○ 第五十二章 「蟻の一穴」 ○ 
219年8月

廬江周辺の魏軍の軍団長となった諸葛亮。
彼は関羽・張飛の豪傑と4万の軍を引き連れ、
揚子江を下って呉軍の阜陵港を占領する。
その後、廬江から張遼隊2万5千も合流した。

  廬江周辺

己の考え出した『江夏の楚軍を誘い出す計』は、
これでまた一歩完成に近づいたかのように見えた。
実際に、楚軍は廬江に向かって軍を発し、
援軍にと当て込んでいた小沛攻めの味方の軍は
小沛城を落とし、増援として派遣されることに
何の問題もない。

    諸葛亮諸葛亮

諸葛亮「フフフ、順調に来ている。
    あとは我々がこの阜陵から取って返し、
    予想外に苦戦を強いられているはずの楚軍を
    完膚なきまでに叩き潰すのみ……」

    関羽関羽

関 羽「軍師、少々よろしいか」
諸葛亮「なんですかな、髯殿?」
関 羽「廬江の守り、少し薄すぎぬか。
    残る兵は1万のみ、そして張遼までこちらに
    寄越してしまうのは、流石にやりすぎでは」
諸葛亮「ああ、そのことですか。
    韓遂どのの判断によるものではありますが、
    楚軍を確実に誘い出すことができるのならば
    これくらいはしょうがないでしょう」
関 羽「誘いだすことには確かに成功したようだが……。
    攻められて持ち堪えられるのであろうか?」
諸葛亮「危うさは確かにあります。
    しかし、韓遂どのと寿春の兵が援護に回れば、
    我々が戻るまでは大丈夫でしょう。
    それに小沛からも援軍が出てくるのですし、
    そう心配する必要はありません」
関 羽「むう。確かに備えはあるのだろうが……。
    しかし、私にはギリギリの戦略のように
    思えてならないのだ。何かの拍子で大きく
    狂ってしまうのではないかと……」
諸葛亮「少々狂うことはあるかもしれません。
    ですが、少々の誤差は織り込み済みです。
    ご心配は無用ですよ」
関 羽「そうか、そこまで言うのなら……」

    張飛張飛

張 飛おい、大変だ、大変だぜ!
諸葛亮「長方形のそれぞれの対辺は同じ長さです。
    また、長方形の対辺の先をいくら延ばしても
    平行のままであり、交わることはありえません。
    これこそが長方形の定理なのです……。
    で、その対辺がどうかしましたか」
張 飛「何を訳分からんこと言ってやがる!
    俺が言ってるのは『大変』だ!」
諸葛亮「大便? 厠でしたらあちらですよ」
張 飛「『大変』だっつーの! 真面目に聞け!」
関 羽「軍師、何やら変事が起きたようです。
    ちゃんと聞いてやってください」
諸葛亮「ふむ……。張飛将軍も余裕がないですな。
    慌てていた様子ですから、冗談を言って
    落ち着かせようと思ったのですが……」
張 飛「余計カリカリ来るわ! ボケ!」
諸葛亮「分かりました、真面目に聞きましょう。
    張飛将軍、何事かありましたか」
張 飛「江に呉軍の艦隊が見えたんだ!
    おそらく、先に交戦した魯粛の隊だろう!」

  魯粛出戻り

関 羽「……なに?
    ここに来る前に遭遇した魯粛の艦隊か?
    何故今になって戻ってくるのだ」
諸葛亮「呉軍が向かって来る……?
    張飛将軍、それを早く言ってください。
    暢気に冗談を言っている場合ではありません」
張 飛「言ってたのはてめえだ!」
関 羽「軍師、このままでは貴方の策、
    大幅に狂ってしまうのではないか?」
諸葛亮「いえ、関羽将軍。そこまで深刻ではありません。
    しかし、早めに対処しなくてはなりませんね。
    ……カモン! 四輪車!

