219年5月
陸口へ侵攻した楚軍の3艦隊だったが、
守る魯粛艦隊の巧妙な罠により、李厳の艦隊が
手痛い被害を受けた。
魯粛
徐盛
魯 粛「李厳隊は陣形を乱している!
他が来ないうちに潰してしまうのだ!」
徐 盛「はっ! 李厳隊に射撃を集中させよ!」
罠によって崩れた陣形は、容易には立て直せない。
魯粛は、攻撃を集中させ、1艦隊ずつ潰していくことで
少しでも勝ちに結び付けようとしていた。
だが、楚軍も黙ってみているわけではない。
董襲
董 襲「このままでは李厳隊はやられるのみだ!
彼らが陣形を立て直す時間を稼ぐぞ!
全員抜刀! 斬り込めぇぇ!!」
朱桓隊の先鋒に起用された董襲が気合を入れ、
古巣の呉軍に斬り込んでいった。
朱桓
朱 桓「よし、董襲に続け! もとより数では
上回っているのだ、怖れることはない!」
朱 異「我らも遅れを取るな!」
董襲の強攻に、朱桓、朱異の親子も呼応する。
そして……。
呉兵A「『鞏』の旗の艦が迫ってくるぞ!
例の小養由基と称される女武将の艦だろう!」
呉兵B「な、なにぃ?
あ、あの、カープの最終秘密兵器と呼ばれながら、
最後まで秘密のままで終わってしまった、
55キロの超スローカーブ、田中由基か!?」
呉兵A「違う! 小養由基だ!
弓を取ったら百発百中、剣を取っても太史慈将軍と
互角に戦ったという、あの女武将だ!」
呉兵B「ああそっちか。それくらいは知ってるぞ。
んでもって、かなりの美人だって話じゃないか。
一度でいいから姿を拝みたいと思っていたんだ」
呉兵A「お前、余裕あるな。
ちょっと下手をすりゃぶっ殺されるんだぞ」
呉兵B「はっ、別に物陰からそっと見りゃ大丈夫だろ。
俺は三度の飯より美人が好きなのさ」
呉兵A「実際美人かどうかなんてわからないだろ」
呉兵B「だから、この目で見てみるんだろうが。
ほれ、そこの陰からそーっと頭を出すんだよ」
呉兵A「……全く、なんで俺まで付き合わされるんだ」
二人は、低くしていた頭を船べりからそっと上げ、
迫る艦に乗っている人物を眺めた。
鞏志
ジャーン
呉兵B「どこが美人じゃー!?
全然違うおっさんじゃねえかー!」
鞏 志「むっ、敵兵!」
ひゅんっ……どすっ
呉兵B「ぐはっ……あ、あのおっさんも、
いい弓の腕前してるじゃねえかよ……」
呉兵A「お、おい、大丈夫か!?」
呉兵B「くっ……ど、どうせ死ぬんなら、
美人の手にかかって死にたかったぜ……ぐふっ」
鞏志の矢が胸に突き刺さり、名も無き兵士は絶命した。
鞏 志「ふう、上手く当てられたようだな」
楚 兵「お見事です。敵兵も将軍の弓の腕に怯え、
完全に及び腰になっておりますぞ」
鞏 志「……いや、私の腕というより、
何か違うものに怯えているような……。
まあいい、先頭を行く董襲どのの動きに合わせ、
我らも攻勢を強めるのだ」
楚 兵「はっ!」
鞏志も董襲の強攻に呼応し、これによって朱桓隊は
魯粛艦隊の戦力を大幅に討ち減らした。
魯粛
呉 兵「朱桓隊の強攻にて、我が方の被害甚大!
さらに同隊の留賛に矢嵐で追い討ちを受け、
3割近くもやられてしまいました!」
魯 粛「流石は元呉軍の将たち、というべきかな……。
敵に寝返ってしまったのが悔やまれる」
呉 兵「朱桓隊に攻撃を集中させましょう、都督どの!
