○ 第五十四章 「曹を囲んで魏を救う」 ○ 
219年9月

寿春・廬江で戦闘が続いている頃。
そこから豫州を挟んで北西に位置する、洛陽の虎牢関。

楚国の洛陽方面軍を統括する立場である司馬懿は、
主だった将を集めて部隊を出す準備を進めていた。

    司馬懿司馬懿

司馬懿「……ではお二人は、こたびの侵攻作戦、
    従うことはできない、と申されるのですか?」

   于禁于禁   李典李典

于 禁「従えないというわけではない。
    しかしなぜ今、軍を動かす必要があるのだ?
    上党方面の魏軍は戦力をまた増強させつつある。
    今、洛陽から主力を遠ざけるのは得策ではない」
李 典「そうだそうだ。
    どうしても攻めたいというのなら、今製作中の
    超絶重機動攻城兵器の完成を待ってくれ」
于 禁「……なんだ、その超絶なんたらというのは」
李 典「拠点侵攻用の巨大な自走式兵器でしてな。
    投石、衝車、井闌の3つの機能を持つ兵器、
    名付けて、『美具座無』!!
    これが完成予想図です、見てくだされ」

李典が出したその図には、円盤に2本の足がついた、
奇妙な生き物のような絵が描かれていた。

   美具座無

于 禁「どこの妖怪だ、これは?」
李 典「失敬な。れっきとした兵器ですぞ。
    この中央の円盤部分に乗り込み、動かすのです」
于 禁「どうやって攻撃するんだ?」
李 典「この中央の口から投石をいたします。
    また、横の部分全てにぐるっと弩を設置しており、
    全周囲に対して弩攻撃が可能になっております。
    そしてこの両足についている爪。これによって、
    衝車と同様の牙突攻撃が可能になっております」
于 禁「ほう……その攻撃が全部1機で可能なのか。
    これがあれば、攻城戦で有利に戦えそうだな」
李 典「ふふん、そうでしょうそうでしょう。
    これが量産の暁には、魏軍などあっという間に
    叩くことができましょう! ふわっはっは!」

得意げな顔の李典。
しかし、司馬懿は彼に現実的な問題を突きつける。

司馬懿「その兵器、大分前から開発中のようですが……。
    一体、いつになったら完成するのですか?
    いつまでに完成する、と期日を定めてもらえれば、
    私も考慮に入れようとは思うのですが」
李 典「き、期日か。い、いや、それがな。
    今、歩行の機構を研究しているのだが、
    ちょっと煮詰まっていてな……。
    あと1年程度の時間をもらえれば多分……」
于 禁「……1年もかかって『多分』か。
    あまり、アテには出来んようだな」
司馬懿「そんなことでは完成を待つ訳にもいきませんね。
    とにかく、陳留侵攻は決定事項です。
    すでに廬江・寿春攻めが行われているのです、
    我らもただ静観しているわけにもいきません」

  楚東部国境

于 禁「むう……。確かに今、陳留は手薄になっている。
    しかし、濮陽や小沛などには戦力が残っており、
    我らが侵攻を行えば増援を送るのは必至だ」
司馬懿「増援が来る前に落とせばよろしい」
李 典「うむ、強力な兵器を使えばそれも可能。
    てなわけで、是非とも美具座無の完成を待っ……」
于 禁「それは却下する。
    ……これまで陳留に対し、小規模な部隊派遣は
    あっても、大規模な侵攻はしてこなかったろう」
司馬懿「それは、陳留が四方から攻められやすく、
    たとえ攻め取っても、今度は立場が逆になり
    こちらが攻められる立場になるだけ。
    だから、攻め取るまでには至らなかったのです」
于 禁「そうだ、それは今も同じはずだろう?」
司馬懿「確かにそうです。
    ですが、今はそれでも攻めなければいけない」
于 禁「その理由は!?」
司馬懿「いずれ分かります」
于 禁「……ちっ、もったいぶりおって。
    いいか、失敗してもわしは知らんからな」
司馬懿「それは承諾ということでよろしいのですね」
于 禁「ふん、上官には逆らえんからな」
司馬懿「李典どのは?」
李 典「……私だけ不参加というわけにはいかぬだろう。
    しょうがない、承知した」
司馬懿「ありがとうございます」

