○ 第四十〇章 「フォースを信じるのだ」 ○ 
219年3月

3月上旬、江夏郡夏口。
陸口では李厳・徐庶の艦隊が呉軍と戦っていた頃。

孫尚香の率いる2万の軍勢が廬江より発し、
夏口港に近付いて来ていた。
また、その後ろには程普の隊2万が続く。

 孫尚香&程普
 (孫尚香隊:劉備)
 (程普隊:太史慈・関興・関平・陸凱)

先に金閣寺隊を撃破してその負傷兵を取り込み、
廬江の戦力は増えており、将たちの鼻息は荒かった。
そのため、烏林から陸口へ艦隊が出たと聞くと
『夏口から陸口に向けて部隊を出させない』
という名目で今回の攻撃が提案、承認され、
こうして出撃に至っていたのである。

   孫尚香孫尚香  劉備劉備

劉 備「私はあまり気乗りしませんなあ」
孫尚香「何が」
劉 備「我々が攻めずとも、夏口から軍は出ませんよ。
    名目からして意味のない戦いだ。
    戦力を無駄遣いせず、温存しておくべきと
    私は思いますがなぁ」
孫尚香「出してこないとは限らない。
    夏口の余剰戦力を、陸口の決戦用に投入する
    可能性は十分ある。
    ……軍議の際に散々言われていたでしょう」
劉 備「言ってはいましたがね。どれだけ本気で
    皆がそう思ってるのかは疑問ですな。
    ただ戦いたいだけなんじゃないかと。
    その理由づけに陸口のことを持ち出してるだけ
    ではないかと、そう勘ぐりたくもなりますなあ」
孫尚香「最終的な判断は私が下している。
    つまり、この作戦に文句を言うということは、
    それは私に文句を言っているのと同じだが?」
劉 備「いやいや、文句など言っておりませなんだ。
    ただ、気乗りしないと言ってるだけでね」
孫尚香「ふん、だったら黙ってなさい。
    ……全く、お主と話していると調子が狂う!
    戦い前に気合を入れておきたいのに!」
劉 備「おっと、それは失礼致した。
    ぜひ気合を入れておいてくだされ。
    気合の入ったお顔も好きですからなぁ」
孫尚香「な、な、なにをっ」

呉 兵「御大将! 楚軍が現れました!
    夏口から魏延隊3万に金閣寺隊2万、
    合計5万の軍勢です!」

 魏延&金閣寺
 (魏延隊:金目鯛・蛮望・刑道栄・費偉)
 (金閣寺隊:金胡麻・公孫朱・張苞・卞質)

劉 備「おいでなすったか。それも、本気のようだ」
孫尚香「兵は5万……。前のように出し惜しみはせず、
    戦力を集中して一気に打ち破るつもりか」
劉 備「前回こちらが攻めた時のような小細工は、
    今回はないのだろう、と見ておるのでしょうな。
    事実、寿春から兵を出せるような余裕は
    ありませんからな」
孫尚香「くっ……我が隊だけでは絶対的に不利だ。
    防御に重点を置き、兵力の損耗を防げ!
    程普隊が来るまで持たせるのだ!」

燈艾は、前回とは違い、戦力の集中運用を図り、
後続の程普隊が合流する前に一気に孫尚香隊を
打ち破る作戦を採った。

魏延隊、金閣寺隊が孫尚香隊に襲いかかり、
安陸城塞からも援護の矢が飛ぶ。

だが、そうはさせじと孫尚香隊も堪えようとする。
安陸城塞からの弩斉射を防ぎ、金閣寺隊の
金胡麻・金閣寺の騎射連携攻撃も防いでみせた。

   金閣寺金閣寺  金胡麻金胡麻

金閣寺「く、やるな……!」
金胡麻「俺の騎射が防がれるなんてぇぇぇ!?」
金閣寺「胡麻! だから弓も鍛えておけと言ったんだ!
    馬ばっかり達者で天狗になってるから!」
金胡麻「うっせーな! そういう兄貴は弓ばかり達者で、
    馬の扱いがイマイチだろが!」
金閣寺「お前の基準で言うなっ!
    これでも人並みには扱えている!」