陣を乱している李厳隊など今は捨ておくべきです」
魯 粛「くっ……確実にひとつずつ潰していくのが
上策なのだが、そうも言っていられんか……。
徐盛を先頭に、朱桓隊を攻撃せよ!」
呉 兵「はっ!」
朱桓隊の激しい攻撃に晒され、魯粛隊は主目標を
李厳隊から朱桓隊に変えざるをえなかった。
朱桓
朱 異「むっ、父上! 敵がこちらに向かってきます!」
朱 桓「こちらに攻撃目標を移したか。
よし、このまま陣形を維持! 攻撃を続行せよ!」
朱桓隊は魯粛隊とぶつかり、混戦模様となる。
そんな中、赤く目立つ朱桓の旗艦『赤髭』に、
呉軍の艦が一隻近付いてきた。
徐盛
徐 盛「……おやおや、これはこれは。
そこにおわすは朱桓ちゃんではないか。
顔を合わせるのは久方ぶりだな!」
朱 桓「むっ……徐盛か!?」
徐 盛「同期入団、そして同じ歳だということで、
お前には期待をかけていたのにな!
いつのまにか呉に弓引く立場になりおって!
見損なったぞ!」
朱 桓「くっ……や、やかましい!
私はお前のために生きているのではない!
とっとと失せろ、スカポンタンが!」
徐 盛「ほぉぉ……スカポンタンねぇ。
そーいう反抗的な態度を取っていいのかねえ?」
朱 桓「な、何がだ」
徐 盛「楚ではほとんど知られてないのだろう?
お前の最大の弱点……」
朱 桓「弱点……? なんのことだ」
徐 盛「それ、ここで喋っちまおうかなー。
どうだ、謝るなら今のうちだぞ。さあさあ」
朱 桓「はっ、弱点? そんなもの、私には……?
……ま、まさか!? あ、あのことかっ!?」
徐 盛「ブー、時間切れだ。
残念だったな、それじゃ皆に聞いてもらおうか!」
朱 桓「や、やめろーっ!」
声を上げ止めようとする朱桓だったが、
徐盛は構わず、声を張り上げた。
徐 盛「楚軍の諸君! よーっく聞くがいい!
そこにおわす、何も怖くないぜって顔してる
コワモテの朱桓将軍のことだがな!」
朱 桓「い、言うなっ! 言うなーっ!」
徐 盛「実はそいつはな!
お化けが大の苦手なんだぜ!
はーっはっは、笑っちまうだろう!?」
楚兵A「朱桓将軍が……お化けが苦手だって?」
楚兵B「何事にも動じない風の朱桓将軍が?
……なんか、夢壊れちゃったなー」
楚兵C「ああ、ああいう人に憧れてたんだけどなー」
徐盛の暴露により、朱桓隊の兵たちの士気は
軒並み下がってしまった。
朱 桓「くっ……バラされた……!
私の、私の門外不出の重大秘密がっ!」
朱 異「いや、いつかはこうなると思ってましたが。
それに門外不出というほどのものですか?」
朱 桓「うるさい! 大体、お化けが苦手で何が悪い!
お化けが得意な奴などいるのかっ!?」
朱 異「いや、私に逆ギレされましても……」
朱 桓「く、くそ、ゆ、許さん……! 許さんぞ徐盛!
全軍、総攻撃だ! 生かして帰すなっ!」
シーン
朱 桓「……おや? どうしたお前たち」
楚兵A「お化けが怖い人に言われてもねえ〜」
楚兵B「なんとなく気合入らんよな〜」
楚兵C「信頼感ゼロ〜」
朱 桓「ぐっ……!? ぐぬぬぬ……」
朱桓の命令通りに動かない敵の部隊を見やって、
徐盛は声を上げて笑った。
徐 盛「はーっはっはっは!
参ったな朱桓、それでは戦えまい!
なんとも情けない大将閣下だな、ははっ!」
朱 桓「うぬぬぬぬ……こうなれば!
貴様らっ! 命令に従わぬ者はこうだ!
でえい!」
ズバッ
楚兵C「な、なんで俺だけぇ〜」(ガクリ)
楚兵A「ひ、ひいい!? 味方の兵を斬ったあ!?」
楚兵B「な、なんて容赦のねえ人だ!」
朱 桓「こうなりたくないのなら、命令を聞けい!
