○ 第三十九章 「楚王様のレストラン」 ○ 
219年3月

3月末日。
金旋と徐庶の艦隊は、烏林港へと戻ってきた。

   金旋金旋   下町娘下町娘

金 旋「はぁ……着いたなぁ」
下町娘「ふう……着きましたねえー」

船酔いの金旋と、慣れない戦疲れの出た下町娘は、
ようやく辿り着いた陸地を踏みしめ、嘆息した。

    金玉昼金玉昼

金玉昼「お帰りにゃ」
金 旋「おう……ただいま」
下町娘「ただいまぁ〜」
金玉昼「これで当初の戦略目的は達成されたにゃ。
    まずはお疲れ様……と言いたいところだけど、
    いろいろと他から報告が来ていまひる」
金 旋「ああ……予測はしていた。
    出陣してる間に溜まるだろうとは思ってたからな。
    とりあえず、飯を食いながらでも聞こう」
金玉昼「飯?」
金 旋「船上じゃ携帯食しかなかったし、
    ゲロゲロ吐き過ぎて胃が空っぽなんだ。
    暖かい飯を早く腹に入れたくてな」
金玉昼「ゲロゲロやったのに食べられるのかにゃ。
    こういうのもタフって言うのかにゃー」
下町娘「私は食欲ないんで……。今日はこれで……」
金 旋「おう、お疲れさん。ゆっくり休めよ」
下町娘「はいぃぃ……」
金玉昼「……足元ふらついていまひる。
    私は町娘ちゃんを部屋まで送ってくるにゃ。
    ちちうえはとりあえずご飯食べてて」
金 旋「わかった」
下町娘「ごめんねぇ〜。助かるわ〜」

金玉昼に支えられて引き揚げていく下町娘。
それと入れ替わりに、魏光が挨拶してきた。

    魏光魏光

魏 光「あ、お疲れ様です、殿」
金 旋「おう、魏光か。
    今日もムダに厚い胸板をしているな」
魏 光「殿、筋肉にムダなんてありません。
    極限まで鍛え上げれば、刃さえ撥ね返すことも
    できるようになるのですよ?」
金 旋「マジか?」
魏 光「……と孔奉どのが言ってました」
金 旋「受け売りかよ……。
    そうだ、魏光。お前に重大な任務を与える」
魏 光「えっ? 重大な、任務!?」
金 旋「おう、お前にしか出来ない任務だ」
魏 光「わ、わかりました! なんなりと言ってください!
    殿のためならば、このマッスルボディ魏光、
    スクワット万本ノックでも!
    8時間耐久ポージングでも!
    なんでもやってみせましょう!」
金 旋「ああ、別にそういう変なのじゃない。
    まあ、とりあえず俺についてこい。
    お前をその任務の場に連れていこう」
魏 光「はっ! 了解です!」

魏光は嬉々として金旋の後ろをついていった。

魏 光「……あの、ここは?」
金 旋「見ての通りの場所だが?」
魏 光「厨房じゃないですか!
    なんですか任務っていうのは!?」
金 旋「これは重大な任務なんだぞ。
    船酔い後で体調がよろしくない俺のために、
    お腹に優しい、それでいて食欲をそそる料理。
    それを作るのがお前の役目だ」
魏 光「重大って……楚王の食事を作るとなれば、
    それなりに重大かもしれませんけども。
    お付きの料理長はどうしたんですか!?」
金 旋「いや、出陣中は暇になると思ってな、
    4月になるまで休みを与えたんだよ」
魏 光「はぁ……。だから、代わりに私に作れ、と」
金 旋「そうだ。大丈夫、お前ならできる!
    お前、料理が得意だっただろう?」
魏 光「そりゃ確かに得意ですけどね……。
    筋肉を生かした任務かと思ったのに……」
金 旋「俺を唸らせるような料理を出したら、
    今後の作戦に関しては考慮するぞ」
魏 光「は、ははっ! 私にお任せください!
    早速料理にかかるとします!」

    ☆☆☆

金旋がとりあえず出された粥をすすっていると、
金玉昼が竹簡を抱えてやってきた。

金玉昼「……なんか、ただのお粥なのに美味しそう」
金 旋「おう、実際美味いぞ。
    生姜と醤油の風味があいまって、実に美味い」
金玉昼「私もちょっと戴きたいかにゃ……」
金 旋「うむ、一人よりも二人の方が食事は楽しい。
    一緒に食べなさい。おーい、粥もう一丁!」

