○ 第四十五章 「一年越しの奪取」 ○ 
219年5月

陸口へ侵攻した楚軍の3艦隊だったが、
守る魯粛艦隊の巧妙な罠により、李厳の艦隊が
手痛い被害を受けた。

 李厳先行

   魯粛魯粛   徐盛徐盛

魯 粛「李厳隊は陣形を乱している!
    他が来ないうちに潰してしまうのだ!」
徐 盛「はっ! 李厳隊に射撃を集中させよ!」

罠によって崩れた陣形は、容易には立て直せない。
魯粛は、攻撃を集中させ、1艦隊ずつ潰していくことで
少しでも勝ちに結び付けようとしていた。

だが、楚軍も黙ってみているわけではない。

    董襲董襲

董 襲「このままでは李厳隊はやられるのみだ!
    彼らが陣形を立て直す時間を稼ぐぞ!
    全員抜刀! 斬り込めぇぇ!!」

朱桓隊の先鋒に起用された董襲が気合を入れ、
古巣の呉軍に斬り込んでいった。

 朱桓隊強攻

    朱桓朱桓

朱 桓「よし、董襲に続け! もとより数では
    上回っているのだ、怖れることはない!」
朱 異「我らも遅れを取るな!」

董襲の強攻に、朱桓、朱異の親子も呼応する。
そして……。

呉兵A「『鞏』の旗の艦が迫ってくるぞ!
    例の小養由基と称される女武将の艦だろう!」
呉兵B「な、なにぃ?
    あ、あの、カープの最終秘密兵器と呼ばれながら、
    最後まで秘密のままで終わってしまった、
    55キロの超スローカーブ、田中由基か!?」
呉兵A「違う! 小養由基だ!
    弓を取ったら百発百中、剣を取っても太史慈将軍と
    互角に戦ったという、あの女武将だ!」
呉兵B「ああそっちか。それくらいは知ってるぞ。
    んでもって、かなりの美人だって話じゃないか。
    一度でいいから姿を拝みたいと思っていたんだ」
呉兵A「お前、余裕あるな。
    ちょっと下手をすりゃぶっ殺されるんだぞ」
呉兵B「はっ、別に物陰からそっと見りゃ大丈夫だろ。
    俺は三度の飯より美人が好きなのさ」
呉兵A「実際美人かどうかなんてわからないだろ」
呉兵B「だから、この目で見てみるんだろうが。
    ほれ、そこの陰からそーっと頭を出すんだよ」
呉兵A「……全く、なんで俺まで付き合わされるんだ」

二人は、低くしていた頭を船べりからそっと上げ、
迫る艦に乗っている人物を眺めた。

    鞏志鞏志
   ジャーン

呉兵Bどこが美人じゃー!?
    全然違うおっさんじゃねえかー!」
鞏 志「むっ、敵兵!」

 ひゅんっ……どすっ

呉兵B「ぐはっ……あ、あのおっさんも、
    いい弓の腕前してるじゃねえかよ……」
呉兵A「お、おい、大丈夫か!?」
呉兵B「くっ……ど、どうせ死ぬんなら、
    美人の手にかかって死にたかったぜ……ぐふっ」

鞏志の矢が胸に突き刺さり、名も無き兵士は絶命した。

鞏 志「ふう、上手く当てられたようだな」
楚 兵「お見事です。敵兵も将軍の弓の腕に怯え、
    完全に及び腰になっておりますぞ」
鞏 志「……いや、私の腕というより、
    何か違うものに怯えているような……。
    まあいい、先頭を行く董襲どのの動きに合わせ、
    我らも攻勢を強めるのだ」
楚 兵「はっ!」

鞏志も董襲の強攻に呼応し、これによって朱桓隊は
魯粛艦隊の戦力を大幅に討ち減らした。

    魯粛魯粛

呉 兵「朱桓隊の強攻にて、我が方の被害甚大!
    さらに同隊の留賛に矢嵐で追い討ちを受け、
    3割近くもやられてしまいました!」
魯 粛「流石は元呉軍の将たち、というべきかな……。
    敵に寝返ってしまったのが悔やまれる」
呉 兵「朱桓隊に攻撃を集中させましょう、都督どの!
    陣を乱している李厳隊など今は捨ておくべきです」
魯 粛「くっ……確実にひとつずつ潰していくのが
    上策なのだが、そうも言っていられんか……。
    徐盛を先頭に、朱桓隊を攻撃せよ!」
呉 兵「はっ!」

