○ 第三十六章 「才あるもの」 ○ 
219年3月

3月上旬。烏林から出撃していた徐庶艦隊は、
呉の艦隊と李厳艦隊の争う戦場に到着した。

   徐庶艦隊到着

李厳隊は大きく戦力を削られていたが、
士気も高くよく戦っていた。

    徐庶徐庶

徐 庶「李厳はしっかり持たせてるみたいだな。
    よし、李厳隊に伝令を送れ。
    『よく頑張った、後は任せろ』とな」
楚 兵「はっ!」

李厳隊にその伝令を送ったところ、
すぐに返事が返ってきた。

楚 兵「李厳将軍からの返事が来ました!」
徐 庶「よーし、読め」
楚 兵「はっ……『救援、感謝する。
    しかしながら我が隊はまだ戦える。
    ギリギリまでは頑張るつもりだ』」
徐 庶「はあ!? ちょっと待てや!
    もう兵数も6千切ってるだろが!」
楚 兵「わ、私に言われましても……」
徐 庶「……うーむ。今ここで退却したら
    手柄を全部取られるとでも思ってるのか?
    まあ、兵の士気自体は高いみたいだから、
    もうしばらくは戦えそうではあるが……」
楚 兵「どうなさいますか?」
徐 庶「ま、やりたいなら好きにやらせてやれ。
    頑張るって言ってるのに水を差すこともない。
    こっちはこっちで仕事するだけだ」

徐庶隊は李厳隊の横を抜け、周泰隊の方へ回った。
数の少ない朱拠隊は李厳隊にしばらく任せ、
数の多い周泰隊は自分たちが叩こうという腹か。

徐 庶「ようし、一気に片付けるぞ。
    『双頭の蛇が獲物に食らいつくかのように、
    左右から周泰隊に襲いかかれ』と、
    前線の魯圓圓、孔奉に伝えろ」
楚 兵「はっ、承知しました。雷圓圓将軍には?」
徐 庶「雷圓圓は中央で蛇の胴体役だ。
    頭よりも一歩引いたところで戦うようにと、
    そう伝えて……」

伝 令「御大将……雷圓圓将軍より伝達です」
徐 庶「あ? 何かあったのか?」
伝 令「はあ、その……お伝えします。
    『しばらく魯お姉さまと一緒にいますので、
    中央の分隊は徐庶さんにお任せしますぅ』
    ……とのことです」
徐 庶「はあ!? 何様だアイツは!?
    自分の持ち場を放棄するたぁいい度胸だ!」
楚 兵「お、御大将。
    このままでは胴体部分を指揮する者が」
徐 庶「わかってる。
    しょうがない、胴体は俺が担当しよう。
    後は、後詰に回っている金満どのを少し前に
    出させておけ。これで対応できるはずだ」
楚 兵「は、了解であります」
徐 庶「それとだ。雷圓圓には、魯圓圓のところで
    そのまま一緒に戦えと伝えろ。
    どこにいるか判らなくなるよりはマシだ」
伝 令「はっ!」
徐 庶「しっかし、雷圓圓の奴!
    自分勝手なことをしてくれるじゃないか!
    後でおしおきしてやらないとならないな!」
伝 令「雷将軍に……」
楚 兵「おしおき……」

 ……もわもわもわ……

   徐庶徐庶   雷圓圓雷圓圓

徐 庶「全くなんてことをしてくれたんだ!
    こりゃ、もう身体に教え込んでやらないと
    わからないみたいだな!」
雷圓圓「あ、あうう……ごめんなさいぃぃ」
徐 庶「ダメだな。言うことを聞けない奴には、
    ちゃんとおしおきしてやる必要がある。
    まずはこのムチだっ!」

 びしっ ばしっ

雷圓圓「はううっ……痛いです……」
徐 庶「ふん、痛いだけじゃ済まないぞ。
    今度はこのロウソクを使ってやる」

 ぽたぽた

雷圓圓「あっ! あつっ! 熱いっ!」
徐 庶「はっはっは、ロウを垂らすだけじゃないぞ。
    このロウソクをこの穴に突っ込んでやる」
雷圓圓「えっ……だめ! それだけはやめてぇ!
    そ、そこは後ろのっ!」

 ……もわもわもわ……

徐 庶「何が『そこは後ろのっ』だ、バカ野郎」
楚 兵「はっ!? く、口に出ていた!?」
徐 庶「口に出てたも何も……。
    二人でSMボイスドラマをやってたぞ?」
伝 令「ええっ!? 気付かなかった!」
徐 庶「……二人ともさっさと伝えにいけ!
    早くしないと今言ってたようなことを
    実際にお前らにやってやるぞ!」
伝 令「そ、それだけはご勘弁を! ではっ!」
楚 兵「早速行ってきます!」
徐 庶「ダッシュで行け、ダッシュで!」

