
霍 峻「ある程度は。本当に危なくなれば、
    なりふり構わず勝つ戦いをしますけれども」
馬 良「そうですか……。
    将軍がそういうお考えで戦うというのであれば、
    私もそのつもりでいなければなりませんね」

馬良は、霍峻が大きな視野を持ちながら指揮を
取っていることに感心しつつも、その余裕を
程普に食い破られないかという不安も抱いていた。

霍峻は再び、会稽城に対して弩を連射。
だが、これは孫尚香によって察知されていた。

    孫尚香孫尚香

孫尚香「連射が来る! 各員、藁の束を掲げよ!
    城壁の兵は大盾をもって矢を防げ!
    盾のない者はすぐに建物の影に身を隠せ!」

矢は虚しく藁束に突き刺さっていく。
霍峻の連射による攻撃は失敗に終わった。

    関興関興

関 興「流石は孫尚香どの。
    弓腰姫のあだ名は伊達ではないな……。
    だからこそ、俺の妻になるに相応しい方だ。
    ……ん、奴はなんだ?」

関興は、彼女の側に近付く一人の将を見咎めた。
あいにく関興には面識がなかったが、それは
孫皎の弟で孫尚香の従兄弟でもある、孫奐だった。

   孫尚香孫尚香  孫奐孫奐

孫尚香「ふう……。ん、奐?」
孫 奐「お見事! 従姉上、素晴らしい判断でした」
孫尚香「ありがとう。でも、私がもう少し早くここに
    到着していれば、従兄様(孫皎)も死なずに
    済んだかもしれないのに……」
孫 奐「……従姉上、貴女がいくら後悔し続けた所で
    兄上は生き返ることはありません」
孫尚香「それは、確かにそうだけど」
孫 奐「兄上の魂……誇りやその生き様は、
    従姉上にもしっかりと受け継がれたはずです。
    ですから、前だけを向いて生きてください。
    兄上も、そう望んでいるはずです」
孫尚香「奐……。そうね、私も孫家の者だもの。
    過去のことより、未来をどうするかのことを
    考えるようにするわ」

関 興「だ、誰なんだ!?
    あんなに親しげな顔で話をしているなんて。
    くそっ、何だか許せなくなってきた!」

関興は弓を引き絞り、孫奐に向けて矢を放つ。
その矢は、孫奐の腹部に突き刺さった。

孫 奐「ぐわっ!?」
孫尚香「奐!?」

孫皎に続き孫奐も!?
……と、それを見ていた呉軍の誰もが想像した。

孫 奐「し、心配はございません……。
    めちゃくちゃ痛くはありますが、大丈夫です」

だが、孫奐の意識ははっきりしており、
傷は浅くはないが、命に別状はないようだった。

それでも、血族を傷つけられた孫尚香は
その怒りを爆発させる。

孫尚香「矢を放ったのは誰!?
    私の弓で、射殺してやるわ!」

関 興「(う、うわ、なんかめちゃくちゃ怒ってるぞ)」
楚兵A「関興将軍が敵将を負傷させたぞーっ!」
楚兵B「見たか、呉軍め!
    関興将軍の弓は天下一だぜーっ!」
関 興「あ、馬鹿、お前ら……」

孫尚香「……関興! お前かーっ!!」
関 興「ひっ!?」

滅多なことではビビることはない勇将関興も、
その般若のような眼光を自らに向けられては
一瞬身を竦ませてしまうのも無理もないだろう。

だが、孫尚香が矢を放つより先に、程普隊が
雷撃のような一撃を霍峻隊に叩きつけた。

    周泰周泰

周 泰「待て待てーっ!! 妹君のその怒り、
    この周泰が肩代わりさせてもらうぞ!」

周泰の奮迅は、霍峻隊の一角を切り崩していく。
さらにこの時、霍峻隊は何者かの計によって
無陣状態に陥ってしまう。

霍 峻「そんな……!?
    会稽城はすでに交戦状態になっているはず、
    どこから計略を仕掛けてきたというのか」
馬 良「会稽でないのなら、呉郡しかありませんな。
    同時に二都市を攻撃する作戦だということで、
    呉郡に対する警戒が薄れておりましたな」

