218年12月
12月下旬。
ここのところ続いていた江夏方面の戦闘も終結。
楚国の年末期決算を前にして計略なども控えられ、
領内はつかの間の平穏にひたっていた。
現在の楚軍本拠となっている烏林港でも、
殺伐とした空気は全くといっていいほどない。
金玉昼
金玉昼「今年こそは来てくれるかにゃ……。
さて、コレを早く完成させようっと」
金玉昼はなにやら、毛糸と棒でゴソゴソやっていた。
興が乗ってきたのか、つい歌まで出てくる。
金玉昼「……ふんふんふーん♪
じんぐるべーる じんぐるべーる
鈴がー鳴るー♪」
『私を呼ぶ者は誰だ……』
金玉昼「えっ? も、もしかして来てくれたのかにゃ!?
でも、まだ昼間……」
甘寧
甘 寧「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!
鈴の甘興覇、ただいま参上!!」
金玉昼「ギャー! 誰も呼んでないにゃー!」
甘 寧「いや、鈴といったらこの甘寧の出番だろう」
金玉昼「全く関係ないにゃー! 出てけ!」
甘 寧「そう邪険にせんでも……。
おっ、毛糸の靴下を編んでいるのか。
もしかして、彼氏へのプレゼントとか?」
金玉昼「ち、ちが……うと言うとまた困るし、かと言って
肯定もできない微妙な回答だにゃー!」
甘 寧「よくわからん答えだな……」
金玉昼「とにかく出てってにゃー!」
甘 寧「そう顔を赤くして怒鳴らんでも出ていくが。
……普段の軍師らしくない取り乱し様だな」
甘寧は首を傾げながら部屋を出ていく。
甘 寧「……え? 今回の俺の出番、これだけ?」
その頃、楚王金旋は自室に用意したこたつに入り、
みかんを食べながらぬくぬくとしていた。
金旋
下町娘
金 旋「冬はやっぱりこたつで蜜柑、最高だなぁ」
下町娘「最高ですねぇ、もぐもぐ」
金 旋「……この蜜柑は楚王への献上品なわけで。
それを許可なく貪り食う君は何者だ」
下町娘「楚王のお仕事を手伝ったりしてる者ですけど。
そんなに惜しいのならお返ししますよ、はい」
金 旋「いらんって。皮だけ返すな」
下町娘「それじゃ、食べていいんですねー。
どうもありがとうございます♪」
金 旋「……まあ、今日明日でなくなってしまう量でも
ないからいいんだけどな。
そういや、玉はどうした? 今日は姿が見えんが」
下町娘「はばひゃんへふは?」
金 旋「……頬張りながら喋らない」
下町娘「んっく。玉ちゃんですか?
そういえば、今夜のために靴下を作ってましたね」
金 旋「靴下? なんで?」
下町娘「……あ、知らないんですね。今日が何の日か」
金 旋「ん? 今日は何の行事もないはずだが。
何か特別な何かがあったか?」
下町娘「えとですね、西方の慣わしなんです。
12月24日の夜に靴下を寝室にぶら下げておくと、
寝ている間にプレゼントを貰えるんですよ」
金 旋「ほう、そんなイベントがあったのか」
下町娘「まあ、迷信なんですけどねー。
それでも、信じて待っている人もいるようです。
えーと確かそのことを書いた本が……あ、あった」
下町娘は、一冊の本を金旋に渡した。
金 旋「ふむ? さんたくろうす……?
