○ 第二十八章 「孫を分かつ」 ○ 
219勢力地図
219年1月

楚国、江夏郡夏口。
正月を迎え、祝賀の宴の席についた諸将の前に、
一人の若い将が現れた。

    金胡麻金胡麻

金胡麻押ッ忍! 俺の名は金胡麻だ!
    ここの軍は今日から俺が仕切らせてもらう!
    てめえら、覚悟しやがれ!」

 シーン (あまりのことに静まり返る諸将)

金胡麻「へっへっへ、驚いて言葉も出ねえみてえだな」

    金目鯛金目鯛

金目鯛この馬鹿が!

 ボコッ

金胡麻「あいてっ、何すんだよ親父!
    最初が一番大事だ、絶対に相手に嘗められては
    いけないんだって言ってただろうが!」
金目鯛「味方相手にそういうことはしないんだ!
    見ろ、皆がポカーンとしているじゃないか!」
金胡麻「ちっ、そんなの先に言えよ」
金目鯛「……みんなスマン、これが俺の不肖の次男だ。
    見ての通りの馬鹿だがよろしくやってくれ」
金胡麻「俺以上の馬鹿に馬鹿呼ばわりされたくないね」
金目鯛「……このっ!」

   費偉費偉   魏延魏延

費 偉「ま、まあまあ金目鯛どの。
    今日はめでたい正月であるし、また金胡麻どのの
    お披露目の席でもある。ここは穏便に」
魏 延「覇気があってよいではないか。
    そう目くじらを立てて怒ることもあるまい」
金胡麻「そうそう、怒りすぎで血管切れるぞ」
金目鯛「……っ! むぐぐぐ」
費 偉「と、というわけで、金胡麻どのも成人し、
    我が軍の将として登録されました。
    皆も指導や助言など、よろしくお願いします」
金胡麻「へへっ、そいじゃあ夜露死苦!」

金満 [キンゴマ]
金胡麻(醤油)
性格:猪突
信念:大志
(架空)
(205年生)
統率:79
武力:90+3
知力:58
政治:54
兵法:突破、突進、突撃、罵声、(騎射)

その後、金胡麻は楽進の死後空いていた
右将軍の爵位を受けることになった。
これは金目鯛よりも上の爵位になる。

金胡麻「へへー、親父! あんたはこれで、
    俺に命令することはできなくなったわけだ!
    どうだ〜、くやしいか〜? へへーん」
金目鯛「別に俺が命令することはない」
金胡麻「ありゃ。妙に物分りがよくなったじゃん」
金目鯛「その代わり、それを燈艾どの、魏延どのに
    お願いして命令してもらうだけだからな」
金胡麻「ああっ、きったねーぞ親父!」

何はともあれ、新戦力が一人入った。

    ☆☆☆

さてその頃、洛陽では……。

   司馬孚司馬孚  司馬懿司馬懿

司馬孚「我が子である望が成人しました。
    これからよろしくお願いします」
司馬懿「私の甥にも当る者です。
    皆には、厳しい指導をお願います」

    司馬望司馬望

司馬望「司馬望です。宜しくお願い致します」

   郭淮郭淮   楽淋楽淋

郭 淮「父司馬孚どのに似たのか、聡明であるらしい」
楽 淋「ふむ、才能というのは遺伝するのですかな」
司馬懿「……それともうひとつ。訃報があります。
    田疇どのが先頃、亡くなられたそうです」

   于禁于禁   李典李典

于 禁「田疇が……?」
李 典「確かまだ50歳くらいだったろうに」
司馬懿「田疇どのは貴重な教唆要員でした。
    代わりをそのまま務められるとは思いませんが、
    司馬望には彼の役を引き継いでもらいたい」

   韓遂韓遂   満寵満寵

韓 遂「……(要するに、田疇の役職を司馬望に与える、
    ということであろうが……)」
満 寵「どうしました、何やら不満顔ですが」
韓 遂「いや、別に」
司馬懿「では、連絡事項は以上です。
    この宴が終わった後、各将はそれぞれの持ち場に
    戻ってください」

司馬孚の子、司馬望が成人した。
そのすぐ後に、田疇の死で空いた郎中の爵位が
彼に与えられたのだった。
なお、これは司馬懿から金旋に強い推薦があったから
だと専ら言われている。

