○ 第三十七章 「軍学の玉ちゃん 統率アップ編」 ○ 
219年3月

3月中旬。
楚軍軍師金玉昼の最後の締めの一手として、
金旋艦隊5万は烏林を出撃しようとしていた。

今回のこの艦隊は、闘艦や楼船は使わず、
蒙衝を中心とした機動力重視の編成となった。

   甘寧甘寧   朱桓朱桓

甘 寧「闘艦ではなく、蒙衝か」
朱 桓「のんびりしていては戦いが終わるからな。
    まず戦場に着くことが最優先ということかと」
甘 寧「ま、俺もこういう船で戦うのは嫌いじゃないが」

楼船や闘艦は弩や矢で戦うことが主になるが、
蒙衝での戦い方はそれとはまた違ってくる。

蒙衝はその船首に杭状のものを備えており、
敵艦に突っ込んで沈めたり、そのまま接舷して
乗り込み、斬り込む戦い方が主体となる。

甘 寧「第一次会戦の時は呉軍にまんまと騙され、
    今回は今までお預けを食ってたんだ。
    この鬱憤はさっさと晴らしたいものだな」
朱 桓「私とて古巣に負けた悔しさはある。
    そして今回は楚王の直属部隊、力も入るな」
甘 寧「うむ……。しかし……」

甘寧は、近くで出撃前の最終確認を行っている
楚王金旋の方を見た。

    金旋金旋

金 旋「よーし、準備は全て整ってるだろうな!
    忘れ物しても取りに戻るわけにはいかないぞ!
    トイレは今のうちに済ませておけよー!
    はっはっはー!」

甘 寧「バカにされていじけてたはずなのに、
    なんだ、あのハイテンションぶりは?」
朱 桓「いじけていた?
    準備してる時からあんな感じだったが?」
甘 寧「いや……その前のな、軍師が話してた時にな」

戦下手なのを皆に言われて(前章参照)
落ち込んでいたことを朱桓に話した。

朱 桓「……そんな話があったとは。
    しかし、それにしてはあの様子は……」
甘 寧「うむ、おかしい。何か自信を回復するような、
    そんなことがあったのだろうか?」

    下町娘下町娘

下町娘「それはですねぇ」
朱 桓「お、下町娘どの。何か知っているのか」
下町娘「あの話が終わった後にですね。
    金旋さまに玉ちゃんが発破掛けてたんですよ」
甘 寧「解散した後にそんなことが?」

 〜以下情景再現〜

   金玉昼金玉昼  金旋金旋

金玉昼「ちちうえっ! いつまでいじけてるのにゃ!」
金 旋「いいんだ、どうせ俺は戦がヘタクソさ。
    統率も平均以下のダメダメ野郎さ……。
    そんなアタイを笑うがいいさぁ〜」
金玉昼「ああ、もう。そう皆に思われているのを、
    打破するチャンスじゃないのー」
金 旋「そう言われたって、俺は統率44だぜオイ」
金玉昼「はあ。……わかったにゃ。
    では、秘密兵器を授けるとしますかにゃ」
金 旋「秘密兵器?」
金玉昼「ジャーン! これにゃ!
    『軍学の初歩』!!
金 旋「軍学の……初歩?」
金玉昼「そうにゃ!
    馬鹿でも分かるように書かれた軍学書!
    でも奥は深くて、全てマスターすれば
    誰でも軍学のエキスパートになれるのにゃ!」
金 旋「そ、そんなものがあるのか!?」
金玉昼「ふっふっふ。寄稿した先生方も超一流!
    徐庶さん、司馬懿さん、燈艾さんなどの
    現役軍略家が、分かりやすい内容で書いた
    傑作なのにゃー! あ、私も書いてるにゃ」
金 旋「なんと!?」
金玉昼「テキストはバインダー式で使いやすいのにゃ!
    一日20分の勉強で軍師検定にも合格!」
金 旋「す、すごい!」
金玉昼「現品限りのこの一冊!
    さあ、この書にいくらの値をつける!?」
金 旋「オオ!? い、一冊しかないのかっ!?
    で、では10万金でどうだ!」
金玉昼「10万金って……国庫から出す気かにゃ。
    ま、値をつける云々は冗談にゃ。
    これはタダであげまひる」
金 旋「た、タダだと!? いいのか!?」
金玉昼「いいも何も。
    これはちちうえのために作られたものにゃ。
    ちちうえの能力を底上げするための、
    特別アイテムなのにゃ」
金 旋「そ、そうなのか……皆が俺のために」
金玉昼「これで、統率は底上げができるはずにゃ。
    教唆のやり方も判りやすく書いてるから、
    敵の計略も見破れるようになるし」
金 旋「こ、これがあれば……。
    そこらの並みの将程度の活躍はできるな!」
金玉昼「頑張ってにゃ、ちちうえ!
    王の威厳を今こそ見せる時にゃー!」
金 旋「おうっ、任せておけい!」

