218年5月
5月下旬。陸口の楚軍と呉軍の艦隊戦は、
どちらが優勢とも言えない展開となっていた。
呉軍は孫尚香隊と潘璋隊、合わせて4万3千。
兵の数は少ないながらもその士気は高く、
すでに金満隊を殲滅している。
だがやはり、数的不利な点は解消できてはいない。
一方、楚軍は徐庶隊と朱桓隊、合わせて7万8千。
兵は多いが遠征軍であり士気が低目である。
序盤は呉軍の戦術にやられて金満隊を失ったものの、
それでも朱治・孫韶といったところを撃破している。
とはいえ、損害は呉軍よりも大きいのは確かであり、
甘寧艦隊が偽報にて騙され一度引き返していることも
戦局に大きく影を落としていた。
徐庶
李厳
徐 庶「……兵の士気が低いな」
李 厳「遠征軍である以上、それは仕方がない。
これでも孫韶隊を破って幾分戻したのだ」
徐 庶「よしっ、じゃあ俺が一発元気の出る歌を……」
李 厳「疲れている者たちには逆効果だから、
それはやめたほうがいい」
徐 庶「なに? その言い方ではまるで、俺の歌が
やかましいみたいじゃないか」
李 厳「いや、まるでではなく、実際そうだと思うが……」
徐 庶「なんだとっ!?
よーし、それなら本当にやかましいかどうか、
この場で確かめてもらおうか!」
べんべべべんべん
李 厳「や、やめてくれー」
徐 庶「うーし、まずは元気付けの意味を込めて
『突撃軍歌がんばれ江戸町』でも……」
???「何事ですかな、この騒ぎは」
徐 庶「……ん?」
呉懿
徐 庶「なんだ、呉懿のおっさんじゃないか」
呉 懿「孫尚香の艦隊が近付いておりますぞ。
余興を行っている暇はありません」
徐 庶「別に余興のつもりはないんだがなー。
実はかくかくしかじかで」
呉 懿「なるほど。要は兵の士気を上げたいと……。
ならばわしに任せてくだされい。
兵の士気を鼓舞してみせましょう」
李 厳「何をやろうというのだ? まあ何にせよ、
歌を聞かされるよりはよいとは思うが……」
徐 庶「まだ言うか」
呉 懿「まあまあ。わしにお任せあれ」
呉懿は各小隊に通達を出した。
『その小隊内で一番目立った者に報奨金を出す』と。
このことが広まり、徐庶艦隊の士気は向上した。
徐 庶「なるほど。評価する単位を小隊ごとに分け、
その分報奨金を貰える人数を増やすのか」
呉 懿「ええ。一人一人の貰う額は少なくなりますが、
『ちょっとでも頑張れば褒賞金を貰えるかも』
と皆に思わせることで、戦闘時の全体の士気を
向上させることができるのです」
李 厳「そう何度も使えぬ手だが、今は有効だな」
呉 懿「これを『ニンジン分割、もしかして俺も食える?
よしそれなら頑張るぞ』の法則と呼んでおります」
李 厳「……長い名前だし、わざわざ呼称をつける
ほどのものでもないと思うが……」
徐 庶「ふむ、ニンジンか……。
では、将である俺らも意識を高めるため、
ひとつ賭けでもするか?」
呉 懿「賭け?」
徐 庶「将の中で一番活躍した者に、他の者たちが
金一封を贈るというところで、どうだ」
李 厳「ほう、それは面白い。
当然、この時からの活躍で判断するのだろう?」
徐 庶「それは当然だ。どうだ、やるか」
呉 懿「まあ、それで各々のやる気が出るのなら……」
李 厳「周倉や張允も乗ってくるだろうな」
徐 庶「じゃあ、成立だ。周倉と張允にも知らせとこう。
ま、結局は俺が貰うことになるだろうけどな」
李 厳「何を言われる、勲功一位はこの李厳がいただく」
呉 懿「いやいや、案外わしが一位を取るやも……」
徐 庶「いや、それは絶対にないな」
呉 懿「な、何ゆえ!?」
徐 庶「あんたは5位(ごい)だから」
呉 懿「ダジャレですか!?」
士気の向上した徐庶隊は、孫尚香隊への攻勢を強める。
中でも、張允、そしてそれに呼応して呉懿が強攻。
この攻撃で多くの敵艦を倒した。
呉 懿「うおおおっ! 突っ込めい!
