○ 第七十五章 「その旗は朱に染まり」 ○ 
220年10月

 江東

10月の中旬。ついに楚軍は動いた。
呉郡と会稽を、同時に攻める作戦を取った。

同時に攻めるのは、2都市に連携をさせずに
両方を一気に落としてしまうための作戦だ。

   金玉昼金玉昼  金旋金旋

金玉昼「こうやって二ヶ所を同時に攻めることで、
    身動きを取れなくさせるのが目的にゃ」
金 旋「んー流石だ、玉。
    弱った相手をさらに緊縛プレイにしてしまうとは、
    なんという容赦の無さ。並みのサドではないな」
金玉昼「(ばき)殴ってほしいのかにゃ?」
金 旋「ははは、殴ってから言わないでくれい」

呉郡攻略のため、秣陵より兵13万5千が出撃。

金旋隊(金玉昼、下町娘、孫匡、孫朗)4万5千、
徐庶隊(廖化、黄祖、黄射、張常)3万、
甘寧隊(陳武、孫瑜、董襲、卞質)3万、
朱桓隊(朱異、蒋欽、凌統、陳表)3万。

対する呉郡の兵は5万。
守将は孫権、孫尚香、庖統、太史慈、劉備など。

 呉郡攻略戦

そして会稽攻略のため、章安港、始新城塞より
合計14万5千が出撃した。

章安より、
霍峻隊(関興、張苞、馬良、馬謖)4万、
金満隊(鞏恋、魏光、魯圓圓、雷圓圓)3万5千。

始新より、
李厳隊(馮習、張南、忙牙長、陶商)4万、
金閣寺隊(髭髯龍、髭髯豹、髭髯鳳、孟達)3万。

対する会稽の兵は4万。
守将は陸遜、程普、周泰、徐盛、孫皎など。

 会稽攻略戦

今、楚呉の最終決戦が始まろうとしていた。

    ☆☆☆

呉郡・会稽の同時攻略に向け動き出す楚軍。

……だが、彼らが動き出すその前から、
呉軍はすでにその動きを察知していた。

   孫権孫権   庖統庖統

孫 権「……楚軍は明日、動くというのか?」
庖 統「はい、秣陵、そして章安・始新。
    ほぼ同時期に軍を発するとのこと」
孫 権「呉郡・会稽を同時に攻撃する意図か……」
庖 統「金旋は、今年中に揚州全土を制圧するという
    目標を掲げておるそうにございますな。
    逆に言えば、今同時に攻撃せねば、今年中の
    決着は望めぬということなのでしょう」
孫 権「ちっ……金旋め、嘗めた真似を。
    こうなれば、意地でも今年は生き残らねばな」
庖 統「それにつきましては……。
    この庖統に、ひとつ策がございますが」
孫 権「策?」
庖 統「多少危険は伴いますが。
    しかし、おそらく年は越せるかと思います」
孫 権「ふむ。まずはその策、聞いてみよう」
庖 統「は、その策とは……」

……その翌日。
庖統の言っていた通り、楚軍は動き出した。
秣陵より金旋隊などが出撃し、章安・始新からは
霍峻、金閣寺などの隊が出撃した。

それと時を同じくして、呉郡も動いた。

孫権の命により、朱治、呂岱、太史慈、張承が
1万の兵を率い、会稽へと移動を始めたのだ。

 会稽への増援

   朱治朱治   呂岱呂岱

朱 治「呉郡の守りはがら空きになってしまうが、
    これがご主君の望みなら、仕方あるまい……」
呂 岱「すでに会稽は戦いが始まっている頃だ!
    我らが増援に加われば、形成も逆転しよう!」

また、孫尚香と劉備の二人を会稽へ移動させる。

   孫尚香孫尚香  劉備劉備

孫尚香「兄上……。なにも兄上自らが囮のような
    役をやらずともよいものを……」
劉 備「いや、それは違いますな。
    君主であるからこそ、呉の頭領だからこそ、
    孫権さま自らが残らねばならんのです」
孫尚香「兄上……会稽は必ず守ります。
    ですから、どうかご無事で」