 〜以上情景再現、終わり〜

下町娘「という感じで」
甘 寧「……その軍学の書。
    本当に、ちゃんと底上げされるのか?
    ただの気休めだったりしないだろうな」
下町娘「さあ? 中は見せてもらえないし」
朱 桓「流石に何もないということはなかろう。
    どちらにしろ、我々が上手く補佐すれば
    負けはしないはずだ」
下町娘「うん、そうですね。頑張りましょう」
甘 寧「……ちょっと待て。
    何で、そこでお前が頷くんだ?」
下町娘「失礼ですねえ。
    今回は副将として私も同乗するんですよ」
甘 寧「なんと!?」
下町娘「ある程度被害は出るだろうから、
    私の『治療』があると有効だろうって」
朱 桓「兵力の回復を狙って、ということか?」
甘 寧「……その『治療』なんだが、
    今まで発動したことはないんだろう?」
下町娘「こっ、今回はします! 多分!」
甘 寧「してくれると助かるな、本当に」

金 旋「ほらお前ら、もう時間だぞ!
    いつまでくっちゃべってる!」
下町娘「はーい」

甘寧、朱桓、下町娘、そして厳峻を副将に従え
金旋は旗艦に乗り込んだ。
その左手に『軍学の初歩』(※1)を抱え、
右手には『覇者の剣』(※2)を握っている。

(※1 馬鹿でも分かる軍学の書。統率+10&教唆)
(※2 覇者たらんとする者を導く。武力+8&奮闘)
<以上の2つは全て上級編移行時に導入した
 新作成アイテムになります>

現在の金旋の能力は、上記のアイテムに加え
詩経(※3)による補正が加わり、下のように
なっている。

統率:54 武力:74 知力:27 政治:38

(※3 五経の一つ、古代詩を集めたもの。知力+5)

金旋は剣を振り上げ、号令を発した。

金 旋「では、金旋艦隊! 出・撃・だっ!

  金旋艦隊出撃by紫電さん
illustrations by 紫電


    ☆☆☆

さて、陸口付近の戦場。
救援に駆けつけた徐庶隊が周泰隊に相対し、
魯圓圓らによって手痛い一撃を与えた頃。

    李厳李厳

李 厳「そろそろだな……」

李厳隊は少なくなった現在の兵力でも、
なんとか朱拠隊と渡り合っていた。
だが、残兵が3千にまでなってくると、
流石に退却の決断をしなければならなくなる。

   蒋欽蒋欽   鞏恋鞏恋

蒋 欽「大将、負傷兵の収容は大体終わった。
    退却命令を出せば、すぐ行動できる」
鞏 恋「そろそろ引き揚げないと危ない。
    一発大きいの食らえば、全滅するよ」

戦闘中に乗艦をやられ、この旗艦に移ってきた
二人の将が進言した。

李 厳「私もこれ以上は無理だと思っていた所だ。
    しかし、朱拠隊の兵力は7千にまで減らした。
    不利な状況からここまで頑張ったのだ、閣下も
    必ずお褒めの言葉を掛けてくださるはず」
鞏 恋「そんなことはどうでもいいから」
李 厳「わかっている。退却だ!
    すみやかに方向を転換し、引き揚げる!」

この命令によって、李厳隊は朱拠隊から離れていく。

朱拠隊も李厳隊を逃がす気はなかったのだが、
それまで受けてきた被害がひどく、
本気になって追えるだけの状態ではなかった。

李 厳「よし……これならば、
    背後を襲われることなく退却できる」

李厳が退却命令を出したタイミングは
間違ってはいなかった。
……相手が、朱拠隊のみならば。

楚 兵「御大将ーっ!! 大変です!」
李 厳「何事か!」
楚 兵「後方……いや、退却するので前方ですが、
    そこに周泰隊がっ!!」
李 厳「な、なんだと!
    相手をしているはずの徐庶隊は!?」

