○ 第六十二章 「王様ったらワ・ガ・マ・マ・♪」 ○ 
220年1月

 『かんぱーいっ!』

220年の正月。廬江城。

正月恒例、年に一度の無礼講の宴にて、
将たちは思い思いに楽しんでいる。

    金旋金旋   金目鯛金目鯛

金 旋「どうした目鯛、人の顔ジロジロ見て」
金目鯛「いやあ、オヤジも老けたなあって思って」
金 旋「な、なんだとー!?」
金目鯛「まあまあ、そう怒るなっての。
    たまの正月だ、親子で酒を酌み交わそうや」

   李厳李厳   鞏志鞏志

李 厳「まあ鞏志どの、そう遠慮せずに一杯……」
鞏 志「いや、遠慮じゃなくて!
    私は本当に酒に弱く……ああっそんなに!」

   徐庶徐庶   金満金満

徐 庶「それじゃそろそろメタルな曲いくぜぇぇぇ!
    (ギュイィィィン バリバリバリィィィ)
    あァァるゥウゥ晴れェェた日ィのことォォォ!!
    魔法以上のォ! 愉快がァァッ!!!」
金 満「す、すごい! 目も止まらない演奏の上に
    歌まで乗せて唄うだなんて!!」

そんな中で、張苞が若い女性たちを誘い、
何やら遊びを始めようとしていた。

   公孫朱公孫朱  張苞張苞

公孫朱「……王様ゲーム?」
張 苞「そうッス。皆で一斉にくじの棒を引いて、
    王様になった人が他の人に命令できるんです。
    飲み会では定番の遊びですよ」
公孫朱「それに、私も混ざれ、と?」
張 苞「下町娘さんや玉昼さんも参加予定です。
    他にも、鞏恋さん、魯圓圓、雷圓圓と
    女性を揃えてますから、安心っすよ。
    男は今のとこ、俺と魏光さんだけなんで」
公孫朱「……ふうん。それなら、いいかな」
張 苞「じゃ、あっちの部屋に集まってますから。
    では、行きましょう〜」

    関興関興

関 興「待てい」
張 苞「……なんだ関興、何か用か」
関 興「その王様ゲーム、俺も参加する」
張 苞「なにー!?」
関 興「歳も近いんだし、混ぜてくれてもいいだろ。
    ……いいですよねえ、公孫朱さん」
公孫朱「まあ、断る理由はないわね」
張 苞「む、むむむ……。しょ、しょうがないな」

3人は広間を出て、近くの小部屋へ向かった。

   魯圓圓魯圓圓  雷圓圓雷圓圓

魯圓圓「あ、来た来た」
雷圓圓「くじ、作っておきましたよー」
張 苞「お、気が利くなー。
    それじゃあ早速、始めるとしますかー!」

   下町娘下町娘  鞏恋鞏恋

下町娘「……ここにいる全員の若さを吸い取ってやる」
鞏 恋「一人だけ30代……」
下町娘「なんか言った!?」
鞏 恋「いーえー。みそじがどうこうなんて全然〜」
下町娘「キッ!」

   魏光魏光   金玉昼金玉昼

魏 光「鞏恋さん、あまり挑発しない方が……。
     下町娘さんにとって、年齢のことはもう
     シャレにならないんですから……」
金玉昼「魏光さん、余計なこと言わない方がいいにゃ」
下町娘魏光、後でコロヌ
魏 光「な、なぜに私が!?」

公孫朱「……こういう雰囲気も悪くないかも」
金玉昼「あ、公孫朱さんはこっちどうぞにゃ〜」
公孫朱「はい。それじゃ失礼します」

こうして、男3人、女6人の王様ゲームは始まった。

張 苞「はーい、それじゃ始めますよ〜。
    俺の手にある棒のどれかを選んでー」

一回目の王様は、金玉昼が引いた。

金玉昼「わーい、王様にゃ〜」
張 苞「むう、取られてしまったか……。
    では番号を指定して、命令を出してください」
金玉昼「では、最初はかるーくということで……。
    4番が、1番にデコピン1発〜」
魏 光「うわ、私1番ですよ……。4番は?」
鞏 恋「はい、4番」
魏 光「え、鞏恋さんが!?
    よ、よよよよろしくお願いしますっ!」
鞏 恋「よろしくしていいの? じゃフルパワーで」