馬良の言ったとおり、この計の実行には
呉郡の庖統が暗躍していたという。
呉郡の城はまだ交戦状態にはなく、そのため
計略を実行する余地があったのだ。

無陣となった霍峻隊に、さらに攻撃が加えられる。

孫尚香「弩を一斉連射! 怒りを叩きつけよ!」

   程普程普   朱然朱然

程 普「見よ! これが孫呉の底力じゃーっ!」
朱 然「行くぞ、このまま押し込めっ!」

会稽城より孫尚香が弩の連射を放ったかと思うと、
程普が自ら奮闘、楚兵を次々と打ち倒していく。
さらに朱然も奮闘、霍峻隊は甚大な損害を受けた。

霍 峻「窮鼠、猫を噛むというが……。
    窮しているのが虎であれば、噛まれる痛みも
    尋常ではないということですか……」
楚 兵「お知らせ致します!
    周泰の攻撃より続いている呉軍の攻撃で、
    1万ほどの兵が死傷、現在の兵数は2万です」
霍 峻「承知した。まずは陣形の回復を急げ」
楚 兵「はっ」
霍 峻「……さてさて、一方的にただやられ続けるほど
    こちらもヤワな軍ではないはず。
    若い力に期待したいところですが……」

しかしその場を救ったのは、霍峻の期待した
若い力ではなかった。
金閣寺隊の1人の将が、程普隊の前に立ちはだかる。
48歳のその将が、大音声で名乗りを上げた。

   髭髯龍髭髯龍  周泰周泰

髭髯龍「楚軍髭髯軍団の髭髯龍、推参ッ!!
    我が大刀、受けられる者は呉軍にいるか!?」
周 泰「むっ……!?
    いつぞやの髭髯なんたらの片割れか!(※)
    貴様のナマクラ刀など、私がへし折ってやる!」

(※彼は以前、髭髯鳳と一騎討ちを経験している。
 詳しくは金旋伝92章参照)

突き進む程普隊の先頭を行っていた周泰が、
そのまま髭髯龍の挑戦を受けた。
  一騎討ち男男

髭髯龍:武力97 VS 周泰:武力93

たちまち、何合も打ち合う両者。

髭髯龍「ほほう、髭がないのになかなかやる。
    髭を生やせばもっと強くなれるだろうに、
    惜しい男だ。実に惜しい、髭があれば……」
周 泰「ええい、ヒゲヒゲうるさいわ、このっ!!」

 ガギィィン!

髭髯龍「なかなかの勇者だ、それは認めよう。
    だが、所詮は髭のないお主が、髭の皇子を
    擁する我らに勝てるはずがないのだ!」
周 泰「な、なにぃ!?」
髭髯龍「今こそ見せよう、私の奥の手をっ!!
    秘技! 三・刀・流!!

髭髯龍は大刀の他、長刀、短刀を取り出し、
驚くべきことにそれを全て構えたのだった。
右手に大刀、左手に長刀。
そして髭に短刀を。

周 泰「普通、両手の次は口だろうが!」
髭髯龍「フフフ、素人の意見だな……。
    口に装備したら喋れないであろうが!!」
周 泰「わ、訳判らん!」

髭髯龍は、三本の刀を装備し、構えを取った。
だが、周泰は意外に冷静だった。

周 泰「髭につけた刀など、操れるわけはない……。
    どうせこれはこけおどしに過ぎぬだろう。
    実質二刀流にすぎん……一気に行くッ!」
髭髯龍「そちらから来るか!
    ならば、私の力を存分に思い知るがいいっ!」

髭髯龍はのけぞるような格好で周泰を迎え撃つ。
周泰から腕の動きは全く見えず、どの刀が
最初に振るわれるのかは判らなかった。

周 泰「(だが、使い慣れている大刀が一番先!
    最初の一撃は、間違いなくそれだろう!)」

周泰は、髭髯龍の右手の動きに警戒しながら、
切りかかっていった。
そして、髭髯龍が放った最初の一撃は……。

意外! それは髭ッ!