朱桓隊の激しい攻撃に晒され、魯粛隊は主目標を
李厳隊から朱桓隊に変えざるをえなかった。

 魯粛隊逆襲

    朱桓朱桓

朱 異「むっ、父上! 敵がこちらに向かってきます!」
朱 桓「こちらに攻撃目標を移したか。
    よし、このまま陣形を維持! 攻撃を続行せよ!」

朱桓隊は魯粛隊とぶつかり、混戦模様となる。
そんな中、赤く目立つ朱桓の旗艦『赤髭』に、
呉軍の艦が一隻近付いてきた。

    徐盛徐盛

徐 盛「……おやおや、これはこれは。
    そこにおわすは朱桓ちゃんではないか。
    顔を合わせるのは久方ぶりだな!」
朱 桓「むっ……徐盛か!?」
徐 盛「同期入団、そして同じ歳だということで、
    お前には期待をかけていたのにな!
    いつのまにか呉に弓引く立場になりおって!
    見損なったぞ!」
朱 桓「くっ……や、やかましい!
    私はお前のために生きているのではない!
    とっとと失せろ、スカポンタンが!」
徐 盛「ほぉぉ……スカポンタンねぇ。
    そーいう反抗的な態度を取っていいのかねえ?」
朱 桓「な、何がだ」
徐 盛「楚ではほとんど知られてないのだろう?
    お前の最大の弱点……」
朱 桓「弱点……? なんのことだ」
徐 盛「それ、ここで喋っちまおうかなー。
    どうだ、謝るなら今のうちだぞ。さあさあ」
朱 桓「はっ、弱点? そんなもの、私には……?
    ……ま、まさか!? あ、あのことかっ!?」
徐 盛「ブー、時間切れだ。
    残念だったな、それじゃ皆に聞いてもらおうか!」
朱 桓や、やめろーっ!

声を上げ止めようとする朱桓だったが、
徐盛は構わず、声を張り上げた。

徐 盛「楚軍の諸君! よーっく聞くがいい!
    そこにおわす、何も怖くないぜって顔してる
    コワモテの朱桓将軍のことだがな!」
朱 桓「い、言うなっ! 言うなーっ!」
徐 盛「実はそいつはな!
    お化けが大の苦手なんだぜ!
    はーっはっは、笑っちまうだろう!?」

楚兵A「朱桓将軍が……お化けが苦手だって?」
楚兵B「何事にも動じない風の朱桓将軍が?
    ……なんか、夢壊れちゃったなー」
楚兵C「ああ、ああいう人に憧れてたんだけどなー」

徐盛の暴露により、朱桓隊の兵たちの士気は
軒並み下がってしまった。

朱 桓「くっ……バラされた……!
    私の、私の門外不出の重大秘密がっ!」
朱 異「いや、いつかはこうなると思ってましたが。
    それに門外不出というほどのものですか?」
朱 桓「うるさい! 大体、お化けが苦手で何が悪い!
    お化けが得意な奴などいるのかっ!?」
朱 異「いや、私に逆ギレされましても……」
朱 桓「く、くそ、ゆ、許さん……! 許さんぞ徐盛!
    全軍、総攻撃だ! 生かして帰すなっ!」

   シーン

朱 桓「……おや? どうしたお前たち」
楚兵A「お化けが怖い人に言われてもねえ〜」
楚兵B「なんとなく気合入らんよな〜」
楚兵C「信頼感ゼロ〜」
朱 桓「ぐっ……!? ぐぬぬぬ……」

朱桓の命令通りに動かない敵の部隊を見やって、
徐盛は声を上げて笑った。

徐 盛「はーっはっはっは!
    参ったな朱桓、それでは戦えまい!
    なんとも情けない大将閣下だな、ははっ!」
朱 桓「うぬぬぬぬ……こうなれば!
    貴様らっ! 命令に従わぬ者はこうだ!
    でえい!」

   ズバッ

楚兵C「な、なんで俺だけぇ〜」(ガクリ)

楚兵A「ひ、ひいい!? 味方の兵を斬ったあ!?」
楚兵B「な、なんて容赦のねえ人だ!」
朱 桓「こうなりたくないのなら、命令を聞けい!
    さあ、攻撃せよ!」
楚兵A「は、ははー! それ、いくぞー!」
楚兵B「おおー! まだ死にたくないからなー!」