    ☆☆☆

さて、楚軍本拠の烏林も正月を迎えていた。

   金玉昼金玉昼  下町娘下町娘

金玉昼「あ、町娘ちゃーん。
    あけましておめでとうございまーす」
下町娘めでたいことなんてあるもんかー!
金玉昼「……ど、どうしたのにゃ?」
下町娘「なんにも悪いことなんてしてないのに!
    なんで毎年歳を重ねなくちゃなんないのーっ!」
金玉昼「あー、そうだったにゃ。
    町娘ちゃん、今年でさんじゅむぎゅ」
下町娘「玉ちゃん……? それ以上このかわいい口から
    禁断ワードが紡ぎ出されでもしちゃったりしたら、
    私でも無事で済ませられるか判らないよぅ〜?」
金玉昼「(ひええ、目がマジにゃ……)」

 ぶんぶん (言わない言わない、と首を振る)

下町娘「ならよし。……はい、解放」
金玉昼「……そんなに気にしてるのにゃ?」
下町娘「気にしない女がいたら、それは女じゃないやい。
    ババアとか奥さんとか枯れた女とか言うの」
金玉昼「でも、町娘ちゃんは見た目は十分若いにゃ。
    スタイルだっていいし〜」
下町娘「そりゃ、まあ……うん。
    その点は、確かに自慢できると思うけど。
    華佗先生の美肌教室のお陰かな?」
金玉昼「肌も体型も十分、二十代前半で通用するにゃ」
下町娘「褒められてるんだろうけど……。
    永遠のロリータ娘に言われてもなぁ……」
金玉昼「……私、ちゃんと大人の見た目になるのかにゃ」
下町娘「多分、お婆ちゃんになっても可愛いままよ」

 『はあ……』

二人してため息をついたところで、
金旋に新年の挨拶をするため部屋へ向かった。

金玉昼「あけましておめでとにゃー」
下町娘「おめでとうございますー」

    金旋金旋

金 旋「……あまりめでたい気分じゃないな」
金玉昼「なーに、ちちうえも?
    今更、年齢が気になり出したのかにゃ」
金 旋「……? 何のことかはわからんが。
    先ほど知らせが来てな、劉埼が亡くなったらしい」
下町娘「えっ」
金 旋「飼ってた兎のピョン吉が老衰で死んでな。
    それを見届けた後、劉埼も死んだそうだ。
    ピョン吉と一緒に埋めてほしい……と
    言い残してな」
金玉昼「……それは、残念なことにゃ。
    気分が沈んでしまうのもしょうがないかにゃ」
金 旋「ある意味、楚の礎を築く為に一番犠牲になった、
    と言えるからな……」

荊州に根を這っていた劉表・劉埼親子の勢力を
切り崩し、自分たちの力としてきた過去がある。
金旋も、彼に対して多少の負い目を感じていた。

金 旋「まあ、それはそれとして、だ……。
    少し相談があるのだが、いいか?」
金玉昼「相談? なんの?」
金 旋「司馬懿と燈艾から、相次いで威力偵察の
    出撃許可願いが来ているんだがな。
    これをどうしたものかと思って、な」

金旋は、2通の文書を金玉昼に渡した。

金玉昼「ふむ……。夏口の燈艾さんは廬江へ……。
    虎牢関の司馬懿さんは、陳留……」
金 旋「全軍を注ぎ込む戦いは禁じてはいるが、
    2、3万程度なら大丈夫ではないか、ってな」
金玉昼「威力偵察により敵軍の強度を量る、かぁ……。
    大方、血の気の多い人らが出撃させろって
    騒いでるんじゃないかにゃ」
金 旋「俺もそんなところだとは思うんだが」
金玉昼「まあ、全面侵攻というわけじゃなさそうだし、
    許可してもいいんじゃないかにゃ」
金 旋「ん、それでは許可を出すことにしよう」