    公孫朱公孫朱

公孫朱「ちょっと……兄弟喧嘩してる暇はないって」
金閣寺「ちっ。ならば、全体で押し込む!」

前回の威力偵察の際に全滅を喫し、その借りを
呉軍に返したい金閣寺隊。
ここで一気に叩こうと張苞、公孫朱、金胡麻の
前衛を押し上げていく。

それに押し負けぬように孫尚香隊も勇戦し、
孫尚香も自ら武器を振るっていた。

    張苞張苞   孫尚香孫尚香

張 苞「……むむっ!? そこにおるのは孫尚香!」
孫尚香「ち、見つかったか」
張 苞ここで会ったが百年目ぇぇぇ!!
    ムチを食らい、熱いロウを垂らされた恨み!
    捕らえられていたあの時にされたことは、
    俺はまだ忘れていないぞーっ!(30章参照)」
孫尚香「ムチとロウ……? ちょ、ちょっと待って。
    それは私じゃなくて劉備がやったことで……」
張 苞問答無用ッ! ぬうりゃああ!

張苞は倚天の剣を抜き放ち、孫尚香に斬りかかる。
孫尚香は三尖刀でそれを受け流しつつ、
間合いを取った。

孫尚香「くっ……挑まれた勝負は受けて立つ!」
張 苞「おお! いくぞお!」

張苞:武力92 VS 孫尚香:武力87

張苞の繰り出す攻撃は力強く勢いもある。
対する孫尚香は力は張苞に劣ってはいるものの、
一撃の速度では勝っていた。
例えるなら獰猛な雄虎と、油断ならない女豹。

金胡麻「やっちまえ張苞!
     孫尚香なんてやっつけちまえい!」
公孫朱「……孫尚香もそれなりの使い手。
    そうあっさりとはやられないはず」
金胡麻「なぁに、張苞もなかなか強いぜ。
    俺との稽古ではまずまずいい線行ってたしな」

ギャラリーも目を放せない好勝負。
そんな中、先に一撃を与えたのは孫尚香だった。
とは言っても、頬をかすめた些細な切り傷だったが。

孫尚香「流石は万夫不当の豪傑、張飛の子。
    かすり傷を負わせるのもここまでかかるとは」
張 苞「……これは」
孫尚香「ん?」

張苞は流れる血を手に取り、それを見つめていた。

公孫朱「あ……」
金胡麻「あーあ、やっちまったな。
    こうなると手がつけられねえぜ」

張 苞なんじゃあ、こりゃあ!?
孫尚香「え……? 血でしょう?」
張 苞「ち、血ぃぃぃ……俺が血を……血ぃぃぃ」
孫尚香「え? なに? 血に弱いとか?
    それなら、今のうちに……」
張 苞「血ぃぃだぁぁぁ! ち、ち、チィィィ!!
    ウウ……ウリィィィィィィ!!
孫尚香「なっ!?」

耳慣れぬ叫び声を上げたかと思うと、
張苞はそれまでとは比べ物にならないほどの、
凄まじい速さの攻撃のラッシュを浴びせてきた。

対する孫尚香はそれを受けるのがやっとで、
たちまち体力を削り取られていく。

孫尚香「こ、こんな、無茶苦茶な戦い方がっ!?」
張 苞ウリィィィ!! ウリィィィィィ!!
孫尚香「な、なんとか間合いを……!」

孫尚香は張苞の一撃を受け流した後、
なんとか引き離して間合いを取る。
しかし、張苞はその距離をすぐに縮めにかかってきた。

金胡麻「間合いを取っても無駄だ!
    血を見て狂戦士化した張苞のその動きは、
    並の奴には見極められねえぜ!」
公孫朱「私でも、あの状態になった張苞との勝負は、
    あまり進んでやりたくはないわね」

