○ 第二十四章 「大計を食い破るもの」 ○ 
218年11月

  呉軍、二手に分かれる

安陸に向かう燈芝隊と夏口に向かう歩隲隊。
どちらと戦うか、金閣寺は二者択一を迫られる。
そこで彼が下した判断は……。

   金閣寺金閣寺  費偉費偉

金閣寺「歩隲隊を叩きます!」
費 偉「それが妥当でしょう。
    夏口の5千の兵では到底守り切れませんから。
    安陸方面は魏延隊に任せるとしましょう」
金閣寺「いえ。歩隲隊を叩いたらすぐに反転し、
    燈芝隊の背後を討ちます」
費 偉「え? 別にそこまでせずとも……」
金閣寺「いえ、私が考えますに、
    呉軍のこの動きは我々を夏口に押し留める策。
    敵の真の狙いは、安陸城塞の攻略にこそ
    あると思います」
費 偉「確かに、敵の何らかの意図は感じますが……。
    はっきりと断定してよいのでしょうか」
金閣寺「おそらく、安陸には寿春からも
    多くの部隊が侵攻していっているはず。
    ここで燈芝隊を見逃してしまっては、魏延どのが
    苦戦することは必至です。そのため、多少無理を
    してでもやらねばなりません。
    歩隲隊をある程度まで討ち減らした後に転進、
    燈芝隊を叩きます」
費 偉「……わかりました。
    ここは、貴方の眼を信じるとしましょう」

金閣寺隊は、まず歩隲隊に攻撃を仕掛けた。
先手必勝とばかりに、公孫朱・張苞が突進を掛ける。

   公孫朱公孫朱  張苞張苞

公孫朱「一気に敵をくらつけるっ!」
張 苞「え、クラツケル? なんですか、それ」
公孫朱「……あ、ええと、その、間違えた。
    一気に敵を……その……片付ける!」
張 苞「はっ! いくぞーっ!」

   劉髭劉髭   杏

劉 髭「ここで突然解説コーナー!
    ん、なんじゃ幽霊でも見るような顔をしおって」
 杏 「実際に幽霊ですけども」
劉 髭「まあ、それはおいといて、方言の解説じゃ。
    『くらつける(くらすける)』というのはな、
    『叩く』もしくは『くらわせる』の意じゃ。
    因縁つける時などに使えるぞ」
 杏 「それでは、用例などどうぞ」
劉 髭んだおめ!? ガンたれてんでね!
    いい加減にしねとくらつけっぞ!
 杏 「では、その訳です。『なんですか君は?
    ガンをおつけになるんじゃありません。
    いい加減になさらないとぶっ叩いちゃいますよ』」
劉 髭「ちなみに、最後のところの『ぞ』は『そ』と『と』の
    間くらいの発音にするとそれっぽいぞい」
 杏 「『つぉ』を早口で言った感じですね。
    それでは、リピートアフターミー。
    『くらつけっぞ』
劉 髭『パンツみせねとくらつけっぞ』
 杏 「やってみ。倍にしてくらつけっぞ」
劉 髭「あー、その、えーと。
    い、以上、解説コーナー終わり!」

変な割り込みも気にせず、公孫朱・張苞は突進をかけ、
歩隲隊の兵を一気に半分以上減らしてみせた。
その後も金閣寺隊は歩隲隊に反撃を許さず攻撃を続け、
部隊のほぼ9割を討ち減らした。

金閣寺「よし、このへんで十分です!
    反転し、安陸に向かった燈芝隊を追います!」
費 偉「承知しました。全軍反転、進路北東!」

  燈芝隊を追う

    歩隲歩隲

歩 隲「む? 奴ら、我らを打ち捨てて移動するようだな」
呉 兵「追いますか?」
歩 隲「一千程度の兵でどうなるものでもあるまい。
    それより、夏口港を攻撃するほうが効果的だ。
    この数でも、肝を冷やさせる程度はできよう」
呉 兵「はっ」
歩 隲「夏口の兵を少しでも減らしておけば……」
呉 兵「減らしておけば?」
歩 隲「……ふ、お楽しみが増えるということだ。
    港へ攻撃をかける! 弩隊、前へ!」

