219年9月
9月末。
廬江城は、東の金目鯛隊、西の燈艾隊によって
挟み撃ちにされていた。
頼みとする韓遂も(ある意味自爆の)重傷を負い、
守る魏軍は風前のともし火かと思われた。
韓遂
臧覇
韓 遂「すまぬ臧覇……。
この韓遂、一生の不覚をとったわ」
臧 覇「全くなんてことを!
貴殿がやられてはこの城の守りはどうなる!」
韓 遂「すまぬ……。
ここは常山の蛇と称されるお主の采配で
なんとか乗り切ってくれい……」
臧 覇「私だけで乗り切れるわけなかろうがー!」
守備軍崩壊の危機。
しかし、それを救う者が現れた。
???「待たれい待たれい。
そう慌てふためいては兵が動揺致しますぞ」
臧 覇「おおっ!? お主は!」
徐晃
徐 晃「遅くなってあいすまぬ。
これより、指揮は私が執らせていただく」
そこに現れたのは、徐晃。
魏軍の四天王(※1))と並び称されている
五大将軍(※2)のうちの一人である。
(※1 夏侯淵・夏侯惇・曹仁・曹洪。
曹操の血縁で軍功を重ねてきた武将たちである)
(※2 以前に五大将軍と呼ばれていた于禁・楽進は
楚軍に渡っているため、この時点での五大将軍は
張遼・張哈・徐晃・関羽・張飛となっている)
韓 遂「……待てい、徐晃。
お主は阜陵から戻ってきたのであろう。
ならば、増援の兵も連れて来たのか」
徐 晃「いや、来たのは私と夏侯覇、曹休だけで、
増援の兵は別でござる。
そちらは、諸葛軍師が率いて阜陵港を
進発はしたのだが……」
臧 覇「したのだが? どうした」
徐 晃「尋陽港は現在、楚軍によって占領されている。
増援がこの城に辿り着くには、まずこれを
突破せねばならない」
臧 覇「なんと、尋陽が落ちていたのか。
そうか、だから金目鯛の部隊は東側から……」
韓 遂「燈艾め……。別働隊に江を下らせ、
守りの手薄な尋陽を奪い取ったのだろう。
くそう、そこまで頭が回らなかったわ……」
徐 晃「しかし、心配には及ばぬ。
増援部隊は諸葛軍師自らが大将になってます。
守りの薄い港などはすぐに取り返せましょう。
所詮は奇策、燈艾もまだまだ若いですな」
韓 遂「確かに、金目鯛隊の規模を見る限りでは、
港の兵はほとんど残ってないだろうが」
臧 覇「踏ん張っておれば増援は来るということだ。
徐晃も来たことだし、気合を入れて守るぞ!」
徐 晃「後のことは我々に任せ、韓遂どのは
安心して傷を癒すのに専念なされよ」
韓 遂「……頼む」
韓遂の代わりに徐晃が廬江太守となった。
(※韓遂の方が爵位は上だが、徐晃が来た頃、
別な場所に移動していったようである)
大将である韓遂の負傷という好機を逃さずに
一気に城を攻略する腹積もりだった燈艾隊は、
代わった徐晃の指揮による手痛い反撃を受け、
その考えを改めなければならなかった。
燈艾
文欽
燈 艾「大将は徐晃に入れ替わったか……。
流石に負けずの徐晃と呼ばれるだけはある。
反撃による被害も馬鹿にならないか」
文 欽「感心しとる場合かーっ!
最初に5万も用意してた兵が、気付いてみたら
もう2万にまで減らされてるじゃないか!
韓遂が負傷してようやく落とせるかと思いきや、
さらに厳しい反撃くらうなんて……!」
燈 艾「それが戦というもの。
今後のためにも覚えておきなさい」
文 欽「何を悠長に! あー、もういい!
俺は俺の戦いをするぜーっ!」
燈 艾「あ、待て、文欽……!」
文 欽「徐晃ーっ! 俺の矢を食らえーっ!」
燈艾の静止も聞かず、文欽は城へ斉射を行う。
だが、これは徐晃によって簡単に防がれた。
徐 晃「ははは、何かな、今のヘロヘロ矢は。
まだ若く体力のあるうちからこんなでは、
老いた後はもう使いものにならんぞ」
文 欽「や、やかましいわっ!
