220年2月
2月末、場所は霍峻たちのいる高昌の陣。
山越軍、合計3万を破った金満、鞏恋隊は、
陣へと戻るべく行軍していた。
魏光
鞏恋
魏 光「しかし、大分やられましたねぇ……。
無事な兵は、両隊合わせて大体3万ほど。
2万近くの兵が、山越軍の奮迅にやられて
しまった計算ですよ」
鞏 恋「…………」
魏 光「先行き不安ですねえ。
こんなんで、本当に今年中に山越討伐を
果たすことができるんでしょうか……」
鞏 恋「…………」
魏 光「私は今回の戦いで奮迅覚えましたけどね。
でも、あまり山越軍には効かなそうなのが
なんとも……って鞏恋さん?」
鞏 恋「…………」
魏 光「(目を瞑って考え込んでいる……?
久しぶりに部隊の大将をしたことで、
色々と頭の中で反省してるのかな……?)」
鞏 恋「魏光……。スキ……」
魏 光「え、え、えええっ!?
鞏恋さん、いきなりどうしたんですかっ!?
で、でも嬉しいです、私も、す、す、す……」
鞏 恋「スキンヘッドにしたのね……。
テカテカ光ってすごくまぶしい……。
これこそマッチョのあるべき姿……」
魏 光「は、はぁ!? スキンヘッド?」
鞏 恋「……ん? ……なんだ。夢か」
魏 光「ただの寝言ですかーっ! チクショー!!」
やがて陣に戻ると、部隊は解散された。
将は戦後報告のため、霍峻の元に集まった。
霍峻
金満
霍 峻「皆さん、お疲れさまでした」
金 満「あ、いえ、ありがとうございます」
関興
張苞
関 興「いや、今回はマジで疲れましたよ」
張 苞「異民族ってあんなに強いもんだったのか。
正直、ちょっと舐めていたっすよ」
金 満「部隊の兵の損害は合計2万に上りました。
最初からこれでは、討伐の戦略ももう少し
考え直す必要があるのではないですか?」
魏 光「私たちの力不足も痛感しましたしね……」
霍 峻「いや、そうでもありませんよ。
貴方がたはよくやってくれました」
金 満「いえ、それでも兵の損害は……」
霍 峻「兵士の損失でしたら、ほぼゼロですよ」
魏 光「は? どういうことですか、それは」
霍 峻「捕らえてきた山越の負傷兵ですが……。
これがざっと2万ほどに上ります。
これが回復して自軍に組み込まれれば、
兵士の損失はゼロ、ということになります」
金 満「なるほど! トータルで見るとそうですね」
霍 峻「無論、負傷兵が全て回復するには多少の
時間は掛かりますがね。
とりあえず、夏が来るのを待つとしましょう」
金 満「本格的に動くのは、夏……4月からですか」
霍 峻「ええ。それまで1ヶ月間ほどあります。
ゆっくりと休んで鋭気を養ってください」
その頃、北の廬江近くの尋陽港では、楚軍本隊の
揚州東部への遠征準備が進められていたのだが、
霍峻は焦ることなく、時を待つことにした。
☆☆☆
月は、3月に入った。
場所も変わって、金旋のいる廬江。
ここでは、以前の戦いで壊れた城内の復興や、
来たる呉討伐のための遠征準備などのため、
皆がそれぞれ、忙しい日々を送っていた。
金旋
下町娘
金 旋「あー。暇だなー」
下町娘「……玉ちゃん聞いたら怒りますよ」
しかしながら、君主であるところの楚王金旋、
そしてその秘書役である下町娘にとっては、
それほど忙しくもなく暇であった。
下町娘「あ、そういえば聞きました?