    ☆☆☆

その頃、安陸では、范彊隊が安陸城塞に攻撃を仕掛け、
賀斉隊を打ち破った魏延が、それを叩こうとしていた。

  安陸

    魏延魏延

魏 延「范彊と張達とか言ったな、敵の将は。
    どうせどこの馬の骨とも知れぬ雑魚武将であろう。
    一気に片付け、夏口に戻るとするぞ!」

大将の范彊、そしてその副将についている張達。
魏延の言う通り、さほど優れた能力を持つわけではない。
(范彊・張達の能力については、新武将一覧をご覧あれ)

范 彊「来たな、張達」
張 達「うむ、ぬかるな、范彊」
范 彊「呉の命運は我らの働き如何に掛かってる。
    魯粛どのは、はっきりとそう申された。
    命は正直惜しいが、そんな命運を託されては
    無様な戦いはできぬ」
張 達「うむ、そうだな。ギリギリまで粘って戦い、
    それでヤバくなったら逃げるとしよう」
范 彊「そうだな、命は落さぬ程度に頑張ろう」

微妙な頑張り具合を確かめ、魏延隊との交戦に入る。
なお、彼らは自分たちの役割が『囮』であることは
知らされてはいなかった。
知らされていないが故に、自分たちが期待されている、
と勝手に思い込み、義理堅くもない彼らでも
それなりに頑張ろうとしていた。

魯粛の人材操縦の妙である。

だが、この時の兵力比は、魏延隊は1万後半、
范彊隊は1万にも満たない。
将たちの能力差も顕著であり、勝敗は火を見るより
明らかだった。

   魏延魏延  蛮望蛮望

魏 延「ぬおおおおおお!!」
蛮 望「おほほほほほほ!!」

范 彊「うわあ! 猛牛魏延だぁぁ!!」
張 達「こっちは化け物蛮望だぁぁ!!」
二 人「もうダメだぁぁぁぁ!!」

だがその時、魏延の元に急報が入った。

楚 兵「大変です将軍! 南方より燈芝隊1万、
    東方より公孫康隊1万がそれぞれ迫ってます!」
魏 延「な、なにぃ? 東はともかく、南からもだと!?
    夏口の部隊は何をやってるんだ!」

  新手出現

    金目鯛金目鯛

金目鯛「……面目ない」
魏 延「あ、いや、そう謝らずとも。別に悪いのは
    金閣寺どのだと言っているわけではない。
    そう、燈艾だ。あいつ、呉が夏口を狙うかのような
    口ぶりだったが、それも外れていたのではないか」
蛮 望「……はいはい、上司批判はおいといて、
    この場はどうするのかしらん?」
魏 延「むむむ……。
    安陸城塞を守るのを前提にしなくてはならない。
    となると、強い部隊から倒していくべきか」
金目鯛「しかし、強い部隊は倒すのにも時間がかかる。
    その間に安陸は攻め落されるかも」
魏 延「ぐあー、もう! この隊だけでは対応しきれん!
    別の一部隊がいてくれれば……」

その時、まるで魏延の声が届いたかのように、
燈芝隊の後方から金閣寺隊が現れた。

  金閣寺隊出現

魏 延「おお、あれは金閣寺隊!」
金目鯛「あいつを今ほど頼もしく思ったことはないな。
    大将、後ろはあいつに任せ、公孫康隊を!」
魏 延「うむ! 我らは反転し、公孫康隊を叩く!
    范彊隊など打ち捨てておけ!」

金閣寺隊の出現で勝機を見い出し、
魏延隊は東方より来る公孫康隊に向かっていった。

范 彊「た、助かったのか?」
張 達「魏延隊は東に向かったな。
    南からは別の部隊が来たようだが、その前には
    燈芝隊がいる。しばらくは我らは安心だな」
范 彊「ふ、ふははははは!
    そうか、では今のうちに安陸城塞を叩くぞ!」
張 達「おう、強敵がいなければ我らは無敵よ!」