 ずばちーーーーーん

鞏 恋「いたた……。思い切りやりすぎた」
魏 光「い、痛い……ッ! 半端じゃなく痛い!
    け、けど、なんか幸せ……」
雷圓圓「痛いけど幸せなんですか……?
    あっ、魏光さんってもしかして!?」
魏 光「も、もしかして……何?」
雷圓圓マゾなんですねっ!?
魏 光「いや、それは違う」

その次、2回目の王様は公孫朱がなった。

公孫朱「何も思いつかない……」
下町娘「いいのいいの、何でもいいのよー。
    二人同時に一本の菓子を両端から食べるとか、
    誰かに王様の肩を揉ませるとかー」
張 苞「な、なかなかエロいですな、下町娘さん」
下町娘「そりゃー、経験豊富ですからぁ。
    伊達にこの中で最年長……誰が年増かッ!」
張 苞「自分でノリツッコミしないでくださいよ」
公孫朱「……では、5番の方。小さい頃、大きくなったら
    何になりたかったかを教えてください」
下町娘「お、告白話ね〜?」
金玉昼「5番って私にゃ……うーん」
下町娘「お嫁さんになりたかったのにゃー!!
    ……とかいうオチはつまらないわよー」
金玉昼「別にそんなことは思ってなかったけど……。
    小さかった頃は、市長になりたかったのにゃ」
魯圓圓「市長? 州牧とか刺史とかじゃなく?」
金玉昼「そう、市長にゃ」
魏 光「流石は楚王金旋さまの娘ですね。
    幼い頃から人の上に立つ立場になろうと……」
金玉昼「うんにゃ。ただ市長になって無法者たちを
    ばったばったと蹴散らしたかったのにゃ」
魏 光「む、無法者を蹴散らす?」
金玉昼「でも、その夢はすぐに儚く消えたのにゃ……。
    市長役はあにじゃの方が実によく似合う
    ということに気付いてしまったのにゃ……」
魏 光「……金目鯛さまが市長?」
金玉昼「実際にコスプレしてもらったこともあるけど、
    本当にそっくりだったにゃ……。
    結局、私が市長になるのは諦め、その後は
    『忍者になりたい』と思うようになったのにゃ」
魏 光「に、忍者……?」

知られざる金玉昼の過去がまた1ページ。

  暴れん坊市長

魯圓圓「い、今の人は誰!?」
雷圓圓「お姉さま、気にしたら負けですよー」

次、3回目の王様は、雷圓圓に。

雷圓圓「それでは行きます……。8番の人は……」
関 興「8番は私だ……!
    い、一体、どんな命令が……?」
雷圓圓「8番の人は……甘党だ!」
関 興「は? 甘党?」
魯圓圓「はいはい、お約束のボケはいいから。
    ちゃんと命令を出しなさいな」
雷圓圓「それじゃーですね。6番7番の人たちで、
    広間から料理運んできてくださ〜い」
下町娘「むう。私かー」
金玉昼「私もにゃ〜」
関 興「腕力ない人が当たりましたねえ」
雷圓圓「杏仁豆腐も忘れずにお願いしま〜す」
鞏 恋「ついでに肉も持ってきて」
下町娘「恋ちゃんは王様でも何でもないでしょ!?」

