○ 第十二章 「ウチの軍師はくーるびゅーてぃ?」 ○ 
218年6月

6月、烏林。
現在この港は、呉との戦闘で出た多くの負傷兵を
回復させるための病院のようになっていた。

  烏林マップ

その中で、軍師金玉昼は思案していた。
陸口侵攻が失敗に終わったことで、
彼女の信条は少し変化してきたのか。

   金玉昼金玉昼  鞏恋鞏恋

金玉昼「決めたにゃ」
鞏 恋「……何を?」
金玉昼「これまでの私は、意見を求められた時に言う、
    補佐役みたいな感じになっていたにゃ。
    でも、それではダメだということを知ったにゃ」
鞏 恋「ふーん」
金玉昼「だからこれからは、常に最善の手を考え、
    それをちちうえに献策していくつもりにゃ」
鞏 恋「今までは手を抜いていたと……。
    このナマケモノめが
金玉昼「て、手を抜いてわけではないにゃ〜」
鞏 恋「いや、冗談だし」
金玉昼「ううー。これまでは、ちちうえが好みそうな
    策のみを選んで言ってたからにゃー。
    でも、それだけじゃダメなのにゃ。
    君主が好まない策でも、有効と思ったら
    常に献策していかないと……」
鞏 恋「……別に今まででもいいと思うけど」
金玉昼「それではダメなのにゃ。
    軍師というものは、時には冷徹になり
    非情な策を使うことも必要と悟ったのにゃ。
    そこで、私は非情になりまひる!」
鞏 恋「非常に、非情になるのね」
金玉昼「……真面目に聞いてにゃ〜」
鞏 恋「非情になる……ということは、
    人が苦しんでても見捨てると?」
金玉昼「時と場合によっては有り得まひる。
    これからはクール、かつ非情な軍師として、
    一目置かれる存在になるつもりにゃ!」
鞏 恋「そう。頑張って」
金玉昼「私は今日から金玉昼ではなくなるにゃ!
    これからは冷酷無比なエクセレント軍師、
    『クイーン金玉昼クールビューティDX』
    と呼んでくれて結構にゃ!」
鞏 恋「……玉ちゃんが冷酷無比ねぇ」
金玉昼「『クイーン金玉昼クールビューティDX』
    と呼んでくれて結構!」
鞏 恋「……玉ちゃん?」
金玉昼「私のことは
    『クイーン金玉昼クールビューティDX』
    と呼んで結構ッッッ!!
鞏 恋「く・いんきん玉昼、くるくーるびゅってぃDX」
金玉昼「変な区切り方しないでにゃ〜っ!
    くるくーるって何にゃ〜っ!」
鞏 恋「……玉ちゃんがクールビューティてのは、
    ちょっと無理があると思うけど」
金玉昼「今は無理でもそうなっていくのにゃ〜!」
鞏 恋「……真似してもしょうがないと思うけどな」
金玉昼「ま、真似って……誰の真似でもないにゃっ!
    私はあくまで軍師としてあるべき姿をっ」
鞏 恋「誰かの真似とは別に言ってないけどね。
    ま、どこまで続くのか見物だね」
金玉昼「む、むう〜っ。友達を思う気持ちが
    全然感じられない言葉にゃ〜」
鞏 恋「クールに決めるんじゃなかったの?
    不満が顔にありありと出てるよ」
金玉昼「お、おっと……いけないいけない。
    ま、まあ、別によろしくってよ」
鞏 恋「変な感じ……。
    まあそのうち、すぐに元に戻りそうだけど」
金玉昼「も、戻るだなんて、そ、そんなこと、
    全然、絶対、ありませんことよ」
鞏 恋「……あ、玉ちゃんの思い人を発見。
    こっちに来てるみたいだよ」
金玉昼「えっ!? そ、そんな訳ないにゃ。
    ……じゃなくて、そんな訳ありませんわ。
    彼がこんなところにいるはずがなくてよ」
鞏 恋「でも、来てるけど。ほら、あそこの人影」
金玉昼「そ、そんな、ありえないですわ。
    あの人がここに来る訳が……」
鞏 恋「でも本当にいるし。……そうだ。
    彼に玉ちゃんのクールぶりを見てもらおう。
    おーい、こっち来てー」
金玉昼「え、ええっ!? や、やめてにゃー」
鞏 恋「早く早くー」
金玉昼「きゃー! きゃー!」