呉は兵のほとんどを会稽に向け移動させた。
呉郡に残るのは、呉公孫権と1万の兵のみだ。

庖統が進言した策。
それは、呉郡の兵のほとんどを会稽に送り、
自分たちから戦力の均衡を崩すことだった。

    ☆☆☆

呉郡から会稽へ増援部隊が出た。
その報を聞いて仰天したのが金旋である。

  金旋金旋   下町娘下町娘

金 旋「あ、あんですと!?
    ほとんどの兵が会稽に行ったというのか」
下町娘「早馬の知らせでは、そのようですけど……」
金 旋「こらー! 玉ー! どういうことだ!?
    緊縛プレイじゃなかったのかー!?」

大兵力で同時に呉郡・会稽の両都市を攻め、
相手に身動きを取れなくする金玉昼の自信の戦略。
それが全く効果を成してなかったとなれば、
金旋が慌てるのも無理はない。

    金玉昼金玉昼

金玉昼「うーん、この発想はなかったにゃー。
    まさか、思い切って片方を捨てるとは……。
    確かに現在の兵力を一箇所に集中させれば、
    なかなかの一大兵力にはなるけれども……」
金 旋「こうしちゃおれん! 玉、こちらの軍を
    半分に分け、会稽に向かわせるぞ!」
金玉昼「策が外れた以上、しょうがないにゃ。
    呉郡攻略は徐庶・朱桓隊に任せることにして、
    本隊と甘寧隊は会稽へ向け進路変更にゃ」

10月下旬に入り、呉郡攻略隊のうち、
金旋隊・甘寧隊は会稽へと進路を変えた。

 楚軍方向転換

だが、その楚軍の情報が、今度は会稽へと
移動している最中の張承の部隊に入った。

    張承張承

張 承「……秣陵の楚軍の半数以上が、会稽へ?」
密 偵「はっ。
    金旋・甘寧の隊7万5千は、進攻方向を変え
    会稽へと向かい始めたようにございます」
張 承「呉郡に向かう部隊は6万になったか。
    わかった、よく知らせてくれたな」
密 偵「はっ」
張 承「……我が隊は、呉郡に引き返すことにする。
    お主はこのことを他の隊に知らせてくれ」
密 偵「は、はい」

その密偵は、他の隊にそのことを知らせた。
朱治、呂岱の隊は命令通りに会稽に向かったが、
太史慈隊は張承隊と共に呉郡へ戻る道を選んだ。

    太史慈太史慈   張承張承

太史慈「……ご主君の身を案じて引き返すのか?」
張 承「それもありますが……。
    呉郡に向かってくる部隊は6万に減りました。
    今、この隊の兵が戻れば、なんとか呉郡を
    守れるのではないか、と思ったのです」
太史慈「なるほどな。では私もそれに乗ることにしよう。
    3万いれば、6万を追い返すことはできるだろう」
張 承「良いのですか、太史慈どの? 命令違反で
    罰せられる可能性もありますが……」
太史慈「はは、この状況下で処分など出来ぬよ。
    さあ、そうとなったら急ごうではないか」

二人の将は呉郡へと戻っていった。
孫権は戻った二人を口では叱責したものの、
命令違反に対する処分などは全くなかった。

 呉郡に逆戻り

これにより、呉郡の兵は3万、会稽は6万
(開戦前時点での換算)となる。

双方の状況はめまぐるしく変わっていった。

    ☆☆☆

太史慈・張承の隊が呉郡に戻ったという報が
金旋の下に届いたのは、11月に入ってだった。

   金旋金旋   金玉昼金玉昼

金 旋「今度は呉郡かよ!!」
金玉昼「呉3万、会稽6万……なるほど」
金 旋「何がなるほどだー!?
    自信ありげだった割に、完全に後手後手に
    回っているじゃないかー!?」
金玉昼「まあ落ち着くにゃ。
    相手は、こちらの情報を素早く入手し、
    こちらの動きに合わせて対応しているのにゃ」
金 旋「……だから、何なんだ?」
金玉昼「敵の動きに合わせてこちらが動けば、
    敵もまたそれに対応して動いてきまひる。
    遅い方が後手後手に回るということにゃ」
金 旋「いや、それは分かるが……」
金玉昼「だったら……。
    敵の動きに惑わされなきゃいいのにゃ。
    とりあえず、こちらも呉郡に向かいまひる」
金 旋「……わかった。では再度、方向転換だな。
    もう、目標は呉郡から絶対変えないからな」