徐 盛「……ふん、味な真似を。
    しかし、既に一時の勢いは失せてしまっている。
    一度失った士気はそうすぐは戻らんからな……。
    さあお前たち、こんな士気の下がった部隊など、
    すぐに押しのけてしまうのだ!」

士気が下がった朱桓隊に対し、魯粛隊は
徐盛を先頭に攻撃を続けていった。

さて、魯粛隊が主目標を朱桓隊に変えたことで、
李厳隊はようやく陣形を立て直す機会を得る。

    李厳李厳

李 厳「陣形はちゃんと整ったか?」
楚 兵「はっ! 敵軍の攻撃が止みましたので、
    なんとか立て直すことができました!
    朱桓隊がひきつけてくれたお陰ですね」
李 厳「うむ……しかし、甘寧隊は何をやってるのだ。
    敵は1隊だけ。3隊で集中攻撃をかければ、
    楽に倒せるというのに……」
楚 兵「……甘寧隊はですね、先行しすぎた我が隊に
    前を阻まれ、敵軍に近付けないのですが。
    甘寧将軍も怒ってるようですよ」

   甘寧甘寧   蒋欽蒋欽

甘 寧「李厳ちゃん、どいて! 呉軍殺せない!」
蒋 欽「いや、無陣状態で動けないのですから、
    今どけるのは無理というものでは……」
甘 寧「んがー! 無理でもどかんかー!
    ぶっ殺しちゃうぞコラァ!!」
蒋 欽「ハァ……。李厳どのに伝令を!
    早く動かないと味方に襲われる可能性が有り、
    そう伝えよ! 急げ!」

楚 兵「……てな感じだそうです」
李 厳「そ、そりゃえらいこっちゃ。
    さ、さて、陣形が整ったなら攻撃再開だ!
    甘寧隊に場所を譲りつつ、敵の側面を突け!」
楚 兵「はっ!」

李厳隊は罠を受けたショックから立ち直り、
魯粛隊へ再び攻撃を仕掛ける。

 李厳復活

李厳は一度やられたことで頭を冷やしたのか、
普段の冷静さを取り戻していた。

李 厳「落ち着け李厳……。
    罠に嵌まってしまったのは、躍起になるあまり
    力押しばかりを考えてしまっていたせいだ。
    ここは、本来の私らしく頭を使っていくべきだ。
    ……敵軍を混乱させるのだ!
    用意していた偽の命令書を送り込め!」
楚 兵「はっ! 承知しました!」
李 厳「混乱と同時に各将に攻撃させるのだ。
    大丈夫、今からでも挽回は可能だ。
    一番の軍功をいただくぞ!」

李厳の放った偽の命令は、魯粛の警戒をかい潜り
呉軍を混乱させることに成功する。

魯 粛「どうしたか、この騒ぎは!?」
呉 兵「おかしな命令により、混乱しているようです!」
魯 粛「なにっ!? どういう内容か」
呉 兵「隣りの艦と綱を引き合う勝負をしろとか、
    旗を一度下ろして逆さまに付け直せとか、
    尿検査をするから小便を提出しろとか……」
魯 粛「そ、そんな命令があるかっ!
    そんな馬鹿げた偽の命令など、無視せよ!」
呉 兵「し、しかし、印の押された命令書は絶対だと、
    都督どのが戦いの前に徹底しておられましたし。
    出回っているその命令書にも、印がありまして」
魯 粛「くっ……どうやったか知らぬが、
    敵は偽印を使って混乱させているようだ。
    騙されないようにと採用したはずの方策が
    逆に仇になってしまったか」
呉 兵「あっ、敵部隊が……!」

その魯粛隊の混乱を見て取った李厳隊が、
その隙に乗じて強攻を仕掛けてきた。
その先頭にいるのは、なんと下町娘だった。

    下町娘下町娘

下町娘「よーし行っちゃうわよー! 強攻せよー!」
張 允「おお!? 下町娘どのが強攻を!?
    よし、我らも続くぞ! 彼女をサポートできるのは、
    荊州水軍を受け継ぐこの張允のみだ!」