んな大口を叩くのなら、貴様がやってみろ!
このネズミ男! チョビヒゲー!」
徐 晃「フン、口の減らん若造だ。
ならば、手本を見せてやろうじゃないか。
私の弓を持てい!」
文 欽「えっ……ちょ、マジかよ」
徐 晃「弓というのはこう使うのだ! はあっ!」
びゅんっ
文 欽「わあああああっ!?」
徐晃の放った矢は文欽に向かって一直線。
だが、その矢は文欽には当たらなかった。
関興
関 興「ぐっ、この馬鹿が……!
相手の技量くらい見極めろっての」
文 欽「関興……どの」
いつの間にか文欽の前に出た関興が、
自分の左腕を盾にして矢を受け止めていた。
関 興「くっ、いでえ……。やはり前に出ずに、
突き飛ばしたほうがよかったか」
文 欽「俺を……身を挺して守ってくれたのか。
俺のために、矢を腕で受け止めて……」
関 興「矢の一本程度、どうってことはない。
この貸しは……そうだな、夜通しの酒にでも
付き合ってもらうことで返してもらおう」
文 欽「……俺にはそっち系の趣味はないぞ!
い、いくら助けてくれた恩人と言えども、
俺の後ろの処女はくれてやらないからな!」
関 興「だ、誰がそんなものを欲しいと言った!?
なんでそういう話になるんだ!」
文 欽「夜通しの酒にかこつけて押し倒すつもりだろ!」
関 興「俺はノーマルだ!
どうしてそういう方向に話が行く!?」
文 欽「楚軍の将はそういう奴らが多いと聞いている。
あたり構わず男を襲う奴ばかりだと……」
関 興「アホか! それ系のは奴一人だけだ!」
文 欽「そ、そうなのか」
ちなみにそれと同じ頃。
楚軍の手に渡ったばかりの寿春城では、
イケメン兵士を追いかけるひとつの影があった。
『た、助けてくれー!』
『オーホホホ、お待ちなさぁい♪』
さて、すぐ場面を戻して廬江。
文欽と関興のやりとりを聞いていた徐晃、
なにやらおかしな方向へ想像力を働かせる。
徐 晃「ううむ、楚軍では後ろの処女の心配をする
必要があるのか……。実に恐ろしいな。
あ、しかし、関羽将軍に是非にと言われれば、
それはそれで……ああ、関羽将軍……」
魏 兵「御大将、今度は東側より金目鯛隊が来ます!
意識飛ばしてないで早くご指示を!」
徐 晃「お? お、おお、わかった。
投石に注意し、東側の防御を厚くせよ!」
魏 兵「燈艾隊に対してはどうなさいますか」
徐 晃「今の一撃でしばらくは大人しくなるはずだ。
さあ、江の向こうの関羽将軍にもわかるような、
そんな奮闘を見せるのだっ! いくぞ!」
☆☆☆
その頃、阜陵港。
諸葛亮が部隊を率いて出ていったこの場所を、
関羽が大将となって守っていた。
関羽
張飛
関 羽「うっ……」
張 飛「どうした兄者」
関 羽「いや……何か今、ものすごい寒気がした。
何かとても嫌なことに自分が使われたような、
そんな嫌な感じがしてな」
張 飛「ああ、そりゃあれだ。
曹操あたりが想像で、兄者とくんずほぐれつ
組み手でもやってるところを考えたんだろ」
関 羽「は、ははは、まさかそんな……。
……ありえないとも言い切れないのが怖いな」
張 飛「だろ。奴ならありうる」
関 羽「む、しかし張飛、仮にも現在の自分の君主を、
奴呼ばわりや呼び捨てにするなど……」
張 飛「二人でいる時くらいいいだろうが。
俺は所属こそ魏に仕えていることになってるが、
曹操に忠誠を誓ったつもりは毛頭ねえ」
関 羽「今更何を言う。今ではお前も魏軍五大将と
呼ばれるまでになったではないか」
張 飛「それとこれとは別モンだ。
俺が本当に君主と仰ぎたいのは……」
関 羽「……ただ一人しかいない、か。
……劉兄は今、秣陵にいるそうだぞ」
張 飛「知っている。馬を走らせればすぐだよな」
関 羽「寝返るか?」
張 飛「馬鹿言うな。呉に寝返るわけないだろ」
関 羽「だろうな。
お前もこう見えて義理堅いほうだしな」
張 飛「しかし……敵味方になって戦うってのは、