半分以上兵を減らされながらも息を吹き返した范彊隊。
安陸城塞へ、再び攻勢を掛け始める。
その范彊・張達の様子を、燈芝隊と交戦に入った
金閣寺隊の中の一人の将が見ていた。

    張苞張苞

張 苞「……気に入らん」
楚 兵「将軍? どうしたんですか?」
張 苞「いや……よくわからないが……。
    あいつら……なんか……気にいらん……ウ……」
楚 兵「ウ?」
張 苞ウリィィィィィィィ!!
楚 兵「うわあ!? 将軍が暴走したーっ!?」

張苞は燈芝隊を突き抜け、范彊隊へと突っ込んでいく。
そして金閣寺隊全体もその動きに引きずられるように、
范彊隊の方へ向かっていった。

  燈芝隊より范彊隊

楚兵A「あれ、こっちの敵はいいのか?」
楚兵B「先頭があっち行ってるんだから、いいんだろう?
    もたもたしてると置いていかれるぞ」

   金閣寺金閣寺  費偉費偉

金閣寺「どういうことです、兵たちが范彊隊の方に……」
費 偉「張苞どのが暴走しているらしいですな。
    それに釣られて、部隊全体が范彊隊の方へ
    動いてしまっております」
金閣寺「くっ……燈芝隊の方が厄介だというのに」
費 偉「収拾を計るのは時間が掛かりそうです。
    ここはこのまま范彊隊を先に倒し、反転して
    燈芝隊を討つべきかと」
金閣寺「その方がよさそうですね……。
    少しの間なら、城塞のみでも燈芝隊と渡り合って
    くれるでしょう」

金閣寺隊は燈芝隊の横を抜け、范彊隊と交戦。
燈芝隊は後回しにするというこの選択は、また予期せぬ
結果を生むのだった。

    ☆☆☆

さて、燈艾の守る夏口港では、残っていた歩隲隊に
攻撃を受けながらも、これを撃退することに成功。
残兵は3千余にまで減っていた。

だが、歩隲隊を倒して安心したのもつかの間。
廬江方面より、新たな部隊が出撃したとの報が入った。

    トウ艾燈艾

楚 兵「その数、約2万5千! 大将は孫尚香!」
燈 艾「……これが本命、か」
蔡 中「どどどどーすんだー!
    今のこの港では守り切れぬぞぉぉぉ!」
蔡 和「落ちつけ弟よ! 慌てずとも、策はある」
蔡 中「おおお流石は兄者! して、その策とは!?」
蔡 和「捨てるのさ」
蔡 中「は? 何を?」
蔡 和「だから、守り切れぬなら最初から捨てればよい。
    ここを引き払い、江夏城へ退くのだ」
蔡 中「そ、それは確かに良い策だが……。
    ここまでの戦いで出た負傷兵たちがここにはいる。
    彼らは連れて行けぬぞ」
蔡 和「それは捨てていくしかあるまい。
    防御の薄い施設で防衛戦をやって負けるよりは、
    まだくれてやったほうが被害は小さいだろう」
蔡 中「それでは、負傷兵をくれてやると!?
    彼らが回復したら、敵の戦力になってしまう!
    それでは、まるっきり損ですぞ!」
蔡 和「ええい、この貧乏性め。
    昔からお前はいつも小さいことにこだわる!」
蔡 中「兄上がこだわらなさ過ぎなだけです!」

燈 艾「……やめなされい。
    この夏口、捨てもしなければ負けもしません」
蔡 和「なんと? では、何か策があるのか!」
蔡 中「そ、その策は一体!?」
燈 艾「……待つことです」
二 人「は?」
燈 艾「……魏延・金閣寺の隊が戻るまで待つ。
    それが、勝つための策です」
二 人「はぁ〜?」
燈 艾「……(敵はこれまでにいくつもの策を弄し、
    我が方の部隊の分散を狙っている。
    だが、こちらの戦闘力をまだ甘く見ているようだ。
    策に嵌まっているように見せておくのが上策か)」