その次、4回目の王様は、鞏恋に。

鞏 恋「フフフフ……」
金玉昼「一番危険な王様の誕生にゃー」
鞏 恋「では……2番が王様の肩を揉みつつ、
    4番5番のコンビで漫才を見せること」
魯圓圓「私が2番! こっ光栄ですお姉さまっ!」
関 興「私が4番だ……。5番は誰が?」
張 苞「……5番は俺だ。
    まさか、関興と漫才しなきゃならんとは」
魏 光「鞏恋さんはお笑いには厳しい人だから。
    気合入れてやれよー」
二 人「は、はい」

……で。

張 苞「では、関張コンビのショートコント〜!」
関 興「題して『呂布と貂蝉との会話』」

張 苞「りょふさまー」
関 興「おお、ちょうせんではないか」
張 苞「貂蝉は貴方をお慕いしております」
関 興「ああ、俺もだよ……。
    二人で幸せな家庭を築こうではないか」
張 苞「フン、董卓が殺せたらアンタなんかポイよ」
関 興「何か言ったか、貂蝉」
張 苞「う、ううん、何でもなーい」
関 興「ほら、貂蝉。綺麗な夕日だ……。
    流石に君の美しさには敵わないが……」
張 苞「まあ、呂布さまったら……」
関 興「幸せだなあ……(夕日を見て佇む二人)」

張 苞「呂布さま? 何を考えてらっしゃるの?」
関 興「ふふふ、貂蝉と同じことさ♪」
張 苞「えっ、呂布さまも、董卓さまと呂布さまとの
    仲を裂く連環の計のことを考えてるのっ!?」
関 興「なんだその計というのはー!?」

関 興「こうして、董卓を呂布に殺させようという
    貂蝉の連環の計はバレちゃいましたとさー。
    ちゃんちゃん♪」

鞏 恋「……一人前のお笑い芸人にはまだまだね。
    もう少し精進が必要よ」
関 興「いや、俺らお笑い芸人じゃないですし」
張 苞「さあさあ、そんなことより、次いきますよー」

さて。場が盛り上がってきたところで、
5回目のくじ引きとなった……。

    ☆☆☆

    張苞張苞

張 苞「そろそろ……来いっ!」

念を篭めて張苞が引いたその棒には、
王様マークが書かれていた。
張 苞「やった! 王様キターッ!」
関 興「ちっ。張苞が王様か」
魏 光「残念……」
張 苞「フッフッフ、待ち望んだ王様だぜ……!」

張苞は喜んだ。
なぜならば、彼がこの王様ゲームを始めたのも
彼自身が王様になって、この集めた女性たちに
ある命令をさせるためだったのだから。

(フフフ……ようやく来た!
何を隠そう、俺はこの王様ゲームによって、
今年の運試しをしようと思い立ったのだ!)

張苞はぐっと王様の棒を握った。

この女性の多い中から2人を選ぶとして、
両方が男になる確率は数%程度しかない。
つまり、高い確率でどちらかは女性になるのだ。
また、その中で両方とも女性になる率も高い。
(本当は、男は魏光のみの予定だったので、
 両方が男になる確率はゼロだったのだが……)

つまり張苞からみれば、二人とも女性なら吉、
一人だけ女性でも末吉程度の運勢といえる。

張苞は、その結果がどうなるかによって、
今年の運気を占おうとしているのだ。
それ以外に、エロい命令で楽しみたいという
気持ちも大いにあったのだが……。

張 苞「では、俺の命令は……。
    えー、まず二人選ばせていただきます。
    そしてその二人は、それぞれの胸を使って、
    王様の頭を左右からサンドイッチにする!
    これが俺の命令ッスよ!」

胸と胸で頭をサンドイッチにする……。
両方が女性ならば、最高の感触が得られるし、
片方が男でも、もう片方に意識を集中させれば
これもまた至福の時間が得られるのである。

その命令を聞いた女性陣は、様々な反応を示した。

   魯圓圓魯圓圓  金玉昼金玉昼

魯圓圓「な、なんですか、その命令はぁ」
金玉昼「胸……。やはり男は胸なのにゃ……」

(ふむ。この二人の場合、少々控えめだから、
 弾力という点では若干、味気ないかもしれんな。
 まあ、これはこれでいいか)