気持ちのいいもんではないよな……」
関 羽「そうだな。寝食を共にしてきた者と、
剣を交わさねばならんのは、正直辛い」
張 飛「出来れば戦いたくはない……。
しかし、会いたいという気持ちもあるんだよな」
関 羽「うむ、それは私も同じだ……。
義兄もそうだが、我が子にもな」
張 飛「子か……関平と関索は魏に来たが、
関興は楚軍に渡ったそうだな」
関 羽「張苞とコンビを組んでいるらしいぞ」
張 飛「張苞か。久しく会ってないな。
張苞ともいつか戦場で出会うのかな。
もうかなり大きくなってるのだろうか」
関 羽「関興も、別れてから大分経つ。
関平の時のように、味方にできればよいが」
張 飛「怪我とかしてないだろうな……。
うう、なんか心配になってきたぞ」
関 羽「フフ、お前も結構な親馬鹿だな。
心配はいらん、我らの子だぞ」
張 飛「あ、ああ……。そうだな。
再びまみえるまでは死んだりはしないよな」
☆☆☆
再び廬江の戦場。
矢傷を負った関興は治療のため、張苞と共に
燈艾隊を離れ、後方に下がっていた。
関興の腕に巻いた布からは血がにじみ、
痛みを堪えるその眉間には皺がよっていた。
関興
張苞
関 興「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……」
張 苞「しっかりしろ、自分から負った傷だろ。
そんなことでは文欽が心配するぞ」
関 興「そ、そうは言うが……。
この痛みはただの矢傷のものじゃない……」
張 苞「うーむ、そうは言っても、困ったな。
従軍してる看護兵に診せてもさっぱりだし、
かといって医者がこんな戦場にいるわけも……」
???「医者ならば、ここにおるぞ」
張 苞「えっ……。あ、貴方は!?」
華佗
華 佗「誰ぞ怪我をしたのかのう」
張 苞「スーパードクターKada!?
な、なんてご都合主義的な登場……
い、いや、いいタイミングで現れたもんだ」
関 興「か、Kada先生、治療をお願いします……」
華 佗「ふうむ、関興どのか。
どうれ、ちょっと見せてみい……」
関 興「は、ふわ? ふごふごー」
華 佗「ふうむ、親知らずが虫を食っているのう。
これは近いうちに痛み出すであろうな。
早めに抜いてしまうほうがよいと思うが」
張 苞「い、いや、先生。今診て欲しいのは
虫歯ではなくて、そっちの腕の傷のほう……」
華 佗「わかっておる。しょっぱなの軽い冗談じゃよ」
関 興「おーあぁいーえうあーいあ゛ぁぁぁ」
華 佗「『冗談言ってる場合か』じゃと?
ふん、反抗的な態度取ると診てやらんぞ」
関 興「ふ、ふいあへん」
華佗は関興の口から手を離すと、今度は
左腕に巻かれた布をほどき、傷口を診始めた。
関 興「い、いでででで」
華 佗「なんじゃ、大したことない傷じゃな」
張 苞「そ、そうなんですか?
それにしちゃかなり痛がってますが……」
華 佗「こんなのはすぐ治るわい。
ただ単に矢尻の破片が骨にひっかかっていて、
神経にちょっと触っているだけのことじゃ」
張 苞「し、神経に触っている?
本当にそれが大したことがないと?」
華 佗「なに、本当に大したことはないわい。
破片を取り除かん限りは痛みが続くだけじゃ」
張 苞「そりゃ十分におおごとだって」
関 興「……こ、この痛みがずっと続くのか!?
それは勘弁してくれぇぇぇ」
張 苞「先生、治せるんだろ?」
華 佗「まあな、伊達にこの歳まで医者やっとらんわ。
ただ、ちょいと手間がかかるかのう。
肉を切り、骨を削って破片を取り出すしかない」
関 興「ほ、骨を削るぅ!?」
張 苞「おいおい、何ビビってるんだ関興。
痛みがずっと続くよりはいいだろうが」
関 興「そ、そうは言うが、ほ、骨を削るって……」
張 苞「情けない声を出すなよ。
名将関羽の子が、その程度で怖がってちゃ
天下の笑い者になるぞ?」
関 興「む、むむむっ……!