    魏光魏光

魏 光「よし、私も! マッスルパワー全開ーっ!」

呉 兵「ひーっ、やられるーっ」
張 承「案ずるな! 張允の艦のみに気をつけよ!
    それ以外は素人だ、適当にあしらえ!」

守りに当たった張承の指示は的確で、
この強攻での被害は最小限に食いとめられた。

下町娘「えーっ!? 勇気を出して頑張ったのにー!」
楚 兵「艦を敵艦群に突っ込ませただけで、
    実際に斬り結んだりはしてないじゃないですか」
下町娘「だってそんなことしたら怪我するでしょ」
楚 兵「怪我って……。
    ……一体誰だよ、この人を隊に組み込んだのは」
魏 光「それは、オクレ兄さんさ!」
楚 兵「だ、誰ですかそれは!?
    というか魏光将軍、自分の艦にお戻りを!」
魏 光「フフフ……、オクレ兄さんめ……。
    ようやく見付けたぞ、さあ、覚悟してもらおうかぁ」
楚 兵「ひ、人違いです!
    私はオクレ兄さんとかいう者ではありません!
    正気に戻ってください将軍!」

    魯粛魯粛

魯 粛「張承、よくやってくれた!
    よし、李厳隊も朱桓隊も弱ってきている。
    このまま戦線を維持できれば……」
呉 兵「都督どの! 今度はあっちから!」
魯 粛「なっ……甘寧!?
    李厳隊が邪魔になっていたはずでは!?」
呉 兵「李厳隊が横へ動き、進路が開いたようです!」

 甘寧参戦

    甘寧甘寧

甘 寧「いやあ、ようやく道が開いたぜ!
    野郎ども! 挨拶代わりにちょいと斬り込むぞ!」

    孫朗孫朗

孫 朗「お供します、甘寧将軍!」
甘 寧「孫朗か。いいだろう、ついてこい!」
孫 朗「はっ!」
甘 寧「それっ、俺がキャプテン甘寧だ!
    こいつはほんの挨拶の代わりだっ!
    実につまらんものだが、受け取るがいい!」
孫 朗「私は呉公孫権の弟、孫朗!
    もはや兄孫権の時代は終わったのだ!
    それを今から証明してくれる!」
呉 兵「も、もうもたない! ぐわーっ!」

3倍もの敵を相手に善戦していた魯粛隊だったが、
この甘寧隊の強攻により、大幅に戦力を削られてしまう。

魯 粛「……残存兵力は!?」
呉 兵「既に1万を割り込んでおります!
    都督どの、ここは陸口への撤退を……」
魯 粛「ならん! 今戻っては、陸口は確実に落される!
    なんとか今少し、時間を稼がねばならんのだ!」
呉 兵「しかし……」

太史享「都督どの、こちらにおられましたか!」
魯 粛「どうした太史亨、何か変事でも?」
太史享「それが、敵の情報を掴んだのですが……。
    烏林より、また新たな艦隊が出撃し、
    こちらに向かってきているとのことです!」
魯 粛「な、なに? ここにきて新しい戦力が……!?」

    ☆☆☆

 烏林より追加出撃

少し時間は遡り、陸口近くで楚呉が戦い始めた頃。
烏林では、新たな艦隊が続々と出港していた。

   金旋金旋   金玉昼金玉昼

金 旋「気をつけてなー」
金玉昼「あーい、陸口で待ってるにゃ〜(ぶんぶん)」

徐庶、金満、魯圓圓、黄祖を大将に、
それぞれ1万の兵を率いて出撃していった。
機動力のある蒙衝を中心に構成している。

なお、副将の配置はこのようになっている。

○徐庶隊(凌統・孟達・馬良・張常)
○金満隊(黄射・楊儀・馬謖・周倉)
○魯圓圓隊(雷圓圓・孔奉・孫匡・伊籍)
○黄祖隊(金玉昼・蔡和・蔡中・劉綜)