   下町娘下町娘  雷圓圓雷圓圓

下町娘「フフフ、若い……若いねえ。
    いいねえその命令、エッチだねぇ〜」
雷圓圓「こーいうのをやりたかったんですね。
    張苞さんも好きですねぇ〜」

(この二人はなかなか均整取れてるよなァ。
 まあ片方は歳がアレで片方はお子ちゃまだが、
 感触という点ではなかなか良さげだな……)

   鞏恋鞏恋   公孫朱公孫朱

鞏 恋「……これが若さか」
公孫朱「ハァ、全くもう……」

(そしてッ! 楚軍ナンバー1アイドル鞏恋さん!
 人気では劣るが俺の大本命、公孫朱さんッ!
 この二人がくれば、もう超々、超大吉だぜッ!!)

そして男二人……は見なかった。
この際、男はどうでもいい。

張 苞「ははは、王様の命令は絶対ですからね!
    番号を発表しますよ、心の準備はいいスか!」

張苞の頭の中でドラムロールが鳴る。(妄想)
そしてそれが収まった瞬間……。

張 苞「ジャジャーン!!
    では、3番と5番! お願いします!」

シーン、と静まり返る室内。
皆、自分のくじの番号を確認している。

張 苞「はいはい、拒否は出来ませんよ!
    3番と5番は誰なんですか〜!?」

   魏光魏光   関興関興

魏 光「……俺が5番だが?」
関 興「3番だ」
張 苞「…………ッ!?」

張苞の運試しは、最悪の結果となった。

魏 光「行くぞ関興!(鞏恋さんの胸は渡さん!)」
関 興「了解です!(このエロ野郎めっ!)
    食らえ! マッスル・バスト・プレス!
張 苞「ぐはっ……。今年の、運勢……。
    大凶ッ!!

    ☆☆☆

盛り上がってる室内に、金満が入ってきた。

    金満金満

金 満「あ、皆さん、ここにいたんですね。
    あれ? 張苞さん?
    顔を抑えてどうしたんですか」

   張苞張苞   関興関興

張 苞「筋肉が……オトコの汗の臭いが……。
    俺の顔を……ぐしゃっと……」
関 興「天罰だ」
金 満「はあ」

   魏光魏光   鞏恋鞏恋

魏 光「別にこれは放っておいていいさ」
鞏 恋「……満太郎も混ざる?」
金 満「え? ああ、そうしたいのはやまやまですが、
    楚王閣下がお呼びなんですよ。
    皆、広間に集まるようにって」
魏 光「広間に?」
金 満「ええ、今年のことについての話があるとか」
鞏 恋「今年のこと……?
    お年玉はもうもらったけど……」
魏 光「いや、お年玉は関係ないと思いますよ?」

若者たちは広間に戻った。

    金旋金旋

金 旋「……揃ったようだな。宴席の途中であるが、
    ちょっと話しておきたいことがあるんだ」

   甘寧甘寧   凌統凌統

甘 寧「いよいよ再婚の話ですかな〜?」
凌 統「おー、そりゃめでたい」

   下町娘下町娘   金玉昼金玉昼

下町娘「さ、ささささサイコンーッ?」
金玉昼「全然そんなの聞いてないにゃーっ!?」

金 旋「おいおい、早まるな。
    一体、再婚なんてどこから出た話だ?」
凌 統「ありゃ、違うのですか」
金 旋「ああ、全然違う。
    話というのは、今年の楚軍の目標についてだ。
    ……今年中に、とある目標を達成するぞ。
    これは、その決意表明みたいなもんだ」