魏 光「今お持ちします〜。はい、どうぞ」
金玉昼「……エプロン姿が妙に似合うにゃ〜」
魏 光「フッフッフ……。そうですかそうですか。
    エプロンから覗く筋肉が眩しいですか。
    しかし軍師、私に惚れてもダメですよ」
金玉昼「誰もそんなことは言ってないけど。
    ずず……あ、美味しい」
魏 光「フフフ、照れ隠しですか。
    まあ、今はそういうことにしておきましょう。
    それより殿、2品目が出来ました」
金 旋「ほう、今度は何の料理だ!?
    実にワクワクさせてくれるじゃないか!」
魏 光「はい、白菜と豚肉の蒸し物です。
    どうぞ、お召し上がりください」
金 旋「ふむ、あーん……。もぐもぐ……。
    ぬうっ……!? あっさりとしていながら、
    それでいて豚肉の旨みがしっかりと!?」
魏 光「白菜のさっぱりした食感とみずみずしさ。
    これを殺さないようにして豚の旨みを加え、
    味をまとめました」
金 旋「うむっ、かかっているとろりとした餡もまた、
    白菜と豚のよさを引き出している……!
    これは、うーまーいーぞーっ!!

 ピカーッ

金玉昼「あ、口から光線が」
魏 光「では、3品目の用意をしますので」
金 旋「うむ! 次はどんなのかな、ワクワク」
金玉昼「わくわく……はっ!? いけないいけない。
    報告類を忘れるところだったにゃ」
金 旋「おお、そういえばそんなことを言ってたな」
金玉昼「えと、4つほどあるんだけど。
    江夏からの戦闘報告、洛陽からの戦後報告、
    国内その他の報告、諸外国の情勢の定期報告。
    どれから行くかにゃ」
金 旋「とりあえず諸外国から行こうか。
    どうせ大した内容でもないんだろうし」
金玉昼「はいにゃ」

    ☆☆☆

時は1月下旬の頃。
場所は涼軍が占領している剣閣。

   馬超馬超   劉璋劉璋

馬 超「劉璋」
劉 璋「は、ははあーっ!」
馬 超「以前、貴殿が益州の君主であった頃、
    我らに宣戦布告し漢中を侵略してきたが、
    それに関して、何か申し開きはあるか?」
劉 璋「あ、あああ、あれは、そそ、その、
    家臣にたぶらかされたでおじゃるよ」
馬 超「誑かされた? ほう、誰にだ」
劉 璋「その、当時軍師であった、ほうせい……」
馬 超「法正か、彼なら今は我が軍の軍師だが……。
    貴殿を誑かし我らとの戦いを勧めたとあれば、
    過去のこととはいえこれは正さねばならん。
    早急に、法正を詰問するよう涼公に……」
劉 璋「あ、あいや! 法正じゃなかったでおじゃる!
    ちょっと勘違いをしておじゃった!」
馬 超「そうか。では、法正じゃなくて誰が?」
劉 璋「そ、その、黄権……だったかな」
馬 超「黄権も我が軍に……」
劉 璋「こここ、黄権も違うでおじゃる!
    そ、そうだ、孟達! 孟達の奴でおじゃる!」
馬 超「孟達か。孟達なら我が軍の所属ではないな。
    今は確か、楚軍にいると聞く。
    孟達が、貴殿を誑かしたというのか」
劉 璋「(ほっ……。これなら……)
    そ、そうでおじゃる。あの腹黒い奴に、
    麿はまんまと騙されたでおじゃる!」
馬 超「そうか、孟達か。
    では、楚王金旋に質問状を送らねばならんな」
劉 璋「へ?」
馬 超「孟達に真偽を問い質してもらうとしよう。
    過去の罪は償ってもらわねばならん。
    しかし、これは下手をすると外交問題になる。
    もし楚王の機嫌など損ねようものなら、
    貴殿にも責を負ってもらわねばならんな」
劉 璋「ひ、ひぃぃぃ!?」
馬 超「なに、そうビビることはあるまい。
    本当に孟達が悪いなら、堂々としていろ。
    もし楚と戦となろうとも、遠慮することはない」
劉 璋「あ、あの……」
馬 超「偽りであれば間違いなく貴殿の首は飛ぶがな」
劉 璋「ひええええええ! ご、ごめんでおじゃる!
    孟達は関係ないでおじゃるよぉぉぉ!
    麿が悪かったのでおじゃるよぉぉぉ!」
馬 超「……侵攻は、誰の責任だ?」
劉 璋「麿が言い出したでおじゃるぅぅぅ!
    漢中を攻め取って、益州の全てを統一
    したかったのでおじゃるよぉぉぉ!」
馬 超「……フン。
    ようやく本当のことを言う気になったか。
    いいか劉璋? 今言ったことで判る通り、
    本来、貴様は我が涼の仇敵なんだ。
    命を助けた上、こうして登用してやるなど
    それはもう破格の待遇なのだからな!?」
劉 璋「そ、それはもう重々、承知しておじゃる!
    感謝の胃に堪えんでおじゃるよぉぉぉ!」
馬 超「それを理解したら、ちょっとは働け!
    貴様に無駄飯を食わせる気はないからな!
    仕事をサボっているのを見つけたら、
    そのムダに肥えたケツを蹴り飛ばしてやる!」
劉 璋「は、ははぁーっ、キモに命じるでおじゃる!」