蔡 和「黙って頷いとらんで、何か言わんか!」
蔡 中「待ってる間に攻撃されたら、一発で落ちるぞ!」

燈艾は蔡和や蔡中のように焦ってはいなかったが、
とはいえ確たる勝算もあるわけではなかった。
蔡中の言うように、待っている間に一撃を受ければ、
3千余の兵などすぐにやられてしまうだろう。

楚 兵「失礼します」
蔡 和「なんだ、今は軍議中だぞ!」
蔡 中「ノックくらいせんか! バカ者!」
楚 兵「も、申し訳ありません」
燈 艾「……何事か」
楚 兵「は、新野より董蘭どのが到着いたしました。
    兵5千をお連れになっております」
燈 艾「……董蘭?」

  5千の増援

かつて交趾で勢力を張っていたこともある彼女は、
現在は楚国で新野太守を務めていた。

    董蘭董蘭

董 蘭「新野より兵5千を連れてきました。
    少ないですが、いないよりはましでしょう」
燈 艾「……いえ、助かります。
    しかし、新野には増援を出せるほど余裕はないと
    思っておりましたが……」
董 蘭「ええ、新野にいた全ての兵を集めてきました。
    これで新野はからっぽですわね。……しかし、
    こちらが落ちてしまっては、新野に多少兵が
    いてもいなくても同じことですし」
燈 艾「……ご好意、感謝します」

董蘭は笑みを返して、その場を辞した。
兵を送り終えた彼女は、また新野へ戻っていった。

蔡 和「……多分、出番が欲しかっただけだな」
蔡 中「いや、婿探しかもしれん。もういい歳だし」

燈 艾「……この5千の兵だけでも、十分効果がある。
    後は、待つのみ……」

刻一刻と時が経つごとに、孫尚香隊は近付いてくる。
しかし、魏延・金閣寺らが安陸から戻る時も近付く。
燈艾は、味方が間に合ってくれることを信じていた。

    ☆☆☆

さて、その味方の戦い。張苞の暴走で生じたズレは、
さらに思わぬ方向へと展開していく。

   公孫朱公孫朱  張苞張苞

公孫朱「突進! 敵を逃がすな!」
張 苞「ウリィィィィィィ!!」

范 彊「ぎゃー! やっぱりダメだったー!」
張 達「逃げろ、って逃げられねー! ウワァァン!」

公孫朱の突進で范彊隊を殲滅。
逃げようとする范彊・張達を捕らえたまではよかった。
だがその後、公孫朱は『それ』を見てしまう。

公孫朱「公孫の……旗……!?」

魏延隊と交戦する公孫康隊。
かつては君主と仰いだ、懐かしい伯父の雄姿を見て、
彼女は我を忘れた。

(ここより一部バイリンガルでお伝えします)

公孫朱「康おんつぁーん!!(康おじさーん!)」
楚 兵「ちょ、ちょっと将軍!
    どちらへ行くんですかーっ!!」
公孫朱「おんつぁんがいんだ! ちょっくらいっでぐる!
    (おじさんがいるの! ちょっと行ってくる!)」
楚 兵「しょ、将軍ーっ!?」

公孫朱は公孫康隊に向かって駆け出した。
この行動が、またも兵の一部を公孫康隊に向け、
燈芝隊への攻撃を遅らせる結果となっていく。

  公孫康隊へ

   金閣寺金閣寺  費偉費偉

金閣寺「なに!? 今度は公孫朱が公孫康隊へ!?
    兵たちも釣られて向かっている……!?」
費 偉「なんともまあ……金閣寺どの、
    しょうがないから公孫康隊を先にしましょう。
    安陸城塞には、もうしばらく燈芝隊の攻撃に
    耐えてもらうしかありますまい」
金閣寺「くっ……私がふがいないばかりに」
費 偉「いや、これは流石にあなたのせいでは……」

