○ 第十章 「ツイン・スネークス」 ○ 
218年5月

捕らえられた4人の捕虜将を奪還するため、
鞏恋は孫韶艦隊に潜入した。
一人目の金満を逃がした後、彼女は金玉昼と
感動の再会を果たしたのだった。

   鞏恋鞏恋   金玉昼金玉昼

鞏 恋「んー、感動のうまさ」
金玉昼「ああっ、食べすぎにゃ。
    半分だけって約束なのにー」

高級プリンを食しご満悦の二人であったが、
まだ部屋の外には二人の歩哨がいるのだ。
ここから金玉昼を連れ、鞏恋はどう脱出するのか。

鞏 恋「玉ちゃん、ダクト通れる?」
金玉昼「ん〜、通れなくはないと思うけど……。
    でも、外の人たちがたまにいるかどうかを
    確認するから、ダクト通ってる間にバレたら、
    逃げ道を失っちゃうにゃ」
鞏 恋「やっぱ倒さないとダメか……。
    なんとか誘い込んで倒せって言われたけど。
    ……誘う? ああ、誘えばいいのか」
金玉昼「……なんか一人で納得してる」
鞏 恋「いい方法思いついた。この方法でやろう。
    それは、ごにょごにょ……」
金玉昼「ええ〜? 引っかかるかにゃー」
鞏 恋「大丈夫、大丈夫」

金玉昼と鞏恋は何やら打ち合わせをして、
見張りの兵士たちを誘い込んで倒す作戦を立てた。
そして早速、実行に移す。

 コンコン

部屋の中からノックが鳴り、見張りの兵士たちは
何事かと顔を見合わせた。

金玉昼「ちょっと、いいかにゃー」
呉兵A「なんでしょうか?」
金玉昼「プリンの食器、下げてほしいのにゃ」
呉兵A「あ、はい。わかりました。
    では、扉から離れてくださいますか」
金玉昼「はいにゃあぁぁー(声、フェードアウト)
呉兵B「気をつけろ。女だからって油断すんな」
呉兵A「わかってるよ。……では、入ります」

呉兵は警戒しながら、部屋の中へと入る。

呉兵A「それでは、食器をお下げ……
    ……げええぇぇっ!?

突如上がった呉兵Aの叫びに釣られて、
呉兵Bも部屋の中を覗き込む。

呉兵B「ど、どうし……のわあああ!?

中では、金玉昼があられもない下着姿を見せ
服の着替えをしていたのである。

金玉昼「ん〜、ブラのホックが上手く外れないにゃ。
    悪いけど、ちょっと手伝ってほしいにゃ」
呉兵A「ぶ、ブブブブブラっすか!?]
呉兵B「ぬ、ぬぬぬぬ脱ぐっすか!?」
金玉昼「そうにゃ、早く手伝ってぇん」

少々厚みはないがマニア受けしそうな彼女の
その肢体に、兵たちの視線は釘付けとなった。

呉兵A「わ、私はブラホック外し道の免許皆伝!
    その程度のホック、私にかかれば赤子同然!」
呉兵B「な、なんの、神の手と呼ばれたこの私の
    ホック外しの妙技、とくとお見せしましょう!」
呉兵A「俺がやる。お前は見張ってろ」
呉兵B「美味しいところ持って行かせるかい」
金玉昼「どっちでもいいからー。
    それじゃ、ジャンケンで決めれば?」
呉兵A「よ、よし。それじゃ恨みっこなしだぞ」
呉兵B「望むところだ……ならば、せーの」
二 人「最初は……」

鞏 恋グーッ!!

 ばき ばき

鞏 恋「……単純だねぇ」
金玉昼「ふう、見せ損にならなくてよかったにゃ」

兵士二人は、勢いよく天井から落ちてきた
鞏恋の拳骨の一撃を脳天に食らい、気絶。
悲しいほどの男のサガであった。

兵たちを気絶させた鞏恋と金玉昼は、
部屋の中で何やらごそごそと身支度を始めた。

金玉昼「……これでいいかにゃ?」
鞏 恋「ん、似合ってる。背格好はちょっと小さいけど、
    夜だから多分バレないんじゃないかな」
金玉昼「後は、この鎧を脱がせた兵をベッドに乗せて、
    布団をかぶせて……うん、よしっと。
    はた目には中で誰か寝てるように見えまひる」
鞏 恋「よし……じゃ、さっき外した装備を
    ちょっと回収してくる」
金玉昼「はーい」

