220年5月
5月、南方で山越軍を打ち破った頃。
廬江からいよいよ東部への遠征軍が出発した。
金旋
燈艾
金 旋「じゃあ燈艾、そっちはよろしく頼む」
燈 艾「了解いたしました」
金 旋「鞏志、費偉も。しっかりやれよ」
鞏志
費偉
鞏 志「は、荊州に負けぬほどの都市に致します」
費 偉「我らにお任せくださいますよう」
それまで諸将の間では、今回の遠征の大将に
燈艾か徐庶あたりがその任に当てられるのでは
と言われていたが……。
金 旋「よし、それでは尋陽へと向かい、港に入る。
そこでまず、黄祖らと合流するぞ」
金玉昼
徐庶
金玉昼「了解〜。ま、尋陽はすぐそこだけどにゃ。
それじゃ、参るとしますかにゃー」
徐 庶「よし、それでは全軍、進め!
俺の歌に合わせて、行軍だっ!」
燃やせ!その瞳に灯した 炎に命を賭けて
誰かがお前を呼んでいる 勝利を掴むまで
熱いその体に流れる 血潮に心をゆだね
愛のために死ねる朝を 探しているのか
傷つき倒れた体を 夕陽が染め上げて
悲しみさえもいつか 勇気に変わるだろう
立ち上がれ 何も恐れずに
空が燃える 世界が叫びを上げる
嗚呼 金旋
金 旋「俺かよ!?」
いざ蓋を開けてみれば、今回の大将は
金旋自らが務めるとのことだった。
燈艾、鞏志、費偉らを再開発要員として
廬江に残し、寿春の魏延らはそのまま残留。
その他の主だった将と10万の兵を連れ、
金旋はまず廬江の隣りの尋陽港へ入った。
これでこの港には、元からいた分を合わせ
13万の兵が集結した。
黄祖
金旋
黄 祖「いやいや、よく来てくださったな〜。
さあ、まずは旅の疲れを宴で癒して……」
金 旋「黄祖、お前……。かなりの額の銭を
貯めこんでるらしいじゃないか?」
黄 祖「いきなり何を言われるか。
大事な戦いを控えた時期にどうしたかな?」
金 旋「聞いてるのはこっちだ。
襄陽銀行からの知らせでわかったことだが、
同銀行の預金残高No.1は他をぶっちぎって
お前になっているらしいぞ?」
黄 祖「それはそれは、重畳ですな。
年金が貯まりに貯まった結果かのう」
金 旋「しらばっくれるな、色々やってんだろ。
個人の財産としては桁が違いすぎるんだよ。
大体、こんなに貯めこんでどうする気だ?」
黄 祖「人聞きの悪いことですなぁ……。
国が危なくなった時に、貯めた私財で助けよう、
そう思って貯めてきたのだというのに」
金 旋「うーそーつーけー」
黄 祖「なんなら、証文でも書きますかな。
『国が窮した際には、黄祖の銀行預金を全て
国に供与することを宣言する』とでも」
金 旋「え? ほ、本当か、それ」
黄 祖「ちょうどここに紙と筆がありますので。
さらさらさら〜っと。で指紋捺印、ぽん。
さ、これを持っていてくだされい」
金 旋「……い、いいのか、それで?」
黄 祖「いいです、いいのです、楚王のためです!
ささ、そんなことより宴席へどうぞどうぞ」
金 旋「よ、よーし、それじゃ皆、宴会場へ行くぞ〜」
金旋と黄祖が並んで歩いていくのを見て、
金玉昼は溜息をついた。
金玉昼
下町娘
金玉昼「ちちうえもバカだにゃ〜」
下町娘「え? どういうこと?」
金玉昼「あんな証文、ペテンでしかないのに」
下町娘「ペテン? 預金を供与するっていうのが?
どうして、ちゃんと指紋捺印までしてるのに」
金玉昼「確かに証文自体は有効にゃ。
しかし、その文面にトリックがあるのにゃ」
下町娘「ト、トリック?」
金玉昼「『財産を全て』ではなく、『銀行預金を全て』
という所が引っ掛けなのにゃ。了解?」
下町娘「あ、ああ〜! なるほど!