さあ、攻撃せよ!」
楚兵A「は、ははー! それ、いくぞー!」
楚兵B「おおー! まだ死にたくないからなー!」
徐 盛「……ふん、味な真似を。
しかし、既に一時の勢いは失せてしまっている。
一度失った士気はそうすぐは戻らんからな……。
さあお前たち、こんな士気の下がった部隊など、
すぐに押しのけてしまうのだ!」
士気が下がった朱桓隊に対し、魯粛隊は
徐盛を先頭に攻撃を続けていった。
さて、魯粛隊が主目標を朱桓隊に変えたことで、
李厳隊はようやく陣形を立て直す機会を得る。
李厳
李 厳「陣形はちゃんと整ったか?」
楚 兵「はっ! 敵軍の攻撃が止みましたので、
なんとか立て直すことができました!
朱桓隊がひきつけてくれたお陰ですね」
李 厳「うむ……しかし、甘寧隊は何をやってるのだ。
敵は1隊だけ。3隊で集中攻撃をかければ、
楽に倒せるというのに……」
楚 兵「……甘寧隊はですね、先行しすぎた我が隊に
前を阻まれ、敵軍に近付けないのですが。
甘寧将軍も怒ってるようですよ」
甘寧
蒋欽
甘 寧「李厳ちゃん、どいて! 呉軍殺せない!」
蒋 欽「いや、無陣状態で動けないのですから、
今どけるのは無理というものでは……」
甘 寧「んがー! 無理でもどかんかー!
ぶっ殺しちゃうぞコラァ!!」
蒋 欽「ハァ……。李厳どのに伝令を!
早く動かないと味方に襲われる可能性が有り、
そう伝えよ! 急げ!」
楚 兵「……てな感じだそうです」
李 厳「そ、そりゃえらいこっちゃ。
さ、さて、陣形が整ったなら攻撃再開だ!
甘寧隊に場所を譲りつつ、敵の側面を突け!」
楚 兵「はっ!」
李厳隊は罠を受けたショックから立ち直り、
魯粛隊へ再び攻撃を仕掛ける。
李厳は一度やられたことで頭を冷やしたのか、
普段の冷静さを取り戻していた。
李 厳「落ち着け李厳……。
罠に嵌まってしまったのは、躍起になるあまり
力押しばかりを考えてしまっていたせいだ。
ここは、本来の私らしく頭を使っていくべきだ。
……敵軍を混乱させるのだ!
用意していた偽の命令書を送り込め!」
楚 兵「はっ! 承知しました!」
李 厳「混乱と同時に各将に攻撃させるのだ。
大丈夫、今からでも挽回は可能だ。
一番の軍功をいただくぞ!」
李厳の放った偽の命令は、魯粛の警戒をかい潜り
呉軍を混乱させることに成功する。
魯 粛「どうしたか、この騒ぎは!?」
呉 兵「おかしな命令により、混乱しているようです!」
魯 粛「なにっ!? どういう内容か」
呉 兵「隣りの艦と綱を引き合う勝負をしろとか、
旗を一度下ろして逆さまに付け直せとか、
尿検査をするから小便を提出しろとか……」
魯 粛「そ、そんな命令があるかっ!
そんな馬鹿げた偽の命令など、無視せよ!」
呉 兵「し、しかし、印の押された命令書は絶対だと、
都督どのが戦いの前に徹底しておられましたし。
出回っているその命令書にも、印がありまして」
魯 粛「くっ……どうやったか知らぬが、
敵は偽印を使って混乱させているようだ。
騙されないようにと採用したはずの方策が
逆に仇になってしまったか」
呉 兵「あっ、敵部隊が……!」
その魯粛隊の混乱を見て取った李厳隊が、
その隙に乗じて強攻を仕掛けてきた。
その先頭にいるのは、なんと下町娘だった。
下町娘
下町娘「よーし行っちゃうわよー! 強攻せよー!」
張 允「おお!? 下町娘どのが強攻を!?
よし、我らも続くぞ! 彼女をサポートできるのは、
荊州水軍を受け継ぐこの張允のみだ!」
魏光
魏 光「よし、私も! マッスルパワー全開ーっ!」
呉 兵「ひーっ、やられるーっ」
張 承「案ずるな! 張允の艦のみに気をつけよ!