司馬懿との話し合いでも納得までは出来なかったが、
于禁と李典はこの作戦への参加を渋々ながら承諾した。

司馬懿「では、この虎牢関の兵6万を3万ずつ2隊に分け、
    一隊を私が、一隊を郭淮将軍が率います。
    両将軍は郭淮将軍の補佐をお願いします」
于 禁「郭淮の下か……。
    まあよかろう、お前さんの下よりは気が楽だ」
司馬懿「他に司馬望と楽淋をつけますので、
    彼らにいろいろと教えてやってください」
李 典「楽淋か。あいつ、騎射も弩も知らないからな。
    どれ、みっちりと仕込んでやるとしよう」

   楽淋楽淋  郭淮郭淮

楽 淋「がっくちんっ」
郭 淮「何だ今のは。もしかして、くしゃみなのか?」

司馬懿隊3万、郭淮隊3万は虎牢関を出て、
陳留へと進軍していく。
虎牢関は一時的に兵がいなくなってしまうが、
これは洛陽、孟津から1万ずつを移動させて
埋め合わせることになっていた。

  陳留侵攻

    ☆☆☆

さて、対する陳留の魏軍は、楚軍侵攻の報を聞き、
1万の守備兵だけでは守り切れないと判断した。
援軍の使者が、濮陽・小沛へと急行する。

曹操が寿春に向かった後の小沛は、呉軍から転向し
爵位を与えられた周瑜が残存部隊をまとめていた。

    周瑜周瑜

周 瑜「……承知致した。
    お味方の危機は見過ごすわけには行かぬ。
    救援の部隊を送ります故、ご安心めされよ」

周瑜は、援軍の派遣を決断した。
小沛に残っている軍勢5万、そのほとんどを
陳留へ向け進発させる。

  陳留救援

その頃、陳留へと攻撃をかけ始めた司馬懿・郭淮両隊。

   郭淮郭淮   于禁于禁

郭 淮「寡兵ながらよく守るものだ。
    流石に曹操の孫というところですかな」
于 禁「司馬懿は増援の来る前に落とせばよい……
    と言っていたが、これではそれも無理ではないか」

1万しか守備兵のいない陳留城ではあったが、
太守曹叡(曹操の孫)を中心に堅固な守りを固め、
そう簡単には落とせそうにない状態であった。

于 禁「司馬懿隊も、それほど大きな打撃をは
    与えられていないようだな……。
    司馬懿め、これまでのようなキレも何もないな」
郭 淮「確かに此度の作戦、知の欠片も見えない。
    まるで凡将が立てたかのような感じですが」
于 禁「やはり、以前の敗戦が尾を引いているのか?
    こうなったら、司馬懿隊には頼っていられん。
    この隊だけでも有効な攻撃を繰り出して、
    城の防御を崩していかねば……」
郭 淮「……先鋒の楽淋があの様子では、
    それもあまり期待できないでしょうな」

   楽淋楽淋  李典李典

楽 淋「ええと……ここを押しながら、ここを引く?」
李 典「違う違う! そうじゃなくてだな。
    ここを引きながら、ここを押すのだ」
楽 淋「ああ、なるほど。ここを引いて、押す……」
李 典「ああもう、違うわ! 引きながら押す!
    ええい、全く不器用な奴だなもう!
    このキングオブブキヨー!
楽 淋「うるさい! 俺は弩とかは苦手なんだよ!
    そんなすぐ扱えるようになんてなれるか!」
李 典「まっ、ああ言えばこう言う!
    なんてひねくれた子なのかしら!?
    あなたをそんな子に育てた覚えはありませんよ!」
楽 淋「アンタに育てられたことなんてないわボケ!」