先に預金を全部下ろしてしまえば……」
金玉昼「供与できる額もゼロになるっていうことにゃ」
下町娘「そ、それじゃ、完全に騙されてるじゃない。
いいの、それ金旋さまに言わないで」
金玉昼「老い先短い黄祖さんが金を貯め込んだ所で、
別に何か不都合が生じるわけでもないにゃ。
それを受け継ぐ黄射さんは人間が出来てるし」
下町娘「玉ちゃんも最近、結構キツイよねぇ。
老い先短いとかって言葉は、当人じゃなくても
歳行ってる人の前では言わない方がいいよ〜」
金玉昼「それは心得ていまひる」
☆☆☆
5月下旬、金旋は自ら総大将を務め、
魏軍の阜陵港へ向け、艦隊を出撃させた。
軍勢の内訳は、以下の通りである。
金旋隊(下町娘、金玉昼、孫匡、孫朗)楼船3万
徐庶隊(周倉、陳武、陳表、張常)闘艦2万
黄祖隊(蔡和、蔡中、黄射、張允)闘艦2万
また、それとは別に2艦隊を準備させる。
こちらの艦隊は、合肥城塞の東側に位置する、
呉軍の烏江へと向かわせることになっている。
甘寧隊(留賛、留略、凌統、董襲)闘艦3万
朱桓隊(朱異、蒋欽、吾粲、卞質)闘艦3万
金 旋「両隊は我らが出航した5日後に出航せよ。
烏江を占領するためのコースを取れ」
朱桓
甘寧
朱 桓「はっ……しかし、烏江は兵もおりません。
6万も動員する必要もないと思いますが」
甘 寧「それより、どちらかを阜陵攻略に加えた方が
よいのではないかと思うが、どうだろう」
金 旋「案ずるな、これは全て玉の指示だ。
阜陵攻略の策は考えているようだぞ」
朱 桓「左様ですか、それなら安心」
甘 寧「それでは、その指示通りにしましょう」
金 旋「……そうか、それでいい。では、
二人に玉の指示の入ったこの袋を与える」
甘 寧「袋? その中に、命令書が入っていると?」
金 旋「そうだ。いいか、今は開けるなよ。
尋陽と烏江の中間、その辺りに達した時に
袋の中身を開け、その指示通りにしろ」
朱 桓「は、了解です」
……以上、金旋の回想。
金旋隊は現在、徐庶・黄祖隊と共に、
阜陵へ向かい江を下っている所である。
金 旋「全く、あいつらと来たら……」
金旋は、出陣直前に完成した新造艦『雷凰』
の見晴台の上に立ち、江の風を受けながら
多少不機嫌そうに呟いた。
それに、傍らにいた金玉昼と下町娘が反応する。
金玉昼
下町娘
金玉昼「どうかしたのかにゃ」
下町娘「あいつら、とは?」
金 旋「ああ、甘寧と朱桓だ。あいつらと来たら、
俺の指示を聞いて不安げな顔をしてたのに、
玉の名前を出した途端、コロッと態度が
変わりやがった……」
金玉昼「ああ、尋陽を出てくる時にゃ?」
下町娘「袋を渡した時ですね」
金 旋「ああ。全く、腹立たしい。
そんなに俺の指揮に不安があるのか!」
金玉昼「うん。不安いっぱいだにゃ」
下町娘「そうだよねぇ。
不安持たない人なんて何かおかしい人だよ」
金 旋「おいおいキミタチ。
ここは多少はおべっかを使っていい所だよ?
いや、むしろ使うべきだ!