蜀炎軍所属の劉璋は、剣閣陥落時に涼軍に捕えられ、
この1月に登用を受けて涼に鞍替えした。

その後、妙にスッキリした表情をした馬超に、
馬雲緑が訝しげに話しかけた。

    馬雲緑馬雲緑

馬雲緑「兄上、何か表情が明るい感じですが、
    何かいいことでもあったのですか」
馬 超「いや、いいことなどはないが。
    ただ、劉璋を思いきり罵倒しただけだ。
    溜まっていたストレスを発散できた感じだな」
馬雲緑「劉璋……ああ、あのブタですか」
馬 超「率直すぎる言い方だな、それは。
    確かに肥えているが」
馬雲緑「あのブタを見ていると、肥溜めに突き落とし
    汚物を食わせたい気分になります。(※)
    兄上はよく平気で会話などできますね」

(※古来より豚の飼料として人糞が使われていた)

馬 超「俺も平気というわけではないが。
    まあ、自軍に所属するようになったのだし、
    主従関係をしっかり叩き込んでおかねばな」
馬雲緑「主従関係……。なるほど。
    主人と犬のような関係ですわね」
馬 超「そういうことだ。しっかり躾をしてやれ」

その後、涼軍内において『劉璋いじめ』が
半ば公認されたような状態になったという。

    ☆☆☆

金 旋「……劉璋も可哀想というか、なんというか」
金玉昼「君主時代は好き放題やってたんだから、
    因果応報と言うべきにゃ」
金 旋「はからずも劉焉の後継ぎになったのは、
   彼にとって幸だったのか、不幸だったのか。
   ……で、涼と蜀炎の戦況は変わらずか?」
金玉昼「饗援の指揮する軍が剣閣奪還を図るも、
   全て馬超に撃退されていまひる。
   しばらくは小競り合いは続きそうだにゃ」
金 旋「ふむ。そういえば、馬騰本人はどうした?
   まだ渭水を行ったり来たりしてるのか?」
金玉昼「その馬騰、海戦で諸葛亮に負けたらしいにゃ。
   その戦闘で軍師の法正は捕らえられ、
   最近の噂によると魏に登用されたとか」
金 旋「ほう……軍師の法正が、な。
   これは、今後に影響するかもな」

魏 光「はい、3品目をお持ちしました。
    肉なし回鍋肉(ホイコーロー)です」
金 旋「……おい、ふざけてんのか。
    それ、ただの野菜炒めだろう!」
金玉昼「豚肉があって初めて回鍋肉じゃないかにゃ」
魏 光「まあまあ、そう言わずに食べてください。
    ふざけてるかどうかは食べればわかります」
金 旋「なに? どれ……もぐもぐ」
金玉昼「それじゃ、私も……もぐもぐ」
金 旋「……こっ、これは!?
    肉なしだが、確かにこれは回鍋肉だ!」
金玉昼「野菜だけ食べてるのに、豚肉の味が……」
魏 光「野菜だけでも豚肉の風味が出るように、
    油に豚肉の風味をしっかりつけました。
    また、野菜にも十分下味をつけてます」
金玉昼「さっきの一品で豚肉食べてるから、
    ここでまた取ることはないってことかにゃ」
魏 光「そういうことです。
    お腹にも優しい一品だと思いますが」
金 旋「むう、やるな。
    『お腹に優しい、それでいて食欲をそそる料理』
    確かに最初の俺の注文通りだ……」
金玉昼「この際、武将やめて料理人になった方が
    いいんじゃないかにゃ」
魏 光「はっはっは、ご冗談を〜」
金玉昼「(半分本気なんだけどにゃ)」