    李厳李厳

李 厳「……私を呼んだか? 何か用事でも?」
鞏 恋「あ、ちょっと呼んでみただけ。
    別に用事とかはナシ」
李 厳「ふうむ。何か騒がしかったようだが」
鞏 恋「ちょっとふざけてただけだから」
李 厳「そうか……まあ、別に構わんが。
    では、用があるので失礼する」
鞏 恋「はーい」

李厳はよく判らない顔をしながら
その場を去っていった。

金玉昼ぜ、全然違う人にゃ〜!
鞏 恋「失敗失敗。
    あれは玉ちゃんの思い人じゃなくて、
    玉ちゃんより重い人だった」
金玉昼「みんな私より重いにゃっ!」
鞏 恋「ひ、酷い……。
    まるで私までデブみたいな言い方……」
金玉昼「あ、ご、ごめんにゃ。
    恋ちゃんは全然デブってないにゃ。
    締まった筋肉で重いだけで……」
鞏 恋「ひどいっ! 重いって言った〜っ!」
金玉昼「だ、だって事実として重いんだし……
    ってそうじゃなくてその、あー、えー。
    なんて言ったらいいのか、えーと」
鞏 恋「……どっか行っちゃったね」
金玉昼「は?」
鞏 恋「玉昼くるくるびゅーてぃDX」
金玉昼「あ」
鞏 恋「もう、いつも通りの玉ちゃんだ」
金玉昼「……む、むむ〜、騙したな〜!」
鞏 恋「ひっかかる方が悪いって」
金玉昼「うう……でも、軍師に非情さが必要なのは
    確かだと思うのにゃ……」
鞏 恋「だからって、人の真似事をするのとは
    ちょっと違うかと」
金玉昼「……んー」
鞏 恋「ところで、ひとつ聞きたいんだけど」
金玉昼「何にゃ?」
鞏 恋「玉ちゃんの思い人って誰?」

金玉昼はその言葉にコケただけで、
自分の思い人を教えることはなかった。

彼女の思い人とは一体誰なのか?
それはいずれ明らかになる……かもしれない。

    ☆☆☆

同じく烏林港、施設内部。

    雷圓圓雷圓圓

雷圓圓「おそうじ〜 おそうじ〜 ふんふーん♪
    私はスイーパー いわゆる掃除人〜♪
    今日も今日とてお掃除するの〜♪」

雷圓圓は実に楽しそうに歌を歌いながら、
廊下にモップ掛けをしていた。
そんな雷圓圓の姿を見かけた魯圓圓は、
うんざりとした顔でひとりごちる。

    魯圓圓魯圓圓

魯圓圓「雷ったら、まーた掃除なんかして……。
    いい加減、将としての自覚を持ってほしいわ」

雷圓圓「今日は町の掃除に精を出す〜♪
    はぁ〜 んぁ〜 どっこいしょ〜♪
    (セリフ)
    『お、お前は一体何者だ!?』
    『あなたみたいな社会のダニを始末する者。
    そう、人呼んで必殺掃除人……』
    ズギューン! 『ぐはあっ!』
    『これでまた町が綺麗になった……』

    るんるん 町が平和になったのよ〜♪
    私の掃除のお陰なの〜♪」

魯圓圓「なんつー歌を歌ってるんだか。
    ちょっと、雷っ!」
雷圓圓「『私に近付くと危険よ……。
    始末されたくなかったら去りなさい』
    危な〜い私は〜 そうスイーパー♪」
魯圓圓「……誰を始末するってのよ、全く。
    ちょっと雷! 歌やめて止まりなさい!」
雷圓圓「あら? 魯おねえさまじゃないですか。
    どうかしたんですかー?」
魯圓圓「どうかしたんですか、じゃないわ。
    また掃除なんかして。何度言ったらわかるの?
    あなたは武将なんだから、それに相応しい
    行動をしなさい!」
雷圓圓「む。お言葉ですけど、お姉さま。
    私はただ掃除をしてるわけではないのですよ」
魯圓圓「……どういうことよ」
雷圓圓「これは、新しい武器の扱いに慣れるために、
    その武器を使って訓練してるのですよー」
魯圓圓「え? 武器? どこにそんなものが」
雷圓圓「ほらほら、ここにあるじゃないですか」
魯圓圓「え? これって」