何よ、その歯に衣着せぬ言葉!」
金玉昼「まあまあ、だからこそ私たちがいるんだにゃ。
君主であるちちうえ自身に不安があるから、
部下は自分が頑張らなきゃ、と励むんだにゃ」
金 旋「そういうもんかな」
下町娘「そうですよー。
金旋さまが何でも出来る完璧超人だったら、
私が雇われることもなかったでしょうし。
金旋さまがそういう感じだからこそ、
今いる人たちが集まってこれたんです。
言わば、今の楚国があるのは、金旋さまが
そういう感じだからなんですよ」
金 旋「褒められてるのか微妙だな、それ」
金玉昼「褒めてないと思う」
下町娘「ええ、褒めてません。
思ってることを正直に言ってるだけです」
金 旋「さよけ……。
それより玉、甘寧・朱桓に渡した袋の中には、
どんな指示が書いてあるんだ?」
下町娘「え? 金旋さまも知らないんですか?」
金 旋「書いてる時にも見せてくれないんだもんな。
一体、どんなことを書いたんだよ」
下町娘「私も知りたいな〜」
金玉昼「それは……秘密にゃ」
金 旋「いいじゃないか、もう渡した後なんだし」
金玉昼「種を明かしちゃうと驚きが無くなりまひる。
全ては後のお楽しみにゃ」
金 旋「そう言われると、ますます気になるな」
金玉昼「そこまで大したことじゃないにゃ。
ま、その時になればわかることにゃ」
☆☆☆
さてその頃。
寿春のすぐ東側、合肥城塞。
ここは以前から呉軍の所領であったが、
ずっと守備兵もおらず、呉軍の委託を受けた
管理人のジジイしかいない所だった。
そこに、寿春より5千の象兵部隊を引き連れ、
魏延が入ってきたのである。
城塞を管理していた管理人は、象兵部隊の迫力に
完全に圧倒されてしまっていた。
魏延
蛮望
管理人「ひえ〜!! 怪物の軍団だぁぁぁ〜!
お、お、おおおお助け〜!」
魏 延「取って食ったりはせん。まず落ち着け」
蛮 望「全く、こんな可愛い子たちを怪物だなんて。
失礼しちゃうわね、プンプン」
管理人「こっちはオカマの化け物だぁぁぁ〜!!」
蛮 望「だ、誰が化け物ですって!?」
魏 延「ああもう、お前も落ち着け。
とにかく今日からここは楚軍の所領だ。いいな」
管理人「へ、へへぇ。了解でありますだ、鬼将軍様」
魏 延「誰が鬼将軍だ!」
魏延は権利書の書き換えや管理の取り決め、
条例の公布や税金・公共料金の納付先変更など、
諸々の手続きを行った。
その手続きを全て終えた魏延のところに、
象の世話を終えた蛮望がやってきた。
蛮 望「あら、大分お疲れのようね?」
魏 延「全くだ、肩が凝って仕方がない。
寿春で内政してた方が楽かもしれん」
蛮 望「あらら。内政ばかりで身体がなまってしまう、
とか言って寿春を出てきたくせに〜」
魏 延「そりゃ本音だ。
ずっと城の中にいては、戦いの感覚が鈍る。
武人はその感覚を忘れてはいかんのだ」
蛮 望「それは同感ね」
魏 延「今回はお前のおかげで象兵の扱いを覚えた。
感謝するぞ蛮望。顔はキモいが」
(※今回の出陣で魏延は攻城兵法「象兵」を習得)
蛮 望「キモいは余計よ!」
魏 延「さて、次は烏江港だな。あそこを落とせば、
寿春城の周囲は全て固めたことになる。
あそこも兵はいないらしいが……」
蛮 望「あら、聞いてないの?」
魏 延「あ? 何がだ」
蛮 望「烏江には尋陽から2艦隊が向かってるそうよ。
まあ、急げばこっちの方が早く着くけど、
兵がいない所で競っても仕方ないでしょ」
魏 延「烏江に艦隊が? そいつはどうも臭いな」
蛮 望「臭う? お風呂入るなら沸かすけど」
魏 延「体臭のことじゃない、その艦隊の話だ。
烏江を落とすなら、我らに下知すればよい。
兵がいない港など、すぐに落とせるからな」
蛮 望「アテにされてないんじゃないの」
魏 延「違うわ! これには裏があるのだ。
おそらく、何かの策だろう」
蛮 望「不安ね」
魏 延「……何がだ?」
蛮 望「アナタにそれが策だと気付かれるようでは、
敵軍にも気付かれるんじゃないかってこと」
魏 延「ははは、そりゃ心配しすぎだ。
味方と敵では情報量が全く違うんだ。