司馬懿・燈艾に対してそれぞれ、
中規模部隊での威力偵察が許可された。
これは『偵察』とあるが、「勝てそうなら奪え」
くらいの意味合いを持っていた。

金 旋「ところで、最近魏光には会ったか?」
金玉昼「魏光さん? んーん、見てないにゃー」
下町娘「私も、なまはげ事件以降は全然会ってません」
金 旋「俺もここの所、全然姿を見てないんでな。
    すまんが、二人で様子を見てきてくれないか?」
金玉昼「えー」
下町娘「えー」
金 旋「えーって」
金玉昼「めんどくさいにゃ」
下町娘「恋ちゃんでも行かせた方が喜びますよ」
金 旋「だったら、鞏恋と3人で行ってこい。
    どうせ今日は大した仕事はないだろう?」
金玉昼「むー」
金 旋「劉埼のこともあったからな。心配なんだよ」
金玉昼「はいはい……わかったにゃ」
下町娘「しょうがないですねえ」

というわけで、二人は途中で鞏恋を誘い、
魏光の宿舎までやってきた。

    鞏恋鞏恋

鞏 恋「とりあえず、生死だけでも確認しようか」
下町娘「生死って……。そんな大げさな」
金玉昼「そういえば……。昨日の雷ちゃんの話だと、
    孔奉さんと一緒に篭って何かやってるって」
下町娘「うんうん、言ってた! この中にはそれはもう、
    匂い立つようなやおいワールドが……」
鞏 恋「ホモネタやめて」
下町娘「冗談だってば。現実でそこまでなるなんて、
    流石の私でも思いませんってばさー。
    でも、本当に何やってるのかな」
金玉昼「窓も完全に閉め切ってるし……」
鞏 恋「もしかして……悪魔召喚?」
下町娘「なーんでそうなるのよー」
金玉昼「まあ、開けてみれば分かることにゃ!
    たのもー! 魏光さんいるかにゃー!?」

 バァァァン(と扉を開く)

扉を開けた途端、むわっと漂ってくる汗の臭い。
その中に、奴はいた。

金玉昼
下町娘うわ
鞏 恋あらん

 マッスル魏光by紫電さん
illustrations by 紫電


 ズギャアアアアアアアン

魏 光「鞏恋さん……!?
    見てください! どうですこの筋肉!
    これでもう貧弱君とは言わせませんよ!」

この数日間、魏光は孔奉に筋力トレーニングの仕方を
教わりながら、ずっと自らの筋肉を鍛えていたのである。

金玉昼「べ、べつじんだにゃー」
下町娘「む、むきむききんにくー」
魏 光「どうです、これでこのなまはげ包丁も軽々!
    これからの更なる活躍にご期待ください!」

 ブンブンブン (肉包丁を振り回す)

下町娘「ちょっと……いくらなんでも筋肉つけすぎよ。
    ここまでムキムキじゃ気持ち悪いっての。
    ほら、恋ちゃんからもなんか言ってやって!」
鞏 恋「イイ……」
下町娘「え?」
金玉昼「あ、そういえば」
鞏 恋筋肉、イイ……
金玉昼「この人、筋肉マニアにゃ」
下町娘「あ……そうだっけ」
鞏 恋「よくここまで鍛えたね……」
魏 光「きょ、鞏恋さん。褒めてくれるんですか!?」
鞏 恋「この短期間でここまで……凄い」
魏 光「や、やった! やったぞ!
    つ、ついに鞏恋さんに認めてもらえた!」
鞏 恋「さあ、よく見せて……。
    この大胸筋から広背筋にかけてのライン、
    上腕三頭筋とこの(以下専門的な言葉が続く)」
魏 光「はいっ、どうぞ見たいだけ見てください!」

下町娘「いやはや。意外な形で魏光君の恋が成就?」
金玉昼「んにゃ、筋肉マニアと恋愛は別物にゃ。
    でも、以前よりはだいぶ芽が出てきたかにゃー」
下町娘「でも、鍛え始めて数日であそこまでなるの?」
金玉昼「私も驚きだにゃー」

    孔奉孔奉
     ぬーん

孔 奉「…………」
金玉昼うわあ!?
下町娘「わ、びっくりした。いつからいたの」
孔 奉「…………」
下町娘「え、ずっといた? 気付かなかったわ。
    でも貴方、彼にどういう指導をしたの?
    わずか数日であの筋肉はどう考えても不自然よ」
孔 奉「…………」
下町娘「え、薬? ダメよー禁止薬物使っちゃ。
    ドーピング検査に引っ掛かるでしょー」
金玉昼「ドーピングって何にゃ」
孔 奉「…………」
下町娘「え? あの薬、効果は抜群ですぐ筋肉がつくが、
    副作用で一日数度の発作が来る?」
金玉昼「……発作?」