李厳隊の退却の時とほぼ同じくして、
周泰隊は徐庶隊の側面に回りこもうとして
李厳隊の進行方向を阻むような形で、
近くに移動してきていたのだった。

  おーじゃまじゃまじゃまーおじゃまんがー

   周泰周泰   朱治朱治

朱 治「大将! 李厳隊がいるぞ!」
周 泰「むっ……退却しようとしているのか!?
    このっ、そう簡単に退かせるものか!
    朱治どの、今はこちらにかかるぞ!」
朱 治「承知した!」

周泰隊は、通せんぼをするように李厳隊の前に
立ちはだかり、激しく攻撃を仕掛けてきた。

李 厳「こ、これでは退却できないではないか!」
蒋 欽「ど、どうやら、徐庶隊の正面からの攻撃を
    避けるために移動してたようですな……」
李 厳「ぬ、ぬうう……。頑張りすぎだ、徐庶!」

思わず恨み節を漏らす李厳。
しかし、そんなことを言ってみたところで
事態は好転するわけでもない。

楚 兵「御大将! 敵艦が突っ込んできます!」
李 厳「……避けろ! 当たったら終わりだ!」
楚 兵「無理です! 当たりますっ!」

 ずどーんっ!

李 厳「おおおっ!?」

李厳の旗艦は、敵艦の強攻を受けて大破。
船体に致命傷を受け、沈んでいく。

蒋 欽「総員退避ーっ! 沈むぞーっ!」
李 厳「くっ……ここまで来て、全滅かっ」
蒋 欽「大将、悔しいとは思うが。
    ここまでの頑張りは必ず評価されるはず。
    さあ、早く退避を!」
李 厳「うむ……」

周泰隊の朱治による強攻を受けてしまい、
李厳隊は残兵を失い全滅した。
李厳も乗船を失い、江上を泳ぐはめになる。

李 厳「あぷあぷ」
蒋 欽「大将、泳ぎは大丈夫ですかな」
李 厳「だ、大丈夫だ……。
    しかし、さっきから鞏恋の姿が見えないが。
    どこに行ったのだ?」
蒋 欽「あ、あそこに!」

蒋欽の指差した先には、水上仕様の春蘭に乗り、
江上を進む鞏恋の姿があった。

李 厳「こら鞏恋! 大将を置いて行く気か!?」
鞏 恋「これ、定員1名だから」
李 厳「だったら代われ!
    お前、泳ぎ得意だろうが!」
鞏 恋「それはシステム上、無理な話」
李 厳「システムってなんだー!?」
鞏 恋「じゃ、頑張って戻ってきて」

ざばざばざば、と春蘭は水を掻き、
鞏恋はそのまま行ってしまった。

李 厳「こらー! 待てー! 助けんかー!」
???「ふむ、助けてほしいのか?
    では、わしの船に乗るかね?」
李 厳「おお、助けてくれるのか!?
    どこの誰だか知らないが、ありがたい」
???「いやいや。どういたしまして」
李 厳「おおどうした蒋欽、浮かない顔をして。
    せっかく船に乗せてもらえるというのに、
    そんな顔をしていては失礼というものだぞ」
蒋 欽「大将……相手をよく見てくだされ」

    朱治朱治

朱 治「なに、礼には及ばんよ。
    ちょっと一緒に来てもらうだけでよいからな」
李 厳呉軍だーっ!?
蒋 欽「はぁ……捕らえられてしまうなんて」

全滅した李厳隊の将のうち、鞏恋のほか、
凌統、留賛は無事に烏林まで逃げ延びた。
だが、残りの李厳、蒋欽は捕らえられ、
周泰の艦の牢に押し込まれる羽目になった。

    ☆☆☆

李厳隊の全滅は、徐庶隊からも確認された。
周泰隊を退路に追い込んでしまった形になり、
徐庶はばつが悪そうに頭を掻いた。

    徐庶徐庶

徐 庶「李厳にゃ悪いことしちまったな」
楚 兵「しょうがないですよ、あれは。
    御大将がわざとあっちに行くようにした
    わけじゃないんですし」
徐 庶「まあ、そうなんだけどな。
    ……よし、周泰隊があっちを向いてる隙に、
    こっちは朱拠隊を叩くぞ!」