于 禁「……ありゃ何をやってるんだ」
郭 淮「城攻めでは弩は必須です。
    弩兵を扱うにもまず弩の扱いを知らねばならぬと、
    李典どのが教え込んでいるのですが」
于 禁「で、あのザマか……。
    何ゆえ、弩も使えぬ楽淋が先鋒なんだ。
    あれでは城への有効な打撃など無理だろうに」
郭 淮「司馬懿どのからの指示ですから……。
    私も疑問に思い彼女に質問したのですが、
    『これが最善なのです』と返されまして」
于 禁「司馬懿隊は司馬懿隊で、こちらと同じように
    弩の使えぬ牛金が先鋒になっている。
    一体、どういうつもりなのだ」

そうこうしている間に、小沛から援軍が出た報が
密偵によって司馬懿のもとにもたらされた。

    司馬懿司馬懿

司馬懿「増援部隊か」
密 偵「は。周瑜ほか魏軍の将、総勢5万の兵を率い、
    小沛よりこの陳留へと向かっております」
司馬懿「到着までどれほどかかるか?」
密 偵「部隊移動を最優先にしている様子でしたので、
    おそらく数日中には現れるでしょう」
司馬懿「よほどの幸運でもない限り、その間に
    陳留を落とすのは無理そうですね。
    ……下がってよろしい」

下がる密偵と入れ替わりに、劉曄、蒋済、満寵といった
この部隊のブレーン陣が司馬懿の元にやってきた。

   劉曄劉曄   蒋済蒋済

劉 曄「司馬懿どの、北からの密偵からの報告ですが、
    濮陽より夏侯惇隊6千余が進軍しており、
    おそらく10日前後でこちらに着くとのこと」
蒋 済「小沛からの周瑜をはじめとする5万の軍、
    そして夏侯惇の隊、これらが陳留に入れば、
    我らの方が危機に陥ってしまいます」

  陳留救援2

    満寵満寵

満 寵「ここは、兵を失う前に撤退すべきでしょうな。
    全く、増援の来る前に城を落としてしまうなど、
    最初から無理な注文だったのだ」
司馬懿「全くその通りです。このままここに留まるのは
    無茶もいいところでしょう。
    流石は満寵どの、見事な慧眼です」
満 寵「……司馬懿どの。
    私の言葉は、貴女がこの侵攻を計画したことを
    暗に非難していたのだが、気付かなかったか?」
司馬懿「いえ、気付きましたよ」
満 寵「ならば、他人ごとのように言うのはやめなされ。
    益のない作戦を計画して、どう責任を取られるのだ」
司馬懿「益はあります」
満 寵「ほう、どんな益ですかな。
    遠征で無駄に糧食を消費し、何の戦果もなく、
    ましてや陳留の守備兵を増やす結果だ。
    益があるとすれば魏国の益しかないが」
司馬懿「満寵どの、視野を大きく持ちなさい。
    広い視野で見ることができれば、此度の遠征、
    大きい意味があったことがわかるはず」
満 寵「大きい意味……?」
司馬懿「そうですね。言わば、『曹を囲んで魏を救う』
    ……というところですか」
満 寵「魏を囲んで趙を救う、なら知っているが……。
    魏を救ってどうするつもりなのか」

満寵は理解できないようであったが、それまで
黙っていた劉曄が、納得を得た様子で話に入ってきた。

劉 曄「やはりそういうことでしたか」
満 寵「えっ、劉曄どのは理解できたのか!?」
司馬懿「ほう、劉曄どのはお気づきになりましたか。
    皇族に連なる方はやはり違いますね」
劉 曄「皇族云々は関係ないでしょう。
    なに、貴女のヒントを繋げれば自ずとわかります。
    それに、ただ気付くのとそれを思いつくのとでは
    大きな差がありましょう。
    私には、到底思いつかなかったでしょうな」
満 寵「2人で話を進めないでいただきたい!
    蒋済もどういうことか分かってないのだろう?
    お前からも何か言ってくれ」