一部の将は、江夏や泪羅などから呼び寄せられた者で、
水軍の扱いには定評のある者たちだった。

それぞれの艦隊は速度を上げ、江を下る。
そのひとつ、黄祖艦隊の旗艦では……。

   黄祖黄祖   金玉昼金玉昼

黄 祖「いやあ、船の上というのはやはりいいもんじゃ。
    ……しかし、軍師も見る目があるのう」
金玉昼「は? 何が?」
黄 祖「そうトボケんでもいいわい。
    泪羅にいたワシをわざわざ呼び寄せ、
    こうやって艦隊を率いさせておるではないか。
    戦いを決するための最終戦力として期待している、
    ということであろうが」
金玉昼「はあ……まあ、水軍の得意な人を集めて、
    それが呉軍に対するプレッシャーとなれば
    いいかなーとは思ったけど。
    でも別に特定の誰かに期待してるわけでは……」
黄 祖「はっはっは、そう照れんでもよいわ」
金玉昼「照れてないにゃ!」
黄 祖「まあ、我が息子の黄射、蔡和や蔡中といった
    大して役に立ちそうもない奴らに対し、
    活躍の場を与えてくれるのはありがたいと思うぞ」
金玉昼「(自分を含めないあたりが図々しいにゃ……)」
黄 祖「他にも徐庶や金満、魯圓圓といった実力者を
    大将にして部隊を組んである。
    先行の部隊と合わせて見れば、まさに最強!
    この軍とまともにやりあえる敵はおるまい。
    言わば、この戦い……詰んでる!」
金玉昼「……ツンデレ?」
黄 祖「そーそー、いつもはツンツンしているけど
    二人きりになるとデレデレいちゃつくような……
    って違うわ!!」
金玉昼「ウチで言うなら恋ちゃんあたりかにゃー」
黄 祖「いや、あれはツンデレとはちょっと違う……
    だからツンデレの話はもういいわい」
金玉昼「まあ、どうせ陸口を落した後に烏林から
    兵力の移動をしなくちゃならないんだから、
    だったら後続部隊として投入してもいいかにゃー、
    と思っての戦略だにゃ。実際に戦わせるよりは、
    プレッシャーを掛ける意味合いの方が強いにゃ」
黄 祖「フフフ、その呉軍へのプレッシャー、
    この黄祖がいることで数倍にもなろうぞい」
金玉昼「(せいぜい一割増しくらいだと思うにゃ〜)」

    ☆☆☆

再び陸口。
金玉昼ら後続の増援部隊の情報を、
戦いに最大限に利用したのが李厳だった。

    李厳李厳

李 厳「フフ、これは使えるぞ」

彼はまずこの増援の情報を、わざと呉軍へ流した。
そして、実際の到着はもうしばらく先であるのに、
今にもその増援が到着する、というそぶりを見せた。

そのブラフに対し、呉軍の兵はあからさまに動揺した。

    陳表陳表

陳 表「落ち着け! まだ姿を見せたわけではない!
    見えぬ敵に怯えてどうするか!」
呉 兵「しかし陳表さま、今でさえ負けそうなのに、
    敵の増援が来てしまったら、もう終わりですよ」

将たちはなんとか抑えようとするも、
一度揺らいでしまった心は戻りはしなかった。
その混乱の隙を突き、魏光、張允が強攻を掛ける。

    魏光魏光

魏 光「よし、再び強攻するぞ! 準備急げ!」
張 允「魏光、私にいい考えがある。
    先ほどのは張承に防がれてしまったが、
    今度は成功させるぞ」
魏 光「……いい考え?」
張 允「ふふふ、2隻を1隻を見せる作戦だ。
    お主は先に突っ込み、限界が来たら離脱しろ。
    私はその後ろをついていき、とどめを刺す!」
魏 光「そ、それって盾にするってことでは!?」
張 允「つべこべ言わずにゴー! うりゃああああ!」
魏 光「う、うわああああああ!!」

魏光を先頭に、二隻の闘艦は強攻をかける。
それに対し、張承がまた相対する。

呉 兵「敵艦が強攻してきます!」
張 承「焦るな!
    たった1艦だけだ、集中して矢を射るのだ!」
呉 兵「はっ!」
張 承「そうだ、そのまま射続けよ……。
    ははは、見ろ。矢をあんなに浴びれば、
    船首を反し逃げるしかないのだ」
呉 兵「は、その通りのようです。
    敵艦が回頭して……い、いや、あれを!」
張 承「なにっ!?
    離脱した艦の後ろに別な艦がいるだと!?」
呉 兵「後ろの艦は全くの無傷です!
    や、やられるううう!!」

張 允「よしっ! 決まった!
    これで明日の朝刊の一面はいただきぃぃ!」

普段の地味さを払拭するように
年甲斐もなく張允は暴れまわった。
それは魯粛艦隊の残る戦闘継続能力を
ほとんど奪うほどの攻撃であった。

    魯粛魯粛

魯 粛「駄目だ……戦力を失いすぎた。
    私の力もこの程度だったということか……。
    仕方ない、全艦に退却の準備をさせよ」
呉 兵「都督どの! 甘寧の艦隊が!」
魯 粛「ぬう……逃してはくれんかっ!」