ダジャレ通りになどはせぬぞっ!
五位になどならぬぞぉぉぉぉ!!」
張 允「おお呉懿どの、何という気迫だ!?
これは負けてられぬなっ!」
さて、一方の朱桓隊は潘璋隊と交戦。
こちらは徐庶隊とは逆に、呂岱・全端といった者の
強攻を許してしまう。
潘璋
朱桓
潘 璋「はーっはっは! おい、朱桓!
呉を離れてから水軍の扱いが下手になったな!」
朱 桓「な、なにぃ?」
潘 璋「河童が岡に上がったら泳げなくなったか!」
朱 桓「ぐっ……おのれ潘璋め!」
この二人は歳も同じ(※)で、朱桓が呉にいた頃は
何かと比べられることが多かった。
朱桓も優秀な人材ではあったのだが、潘璋の方が
立ち回りが上手く華々しい武勲も多かったため、
上の者の評価は潘璋の方がいつも高かった。
(※ 177年生まれ、現在42歳)
朱 桓「そ、そういうそちらの方は、
敵にも味方にもいやらしいその戦いぶり、
ますます磨きが掛かったようだな!」
潘 璋「要領がいいと言え!
戦機を見逃さない優れた感覚のお陰だ!」
朱 桓「お前みたいな者を厚顔無恥と言うのだ!
一緒に戦っている者の身になってみろ!」
潘 璋「お前こそ呉を捨てた者のくせに何を言う!
お前に『厚顔無恥』の字などもったいない!
『睾丸鞭』で十分だ!」
朱 桓「ぐぬぬぬ……潘璋め! 口の減らない奴!」
朱 異「お、落ち着かれませ父上!
口喧嘩をしている暇はありません!」
朱 桓「そんなことはわかっている!
しかし、睾丸鞭などと言われて黙ってられぬ!」
楚兵A「睾丸鞭ってどういう意味だ……?」
楚兵B「わからんが、なんか痛そうだよな」
朱 桓「くそっ……。しかし潘璋隊、
なかなか手強いではないか……!」
潘璋隊の兵たちに『裏切り者許すまじ』の感情でも
あったのだろうか。
朱桓隊は劣勢に立たされる。
朱 桓「やはり実績の差か?
呉の水軍には、勝てないというのか」
朱 異「……父上! 左翼に艦隊の影が見えます!」
朱 桓「なに? 敵か、味方か!?」
朱 異「味方です!
艦隊の先頭に立ってるのは『王虎』です!」
朱 桓「……やっと来たか!」
偽報に引っかかり途中でUターンしてしまい、
結局、朱桓隊に遅れること半月余り。
甘寧隊約4万の部隊は、ようやく戦場へと到達した。
甘寧
甘 寧「待たせたな!」
朱 桓「待たせすぎだ!」
甘 寧「そう言ってくれるな。
俺だって騙されたことでイライラしてるんだ!
さあ、遅れた分を取り返すぞ!
いくぞ野郎ども!」
蒋欽
凌統
蒋 欽「へいキャプテン!」
凌 統「任せてくれ!」
雷圓圓
魯圓圓
雷圓圓「私たちもいるんですから『野郎ども!』じゃなく
『老若男女ども!』ですよねぇ、この場合」
魯圓圓「それはそれでそこはかとなく変だけど」
甘寧隊は潘璋隊に向かっていく。
それまでおあずけを食らっていた犬が、許しを得て
餌に向かっていくかのように、勢いをつけて。
だが……。
甘 寧「むむっ? 敵艦隊になかなか近付かないぞ。
どういうことだ?」
楚 兵「潘璋隊は後退しています!」
甘 寧「なにぃ?」
潘璋
董襲
潘 璋「ムダな戦いはするな。速やかに引き揚げろ」
董 襲「潘璋将軍、これはどういうことか!?」
潘 璋「おや、董襲どの。今は撤退中だが」
董 襲「なぜ撤退するのかを聞きに来たのだ!