    ☆☆☆

続いて魏軍が下[丕β]を落としたことを話し、
諸外国の情勢報告は終わった。
次に、洛陽、江夏での戦闘報告に移ったが……。

金玉昼「……あんまり芳しくない報告だけど。
    洛陽、江夏ともに威力偵察に出した部隊は、
    どちらも撃退されたにゃ」
金 旋「うむ。まあ有り得ることだ。
    敵軍の備えが万全だったということだろう。
    元々、どの程度の反撃があるか見るための
    作戦なのだから、しょうがない」
金玉昼「まあ、それは私も構わないんだけど……」
金 旋「なんだ? 妙に歯切れが悪いな。
    もしかして、将が戦死したとか……?」
金玉昼「戦死なら、もう少し割り切れるんだけども。
    その戦闘で、韓遂さんが捕虜になったにゃ。
    そのすぐ後、魏に寝返ったとのこと」
金 旋「韓遂が?」
金玉昼「敵の計略ではないかとという意見もあったけど、
    その後の密偵からの報告では多分事実だろうと」
金 旋「そうか。寝返ったか」
金玉昼「……ちちうえ、なんか冷静だにゃ。
    ショック受けるかと思って言葉選んでたのに」
金 旋「韓遂という男に忠義は期待できない。
    元々、そういう人物だということは承知していた」
金玉昼「まあ、ちちうえに心酔している、
    というわけではないのは私も思ってたにゃ」
金 旋「しかしな。俺が勝ち続けている間は、
    韓遂もついてきてくれると思っていたんだ。
    その点では、ショックなのは確かだな」
金玉昼「ちちうえ……」
金 旋「現場には、『韓遂という将は元からいなかった』
    そう考えるよう伝えておいてくれ。
    かつての仲間だ、いや裏切り者だ、などという
    意識があっては曹操に付け入れられるからな」
金玉昼「一応は伝えはするけど……。
    そう簡単に割り切れるものでもないにゃ」
金 旋「それはそうだろうが、何も言わないよりはな。
    で、洛陽方面については以上か?」
金玉昼「あ、それとは別にもう1件。
    戦後、司馬懿さんが前後不覚になってて、
    このままだと軍の統括はできなさそうだって」
金 旋「なに、司馬懿が!? 怪我でもしたのか!?」
金玉昼「いや、怪我じゃないけど。
    どうも精神的に参ってるらしくて、
    今は引きこもりみたいになってるそうだにゃ」
金 旋「ひきこもりか。
    たまにいいとこの坊ちゃんが出仕拒否して
    自宅に引きこもるという話は聞いたことがあるが。
    しかし、司馬懿ほどの者が、なぜだろう」
金玉昼「良くはわからないけどにゃ。
    でも、このままでは洛陽の戦力は低下しまひる。
    指揮官交代も考えないといけないにゃ」
金 旋「いや、それは必要ない」
金玉昼「どうしてにゃ。洛陽は重要な拠点にゃ。
    ここは絶対に敵に渡すわけにはいかないし、
    司馬懿さんの精神治療も必要にゃ」
金 旋「ここは彼女自身に壁を乗り越えてもらう。
    それだけの強さを持った人物だよ、彼女は」
金玉昼「壁を乗り越えるまでの守りは?」
金 旋「郭淮に司令官代行を任せればいい。
    もともと、都督候補として勉強させているんだ。
    于禁もいるし、しばらくは大丈夫だろう」
金玉昼「うーん……」
金 旋「異論がありそうだな」
金玉昼「……具体的な反論がある訳じゃないけど。
    私には、ちちうえみたいにそう無条件での信頼は
    できないというか……。不安なのにゃ」
金 旋「ま、無理に俺の考えに合わせる必要はないさ。
    とりあえず、今はしばらく様子を見るってことで
    いいじゃないか」
金玉昼「うーん……。イマイチ納得いかないにゃ」