   四輪車
 ぎょおおおおおおん

爆音を轟かせ、諸葛亮の四輪車が現れた。
諸葛亮はそれに乗り込む。

関 羽「軍師? どちらに参られる気だ?」
諸葛亮「私は艦隊を率いて魯粛隊を迎撃します。
    お二人は張遼どのと協力し、この港の防衛を」
張 飛「ちょっと待てよ、あんたが迎撃すんのか?
    迎撃なら俺が……」
諸葛亮「張飛将軍は水軍が苦手でしょう。
    ここは迅速に彼らを殲滅する必要があるのです。
    他の人には任せられません」
張 飛「ちっ、そうかよ」
関 羽「私なら水軍も上手く扱えるが」
諸葛亮「それは分かっておりますが、今回将軍には、
    張飛将軍の目付けとして残ってもらいます。
    野放しにしておくと大変不安ですから」
関 羽「むむ、そういうことなら仕方がないか」
張 飛「な、なんだそりゃあ!?
    俺はイタズラ盛りの子供か!?」
関 羽「似たようなものだ」
諸葛亮「あまり時間がありません。
    すぐに部隊を出撃させます。では」
張 飛「ま、待てや、こら!」

止めようとする張飛のことなど構わず、
諸葛亮は四輪車を発進させた。

諸葛亮楼船、ゴー!

諸葛亮のその掛け声によって、
旗艦『大孟子』の船尾部分がパカッと開いた。
その開いた部分へ四輪車は飛び込んでいく。

諸葛亮邪衆帝淫! 罵倒竜胆!

大孟子はまるで命を吹き込まれたかのように、
諸葛亮の入った瞬間から別物のように動きだした。

諸葛亮が乗り込んだ大孟子は、すぐに港を出港。
他の艦を引き連れ、迫りつつある魯粛艦隊に向かい
先制攻撃を仕掛けていった。

   魯粛魯粛   孫尚香孫尚香

魯 粛「あれは諸葛亮の楼船……。
    我らが港に近付く前に叩くつもりか」
孫尚香「兵力はざっと見て4万。
    防御の薄い港を巻き込まないようにして
    大兵力で先制攻撃を仕掛ける……常道ね」
魯 粛「しかし、相手がその常道を取るからこそ、
    我らがつけいることができるのです。
    お嬢さま、よろしく頼みます」
孫尚香「……お嬢さまはやめてよ」

諸葛亮隊と魯粛隊は交戦を始める。
艦の質、兵の量、どちらにおいても魏軍の方が
有利であったが、魯粛隊も果敢に挑んでいった。

諸葛亮「魯粛どの!
    我々と戦うことを諦めて去った貴方がたが、
    何ゆえこうして戻ってくるのですか!」
魯 粛「状況が変わったのだ!
    柴桑が落とされ、阜陵も奪われたままでは、
    我らが帰るところはない!
    それ故に、阜陵は返してもらうぞ!」
諸葛亮「フフ……返してもらう?
    その程度の数で、我が艦隊を倒せるとお思いか」
魯 粛「別に倒す気はござらん。
    ……孫尚香どの! 今だ!」

魯粛のその合図で、孫尚香が率いる別働隊が
阜陵港へ向かって進み出した。

孫尚香「馬鹿ね! 港さえ落としてしまえば、
    わざわざお前の艦隊と戦う必要はないのよ!」

  港優先

諸葛亮「むむ……港を直接叩くというのか。
    防御力の薄い港では完全な迎撃は難しい。
    奴らを行かせてはなりません!」

    徐盛徐盛

徐 盛「おっと、そうはさせんぞ、諸葛亮!
    これ以上はお前の好きにはさせん!」
諸葛亮「ちっ……絶対的な戦力の差があるというのに。
    無駄な抵抗だということがわかりませんか!?」
徐 盛「そんなもの、戦ってみなくてはわからん!」
諸葛亮「そんなめくらな兵法で……!
    私の戦略の邪魔はしないでもらいたい!
    こんなくだらない戦いによって、せっかくの
    作戦が遅れるなど我慢がならないのですよ!」
徐 盛「おっと、そういうことを聞かされると、
    余計に邪魔したくなるな! いくぞ!」
諸葛亮「嫌がらせで戦うなど……!」

魯粛隊は阜陵港への攻撃を続けたが、
背後から諸葛亮艦隊の攻撃を受け続けたため、
その兵力をほとんど失い敗れ去った。

だが、これによって負傷兵が増えてしまい、
諸葛亮が廬江へ戻ることができるのは少し先に
延びてしまった。

この少しの猶予は、運命を変えるのか。

    ☆☆☆

燈艾は、軍を発し廬江へ侵攻を開始した折に、
金旋にもこのことを知らせる使者を派遣していた。

だが、その使者が金旋の元に辿り着いたのは、
柴桑が陥落し、金旋が入城した後のことだった。
燈艾が出発したのは8月上旬。
金旋にそれが知らされた時、月は下旬であった。