徐庶隊は、数の減った朱拠隊を攻撃。
朱拠隊の全滅まではいかなかったものの、
退却させるまでには追い込んだ。

  朱拠退却

楚 兵「退却していきます。追いますか?」
徐 庶「いや、ほっとけ。逃しちゃならないのは
    李厳隊の負傷兵を抱え込んだ周泰隊の方だ」
楚 兵「はっ、わかりました」
徐 庶「……夜になるな。今日はここで休憩するぞ。
    全ての艦に休みを取るように伝えろ」
楚 兵「了解です」
徐 庶「それと、そうだな。諸将を呼んでくれ。
    直に指示を出したい」
楚 兵「はっ」

夜になり、休憩を取る徐庶艦隊。
金満は徐庶に呼ばれ、旗艦まで出向いてきた。
そこで、先に来ていた孔奉と鉢合わせる。

   金満金満   孔奉孔奉

金 満「あれ、孔奉将軍じゃないですか」
孔 奉「……(ぺこり)」
金 満「貴殿も徐庶大将に呼ばれたのですか?
    あ、もう用事は済んだのですか」
孔 奉「……(こくこく)」
金 満「今回の孔奉将軍の働き、見事なものです。
    私も負けていられませんね」
孔 奉「……(照れ)」
金 満「それにしても……。
    いつ見てもすごい筋肉ですねえ」
孔 奉「……(むふん)」
金 満「いや、別にポージングしなくてもいいんですが。
    でも、本当に逞しい身体で羨ましいですよ。
    私なんてこんなヒョロヒョロですから」
孔 奉「……(きゅぴーん☆)」
金 満「え? 私が鍛えてさしあげる?
    い、いや、でも私は虚弱体質ですから。
    あまりハードなのは……」
孔 奉「……(ふむ)」
金 満「骨折歴も結構ありますしね。
    手っ取り早くて、それでいて楽に鍛えられる、
    そんな方法があればいいんですけどねえ」
孔 奉「……(にやり)」
金 満「え……なんですか、これ。
    薬? これを飲めばすぐに筋肉がつく?」
孔 奉「……(びっ)」
金 満「い、いや、にこやかに親指を立てられても。
    薬に頼るっていうのはどうかと思うんですが。
    ……え、ちょ、ちょっと、何するんですか!
    そんな、大丈夫だって言われても!
    も、もがー! あがあがあが

孔奉は金満を抑え込み、彼の口に手にしていた
薬(カプセル錠剤)をザラザラと流し込んだ。

金 満「うっ……苦くてすっぱくて辛くて渋くて
    そのくせほんのり甘い……」
孔 奉「……(ふふん)」
金 満「魏光どのはこの薬であの見事な筋肉を得た?
    マジですか。じゃあ、私もあんな風に?」
孔 奉「……(こくり)」
金 満「それはそれでちょっと期待してしまうかも……。
    うぐっ!? な、何か、な、何かが来る!
    来ちゃう! 来ちゃうのぉぉぉん!
孔 奉「……(ごくり)」

はたから見れば『ヤバイ薬でキマッてる』感じだったが、
孔奉はそのまま見守り、その症状が治まるのを待った。

だが、症状が落ち着いて静かになっても、
金満の身体に変化はなかった。
……というよりむしろ、以前よりも痩せたような。

金 満「な、なんだか……力が……。
    ち、力が、入らないんですが……。
    それにどう見ても、腕が細くなってるような……」
孔 奉「……(あせあせ)」
金 満「た、体質に合わなかったかも、ですって?
    な、なんてことを……筋肉がつくどころか、
    少ない筋肉が、余計になくなりましたよ!?」
孔 奉「……!(だっ)」
金 満「あっ、逃げるなぁ!
    も、元に戻せ……うっ、バランスが。
    くそぉぉ、身体に力が入らないぃぃぃ」