    下町娘下町娘

下町娘「でも、徐庶・朱桓隊と離れてしまいましたね。
    本当なら、全部隊で同時に攻撃、どかーん!
    ……っていう予定だったのに」
金 旋「あちらが先行する形になっちまったな。
    まあ、それほど大きな差があるわけでもなし。
    大して影響はないはずだ」

呉郡にまっすぐ向かっていた徐庶・朱桓隊と
会稽に行こうと寄り道した金旋・甘寧隊。
その差は大体、十数日分ほどの距離があった。

 楚軍の前と後ろ

金玉昼「あー」
金 旋「どうした玉、何かあったか」
金玉昼「読めちゃった」
金 旋「あ? 何が?」
金玉昼「呉郡の敵軍がこれからどう動くか……。
    それが読めちゃったにゃ」
金 旋「なにー!? ど、どう動くっていうんだ!?」
金玉昼「ヒント1。今回、呉はこちらの動きに敏感。
    ヒント2。ただ篭城するのは下策中の下策」
金 旋「どういうことなんだー!?
    さっぱりわからんー!!」
金玉昼「まあ、見ててほしいにゃ。
    その動きを逆手に取り、今回裏をかかれた分を
    一気に取り返してやるにゃ……。
    ウフ、ウフフフ……」
下町娘「敵に裏をかかれたの、気にしてたのね。
    玉ちゃん……怖い子だこと」

呉郡の戦いは、どうなっていくのだろうか。

    ☆☆☆

11月半ばまで戦闘が無かった呉郡とは違い、
楚軍の章安港と数日の距離しかない会稽では
10月半ばからすぐに戦いが始まった。

章安から出撃した霍峻・金満隊が攻撃を開始。
対する会稽は、大将の陸遜自らが兵2万5千を
率い、野戦でこれを迎撃しようとする。

 陸遜部隊出撃

    霍峻霍峻

霍 峻「相手の大将は陸遜とのこと。
    用兵の上手さはかなりのものとか……。
    気をつけてかかってください」

   関興関興   張苞張苞

関 興「油断すんなよ、張苞」
張 苞「おう! 一撃で首を上げてやるぜ!」
関 興「……それは油断じゃないのか」
張 苞「へっ、これは自信って言うんだよ」

   馬良馬良   馬謖馬謖

馬 良「謖、お前も出過ぎぬようにな」
馬 謖「わかっておりますよ、兄上」

陸遜隊は正面の霍峻隊に向け、攻撃を開始した。

   陸遜陸遜   徐盛徐盛

陸 遜「今回の会稽攻略に来る楚軍の中枢部。
    それがあの霍峻の部隊であろう……!
    あれを叩き、楚軍の連携を切り崩すのだ!」
徐 盛「応! さあ兵たちよ、訓練を思い出せ!
    相手は同じ人間だ、怖がることはないぞ!
    総員、切り込めっ!」

陸遜隊の先鋒、徐盛がまず先陣を切った。
左翼・右翼を担う孫皎と呂拠も、それに続く。

   孫皎孫皎   呂拠呂拠

孫 皎「よぉし、我らも徐盛隊に続くぞ!
    右翼の呂拠よりも先んじるのだ!」
呂 拠「孫皎さまの動きが速いな!
    左翼に負けるな、さあ突っ込めっ!!」

陸遜隊は非正規の兵が多い割に士気も高く、
霍峻隊だけが相手なら、そのまま圧倒し、
勝つこともできたかもしれない。

だが、今回はそうではない。
前進する孫皎の左手より、金満隊が現れた。

 2対1

    金満金満

金 満「我らもいることを忘れるな!
    各分隊、連弩用意! ……放てっ!」

   雷圓圓雷圓圓   魏光魏光

雷圓圓「今回は皆が連弩装備ですからね!
    ちょやーっ! 全弾発射ですよーっ!!」
魏 光「矢を惜しむ必要はない!
    持ってる矢を撃ち尽くすつもりで撃て!」