良い子にしていた子供たちに贈り物をする聖人。
白い眉と髭を蓄えた老人で、赤い服を着ている。
赤い鼻のトナカイに牽かれたソリに乗って、
子供たちの家を回りプレゼントを配る……か」
下町娘「玉ちゃんもせっせと靴下作ってましたからね。
可愛いところあるじゃないですか」
金 旋「普段は人には見せないが、夢見るような所も
あいつにはあるからなあ。
……ふむう。さんたくろうす、か」
じっと本の頁を見つめながら、思案する金旋。
……阿鼻叫喚の長い夜が、ここから始まる。
☆☆☆
その夜。
下町娘「ふあ……さぁて、寝る前に戸締りしなきゃー」
そう独り言を言いながら、執務室へと入っていく下町娘。
だが、そこには……。
illustrations by 紫電
金 旋「あ」
下町娘「え」
金 旋「あー、見つかったか」
下町娘「……な、な、な、なにやってんですか!?」
金 旋「見てわからんか? 『さんたくろうす』だ」
下町娘「い、いえ、格好は見ればわかりますけど〜」
金 旋「ほれ、昼間に言ってたじゃないか。
『玉が靴下を作ってる』……と。
可愛い娘が期待して待っているのだ。
父親である俺がプレゼントをくれてやらねば」
下町娘「はあ、いいお父さんですね」
金 旋「……というわけで、この事は口外無用。
夢を壊しちゃいかんからな」
下町娘「それは別にかまいませんけど。
でもその袋、玉ちゃん一人にやるにしては、
パンパンになってますけど……?」
金 旋「ああ、ついでに日頃頑張ってる若い連中にも、
何かしらプレゼントをやろうと思ってな。
どうだ、いい企画だろう?」
下町娘「ふーん……。若い連中……。
じゃあ、当然私の分もありますよねー?」
金 旋「えっ」
下町娘「『えっ』ってなんですか、『えっ』って。
もしかして、用意してないとか……?」
金 旋「い、いやあ、そんなことはないぞ。
そ、そうだ、これをあげよう、これを」
下町娘「……これ玉璽じゃないですか!?
そんな簡単に、あげたり貰ったりしていいもの
ではないでしょう!?」
金 旋「ああ、まあ一時的に貸しておくってことで。
ほら、前に町娘ちゃん言ってたじゃないか。
部屋の置き物に丁度いいデザインだーって」
下町娘「まあ、確かにデザインは気に入ってますけど。
でもいいんですか? 大事なものなのでは?」
金 旋「(……だってなー。他に納得させられそうな、
適当なものがないんだもんなー)」
下町娘「……何か言いました?」
金 旋「いんや」
下町娘「それじゃ、お預かりしときますね……。
何だか誤魔化されたような、そんな気が
しないでもないけど……」
金 旋「ギクギク……。
そ、それじゃ、時間もないし行ってくる」
下町娘「はーい。頑張ってください」
金旋はそそくさと外に出る。
そして、以前に曹操から強奪して以来の愛馬、
爪黄飛電に跨り、プレゼントの入った袋を抱えて
月明かりが照らす夜道を駆け出した。
金 旋「さあ、行くぞ爪黄飛電!
今宵は一陣の疾風となるのだ!」
☆☆☆
金旋がまず向かったのは桂陽。
この企画に是非とも欠かせない人材がここにいた。
コンコンッ
霍峻
霍 峻「誰ですか、もう夜ですよ……。
……うわ!? か、閣下!?」
金 旋「おう霍峻、元気だったか。
ちょっとお前ににも手伝ってもらいたいから、
一緒に来てくれ」
霍 峻「な、何を手伝うのですか?