それ以外は素人だ、適当にあしらえ!」
守りに当たった張承の指示は的確で、
この強攻での被害は最小限に食いとめられた。
下町娘「えーっ!? 勇気を出して頑張ったのにー!」
楚 兵「艦を敵艦群に突っ込ませただけで、
実際に斬り結んだりはしてないじゃないですか」
下町娘「だってそんなことしたら怪我するでしょ」
楚 兵「怪我って……。
……一体誰だよ、この人を隊に組み込んだのは」
魏 光「それは、オクレ兄さんさ!」
楚 兵「だ、誰ですかそれは!?
というか魏光将軍、自分の艦にお戻りを!」
魏 光「フフフ……、オクレ兄さんめ……。
ようやく見付けたぞ、さあ、覚悟してもらおうかぁ」
楚 兵「ひ、人違いです!
私はオクレ兄さんとかいう者ではありません!
正気に戻ってください将軍!」
魯粛
魯 粛「張承、よくやってくれた!
よし、李厳隊も朱桓隊も弱ってきている。
このまま戦線を維持できれば……」
呉 兵「都督どの! 今度はあっちから!」
魯 粛「なっ……甘寧!?
李厳隊が邪魔になっていたはずでは!?」
呉 兵「李厳隊が横へ動き、進路が開いたようです!」
甘寧
甘 寧「いやあ、ようやく道が開いたぜ!
野郎ども! 挨拶代わりにちょいと斬り込むぞ!」
孫朗
孫 朗「お供します、甘寧将軍!」
甘 寧「孫朗か。いいだろう、ついてこい!」
孫 朗「はっ!」
甘 寧「それっ、俺がキャプテン甘寧だ!
こいつはほんの挨拶の代わりだっ!
実につまらんものだが、受け取るがいい!」
孫 朗「私は呉公孫権の弟、孫朗!
もはや兄孫権の時代は終わったのだ!
それを今から証明してくれる!」
呉 兵「も、もうもたない! ぐわーっ!」
3倍もの敵を相手に善戦していた魯粛隊だったが、
この甘寧隊の強攻により、大幅に戦力を削られてしまう。
魯 粛「……残存兵力は!?」
呉 兵「既に1万を割り込んでおります!
都督どの、ここは陸口への撤退を……」
魯 粛「ならん! 今戻っては、陸口は確実に落される!
なんとか今少し、時間を稼がねばならんのだ!」
呉 兵「しかし……」
太史享「都督どの、こちらにおられましたか!」
魯 粛「どうした太史亨、何か変事でも?」
太史享「それが、敵の情報を掴んだのですが……。
烏林より、また新たな艦隊が出撃し、
こちらに向かってきているとのことです!」
魯 粛「な、なに? ここにきて新しい戦力が……!?」
☆☆☆
少し時間は遡り、陸口近くで楚呉が戦い始めた頃。
烏林では、新たな艦隊が続々と出港していた。
金旋
金玉昼
金 旋「気をつけてなー」
金玉昼「あーい、陸口で待ってるにゃ〜(ぶんぶん)」
徐庶、金満、魯圓圓、黄祖を大将に、
それぞれ1万の兵を率いて出撃していった。
機動力のある蒙衝を中心に構成している。
なお、副将の配置はこのようになっている。
○徐庶隊(凌統・孟達・馬良・張常)
○金満隊(黄射・楊儀・馬謖・周倉)
○魯圓圓隊(雷圓圓・孔奉・孫匡・伊籍)
○黄祖隊(金玉昼・蔡和・蔡中・劉綜)
一部の将は、江夏や泪羅などから呼び寄せられた者で、
水軍の扱いには定評のある者たちだった。
それぞれの艦隊は速度を上げ、江を下る。
そのひとつ、黄祖艦隊の旗艦では……。
黄祖
金玉昼
黄 祖「いやあ、船の上というのはやはりいいもんじゃ。
……しかし、軍師も見る目があるのう」
金玉昼「は? 何が?」
黄 祖「そうトボケんでもいいわい。
泪羅にいたワシをわざわざ呼び寄せ、
こうやって艦隊を率いさせておるではないか。
戦いを決するための最終戦力として期待している、
ということであろうが」
金玉昼「はあ……まあ、水軍の得意な人を集めて、
それが呉軍に対するプレッシャーとなれば
いいかなーとは思ったけど。
でも別に特定の誰かに期待してるわけでは……」
黄 祖「はっはっは、そう照れんでもよいわ」
金玉昼「照れてないにゃ!」
黄 祖「まあ、我が息子の黄射、蔡和や蔡中といった
大して役に立ちそうもない奴らに対し、
活躍の場を与えてくれるのはありがたいと思うぞ」
金玉昼「(自分を含めないあたりが図々しいにゃ……)」
黄 祖「他にも徐庶や金満、魯圓圓といった実力者を
大将にして部隊を組んである。
先行の部隊と合わせて見れば、まさに最強!
