○ 第四十四章 「親と子の情縁」 ○ 
219年4月

219年、夏。場所は烏林港。
金旋は緒将を集め、陸口攻略部隊の派遣を表明した。

   金旋金旋   甘寧甘寧

金 旋「……というわけで、陣立ての内容は以上だ」
甘 寧「ちょ、ちょっと待ってくだされ。
    CMの間に全部済ませないでいただきたい!」
金 旋「CMに気を取られて聴いてなかったのか?
    しょうがないな、じゃあコレ見れ。
    これが今回の陣立ての内容だ」

○第1闘艦隊 甘寧(旗艦『王虎』) 3万
 副将:蒋欽、陳武、孫朗、厳峻

○第2闘艦隊 朱桓(旗艦『赤髭』) 3万
 副将:董襲、留賛、朱異、鞏志

○第3闘艦隊 李厳(旗艦『人狼』) 3万5千
 副将:鞏恋、魏光、下町娘、張允

    徐庶徐庶

徐 庶異議ありぃぃぃ!
金 旋「なんだ、やぶからぼうに」
徐 庶「闘艦『人狼』は、俺に下賜されたはずでは!?
    それがなんで李厳の旗艦になってるのか、
    そこの説明をお願いする!」
金 旋「別にくれたわけじゃないぞ。預けただけだ。
    艦船は全部、軍の財産だからな。
    大体、お前個人では闘艦使えないだろ」
徐 庶「むむ……。そ、それじゃ、
    今回の陣立てから俺が外された理由は?
    甘寧や朱桓を入れるのはまだ理由は分かる。
    彼らは水軍のスペシャリストだからな……。
    しかし、李厳が入って俺が入らないというのは、
    どうにも納得いかないんだが」
金 旋「……先の会戦では、李厳に損な役回り
    (徐庶隊の露払い役)をさせてしまったからな。
    今回のこの先陣役はその埋め合わせだ。
    そういう訳で、今回は李厳に譲ってくれい」
徐 庶「むう……そういうことなら、仕方ない」
金 旋「そういう訳だから、李厳も大いに励めよ」

    李厳李厳

李 厳「は……ははっ! この李厳、
    閣下の温情に必ずや報いてみせます!」
金 旋「あー、そんなに気負う必要はないぞ。
    さて、これで陣立てに関しては問題は……」

    下町娘下町娘

下町娘「いいえっ、問題大ありです!」
金 旋「なんだ、今度は町娘ちゃんか」
下町娘「な、なんで私の名前が入ってますか!?
    もう秘書役からはお払い箱なんですか〜!?」
金 旋「おい、なんでそうなる……」
下町娘「だってぇ〜。金旋さまが出撃しないのに、
    私が出撃だなんてぇ〜」
金 旋「あー、今回町娘ちゃんを組み込んだのはだな、
    鞏志もそうだが、治療兵法を持っているからだ。
    水軍での戦闘は兵士がやられやすいから、
    治療持ちを入れて少しでも消耗を抑えよう、
    と考えたんだよ」
下町娘「ううっ、そうなんですかぁ。
    私を外して別な若い娘を入れようとかは
    思ってたりしません?」
金 旋「思わんって。『もう少し頭が良ければなあ』とは
    思うこともあるが、替えるつもりはない」
下町娘「よかったー。厄介払いかと思っちゃいましたよ。
    そうだとしたら、もう、私生きてられない……」
金 旋「(……そ、そこまで俺のことを思っているのか?
    以前華佗の言っていたことは本当なのか!?)」
下町娘「何しろ、豪華ピチピチ美容クリーム(金粉入り)
    なんてものを分割払いで買っちゃいましたから〜。
    収入なくなるとローンが払えませんからね」
金 旋「……あ、そう。そうですか。
    はいはい、そりゃあ大変だぁね……。
    活躍次第でボーナスも出るから、頑張ってくれや」
下町娘「はい、頑張りますよぉー」