今回のこの部隊は鞏恋、魏光、魯圓圓、雷圓圓が
連弩を備えており、射撃能力に特化していた。
まるで雨のように無数の矢が陸遜隊の左翼を襲う。

呉兵A「あちら側の空から、何かが……ぐわっ!?」
呉兵B「う、うわあああっ! 矢だ!
    空が見えないくらいの量の矢が来る!!」

空を黒く染めるように飛んでくるその矢の雨に、
孫皎麾下の兵は恐慌し、為す術も無く倒れていく。
そのため孫皎も、馬の足を止められてしまった。

孫 皎「ぬうっ、楚軍め!
    物量で押し切ってしまおうという腹か!?
    だが、こんなもので孫呉の旗は倒れぬ!」
呉 兵「そ、孫皎さまぁ!
    こ、こんな矢の雨をどうすれば……!?」
孫 皎「皆、慌てるな! 矢を叩き落とせ!
    物陰に身を隠せ! 死体を盾にしてもよい!
    たとえ連弩でもその矢の数には限りがある!
    ここを凌げば生き残れるぞ!」

だが、その孫皎の指示も兵たちの悲鳴や怒号に
遮られてしまい、ほとんど届かなかった。

兵は矢の雨を身に受け次々と倒れていく……。
それでも孫皎は矛を振るい、矢を叩き落し続ける。
……だが、その行動は無秩序に逃げ惑う呉兵の
中にあって、かなり目立つものであった。

    鞏恋鞏恋

鞏 恋「あれが隊長……。やあっ!」

連弩を放つ味方の兵に混じり、鞏恋が養由基の弓を
引き絞り、孫皎に向けて矢を放った。

 どすっ…… カラカラーン

胸に矢を受け、孫皎は矛を取り落としてしまう。
だが、その目はまだ煌々と光を宿していた。

孫 皎「ぐっ……。やってくれたな……。
    だが、まだだ。まだ終わらん……!」

腰の剣を抜こうとする孫皎。
だが、敵将のその動きを見て、楚軍の兵は
手にする連弩の狙いを集中させた。

……その中に、魏光の姿もあった。

魏 光「敵将! 覚悟なされよッ!」

魏光の放った矢が孫皎の肩口に突き刺さる。

孫 皎「ぐっ……!!」

痛みで腕が動かず、剣を抜くことができない。
それが契機になったように、無数の連弩の矢が
一人の将に向かって放たれる。

孫 皎「終わりか……!
    だが、伯父上から続く、孫家の誇りは……!
    孫呉の旗に込められた我らの誇りは……!
    未来永劫、失われることはないッ!!」

……向かってくる幾本もの矢を打ち落とす術は、
もう孫皎には残されていなかった。

    ☆☆☆

 大損害

金満隊の連弩により、陸遜隊は多大な犠牲を出した。
多くの兵を失い、そしてかけがえのない将も失った。

    陸遜陸遜

陸 遜「どうした、何があった?」
呉兵A「はっ……!! 敵、金満隊の連弩により、
    孫皎さま率いる左翼がほぼ壊滅しました!
    中央にもかなりの被害が及んでおります!
    死者・負傷者を合わせた戦闘不能の兵は、
    ざっと1万近くになるかと!」
陸 遜「なにっ、そこまでの攻撃を受けたのか?
    して、孫皎さまはどうした?」
呉物見「無数の矢を身体に受け、討死なされました。
    壮絶な、御最後であったとのこと……!」
陸 遜「孫皎さまが……!? な、なんてことだ。
    呉公と共に孫家を担うべき方を……!!」

    呂拠呂拠

呂 拠「孫皎さまが!? う、嘘だ!
    このような時に、そんな冗談は……!」
呉 兵「このような時に、嘘など申しません!」
呂 拠「くっ……。その場にいれば、
    自分が盾になってでもお守りしたのに!」
呉 兵「呂拠さま……」

    徐盛徐盛

徐 盛「孫皎さまがやられただと!?
    ぐぬぬ、やってくれたな、楚軍め!!
    こうなれば報讐雪恨、孫皎さまの仇を討つ!
    皆の者、ついてこいっ! 奮迅だ!!」