それにその格好は……?」
金 旋「かくかくしかじか……というわけでな。
お前にはトナカイ役を頼みたいのだ」
霍 峻「ど、どうして私がトナカイ役なのです?」
金 旋「その赤い鼻がピッタリだから」
霍 峻「そ、それだけですかー!」
結局、霍峻に拒否する権利は与えられず、
金旋の用意したトナカイの着ぐるみを着て
寒い冬道を出ていくこととなる。
さて、その着替えの最中のこと。
黄祖
黄 祖「おいーっす……って何やっとんじゃ。
変な格好した殿までおるし……」
金 旋「変な格好で悪かったなー。
実はな、かくかくしかじか……というわけだ」
黄 祖「ほう、それはそれは。頑張れよー霍峻。
ところで殿、ワシ用のプレゼントはどれかな〜?」
金 旋「は? 70過ぎたジジイが何言ってるんだ。
これは良い子にやるプレゼントなんだが」
黄 祖「それならばなおさら、楚国最高齢のこのワシに
プレゼントを贈るべきだと思うがのう」
金 旋「どういう理屈だ」
黄 祖「老人になると『子供がえり』すると言うじゃろ。
つまり、ワシ、イコール子供」
金 旋「それって……。
自分を『めちゃくちゃ年寄りだ』と
言ってるようなものじゃないのか?」
黄 祖「そんなことはいいからー。
なんかちょーだいなんかちょーだい」
金 旋「……(ま、長寿祝いと思えばいいか……)
まあいいや、それならこれをくれてやろう」
黄 祖「これは?」
金 旋「これは九錫(※1)と言ってなー。
本来なら天子から戴くありがたいものだぞ。
大事にしろよー」
黄 祖「おお、ありがたいのう」
黄祖は九錫をゲット!
兵法「鼓舞」が使えるようになった。
(※1 天子が大功あった者に授与する九種の品。
兵法「鼓舞」を使える)
金 旋「さて、行くぞ霍峻」
霍 峻「は、ははっ」
金 旋「ははっ、じゃないだろう。トナカイらしく返事しろ」
霍 峻「わ、わかりました。トナカイらしく……。
……トナカイって何て鳴くんでしょうか?」
その問いに答えられる者は、そこにはいなかった。
誰も本物のトナカイをみたことがないのだから。
☆☆☆
少し身体の弱い馬良のために傷寒雑病論(※2)
を枕元に置き、金旋と霍峻は桂陽を出た。
途中から舟を使って江を降り、一路江夏へ。
(※2 張仲景の著した書。漢方医学の聖典。
兵法「治療」を使える)
夏口港に入り、二人はプレゼントを配り始める。
金 旋「まずは可愛い孫たちだな……。
騎馬がイマイチな金閣寺には馬術指南書(※3)、
逆に弓が苦手な金胡麻には文醜鉄弓(※4)を。
金魚鉢はまだ小さいから、実用的なのはやめて、
これこれ。キン肉マン全集にしておこう」
霍 峻「金胡麻どのはもうすぐ成人ですしね。
いい弓です。良い成人祝いとなるでしょう」
金 旋「あとは、金目鯛も四十路過ぎだが我が子だし。
というわけで、このトルネコ算盤(※5)をやろう」
霍 峻「……そろばん?」
金 旋「うむ、算盤だ。憶えると計算が楽になるらしい。
これは杖に算盤がついた面白い構造だが、
旅の商人用に作られたものかな」
霍 峻「なるほど……。
あまり計算の得意ではない金目鯛どのに、
算盤を贈って国の運営のイロハを教えようと。
いや、流石は閣下です」
金 旋「いやあ、そう褒めるな、はっはっは。
……しかしこれ、見た目は武器みたいだな。
あいつ、勘違いして武器にしたりしないだろうな」
霍 峻「はっはっは、まさか……」
冗談を言って笑い合っていた二人だったが、
後日、トルネコ算盤を振り回して武芸に励む