    金玉昼金玉昼

金玉昼「話もまとまったみたいだし、
    それじゃ、各自準備を始めてもらうにゃ」
金 旋「うむ。勝利を得ればよかった前回とは違い、
    今回は陸口を完全に奪い取るという明確な
    戦略目的がある。
    戦力比では有利であっても油断するなよ!
    ひとつの綻びから作戦全体が破綻することも
    有り得るからな! 気合を入れていけ!」

 『オオー!』

烏林より、3部隊、9万5千の楚軍艦隊が出撃。
1年前、陸口の奪取を図るも、呉軍の猛反撃を受け
失敗したその借りを今、返す時が来た。

    ☆☆☆

 烏林→陸口

楚の艦隊は烏林を出、陸口に向け江を降る。
その途上のこと。

   蒋欽蒋欽    董襲董襲

蒋 欽「おや、董襲どの? 朱桓艦隊にいるはずでは?」
董 襲「おお蒋欽。
    いや、まだ陸口につくまでは時間があるし、
    少しばかり陳武と話でもしようかと思ってな」
蒋 欽「なるほど……。
    お二人は、楚軍では初めての戦いですからな。
    陳武どのなら、そちらの部屋におるはず」
董 襲「うむ、すまんな」

董襲は蒋欽が示した部屋へと入っていった。

董 襲「おう陳武、邪魔……する……ぞ!?」

    陳武陳武

陳 武「これは董襲どの。……どうされました?
    鳩が豆マシンガンを食らったような顔ですが」
董 襲「い、いやお前、顔が少し前と変わってないか?
    顔の色まで変わって……」

    陳武Before → 陳武After

陳 武「あ、この顔色の方が地です。
    以前は少しばかり白粉を塗っておりました」
董 襲「なして?」
陳 武「いや、人とは少しばかり違いますので、
    そういう面で目立つのもどうかと思い……」

陳武、字は子烈。廬江郡松滋の人。
演義には黄色い顔に赤い瞳だという記述がある。

董 襲「……で、今は素にしておる理由は?」
陳 武「楚軍には特異な方々が多いようですし、
    別に顔の色など気にすることもないかと。
    そう思うようになったのです」
董 襲「ふむ……確かにそうだな。
    赤い髪にしている奴とか、変なヒゲの奴もいる。
    江夏には角の生えてる奴とかもおるしな」

    甘寧甘寧

甘 寧誰が変なヒゲだコラァァァ!!
董 襲「おわあああ!?」

いきなり甘寧が乱入し、董襲は驚きの声を上げた。

甘 寧「お前か、俺のヒゲを変だと言った奴は!?
    殿が愛してやまない俺のヒゲを!(※)」

(※ 金旋は別に愛してなんていない)

董 襲「い、いやいや、私が変と言ったのはだな、
    ヒゲではなくて、えーと、ゲイだゲイ!
    つまり江夏にいるオカマの蛮望のことで!」
甘 寧「む、そうなのか……? 勘違いか。
    すまなかったな、いきなり怒鳴りこんで。
    それでは失礼する」
董 襲「は、はあ」

風のように甘寧は部屋から出ていった。

陳 武「……董襲どの、甘寧将軍のヒゲのことは
    あまり口にしないほうがよろしいかと。
    どうなってるかはさっぱり分かりませんが、
    どんな時でもすぐに飛んできますので」
董 襲「う、うむ、わかった。
    ……しかしヒゲといえば、お主のヒゲだ。
    以前はヒゲを生やしてなかったであろう。
    それも心境の変化からか?」
陳 武「あ、これは、勧誘を受けたもので」
董 襲「勧誘……?」
陳 武「はあ、パンフレットをいただいたのです。
    『貴殿もヒゲを生やして貫禄のある将軍に!』
    とそれにあったので、若輩に見られがちな私も
    少し貫禄をつけようかと思いまして」
董 襲「ふうん。私はそんな勧誘は受けておらんがな」
陳 武「ヒゲの似合う男を中心に誘っているとか、
    そんなことを言っておりましたな」
董 襲「むう……何か悔しいな。
    私はヒゲが似合わんということか。
    まあ、確かにお主は似合っているが……」
陳 武「ありがとうございます。
    ヒゲ友の会の会費50金は痛い出費でしたが」
董 襲「ちょっと待て。50金!?
    ちょっと高すぎないかその会費は!?」
陳 武「私も少し高いかなとは思いましたが、
    特典としてヒゲトリートメントがもらえますし。
    何よりヒゲの良さを天下に知らしめるためと
    言われれば、しょうがないかなと……」
董 襲「そ、それは悪徳商法というのではないか?」
陳 武「……そうなのでしょうか?
    ヒゲに対する熱意は本物ではありましたが」
董 襲「お主……人がいいにも程があるぞ」