金玉昼がそこまで言ったところで、
奥から魏光が何かが入った小鉢を持って現れた。

魏 光「そんな軍師にこの一品!」
金玉昼「……なに、これ」
魏 光納豆イカです!
    これを食べれば納得いかないことはない!」
金 旋「ダジャレかよ」
金玉昼「悪いけど、納豆はパスするにゃ」
魏 光「ええーっ!? 自信作なのに!
    味だって保障しますよー!?」
金玉昼「ダメ、パス。匂いがダメなのにゃ」
金 旋「それじゃ、俺が貰おう。
    ……うむ、イカと納豆、そしてわさびと醤油が、
    実に絶妙な調和をかもし出している」
魏 光「納豆もわさびも、抵抗力向上にいいそうです。
    また、イカは高タンパク,低脂質の健康食品。
    肝臓強化や老化防止にもいいんですよ」
金玉昼「ちちうえにとっては実に嬉しい効果だにゃ」
金 旋「……お前、老化防止だけで判断してるだろう」

    ☆☆☆

金玉昼「納豆イカでちょっと途切れちゃったけど、
    江夏の方の報告が途中だったにゃ」
金 旋「ほいほい。撃退されたってのは聞いた」
金玉昼「将が3名ほど捕らえられたんだけど、
    これは前の戦いで捕らえた捕虜と交換したので
    すぐ帰ってくることが出来たにゃ」
金 旋「燈艾もそこらへんは抜かりないようだな」
金玉昼「ただ……」
金 旋「ただ、なんだ?」
金玉昼「その後、呉軍が廬江から出兵してきて、
    現在は夏口近郊で交戦しているらしいにゃ。
    敵部隊の構成は、孫尚香と太史慈とか」
金 旋「またか。懲りない奴らだな」
金玉昼「陸口での会戦が始まった後、
    廬江から出撃してきたことが確認されてるにゃ。
    つまりこれは、夏口から陸口方面への増援阻止、
    そういう意図があっての作戦なんじゃないかにゃ。
    廬江から夏口を攻めている間は、陸口は安心して
    烏林側だけを見ればいいからにゃ」
金 旋「元から俺は、夏口から陸口に参戦させるような
    つもりは全然なかったぞ?」
金玉昼「あちらとしては脅威だったんだと思うにゃ。
    ま、これは推測でしかないけども」
金 旋「……で、その戦況はどうなんだ?
    兵が足りないなら、こちらからも出せるぞ」
金玉昼「交戦は現在も続いているようだけど、
    援軍の要求は別に来てないにゃ。
    燈艾さんには、現戦力のみで撃退できる自信が
    あるんじゃないかと思いまひる」
金 旋「うむ。そう思ってるなら任せておくまでだ。
    燈艾だって若いんだし、もっともっと経験を
    積んでいってもらわねばな」
金玉昼「顔は全然若くないけどにゃー」

魏 光「そういう顔の若くない人にオススメなのが、
    この旨味たっぷりのフカヒレスープです。
    コラーゲンもたっぷり含まれてますよ」
金 旋「む、美味そうだが……。
    しかし、コラーゲンをいくら摂っても、
    もともと老け顔なのは直らんと思うぞ」
魏 光「それはそうですねえ。
    でも燈艾将軍は老け顔でも一流の将ですし。
    私としては羨ましい限りですよ」
金 旋「ふーん。それじゃ……。
    超一流の能力を持つが鞏恋に嫌われる名将と、
    能力は大したことがないが鞏恋に好かれる凡将、
    お前はどっちになるのを選……」
魏 光凡将です
金玉昼「即答……。まあ愚問だったかにゃ。
    えー、なお夏口方面での戦闘の模様は、
    この後ご覧のチャンネルでお送り致しますにゃー」
金 旋「それ、誰に言ってるんだ?」