一直線に突っ込んでいく張苞。
それを、孫尚香は三尖刀を構えて待ち構える。

孫尚香「速いけれど、一撃一撃は単純な攻撃……。
    どの方向から攻撃するのかさえ判れば、
    なんとかなりそうだけど……。
    右か、左か……それとも真ん中か……。
    でも、それが分からない!」

焦る孫尚香だったが、そこに劉備の声が飛んだ。

劉 備「案ずるな尚香! フォースを信じるのだ!
    さすれば奴の動きが見えるはず!」
孫尚香「フォースを信じる……!?
    なるほど、フォースを……フォース……」

 (……フォースって何?)

その瞬間、張苞の動きが見えた。

孫尚香右ぃぃぃぃッ!!
張 苞「ウアッ!?」

張苞が右手の剣を左側からバックハンドで振るう。
つまり、それは孫尚香から見れば右。
孫尚香は三尖刀でその剣を跳ね上げ、すぐ切り返して
がら空きになった右脇腹を凪いだ。

張 苞ぐわああああああっ!!

入りが少し浅く、致命傷とまではいかなかったが、
張苞の動きを止めるだけの傷にはなった。

そこから、孫尚香のラッシュが決まる。
一撃一撃は浅かったが、これだけの傷を受けては
いくら狂戦士と化した張苞でも無事では済まない。

張苞は意識を失い、どっと地面に倒れこんだ。

孫尚香「や、やった……!
    勝てた! 勝てたんだ! 勝ったぁ!」
劉 備良ぉお〜〜〜〜〜しッ!
    よしよしよしよしよしよしよしよしよし
    よしよしよしよしよしよしよしよしよし
    よしッッッ!! よくやったぁ尚香!!」
孫尚香「ちょ、ちょっと!? だ、抱きつくな!
    撫でるな! それに呼び捨てにするなっ!
    上官だぞ、私は!」
劉 備「おっとすまんすまん、つい感動のあまりに」
孫尚香「全く……」
劉 備「しかし、私の言葉が功を奏したようでよかった」
孫尚香「いや……悪いけど、意味が分からなかった。
    見切れたのは全くの偶然よ」
劉 備「はっはっは、何をおっしゃる。
    『分からないからこそ』見切れたのです」
孫尚香「は?」
劉 備「貴女は動きを見切るのに躍起になっていた。
    しかし、動きを見切るというのは邪念が
    あってはいけない。無心にならねば難しい。
    そこでわざと分からない言葉を投げかけ、
    張苞の動きに対し、無心で反応できるように
    仕向けたというわけですよ」
孫尚香「はぁ……そういう深い意味があったのか……」
劉 備「つまりそれは、フォースのお陰なのです!」
孫尚香「だからフォースって何よ」

この一騎討ちは孫尚香が勝利。
重傷を負い、意識を失った張苞は捕らえられた。

将が捕らえられたことで金閣寺隊の士気は低下。
攻める勢いも弱まってしまう。

孫尚香「よし、今度は魏延隊を抑える!
    劉備、斉射で魏延隊を攻撃だ!」
劉 備「はっ! 弩隊、斉射三連!
    魏延隊にかましてやれ!」

孫尚香隊から弩の斉射が行われたが、
これは魏延の手によって防がれてしまった。

    魏延魏延

魏 延「この程度でやられるかっ!
    それ、一気に突き崩せ!」

魏延は呉軍の中に孫尚香の姿を見つけると、
周りなど気にせず、一気に打ちかかっていった。

魏 延「いくぞ呉公の妹!
    張苞の若造を倒していい気になってるようだが、
    この魏延はそう簡単には倒せんぞ!」
孫尚香「何をッ!」

挑みかかってくる魏延に対して、
孫尚香は逃げることなく向かっていった。

劉 備「なっ、無謀な!」
孫尚香「大丈夫! フォースの力を信じなさい!」

魏延:武力95 VS 孫尚香:武力87

魏 延「何がホースの力だ! 金楚の武の極み、
    この魏延が思い知らせてやる!」
孫尚香「やれるものならやってみなさい!
    孫呉の武はお前のそれをも上回ることを
    しっかりと教えてあげるわっ!」
魏 延「よぉぉぉし、よく言った!
    ならばその身をもって味わえ!
    ハリケェェェン、ミキサァァァッ!