陳武は思いやりがあり、気前も良かった。
あまりに気前が良すぎたのか、彼が死んだ時、
彼の家には財産はほとんどなかったという。

その頃、柴桑南部にある楚軍の高昌陣。
霍峻が建設し、先ごろ完成したこの陣に、
泪羅に駐屯していた髭髯龍らが移動してきていた。

 高昌

   髭髯龍髭髯龍  髭髯豹髭髯豹

髭髯龍「流石霍峻どのだな。
    簡単ではあるが、よい施設に仕上げられた」
髭髯豹「ああ、俺らが突貫で作った泪羅の櫓よりも
    いいくらいだな。……おやっ?
    ところで黄祖の大将は? 姿が見えんが」
髭髯龍「……ん? お前、泪羅を出てくる時に
    話を聞いてなかったのか?」
髭髯豹「話? なんか言ってたか?」
髭髯龍「やれやれ、全然聞いていなかったのか。
    黄祖様は、烏林に向かわれたのだ」
髭髯豹「烏林? なんでまた。
    なんかやらかしたのがバレて召還されたとか?」
髭髯龍「閣下から呼び出しを受けたのは確かだが、
    黄射どのや楊儀、馬良、馬謖といった方々も
    同時に呼ばれているようだったぞ。
    悪いことで召還されたわけではなさそうだ」
髭髯豹「ふーん」
髭髯龍「黄祖様は『この機会を利用して、新しく入った
    新顔たちに髭神の教えを説いてくるぞ』
    と大層張り切っておられた」
髭髯豹「教えを説くのは大いに結構だけどな。
    どうも高い会費を取ってたりするらしいぜ」
髭髯龍「うむ……私もそれが心配だ。
    教化に見せかけた違法商法と取られては困る。
    黄祖様にはもう少し控えていただきたいが……」
髭髯豹「人の話きかねーからな、あの人」
髭髯龍「お前ほどではないと思うがな」

黄祖の勧誘のことはともかくとして。
黄祖や馬良らは金旋に呼ばれ、烏林に向かった。
これが何を意味するのか。それは後に明らかになる。

    ☆☆☆

一方の呉軍領、陸口では。
10万近くの楚軍が侵攻中とすでに報告が入っており、
都督の魯粛が悲愴な顔つきで防衛準備を進めていた。

   魯粛魯粛   徐盛徐盛

魯 粛「……おや、徐盛どのではないか。
    どうされた、そちらの準備は終わったか?」
徐 盛「都督殿……。
    ここは我らに任せ、柴桑に向かわれよ。
    何も都督殿自らが防衛に当たることはない」
魯 粛「いや、徐盛。
    ここを抜かれれば、柴桑などすぐに奪われる。
    呉の命を永らえさせるには、なんとしても
    ここで楚軍を食いとめねばならんのだ」
徐 盛「しかし、あまりにも勝ち目は薄いですぞ。
    都督殿はご主君より揚州全体を任されている。
    ここで捕まるようなことがあれば、何とされる」
魯 粛「すでに魏軍によって寿春も奪われた。
    またここにきて陸口、柴桑を奪われるのなら、
    私が都督を務める意味などないよ」
徐 盛「しかし……」
魯 粛「徐盛どの、それ以上は無用である。
    今は迫る楚軍をどう防ぐか、それのみを考えよ。
    おそらく、これまで貴殿が経験した以上の
    辛い戦いとなるだろうからな」
徐 盛「は……分かりました」