新野で礁周って人が仕官してきたそうです」
金 旋「礁周……? 知らん名だな」
下町娘「えーと、調査部の資料によるとですねー。
『見かけはひょろ長くてボーッとしており、
話してみても口が上手いわけでもないが
経書とか天文学とかにかなり詳しい』、と」
金 旋「ほう、学者みたいなタイプかね。
戦いには全然向いてなさそうだし、それじゃ、
内政要員として頑張ってもらうとしよう」
下町娘「じゃ、人事部のほうにそう言っておきます」
下町娘がメモ紙を資料入れに挟んだ頃、
金旋はふと思い出したように聞いた。
金 旋「そうそう、南じゃ霍峻が山越と戦い始めた
ようだが、北でも戦闘が起きたんだって?」
下町娘「あ、そうですね。
許昌の東、中牟の地で、侵攻してきた魏軍と
戦闘があり、これを撃退したらしいです。
……えー、以前に中牟に建造された石兵が、
魏軍から攻撃を受け始めたのは、昨年の
末頃からなんですが……」
☆☆☆
220年1月
前年の冬に曹仁艦隊が来襲した孟津。
戦いに勝利こそしたものの、それで発生した負傷兵は
年が明けた今でもまだまだ数が残っている。
そしてなにより、洛陽方面を統括する立場である
司馬懿も矢傷を受けており、未だ療養中のままで
1月半ばになってもまだ姿すら見せていなかった。
郭淮
郭 淮「もう1月も半ばだというのに……。
司令官どのはまだ復帰できませんか」
司馬望「はい、まだ自室で療養中です。
さほど重傷というわけでもないのですが。
先日、顔を合わせましたが、顔色も良く
常人と全く変わりませんし……」
于禁
李典
于 禁「矢を受けたのは……どこにだったかな?」
李 典「尻だな、おそらく」
于 禁「おいおい。
お主じゃあるまいし、それはない」
司馬望
司馬望「背中ですね。
矢じりは、内臓までは届いてないはずです」
李 典「惜しい!
もうちょい下なら正解だったのに」
于 禁「あのな……。
ふぅむ、背中なら『見られるのが恥ずかしい』
という場所でもないしなぁ……」
郭 淮「とにかく現在、中牟の通行を塞いでいる石兵が
魏軍によって除かれようとしております。
これ以上、対応を保留するのは賢明ではなく、
司令官どのにご指示を仰いでおきたい所です」
司馬望「石兵が無くなれば、皇帝陛下のいる許昌が
危険に晒されることになりますからね。
わかりました、では私が伝えて来……」
郭 淮「いえ、身内の司馬望どのが伝えられるより、
私が直に行って会った方が色々と協議できます。
傷の具合がどうなのかも、直接聞きたいですし」
司馬望「はぁ……そうですか。わかりました」
郭 淮「では、これから行ってきます」
郭淮はそのまま、司馬懿の宿舎へと向かった。
……その途中、彼は見知らぬ子供と出会う。
歳の頃は10歳程度だろうか。
珍しそうな表情でキョロキョロと周りを
見回しながら、そこらを歩き回っていた。
子供
郭 淮「え? この孟津港に、子供が……?」
子 供「仮面のおじさん、こんにちわー」
郭 淮「あ、ああ、こんにちわ。
……君、なんでこんな所にいるんだい?」
子 供「ええと、お兄ちゃんとかけっこしてたら、
いつのまにかはぐれちゃって……」
郭 淮「(誰か、諸将の息子か孫なのか?