隠していたイト・デンワ、他の装備を回収。
彼女は部屋に戻り、李厳に連絡を取ってみる。
場所が奥の部屋であるため音質は悪いが、
聞き取れないほどではない。

鞏 恋「こちらジョカ。
    軍師の捕らえられていた部屋にいる」

    李厳李厳

李 厳「『了解、軍師の状態は?』」
鞏 恋「無駄に元気、脱出に支障なし。
    軍師と会い、部屋の前の敵兵を排除、
    その後、軍師と共に敵兵の鎧を着た。
    これで外に出やすくなるはず」
李 厳「『うむ、了解した。
    敵兵の配置などはどうなっている?』」
鞏 恋「配置?」
李 厳「『これを回収する際に部屋の外に出ただろう。
    他に兵は見なかったか?』」
鞏 恋「そういえば、他には全然いなかったような」
李 厳「『……変だな』」
鞏 恋「何が?」
李 厳「『金満どのが脱走したことは、すでに敵も
    知るところだろう。ならば、その部屋の周りも
    警戒を強め、歩哨を増員しそうなものだが?』」
鞏 恋「そう言われれば……でも、
    実際のところ、他には全然いなかった」
李 厳「『ふむう。軍師のいるところは奥の方だ。
    入り口の方を警戒したのかもしれんな。
    船外に出る時には注意しろ』」
鞏 恋「了解」
李 厳「『まずは軍師を脱出させるんだ。
    その後、居場所の判っている魏光を助けよ』」
鞏 恋「はいはい。
    それじゃ、玉ちゃんを脱出させるため
    船尾方向に向かうよ」
李 厳「…………」
鞏 恋「ん? もしもし、シンノウ?」
李 厳「…………」
鞏 恋「応答しろー。シンノウー。ウツダシノウー」
李 厳「…………」
鞏 恋おい、ホモ
李 厳「『……誰がホモだ』」
鞏 恋「あ、反応した。
    少し間が開いたけど、どうかした?」
李 厳「『いや、何でもない。気にするな』」
鞏 恋「らじゃー。それじゃ、さっきと同じように
    船尾のところに行くよ」
李 厳「『船尾……いや、船尾はまずい』」
鞏 恋「なぜ? 舟で脱出するには船尾じゃないと。
    玉ちゃんなら舟も漕げるし、問題ないけど」
李 厳「『船尾は敵兵が増員されている。
    そちらに向かえばほぼ確実に見つかるぞ』」
鞏 恋「そうなの?」
李 厳「『反面、船首方向の兵の数は減っている。
    船首方向へ向かえ』」
鞏 恋「了解」
李 厳「『では、作戦内容を復唱せよ』」
鞏 恋「復唱?」
李 厳「『確認のためだ』」
鞏 恋「はいはい。私ジョカは軍師をお連れして、
    船首方向へ向かいますよー」
李 厳「『よろしい、確認した』」

鞏 恋「それじゃ、行くよ。
    できるだけ兵士らしく歩いてね」
金玉昼「はーい」

鞏恋・金玉昼は、船首方向へと向かった。

だが、どうも様子がおかしい。
バレないように呉の兵に扮していた二人だが、
途中でひとりの敵兵に会うこともなく、
船外まで出てきてしまった。

金玉昼「どうも、様子が変にゃ……」
鞏 恋「確かに……。いくら減ったとはいえ、
    ここまで会わないなんていうのは……」
金玉昼「さっきの通信のシンノウって、誰なのにゃ?」
鞏 恋「えーと、正体は李厳なんだけど。
    遠くからイト・デンワで指示を出してる」
金玉昼「李厳さんが、こっちに出ろって?」
鞏 恋「そう。多くの兵士は船尾に回ったから、
    こっちは少ないって……」
金玉昼「え……!?
    何で彼はそんなことを知ってるのにゃ?」
鞏 恋「え?」
金玉昼「この艦の兵士の動きを知ることが出来るのは、
    この艦隊にいる者だけにゃ!」
鞏 恋「そう言われれば……。
    なぜ彼は、兵の動きを知ることができた?」