満寵に話を振られた蒋済だったが、腕組みをしたまま
じっと考え込んだままであった。

満 寵「蒋済、話を聞いてないのか」
蒋 済「……ああ、その、先ほどの司馬懿どのの言葉、
    どういう意味かと考えてましたもので」
満 寵「意味?」
蒋 済「曹を囲んで魏を救う……。
    この『魏』というのは魏国のことではありませんね」
司馬懿「……なぜそう思うのです?」
蒋 済「おそらく元にした『魏を囲んで趙を救う』、
    この言葉の魏・趙は両方とも国を指しています。
    しかし、貴女の言葉の冒頭、『曹を囲んで』
    この曹は曹操の『曹』、つまり姓を指しており、
    国のことを指しているわけではない。
    ということは、後ろの魏も……」
司馬懿「蒋済どのの智もなかなか侮れませんね。
    言葉の形を読み取ろうとしていたとは」
蒋 済「いえ、作戦の意図を考えてもわからないから、
    分かりそうなところから考えたまでです」
司馬懿「頭を切り替えるということも大事なことです。
    では、その言葉の意味が分かったのでしたら、
    私の意図も理解できたかと……」
蒋 済「ええ、ある程度はわかりました」
満 寵「私はわかってないー!」
司馬懿「ふふふ、満寵どのも頭は元々いいのですから、
    よく考えればわかりますよ。
    では、満寵どのの答えは帰ってから聞きますので、
    それまで宿題と致しましょう」
満 寵「え? 帰る?」
司馬懿「虎牢関へ帰ります」
満 寵「い、いやしかし、もうすぐ小沛の増援が城へ入る。
    今後ろを見せては、追撃を受ける可能性が……」
司馬懿「では劉曄どの、城の内部を混乱させ、
    少しばかり時間を稼いでもらえませんか」
劉 曄「心得た」
司馬懿「その混乱で生じた隙に私の手勢で打撃を与え、
    追撃してくる気を無くさせますので」
満 寵「……な、なんだ、その準備の良さは。
    まるで全て分かっていたかのような……」
司馬懿「分かっているからできるのですよ」

司馬懿は両部隊に撤退の命令を出した。
撤退命令を受け、楚軍は陣をたたんでいく。

    ☆☆☆

楚軍の撤退準備の様子は、城の魏軍にも見えていた。

    曹叡曹叡

魏 兵「曹叡さま! 楚軍が撤退を開始するようです!」
曹 叡「おお、そうか。
    小沛からの増援に気付いたのかもしれぬな。
    よし、増援が入り次第、部隊を出撃させるぞ」
魏 兵「はっ、逃げる奴らの後背を討つのですな!」
曹 叡「うむ、安易に仕掛けてきたことを後悔させるのだ。
    そうすれば、次の侵攻を躊躇わせることができる」

陳留を守る曹叡は部下に指示を出し、
楚軍の後背を討つべく、その準備を整えようとした。
しかしその作業中、城内の食料庫で騒動が起きる。

魏 兵「うわわわわっ!!」
曹 叡「ええい、落ち着け! 何がどうしたのか!」
魏 兵「そ、曹叡さま、ク、クマ、クマーーーー!
曹 叡「くま?」
魏 兵「熊です! 熊が食料庫で暴れております!」
曹 叡「熊……!? なぜ食料庫に熊が?
    ええい、そんなもの、矢を射掛けて殺せ!」
魏 兵「それが、鎧を来た熊なのです!」
曹 叡「鎧だと? 馬鹿な、熊が鎧を着るものか!」
魏 兵「それが、着てるのですよ〜!」

   鎧を着たクマー

突如降って湧いた熊騒ぎに、場内は混乱し、
とても追撃の準備どころではなくなってしまった。

劉 曄「元々は熊を飼い慣らし、戦闘の際に使おうと
    あの鎧は開発されたのですけれども、
    肝心の熊が飼い慣らせなかったのですよ」
司馬懿「しかし、このような混乱の種としてなら、
    飼い慣らせぬ獣のたぐいでも十分に役立つ」
劉 曄「尻に刺さった針を抜くか、直接殺さぬ限り、
    あの熊は暴れ回るのをやめたりはしません」
司馬懿「しかし……どうやって城の中へ?」
劉 曄「戦いが始まる前に、家畜商に化けた部下を
    すでに城の中へ送りこんでおきました。
    そして、食料の肉を提供するからと言って、
    寝ている熊を食料庫へ……」
司馬懿「全く手のこんだ策ですね。
    その手の込みようなら、城もすぐ落とせそうですが」
劉 曄「これは城を落とす策ではありませぬからな。
    城を落とす程の策は、なかなか思いつきませぬ。
    それに、貴女はまだ城を落とすつもりはない」
司馬懿「……ふふ、その通りです。
    仮にこの城を今、陥落させたとしても、
    維持に多大な戦力が必要になりますからね。
    今は、少し脅かすことができれば良いのです。
    ……では、城の中の混乱に乗じて攻撃を。
    連弩隊! 矢を打ち込め!