何故、戦闘を捨てて逃げる!?」
潘 璋「董襲どの、言葉が過ぎますぞ。
これは戦略的撤退、ただ逃げたわけではない」
董 襲「味方を見捨てるのか!?」
潘 璋「味方? どの味方ですかな」
董 襲「何を言っている、まだお嬢様の隊が……」
潘 璋「何か勘違いしておられるようだな。
この撤退は私の判断で行ったのではない。
あくまで上からの命令だ」
董 襲「上から……?」
潘 璋「孫尚香隊もほら、あの通り。
我々と同じように撤退してますぞ?」
董 襲「なんだと? ……ど、どういうことだ」
潘 璋「それを知りたいのならば、帰ってから
軍師殿に聞かれたらどうですかな」
董 襲「なに……? 庖統の意向か、これは」
孫尚香、潘璋の隊は陸口港まで撤退していった。
鮮やかすぎるその撤退に、楚軍は追撃の機会を失う。
徐庶は、遠くなる孫尚香隊を眺めながら舌打ちした。
徐庶
李厳
徐 庶「ちっ……。全く、庖統の奴め」
李 厳「どういうことだ、これは?
まだ両軍とも、余裕が残っているぞ。
それなのに、何故奴らは撤退する?」
徐 庶「余裕があるうちだから撤退するのさ」
李 厳「よくわからん……。
こちらに余裕があるということは、
これから港を攻めることも可能だということだぞ」
徐 庶「じゃあ聞くぞ? このまま奴らが撤退せずに
戦い続けたとしたら、どちらが勝つと思う?」
李 厳「……ふむう。
甘寧隊の参戦で、数ではこちらが有利になった。
消耗戦に持ち込めば、こちらが勝つだろうな」
徐 庶「だろうな。では、奴らが撤退して、
戦場を陸口港付近に移して再度戦った場合、
今度はどちらが勝つと思う」
李 厳「うん? 同じことではないか?」
徐 庶「兵の数は同じだろう。
しかし、こちらはさらに移動し士気が下がり、
あちらは一度施設に戻り、士気が回復する。
こちらは遠征軍で地の利は全くないが、
あちらは施設近辺で地の利を得ることができる。
……さて、どっちが勝つ?」
李 厳「むむ……それでも、数ではこちらが上だ」
徐 庶「ああ、その点では確かにそうだな。
だが、陸口まで進んでしまうと、それは
絶対的なものではなくなってしまうんだ。
この状況下で、さらに攻撃できるか?」
李 厳「むむむ……」
徐 庶「ここはこちらも撤退する。
……甘寧あたりは不満を言いそうだがな。
全艦隊に烏林に向かえと伝えろ」
李 厳「……了解」
李厳は引き下がり、命令を伝えに行った。
徐 庶「……ったく。
庖統もよく分かってるな、俺の性格を」
破天荒なように見える徐庶であるが、
その実は冷静で危険は冒さないタイプである。
特にこのようなケースでは、確たる勝算を得ない限りは
再度攻撃をする気にはならなかった。
徐 庶「しかし、分かっていても攻められない。
ああ、あいつと孔明には敵わねえなぁ」
徐庶、朱桓、甘寧の各艦隊は、それぞれ隊をまとめ
烏林へと引き揚げていく。
孫尚香は、陸口でその様子を見ていた。
孫尚香
庖統
孫尚香「楚艦隊が引き揚げていく……。
軍師のあの言葉は本当だったのね」
庖 統「フフ、徐庶という男はそういう男です。
どっちが勝つかわからないような消耗戦は
彼のもっとも嫌いとするところ」
孫尚香「なるほど……」
庖 統「思惑が外れる可能性もありましたが、
彼らが攻めてきても、柴桑からの援軍などで
五分以上の戦いが出来たでしょう」
孫尚香「陸口を落とされることは防げた……。
しかし、かなりの兵を失ったわね。
半数以上の兵が死んだか、負傷をしてるわ」
庖 統「それはしょうがないところでしょう。
それよりも、倍の敵を相手にして負けなかった。
それを誇るべきではないかと」
孫尚香「そうね。これは勝ちに等しい……
いえ、れっきとした我が軍の勝利だわ」
陸口の呉軍は勝どきを上げた。
この戦闘に参加した楚軍の兵は18万。
対する呉軍の兵は10万であった。
戦いの後、無傷の兵は楚軍が11万。
呉軍は4万という数になっていた。
負傷兵も加わればまた違う数字になるのだが、
これだけでも楚軍の苦戦、呉軍の善戦のほどが
窺えよう。
この戦いで、呉の水軍が最強であることを
彼らは再証明したのである。
孫尚香
関興
孫尚香「でも、偉そうなこと言ってた割に、
関興はさっぱりだったわね」
関 興「も、申し訳ありません……。
艦隊戦は初めてだったものですから」
孫尚香「次はしっかりやりなさい」
関 興「は、ははっ。
(い、言えない。孫尚香さまのことが気になって、
戦いに集中できなかったなんて……)」
孫尚香「……顔が少し赤いわね。風邪でもひいた?」
関 興「い、いえっ! 大丈夫です!」
関興、この時21歳。多感な年頃であった。
軍議の席で窘められてからというもの、
孫尚香の存在が気になり仕方がなかったのである。
関 興「(確か俺の6つ年上だったよな……。
これからの活躍次第では、いい仲になって、
ケケケケコーンとかもああありうるかも……)
孫尚香「……でも、ちょっと不完全燃焼よね」
関 興「は、はいっ! 本当に申し訳ありません!