魯粛は港に残る兵のうち3万を動員し、
楚艦隊に対抗する迎撃艦隊を組織した。
闘艦中心のこの艦隊の大将は魯粛自らが務め、
徐盛、張承、太史享、陳表が副将としてついた。

魯 粛「張承、そして太史享。
    君たちの父、張昭どの、太史慈どのは
    呉の重鎮として偉大な功績を挙げた方々だ。
    その父君の名に負けぬ働きを期待する」

張 承「はっ! お任せあれ!」
太史享「期待に応えられるよう、頑張ります!」

魯 粛「そして陳表。君の父である陳武は、
    今回楚軍の将として参加しているとのこと。
    まだ若い御身には辛かろうが、これも国のため。
    お主の智、呉のために貸してくれ」

   陳表陳表

陳 表「いえ、私は陳武の子である前に呉の将です。
    そのようなお気遣いは無用にございます。
    裏切り者の父の首を挙げ、ご主君への忠誠を
    お見せいたします」
魯 粛「よく言った、陳表。期待しているぞ。
    よし、それでは艦隊を出撃させるぞ」

陸口を出撃した魯粛の艦隊は、楚艦隊に対して
まっすぐは向かわず、港から少し離れた位置の、
入り江になっている所に艦隊を集結させる。

 陸口魯粛艦隊

その後、烏林方面から楚軍艦隊はやってきた。
やがて集結している魯粛の艦隊を見つけ、
甘寧はどうしたものかと思案に暮れた。

   甘寧甘寧   蒋欽蒋欽

甘 寧「魯粛という男、食えん奴だな。
    正面から当たってくるわけではなく、
    ああやってこちらの出方を見ていやがる」
蒋 欽「よくわかりませんな。港を守るのならば、
    こちらが港に近付く前に先制攻撃を仕掛け、
    港に害が及ばぬようにするべきでしょう。
    港を出ておきながらなぜあのように守りを固め、
    仕掛けてこないのでしょうか」
甘 寧「こちらは9万5千、あちらは3万強。
    3倍もの兵力差があるんだ。
    普通の戦い方では勝てないということさ」
蒋 欽「……我々に勝つ策が、魯粛どのにはあると?」
甘 寧「さてな……。まあ、少なくとも、
    より上手く戦おうとしてるのは確かだ。
    あの配置では、こちらが包囲するのは難しい。
    つまり、圧倒的な兵力比の差を、少しでも
    埋めようとしているわけだな」
蒋 欽「……あちらから攻めてこぬのならば、
    無視して陸口に向かうのはどうでしょう?」
甘 寧「そうすると、背後から襲われるな。
    ま、こちらの3艦隊のうち、1つだけ戦わせ、
    他は陸口に向かうという手もあるが……」
蒋 欽「港の攻略こそがこの戦いの最終目的です。
    そうするのが一番良いと思いますが」
甘 寧「しかしな。
    この戦いで全てが決するわけじゃないんだ。
    敵の戦力は削れる時に削っておくべきだろう。
    ……朱桓、李厳艦隊に伝達せよ!
    魯粛艦隊を討つぞ!」

甘寧は、朱桓・李厳の隊に攻撃の指示を出した。
この戦いに先立ち、金旋は全体の意志を統一すべく、
甘寧に一応の指揮権を持たせていたのである。

    朱桓朱桓

朱 桓「魯粛艦隊を倒しにかかるか。
    甘寧どのはやはり見逃しはしなかったな。
    その溢れる覇気こそが彼の今までの武勲に
    繋がっているのであろう」
朱 異「父上も負けておれませんな」
朱 桓「ふん、この父を見損なうな。
    いつまでも甘寧どのの下にいるつもりはない。
    魯粛どのには悪いが、ここで甘寧どのを超える
    武勲を稼がせてもらうとするか。
    ……艦隊、前進だ」