金目鯛の姿が目撃されることになる。
(※3 馬術の指南が書かれた書。統率+2&突破)
(※4 文醜の使っていた鉄弓。武力+3&騎射)
(※5 武器にもなりそうな頑丈な算盤。武力+4&造営)
<以上の3つは全て上級編移行時に導入した
新作成アイテムになります>
さて、血族へのプレゼントを配り終えて、
次は若い者たちへのプレゼントになる。
霍 峻「ここには20代の者たちが多いですからね」
金 旋「うむ、贈る奴は4人ほどいるな。
燈艾にやるのは周書陰符(※6)、
費偉には四民月令(※7)、
公孫朱には双鉄戟(※8)、
張苞には倚天の剣(※9)を贈ろう」
(※6 太公望が著したという書。政治+3&混乱)
(※7 崔寔が撰した漢代の歳時記。政治+3)
(※8 豪傑典韋の持っていた戟。武力+3)
(※9 天をも貫くという名剣。武力+5)
霍 峻「燈艾どのは謀略兵法は持ちませんから、
この混乱兵法でさらに進化するでしょうね」
金 旋「費偉はこれで政治100だ。(爵位補正込)
公孫朱と張苞は、これでまた一流の将と
渡り合える武を身に着けることだろう」
霍 峻「では、配っていくとしましょう」
燈艾、費偉、張苞と順に配っていき、
後は公孫朱を残すのみ。
霍峻を残し、金旋は静かに寝室へ入っていく。
金 旋「……(女の子の部屋に入るのは気が引けるが、
入らないとプレゼントもやれないしなー)」
そう心の中で言い訳をしながらも、
ちょっと心がワクワクしている金旋であった。
忍び足で進むと、ベッドが視界に入ってくる。
???「う……ん……」
金 旋「(おっと、起こさないようにしないと)」
???「あ……いやん……そんなところ……」
金 旋「(な、何悩ましい声を出してるんだ!?)」
ドキドキしながらも、どんな様子なのか伺うべく
ベッドに身体を近付ける。
……ぐわし!
金 旋「なっ……!? なんだ!?」
蛮望
蛮 望「あーん、まいだーりんあいにーぢゅー」
金 旋「げえっ!? 蛮望!?」
蛮 望「むにゃむにゃ、愛してるわーん」
金 旋「な、何を寝ぼけているっ!?」
公孫朱と思っていた人物は、実は蛮望だった。
寝ぼける蛮望にしっかりと掴まれてしまい、
金旋は身動きが取れない。
霍 峻「閣下、どうやら部屋を間違えたようです……!
公孫朱の部屋は隣りのようですよ……!」
金 旋「い、言うのが遅い!
ど、どうにかこいつを引き剥がして……」
蛮 望「あぁん、乱暴はやめてぇん。むにゃ」
霍 峻「閣下、あまり騒ぐと他にバレます……!」
金 旋「そんなこと言われても……っ」
蛮 望「だーりん、キスしてぇん」
金 旋「だ、誰がするかっ……!
ええい、これを見ろ! てい!」
蛮 望「……え? ……ひっ」
蛮望は気を失った。
その隙に、金旋は蛮望の手を振り解き、
ほうほうのていで部屋から出てくる。
霍 峻「……何をしたんです?」
金 旋「呂氏鏡(※10)を持ってたんでな。
それをあいつの目の前に掲げてやったら、
自分の顔見て気を失いやがったよ」
霍 峻「それは……なんともまあ……」
金 旋「あ、呂氏鏡置いてきちまった。
……まあ別にいいか、くれてやっても。
それより、早く公孫朱にプレゼントだ」
金旋は、無事に公孫朱に双鉄戟を贈り終えた。
(※10 高貴な人物・神獣が彫刻された銅鏡)
金 旋「ふう、これで夏口は終わりだな。
それじゃ、次は洛陽だ。行くぞ」
霍 峻「は、はい」
金 旋「……しっかし、思った以上に夜道は怖いな。
化け物でも出てきそうな雰囲気だな」