次こそは貴女に相応しい働きを見せますっ!」
孫尚香「……は? 私がどうしたの」
関 興「あ、いえ、次こそは孫尚香さまに認めて
いただけるような活躍をします!」
孫尚香「……ああ、そういうこと。
でも、今の不完全燃焼って言ったのは
『完全な決着を付けたかった』という意味。
別に関興のことを言ってるわけじゃないから」
関 興「は、はあ。そうでしたか」
孫尚香「次こそは、完膚なきまで叩きたいわね。
その時は働いてもらうわよ、関興」
関 興「はっ! お任せくださいっ!」
☆☆☆
さて、激戦の5月は終わり、6月。
烏林へ向かっていた徐庶、朱桓、甘寧の艦隊は
ようやく港へと入った。
三人は先に戻っていた金満と共に、
金旋に今回の戦闘についての報告をする。
金旋
金 旋「うーん……。お前らほどの奴らが、
こうもやられてしまうとはなあ」
徐庶
金満
徐 庶「面目ない……。
俺がもっと的確に指示を出していれば、
こんな結果にはならなかっただろう」
金 満「いえ、私が持ち堪えられなかったのが
そもそもの原因です」
朱桓
甘寧
朱 桓「我らがもっと早くに合流していれば、
このようなことには……」
甘 寧「いや、俺さえ騙されてなければ、
今頃は陸口で一杯やってたはずだ」
金 旋「あーわかったわかった。要するにアレだ。
お前ら全員が悪い。
そういうことだな?」
金 満「ち、父上……?」
徐 庶「な、なんか釈然としないが……」
甘 寧「しかし、反論できん」
金 旋「……お前らも悪い。
しかし、それでも一番悪いのは俺だ。
俺が呉を甘く見ていたのが、一番の敗因だろう」
朱 桓「閣下……」
金 旋「両軍ともに兵力を余し撤退したが、
我らは陸口を攻められず、多大な被害を出した。
これは、敗戦と言うべきだろう」
徐 庶「まあ、勝ったと言えないのは確かだな……」
金 旋「だが、徐庶の撤退の判断は間違っていない。
俺はそう思ってるから、気にするなよ」
徐 庶「すまない、ボス。
そう言ってもらえると助かる」
金 旋「この敗戦、今後に生かしていかねばな。
……ご苦労だった、下がって休め」
一 同「ははっ」
一同は退室し、話をしながら戻っていく。
徐 庶「……案外、あっさりとした感じだったな。
もうちょっとつっこまれるかと思ってたが」
金 満「大体の詳しいところは、先に私や姉上から
話してましたから……。
しかし、これからどうなるんでしょうね」
甘 寧「今回の俺はいいところなしだったからな。
近いうちに再戦をしてほしいものだが」
朱 桓「いや、大兵力を擁してもやられたのだ。
何も考えなしに再戦するとは思えん」
徐 庶「そうだな。江夏や桂陽の兵力を使って、
別方面から切り崩していくようになるかもな」
甘 寧「……俺は、奴らを水軍で打ち破ってこそ
真の勝利を得るのだと思うがな」
徐 庶「それは、ボスがどう考えているかだろう。
覇道を採るか、王道を採るか、だな」
金 満「王道と覇道……?