    
     ジャジャーン

魯圓圓「モップじゃないの」
雷圓圓「そうです、モップですよ。
    でも、ただのモップじゃありません」
魯圓圓「……見た感じは普通のモップに見えるけど」
雷圓圓「ふっふっふ、驚かないでくださいよ〜。
    実はこれ、李典さんに特注で作ってもらった
    すぺしゃるおーだーめいどのモップなのです」
魯圓圓「李典……ああ、あの死神博士」
雷圓圓「改造手術とかはしてないみたいですよ?」
魯圓圓「似たようなものよ」
雷圓圓「その李典さんから完成品が送られたので、
    その使用感を試していたんですよ」
魯圓圓「どうせ、そのモップの中にごちゃごちゃと
    いろいろなのが仕込んであるんでしょ」
雷圓圓「えっへっへー。バレましたか。
    武器として使えば棍みたいに使えますし、
    仕込み刀に槍、謎の液とかも仕込んであります。
    もちろん普通に使えば普通のモップにもなるし、
    一石五鳥くらいの武器なんですよぉ」
魯圓圓「なるほど……。あなたの棍の腕前は確かだし、
    それがこの武器で強化されるなら、
    それはとてもいいことだと思うけれど……」
雷圓圓「ですよねぇ♪」
魯圓圓「……でもさっき訓練してるって言ったけど、
    結局、掃除しかやってないんじゃないの?」
雷圓圓「そ、掃除でも扱いに慣れることはできますよ」
魯圓圓「モップとしての扱いには慣れるわね。
    でも、武器としては全然使ってないでしょう?」
雷圓圓「う。それは、おいおい……」
魯圓圓「そう言わずに、すぐに使ってみましょう。
    ほら、訓練にいくわよ」
雷圓圓「あーっ、お掃除がまだ途中なのですけどー!」
魯圓圓「いいのいいの、あなたは武将だから、
    お掃除なんてしなくていいのよー。
    ほーら、楽しい訓練にいくわよー」
雷圓圓「あうあうあう〜!!」

雷圓圓は魯圓圓に引き摺られていった。

だが、それまでモップ掛けしていた廊下は、
見違えるようにピカピカになっていた。
どうやら李典の作ったモップは、掃除用具としても
一級品の品質であるようだ。

    下町娘下町娘

下町娘「さーて、今日もお仕事頑張るぞっと」

雷圓圓らと入れ違いに、下町娘が歩いてくる。
書類を胸に抱えて歩いてくる彼女のその足は、
やがて雷圓圓が磨いていた所に差しかかり……。

 つるっ

下町娘「……えっ?」

 ずっだーんっ

足を思い切り取られ、下町娘は壮絶にコケた。
もしそこに誰かいたら、確実に彼女のパンツを
拝んだであろうほどの豪快さだった。

下町娘「な……、なんで廊下が……。
     こんなに……滑るの……?」

腰を強かに打ちつけ、彼女はしばらく
立ち上がることができなかった。

その磨かれた廊下では、しばらくの間
同じような犠牲者が多数出るようになる。
その後そこは『氷の廊下』と呼ばれるようになり、
通る者を怖れさせた。

ちなみに。
それ以降、氷の廊下は各地で無数に増えていった。
楚軍内ではその対策のため、滑らない靴が開発され
将兵に支給されたという。
その靴の開発者も、李典であったと伝えられる。

    李典李典

李 典「ふわっはっはっは……!
    発明ばんざーい! 開発ばんざーい!」

    ☆☆☆

氷の廊下のことはさておき。
楚王金旋は、思案に暮れていた。

    金旋金旋

金 旋「……さて、どうしたものかな」

今、彼の命題は、今後の戦略をどうするか。
そして目の前の呉をどう攻めるか、であった。

金 旋「むう、茶でも飲まないと頭がすっきりせんな。
    そういや、町娘ちゃんの出勤が遅いが……。
    もしかして、寝坊でもしてるのか?」

その下町娘がすぐ近くの廊下で悶絶しているとは、
金旋は夢にも思わなかった。

金 旋「朝は彼女の淹れてくれた茶を飲まないと、
    どうもしっくり来ないんだがなぁ……」

    金玉昼金玉昼

金玉昼「じゃあ、今日のお茶は私が淹れまひる」
金 旋「ん、玉?」
金玉昼「町娘ちゃんはついさっき、廊下で転んで
    腰を打ったらしく、医務室に運ばれてったにゃ」
金 旋「それはそれは……。
    久しぶりの出番だったのに災難だったな」
金玉昼「……出番?」
金 旋「気にするな。わかる者だけわかればいい」
金玉昼「……はあ。はい、お茶にゃ」
金 旋「うむ、いただきます。ずずず……」
金玉昼「それじゃ、私も……ずずず」