数に勝る徐庶隊は、双頭の蛇の陣形を取った。
二つの頭に魯圓圓(&雷圓圓)と孔奉を置き、
胴体に徐庶、尾に金満が控える。

 双頭の蛇

迫る徐庶艦隊を目にして、周泰隊も陣形を整える。
大将である周泰は、徐庶隊の取っている陣形を
双頭の蛇であると見抜いていた。

   周泰周泰   朱治朱治

周 泰「あれは双頭の蛇だな。
    以前、周瑜どのに聞いたことがある」
朱 治「双頭の蛇? なんじゃそれは」
周 泰「あの二つの分隊が蛇の頭だ。
    で、一歩引いた中央が胴体、その後ろが尾。
    片方の頭に向かっていくと、その間に
    もう一方の頭が横腹に食らいついてくる」
朱 治「ふむ、やっかいだな。
    ならば、中央突破で胴体を突くべきか」
周 泰「いや、中央に入り込むと包囲殲滅される。
    そんな分の悪い戦い方をするよりは、
    片方の頭を速攻で潰し、そのまま横に
    回り込んでいった方がいい」
朱 治「片方の頭を速攻で潰す……なるほどな。
    で、どっちの頭にかかるのだ?」
周 泰「ううむ……右の頭はあれか……」

    孔奉孔奉
    ムキムキーン

朱 治「で、左の頭はあれ、と」

    魯圓圓魯圓圓
    シャラリラーン

周 泰よし! 左に大・決・定!
朱 治「異議なーし!」

周泰は目標を魯圓圓に定め、部隊を急進させる。
その様子を、対する魯圓圓も観察していた。

    魯圓圓魯圓圓

魯圓圓「こちらに来たか。ま、孔奉どのと比べたら、
    私の方が弱そうに見えるんでしょうけど」

    雷圓圓雷圓圓

雷圓圓「強い弱いだけじゃないと思いますです。
    若くてピチピチしたお姉さまを間近で見たい、
    そういう願望も働いてる気がしますよ」
魯圓圓「いやあ、いくら男であっても、
    戦場でそんな気を起こすものかしら」
雷圓圓「謙遜しなくても大丈夫です!
    お姉さまはふぇろもんムンムンです!」
魯圓圓「ちょっと微妙な褒められ方だけど、
    まあ、悪い気はしないからいいか……。
    って、雷!? 何でここにいるの!?」
雷圓圓「はい?」
魯圓圓「あなたは中央担当でしょうが!
    そっちの指揮はどうしたのよ!」
雷圓圓「お姉さまと一緒にいたかったので、
    徐庶さんに預けてきましたー」
魯圓圓「バカ! 楚の将たる者が、
    そんなワガママ言ってどうすんの!」
雷圓圓「バカってなんですかー。
    バカって言う人がバカなんですよう。
    それに、徐庶さんから承諾は得てます!」
魯圓圓「……そうなの?」
雷圓圓「はい! (事後承諾だけど♪)
    お姉さまの所で一緒に戦えと言われてます」
魯圓圓「はあ。面倒を押し付けられた気がする……」
雷圓圓「で、あれが敵さんなのですね」

ざばざばと波を立てて向かってくる周泰隊。
この前に李厳隊と戦っていたとはいえ、
兵の士気の衰えはそれほどでもない。

呉兵A「おなごの率いる隊なんぞ怖くねえぞ!
    おなごなんぞ、わいのポチョムキン号で
    ヒイヒイ言っとればいいんじゃ!」
呉兵B「お前、それ……。
    後で孫尚香さまに聞かれたら酷い目に遭うぞ?
    お前がヒイヒイ言わされても知らないからな」

魯圓圓「やっぱり嘗められてるようね」
雷圓圓「黙って聞いてれば好き放題言ってくれますね。
    ここはちょっとお返ししておかないと!
    やい、この呉軍のひょっとこども!」
    私は楚軍の戦う美少女メイド、雷圓圓!」

周 泰「美少女……美の少ない女?