    金旋金旋

金 旋「……なんだ、柴桑を攻撃していた時期にはもう
    燈艾は部隊を出撃させていたのか。
    お前、来るのがちょっと遅すぎないか?」
使 者「も、申し訳ありません。
    夏口港を出てすぐ船が流されてしまいまして、
    陸口へ向かうまでにも時間がかかりました」
金 旋「……そうか、陸口から来たのか。
    九江はまだ呉軍が残っているからな。
    遡って陸口の方から来るルートじゃないと
    危ないのは分かるが」

  夏口からの連絡経路

使 者「は、九江を通れれば、もっと早く来れました」
金 旋「早目に九江を落としておくべきか。
    ……報告ご苦労。下がってよし」
使 者「ははーっ」

   金旋金旋   金玉昼金玉昼

金 旋「てなわけでだ。
    すぐにも九江を攻め落とすべきだと思うが」
金玉昼「それには異存はないけど……。
    もう、廬江では戦端が開かれている頃にゃ。
    できれば、もう少し早く知りたかったにゃ」
金 旋「それを言っても仕方ない。
    それに燈艾なら上手くやってくれるさ」
金玉昼「……今回のこの魏軍の状況、どう見ても
    誘いこむための罠にしか見えないにゃ。
    我が軍が城攻めにかかりきりになっている内に、
    何かしら別な作戦を実行するはずにゃ……。
    はっ!? もしかして、諸葛亮は……!?」
金 旋「ど、どうした?」
金玉昼「ちちうえ! 地図持ってきて!
    揚州だけの地図じゃなくて、その周辺の州も
    入ってる大きい奴!」
金 旋「お、おう」

言われるままに金旋は揚州周辺の白地図を持ってきた。
金玉昼は、その地図上に駒を置いていく。

金玉昼「廬江、寿春は寡兵……。
    阜陵に諸葛亮以下、主力の部隊……。
    今、燈艾隊は廬江へ攻めかかる……。
    そして他の寄せ手がこことここ……」
金 旋「この配置図の状況になっているのなら、
    別に心配はいらないと思うが、どうだ?
    絶対有利とは言わんが、不利ではあるまい」
金玉昼「確かに、駒がこれだけならそうだにゃ。
    しかし……! ここにもいまひる!」