だ、誰が怖がってなどいるものか!」
華 佗「さて、治療の方法じゃがな。
まずは麻酔をして痛まぬようにしておき、
その後で肉を切り裂き、ノミで骨を削る」
関 興「の、ノミで……!?」
張 苞「おいおい、冷や汗かいてるんじゃないか?」
関 興「う、うるさい! これは脂汗だ!
か、Kada先生! 麻酔などは不要です!
しばらく張苞を相手に碁でも打ってますので、
その間に治療をお願いします!」
張 苞「お、おい、そりゃやりすぎだぞ」
華 佗「麻酔は要らぬと? 本気か?
それだとめちゃくちゃ痛いと思うが」
関 興「かっ、構いません! 俺は関羽の子!
骨を削る程度、何ほどのことがあるか!
おい張苞、しばらく碁の相手をしてくれ!」
張 苞「無理すんなよ、麻酔くらい打て」
関 興「ななな何が無理なぞしてるものかー!」
華 佗「では、せめて痛みで動かぬよう縛って……」
関 興「不要! 医者の治療を恐れて、
戦場で命のやり取りが出来るかぁぁぁ!!」
華 佗「はぁ、そこまで言うのならば」
関 興「ほら、張苞、何してる!
碁を打つぞ! 先行は俺でいいな!?」
張 苞「……しょうがねえな、もう。
言い出したら聞かないんだから」
関興と張苞は碁を打ち始めた。
その間に、華佗は治療の準備をする。
華 佗「では、始めますかな」
関 興「い、いつでも結構!」
張 苞「……(本当に大丈夫かねえ)」
華佗は手にしたメスで患部をスッと切り裂く。
直接の痛みはそれほどでもなかったが、
患部から新しい血が流れ出ることによって
これまで以上の痛みが関興を襲う。
関 興「ぐっ……ぐぬぬぬぬぬっ(パチリ)」
張 苞「……おい、そんなとこに置いていいのか。
まるっきり死んでるぞ、その石」
関 興「か、構わんっ!」
張 苞「あっそう。じゃ、ここで(パチリ)」
関 興「うぬぬ……(パチリ)」
張 苞「あー、また変なとこに打ちやがって」
関 興「どっ、どこに打とうが俺の勝手だー!」
張 苞「はいはい……。それより、やっぱ
麻酔打った方がいいんじゃないか?」
関 興「うるさい! このままでいいっつーの!」
張 苞「そうかい。じゃ先生、よろしく」
華 佗「それでは、骨を削り始めますぞ……」
小さなノミと木槌を手にした華佗は、
関興の腕の骨を軽く一打した。
コーン
関 興「ごあああああああああ!!」
ごろんごろんごろん
華 佗「こら、転げまわるでないわ。
血がそこらに飛び散るではないか」
張 苞「まあ、普通はこうなるわな……。
先生、構わないから麻酔打っちゃって」
華 佗「承知した。しかし、全く頑固な人だのう」
張 苞「意地だけはいっちょまえだからな。
そこだけは親譲りなようで」
ぷすり
関 興「アハァーン」
華 佗「よし、麻酔OKじゃ。
ついでに親知らずも抜いておくかの」
結局、関興は麻酔をしてから治療を受けた。
治療を終えた華佗はすぐ去っていった。
意識が戻った関興と対面する張苞。
関 興「ふう、一時はどうなることかと……」
張 苞「そりゃこっちの台詞だ」
関 興「お、俺は麻酔なしでも大丈夫だったんだ!
そ、それを勝手にそっちが……」
張 苞「へーへー、そうですか。
関興さんは我慢強いですからねー」
関 興「と、とにかくすぐに戦列に復帰するぞ!」
華佗の治療によって関興の負傷は回復。
二人は廬江城攻撃中の部隊に合流しようとする。
だが、燈艾隊に辿り着く前に、謎の兵団と出会った。
張 苞「楚軍の部隊か?
しかし新たな隊が来るとは聞いてないぞ」
関 興「兵は1万以上はいるな……誰の部隊だ」
徐庶
徐 庶「おや、張苞に関興じゃないか」
張 苞「徐庶どの?