司馬懿のその指示が連弩を構えた兵に伝わると、
皆、一斉に連弩の引き金を引いた。

魏 兵「曹叡さまっ! 楚軍が連弩を!」
曹 叡「むむっ……混乱している隙を突かれたか。
    ええい、早く熊を始末せぬか!」
魏 兵「それが、食料庫には大勢で入れませぬゆえ、
    入った先から爪で切り裂かれて……」
曹 叡「くそ、これも敵軍の計略なのか。
    とにかく、混乱が収まらねば何もできぬぞ」
魏 兵「弱りましたね……」

    許猪許猪

許 猪「腹減った……。曹叡どのー。
    今日の飯はまだなのですかぁ」
曹 叡「許猪どの!?
    い、今は飯どころじゃないのです!
    実はかくかくしかじか……」
許 猪「へえ、熊が食料庫にいるのかあ」
曹 叡「そうなのです。その熊はかなり狂暴でして。
    兵たちではどうにもならなくて……」
許 猪「熊の肉って食ったことないなぁ。
    じゃあ、今日の飯は熊肉にしよう」

そう言って、許猪は食料庫の中に入っていった。

魏 兵「曹叡さま、だ、大丈夫ですか?」
曹 叡「安心せよ……。
    許猪どのの武なら、熊ごときはすぐ倒せる。
    全く、最初から許猪どのに頼んでおけば……」
魏 兵「いえ、その、先ほどの曹叡さまの説明ですが、
    熊が鎧を着ていることは話されてませんよね」
曹 叡「……あっ」
魏 兵「しかも、許猪さまは何の武器も持たず、
    中へ入っていきましたけど……」
曹 叡「い、いかん。
    なんでもいい、早く武器を許猪どのに!
    このままでは、許猪どのが危ない!」
許 猪「おれが、なんだってぇ?」
曹 叡「許猪どのの身が危ない、と言って……。
    あ、あれ?」

大きな熊を抱え、許猪は食料庫から出てきていた。
熊は死んでいるのか、気を失っているのか、
許猪の上でピクリとも動かない。

曹 叡「きょ、許猪どの、武器は?」
許 猪「んー? 別に武器なんか要らなかったぞぉ。
    頭をぶん殴ったら動かなくなっちまった」
曹 叡「な、殴った……? 兜を被った頭を?」
許 猪「ちょっと手が痛くなったけどなぁ」
曹 叡「さ、流石は、魏国の誇る勇者……!」
魏 兵「す、すげえ……許猪さま、すげえぜ!」

 ばんざーい、ばんざーい

   楽淋楽淋  郭淮郭淮

楽 淋「……ん? 陳留城の中で万歳やってるな」
郭 淮「楽淋、気を散らすな。
    早く撤退しないと、その城の兵が追ってくるぞ」
楽 淋「へいへい、了解であります郭淮どの」
郭 淮「カクワイダー!」
楽 淋「どっちでもいいじゃないか」
郭 淮「よくない!」
楽 淋「それより、今回のこの戦いだが……。
    俺が参加した意味が全くないよな」
郭 淮「今のところはそうだな」
楽 淋「今のところは……?
    これから、まだ何かあるって言うのか」
郭 淮「我らは陳留城攻めからは撤退はするが、
    虎牢関に真っ直ぐ戻るわけではないからな」
楽 淋「……どういうことだ?」
郭 淮「北から夏侯惇の隊が接近中らしい。
    陳留に向かっているこの部隊を叩き、そして退く。
    彼女から来ているのは、そういう命令だ」