魏 光「僕は生まれ変わったんです! 言うなればそう、
    スーパーエクセレント魏光ギガンティックマグナム、
    とでもいいましょうか、そんな感じに!」
鞏 恋「うん、凄い凄い……。
    でももっと鍛えれば、まだまだ凄くなりそう」
魏 光「そ、そうですか、が、がんばります、す、す」
鞏 恋「……ん?」
魏 光「う、あ、え、お、お、うお、え、うえ、えお」
鞏 恋「え?」
魏 光「お、うぉ、お、ぉォ、ウ、お、オ、
    えオ、オ、アウ、ウオ、オク、
    オクレ兄さぁぁぁん!

下町娘「……大丈夫なんでしょうね?」
孔 奉「…………」
金玉昼「幻覚見るだけ、って言われてもにゃ〜。
    これから毎日、あれをやられるのか〜」
下町娘「で? 貴方のほうは大丈夫なの?」
孔 奉「…………(ムキムキ)」
下町娘「私の筋肉は天然モノですから、てか。
    わかったからいちいちポージングするな」

数日のうちに素晴らしい筋肉を手に入れた魏光。
だが、その代わりに何か大切なものを失った。

魏 光ま、待ってオクレ兄さァァァん
鞏 恋「誰がオクレか!」

   ☆☆☆

それからしばらく後のこと。
場所は長沙郡泪羅。

それは、黄祖が駐屯する泪羅櫓の
すぐ近くで起きた出来事であった。

???「ハァハァ……」
農 夫「おや、なんだいお前さん。
    ズタボロでねえか、大丈夫かい」
???「だ、大丈夫……じゃない」

 バタリ

農 夫「お、おい? しっかりせい!」
???「み、みず、くれ」

行き倒れの男は、近くの村に運び込まれた。

劉 巴「で、その男がここに?」
農 夫「へえ、何でも呉軍から逃げてきたんだとか。
    一応、知らせたほうがいいかと思いまして」
劉 巴「呉から逃げてきた……か。
    密偵とは思えぬが……。失礼致す」

    孫匡???

???「誰だ?」
劉 巴「楚国太僕の劉巴です。
    貴殿は呉より逃げてきたと聞きましたが」
???「……その通りだが」
劉 巴「良ければ、素性を教えていただけませんか。
    見た所、一介の兵士には思えませんが」
???「教える前に……約束してくれ。
    私の身柄の安全を保証する、と」
劉 巴「身柄の安全を?」
???「頼む」
劉 巴「……わかりました。
    私の力の及ぶ範囲で善処しましょう」
???「そうか、それならいい。私の名は……」

    ☆☆☆

再び、烏林。
金旋のところに、鞏志が一束の書簡を持ち訪れた。

   金旋金旋   鞏志鞏志

鞏 志「泪羅の劉巴どのより、面白い報告が来てます」
金 旋「面白い報告?
    それはパンツの尻が破れてるのに気付かず
    マイクパフォーマンスを続けるレスラーの姿並みに
    面白いのか?」
鞏 志「それはそれで面白いですが。
    それと比べられるかどうかはともかく、
    こういう珍しい報告は滅多にありませんよ」
金 旋「珍しい……? どれ、読もうじゃないか。
    えー、この度、孫権の弟である孫匡を登用……。
    そんっ……きょっ……え? ギャグ?」
鞏 志「本気です」
金 旋「え、だって血族なんだろう?」
鞏 志「報告のその続きをどうぞ」
金 旋「……兄孫権に不信感を抱き、先頃呉を出奔、
    在野に降り泪羅に来ていた様子。
    そこを登用致しました……とな」
鞏 志「孫匡は、昨年からの我々の離間ターゲットに
    なっていますね。それで忠誠が急激に下がり、
    出奔したのでしょう」
金 旋「で、当人はそれを知らず、兄を裏切って
    楚軍に入ってきた……というわけか。
    なるほど、それなら登用も可能か」
鞏 志「孫匡以外にも、離間による忠誠の低下で
    出奔や他国に寝返る者が出始めています。
    じわじわと呉の力を奪っているといえましょう」
金 旋「だが、少し大げさすぎないか?
    孫匡取ったからって大した利もあるまい?
    もっと能力の高い奴らを登用せんと」
鞏 志「そう言われると、そうかもしれませんが……」