以前から痩せ型で頼りない感じだった金満だが、
これの後はさらにもっと痩せてヤバイ風体に、
言うなれば『キャシャリーン』な感じの見た目に
なってしまった。

しかし、戦闘は待ってはくれない。
この翌日以降も、呉軍との戦いは続いていく。

李厳隊を倒し李厳・蒋欽らを捕らえ、
士気が上がっている周泰隊。
徐庶隊の攻撃を受け兵力を減らしながらも、
まだまだ士気の高い状態を維持していた。

    周泰周泰

周 泰「敵艦隊の横へ回り込み、側面を討つんだ!
    こちらの機動性を活かすのだ!」

  周泰VS徐庶

徐 庶「ちっ、周泰め……。
    あくまで頭には仕事をさせないつもりか。
    ならば……よし、こちらは急速後退だ。
    いいか、奴らの接近に驚いた風を装えよ!」

『双頭の蛇』の頭が2つが揃う正面を避け、
なんとか横から攻撃を仕掛けようとする周泰。
それに対する反撃を考えた徐庶は、自分のいる胴、
金満のいる尾による半包囲攻撃を選んだ。

  徐庶の知略

胴をへこませ、空いた部分に周泰隊を引き込み、
同時に尾を押し上げて同時攻撃を狙う。

徐庶の作戦は、見事に当たった。
周泰隊は一気に叩こうと迷わず直進し、
徐庶の反撃のポイントまで誘い込まれてしまう。

周 泰「……こ、この動きは!?
    しまった、敵に図られたかっ!」

周泰が徐庶の意図に気付いた時には、
すでに楚軍の反撃体勢は整いつつあった。

徐 庶「ぼっちゃん! 連携して敵を叩くぜ!」
金 満「ぼっちゃんはやめてください!」
徐 庶「へいへい、それじゃ金満!
    俺の方と合わせて矢嵐だ!」
金 満「矢嵐、ですか」
徐 庶「そちらに合わせてこちらも放つ! 頼むぜ!」
金 満「わ、わかりました! 任せてください!
    ……よし、私の弩を!」
楚 兵「はっ、これに!」

金満は弩を渡され、それを構えようとする。
だが、薬の影響で筋肉のほとんどない今の状態では、
彼用に軽量化されてるその弩すら満足に持てなかった。

金 満「お、重い……! 孔奉どの、恨むぞぉぉぉ」
楚 兵「だ、大丈夫ですか?」
金 満「だ、大丈夫だ……なんとかする。
    私が撃たないと、皆が撃てないから」
楚 兵「わ、わかりました」

兵法発動時には、まず大将が目印の矢を放ち、
兵たちがそれを目標に続いて放つ。
そのため、大将には弓・弩の腕が要求されるのだ。

金 満「集中だ……集中するんだ。
    力を入れるのは一瞬だけでいいんだ。
    その瞬間に力を込め、弩を放つ……」

金満は目を閉じて精神を鎮め、集中する。
そしてカッと目を開いて、弩を構えた。

 ムキムキムキッ

楚 兵「いっ!?」
金 満いけぇ!

ばひゅん、と弩から矢が放たれた。
矢は、向かい合う敵艦の艦橋に突き刺さる。

それを目印に、金満の艦や他の艦から
大量の矢が放たれ、敵艦隊に降り注いだ。
徐庶側からも同様の攻撃がなされ、
周泰隊の損害を大きくしていく。

金 満「よし、成功だ! 上手く連携できたぞ」
楚 兵「は、はあ……あの、将軍。
    今、弩を放つ時、いきなり筋肉が……」
金 満「は、筋肉? 何を言ってるのか」
楚 兵「えーと……。今は元の状態ですよね。
    いや、わからないならいいです」
金 満「???」

だが、その兵士は確かに見ていた。
撃つ瞬間、金満の痩せた腕や胸が急に盛り上がり、
筋肉ムキムキの状態になったのを。
そしてすぐ元に戻り、金満の身体から
何かがすーっと抜けていったことを。

楚 兵「……もしや、あれが伝説のマ神?
    だとしたら、凄いものを見てしまった」
金 満「何をボーっとしているんだ。
    敵への攻勢を強めるんだ!」
楚 兵「は、はっ! 了解しました!」

だが、彼はふと思った。
ムキムキの筋肉があっても、弩を撃つのには
大して意味を為さないんじゃないか、と。

彼は今の出来事を、『金満将軍筋肉大召喚事件』として、
自分の心の中にしまっておくことにした。

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