周 泰「なっ!?」
髭髯龍「くらえいっ! 死髭舞剣!

 ズバッ!

髭髯龍は、首の動きで巧みに髭の先の短刀を操り、
思わず顔をかばった周泰の腕を傷つけた。

周 泰「ぐっ、ぐおおおおっ……。
    ついに64個目の傷がついてしまったか」
髭髯龍「ほほう、よく腕で守ったな……。
    何もしなければ、顔面で短刀を受け止める
    羽目になっていただろうに」
周 泰「やられた……。まさか、ここまで髭を
    巧みに操れるとは思わなかった……」
髭髯龍「どうだ、髭のありがたみがわかったか」
周 泰「くそ、悔しいが今回は私の負けだ。
    ここは一旦引かせてもらうっ!」
髭髯龍「フフ、いい判断だ。そうした方がいい」
周 泰「くっ……。一時、後退するっ!」

髭髯龍が周泰を退かせたことで、霍峻隊は
陣形を回復する時間を得ることができた。

    ☆☆☆

呉軍の撹乱による無陣状態を回復させた
霍峻隊は、すぐに反撃の態勢を整える。

   馬謖馬謖   霍峻霍峻

馬 謖「霍峻将軍! こちらは準備出来てます!」
霍 峻「馬謖どのか、ならばすぐに実行を!」
馬 謖「はっ、お任せを! 会稽城と程普隊の連携、
    完全に崩してご覧にいれましょう!」

再び会稽城内に間者を放った馬謖。
その的確な指示の下、城内は混乱に陥ってしまう。

孫尚香「また、敵の間者か……! 劉備!
    貴方は兵を連れ、混乱を収拾してきなさい!」
劉 備「は、はあ、了解です。
    しかし今、私がいなくなってしまっては、
    城壁の守りが辛くなるのではないですかな」
孫尚香「何言ってるの。
    貴方がいてもいなくても変わりないわ」
劉 備「ひ、ひどっ」

孫尚香は劉備らを混乱収拾に向かわせる。
そのため、城壁の守りが若干手薄になった。

    張苞張苞

張 苞「よしっ、今だ! 弩を連射せよ!」

張苞は、守りの薄くなった所に連射を仕掛ける。
混乱している会稽城の兵は、次々倒れていった。

孫尚香「くっ、程普隊に攻撃を受けていながら、
    なかなかやってくれるわ……!
    呂拠! 霍峻隊に対する攻勢を強めよ!」

孫尚香は、弩兵を指揮していた呂拠に
兵員の配置換えを命じた。

    呂拠呂拠

呂 拠「は、しかしながら、西方から連弩による
    攻撃を続けている李厳隊も無視できません」
孫尚香「李厳隊など二流の将の集まりでしょう。
    いいから、弩兵を動かしなさい!」

    李厳李厳

李 厳……誰が二流かぁぁぁ!
    馮習や張南ならともかく!」
馮 習「ええっ!?
    李厳どの、それはあんまりなお言葉!」
張 南「そうですそうです!
    我らも1.5流くらいはあります!」
李 厳「四捨五入すればどっちにしろ二流だろうがっ!
    とにかく、この屈辱はすぐに晴らさせてもらう!
    連弩隊! あの小娘を狙え! 発射ッ!」

李厳、怒りの連弩。
大量の矢が、孫尚香に向かって飛んでいく!

孫尚香「なっ……」

孫尚香、絶体絶命……!

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