敵がよほどの天才でなければ大丈夫だろ」
蛮 望「阜陵の大将って諸葛亮だけど」
魏 延「……不安だ!」
☆☆☆
6月に入った頃、金旋、徐庶、黄祖の艦隊が
阜陵に近付いてきた。
対する阜陵より、諸葛亮艦隊2万5千(楼船)、
夏侯淵艦隊2万(走舸)が迎え撃つため出撃。
7万vs4万5千。
数字では差があるが、魏軍の方が阜陵港の近くで
地の利を得ている上、楚軍の7万のうち3万は、
戦下手と評判の金旋が率いている。
諸葛亮
諸葛亮「この陣形は……そういうことですか」
糜威
糜 威「軍師、楚軍の陣形がどうかされましたか」
諸葛亮「む……。糜威(ビイ)どのですか」
糜威。
かつて劉備に仕えていた糜竺の子である。
父同様、兵を率いるのは苦手であるが、
弓馬の術には長けていたらしい。
(※正史に記されている糜威は(多分)男ですが、
このリプレイでは女に設定してあります)
父、糜竺が楚軍に登用されてしまった後も、
彼女は魏軍に残り武官の務めを果たしていた。
諸葛亮「いえ、戦の勝敗が見えてしまったもので」
糜 威「勝敗が見えた? では陣形を見ただけで、
敵の狙いなども全て判ってしまったのですか?」
諸葛亮「ええ。全て見えました」
糜 威「さ、流石は軍師……!
私など、さっぱり判らないというのに」
諸葛亮「いや、あまり見えすぎるのもどうかとは
思いますがね……」
糜 威「……?」
諸葛亮「まあ、それはいいとして……。
楚軍のあの陣形は、『双頭の蛇』です。
徐庶隊、黄祖隊がそれぞれ蛇の頭となり、
金旋隊が胴体となっているのです」
糜 威「二つの頭を持った蛇ですか」
諸葛亮「これは徐庶の得意とする戦法です。
彼と共に水鏡先生の下で学んでいた頃、
模擬戦で彼がよく多用していました」
糜 威「では軍師は、この陣の特性や、弱点なども
全て判ってらっしゃるのですね!?」
諸葛亮「ええ……。この陣形は、二つの頭と胴体が
まるでひとつの生き物であるように
連携して戦うことが鍵となります」
糜 威「だからこそ、双頭の蛇と呼ばれるのですね」
諸葛亮「そう……。
だが、今回は胴体を務める金旋が弱い」
糜 威「確かに金旋の統率力はイマイチですね。
では、金旋に攻撃を集中させるのですか?」
諸葛亮は、その言葉に微笑みを見せたが、
彼の首は縦ではなく横に振られた。
諸葛亮「逆ですよ。金旋が上手く動けないなら、
先に二つの頭を潰してしまうのです」
糜 威「頭を先に?」
諸葛亮「金旋を無視すれば、徐庶・黄祖は4万。
こちらは私と夏侯淵の隊で4万5千。
数字では、こちらの方が勝っています」
糜 威「あ……確かに」
諸葛亮「ですから、夏侯淵隊は黄祖隊にぶつけ、
我々は徐庶隊に当たることにします。
我らが勝つには、この作戦しかない」
糜 威「凄い……。そこまで分かってしまうなんて。
軍師、なんて貴方は凄いのでしょう!」
諸葛亮「では、夏侯淵隊に伝令をお願いします。
『黄祖隊殲滅に力を注ぐように』、と」
糜 威「わかりました! では、失礼します!」
糜威が去った後、諸葛亮は渋い顔になった。
諸葛亮「並みの者なら『これで勝てる』と喜ぶだろうが。
……先が見えるのも、また困ったものだ」
諸葛亮隊と夏侯淵隊は、諸葛亮の作戦通りに動く。
目の前の徐庶隊と黄祖隊、それぞれに目標を定め、
攻撃を仕掛けていった。
夏侯淵
夏侯淵「かかれ! 黄祖の軍など蹴散らすのだ!」
夏侯淵隊は小型の走舸の部隊であったが、
その機動性を生かし、副将の曹真と共に黄祖隊へ
矢雨を見舞った。
徐庶
徐 庶「黄祖隊が押されているな」
楚 兵「こちらにも諸葛亮隊が近付いてきてます」
徐 庶「わかってる……。
孔明と、戦場で相対する時が来るとはな」
徐庶と諸葛亮。
二人とも、司馬徽の元で学んだ同門である。
旗艦の甲板の前に立ち、互いを見やる二人。
諸葛亮「元直!」
徐 庶「孔明……!」
諸葛亮「多くは語らぬ。まずはひと勝負!」
徐 庶「いいだろう、それが俺たちの流儀だからな!」
二人は、互いにある物を取り出した。
徐庶は中阮、諸葛亮は琴。どちらも楽器である。
徐 庶「うおおおおおお!