    ☆☆☆

金玉昼「じゃ、後は国内の報告……て言っても、
    大したものはないんだけど。
    えーと、虎牢関にて、在野となっていた元魏将の
    呂翔、これを蒋済さんが登用。
    泪羅にて在野の忙牙長っていう人が仕官希望、
    霍峻さんがこれを了承して登用」
金 旋「ぼーがちょー?」
金玉昼「なんか南蛮出身の人らしくて、
    腕っ節はそこそこ強そうらしいにゃ」
金 旋「……なんで泪羅あたりをうろついてるのか
    さっぱりだが、まあ来るものは拒まないさ」
金玉昼「あと、昨年末からちちうえが教育してた、
    抜擢武将の管念慈さんが武将に昇格。
    烏林に配属になったにゃ。
    ……ってこんな話全然聞いてないんだけど?」
金 旋「ん? 抜擢武将の教育してたってことか?
    別に隠していたわけじゃないぞ。
    これまで話す機会がなかっただけだ。
    昨年の末に魏延の推薦で抜擢したんだが、
    たまに俺も教育してみようかなーと思ってな」
金玉昼「……その気まぐれのおかげで、
    武力しか見所のない人になっちゃったにゃ。
    しかもまだ20代の女性を、ずっと一緒になって
    教育してたなんて……」
金 旋「いや、やましい気持ちは全然なかったぞ。
    こういうとかなり失礼かもしれんが……。
    彼女の顔は俺の好みじゃないしな」

管念慈 [カンネンジ]
管念慈 性格:猪突/(抜擢)/(199年生)
統率:53
武力:80
知力:41
政治:43
兵法:奮闘、突破、突進、斉射、連射など

金玉昼「実際会った後での教育中はそうだとしても、
    その会う前に自分を教育役に決めた時は
    どう思っていたんだか……」
金 旋「Fu〜〜♪(←口笛)」
金玉昼「とりあえずセクハラがあったかどうかは、
    後で管念慈さんに聞き取り調査するとして。
    ところで話変わるけど。今回の戦いで捕らえた将、
    彼のことはどうするつもりにゃ?」
金 旋「ん、周泰のことか?」
金玉昼「彼を登用するつもりは?」
金 旋「今のところ、そのつもりはない。
    返還を求められれば、返してやるつもりだ」
金玉昼「うーん、多分そういう考えだろうとは
    思ってはいたけど……。
    せっかく捕らえたのに、勿体無くないかにゃ。
    また敵になってしまうと脅威だし、
    逆に味方にできればかなり心強いにゃ」
金 旋「確かにそうかもしれないがな……。
    彼を捕らえる際、俺に降ることはないと言った。
    これは俺と彼との約束のようなものだ。
    だから今回は、彼を登用することはしない」
金玉昼「また変にメンツとか気にしてー」
金 旋「ふっ、女子供にはわかるまい。
    まあ、どちらにしろだ。彼の孫権への
    絶対的な忠誠はまだまだ揺らいではいない。
    彼の心を捉えるには、もっと時間が必要だ」
金玉昼「はいはい……了解したにゃ」
金 旋「それにな、この機会に捕虜交換で孫権から
    古錠刀でも貰おうかと思ってな。
    孫子兵法書は無理でも、剣なら貰えそうだろ?」
金玉昼「……あー、大きな人柄を見せたと思ったら、
    またそんなセコイことを言うしー」
金 旋「セコくて結構! これが金旋という男の姿よ!」
金玉昼「偉そうに言うことじゃないにゃ……」

魏 光「はいはい、次の品が出来ましたよー。
    殿には野菜ものを、軍師にはデザートです」
金玉昼「わーい。
    そろそろシメにしたいところだったにゃ。
    絶妙のタイミングだにゃ〜」
金 旋「俺の野菜ものはなんだ? 和え物っぽいが」
魏 光「これはですね、オク……」
金 旋「オク?」
魏 光「オ、オオ、オク、オク……。
    オクラ兄さぁぁぁぁん!!
金 旋「……例の発作か。おい魏光、しっかりしろ」
魏 光「……はっ!? す、すいません。
    たまに気を抜くと発作が出ますので……。
    あ、それで、この野菜はオクラです。
    粘りと表面の毛が苦手という方もいますが、
    なかなか味はいいですよ」
金 旋「はぐ……。もぐもぐ。
    ふむ、確かに美味い。酒のつまみに良さそうだ」
魏 光「和え物やおひたし以外にも、天ぷらや汁物、
    炒め物や煮込み物など、和洋中問わず、
    本当に色々使えます。皆様もお試しください」
金 旋「……誰に向かって言ってるんだ。
    ところで、玉の食べてるデザートは何なんだ?」
魏 光「ええと、これは団子と果物を蜜で和えた上に、
    おぐ……お、おぐ……おお、おぐぐ……
    オグラにいさぁぁぁぁん!!
金 旋「小倉餡をかけた奴な、はいはい了解了解」
魏 光「やっぱり生きていたんだね! オグラ兄さん!
    来てくれると信じていたよ!」
金 旋「誰だよ」
魏 光「兄さんがいてくれれば心強いよ!
    いくよ! オグラチェェェェン!!
金 旋「餡を投げるな!」