そんな大きな影響を与えながら、公孫朱は駆ける。
公孫康隊に突っ込み、伯父の姿を見つけた。

    公孫康公孫康

公孫康「むっ……誰だ!?」
公孫朱「康おんつぁん! おれだ、公孫朱だべ!
    (康おじさん! 私よ、公孫朱だよ!)」
公孫康「おおっ……!? 朱か!
    なんとまあ、随分大人になったもんだな!」
公孫朱「旗見てたまげたべ! おんつぁんがおるとは
    おもわねがったからない!(旗を見て驚いたよ!
    おじさんがいるとは思わなかったからね!)」
公孫康「お前と会うとは思わなかったが……。
    わしも今は呉の将だからな。命があれば、
    それに従わねばならん。
    お前も、楚軍では活躍しているようだな……。
    噂話には聞いているぞ」
公孫朱「やんだ、こっぱずかしべ(やだ、恥ずかしいよ)」
公孫康「……わざわざ会いに来てくれたのは嬉しい。
    しかし、今のわしとお前は敵同士の関係だ。
    伯父・姪の関係は忘れねばならん」
公孫朱「おんつぁん?」
公孫康「朱よ、ひとつだけ聞きたい。
    楚を捨て、わしと共に呉で戦わぬか?」
公孫朱「おんつぁん、それはわがんね。
    金旋さまも、楚の皆も、いい人ばっかだべ。
    おれ、そんな皆がでえすきなんだ。
    んな裏切りなど、そんだけはできね。
    (おじさん、それはダメだよ。
    金旋さまも、楚の皆もいい人ばかりだから。
    私、そんな皆が大好きなんだよ。
    そんな裏切りなんて、それだけはできない)」
公孫康「……そうか。ならば仕方あるまい。
    朱よ。これ以降は、我らは敵同士だ。
    伯父と呼ぶことも許さん」
公孫朱「おんつぁん!? やだべ!
    おれ、そんなのしんねかんな!
    (おじさん!? やだよ!
    私、そんなの知らないからね!)」
公孫康「朱! かすかたってんでね!
    道理わがんね歳でもあんめした!」
    (朱! 生意気いうんじゃない!
    道理がわからない歳でもあるまい!)」
公孫朱「うっ……」
公孫康「……わかったら、もう行け。
    お前と直接剣を交える気にはならん」
公孫朱「わがった……。おれも公孫の女だ。
    みだぐないことはいわん。
    次会ったら……そん時は敵同士だ。
    (わかった……。私も公孫の女です。
    見苦しいことは言いません。
    次に会ったら……その時は敵同士です)」
公孫康「……さあ、もう行け」
公孫朱「ううっ……わぁぁ!」

駆けていく公孫朱の背を見送る公孫康。

公孫康「弟よ……。
    お前の連れてきた赤子は、立派に育ったぞ。
    できれば、ずっと生き延びてほしいものだ」

戦いはさらに激しくなる。
魏延・金閣寺隊の攻撃が集中した公孫康隊は、
長くは持たず、最後には魏延・蛮望の突撃を食らい
部隊は壊滅。副将の虞翻、顧譚が捕らえられた。

(魏延はこの時点で統率に+1され84に上昇)

魏 延「金閣寺が来たので、早くカタがついたが……。
    城塞は、燈芝隊はどうなってるのだ?」
蛮 望「けっこうヤバイみたいよ。ほら、あれ」

    卞柔卞柔

卞 柔「ひぃぃぃ、早く助けてくだされぇぇぇぇ」

   トウ芝燈芝   馬謖馬謖

燈 芝「攻めよ! 邪魔の入らぬうちに落とすのだ!」
馬 謖「燈芝どの! ここは私にお任せを!」
燈 芝「む、馬謖どの。何か策でも?」
馬 謖「敵は冷静さを欠いております。
    今ならば、単純な計略でも効きましょう。
    旗を多数立て、包囲網を築いたように見せます」