派手な武勲を稼げる艦隊戦は、更に高みを目指す
朱桓にとっても願ったり叶ったりであった。

一方の李厳も、嬉々として艦隊に指示を飛ばす。

    李厳李厳

李 厳「攻撃か、甘寧どのも分かっているじゃないか。
    よし、全艦、敵艦隊に向け前進せよ!
    前回捕まった汚名、ここで晴らす!」

   鞏恋鞏恋   魏光魏光

魏 光「李厳将軍、張り切ってますね」
鞏 恋「前回もあんまり張り切り過ぎたせいで、
    結局やられちゃったんだけどね」

呉軍艦隊はすでに迎え撃つ準備は整っていた。
魯粛は、迫る楚軍艦隊を睨みつける。

魯 粛「全艦隊で向かってきたか。
    我々にとっては一番いい形になったな」
徐 盛「はっ。我らが戦い続けている間は、陸口は
    無事であり続けるということですからな。
    後は、如何に戦い続けることができるか」
魯 粛「さあ、来るがいい……!
    我らを選んだその選択、必ず後悔させてやる」

戦いの火蓋は切って落とされた。

    ☆☆☆

その頃の烏林。
先の戦いで楚軍に捕まった周泰の返還を願い、
張温が使者として訪れていた。

    金旋金旋

張 温「周泰は呉にとってかけがえのない将。
    どうか、返還をお願い致します」
金 旋「ただで返せとは言わんだろう?
    古錠刀くらいは寄越してもらいたいものだが」
張 温「はい。それくらいの要求は覚悟しておりました。
    周泰が帰ってくるなら、孫権さまも喜んで古錠刀を
    お渡しになられましょう」
金 旋「じゃあ成立ってことで。
    ……しかし、ちょっと時期が遅かったな。
    もう少し早く来れば、間に合ったかもしれんのに」
張 温「は? 間に合う……とは?」
金 旋「今頃始まっている、陸口での会戦だ。
    周泰が戻っていれば、若干でもマシな戦いになるかと
    思ったんだがなー」
張 温「な、なんと、陸口で戦いが!?
    まさか、そんなことになっているとは!
    そ、楚王! この戦い、どうにか……」
金 旋「おっと、戦いをやめるのは捕虜交換とは別だ。
    それにそんな権限、お前には与えられてないだろ」
張 温「くっ……た、確かに……。
    で、では、これにて失礼いたします!
    は、早く、ご主君のお耳にこのことを……」
金 旋「古錠刀を忘れんなよー」
張 温「後で必ず届けさせます! ご安心を!」

張温は早足で出ていった。
それを見届け、物陰から金玉昼が姿を見せる。

    金玉昼金玉昼

金玉昼「これでいいにゃ。
    孫権がこのことを知れば、陸口へ増援の兵を送って
    なんとか落されるのを防ごうと考えるはずにゃ」
金 旋「……いいのか、本当にそれで?
    陸口を落とすのが今回の目的なんだろうが。
    やってることがなんか矛盾してないか?」
金玉昼「いいのにゃ、これで。
    今回は、敵軍がいくら来ても勝てるように
    戦略を立てていまひる。全く問題ないにゃ」
金 旋「俺は心配だがな……。
    先陣で行った連中がコケる可能性だって
    ないわけじゃないんだし……」
金玉昼「ま、その保険は用意してあるんだけどにゃ。
    そのための例の召還命令にゃ」
金 旋「黄祖らを呼んだのが、そうなのか?
    こう言っちゃなんだが、黄祖を呼んでまで使うほど
    ここの将が足りないとは思わんが……」
金玉昼「ま、それは黙って見ててほしいにゃ。
    さて、先陣はどんな戦いをしてるのかにゃー」
金 旋「できれば俺としては、あいつらには保険が
    要らないような勝ちを上げてほしいんだがな〜」