この軍とまともにやりあえる敵はおるまい。
言わば、この戦い……詰んでる!」
金玉昼「……ツンデレ?」
黄 祖「そーそー、いつもはツンツンしているけど
二人きりになるとデレデレいちゃつくような……
って違うわ!!」
金玉昼「ウチで言うなら恋ちゃんあたりかにゃー」
黄 祖「いや、あれはツンデレとはちょっと違う……
だからツンデレの話はもういいわい」
金玉昼「まあ、どうせ陸口を落した後に烏林から
兵力の移動をしなくちゃならないんだから、
だったら後続部隊として投入してもいいかにゃー、
と思っての戦略だにゃ。実際に戦わせるよりは、
プレッシャーを掛ける意味合いの方が強いにゃ」
黄 祖「フフフ、その呉軍へのプレッシャー、
この黄祖がいることで数倍にもなろうぞい」
金玉昼「(せいぜい一割増しくらいだと思うにゃ〜)」
☆☆☆
再び陸口。
金玉昼ら後続の増援部隊の情報を、
戦いに最大限に利用したのが李厳だった。
李厳
李 厳「フフ、これは使えるぞ」
彼はまずこの増援の情報を、わざと呉軍へ流した。
そして、実際の到着はもうしばらく先であるのに、
今にもその増援が到着する、というそぶりを見せた。
そのブラフに対し、呉軍の兵はあからさまに動揺した。
陳表
陳 表「落ち着け! まだ姿を見せたわけではない!
見えぬ敵に怯えてどうするか!」
呉 兵「しかし陳表さま、今でさえ負けそうなのに、
敵の増援が来てしまったら、もう終わりですよ」
将たちはなんとか抑えようとするも、
一度揺らいでしまった心は戻りはしなかった。
その混乱の隙を突き、魏光、張允が強攻を掛ける。
魏光
魏 光「よし、再び強攻するぞ! 準備急げ!」
張 允「魏光、私にいい考えがある。
先ほどのは張承に防がれてしまったが、
今度は成功させるぞ」
魏 光「……いい考え?」
張 允「ふふふ、2隻を1隻を見せる作戦だ。
お主は先に突っ込み、限界が来たら離脱しろ。
私はその後ろをついていき、とどめを刺す!」
魏 光「そ、それって盾にするってことでは!?」
張 允「つべこべ言わずにゴー! うりゃああああ!」
魏 光「う、うわああああああ!!」
魏光を先頭に、二隻の闘艦は強攻をかける。
それに対し、張承がまた相対する。
呉 兵「敵艦が強攻してきます!」
張 承「焦るな!
たった1艦だけだ、集中して矢を射るのだ!」
呉 兵「はっ!」
張 承「そうだ、そのまま射続けよ……。
ははは、見ろ。矢をあんなに浴びれば、
船首を反し逃げるしかないのだ」
呉 兵「は、その通りのようです。
敵艦が回頭して……い、いや、あれを!」
張 承「なにっ!?
離脱した艦の後ろに別な艦がいるだと!?」
呉 兵「後ろの艦は全くの無傷です!
や、やられるううう!!」
張 允「よしっ! 決まった!
これで明日の朝刊の一面はいただきぃぃ!」
普段の地味さを払拭するように
年甲斐もなく張允は暴れまわった。
それは魯粛艦隊の残る戦闘継続能力を
ほとんど奪うほどの攻撃であった。
魯粛
魯 粛「駄目だ……戦力を失いすぎた。
私の力もこの程度だったということか……。
仕方ない、全艦に退却の準備をさせよ」
呉 兵「都督どの! 甘寧の艦隊が!」
魯 粛「ぬう……逃してはくれんかっ!」
陳武
孫朗
陳 武「我が子がいるとて手加減はせぬ!