   陳武陳武   孫朗孫朗

陳 武「我が子がいるとて手加減はせぬ!
    これで終わりだ! 突っ込めい!」
孫 朗「陳武どのに続くんだ! 行け!」

    蒋欽蒋欽

蒋 欽「恨むなよ魯粛どの……!
    完全なる勝利を掴め! 強攻!」

甘寧艦隊の強攻がとどめの一撃となった。

3万の兵を動員し戦いを挑んだ魯粛であったが、
3倍以上の兵力差をひっくり返すことは出来なかった。
部隊は完全に打ち破られ、魯粛の乗る艦も
楚軍に包囲されてしまう。

蒋 欽「あー。魯粛どの、貴殿は完全に包囲されている。
    諦めて武器を捨て、大人しく投降なされよ。
    国のお母さんは、泣いているぞー」
孫 朗「蒋欽どの? この場合、親は関係ないのでは?」
蒋 欽「まあまあ、いいから。
    さあさあ! 魯粛どの、どうなされるか!」

魯 粛「もはや、これまでか……!
    しかし、呉公より都督まで任された私が、
    今更、敵である楚軍に降ることなどはできぬ。
    ここは潔く自決を……」

魯粛は剣を抜き、それを首にあてようとする。
だがその時、一隻の闘艦が、楚軍の包囲を破り
魯粛の艦に近付いてきた。

    徐盛徐盛

徐 盛「都督どの! 今は死ぬ時ではない!
    貴方はまだ呉軍に必要な方だ!」
張 承「さあ、こちらに!」
魯 粛「徐盛、張承!?」

その闘艦はすでにボロボロになっていたが、
それでも魯粛をかっさらうように回収し、
周りを取り囲んでいる楚の艦に艦体をぶつけながら
包囲を突破していった。

蒋 欽「……やるな、徐盛。
    この囲みを突破し、魯粛どのを助けるとは」
孫 朗「追わなくてよいのですか、蒋欽どの」
蒋 欽「我らの役目は、陸口を占領すること。
    彼らを追うより、陸口を落とすのが優先されます。
    すでに陳表、太史享といった将は捕らえており、
    彼らを逃がしたとしてもさほど影響はありません」
孫 朗「そうか……そうだな。
    無理に彼らを追い詰めることもあるまい」
蒋 欽「はい」
孫 朗「……蒋欽どの。
    貴殿は以前にも増して逞しくなられましたな」
蒋 欽「そう、ですかな?
    自分ではあまりよくわかりませんが」
孫 朗「いや、確実に貴殿は大きくなっている。
    私が保証いたしましょう」

(この戦いで、蒋欽の武力は+1され86になった)

蒋 欽「……さあ、そんなことより。
    まだ陸口の攻略戦が残っておりますぞ!
    気合を入れ直していきましょう!」

なお、後に行われたこの戦いの論功行賞では、
呉軍撃破を決めた蒋欽に殊勲賞が与えられた。
また、2度の混乱を決めた李厳が敢闘賞に。
魏光を盾にしてまで自分の見せ場を作った張允は、
惜しくも選から漏れた。

張 允「な、納得いかーん!
    なぜ、私ではなく、蒋欽なのだ!」
甘 寧「……ここだけの話だが」
張 允「ん?」
甘 寧「この選は、『賞金は蒋欽に与えよう』
    というダジャレを言いたかったかららしいぞ」
張 允「な、なんと!? それは本当か!?」
甘 寧「う・そ」
張 允「〜〜〜〜〜っ!! んがあああ!!」
甘 寧「はっはっは」

そんなことはさておきや。
甘寧、朱桓、李厳の3艦隊、残存7万。
そしてそれに後続の徐庶ら4艦隊4万が合流し、
朱然の守る陸口港を激しく攻め立てた。

2万近くの守備兵を擁する陸口港であったが、
魯粛艦隊の敗戦によって士気も低下していた。
また、今回イマイチ出番のなかった鞏恋の
巻き返しの矢嵐などで大きな被害を出してしまう。
結局、10日ももたずに陥落してしまった。

楚軍は、先に捕らえた陳表、太史享と合わせ、
朱然、全綜、孫桓、孫奐、唐咨、呂拠を捕虜にした。

 陸口陥落

1年前に一度失敗した陸口攻略。
楚軍はそれを今回、成功させてみせたのだ。

もはや、水軍でも楚軍に敵うものはいない。

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