雷圓圓「び、美の少ない……!?
    こ、こんな可愛い私に向かって失礼な!」
魯圓圓「自分で可愛いっていうのはどうかと……」
雷圓圓「……コホン。
    とにかく、貴方たちの野望もここまでよ!
    この私と魯圓圓お姉さまとで力を合わせ、
    貴方たちを奢って差し上げますわ!
    覚悟しなさい! おーっほっほ!」

周 泰「おごる? 何を?」
呉 兵「勝利の美酒とかでしょうか?」

魯圓圓「……あのさ、奢る(おごる)じゃなくて、
    屠る(ほふる)って言いたかったんじゃないの?」
雷圓圓「そ、そうともいいますね! あーとにかく!
    あなたたちを揚子江のもずくにして、
    美味しくいただいちゃいますからねぇっ!」
魯圓圓「もずく……藻屑の間違いでしょ?」
雷圓圓「あ、これはいいんですよお姉さま。
    もずくじゃないと食べられませんから」
魯圓圓「え? あー、確かに藻屑は食べられないし、
    そうなるともずくで正し……え?」
雷圓圓「ちなみにもずくは三杯酢が定番ですが、
    天ぷらでいただいても美味しいですよー。
    ちなみに、もずくのぬめりは『フコイダン』
    というもので構成されており、これを食べると
    胃とか腸とかが健康になるんですよー」
魯圓圓「そんなムダ知識は今はいらないの!
    とにかく、目の前の敵をどうやって倒すか!
    今はそれに集中しなさい!」
雷圓圓「お姉さま、そんな風にカリカリしてると
    そのうち貧血で倒れますよぅ」
魯圓圓「誰のせいだと思ってるのよーっ!
    ……うっ、叫んだらめまいがしてきた」
雷圓圓「『貧血予防には鉄分を取れ』て言いますけど、
    赤血球を作るためには、実はたんぱく質も
    必要なんですよー」
魯圓圓「た、頼むから、ちょっと黙りなさい……」

周 泰「はっはっは! 何の漫才だそれは!?
    お前たちがそうやって漫才をしている隙に、
    こちらはもうここまでやってきたぞ!」

楚 兵「魯将軍! 周泰が迫ってきました!
    今にもこちらに斬り込んできそうです!
    どう致しましょう!?」
魯圓圓「ほら! あなたとムダな話をしてる間に
    もうこんなことになってるじゃない!」
雷圓圓「お姉さま、落ち付いてくださいよう。
    ほらほら、よく言うじゃないですかあ。
    『ピンチはチャンスだチェンジマン』って」
魯圓圓「……チェンジマン?」
雷圓圓「そーです、苦しい時こそ見せ場なんです。
    さあ、私たちもチェンジマンに負けないように
    頑張りましょう!」
魯圓圓「……さっきまでふざけてた癖に、何言ってるの」
雷圓圓「ふざけてませんですよう!
    いつも私は何事にも大真面目です。
    一球入魂全力投球です!」
魯圓圓「はあ……それはそれでタチ悪いんだけど。
    で、どうやってこの場を頑張ればいいの?」
雷圓圓「私に聞いても困りますよ」
魯圓圓「……聞いた私が馬鹿だったわ」

周 泰「よーし、まだ漫才を続けているぞ!
    この隙に斬り込めい!」
呉 兵「了解であります!」

魯圓圓「ああもう! こうなったら……
    雷! あなた、敵を混乱させなさい!」
雷圓圓「え、混乱? ……どうやって?」
魯圓圓「どうやってって……。
    混乱の兵法を習得してるんでしょ!
    なんでもいいから、早く!」
雷圓圓「どんな手を使ってもいいんですか?」
魯圓圓「そう、何でもいいから!
    とにかく敵の動きが止められれば……!」
雷圓圓「わかりましたぁ!
    やい、この呉のおたんこなすどもー!
    この私の超秘技を見やがれい!

そう叫ぶと、雷圓圓は一本の糸を取り出し、
目に見えない早さでその『技』を放つ。

雷圓圓「……ふっ、決まった」
魯圓圓「決まった、って何が……ええっ!?」
雷圓圓「これぞ、秘技『白糸ぬがし』!!

 雷白糸ぬがしby紫電さん
illustrations by 紫電


雷圓圓「説明しよう! 『白糸ぬがし』とは!
    糸を目標に巻きつけ、それを引くことにより
    一気に身につけているものを脱がす荒技だ!
    危険だから見ている皆は真似しちゃダメだぞ!」
魯圓圓「真似なんかできるかーっ!」

さて、その様子を見ていた周泰隊では……。

周 泰なんとおおおおお!?
呉 兵ぶはっ!?

 周泰度肝抜かれby紫電さん
illustrations by 紫電


大混乱に陥った。

雷圓圓「やりましたよお姉さま! 敵は大混乱です!」
魯圓圓「な、な、なんてことしてくれるのよ!
    こ、こんな方法で混乱させなくとも……」
雷圓圓「お姉さま、隠している暇なんてないですよ!
    敵の混乱が解ける前に、早く!」
魯圓圓「くっ……! もうヤケよおおおっ!