私には同じようなものに思えるんですけど、
どう違うんですか?」
徐 庶「そうだなあ。
どちらも統一を目指していく道という点では
確かに同じだろう。しかし、細部が違う」
金 満「細部?」
徐 庶「ああ。そうだな、簡単に言えば……。
手段を選ばないのが覇道、
手段を選ぶのが王道だ」
金 満「……ちょっとピンと来ませんけど」
徐 庶「うーん、なんて例えればいいか……」
朱 桓「覇道は、結果のみ良ければ経過は関係ない。
つまりこの場合は、呉を倒せれば、
水軍で倒そうが陸戦で倒そうが構わない、
そういうことだ」
甘 寧「逆に、王道ってのは形にこだわるやり方だ。
この場合は、水軍で呉を破るのが目的になる。
それ以外で呉を倒しても、『水軍では負けてた』
と言われてしまうからな。
完全な勝利を得て、誰にも反論させないことが
重要だということだな」
金 満「なるほど……」
徐 庶「さて、君主金満なら、どちらを採る?」
金 満「え、ええ!? 私が選ぶんですか!?」
徐 庶「仮定の話だ。一応は王子サマだからな、
今後、こういう選択を迫られるかもしれんだろ。
で、お前さんならどっちを選ぶんだ?」
金 満「そうですねえ……。
……私なら、王道を採りますね」
甘 寧「お、やっぱ王子サマは違うな」
金 満「王子はやめてくださいって。
……やっぱり、力を示してこその戦い。
圧倒的な力を皆に見せ付けなければ、
統一したとしても舐められると思うんですよ」
徐 庶「ふーむ。……ボスはどっちにするのかね」
呉懿
李厳
呉 懿「あ、徐庶どの」
李 厳「おお、やっと来た」
徐 庶「なんだなんだ。李厳に呉懿に張允に周倉……。
部隊で一緒だった奴らじゃないか。何か用か?」
張 允「何か、ではないですぞ。
例の件、忘れては困りますな」
徐 庶「例の……?」
李 厳「賭けのことなんだが。
『一番活躍した者に、金一封』」
徐 庶「ああ、それか!
なんかあの後がうやむやになってたから、
すっかり忘れてた」
甘 寧「なんだお前、賭けなんかやってたのか」
徐 庶「士気向上の一環で、ちょっとな。
……で、結局活躍したのは誰になるんだ?」
張 允「私だー! 忘れるなー!」
李 厳「賭けの後に活躍したのは、強攻を発動した
張允どの。それに呼応した呉懿どのだな」
徐 庶「じゃあ呉懿が一番で」
張 允「なんじゃそりゃあ!?
発動させた方が偉かろうがー!?」
呉 懿「そうです、わしはただ勢いに便乗したのみ。
すでにわしや李厳どの、周倉どのからは
金一封を渡しておりますぞ」
徐 庶「はいはい……わかったよ。じゃ、張允。
俺からの金一封を受け取ってくれ」
張 允「うむ、いただこう」
徐 庶「ちょっとの間、目をつぶってくれ。
その間に用意するから」
張 允「……? まあ、よいが」
張允が目をつぶっている間、
徐庶は金満に小声で話しかける。
徐 庶「ちょっと、金偉。少しいいか」
金 満「前の名前で呼ばないでくださいよ……。
で、何ですか? お金なら貸しませんよ」
徐 庶「いやいや、そうじゃない。
……ごにょごにょ、ということで」
金 満「え? はあ、別にいいですけど。
でも、怒られても知りませんよ」
徐 庶「いいからいいから」
張 允「まだなのか〜?」
徐 庶「おう、今やるぞー」
ふうっ
張 允「うはあ!? 耳に息がっ!?」
徐 庶「確かに渡したぞ、きんいっふー」
張 允「は、はいいいいっ!?」
甘 寧「なんだそりゃ」
徐 庶「だから金満、元の名が金偉という男が
ふうっと息を吹きかけ、『金偉っふー』」
朱 桓「……ダジャレか」
張 允「ちょ、ちょっとまてえええい!!
なんじゃそりゃあああああ!!」
徐 庶「ははは、冗談だ。
後でやるからそう吼えるな」
金 満「ははは……。つい先ほど覇道・王道の話を
してた人とは思えないなぁ……」
呉水軍に撃退された格好の楚軍。
この後、どういった形で攻めていくのか。
鍵を握るのは金旋の意向、そして……。
218年7月状況
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