    金玉昼金玉昼

金玉昼甘い、甘いにゃーちちうえ!
金 旋「玉? 甘いとはどういうことだ?」
金玉昼「孫匡個人の能力などこの際関係ないのにゃ!
    彼が呉公の弟という立場を最大限に利用して、
    呉軍の結束を更に弱めていくべきにゃ!」
金 旋「利用する……というと、どんな感じだ?」
金玉昼「孫匡がこちらに降ったということを、
    呉の将兵たちに盛大に広めてやりまひる」
鞏 志「なるほど。君主である呉公の弟が敵に回った。
    それが知れればかなりの動揺が期待できますな」
金玉昼「さらに、孫権を弾劾してもらいまひる。
    私たちが言うよりよほど呉の将には効くはずにゃ」
金 旋「ふむう、えげつない手だが効果はありそうだ。
    よし、そのようにやってくれ」
鞏 志「はい」
金玉昼「内部から揺さぶりをかけてやりまひる」

その後、孫匡の名が記された檄文が陸口や廬江など
呉国の各所に貼られるようになった。
中でも陸口の将たちの驚愕は特に大きかった。

   沙摩柯沙摩柯  関興関興


沙摩柯「我、兄孫権ニ謀反ノ嫌疑ヲカケラレ……。
    命ヲモ狙ワレルヨウニナッタ……。
    故ニ、我ハ逃ゲルシカナカッタ……」
関 興「さて、このような信の薄い君主が呉の国を、
    そして民を守ってくれるのだろうか。
    いや、そんなわけはあるまい。
    彼を駆り立てているのは器に適わぬ野望。
    このままでは必ず呉国は滅ぶだろう……」

   董襲董襲   陳武陳武

董 襲「孫家の者として、我はこれを見過ごせぬ。
    そこで呉の民を安んじるため、あえて楚に降った。
    楚王の力を借り、兄孫権を打倒し、呉の民を守る。
    それが、今我に課せられた使命である……」
陳 武「呉の将兵たちよ、今の孫権は仕えるに値せぬ。
    それよりも、楚に降り、我に力を貸してほしい。
    そして共に、呉の民を守ろうではないか……」

    孫朗孫朗

孫 朗「匡兄が楚に降ってしまうとは……。
    この檄文は本当か? 権兄が、匡兄に嫌疑を?
    呉はこの先、どうなってしまうのだ」

各地の将たちの心を揺さぶったこの檄文は、
役人の手から小沛の孫権の元に届けられた。
その文を見た孫権は、大いに怒りを露わにする。

    孫権孫権

孫 権……匡め! 何をたわ言を!
    私がいつ謀反の嫌疑など掛けたというのだ!」

この時は間の悪いことに、孫権のブレーンとして
助言をしてくれる人物が小沛には一人もいなかった。
周瑜・呂蒙は下[丕β]で関羽の部隊と交戦中であり、
陸遜は汝南へ守備強化のために向かったままである。

もしこのうちの誰か一人でもいれば、次のような命令は
必ず諌め、表に出すことはなかっただろう。

孫 権「各都市に通達を出せ!
    孫匡ごときのたわ言に耳を貸すなと!
    奴を孫家の者などと、私の弟などと思うな!
    もはや、ただの裏切り者だ!」

孫匡の裏切り自体に対しては何の説明もなく、
ただ、孫匡を信じるなという通達を出してしまった。
孫権の出したこの通達は、でっちあげの孫匡の檄文に
ある程度の説得力を持たせる結果となる。
孫権の怒りの感情が、大きな失策を生んでしまった。

楚にいる孫匡の存在が、呉全体に大きな波紋を呼び、
それぞれ自分の忠誠の行き場を考え始めるようになる。

まさに孫家を分裂させる、楚軍の策であった。

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