一応、規則では諸将の妻子は宿泊OKだし)
そ、そうか、迷子になっちゃったのかな?」
子 供「うん、ここら辺はよくわからない……。
宿舎の周りまで行けば、わかるんだけど」
郭 淮「そうか……それは困ったね。
では、私が宿舎の辺りに案内してあげよう。
ちょうど私もそっちに用事があったんだ」
子 供「わぁ、ありがとう!」
郭 淮「それじゃ、背中に負ぶさりなさい」
子 供「はーい」
郭淮は、自分より歩幅の狭い子供のために
彼を背中に負ぶって、宿舎へと歩き出した。
その途中、背中から子供が質問をしてきた。
子 供「ねえねえおじさん。
なんでおじさんは仮面をつけてるのー?」
郭 淮「ん? この仮面かい?」
子 供「うん。もしかして、その下に火傷の跡があって、
それを見られたくないからなのー?」
郭 淮「いや、別にそんな理由ではないんだ」
子 供「なんだぁ、赤い人とは違うんだね」
郭 淮「赤い人? ええとだね、この仮面は……。
そうだな、なんと言えばよいのか。
……私が楚で生きていくには、どうしても
この仮面を被っていなければならないのさ」
子 供「……なるほどー、わかったー。
つまりそれは、生命維持装置なんだねっ!?」
郭 淮「あ、いや、別にそういうわけでは……。
……ああ、しかし、『楚軍で生きるため』という
概念的な考え方なら、そう言えなくもないか?」
子 供「なるほど、生命維持装置が必要ということは、
おじさんは地球外生命体なんだ!」
郭 淮「い、いやいや、それは流石に違う」
子 供「僕には隠さなくてもいいよぉ。
地球を守るためにW87星雲からやってきた、
正義の宇宙刑事サンダーライダーなんだよね!」
郭 淮「(こ、子供は発想が豊かだなあ。ま、いいか)
こ、ここだけの話、実はそうなんだよ……。
私の正体は、宇宙刑事サンダーライダーなんだ」
子 供「やっぱりそうなんだ!
最初からそうじゃないかと思ってたんだー!」
郭 淮「は、ははは……。
でも、これは誰にも言っちゃ駄目だぞ。
バレると、地球に居れなくなるんだ……」
子 供「ええー? そうなの?
僕のお兄ちゃんにも言っちゃ駄目?」
郭 淮「うん、誰にも言っちゃ駄目だぞ。
これは、私と君……二人だけの秘密だ」
子 供「わかった。
お兄ちゃんにちょっと自慢したかったけど、
そういうことなら我慢するー」
郭 淮「よしよし、いい子だな。
私の名はカクワイダー。自らの正体を隠し、
今は武将刑事として楚軍に所属している」
子 供「うん、カクワイダー! 僕、応援するよっ!」
郭 淮「そうか、ありがとう」
郭淮はこの子の夢を壊さないようにと思い、
調子よく話を合わせていた。……だが。
子 供「ねえねえ! カクワイダーの必殺技って何?
必殺光線とか出せる?」
郭 淮「こ、光線? 流石に光線は出せないなぁ」
子 供「そうなんだぁ……。がっかりぃ」
それが本当にがっかりとした声だったので、
郭淮は自分の得意な射撃の話をしようとする。
郭 淮「あ、いや、確かに光線は出せないがな、
私は弓矢が得意で……」
子 供「それじゃ、雷の必殺技は出せるよね!
じゃないと、悪の軍団と戦えないもんね!」
郭 淮「あ、ああ……そ、そうだな!
私の必殺技は、カクワイダーサンダーアロー!
雷(いかずち)の力を操り、それを矢に乗せ
敵に向けて放つことができるのだ!」
子 供「うわぁ……かっこいい!」
郭 淮「は、ははは……そうか、かっこいいか」
子 供「そうだカクワイダー!
ここで雷の矢を撃ってみてよ!」
郭 淮「え、ええっ?
い、いや、ここでは危ないから駄目だよ」
子 供「えー? 見たいよー」
郭 淮「ま、また今度な。その時に見せるよ」
子 供「絶対だよー? 約束だよー?」
郭 淮「ああ、わかった。約束だ」
そんなやり取りをしている間に、諸将に
割り当てられてる宿舎の周辺までやってきた。
その時、前方から12、13歳くらいの少年が
走ってきて、いきなり郭淮に罵声を浴びせた。
少年
少 年「やいやい、この変態仮面っ!!」
郭 淮「い、いきなり何を言う?」
少 年「一体、弟をどこに連れていく気だ!?」
郭 淮「弟?」
郭淮は背中にいる男の子を見た。
子 供「あ、僕のお兄ちゃんなんです。
違うよお兄ちゃん、この人は変態仮面
じゃなくて、カクワイダーっていうんだよ。
カクワイダーは迷子になっちゃった僕を、
ここまで連れてきてくれたんだ」
少 年「そ……そうなのか?