陸遜隊の先鋒である徐盛は、その怒りを目の前の
霍峻隊に叩き付けた。
その一撃で、霍峻隊は4千の兵を失った。

   霍峻霍峻   馬良馬良

霍 峻「くっ、凄まじい勢い。
    虎の尾を踏んでしまったかのようですね」
馬 良「徐盛はなかなか手強い相手です。
    関興・張苞に迎撃を命じましょうか」
霍 峻「そうですね、確かに相手が徐盛ともなると
    彼らでなくては相手にはならないでしょう。
    ……ん? 金満隊が、こちらに向かってくる?」

側面からの連弩攻撃を終えた金満隊が、
彼らの近くへとやって来る。
左翼先鋒の魏光が、霍峻に向けて声を掛けた。

    魏光魏光

魏 光「陸遜隊はこちらにお任せを!
    そちらは、会稽城への攻撃を頼みます!」

そして魏光は、徐盛が暴れている前線へと向かった。

霍 峻「ふ、少しの間で大分逞しくなりましたね。
    では、彼らの好意に甘えるとしましょうか」
馬 良「はい、部隊を会稽に向け移動させます」

霍峻隊は、陸遜隊の脇をすり抜け会稽へ向かった。

 霍峻隊、会稽へ

徐 盛「むう、逃げるか霍峻め!」

霍峻隊が迂回する動きをしているのを見て、
徐盛はそれを追いかけようとする。

……だが、そこに立ちはだかる、魏光。
そして金満隊の兵たち。

   魏光魏光   徐盛徐盛

魏 光「ちょっと待った!
    お前たちは、この金満隊がお相手する!」
徐 盛「金満隊……。
    では、先ほどの連弩は、貴様らがやったのか」
魏 光「その通りだ」
徐 盛「では、孫皎さまをやったのも貴様らだな」
魏 光「そ、その通りだ」

その瞬間、徐盛の目が光ったように見えた。

徐 盛ブ・チ・コ・ロ・スッ!!
魏 光「う、うわあ!?」

切りかかる徐盛、それを受ける魏光。
両者の一騎討ちが始まった。

  一騎討ち男男

徐盛:武力89 VS 魏光:武力85

徐 盛「我が名は徐盛、字は文嚮! 参るぞ!」
魏 光「わ、はわわ、えー、えーと……」
徐 盛「何なんだ、お前は!?
    名乗られたら名乗り返すが礼儀だぞ!」
魏 光「あ、そ、そうか。
    わざわざ教えてもらってすいません」
徐 盛「いやいや、別に大したことでは……。
    って、私とお前は敵同士だぞ!!
    しかもカタキだ、分かってるのか!!」
魏 光「そ、そうだった。わ、我が名は魏光!」
徐 盛「遅いわっ!」
魏 光「うわあ!?」

 ガキーン!!

しびれを切らした徐盛が切りかかっていったが、
魏光はとっさに肉包丁でそれを跳ね返した。

徐 盛「むっ……。跳ね返したか。
    その筋肉は飾りではないようだな……」
魏 光「き、鍛えているからな!」
徐 盛「しかし、力だけで勝てるほど甘くはないぞ!
    それ、それそれそれっ!!」
魏 光「う、うわっ……」

素早い攻撃が何度も繰り出された。
それに振り回され、魏光は無駄に体力を消耗する。

   金満金満   鞏恋鞏恋

金 満「何をやってるんです、魏光さんは。
    あれでは、まるで素人ではないですか」
鞏 恋「……素人だもの」
金 満「え?」
鞏 恋「これまで一騎討ちの経験なんてないから」
金 満「え、ええーっ!?
    これまで、一度も経験無いんですか!?」
鞏 恋「私が知る限り、これまでの戦いで
    1対1で敵将と剣を交えた経験はないはず」
金 満「だ、大丈夫なんですか?」
鞏 恋「先ほどの連弩で武力が1プラスされたけど、
    それでも、なまはげ包丁の武力補正を加えて
    やっとこ85程度になるだけ。
    89の値を持つ徐盛にどれだけ通用するか」
金 満「な、なんですか、その数値は」
鞏 恋「……じーっ」
金 満「ど、どうしたんです?」
鞏 恋「武力たったの1……ゴミね」
金 満「ゴミー!?」