    ☆☆☆

魏光の料理を堪能した父娘。
食後は茶を飲んでくつろいでいた。
そこに、新たな人物の影。

    鞏恋鞏恋

鞏 恋「……家族でお食事?」

金玉昼「あら恋ちゃん」
金 旋「鞏恋も腹減ったのか? 運がいいな。
    今ならば、ここにあるこのスペシャル美味料理、
    ……ただし残り物、が食べられるぞ」
鞏 恋「私は別に残り物でも気にしないし。
    ……じゃ、遠慮なく戴きます」

箸を取ってぱくり、と一口。

鞏 恋「……っ!! こ、この料理は……!!」
金玉昼「ど、どうしたにゃ」
金 旋「な、なんなんだ、急に怖い顔になって?」
鞏 恋「……これを作った奴を呼んで」
金玉昼「え?」
鞏 恋「この料理を作った人間を呼んで! 早く!」
金 旋「な、なんだ、よくわからんが……。
    魏光! ちょっとこーい!」

魏 光「はい、どうかしましたかー?
    ……え? 鞏恋さん?」
鞏 恋「この料理を作ったのはあんたかっ!」
魏 光「は、はいっ!? そ、そうですが」
鞏 恋「……そう。あんたが……」
魏 光「あ、あの、何か問題でもありましたか。
    一応、鮮度などにはかなり気を使って
    作ったつもりなんですけど……」
金 旋「おい鞏恋、これは俺の注文で作らせたんだ。
    つまり俺のための料理なのであって、
    別にお前の味覚に合わなくてもそれは……」
鞏 恋金ちゃんは黙ってて!
金 旋「は、はいっ!」
金玉昼「こ、こわー」
魏 光「そ、それで、私を呼んだのはどういう……」
鞏 恋「……お」
魏 光「お?」

鞏 恋「……おいしい」
魏 光「へ?」
鞏 恋「お、美味しいって言ったの!
    だから、その、もっとお代わりが欲しい」
魏 光「は……は、は、はいいいい!
    了解したでありますですっ!
    ただいまお代わりを大特急で作ります!
    少しだけお待ちをををををを!!」

 ずどどどどど

金 旋「……お代わり欲しかっただけか?
    別に頬を赤らめて言うほどのことじゃ……」
鞏 恋「いや、その。食べ物のお代わり頼むなんて、
    これまでほとんどしたことないし。
    物乞いしてるみたいで少し恥ずかしい」
金玉昼「それだけ美味しい料理だってことだにゃー。
    別に恥ずかしがることはないにゃ」

その後、美味しそうな匂いに釣られたのか、
他の将たちも次々にやってきた。

   甘寧甘寧   徐庶徐庶

甘 寧「お、今日は魏光が作ってくれるのか?
    それじゃ、五目焼きそば頼むわ」
徐 庶「じゃあ俺、ニラレバ炒め定食な」

   魯圓圓魯圓圓  雷圓圓雷圓圓

雷圓圓「じゃあ私はエビチリとチャーハンでー」
魯圓圓「え? 私? 私は……。
    そうね、中華丼が食べたいかな」

魏 光「ちょ、ちょっと、そんな注文されても……」
鞏 恋「別にいいじゃない。ほら、早く作る」
魏 光「え、ええええ!?」
鞏 恋「料理人の喜びは食べてもらってナンボ」
魏 光「い、いや、それはそうでしょうけども……」

有無を言わさず、皆の注文の品を作らされる魏光。
そして食事時になり。将官が次々にやってきてしまい、
結局、夜遅くまで腕を揮い続けることになった。

魏 光「な、鍋の振りすぎで、手首がもう
    腱鞘炎になりそうなんですけどっ!?」
鞏 恋「皆に喜ばれているんだから泣き言言わない。
    それとも、その筋肉は飾り物?」
魏 光「い、いえっ! いくらでもやりましょうともっ!
    こ、これも鍛錬修行のひとつだと思えば……!
    ぬおおお、マッスル鍋振りぃぃぃ!

期間限定の魏光食堂は大繁盛だった。

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