???「それは、シンノウが私だったからだよ」
鞏 恋「……っ!?」

鞏恋たちを見下ろす所に、その人影はあった。
艦隊司令官であるところの孫韶。
彼が、見下ろして立っていた。

    孫韶孫韶

孫 韶「全く、困ったものだ。
    どうもネズミがチョロチョロしていると思ったら、
    このような大ネズミが入り込んでいたとは」
鞏 恋「誰がネズミかっ」
孫 韶「違うのか?
    隠れて艦内をコソコソと動き回っていただろう」
鞏 恋「ネズミなんかじゃない。ハムスターだ
金玉昼「恋ちゃんー真面目にやろうー」
鞏 恋「……はいはい」
孫 韶「貴女にも困ったものだな、軍師どの。
    せっかく最上級の部屋を用意し、最高級の
    食事も与えていたというのに……」
金玉昼「籠の中の鳥になんかならないにゃ。
    いくら与えられる餌が最高級のものでも、
    大空を翔る喜びを知っている鳥は、
    絶対に空に帰るものなのにゃ」
孫 韶「味なことをおっしゃるものだな」
鞏 恋「……さっきのシンノウの偽者って、
    あんただったのか」
孫 韶「そうだ。怪しい糸を見つけてな、
    何かと思ってその振動を拾ってみると
    変な通信をしているではないか」
金玉昼「それで糸を切り、代わりに自分がシンノウに
    成りすましたと……そういうことにゃ」
孫 韶「そういうことだ」
金玉昼「ということは、中に兵がいなかったのも……」
孫 韶「そう、ここで確実に侵入者を捕えるためだよ。
    さあ、皆の者、出でよ!」

 ざざざっ

艦内にいる兵、そのほとんどが周りを取り囲んだ。
彼女らは完全に逃げ場所を失った。

孫 韶「ははは、これで袋のネズミだな」
鞏 恋「違う。袋のハムスター」
金玉昼「……それはもういいってば」
孫 韶「楚王の息子、金満を逃がしたのは痛いが、
    代わりにジョカ、君のような優秀な女戦士を
    捕えられるのだ。全体で考えれば、
    収支はプラスマイナスゼロくらいだろう」
鞏 恋「ふっ……何を言ってるの。
    プラスマイナスゼロになるわけはない」

鞏恋は自信たっぷりに返事を返した。

孫 韶「……なに? それはどういうことだ?」
金玉昼「恋ちゃん?
    すごい自信だけど、何か策が……?」
鞏 恋私を捕えれば、確実に収支は
    プラスに決まってるでしょう!?
金玉昼「そっちの自信かー!」
孫 韶「はっはっは! そのような冗談を言うとは、
    観念したということか!?」
鞏 恋「残念。私は諦め悪い方だから」
孫 韶「そうか。では、力ずくで諦めてもらうとしよう」

孫韶が今にも兵たちをけしかけようとする。
だが、彼らと鞏恋の間に立ちはだかる者がいた。

    太史慈太史慈

太史慈「孫韶どの、待たれよ!」
孫 韶「太史慈どの……!?」
太史慈「女性に見境なく兵をけしかけるなど、
    貴殿らしくもないな」
孫 韶「なぜ、ここにおられるのだ?」
太史慈「少々お話でもしようと思ってきたのだが、
    どうも取り込んでいるようですな。
    ……ここは私に任せてくだされい」
孫 韶「任せる……? どうされるのだ?」
太史慈「男ならば堂々と勝負すべし!
    ……女! 私と勝負せい!
鞏 恋「む……」
太史慈「我は太史慈だ、さあ来い!
    どうした、一対一の戦いは怖いのか!?」
鞏 恋「バカを言うな。……受けて立つ」
金玉昼「恋ちゃん……」
鞏 恋「大丈夫。私は負けないから」
金玉昼「いや、そういうことじゃなくて……。
    ごにょごにょ……ということで」
鞏 恋「……了解。任せて」

金玉昼の耳打ちを聞いて、鞏恋は頷いた。
そして彼女は金属バットを抜き、構える。

  バット構え

その姿を見て、太史慈は満足そうに頷いた。

太史慈「ほう……変わった武器を使う。
    だが、私も打撃武器は持っていてな……。
    ふふふ……そちらも硬くて痛そうだが、
    この『虎撲殴狼』(※1)も、太くて硬くて痛いぞ」

(※1 三国無双シリーズの太史慈の武器、らしい。
 三国志9のゲーム中には出てこない)

鞏 恋「大きければいいというものでもない」
太史慈「ふ、言ってくれる。……では、いくぞ!
    どりゃああああああ!!」

 ずどーんっ!

太史慈の硬鞭の一撃が、鞏恋のいたところに
唸りを上げて落ちた。
だが鞏恋はそれを軽やかに避け、ステップを踏んで
太史慈の横脇に回り込み、バットを振るう。

 ばきいっ!

鞏恋のその一撃は、太史慈本人には当たらず
その後ろにあった柱に当たった。
太史慈も七尺七寸の大柄な身体に似合わず、
俊敏な動きで鞏恋の攻撃を見切っていた。
50過ぎという彼の年齢を考えれば、
信じられないくらいの動きであった。

ずがーん! みしっ!
ばごーん! べきっ!