    トウ艾燈艾

燈 艾「……その、とある目標とは?」
金 旋「……今年中に、揚州を全て制圧する」
燈 艾「揚州を全て……? 1年で?」

 揚州東部

   鞏志鞏志   費偉費偉

鞏 志「呉国はまだ3都市も残っておりますが」
費 偉「さらに、山越も敵対している関係であり、
    これにも注意が必要です」

金 旋「ああ、呉は弱体化したとはいえ、
    まだまだ有能な人材も残っているな。
    さらに山越も無視できない存在だ」
鞏 志「さらに、阜陵には魏軍の部隊が残ってます。
    これも、また脅威でありましょう……」
費 偉「それでも、1年で全て片付けると。
    それをやれるだけの自信がおありですか」
金 旋「確かに今言った、呉も山越も魏の残党も、
    それぞれ油断ならん相手だろう。
    しかし、我が楚はそれ以上に強いはずだ。
    本気でかかれば、1年程度で全てを
    平らげることは充分にできるだろう。
    ……いや、それくらいできなくては困るんだ」

   金目鯛金目鯛  徐庶徐庶

金目鯛「オヤジのワガママにも困ったもんだ。
    できなくては困るとか言われてもなあ、
    実際にやるのは俺たちなんだぜ」
徐 庶「いや全く。
    しかしまあ、王様の絶対命令とあっちゃあ、
    誰にも止めることはできないからなぁ」
金 旋「お前らなら余裕で拒否しそうだが……?
    とにかく、今言ってるのは『目標』なんだ。
    今から無理無理言っててどうするんだ?」

   朱桓朱桓   李厳李厳

朱 桓「……閣下がそこまでおっしゃられるなら、
    将である我らはそれに向かい邁進するのみ!」
李 厳「出来る限りはやりましょう。
    達成できずとも責任は取れませんが」
金 旋「それでいい。例えこの目標が達成できずとも、
    お前たちを責めたりはしない」
朱 桓「しかし、ボーナスの査定は下がりそうだな。
    下手するとボーナスが全く出ないことも……」
李 厳「そ、それは困る……!
    すでにボーナスの額を加味した住宅ローンを
    組んでしまっているというのに!」
金 旋「そこ、せこい話をしてるんじゃない。
    プラス査定はしてもマイナスはせんから」
朱 桓「ならば安心!」
李 厳「我らにお任せあれ!」

金 旋「ま、まあ、頼りにさせてもらおう……。
    てなわけでだ、今年一年は特に気合入れて
    頑張ってもらうぞ! いいなお前らァ!
    全開バリバリでやってもらうッ!!」

 『おおー!!』

ほぼ全員が立ち上がり、その拳を突き上げた。
その中で、1人だけ座ったままの人物が……。

   鞏恋鞏恋   魏光魏光

鞏 恋「ん……。ふぁぁぁ……。
    ……ん、なに? 話は全部終わった?」
魏 光「きょ、鞏恋さん……!
    めちゃくちゃ目立ってますよ!」

その後、鞏志の説教を涼しい顔で聞き流す
鞏恋の姿があったという。

    ☆☆☆

そして数日後。

   霍峻霍峻    金旋金旋

霍 峻「霍峻、柴桑よりまかり越しました。
    新年、おめでとうございます」
金 旋「おー、来たな霍峻。
    いや、相変わらずめでたい顔で何よりだ」

そう言って金旋はパンパンと拍手(かしわで)を
打ち、霍峻の顔に向かって拝んだ。

霍 峻「閣下、お戯れはやめてください。
    私のこの平々凡々な顔をめでたいなどと、
    悪いご冗談を……」
金 旋「いや、けっこう本気で言ってるんだが……」
霍 峻「私を呼びつけたのは、そんな用でなのですか」
金 旋「いいや、そういうわけではない。
    ちゃんとした用事があってのことだ。
    町娘ちゃん、例のもの持ってきて」