魏延の必殺の技が繰り出される。
だが、孫尚香はそれを見切る自信があった。

孫尚香「張苞のあの動きを見切れたのだ。
    この魏延の技も、フォースの力を持ってすれば!」

 ギュオオオオオ

 ドカッ

……孫尚香は、倒れた。

孫尚香「み、見えなかった……なぜ!?
    フォースのことを考えてたのに……」
劉 備「最初からネタの内容を知ってては、
    無心にさせる効果などあるはずないだろうに。
    困ったお人だ」
孫尚香「む、無念……がくり」

重傷を負い、気絶し倒れこむ孫尚香。
その身柄を巡って、魏延と劉備が睨み合い
視線を交わし合う。

   劉備劉備   魏延魏延

劉 備「魏延将軍。彼女は我らにとって大切なお方だ。
    返してもらおうか」
魏 延「いくら天下に名の知られた劉備どのの
    言葉とはいえ、それは受け入れられませんな。
    敵の頭領の血族を見逃すわけには参りません」
劉 備「私にとっては、呉公の妹である以上に、
    その方を守る大切な理由があるのだ。
    どうしても、返してもらわねばならん」
魏 延「……その、大切な理由とは?」
劉 備「その方は私の……」
魏 延「私の?」
劉 備私の子を産むひとだからだッ!!
魏 延「な、なにぃっ!?」

劉 備今だ! カリスマビーム!!

 キラキラキラ

魏 延「くっ、この光線は……?」

劉備のカリスマビームは浴びた人間を惑わすのだが、
魏延はレベルが高く効きが悪かった。
それでも、それに魏延がたじろいでいる隙に、
倒れている孫尚香を救い出すことに成功する。

劉 備「返してもらったぞ。では、さらばだっ!」
魏 延「しまった、やられたか……」

味方の兵のいる方向へ逃げていく劉備。
そこから魏延が追いかけることは難しかった。

魏 延「……しかし、劉玄徳という人物。
    噂以上に凄い、ケタの違う人物のようだな。
    『私の子を産むひとだ』というあの言葉、
    あの時の目は本気の目だった。
    今の主君の妹にあんな言葉を吐ける人物、
    そうはいまい……というか彼だけのような」

魏延は、元々韓玄に仕える前は劉表に仕えており、
当時劉表の食客として新野にいた劉備に対し、
何か惹かれるものを感じていた。
そして今回、こうして面と向かって話したことで、
劉備のカリスマ性をさらに強く感じていた。

魏 延「……おっと、いかんいかん。
    今の私は楚王金旋様の将。惑わされてはならぬ」

そうは言いながらも、金旋と出会う以前に劉備に
出会っていたら……と考えてしまう魏延であった。

    ☆☆☆

戦場のすぐ北にある安陸城塞。
1万の兵が駐屯し、戦いの援護を行っている。

大将の卞柔は蔡和・蔡中と共に櫓に登り、
戦いの様子を眺めていた。

    卞柔卞柔

卞 柔「味方が優勢だが……思ったほどではないな。
    呉軍はもうすぐ程普隊が到着しそうだ。
    少し時間がかかっているな」
蔡 和「しかし大将……。
    今、ここでそんなことを言ってもいても
    どうしようもあるまい」
蔡 中「そうそう。我らは援護で岩を落としているしか
    やることはないのだからな」
卞 柔「ふむ……やること、か。
    よし! 5千の兵で孫尚香隊を叩くぞ!」
蔡 和「は? しょ、正気か!? 5千で何ができる!」
卞 柔「孫尚香隊は弱体化しているようだ。
    例え兵の数は5千であっても、
    1部隊加わるだけで戦局は一気に変わる。
    問答している暇はない、どちらか付いて来い!」
蔡 中「ど、どちらかって……」
蔡 和「蔡中、お前行け」
蔡 中「勘弁ですよ兄上。ここはじゃんけんで」
蔡 和「仕方ないな」