響け、俺のソウルよッ!!」
諸葛亮「震えよ! 戦慄のメロディッ!」
べべべべべべ べべんべんべん
ぺぺぺぺん ぺぺん ぺぺぺん
陳武
陳表
陳 武「何なんだ、この対決は……」
陳 表「さあ……何でしょうか」
徐庶隊の陳武・陳表親子も呆れ顔で見守る中、
徐庶と諸葛亮、二人の早弾き対決はしばらく続いた。
そして……。
べんっ
徐 庶「ぐあっ……しまった!」
諸葛亮「まだまだだな、元直。
その程度でトチるとは、修行が足りないな」
徐 庶「ぬうう……。孔明、お前は腕を上げたな」
諸葛亮「フフ、それほどでも。
……とか言ってる間に、楊齢、陳到!
やーっておしまい!」
諸葛亮隊の副将である楊齢、陳到の手勢は、
二人の早弾き勝負中にいつのまにか展開し、
すでに攻撃の準備を整えていた。
楊齢
陳到
楊 齢「あらほらさっさ〜」
陳 到「そ〜れ、セコッとな〜」
楊齢・陳到が発動させた矢嵐によって、
徐庶隊は三千の被害を出した。
徐 庶「のわーっ! 卑怯だぞ孔明!」
諸葛亮「やかましい! 勝たねばならぬ戦いに
卑怯もなにもあるものか!」
戦いの初めは、魏軍の方が優勢であった。
糜 威「見てください軍師!
我が軍の方が押しておりますよ!」
諸葛亮「……確かに」
糜 威「どうされたのです、渋い顔をして。
我が軍が勝っているのですよ」
諸葛亮「私が渋カッコイイのは確かですが。
しかし、優位な状態はそうは続きません」
糜 威「何を弱気になっているのですか?
軍師が言った通りに戦いは進んでいますよ」
諸葛亮「そう。全ては私の見立て通り。
そしてこの後も、おそらくは……」
その時、兵士の一人が叫んだ。
魏 兵「な、なんだ、あの艦隊はーっ!?」
ズギャーーーーン
諸葛亮「甘寧、朱桓……やはり、新手が現れたか」
糜 威「『やはり』? どういうことです、軍師」
諸葛亮「全ては、我らを欺く偽りだったのですよ」
糜 威「偽り……?
な、なぜあの艦隊は、いきなり現れたのです?
密偵からの情報は来ていないのに……」
諸葛亮「おそらく、あの部隊は当初は違う目標へ
向かっていたと思われます。
そのため密偵も見落としていたのでしょう」
糜 威「予測していなかったのですか!?
密偵からの報告がなくとも、軍師なら……」
諸葛亮「予測はしていました。ですが、今の我らに
情報がないものを考慮する余裕はない……。
どちらにしろ、我らはこの作戦を取るしか
手はなかったのです」
糜 威「では軍師は、全てわかっていたのですか。
敵の意図、新手が来ること、その全てを」
諸葛亮「言ったでしょう。『戦の勝敗まで見えた』と。
例え、敵の意図が全て見えていたとしても、
どうしようもない時があるのです」
糜 威「では、せめて撤退を」
諸葛亮「撤退してどうするのです?