魯圓圓は弩を構え、敵艦に向けて矢を放っていく。

魯圓圓「(そうよ、考えている暇などないわ!
    私の力を、鞏恋お姉さまに鍛えていただいた
    この射撃の腕を! 今こそ皆に示す時!
    見ていてくださいお姉さま……!
    魯圓圓はやってみせます!)」
雷圓圓「真面目な顔でモノローグ語っても、
    すっぽんぽんじゃ間抜けなだけですよぉ」
魯圓圓誰のせいだと思ってるんじゃい!

周 泰「ぬううっ!? 思わず目を奪われてしまったが、
    その混乱の隙にここまでの攻撃をっ!?」
朱 治「外見に惑わされて与し易いと思っていたが、
    それは間違いだったということかっ!?」

雷圓圓によって混乱を受け、それによって生じた隙に
魯圓圓の怒りの矢嵐を浴びた周泰隊。
その混乱状態のまま、今度は右からやってきた
孔奉に側面を突かれてしまう。

    孔奉孔奉

孔 奉「……(ムフーッ)」

周 泰「むっ……あ、あいつめ!
    これみよがしにポージングなどしおって!
    筋肉なら私とてまだまだ負けてはおらんぞ」
呉 兵「御大将! 脱いでる暇などありません!
     このままだと数で圧倒されてしまいます!」
周 泰「くっ、筋肉勝負をする暇もないとは!
    予定変更だ、相手に構わず外へ回り込め!
    この際、多少の被害は仕方がない」

   周泰、外へ回り込み

周泰は隊の混乱を収拾し、攻撃を受けつつも
なんとか徐庶隊の側面に移動していった。

金旋らに心配されていた徐庶隊の面々だったが、
今のところは満足のいく戦いをしていた。

    ☆☆☆

場面は戻り、烏林。
魯圓圓らの実力に疑問を出した甘寧らに、
金玉昼が解説をしていく。

   金玉昼金玉昼  金旋金旋

金玉昼「魯圓圓、雷圓圓、孔奉。
    この3人には、ある共通する事があるのにゃ」
金 旋「抜擢された将だってことか?」
金玉昼「まあそれも不正解じゃないんだけども。
    正しくは『相性値がほとんど同じである』
    ということにゃ」
金 旋「相性値?」
金玉昼「そう。武将間の相性というものにゃ。
    その相性値がより近いほど、兵法発動時の
    連携も起きやすくなる。
    つまり、その部隊はより強くなるということ」

   下町娘下町娘  魏光魏光

下町娘「そういえば確か……その3人は皆、
    鞏恋ちゃんに鍛えられたのよね」
魏 光「なるほど……。
    皆、師匠である鞏恋さんに近い相性になる、
    ということなのでしょうか?」
金玉昼「抜擢された将の相性が近くなるというのは、
    また別の要因があるとも思われるけども。
    とにかく、この3人は連鎖しやすい。
    だから安心、というわけにゃ」

   甘寧甘寧   鞏志鞏志

甘 寧「ちょ、ちょっと待ってくれ。
    いくらあいつらの連鎖率が高いとはいえ、
    水軍を率いたことはほとんどないはずだ。
    それでは熟練者には敵わないだろう?」
鞏 志「そうです。
    陸戦ならば軍師の言う通りにもなりましょうが、
    今回は水軍での戦い。勝手が違います」
金玉昼「ふっふっふ……。
    そう言われると思っていたにゃ。
    確かに彼女らが将として水軍を率いたことは
    以前に副将として1回あるくらいで、ほとんどない。
    しかし、それを補うだけの『才』!
    それが彼女らにはあるのにゃ!」
甘 寧「才……!?」
金玉昼「ま、素質・資質だにゃ。今は及ばないにしろ、
    経験さえ積めば、甘寧さんにも匹敵するほどの
    提督になれるかもしれない。
    それくらいの素質を彼女らは持っているのにゃ」
金 旋「そ、それほどの才能があったとは……!」
金玉昼「さらに、どこで経験したか知らないけども、
    現在でも彼女らの水軍熟練はウチの中では
    高い方なのにゃ」
甘 寧「そう言われてみれば……。
    前に見た時に、妙に手馴れていたような」
金玉昼「その彼女らの持つ水軍の隠れた才、
    そして徐庶さんの持つ知略・統率、
    さらに金満が敵計略を見抜く教唆を持つ。
    となれば、いくら呉の水軍が相手であっても
    そうそう遅れは取らないにゃ」
金 旋「うむ、見事だ玉!
    そこまでのことを考えていたとはな!」
鞏 志「しかし閣下。先の第一次陸口会戦では、
    我が方は有利な条件でありながら、
    敵の戦術にやられて敗戦を喫しています。
    勝った気になっていると、足元を掬われるやも」
金玉昼「はい、そこで仕上げの一手にゃ!」
金 旋「まだあるのか?」
金玉昼「そう、鞏志さんの言うようにまだまだ何があるか
    わからないにゃ。そこで駄目押しするため、
    とっておきを出して終わりにするのにゃ」
金 旋「ほほう、とっておき……。それは?」
金玉昼「それは……」