じゃーんけーん、ほい。

蔡 中パーで負けたーっ!!
蔡 和「いってらっしゃい蔡中ちゃん。
    晩御飯作って待ってるわん♪」
卞 柔「いくぞ蔡中! さっさと準備をしろ!
    戦況を変え、味方の勝利に貢献するのだ!」
蔡 中「し、しかし、5千じゃ兵が少なすぎです!
    危険すぎる! せめて1万……」
卞 柔「心配いらん、危なくなったらすぐ戻る!
    それに1万も連れていったら、ここが空っぽだ。
    さあ行くぞ! ぐずぐずするな!」
蔡 中「ひぃーっ」

5千という寡兵で出撃する卞柔と蔡中。
一方、戦場では、魏延隊の副将の刑道栄が
孫尚香隊に突撃をかました後、後続の程普隊に
目標を切り替えていた。

孫尚香隊に当たっているのは、現在は金閣寺隊のみ。
兵の損害はさほどではないが、張苞が一騎討ちで敗れ
捕らえられたのが響き、士気が低下していた。

    金閣寺金閣寺

金閣寺「張苞どのが負けてから士気が奮わない……。
    これでは、『あまり長引かせないように』という
    燈艾将軍の指示が守れなくなってしまう」

その時、卞柔隊5千が勢い込んでやってきた。

卞 柔「金閣寺どのーっ! ここは任せろ!」
金閣寺「卞柔将軍!? どうしたのですか」
卞 柔「どうも思うようには進まぬようだから、
    代わりに孫尚香隊を蹴散らしてやるのさ!」
金閣寺「そのような少ない兵で!?
    危険すぎる! 城塞に戻られよ!」
卞 柔「兵の多寡など関係ない! ないったらない!
    ただ我が前にいる敵を討ち果たすのみだ!
    行くぞーっ! 道を開けろーっ!」

卞柔は金閣寺の忠告を無視して突進していった。

卞 質「むうっ、あれは……!」
金閣寺「卞質どの? あれとは?」
卞 質「あれは弟(卞柔)の得意技、ワガママ突進!
    幼い頃より末っ子(10番目)として甘やかされ、
    また要領もよく周囲に可愛がられて育てられた、
    あやつにしかできぬ技なのです!」
金閣寺「は、はあ」
卞 質「まるで駄々っ子のように敵に突進し、
    相手がどんな状態だろうと構わず粉砕する!
    まことに恐ろしい技なのです!
    自分の意に沿わぬものを絶対に認めぬ、
    究・極・の! 突進攻撃なのですっ!」
金閣寺「そ、そうですか……。
    恐ろしいというかバカバカしいというか。
    でも、突撃じゃなくて突進なんですね」
卞 質「突撃は兄である卞志(4番目)が得意です。
    兄の突撃は『おバカさん突撃』と呼ばれています。
    あの人、頭は悪いので」
金閣寺「へ、へえ〜」
卞 質「ちなみに、私は上にも下にも兄弟がいるので
    (7番目)常に自重して育ちました。
    そのため、敵の計略を冷静に見抜くことのできる
    この眼を手に入れたのです」
金閣寺「別にそんなこと聞いてません」

金閣寺たちがそんな話をしているうちに、
卞柔は突進で孫尚香隊をズタズタに切り崩し、
捕らえられていた張苞も助けて戻ってきた。

卞 柔「ふう、すっきりしたぜぇー。
    それじゃ、あとよろしく」(びっ、と親指を立てる)
金閣寺「えっ、全滅させるまで戦うんじゃないの!?」
卞 柔「はっはっは、何を言ってるんだい。
    この寡兵で戦うだなんて、無茶もいいところさ。
    そんな危険な真似、させないでほしいなあ」
金閣寺「突っ込んでいく前に言ってた内容と、
    まるで言ってることが違うーっ!?」ガビーン