 カンッ ガッ ギンッ

徐 盛「ははは、どうしたどうした!
    防戦一方ではないか!!」
魏 光「くっ、ま、まずい。このままではやられる」
徐 盛「貴様の命を捧げ、孫皎さまの魂を慰める!
    さあ、そろそろ観念してもらおうか!」
魏 光「う、うううっ! ここまでか……!?」

押されまくる魏光。
そこに、鞏恋から声がかかった。

鞏 恋「魏光!」
魏 光「きょ、鞏恋さん……!?
    そ、そうだ、私には鞏恋さんがついている!」
徐 盛「む、彼女が魏の勇将を次々と打ち負かした、
    小養由基とも言われるあの鞏恋か……。
    面白い、こやつを倒したら出てきてもらおう」
魏 光「何をっ!?
    鞏恋さんの強さを知って後悔するなよ!」
徐 盛「……私が彼女と勝負するには、お前が今
    私に負けるというのが前提なのだが。
    ……それで構わないのか?」
魏 光「はっ!? い、いやいやいや!!
    良くない! 全然良くない!」

鞏 恋「魏光! これを見なさい!!」

鞏恋は魏光に向かってそう叫ぶと、
なにやら変な動きの入った踊りを始めた。

徐 盛「な、何をする気だ!?」
魏 光「ブロックサイン……!?
    鞏恋さんは私に何か伝えようとしている!
    えー、なになに……」

 『とにかく』
 『一撃だけでも』
 『ぶちかませ』
 『一方的に』
 『負けるのだけは』
 『死んでも』
 『許さない』
 『(`□´)くわっ』


魏 光う、うおおおおっ!
徐 盛「な、なんだ、この気迫は!?
    まるで人が変わったかのようだ!」
魏 光「例えこの命が散るとしても……!
    彼女が認める男として死んでみせる!
    いくぞ、マッスルのいちげきぃっ!

 ぶんっ!

徐 盛「はっ、そんな見え見えの攻撃に当たるか!」

上段からの斬撃をかわした徐盛は、
その大きな隙を狙って魏光に切りかかろうとした。
だがその時、振り下ろされたはずの肉包丁の、
その面が徐盛の顔面へと迫っていく。

徐 盛「なっ……」
魏 光うおおおおおおおお!!

魏光は振り下ろした動きを、その筋肉の力で
無理矢理に止め、横に振り返したのだ。

徐 盛「そんな、馬鹿なっ……!?」
魏 光「食らえーっ! なまはげェェェッ!!
    ホォォォォムランッ!!

肉包丁の面の部分で徐盛の顔面を引っ叩いた。
……いくら面の部分といっても、肉包丁の重量、
そして魏光の腕力は相当なものである。

鼻から血を噴き出しながら、徐盛は吹っ飛んだ。
一方の魏光も相当無理がかかったのか、
その場で息を切らせるのみだった。

……少しして、ハッと徐盛の方を見る。

魏 光「……あ、あれ?
    全然、立ち上がって来ないな……」

徐盛は倒れたままだった。
ピクピクと動き、時折鼻から血が噴き上がる
ことから、まだ生きてはいるようだが。

その様子を見て、金満は兵に指示を出した。

金 満「近くにいる兵は徐盛を捕らえよ!」
魏 光「……あ、あれ?」
金 満「徐盛は気絶していますよ。
    見事な一撃でした、魏光さん!」
魏 光「え、あ、そ、そうなの?
    そ、そうだ、鞏恋さんは……」

魏光が鞏恋の方を向くと、彼女はまた
変な踊りのようなブロックサインを出してきた。

 『よくやった』
 『帰ったら』
 『蛮望を』
 『ファックしていいぞ』


魏 光「しませんよ!!」

武力の値では劣る魏光だったが、必殺の一撃を
ぶちかまし、徐盛を撃破したのだった。

孫皎を射殺し、徐盛を捕らえた楚軍。
士気上がる彼らを相手に、呉軍はどう戦うのか。

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