  陳留から虎牢関へ

楽 淋「ふうん。城を落とせなかったから、
    別な標的を潰してお茶を濁そうっていう腹か」
郭 淮「……いや、そんな場当たり的な行動ではない。
    全て、最初から計画されていたのだろう。
    考えれば考えるほど、そう思えてくる……」
楽 淋「んなアホな。それじゃ、全く勝つ気のない、
    そういう戦いを仕掛けたってことになる」
郭 淮「多分、そうなのだろう。
    楽淋、お前が部隊の先鋒を務めているのも、
    城攻めより野戦を優先しているからだと言える」
楽 淋「む。そう言われてみれば……」
郭 淮「司馬懿隊の先鋒が牛金なのもそうだ。
    これは全て、彼女の計画通りに進んでいるのだ」

司馬懿・郭淮両隊は虎牢関へ戻る途中、
北から来た夏侯惇隊6千と交戦、これを破る。
その戦闘の中で、楽淋、牛金といった
野戦向きの将が活躍したのは言うまでもない。

    司馬懿司馬懿

司馬懿「さて……。ここまでやってあげたのです。
    彼には、それなりの成果を期待したいのだけれど」

    ☆☆☆

その頃、寿春では。
魏延隊3万が、曹操隊2万5千と交戦していた。

  曹操VS魏延

    魏延魏延

魏 延「まさか、戦の天才と呼ばれた曹操と、
    こんな形で相対するようになるとはな。
    ……魏劭、何かよい策はないか」
魏 劭「さあ〜」
魏 延「さあって……。
    お前、一応この隊の参謀役だろうが!
    何かないのか、何にも考えてないのか!」
魏 劭「策を出すことは苦手ですから〜。
    情報分析が専門なのですよ、私は」
魏 延「じゃあ現状分析を言え! 今、何が必要だ!」
魏 劭「兵ですな」
魏 延「……そりゃそうだ。
    兵がもっといれば曹操とも有利に戦えるし、
    城だって落とすことができる。
    そんなことは百も承知だ、しかし兵だって
    涌いて出てくるものでもないのだぞ」
魏 劭「安陸城塞に1万残っておりますな。
    卞柔どのに率いらせ、こちらに向かわせては?」

  安陸から増援

魏 延「む……それでは、安陸の兵が空になるぞ?」
魏 劭「安陸を攻められるのはこの寿春からのみ。
    我らが戦っているうちは安全ですよ」
魏 延「ふむ、そう言われればそうだな。
    しかし、安陸に残っているのは卞柔だけだ。
    一人だけでは、部隊としての攻撃力が
    足りないのではないか」
魏 劭「攻撃は我々が行えばいいのです。
    彼らには防御陣形を取らせ、敵の攻撃を
    受ける役になってもらえばよいかと」
魏 延「なるほど、我らが矛、彼らを盾とするか。
    ……なんだ、結構いい策を考えつくじゃないか」
魏 劭「いえ、今のは会話の中で思いついたものです。
    自分一人じゃ何も考えつきませんよ。
    では、安陸に使者を出し、出撃を促します」
魏 延「ああ、そうしてくれ」

その時、曹操隊と対峙している先陣の所から、
おおーっという大きな歓声が上がった。

魏 延「なんだ、今のは?」
楚 兵「一騎討ちです!」
魏 延「何!? 誰と誰だ!」
楚 兵「夏侯淵がかけた一騎討ちの呼びかけに、
    金胡麻さまが応じてしまったようで!
    こりゃあ見物だぁ、早く行かなくちゃー」
魏 延「あっ、こら! くそ、勝手な真似を……!」

   金胡麻金胡麻  夏侯淵夏侯淵

金胡麻「我が名は金胡麻!
    夏侯淵、貴様のその挑戦、俺が受けて立つ!」
夏侯淵「ほう? 金旋の孫か。
    威勢だけはいいようだが、まだ若いな!
    この夏侯淵の武、身をもって知るがいい!」

  一騎討ち男男

両軍の勇将同士の戦い! この決着はどうなるか!

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