パチン、と一際大きい駒を、寿春のそばに置いた。
その位置は、寿春の北にある小沛城。

金 旋「小沛? そこは呉軍領のはずだが……」
金玉昼「先日、すでに魏軍が小沛を攻めていたという
    情報が私の元に届いていまひる!
    今はもう、魏軍は小沛を占領し、寿春方面に
    援軍を送る手筈を整えつつあるはず!」
金 旋「そんなバカな。
    占領してすぐに部隊を出せるとは思えん。
    我が軍がこの柴桑を落とした後だって、
    すぐに出撃できる状況じゃあなかった。
    ここ1ヶ月それなりの準備をしてたんだぞ」
金玉昼「甘い! 甘いにゃ、ちちうえ!
    この白玉あんみつ黒蜜がけよりも甘いにゃ!」
金 旋「あ、いつのまに俺のデザート食ってるんだ!?
    こら、返さんかっ!」
金玉昼「今はそれどころじゃないにゃ!(もぐもぐ)」
金 旋「……全部食いやがったよ。
    確かにそれどころじゃないのはわかるが」
金玉昼「ごっくん、ぷはー。……えーと。
    すでに小沛を落とす前からこの部隊は、
    増援の部隊になることが決められていたのにゃ。
    すでに決められていれば、落とす前から
    準備をすることは可能にゃ」
金 旋「確かに決まっていればそうだろうが……。
    そんなのどうしてわかるんだよ」
金玉昼「逆算したのにゃ」
金 旋「逆算?」
金玉昼「この廬江・寿春の状態を罠と仮定し、
    江夏の楚軍の動きが敵の予測通りと考えると、
    小沛のこの戦力がすぐに増援に来ることが
    一番魏軍の利益に適うのにゃ」
金 旋「そ、それだけで決まるのかよ」
金玉昼「魏の軍師は諸葛亮。
    これまでの彼の戦い方を考えてみれば、
    どう考えてもこれ以外に奴の手はないにゃ。
    今考えてみると、あの時の予言は……
    まさにこのことを指していたんじゃ……?」
金 旋「待て、玉。予言の話はナシだ。
    そういうことにしたはずだろう」
金玉昼「でも、ここまで周到に練られた作戦じゃ、
    覆すことなんてどうにも……」
金 旋「どうにも崩せないのか?
    どこかに穴があったりしないのか」
金玉昼「机上の理論だけなら諸葛亮の頭脳は完璧にゃ。
    作戦の穴はほとんどないはずだにゃ」
金 旋「机上の理論だけ……?
    それって若干皮肉が入っていないか?」
金玉昼「まあ、置かれる状況が変わってしまうことで
    理論が崩れるということもあるから……」
金 旋「臨機応変に欠けるということか」
金玉昼「そういうことだにゃ。
    でも今回、理論を崩すだけの状況の変化は
    あまり……あれ? この駒って何にゃ?」
金 旋「ん? ああ、呉の魯粛の部隊だな。
    柴桑の援軍として秣陵から来たみたいだが、
    柴桑が落ちたら戻っていったぞ」
金玉昼「この部隊……そのまま戻ればおそらく、
    今頃は阜陵にて戦っているはず……」
金 旋「諸葛亮もこれは予測できなかっただろうな。
    まさか一度離れていった奴らが戻ってくるとは、
    いくら変態的な智謀を持つ奴でもわかるまい。
    まあ、この程度で何か変わるわけでもないがな」
金玉昼「これにゃ! 諸葛亮の策を崩す状況の変化!」
金 旋「おいおい。
    奴の策は、こんな少数の部隊がいるだけで
    崩れちまうようなヤワな策なのか?」
金玉昼「……確かに、この魯粛隊が攻めかかっても、
    諸葛亮の反転策が少し遅れるだけにゃ。
    でも、その遅れている少しの間に、
    こちらから、くさびを打ち込めれば……!
    千丈之堤、以螻蟻之穴潰!
金 旋「あんだって?
    どっかで聞いたような言葉だが……」
金玉昼「意味は辞書でも引いて調べてにゃ。
    この魯粛隊という一寸の蟻の穴から、
    諸葛亮の周到な策を潰すことになるのにゃ」
金 旋「そうなのか? てことは勝てるんだな?」
金玉昼「少なくとも、攻撃している部隊が逆にやられて
    壊滅してしまうという危機は無くなるにゃ。
    ちちうえ、すぐに九江を攻める部隊を!」
金 旋「九江を攻める……今からか?
    今は柴桑の再開発をやってる関係で、
    徐庶や甘寧らは出られないが……」
金玉昼「出られる人だけで編成すればいいにゃ。
    今は時間との勝負にゃ」
金 旋「そうか。じゃあ、金満と李厳を大将にして、
    4万ずつ率いさせよう。
    これなら九江もすぐ落ちるはずだ」

金旋は、金満、李厳にそれぞれ投石隊を率いさせ
九江に向けて出撃させた。

  九江攻略

金満隊には雷圓圓、霍峻、呉懿、陳表が付き、
李厳隊には鞏恋、魏光、陳武、下町娘が付いた。

   下町娘下町娘  鞏恋鞏恋

下町娘「なんで私が前線にーっ!?」
鞏 恋「暇そうにしてたから」
下町娘「事務の女の子が暇そうにしてても、
    仕事がないからだとは限らないのよーっ!」
鞏 恋「……じゃ、サボりがバレたんだ」
下町娘「サボってなーい!」

合計8万の投石部隊は、9月上旬には九江を攻略。
そのまま部隊は港に入り、北の尋陽港、
東の阜陵港を望めるようになる。

だがその間に、廬江での戦いは大きく進んでいた。

    ☆☆☆

ここで、廬江での戦いがどうなったかを語ろう。
8月中旬、つまり金旋が九江攻略の部隊を
出撃させたのと同じ頃のこと。

燈艾隊5万は、廬江城に近づきつつあった。

  廬江に近付く燈艾隊

   トウ艾燈艾   文欽文欽

燈 艾「……もうすぐ見える頃か」
文 欽「いよいよですな! 楚軍での私の初陣!
    廬江の軍などちゃっちゃと倒して、
    魏延隊の救援にも参りましょうぞ!」
燈 艾「魏延隊なら心配いらない。
    我が軍随一の武を誇るあの方ならば、
    そうそう敵に遅れを取ることはない。
    金目鯛将軍の二人のお子も付いているし、
    我々の助けなどいらないだろう」