霍 峻「さっき蛮望どのの顔を見たから、
そういうことを考えてしまうのでしょう」
金 旋「……言うね、お前も。
まあ、本当に何かが出るとは思わないが……」
二人は馬の繋いでるところまで歩いていく。
……そこに、角を生やした鬼の姿があった。
金 旋「で、出たぁ!?」
霍 峻「えええぇっ!?」
魏延
魏 延「何が、『出た』なのですかな、殿」
金 旋「ああ、なんだ魏延か」
霍 峻「……驚かさないでくださいよ」
魏 延「それはこっちの台詞だが……。
見回り中に馬の声を聞いたので来てみれば、
殿の爪黄飛電が繋がれているではないですか。
こんな夜中に一体、何の用なのです。
それに何ですか、その奇抜な格好は?」
サンタとトナカイ姿の二人を訝しげに見る魏延。
それに苦笑して、金旋は事情を説明した。
魏 延「……さたんくろす?」
金 旋「違う違う、『さんたくろうす』だ」
魏 延「はあ……。そのような行事があったとは、
全く知りませんでした」
金 旋「俺も今日までさっぱり知らなかったがな。
これから洛陽にいって、それから烏林だ。
どうだ、お前も来ないか?」
魏 延「いえ、まだ見回りが残っておりますので。
……魏光にも、何か贈ってくださるのですか?」
金 旋「ん、ああ、魏光な。
これまでの功績も大きなものがあるしな。
ちょっと奮発していいものをやろうかと」
魏 延「それはありがとうございます。
それで、ひとつお願いしたいのですが」
金 旋「お願い?」
魏 延「は、この見回りが終わりましたら、私がそれを
直接贈りに行きたいのですが……」
金 旋「お、父親自ら、さんたくろうすになるってか。
うむ、別に構わないぞ」
魏 延「は、ありがとうございます」
金旋は魏延にプレゼントを預け、そこで別れた。
金 旋「魏延も父親なんだなあ。
子を思う気持ちは皆同じということか」
霍 峻「そうですね。そう思います」
金 旋「……そういや、お前にも息子がいたじゃないか。
しまった、適当なプレゼントがないぞ」
霍 峻「いえ、お気遣いはご無用です。
成人し、楚国のため活躍できるようになるまで
気にかけていただく必要はありません」
金 旋「ふむ……では、その活躍の日を待つとしよう。
お前の息子だからな、地味であっても
活躍しないなんてことはなかろう」
霍 峻「ははは、それはどうでしょうか……」
霍峻の子である霍弋は、この時まだ12歳。
楚国の一員となるにはまだ年月が残っていた。
☆☆☆
二人は夏口を出て北上し、洛陽へ入る。
ここでは、3人にプレゼントを贈る予定だ。
金 旋「まずは楽淋に七星宝刀(※11)、
あとは郭淮に孟徳新書(※12)、
司馬懿には逍遙馬(※13)だ」
(※11 王允が所持していた天下の宝刀。武力+10)
(※12 曹操が著したという幻の兵法書。統率+3)
(※13 献帝が巻狩りの際に乗った馬。
兵法「騎射」を使える。新作成アイテム)
霍 峻「……楽淋どのはわかりますが、
郭淮・司馬懿、両名ともに30過ぎでは?」
金 旋「ん、まあ期待度の現れというか。
特に、郭淮にはこれからの楚を背負っていって
もらいたいと考えているんだ」
霍 峻「左様ですか」
金 旋「これまでがちょっと目立っていないから、
というのもあるがな。それじゃ、配るとするか」
二人は、まず楽淋のところへ向かった。
楽淋
楽 淋「う、うーん……」
金 旋「……なんか、うなされてるな」
霍 峻「悪い夢でも見てるんでしょうか」
楽 淋「待ってくれ……父上……!