馬謖は数人の兵に多くの旗を持たせ、
城塞から少し遠めの所にその旗を立たせた。

馬 謖「よく聞け、城塞の将兵たちよ!
    お前たちは完全に包囲されている!」
卞 柔「げ、げえっ! い、いつのまに!?
    城塞の周りを、ぐるりと呉の旗が……!」
馬 謖「無駄な抵抗はやめて降伏せよ!
    君たちのお母さんは泣いているぞー」
卞 柔「ど、ど、どうすればいいのだ!?」

馬 謖「敵は混乱しております。さあ、今のうちです」
燈 芝「う、うむ。(お母さんには何の意味が?)」

だが、彼らの攻撃は間に合わなかった。
公孫康隊を倒した魏延・金閣寺の隊が、
怒涛のように押し寄せてきたからである。

  残るは燈芝隊

    金閣寺金閣寺

金閣寺「夏口の燈艾どのより知らせが来た!
    新たな敵部隊が向かって来ているらしい!
    時間を掛けている暇はない、一気に決めるぞ!」

   公孫朱公孫朱  張苞張苞

公孫朱「張苞! 行くよっ!」
張 苞「は? は、ははははいいいいいい!!
    (そ、そんな昂ぶった声で名を呼ばれるとはっ!
    もしかして俺のこと意識しまくり!?)」

公孫朱の声の昂ぶりは全く違う理由からだったが、
この高揚した二人の激しい突進攻撃によって、
燈芝隊は半数の兵を失ってしまう。

燈 芝「城塞を落とすまでには至らずか……!
    だが、ここで少しの間だけでも押し留めれば、
    当初の夏口を落とす策は完成する!
    なんとしても防げ! 押されるな!」
魏 延「そうはさせんぞ!
    貴様らの弄する策など、食い破ってくれる!
    全軍、突撃せよっ!」

魏延の意地は、燈芝隊を突き抜けるのか。

    ☆☆☆

月はすでに12月になっている。

夏口に向かう孫尚香隊、2万5千。
副将は当初と同じく、劉備、太史慈、潘璋、
諸葛瑾という面子である。

  勝利への行軍

   太史慈太史慈  諸葛瑾諸葛瑾

太史慈「夏口港ももうすぐですな……」
諸葛瑾「これで夏口を奪い、そして江夏を奪えば、
    呉の長年の悲願であった『荊州進出』、
    これがようやく現実のものとなります」

   劉備劉備   潘璋潘璋

劉 備「しかし、魯粛の旦那も凄い手を使うな。
    ここまで手の込んだ策、想像だにしてなかった」
潘 璋「ふん、お前のような浅知恵しか出ぬ男に
    この遠大な策を想像できるはずもあるまい」

    孫尚香孫尚香

孫尚香「まだ……まだ戦いは終わってはいない。
    むしろ、ここからが正念場。気を引き締めて」
劉 備「うむ、気は引き締まってますぞ。
    まあ、キ○タマはいつもふにゃふにゃですが!
    はーっはっはっはっ!」
太史慈「ほう……それは凄い。
    キン○マが縮みあがったりはしないのか」
潘 璋「嘘をつけ。何度もビビって小便をチビりそうに
    なったという話、前に聞いたぞ」
劉 備「だ、誰に聞いた、そんなことっ!?」
潘 璋「お主の養子」
劉 備「りゅ、劉封めぇぇぇぇ!!」
孫尚香「あーもう! うるさい!
    キ、金の玉のことなんてどうでもいいから!
    そろそろ見える頃よ、準備なさい!」
潘 璋「す、すいません……」
太史慈「そういえば、少し霧が出てますな。
    晴れていればもう港が見えてる頃ですが」
劉 備「お、何か影が見えたぞ」

  『誰だ、誰だ、誰だ〜♪
   霧に紛れて動く影〜♪』


潘 璋「だ、誰だ、変な歌を歌ってる奴は!?」
劉 備「む、あそこにいるのは……!?」

    トウ艾燈艾

燈 艾「……」
孫尚香「……燈艾!? ははっ、港で戦うよりは
    野戦の方がマシだ……ということかしら?
    でも、少数の兵で勝てると思って……」
太史慈「しかし、先ほどの歌は別方向からでした。
    燈艾のいるあそこではなく、もう少し……」