さて、そんなワガママな攻撃に全滅寸前の孫尚香隊。
重傷のまま、なおも指揮を執り続ける孫尚香の元へ、
一騎の早馬が到着した。

呉 兵「孫尚香さま、一大事です!」
孫尚香「くっ……全滅間際の部隊以上に、
    そんな一大事があるって言うの?」
劉 備「まあまあ、息せき切ってやってきた者に対して、
    そのように嫌味な言葉を掛けるものでは
    ござらんよ。……で、一大事とは?」
呉 兵「はっ!
    寿春が、魏軍の攻撃により陥落しました!」
孫尚香「えっ……寿春が!?」

    ☆☆☆

寿春。揚州と徐州を繋ぐ玄関口。
以前は髭親父が割拠していたが、曹操がそれを破り、
その後は孫権がこの地を有していた。
だが、ここでまた所有者が代わることになる。

 ミニマップ寿春

下[丕β]を出撃した関羽隊2万5千と張遼隊4万。
寿春に至る途上で、小沛から迎撃に出てきた
孫権の部隊1万と交戦、これを破った。

   関羽関羽   張遼張遼

関 羽「孫権は小沛へ逃げ帰ったようだな。
    どうする、予定を変えて小沛を攻めようか?
    孫権の息の根を止める好機かもしれないぞ」
張 遼「いや、当初の予定通りに寿春を攻める。
    小沛はいつでも落とせるだろうが、
    寿春は兵を増やされると難しくなる。
    優先順位は間違えられますな」
関 羽「ふむ。寿春を落とし北と南に分断する。
    西からは楚軍が攻撃を続けておるようだし、
    これで呉は完全に追い込まれるということか」
張 遼「孫権の首などは、呉という国が
    滅んでしまえば、価値など全くなくなる。
    実のある戦こそ、この張文遠の戦にござる」
関 羽「ふ……張遼、最近とみに落ち着いた雰囲気を
    醸すようになってきたな。いい傾向だ」
張 遼「老いたせいでしょうな。私ももう50歳。
    あまり無茶をできる歳ではなくなりました」
関 羽「こらこら、それを言ったら私はどうなる。
    あと数年で還暦を迎えるのだぞ」
張 遼「将軍は別格でござろう。
    歳を重ねる毎にますます磨きのかかる軍略。
    中には貴殿を神に例える者すらおりますぞ」
関 羽「なに、お主ほどではない。
    騎馬にしろ弓にしろ苦手がなく、死角がない。
    魏公もよい部下を持たれたものだ」
張 遼「できれば、その魏公に……」
関 羽「もう一度、天下統一の夢を」

張遼と関羽という強力なタッグ、そして7万近い大軍。
それに対し、寿春を守るのは1万程度の兵のみ。
これでは、守る将がいくら才能豊かな孫韶であっても
敗れるのは当然といえよう。

寿春城は半月も持たずに陥落。
呉は北の小沛・汝南、南の揚州とに分断された。

 ミニマップ寿春(戦後)

    ☆☆☆

孫尚香「そんな……寿春が落ちた。
    それでは、廬江も危ないではないか。
    こんなところで戦ってる余裕など……」
劉 備「こうして遠征出来るのも、
    寿春が無事であるのが前提ですからな。
    その寿春を落とした半分の兵でも来れば、
    兵の少ない廬江はすぐに落ちてしまいましょうな」
孫尚香「くっ……こうしてはいられない!
    退却する……! 早く廬江へ戻り、対策を……」