安陸城塞に駐屯していた魏延らは、燈艾の命で
寿春に向け部隊を出撃させていた。
魏延を大将、副将は金閣寺、金胡麻、蛮望、魏劭。
兵は4万を率いている。

文 欽「そうかねえ。
    寿春の兵は3万ちょい、対する廬江は1万。
    どう見たってあっちの方が苦戦しそうだが」
燈 艾「兵が動かぬのなら、そうかもしれぬがな」
文 欽「そういや、金目鯛どのはどうしたんだい。
    夏口に呼び寄せたのは知ってはいるが……。
    この後、こっちの増援として来るのか?」
燈 艾「あの方の動向は、秘密だ」
文 欽「秘密? なんでまた」
燈 艾「あの方には重要な役割を担ってもらう。
    それを敵に知られるわけにはいかない」
文 欽「だから秘密か……。何をやらせる気なんだ。
    そんな手の込んだことをするほど、廬江攻めに
    手間取るとは思えないがなぁ……」
燈 艾「いや……そう簡単には行かない。
    おそらく、奴が来るだろう」
文 欽「奴?」
燈 艾「関羽や張遼らと比べれば、直接的に感じる
    恐ろしさでは到底及びはしない。
    智謀も曹操や諸葛亮などには及ばない……。
    だが奴には、したたかさがある」
文 欽「イササカさん? 誰ですかそりゃ」
燈 艾「……誰?」
文 欽「いや、俺に聞き返されても」

やがて、部隊は廬江城付近までやってくる。
先鋒の公孫朱やその脇を固める張苞・関興は、
廬江の様子が少し違うことに気付いた。

    公孫朱公孫朱

公孫朱「……城の守備兵が多い?」

   張苞張苞   関興関興

張 苞「1万しかいないんじゃなかったか?」
関 興「これはどう見ても、3万はいるな」

出撃前には廬江の兵は1万と言われていたが、
今、どう見ても3万ほどの兵が城内にいる。

???ふふふ、驚いているようだな!
張 苞「だ、誰だ!?」
関 興「城壁の上から聞こえるが……!?」

姿は見えないが、声だけは彼らの耳に届いていた。
おそらく陰になっているところに隠れているのだろう。

???「廬江の兵が少ないから攻めてきたのだろうが、
    そう簡単にはイカ人参。兵が足りないなら、
    あるところから持ってくればよいのだ」
張 苞「何だって!?」
???「兵は臨機応変に使わねばならんのだ。
    手薄な所を攻められればそこを厚くするのみ。
    猪武者のお前たちでは分からぬだろうがな」
張 苞「ば、馬鹿にするなっ!」
関 興「そうだ! これと一緒くたにするなっ!」
張 苞「お、おい、ちょっと待てや関興。
    その俺を指差してる指と今の言葉の意味、
    俺に教えてくれないか?」
関 興お前みたいな馬鹿と同じとされるのは
    非常に迷惑だという意味だが、それが何か」
張 苞「て、てめえ、思い切り直球で言いやがって!」
関 興「それじゃあ……。
    頭があまりいいとはいえない人と
    同じように見られるのはいい気分
    ではないので、できればやめてほしい
    ということで」
張 苞「言ってることは同じじゃねえか!」
関 興「じゃあ、どう言ってほしいんだ!」

公孫朱「やめなさい。
    今はそんなことをしてる時ではないでしょう」
二 人「……は、はい」

公孫朱に睨まれ、二人は言い争うのをやめた。
その様子を見ていたのか、声は公孫朱に話しかけてくる。

???「ほう、血の気の多い男たちを一言で黙らせるか。
    若いながら、貫禄がついてきたようだな。
    以前はまだまだ小娘だと思っていたが……」
公孫朱「私を知っているような口ぶりだが……?
    一体、誰なのだ! 姿を見せろ!」
???「フフフ、よかろう。
    再びお前たちに、私の姿を見せてやろう!」

城壁の上に、何者かが現れた。
ばさっと黒い戦袍を翻し、現れたその姿は……。

 だぁーすべいだーby紫電
illustrations by 紫電


 ドギャァァァァァン!!

関 興「誰だ!?」
張 苞「誰だろう……?」
公孫朱……だ、だんじゃ!?(誰だ!?)」

 ぽかーんby紫電
illustrations by 紫電



本当に誰なんだ。

[第五十一章へ戻る<]  [三国志TOP]  [>第五十三章へ進む]