  『黄色いホーンーのー♪
    バッファローマーン♪』


   魏延魏延   金目鯛金目鯛

魏 延「……なんですか、その歌は」
金目鯛「いや、なんですかって言われても。
    即興で作った奴だから堪忍してくれ」

諸葛瑾「魏延!?」
孫尚香「まさか……!? 戻ってきた!?」

魏 延「ははは、あいにくだが、お前たちがチンタラ
    歩いてくる間に戻っていたぞ。
    風呂まで入る暇があったわ」

    蛮望蛮望

蛮 望「お湯じゃなくて水風呂だったけど」
魏 延「しっ、余計なことは言わんでいい」

孫尚香「くっ……。策は、破られたということか。
    ここまで来ておきながら……」
太史慈「まだです! まだ終わってはおりません!
    ……はあっ!」
孫尚香「太史慈!?」
太史慈「魏延! 覚悟っ!」

魏延に向かって駆けていく太史慈。
魏延は、逃げることもなく逆に向かっていく。

魏 延「またお前か、太史慈!
    以前勝ったからと言って思い上がるなよ!」
太史慈「ええい、うるさい!
    ここまで多くの犠牲を払った戦い!
    絶対に負けられんのだ!」
魏 延「負けられんのはこちらとて同じだ!」
太史慈「ならば、勝負!」
魏 延「来い!」

太史慈:武力93 VS 魏延:武力95

 一騎討ち

太史慈たあ! ぬりゃ! そいや!
魏 延「ぬっ……凄まじい気迫だ!」
太史慈「負けられんと言ったッ!
   ぬおおお! 行け、『天狗走り』!

手にした双鞭の先を地に走らせながら跳ね上げる。
魏延はなんとかそれをかわしたが、巻き上げられた
土ぼこりが視界を遮った。

魏 延「……どこだ!?」
太史慈「隙あり!」

魏延の頭上に振り下ろされる一撃。
だが、魏延の気迫も以前とは違っていた。

魏 延「魏文長をなめるなぁぁぁぁ!!
    ハリケーン・ミサイルッ!!
太史慈「なっ!? 角で受け止めた!?」

一瞬、全ての動きが止まった。
そして、ピシリピシリとヒビの入る音が響く。

魏 延「どおおおおりゃああああああ!!」
太史慈「私の虎撲殴狼がっ!?」

魏延は太史慈の鉄鞭を受け止め、破壊した。
そして間髪いれずに自らの薙刀をひと薙ぎ。

太史慈「ぐああああっ!!」
魏 延「ど、どうだ太史慈! これが私の力だっ!」

頭をふらつかせながらもしっかりと馬上にいる魏延、
一太刀を受けて動けない太史慈。
勝敗は、決した。

燈 艾「……攻撃開始。この機を逃がすな」
孫尚香「くっ……太史慈を回収しつつ、応戦せよ!」

孫尚香隊2万5千に、再編された燈艾・魏延の隊
それぞれ2万5千、合計5万の兵が襲い掛かる。
倍の兵数、一騎討ちの結果による士気の上下、
地の利を得ている軍と遠征している軍の差……。

もはや呉軍が勝つ要素は残っていなかった。

孫尚香隊は散々に打ちのめされ、壊滅。
潘璋は捕らえられ、太史慈は重傷を負っていた。
孫尚香は逃げながら、また楚との戦いに勝つことが
できなかったことを歯噛みする。

呉軍の攻撃はあと一歩というところまで行ったが、
最後は楚軍の地力・勢いが勝った。
全てが終わってみれば、呉軍の被害は甚大であり、
楚軍は多くの負傷兵を飲み込んで、以前よりも
総兵力は増えているほどであった。

こうして、楚呉の激しい戦いが続いた218年は
幕を閉じていく。

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