    下町娘下町娘

下町娘「はーい。こちらですね」
霍 峻「これは……印綬?」

下町娘が持ってきたのは、将軍職の印綬だった。
作られたばかりの印綬は、まだピカピカしている。

金 旋「以前まで韓遂がいた鎮北将軍の職だが、
    今日からお前に任せる。これはその印だ。
    前のは、韓遂が持ち逃げしたからな」
霍 峻「私を、鎮北将軍に……?」
金 旋「魏延、甘寧、朱桓と同格ってことになるな。
    兵は4万5千まで率いることができる職だ。
    あ、空いた左将軍は韓当にやるつもりだから」
霍 峻「い、いや、閣下。
    私はその3人ほどの統率力も武もありません。
    左将軍でさえも分不相応だと思ってますのに、
    彼らと同格にまで上げてもらう理由が……」
金 旋「おい霍峻、最後まで話を聞け。
    理由なしでただ昇格すると思ってるのか?」
霍 峻「と申しますと?」
金 旋「その職に相応しい仕事が待ってるってこと。
    その大きな仕事にお前が適任だと思ったから、
    それに必要な職を用意しただけのことだ」
霍 峻「大きな仕事……?」
金 旋「霍峻、お前に山越討伐の総司令を任せる」
霍 峻「山越討伐の、総司令!?
    ……わ、わかった! そう言っておいて実は
    『サンエツ印の豆板醤(トウバンジャン)の
    ソースれーす!』とかいうオチなのでしょう!?」
金 旋「……誰がそんな苦しいダジャレオチにするか。
    本気だ、本気。本気で、山越の討伐をだな、
    お前に任せようっていうんだ」
霍 峻「は、ははっ」
金 旋「まあ、後は玉に詳細を教えてもらえ」

    金玉昼金玉昼

金玉昼「この山越討伐は、本隊の呉の制圧戦と同時、
    ……ううん、タイミングとしてはそれよりも
    少々先にやってもらう必要がありまひる」
霍 峻「山越軍の兵は強いですよ?
    それこそ、片手間でやれるものでは……」
金玉昼「だからこそ、霍峻さんが大将なのにゃ。
    硬軟織り交ぜた戦術、戦略眼に富む貴方なら、
    必ず、この任務やり遂げられる……。
    ちちうえも、そう判断したのにゃ」
霍 峻「……そこまで大した男ではありませんよ。
    ですが、任される以上は全力を尽くします」
金玉昼「うんうん、それでいいのにゃ。
    さて、この討伐に充てる戦力、まず兵は
    高昌の陣に残されている6万を使いまひる」

 山越

霍 峻「6万……それなら、山越軍とほぼ同数。
    なんとかやりくりできる数ですね。
    兵はそれで構いませんが、将は誰を?」
金玉昼「十数名ほど、派遣する予定ではいるにゃ」
霍 峻「……決まっているのではないのですか?」
金玉昼「霍峻さんの希望する人を用意するにゃ。
    今回こっちまで来てもらったのは、その希望を
    聞くためでもあるから」
霍 峻「希望……。誰でもいいのですか」
金玉昼「まあ、この廬江・柴桑近辺にいる人なら」
霍 峻「では、若い人たちを任せていただきたい」
金玉昼「若い人?」
霍 峻「武に優れる鞏恋、魏光、関興、張苞。
    魯圓圓、雷圓圓。知に優れる馬良、馬謖。
    それと、統率に優れる金満さま。
    あとは、便利屋の向寵あたりと……。
    高昌にいる馮習、張南、忙牙長。
    ……これだけいれば充分です」
金玉昼「そんなもんでいいの?」
霍 峻「ええ。これで充分です。
    他の方は呉征伐の編成に充ててください」
金玉昼「それじゃ、そんな感じで手配するにゃ。
    ……ちちうえはいろいろハッパかけてるけど、
    あんまり気にしないでマイペースで進めてにゃ」
霍 峻「わかりました。まあ、そう気負わず、
    私のやりたいようにやらせていただきますよ」

いよいよ、楚軍の揚州東部への進出が本格化する。

まず手始めに霍峻の山越討伐……。
一体、どのような戦いになるのだろうか?

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