そこまで声を振り絞ると、孫尚香は意識を失った。

劉 備「おおっと……。
    そんな慌てんでも、すぐ戻りますって。
    まあ、敗走っていう形でだけどな。
    お前さん、程普のおっさんにも報告しといてくれ。
    あと『適当に戦ったら廬江に戻ってくれ』ってな」
呉 兵「はっ! それでは!」

劉 備「ま、そう簡単には逃がしてくれないだろうが。
    ……だからあまり乗り気じゃなかったんだな。
    悪い時に限って、私の勘は当たるんだよなぁ」

孫尚香隊は金閣寺隊の攻撃を受け、全滅。
残る程普隊も激しい攻撃を受け、退却の機会を
なかなか得られず、ずるずると戦闘が続いていく。

    程普程普

程 普「一刻も早く引き揚げたい……。
    しかし、今後ろを見せてしまえば、戦い続けるより
    大きい被害を受ける。……なんともやり切れぬな」

程普は、退却をしばらく諦め、楚軍に対し
手痛い打撃を与えることに集中することにした。
弱気な采配では埒が明かないと判断したのか。

だが攻勢に切り替えるやいなや、程普隊の攻撃は
数の多い楚軍を圧倒する勢いを見せる。

 宿将程普

まず、程普は夏口港に近付いていることを見て取ると、
弩の連射でそちらを攻撃。
またその後すぐに、太史慈が飛射で追い討ちをかける。

    トウ艾燈艾

楚 兵「御大将! 被害が大きくなっております!」
燈 艾「……心配ない。まだ兵力は余裕がある」

夏口港の燈艾はそう言いつつも、苦い顔をしていた。
現存の兵は1万近くおり、まだ陥落するほどではない。
だが、冷や汗をかかせるだけのものはあった。

    金目鯛金目鯛

金目鯛「このっ、やってくれるな!
    俺らがいるのに脇見して港に攻撃とは、
    いい度胸してるじゃねえか!」

魏延隊の金目鯛は、不慣れながらも弩の斉射を命じる。
だが、これは老練な程普によって防がれてしまう。

程 普「はっはっは、なんだそのヘナヘナ矢は!?
    もっと修行してから来い、若造が!」
金目鯛「若造? 俺が? へへ、3人の子持ちだけど、
    俺もまだまだ若いってことかぁ」
魏 延「金目鯛どの! そこは喜ぶところじゃない!」
金目鯛「ん? そういえばそうだな」

魏延隊に続き、金閣寺隊も仕掛けていく。
公孫朱が、騎馬による走射で攻撃。

    太史慈太史慈  公孫朱公孫朱

太史慈「公孫朱! 一騎討ちでは以前遅れを取ったが、
    弓にかけてはこちらの方が上だな!
    さあ、防御体勢を取れ!」
公孫朱「なっ!? 公孫家相伝の技がっ!」

しかし、今度は太史慈によって防がれてしまう。
その驚きで動きを止めてしまった公孫朱に、
程普が見逃さず弩の連射を放った。

公孫朱「しまっ……!!」

気付いた時には遅かった。
矢は2本ほど、公孫朱の身体に突き刺さる。

公孫朱「……う、ぐっ!」

    金胡麻金胡麻

金胡麻「公孫朱! 大丈夫かっ!」
公孫朱「あ、あんまし、大丈夫でねぇけんちょ……。
    急所には、あだってねぇみてだ……」
金胡麻「急所?」

 さわさわ

金胡麻「うむ、腹の方に一本、脇を掠めたのが一本だ。
    どうやら胸は無事みてえだな」
公孫朱「な、なにさわってんだ!」ぎゅうう
金胡麻「い、いででで」

どさくさに紛れて胸を触る金胡麻の手を、
公孫朱は思い切りつねり上げた。
重傷を負ってはいたが、命に別状はないようだった。

だが、それを見て烈火の如く怒りを燃やす男が、
少し離れた安陸城塞に……。

張 苞あ、あ、あんのやろうーー!!

   包帯張苞
   ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

その怒りは、程普隊を打ち破るのか?
それとも……。

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