これで終わりだ! 突っ込めい!」
孫 朗「陳武どのに続くんだ! 行け!」
蒋欽
蒋 欽「恨むなよ魯粛どの……!
完全なる勝利を掴め! 強攻!」
甘寧艦隊の強攻がとどめの一撃となった。
3万の兵を動員し戦いを挑んだ魯粛であったが、
3倍以上の兵力差をひっくり返すことは出来なかった。
部隊は完全に打ち破られ、魯粛の乗る艦も
楚軍に包囲されてしまう。
蒋 欽「あー。魯粛どの、貴殿は完全に包囲されている。
諦めて武器を捨て、大人しく投降なされよ。
国のお母さんは、泣いているぞー」
孫 朗「蒋欽どの? この場合、親は関係ないのでは?」
蒋 欽「まあまあ、いいから。
さあさあ! 魯粛どの、どうなされるか!」
魯 粛「もはや、これまでか……!
しかし、呉公より都督まで任された私が、
今更、敵である楚軍に降ることなどはできぬ。
ここは潔く自決を……」
魯粛は剣を抜き、それを首にあてようとする。
だがその時、一隻の闘艦が、楚軍の包囲を破り
魯粛の艦に近付いてきた。
徐盛
徐 盛「都督どの! 今は死ぬ時ではない!
貴方はまだ呉軍に必要な方だ!」
張 承「さあ、こちらに!」
魯 粛「徐盛、張承!?」
その闘艦はすでにボロボロになっていたが、
それでも魯粛をかっさらうように回収し、
周りを取り囲んでいる楚の艦に艦体をぶつけながら
包囲を突破していった。
蒋 欽「……やるな、徐盛。
この囲みを突破し、魯粛どのを助けるとは」
孫 朗「追わなくてよいのですか、蒋欽どの」
蒋 欽「我らの役目は、陸口を占領すること。
彼らを追うより、陸口を落とすのが優先されます。
すでに陳表、太史享といった将は捕らえており、
彼らを逃がしたとしてもさほど影響はありません」
孫 朗「そうか……そうだな。
無理に彼らを追い詰めることもあるまい」
蒋 欽「はい」
孫 朗「……蒋欽どの。
貴殿は以前にも増して逞しくなられましたな」
蒋 欽「そう、ですかな?
自分ではあまりよくわかりませんが」
孫 朗「いや、確実に貴殿は大きくなっている。
私が保証いたしましょう」
(この戦いで、蒋欽の武力は+1され86になった)
蒋 欽「……さあ、そんなことより。
まだ陸口の攻略戦が残っておりますぞ!
気合を入れ直していきましょう!」
なお、後に行われたこの戦いの論功行賞では、
呉軍撃破を決めた蒋欽に殊勲賞が与えられた。
また、2度の混乱を決めた李厳が敢闘賞に。
魏光を盾にしてまで自分の見せ場を作った張允は、
惜しくも選から漏れた。
張 允「な、納得いかーん!
なぜ、私ではなく、蒋欽なのだ!」
甘 寧「……ここだけの話だが」
張 允「ん?」
甘 寧「この選は、『賞金は蒋欽に与えよう』
というダジャレを言いたかったかららしいぞ」
張 允「な、なんと!? それは本当か!?」
甘 寧「う・そ」
張 允「〜〜〜〜〜っ!! んがあああ!!」
甘 寧「はっはっは」
そんなことはさておきや。
甘寧、朱桓、李厳の3艦隊、残存7万。
そしてそれに後続の徐庶ら4艦隊4万が合流し、
朱然の守る陸口港を激しく攻め立てた。
2万近くの守備兵を擁する陸口港であったが、
魯粛艦隊の敗戦によって士気も低下していた。
また、今回イマイチ出番のなかった鞏恋の
巻き返しの矢嵐などで大きな被害を出してしまう。
結局、10日ももたずに陥落してしまった。
楚軍は、先に捕らえた陳表、太史享と合わせ、
朱然、全綜、孫桓、孫奐、唐咨、呂拠を捕虜にした。
1年前に一度失敗した陸口攻略。
楚軍はそれを今回、成功させてみせたのだ。
もはや、水軍でも楚軍に敵うものはいない。
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