俺はまだ、あんたに追いついてない……!」
金 旋「楽進の夢を見ているのか……」
霍 峻「彼にとって、大きな目標だったのでしょう。
それを失い、彼は迷っているのかもしれません」
楽 淋「父上……俺は、俺はどうしたらいいんだ」
金 旋「その迷い、少しでも払えるかな」
霍 峻「……?」
金旋は楽淋の枕元に寄り、言葉をかけた。
金 旋「楽淋よ……。よく聞くがいい……」
楽 淋「父上……!?」
金 旋「今のお前の武、まだ私には及ばぬ……。
だが、すでに勝っている部分もあるぞ……」
楽 淋「そ、それは一体……!?」
金 旋「それは……身長だ……」
楽 淋「ちちうええぇぇぇ」
金 旋「冗談はさておき……。
お前の武、いずれは私を追い越せるはずだ……。
精進するがよい……」
楽 淋「精進すれば、追い越せるのか……?」
金 旋「そうだ……信じて鍛練するがいい。
さあ、お前にいいものをやろう……。
この剣で、これからの戦いを生き抜くのだ。
さあ、手を伸ばせ……」
楽 淋「手を……」
がしっ
楽 淋「……はっ!? こ、これは!?」
楽淋が目を覚ますと、その手には輝きを放つ
七星宝刀が握られていた。
さて、金旋と霍峻は先に向かう。
郭淮に孟徳新書を贈り、後は司馬懿を残すのみ。
金 旋「……ちゃんと司馬懿の部屋だよな、ここ」
霍 峻「大丈夫です。合ってます」
金 旋「よし。それじゃ、お前は待ってろ。
もしもの時はすぐ出てくるからな」
霍 峻「判りました、お気をつけて」
蛮望の時みたいなハプニングが起こらないように、
金旋は慎重に部屋へ入っていった。
司馬懿
司馬懿「う……ん……」
金 旋「(……大丈夫、司馬懿本人だ)」
司馬懿「あん……うふん……」
金 旋「(……な、何悩ましい声を出してんだー!?)」
金旋は、司馬懿が今どういう状況になっているのか、
とーっても気にはなってはいたものの、蛮望の件も
頭をよぎり、しばらく様子を見ていた。
すると、横になっていた司馬懿がむくりと起きて
金旋の方に視線をやった。
司馬懿「……ふむ」
金 旋「(……な、なんだ?)」
司馬懿「賊かと思って誘いをかけてみましたが、
どうやら違うようですね。
寄ってきたら首をかき斬るところでした」
金 旋「(よ、よかった〜。様子見てて〜)」
司馬懿「で、何用ですか、閣下。
見慣れない装束を着ているようですが」
金 旋「……あー、バレてはしょうがないな」
金旋は隠すようなことはせず、詳細を説明した。
司馬懿「そのようなお気遣い、別になさらなくとも」
金 旋「いや、馬を贈る理由は他にもあってな。
お前ほどの優秀な人材、戦場で捕らわれたりして
もしものことがないように、というのもあるんだ。
だから、貰っておいてくれ」
司馬懿「そういうことでしたら……」
金 旋「じゃ、これが繋いである場所の地図な。
流石にここには連れてこれなかったから」
司馬懿「ありがとうございます。
では御用が済みましたら、ご退去願います」
金 旋「……手厳しいな」
司馬懿「仕方ありません。あまり騒いでますと、
子供が起きてまいりますから」
金 旋「そうか、子供が……子供!?」
司馬懿「大声を出さないでください」
金 旋「す、すまん。しかし子供って……。
子供がいるなんて、そんなの聞いてないぞ?」
司馬懿「それはそうでしょう。
これまで、一度も話してませんでしたから。
……一応、二人の息子がいます」
金 旋「そうだったのか。……すまんな。
その子たちにはいずれ何か贈るとしよう」
司馬懿「いえ、いずれ楚国のために働く者たちです。
彼らが成人して目覚ましい功績を挙げるまでは、
そのような気遣いは無用です」
金 旋「そ、そうか。……子供の歳は?」
司馬懿「上が11歳、下が8歳です。
……成人の折には、よろしくお願い致します」
金 旋「わ、わかった」
司馬懿の居場所から離れて霍峻のいる所まで戻り、
金旋はようやく額の脂汗を拭った。
金 旋「ふう……彼女を敵には回したくないものだな」
霍 峻「何やら話をされていたようですが……。
何か、あったのですか?」
金 旋「いや、大したことではないよ。
……彼女の持つ強さの一旦に、『母の強さ』が
含まれているのだとわかったくらいだ」
霍 峻「そうだったのですか」
金 旋「さあ、後は烏林だ! 肝心の玉へのプレゼント、
まだくれてやってないのだからな!」
二人は、深夜の夜道を駆け出した。
−後編につづく−
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