そ、そりゃ悪かった。変態とか言ってすまん」
郭 淮「あ、いや、別に気にしてはいないが」
少 年「でも『かくわいだー』なんて名前、だっせえ。
その仮面もめちゃくちゃ胡散臭えぞ」
郭 淮「うぐっ……さっきより酷い言い様……」
少 年「それより……。コラ、昭!
俺からはぐれるなって言ってただろ!」
子 供「うう、お兄ちゃんの足が速いんだよぉ」
少 年「お前がトロすぎるんだよ!
全く、お前は昔っからトロトロしやがって。
兄である俺がどれだけ心配して……」
子 供「うう……ひっく……。僕だって、
好きでトロいんじゃないよぉ……ぐすっ」
少 年「ああああ!! おおお俺が悪かった!
大丈夫! 大人になりゃトロいのも治る!
それまでは俺がそばにいて守ってやるから!」
子 供「うぅ……。うん、ありがとうお兄ちゃん」
郭 淮「うーん、美しき兄弟愛かな……。
それじゃ私は用事があるから、これで」
子 供「うん、またね、カクワイダー」
少 年「その怪しい格好でフラフラうろついてると、
すぐに見回りの兵にとっ捕まるぞ?」
郭 淮「ほっといてくれ。
さ、君たちも自分たちの宿舎に帰るんだ」
少 年「へいへい。帰るぞ、昭」
子 供「うん」
すたすたすた……
そこで別れたつもりの郭淮と少年たちだったが、
どちらも同じ方向へ歩いていた。
少 年「ヘンタイダー、何でついてくる?」
郭 淮「カクワイダーだ。
別についていってるつもりはないんだが、
私が用事があるのはこっちの方だからなぁ」
少 年「むむ? なんか、どうも怪しいな……。
聞いた話によると、変質者ってのは言葉巧みに
子供を騙すらしいからな。油断できないな」
郭 淮「ひ、人聞きの悪いことを」
少 年「なあ、昭……。
お前、こいつに変なことされなかったか」
子 供「変なこと?」
少 年「ちんちん触られたりとか。
お前は本当に可愛いからなぁ」
子 供「ち、ちんちんなんて触られていないよ。
それにいつも言ってるけど、僕は男なんだよ。
可愛いとか言わないでよぉ」
少 年「可愛いものは可愛いんだからしょうがない。
全くお前はなんて可愛いんだコンチクショウ!」
子 供「もう、お兄ちゃんてばっ」
郭 淮「(……もしやこれは、兄弟愛というよりは、
いわゆるブラコンとか兄バカとかいう奴かな)」
そしてそのまま並んで歩いていると、
司馬懿に割り当てられている宿舎が見えた。
子 供「着いた着いたー。ママー帰ったよー」
少 年「はー。心配したせいで腹減ったぜ。
かーちゃん、おやつないかー」
郭 淮「……え?」
そのまま扉を開け、中へと入っていく少年たち。
郭淮はどういうことか訳が分からず、足を止めた。
その時、開いたままの扉を閉めようとしたか、
中から現れたその人物は……。
司馬懿
司馬懿「こら、二人とも。
扉を開けっ放しにしてはダメと、いつも……
あら? 郭淮将軍ではないですか」
郭淮の前に現れたのは、エプロンをつけ、
おたまを持ったレアな姿の司馬懿だった……。
illustrations by 紫電
☆☆☆
司馬懿の実の息子である、司馬師と司馬昭は
別室でおやつの時間である。
その間、司馬懿と郭淮は二人で話をした。
郭淮
司馬懿
郭 淮「まさか子供がいるなんて……。
なぜ、これまで隠していたんですか」
司馬懿「別に隠してたつもりはありませんよ。
ただ、皆が知らないだけです」
郭 淮「それを隠すって言うんじゃ……」