金玉昼は金旋を指差した。

金 旋「え? 俺?」
金玉昼「そう。最後のスペシャル切り札……。
    それはちちうえ自らが出陣し戦うこと!」

その金玉昼の言葉を聞いた金旋以外の者たちは……。

甘 寧「おいおい軍師! 冗談はよしこさんだぜ。
    そんな馬鹿な話があるか」
鞏 志「そうです。今は真面目にやってください」
下町娘「金旋さまが切り札なんて。
    天地がひっくり返っても有り得ないって」
魏 光「それ笑えませんよ。冗談を言うにしても、
    もう少しいいネタがあるでしょうに」

散々な言い様だった。

金 旋「……おまえらなぁ、俺は一応君主なんだぞ。
    もうちょっと遠慮した言い方しろよ」
金玉昼「そりゃまあ、ちちうえが戦下手だってことは
    すでに皆が知るところだけども」
金 旋「玉まで!?」
金玉昼「でもこれは冗談なんかじゃなく、本気にゃ。
    ちちうえのその戦下手が、かえって今は
    武器になるのにゃ」
下町娘「それってどういうこと?」
金玉昼「すでに、徐庶隊を投入したことにより、
    完全にこちらが有利に立っていまひる。
    つまり、少しの補助戦力を投入するだけで
    もう勝負は決まりまひる」
甘 寧「ふむ……要するにこれから投入するのは、
    別に強い部隊でなくてもいいと」
鞏 志「しかし、弱い部隊では消耗が大きくなります。
    やはり損害を最小にするためにも、
    戦が下手くそな閣下を投入するのは……」
金 旋「鞏志……お前、俺の忠実な臣下だよな」
鞏 志「はい。私は閣下のためだけに働いています。
    ですが! 閣下の戦が下手だということは、
    もう動かしようもない事実です!」
金 旋「…………(いじいじ)」
下町娘「あ、隅の方で『の』の字書いてる」
魏 光「あれは放っておいて、話を続けましょう」

金旋を除いた者たちで話が進められる。

下町娘「で、弱くてもいいというのはわかったけど。
    金旋さまの戦下手が武器になるっていう、
    その意味は? 強い方がいいじゃない」
金玉昼「ちちうえが戦下手だということは、
    すでに敵も味方も皆が知っていまひる。
    そのため、今回の出撃で大被害を受けても
    『まあ、金旋だし当然か』で済むのにゃ」
鞏 志「やられた時の保険だということですか?」
金玉昼「まあ、そういうことだにゃ。
    逆に、ちちうえの部隊が予想以上に活躍すれば
    『金旋でもこの強さなら、楚の水軍は本当に凄い』
    という世間の評価を得ることができまひる。
    つまり、どっちに転んでも構わないのにゃ」
甘 寧「しかし、弱い部隊を出すことには反対だ。
    みすみす被害を増やすことはない」
金玉昼「そこで、副将には甘寧さんと朱桓さん、
    この二人をつけて強さを補いまひる」
甘 寧「うむ、それならよし!」
鞏 志「……単に自分が出たかっただけですね」
魏 光「わ、私は?」
金玉昼「魏光さんはダメにゃ。
    水軍の才能はないのがはっきりしたから」
魏 光「がーん……」

魏光は金旋と並んで『の』の字を書き始めた。

金玉昼「とにかく……。
    この一手で完全に勝利を得られまひる。
    ちちうえの望む『最強の楚水軍』の世評も得て、
    そして、私もあの人に一歩近付けるのにゃ」

ちなみに、その頃のあの人は。

    司馬懿司馬懿

司馬懿「……(ぷちっぷちっ)」

   郭淮郭淮   満寵満寵

郭 淮「し、司馬懿どのが、無言のままで
    巣から出てくる蟻を一匹一匹潰している!」
満 寵「なんて暗くて残虐な行為だ!」

仕上げの一手として、金旋を出撃させる金玉昼。
果たして思惑通りに事は進むのか?

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