貴方は陸口の本隊にいたはずでは……」
徐 庶「いつの話をしているんだ?
もう柴桑は味方の手に落ちて、その余剰戦力を
こうして俺たちが増援として連れてきたんだぞ」
関 興「増援?」
徐 庶「ああ、兵を引き渡したらすぐ帰るけどな。
3千ずつの集団で、俺の他に甘寧、凌統、
李厳、孔奉がそれぞれ率いている。
総勢1万5千の兵が、これから燈艾隊に加わる」
関 興「ちょ、ちょっと待ってくれ。
一体、柴桑からどうやってここまで来たんだ?
普通、ここまで来るにはかなり時間がかかると
思うんだが……」
張 苞「そう言われれば……どこから来たんだ」
徐 庶「それは……その……。
企業秘密だ!」
関 興「な、なんだそりゃー」
張 苞「い、いいじゃないか。そんな細かいことは。
増援がこうして来ているんだからさ」
関 興「む、まあ、そうかもしれんが……」
張 苞「ああ、これだけの増援が加われば、
しぶとい廬江の守りも崩せるってもんだ」
徐 庶「いやいや、これだけじゃないぞ。
尋陽の方からは金満の部隊が進軍中のはずだ。
さらには、髭髯鳳、髭髯豹らが密かに
廬江城を焼き討ちし、防御力を下げている」
☆☆☆
髭髯豹
髭髯鳳
髭髯豹「燃ーえろよ燃えろーよー 炎よ燃えろー♪」
髭髯鳳「火の粉を巻き上ーげ 天までこがせー♪」
徐晃
徐 晃「こらこらこらー! 誰だ、城内で
キャンプファイヤーをやってる奴はー!?」
髭髯豹「やべっ、先公だ! 逃げろ!」
徐 晃「誰が先公だ……ああっ!?
ぼ、防御施設が燃えているううう!?」
髭髯豹「へっ、今更気付いても遅いんだよ!
俺たちがしっかり火を点けさせてもらったぜ」
髭髯鳳「もうこれは使い物にはならんな」
徐 晃「き、貴様ら、楚軍の工作員か!?」
髭髯豹「おうよ! 俺は髭髯ブラザーズの豹!」
髭髯鳳「同じく鳳……それでは失礼いたす」
徐 晃「ま、待てえい、貴様らぁぁぁ!!
こんなことをして、タダで帰れると思うな!」
髭髯豹「おいおい、俺らを追いかけるより、
まず先に火を消したほうがいいんじゃないか」
徐 晃「ううっ、火が燃え広がるっ!?
み、水だー! 消火用の水を持ってこいーっ!
くそーっ、貴様ら、覚えていろよ!」
髭髯豹「はっはっは! あばよ、とっつぁ〜ん」
髭髯鳳「火傷しないようにな〜」
☆☆☆
徐 庶「こんな感じだったそうだ」
張 苞「うわやべえ、物凄く楽しそう……」
関 興「それにしても……。
廬江へ、ここまで一気に戦力を投入するとは、
何か状況が変わったんでしょうか。
こちらの方面はこれまでずっと、燈艾将軍麾下の
軍のみで戦ってきていたのに」
徐 庶「『好機を逃さず一気に叩く』ということだ。
既に寿春城も工作によって奪う算段がついている。
この機に、一気に揚州から魏軍を追い出そう、
ということなんだろうな、ボスの腹積もりは」
関 興「なるほど……。
しかし、ここまで本隊から救援をもらっては、
江夏方面軍の者としては少し恥ずかしいですね」
徐 庶「いや、そう卑下することもないぞ。
寿春と廬江を奪う機、これを作り上げたのは
他でもないお前たちの部隊なんだからな」
関 興「徐庶どの……ありがとうございます」
徐 庶「それじゃあ、お前たちの奮闘を称え、
今日は特別に応援歌を送ってやろう!」
張 苞「応援歌? どんな歌なんだろう、わくわく」
関 興「見た目はちょっと変な感じではあるけど、
実際はいい人なんだな、徐庶どのって」
徐 庶「よし、では行くぞ……コホン」
せぷてんばぁ〜 よろしくぅ〜♪
来月からぁ〜 よろしくぅ〜♪
関 興「な、なんだその歌はぁ!?」
張 苞「ちょ、ちょっと待ってくれー!