茶を飲んでまったりとする父と娘。
実に平和な絵図であった。

はた目に見れば、この二人が天下の楚王国を
率いる王とその軍師には見えないだろう。

だが、その会話の内容はまぎれもなく
王と軍師のそれであった。

金玉昼「ときに、ちちうえ」
金 旋「ん? なんだ?」
金玉昼「呉との抗争についてなんだけどにゃ。
    少しばかり、意見がありまひる」
金 旋「和平しろなんて言うんじゃないだろな。
    俺は普段は温厚かもしれんが……」
金玉昼「えー」
金 旋「……普段は温厚なふりをしてはいるが、
    一度切れてしまった関係を戻してやるほどの
    お人良しじゃないし、する気もないぞ」
金玉昼「呉との関係は直す必要はないにゃ」
金 旋「……ほう」
金玉昼「魏・呉・涼・炎のうち、まずどこを潰すか。
    それを考えると、一番最初に倒すべきはまず
    呉になるからにゃ。だからこのままでいいにゃ」
金 旋「ふむ。その根拠は?」
金玉昼「消去法にゃ。
    魏に侵攻していくと、領土がどんどん
    縦長になり後のためにならない。
    涼も同じ理由。また、涼を潰すことで
    炎軍の行き場を無くして関係悪化を招く。
    炎は軍の規模を考えれば狙い目ではあるけど、
    蜀という天険の要害が侵攻を阻む」

全体

金 旋「だから、呉を最初にやるべきだと。
    ……しかし、呉は水軍が強いし、軍の規模も
    曹操に次ぐものがあるだろう?」
金玉昼「そこはやり方ひとつでどうにもなる問題にゃ」
金 旋「うむ、そうだろうな。
    ……俺も、そこまでは辿り付いたんだが。
    しかし、どう呉を切り崩すかで詰まってな」
金玉昼「それには、3つの道がありまひる」
金 旋「ほう、3つもあるのか?」
金玉昼「そうにゃ。
    まず第一に、とにかく陸を制していく方法。
    江夏から廬江を取り、寿春を取る。
    桂陽から柴桑を取り、会稽・秣陵などを取る。
    全てを陸戦で倒していくやり方にゃ」
金 旋「……覇道、だな。誰かが言っていたが。
    とにかく、勝てるやり方でやっていく方法か」

  覇道

金玉昼「第二に、とにかく正面からぶつかる方法。
    烏林からの大兵力で陸口を取り、
    それによって楚軍の威勢を誇るやり方にゃ。
    常に最短距離を取り、正面から倒していく」
金 旋「こっちは王道だな。
    王者の軍として、常に正面から敵を破る。
    勝ち方にこだわるやり方か」        

  王道

金玉昼「第三に……敵を弱体化させる方法。
    あらゆる手を尽くし、敵将兵を弱らせるのにゃ」
金 旋「弱らせる?」
金玉昼「そう、あらゆる手で」
金 旋「弱らせた後で、正面から叩くのか」
金玉昼「そうにゃ。
    感じとしては、第二の方法に似てるにゃ。
    ただ、単なる力押しではなく、
    硬軟織り交ぜた戦い方になるはずにゃ」

  策略

金 旋「ふむ」
金玉昼「どれを選ぶかは、ちちうえ次第だけど……」
金 旋「いや、選ぶまでもない」
金玉昼「え?」
金 旋「やりたいのだろう? そういう戦を」
金玉昼「……ちちうえ?」
金 旋「第三の策をやりたいのだろう?
    だったら、俺はそれに乗るつもりだぞ。
    それとも違うのか?」
金玉昼「あ、いやっ、違わないにゃ!
    で、でもなんで私がやりたいって……」
金 旋「お前なー。娘の表情を見ていて、
    それがわかんねー父親でもないぞ」
金玉昼「……顔に出てたのかにゃ」
金 旋「ああ。目の輝き具合が全然違ってた」
金玉昼「あうう……。クールビューティ軍師になるには
    まだまだ遠いってことかにゃ〜」
金 旋「はっはっは、玉がクールになるなんて
    一生無理だろうなぁ〜」
金玉昼「うっさい!」
金 旋「……まあ、やりたいようにやってみろ。
    その策の中で、俺も考えていくとしよう」
金玉昼「ちちうえ……了解だにゃ」