    ☆☆☆

陸口で始まった楚呉の会戦。
まず、先行したのは李厳艦隊だった。

    李厳李厳

李 厳「甘寧・朱桓艦隊より先んじるぞ!
    全速で突き進み、一番槍を上げるのだ!」

李厳は気がはやるあまり、艦隊の速度を上げて
他艦隊に先んじて入り江に入っていこうとする。

 李厳先行

   甘寧甘寧   蒋欽蒋欽

甘 寧「……普段冷静な李厳らしくないな。
    独断専行するのはどこかの誰かさんの
    専売特許かと思っていたが」
蒋 欽「自重するよう伝達しますか?」
甘 寧「いや、いい。
    俺が任されてるのは大まかな目標設定で、
    どう戦うかは各隊の大将の領分だからな」
蒋 欽「は、わかりました」

その時、彼らのそばにいた陳武が
魯粛隊を見て何かに気付いた様子を見せた。

    陳武陳武

陳 武「……あれは」
甘 寧「どうした陳武? 何かあったか」
陳 武「敵艦隊に陳表が……私の息子がおります」

魯粛隊の艦にたなびく陳の旗を指差して
陳武はそう言った。

甘 寧「息子がいる? そりゃあ気の毒ではあるが、
    だからといって手を抜くわけにはいかんぞ」
陳 武「いえ、そういう意味ではありません。
    陳表は武辺者の私に似ず、智謀に優れた男。
    あやつが敵艦隊にいるのならば、敵は何か、
    策略を用意しているということでしょう。
    十二分に警戒なさりますよう」
甘 寧「……親バカだなお前。自分の子だからって
    ちょっと贔屓目が過ぎるんじゃないか」
陳 武「いや、これは贔屓などでは……」

二人がそんなやり取りをしている間に、
李厳隊は魯粛隊に攻撃を仕掛け始めた。

李 厳「さあ、一気に蹴散らしてしまえ!」

李厳の檄で先陣の艦群が突っ込んでいく。
……しかし次の瞬間、何が起こったのか
その魯粛隊に接近した艦群は突如進行を止め、
底が抜けた桶のように全て沈んでいった。

李 厳「な、なんだ!? 何が起こっている!?」
楚 兵「逆茂木(さかもぎ)です!
    敵艦との間に逆茂木がいくつもあり、
    近付くと船底に大穴が空いてしまいます!
    沈んでいる艦は全てそれでやられてます!」
李 厳「な、なんだと!?
    くそっ、どこに目をつけている!
    それくらい、近付く前に気付けんのか!」

   魯粛魯粛   徐盛徐盛

魯 粛「……バカな奴らだ。全速で来すぎたため、
    逆茂木に気付けなかったようだな」
徐 盛「陳表の罠設置の巧みさもありましょう。
    いずれにせよ、これで機先を制しました」
魯 粛「うむ、銅鑼を鳴らせ!
    この隙に、敵艦隊に強攻をかける!」

 ジャーンジャーン

李 厳「げえっ!? 敵艦隊が迫ってくる!?
    なぜだ、敵艦に逆茂木は刺さらないのか!?」
楚 兵「敵は逆茂木のないところを縫うようにして
    移動しているようであります!
    おそらく配置場所をあらかじめ憶えているのかと」
李 厳「くそっ……してやられた!
    ずっと動かずにいたのは、こういうことだったのか!」
楚 兵「敵艦隊、突っ込んできます!」
李 厳「応戦! 応戦せよ!」
楚 兵「ダメです、隊が混乱して指示が届きません!」

罠と、その混乱に乗じた魯粛艦隊の強攻。
これにより、開戦前は3万5千の兵がいた李厳隊は、
そのうち実に4割もの戦力を失ってしまった。

甘 寧「……なんてこった。
    用意周到に罠を仕掛けてやがったのか。
    陳武、これもお前さんの息子の仕業か?」
陳 武「ええ、あの子は昔からこの手の罠は大得意で。
    私もあやつが仕掛けた罠に何度も掛かって
    落とし穴に落ちたり、頭から肥を被ったりしました」
甘 寧「どういう親子だよ」
陳 武「……立派になったものだ、陳表。
    早世した陳脩の分も頑張ってくれよ……」
甘 寧「あーもう、この親バカが!
    その立派な息子は今は敵なんだよ!」

いきなり大きな被害を受けた楚軍。
魯粛の艦隊は、そして陸口の攻略はどうなるのか。

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