中止! その歌、中止ーっ!」
徐 庶「なんだ、歌の途中で邪魔するな」
張 苞「い、いや、その歌って奮闘とか応援とかと
全然関係ないような気がするんだが!?」
徐 庶「ああ、関係ない。ただ俺が唄いたいだけだ」
張 苞「なんて自己中心的なっ!?」
関 興「ほ、他の歌はないんですか」
徐 庶「じゃあ『薔薇は美しく散る』とか……」
張 苞「散ってどうするーっ!!」
関 興「……見た目通りの変な人だな、この人」
さて、5人の将が連れてきた兵、1万5千が加わり、
それまでの長い戦いの中で疲弊していた燈艾隊も
すっかり息を吹き返した。
その様子は、城の東側を攻めている金目鯛にも
伝わってきていた。
金目鯛
費偉
金目鯛「おっ、燈艾隊に増援が入ったか。
これでもう、城も落ちたようなもんだな。
俺たちがわざわざ尋陽から回り込んできた
甲斐もあるってもんだ」
費 偉「ええ、この作戦によって廬江は孤立、
増援も来ない状況になりましたからね。
対してこちらは本陣からの兵力も加わり、
必勝の体勢になっています」
金目鯛「諸葛亮が阜陵から向かってきてるらしいが、
そっちの対応はどうなってるんだ?」
費 偉「柴桑方面から兵力を遣すとのこと。
それに伴い、将も派遣されてくるようです」
金目鯛「そうか、水上戦になるだろうから
その道のぷろふぇっそなるを遣すのか」
費 偉「ええ、優秀な人材が送られてくることでしょう。
後ろはその方々に任せ、我らは目の前の敵を
叩くのみです」
その時、尋陽港の方から新たな楚軍の部隊が
廬江攻略戦のためにやってきた。
金満の部隊、1万5千である。
金満
金 満「兄上ー。我らも廬江攻略のため尽力しますよ」
金目鯛「おお、満か。久しぶりだな!
ところで、尋陽の守りはいいのか?」
金 満「そっちは新たに派遣されてくるそうです。
それより我らは廬江城の攻略を優先しろと」
金目鯛「ふーん」
鞏恋
魏光
鞏 恋「陸じゃないと役に立たないのもいるし」
魏 光「……す、すいません。
どうも、水軍適性ないみたいで……」
金目鯛「確かにお前たちなら陸の方が役に立つわな。
おや? そっちは新顔だな」
管念慈
管念慈「お初にお目にかかります、管念慈です。
よろしくお願いします」
金 満「彼女は少し前に抜擢で登用された方です」
金目鯛「おう、よろしくな。
あれ、もう一人ばかりいるようだが……。
なんでお前さんがここにいるんだ」
下町娘
下町娘「私の方が聞きたいですよー!
なんで私が戦場に駆り出されるんですかー!」
金目鯛「いや、俺に言われてもな……。
どうしたんだ、彼女。秘書業はリストラか?」
金 満「いえ、この部隊は相性の合う人が多いので、
色々と経験を積ませたいってことみたいです。
廬江が落ちれば父上もこちらに来るようですし」
金目鯛「じゃあ、別にいいじゃないか」
下町娘「危険が危ないこんなことしたくないですー!」
金目鯛「……満、なるべく彼女は安全な所に置いとけ」
金 満「ええ、私もそのつもりです……」
金満隊は衝車を備え、廬江城の東側の壁を削っていく。
この時点で、廬江城を包囲する楚軍の兵力は
燈艾・金目鯛・金満隊全てで5万を超えていた。
対する廬江城は1万にも満たない。
徐晃も、もう城を守り通すことは無理と判断した。
徐晃
徐 晃「この城はもうダメだ、逃げるぞ!」
魏 兵「しょ、将軍! そんなあっさりと!?」
徐 晃「危ないと思ったらすぐ逃げることだ!
そうやって生き延びてきたからこそ今がある!
さあ、お前たちも早く逃げろ!」
魏 兵「は、はい〜」
徐晃以下、少数の将兵は城を脱出。
こうして廬江城は楚軍の手に渡った。
10月中旬のことである。
ここしばらくの廬江の攻防も、これで決着がついた。
残るは、江を遡ってきた諸葛亮の部隊。
これを迎え撃つのは……?
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