方策の一切を任された金玉昼は早速、
将の手配をして呉軍の切り崩しを始めた。

    ☆☆☆

『あらゆる手を尽くす』まず一つ目の計は、
呉軍の将たちの弱体化であった。
智に優れた将を選抜、彼らに離間を仕掛けさせ、
呉将のうち知力の劣る者に不和の種を撒く。

   徐庶徐庶   沙摩柯沙摩柯

徐 庶「お兄さんお兄さん、ちょっといいかい」
沙摩柯「ナ、ナンダ、オマエ」
徐 庶「はっはっは、俺はしがねえ売人さぁ……。
    どうだい。これ、ひとついらねえかい?」
沙摩柯「カ、金、モッテナイ」
徐 庶「お試しってことでタダでいいよ。
    お兄さん、なんかワイルドでカッコイイしな」
沙摩柯「カ、カッコイイ? 俺ガ?」
徐 庶「おう。だからひとつ貰ってくれよ」
沙摩柯「ソ、ソコマデ、言ウナラ……」

沙摩柯は、徐庶に貰ったそれを口に運んだ。

沙摩柯ウ、ウーマーイーゾー!
徐 庶「おうよ、俺んとこのはいつもつきたて、
    作りたてだからなぁ。はっはっは」
沙摩柯「オ、オマエ、イイ奴ダナ」
徐 庶「おう、ありがとうよ。俺もあんたみたいな
    いい男に食ってもらって嬉しいぜ。
    ……ところで、ちょっと小耳に挟んだんだが」
沙摩柯「ン?」
徐 庶「呉軍に沙摩柯将軍っているだろう?
    その人の噂なんだけどよ……」
沙摩柯「ド、ドウイウ、噂ダ?」
徐 庶「いやな。呉公(孫権)が、その将軍の風貌が
    気持ち悪いって言ってるんだってよ」
沙摩柯キ、キモチワルイ!?
徐 庶「ああ、あんまり会いたくねえ顔だってさ。
    当主たる人が配下のことをそう言うのって、
    ちょっとどうかと思うんだがなぁ……。
    沙摩柯将軍も頑張って呉に仕えてるのにな。
    報われねえよなあ、全く」
沙摩柯「ゴ、呉公ガ……。ソンナ……」
徐 庶「武名轟く沙摩柯将軍なら、どこの軍に行っても
    活躍できる実力を持ってるはずなのにな。
    呉公がそんなことじゃ、宝の持ち腐れだぜ。
    実にもったいねえよ……そう思うだろ?」
沙摩柯「……ウ、ウム」
徐 庶「おっと、そろそろ他に売りに行かねえと、
    また親方に怒られちまう。じゃな」
沙摩柯「ア、アア。餅、ウマカッタゾ」
徐 庶「今度はちゃんと買って食ってくれな。
    ……餅〜、餅いらんかねぇ〜」

沙摩柯「呉公……。俺ガ嫌イ……?」 

    ☆☆☆

そして2つ目の計は、施設の破壊。
武に優れた将を選抜、敵施設に潜入させ、
破壊工作を行い防御力を低下させる。

   甘寧甘寧   鞏志鞏志

甘 寧「……こちら甘寧。聞こえるか、鞏志」
鞏 志「『聞こえています。
    イトデンワの調子も良好のようです』」
甘 寧「陸口港内部に潜入した。
    これより、防御施設の破壊に入る」
鞏 志「『了解。健闘を祈りますよ』」
甘 寧「その前に、ひとつ聞きたいんだが……。
    なんで、通信の相手があんたなんだ?」
鞏 志「『なんでも軍師が言うことには、
    声がまんまだから、だそうですよ』」
甘 寧「……よくわからんな」
鞏 志「『そうですよねえ。
    私はオタクじゃないし、眼鏡も掛けてませんし』」
甘 寧「ん? 何を言っている?」
鞏 志「『まあまあ、別にいいじゃないですか。
    それよりも任務を片付けましょう。
    陸口には兵が多い、見つからないように
    気をつけてください』」
甘 寧「了解した。夕食までには戻るぞ」
鞏 志「『ははは、わかりました。
    甘寧どのの好物を用意して待ってますよ』」

    ☆☆☆

他にも、楚軍は多数の工作員を送り込み、
順調に離間や破壊の工作は進んでいった。

しばらくの間、烏林のほか、江夏や桂陽でも
これらの工作に力を入れていくことになる。

これまで戦闘一本で敵を倒してきた楚軍だが、
これからは策略も駆使した高度な戦略で
敵を切り崩していくようになるのだった。

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