阜陵に戻っても結局は同じことですよ。
拠点を失い、捕まるか、逃げるのか。
それが早く来るのか遅いのかの差です」
糜 威「で、では、この戦いは……」
諸葛亮「……今、それを言うわけにはいきませんね。
言えば、寸分の可能性を捨てることになります」
糜 威「僅かながらも逆転の可能性はあると……。
……わかりました、ならば私はその可能性を
信じて戦うのみです。それでは!」
糜威は一礼すると、前線へと出て行った。
諸葛亮はその姿を見送り、寸分の可能性のため
最後の策を練るのであった。
☆☆☆
甘寧・朱桓の部隊、合計6万が現れ、
戦いの形勢は一気に逆転してしまった。
甘寧
甘 寧「おっしゃー! 董襲、留賛!
夏侯淵隊にありったけぶち込んでやるぞ!」
董襲
留賛
董 襲「了解! 景気よく行くか!」
留 賛「おうよ、一気に決めてやるぜ!」
新手の出現に対応できていない夏侯淵隊に
甘寧隊の者たちは矢嵐を見舞った。
その攻撃は凄まじく、実に夏侯淵隊の半数を
超える、1万2千の被害を与えた。
夏侯淵「応戦! 応戦せよ!」
あまりにも苛烈な甘寧隊の攻撃によって、
夏侯淵隊はその場で方向転換を図ろうとする。
だが、流石に黄祖もその隙を見逃さなかった。
黄祖
黄射
黄 祖「フフフ、夏侯淵よ。
そちらばかりに気を取られてはいかんぞ?」
黄 射「父上、強攻の準備完了です」
黄 祖「よーし、それでは強攻!
元祖荊州水軍の強さを思い知らせてやれ!」
蔡 和「パラリラパラリラ〜!」
張 允「オラオラ、死にたくなければどけ!」
黄祖隊の黄祖、黄射、蔡和、張允の各員が
夏侯淵隊に向かって強攻をしかける。
先に甘寧隊に討ち減らされていた夏侯淵隊は、
これにとどめを刺される形で全滅した。
夏侯淵「ま、また楚軍に負けるのか!」
夏侯淵の人生(後半)、負け人生。
夏侯淵隊を殲滅した楚軍は、黄祖隊が阜陵港に
向かった以外は全て諸葛亮隊に攻撃を集中する。
徐庶
周倉
徐 庶「勝敗はほぼ決したな……。
俺としちゃもう降伏を薦めたいところだが」
周 倉「ははは、そんなことしても無駄ですよ」
徐 庶「そうかな。孔明だって馬鹿じゃない。
ここで玉砕したって何も意味がないことは、
あいつもよく分かっているはずだ」
周 倉「いや、それでも降伏はありえないでしょう」
楚 兵「御大将〜!!
敵の旗艦が白旗を上げております!」
周 倉「ウソ!?」
徐 庶「孔明……。よし、攻撃やめ!」
攻撃が止んだ中を、諸葛亮の乗る旗艦が進んでくる。
それを迎えるように、徐庶の旗艦『人狼』も
軍の前に進み出た。
諸葛亮
諸葛亮「私の身柄を貴軍に預ける。
その代わり、残った部隊は見逃してほしい」
徐 庶「本物の孔明だな。木像とかじゃないよな」
諸葛亮「木像がしゃべる訳がなかろう?」
徐 庶「確かに、そうだけどな……」
周 倉「大将。これは、おそらく奴の計略です。
何か仕掛ける前に、火矢を射掛けましょう」
徐 庶「いや、それは絶対駄目だ。やるなよ」
周 倉「しかし……」
徐 庶「火矢なんぞ射掛けたら、軍法会議で死刑」
周 倉「そ、そこまでする!?」
裏がありそうなこの諸葛亮の降伏の意図は?
そして徐庶の考えは……。
阜陵の沖で、水鏡の同門はどうなるのか。
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