司馬懿「子がいるかなんて聞かれませんでしたから」
郭 淮「そ、それは、貴女が子供がいるような体形に
見えな……あ、いやその、ごにょごにょ……。
そ、そのことはいいでしょう、今は」
司馬懿「あ、お茶をどうぞ」
落ち着かせるためか、そう司馬懿に勧められ、
郭淮は彼女の淹れた茶を口にした。
郭 淮「貴女の淹れたお茶、飲むのは初めてですね。
それで、今日、私が来たのは……」
司馬懿「中牟の石兵のことですね」
郭 淮「知っているんですか?」
司馬懿「甥の司馬望から話は聞いています。
大体の状況は把握してます」
郭 淮「そうですか、それでは話は早い。
石兵が崩れれば皇帝陛下のおられる許昌は
東からの魏軍の脅威に晒されてしまいます。
何かしらの対応を取るよう、お願いします」
司馬懿「フフフ、郭淮どのもせっかちですね。
石兵はあと一月は持ちますよ?」
郭 淮「一月しかない、の間違いでしょう。
許昌の兵は現在1千しかいないんですよ?
あそこは皇帝陛下のいる都市なのですから、
ギリギリでやっと対応するようでは困ります」
司馬懿「では……。郭淮将軍、貴方が許昌に向かい、
石兵が崩れたら出撃し、敵を攻撃してください。
兵が足りないというのであれば、虎牢関から
2万、宛から1万ほど送ることにしましょう」
郭 淮「は……はぁ、了解です」
司馬懿「何か?」
郭 淮「あ、いえ、司馬懿どのはどうされるのかと」
司馬懿「私はまだ矢傷が癒えてませんから、
この孟津に留まり、もうしばらく療養します」
郭 淮「失礼ですが……。療養が必要なほどの怪我を
負っているようには見えませんが」
司馬懿「いえいえ、これがなかなか辛いのです。
お疑いなら、傷を見ますか?
ここの背中の方なのですが……」
そう言って司馬懿は、来ている服に手を掛けた。
郭 淮「あ、い、いや、そこまでしなくとも結構。
それでは、私はこれで失礼します」
司馬懿「あら、そうですか。
ああ、そうそう。許昌へは、副将として
誰か数名ほど連れていってください」
郭 淮「わかりました。
野戦の得意な方々を連れて行きましょう」
司馬懿「しかし郭淮将軍? この程度のことなら、
私に裁可を仰がず、ご自分でやってくださいな。
私がいなくては全く何もできないようでは、
おちおち引退もできませんよ」
郭 淮「勝手な行動は軍の私物化に繋がりますから。
上に指示を仰ぐのは当然で……ちょ、ま、ま、
待ってください、今、引退と言いましたか?」
司馬懿「言いましたね」
郭 淮「い、引退するつもりなんですか!?」
司馬懿「いえ、別に?」
郭 淮「……な、なんだ。そ、それならば、
紛らわしいことは言わないでください!」
司馬懿「もしものことを言ったまでですよ。
私が母親らしい真似をする少しの暇くらい、
作ってくださらないと困りますね」
郭 淮「ぁ…………」
司馬懿「どうしました?」
郭 淮「ああ……いえ。
私はこれまで、貴女のことを氷の女王のような
冷たいイメージで見ていたのですが……」
司馬懿「失礼な話ですね」
郭 淮「ああ、全くその通りですね。
その認識、少しは改めないといけないようです」
郭淮は立ち上がり、一礼した。
そして帰ろうとした時、おやつを食べ終えた
司馬昭が彼の前に現れた。
司馬昭「あ、カクワイダー! 帰るの?」
郭 淮「ああ。それじゃあな、昭くん」
司馬昭「うん! じゃあね、約束忘れないでね!
今度会ったら、絶対見せてね!」
郭 淮「あ、ああ……」
司馬懿「……約束?」
郭 淮「あ、いや、聞かないでください。
彼と秘密の約束を交わしましたので」
司馬懿「ほう……秘密ですか」
郭 淮「で、では、これで失礼します」
司馬昭「頑張ってねカクワイダー!
中華の平和を守ってねー!!」
郭淮は司馬昭の声に応え手を振りながらも、
逃げるようにその場を後にした。
☆☆☆
中牟の石兵が壊された後、魏軍を迎え撃つという
役目を受け、郭淮は、于禁、李典、楽淋、
牛金、司馬望を連れて許昌へと向かっていた。
だが、当の郭淮は移動中ずっと、腕組みをして
『うーん』と唸りながら馬を歩ませていた。
于禁
牛金
于 禁「どうしたのだ、郭淮は。
司馬懿と面会してからというもの、あんな
調子でずっと唸ってばかりじゃないか?」
牛 金「困ってはいるが悲壮感はありませんな。
何か難しい問題を出されたという感じですな」
于 禁「もうすぐ魏軍と一戦交えるというのに。
大丈夫なのだろうか、あれで」
牛 金「そうなれば于禁将軍、頼みますぞ」
于 禁「やれやれ……。
司令官代行のそのまた代理をやれというのか」
楽淋
司馬望
楽 淋「司馬望。
お主は司馬懿どのと何度か会ってるのだろう。
彼女の怪我の具合はどうなっているんだ?」
司馬望「さあ、私も怪我の部分を直接見たわけでは
ないですから。復帰は近いと思いますが」
楽 淋「……ということは、郭淮どのは別に
司馬懿どのから司令代行をこれからもしばらく
やるように言われ、それで悩んでいる……。
というわけでもないのか」
司馬望「でしょうね、私もそんな話は聞いてません」
郭淮
李典
郭 淮「うーん、やはりここは……」
李 典「どうしたのかね郭淮どの。
困ったことがあるなら相談に乗るぞ」
郭 淮「あ、李典将軍。いいところに。
実は、貴殿に頼みたいことがあるのですが」
李 典「頼み?」
郭 淮「雷の矢を撃てるようになりたいんです」
李 典「い、いかずち……?」
郭 淮「あ、いや、本当に撃たなくてもいいんです。
他人から見て、本当に撃っているように
見えるような、何かいい手がないかと」
李 典「ほう……面白いッ!
その夢、この中華一のマッドサイエンティスト、
スーパープロフェッサー李典が何としても
叶えてみせようッ!」
郭 淮「自分でマッドとか言ってる……。
相談する相手を間違ったかな……」
李 典「いいや間違っていない!
いい機会だ、丁度イカズチの持つパワーを
調べてみたいと常々思っていたのだよ。
許昌についたら早速研究を始めよう!」
郭 淮「は、はぁ……(本当に大丈夫かな)」
李 典「うおおお! 久しぶりに燃えてきたー!!」
許昌に到着した後、李典は自分の研究室
(許昌分室)に篭り、怪しげな研究を始めた。
いよいよ中牟の石兵が魏軍に壊されそうになり、
郭淮らが3万の兵を率い出撃する段になっても
李典はずっと研究に没頭し続けていた。
李 典「おお郭淮すまんな、まだ完成はしとらんのだ」
郭 淮「はあ、それはいいのですが。
李典将軍、我らはこれから中牟へ出陣します。
許昌の守り、よろしくお願いしますぞ」
李 典「おお任せておけ! 研究の完成も間近だ!」
郭 淮「……(本当に分かってるのだろうか?)」
郭淮は一抹の不安を抱きながらも、中牟へと
于禁、楽淋、牛金、司馬望の副将と共に
3万の部隊を行軍させた。
☆☆☆
中牟では、周瑜、夏侯尚がそれぞれ1万5千の
兵を率い、楚軍が築いた石兵の破壊を続けていた。
そして2月中旬、3ヶ月近くも魏軍の攻撃に
晒され続けた石兵は、ついに崩れ去った。
周瑜
夏侯尚
周 瑜「ようやく、破壊できましたな……」
夏侯尚「よし、これで許昌への道が通った!
さあ、このまま一気に許昌に向かい、
皇帝の御身柄を楚軍から奪い返そうぞ!」
周 瑜「お待ちなされ、夏侯尚どの」
夏侯尚「……どうされた周瑜どの。
もしや、引き上げよ、などとは言うまいな」
周 瑜「……その通りです。
昨年末の予期していない頃ならともかく、
今はもう許昌には十分な備えがありましょう。
ここは一旦引き上げるべきと思います」
夏侯尚「何を言われる!?
我らは許昌を攻めるため、ここの石兵を
ずっと破壊し続けてきたのであろう!」
周 瑜「当初の目的はそうです。しかしながら、
我が隊は石兵破壊に労力を費やしすぎたため、
もう兵の士気が限界に来ています。
なので、許昌攻めにまでは参加できません」
夏侯尚「そうか、それでは仕方ない。
貴殿の部隊は引き上げるがよかろう。
許昌は我が隊のみで攻めることにする」
周 瑜「待ちなされ、夏侯尚どの。
貴殿の部隊だけで許昌を攻めるのは……」
夏侯尚「周瑜どの? 貴殿は確かに私より上の官を
貰っているかもしれない……。だが所詮、
貴殿は呉からの投降者でしかない。
生粋の魏将である、この夏侯尚とは違うのだ。
上官ヅラで命令しないでいただこう」
周 瑜「私は、状況の不利を説いているだけだが……。
そこまで言うのならば、好きになされよ」
夏侯尚「そうさせてもらう。では、失礼する」
周 瑜「……私はどちらでも構わぬがな。
魏に仕えている一応の義理を示したのみだ。
後は勝手に戦い、負けるがいい……」
周瑜の部隊は汝南へと引き上げていったが、
夏侯尚は、そのまま西の許昌へ向け進軍。
そして中牟から許昌の境目付近で、
夏侯尚の隊は郭淮の部隊3万と遭遇した。
魏 兵「郭淮隊、迫ってきます!
敵の兵数は、我が隊の倍もおりますぞ!」
夏侯尚「うろたえるな!
奴らとまともにやり合う必要はない!
これほどの数を動員しているのだ、おそらく
許昌の守備兵はほとんど残っていないはず!
囲みを突破し、許昌に肉薄せよ!」
魏 兵「は、ははっ!」
夏侯尚「許昌を奪い、我らの力を見せつけるのだ!」
一方、迎え撃つ郭淮隊では。
郭淮
于禁
郭 淮「周瑜隊は退却していきましたな」
于 禁「いやいや、これで大分楽になったな。
いくら兵数、士気で勝っているとはいえ、
2部隊を同時に相手にはしたくないからな」
郭 淮「まあ、周瑜隊の士気は限界に近いことは
密偵の調べで分かっていましたから。
交戦したとしてもすぐ退却したでしょう」
于 禁「それでも相手は智勇兼備で名高い周瑜だ。
何か策を仕掛けられる可能性もあったからな。
さて、こちらに向かってくるは夏侯尚隊か……。
あの若造が、どれくらい成長しているかな?」
郭 淮「数は1万5千、野戦に不向きな井蘭隊です。
ここは一気にカタをつけたいところですね」
于 禁「それを見越しての、こちらの鋒矢陣形であろう。
なに、あっという間に殲滅してみせようぞ」
郭 淮「期待しています。
それでは各員、大いに励んでください。
……全軍、進め!」
郭淮が軍配をかざすと、3万の騎兵が一斉に
夏侯尚隊に向かって駆け始めた。
郭淮は、許昌の危機を救うヒーローになれるのか。
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