互いの攻撃は互いに当たらず、
全て床や壁、柱に当たっていく。

鞏 恋「……そろそろいいかな」
太史慈「何をブツブツ言っている!? 食らえっ!」

だが、その太史慈の攻撃もかわされ、
硬鞭はまたも床に落ちた。

 みしみしっ……

太史慈「むっ……床が?」
鞏 恋「これで、仕上げっ!」

そう言って鞏恋がバットを振り下ろす。
しかし、それは太史慈に向けられてはおらず、
バットの一撃は床に落ちた。

 ずどぉぉぉ……ん

太史慈「げほ、ごほっ!? ゆ、床が抜けた!?」
孫 韶「む、ほこりが舞っていて、様子がわからん」

床が抜けた衝撃で、大量のほこりが舞い、
鞏恋や金玉昼の姿を隠した。
だが、誰かが声を上げる。

 『穴に人影が飛び込んだぞっ!』

孫 韶「なにっ!? くっ、一旦中へ逃げる気か!
    逃がすな! 全員、船内を捜索せよ!」
呉 兵「はっ!」

兵たちは皆、船内へと入っていった。
孫韶もそれに続いて中へと入っていく。

ほとんどの兵が中に入り、
艦上には数えるほどの人数しか残っていない。

その中に、鞏恋と金玉昼はいた。

鞏 恋「(上手くいった)」
金玉昼「(さっすが恋ちゃんにゃ)」
鞏 恋「(それはこっちの台詞。
    穴を空けて中へ逃げたように思わせ、
    実はちゃっかり敵兵の中に紛れるなんて)」
金玉昼「(ま、それよりバレないうちに)」
鞏 恋「(うん。船尾の舟のところに向かおう)」

鞏恋と金玉昼は怪しまれないようにしながら、
船尾の方へと歩いていった。
だが、船尾についた彼女たちを待っていたのは……。

    太史慈太史慈

太史慈「全く、やってくれるな。
    私は正々堂々と勝負しているつもりなのに、
    それを逃げるための計略にするとは」
鞏 恋「ち……ひっかからなかったか」
太史慈「一番近くにいたのだ。気付いて当然だろう」
金玉昼「じゃ、なんで他の兵を放っておいたのにゃ?
    大声を出せば、すぐに見破られたのに」
太史慈「女を大勢で取り囲むなど性に合わん。
    それに、ここで私が捕らえれば同じことだ」
鞏 恋「……まだやる気?」
太史慈「私の攻撃を避け続けたのは見事なものだが、
    しかしそれだけでいい気になっては困る」
鞏 恋「む」
太史慈「さあ、再戦といこうではないか。
    今度は逃がしはせんぞ」
鞏 恋「悪いけど、付き合ってる暇はない」
太史慈「戦わず逃げようというのか?
    だが、アテにしていた舟はこの通りだぞ」

太史慈は、彼の後ろの小舟を見せた。
小舟は完全に打ち壊されており、これでは
とても使えたものではない。

鞏 恋「いーけないんだ。
    味方の備品を壊すなんていけないんだー」
太史慈「ふ、それでお前たちを逃がさずに済む。
    安いものではないか」
鞏 恋「別に舟がなくとも……」
太史慈「泳ぐか? ここから味方のところまで?
    お前は出来ても、そちらの娘は無理だろう?」
金玉昼「ぐう。確かに私には無理にゃ」
鞏 恋「根性いれればどうにか……」
金玉昼「絶対、死にまひるー」
鞏 恋「むむむ」
太史慈「さあ、覚悟を決めろ。
    ……先ほどの決着、着けてみせる!」

 『まていっ!』

太史慈「むっ!? 何奴!?
    いや、それよりどこにいる!?」
鞏 恋「……あ、あれ」
金玉昼「艦の旗の上に、人影が……!?」

はためく孫韶の旗の、その支柱。
その上に、弦楽器を構えた男が立っていた。

 べーん べーん (弦楽器の音)

『嫌がる女に対し、ムリヤリに強要する男よ!
 その行いを恥と知るがいい……!
 人、それを破廉恥という!

太史慈「な、何を言っているか!
    ええい、名を名乗れいっ!」

 『貴様に名乗る名はないっ!』

    徐庶
   シャキーン

金玉昼「……あー」
鞏 恋「なんかなー」

徐 庶「ふっ。だが、どうしても名を知りたいならば、
    教えてやらんでもないが」
太史慈「……もったいぶってないで早く名乗れ!」
徐 庶「ならば聞け! 俺の名は!
    ……ミュージック、スタァーットォ!

ジャカジャカジャカ……

徐庶は中阮を掻き鳴らし、歌を唄い始めた。

徐 庶待ってろよッ! 生きてろよッ!
    絶対そこにィ! 辿り着くゥーッ!!

どこぞで聞いたような曲だった。
(元曲名:救Q戦タイ轟々ふぁいぶ)
この熱い歌を、徐庶はソウルフルに歌い上げる。

究極変態 Jo・Sho・ゲンチョク

待ってろよ 生きてろよ 絶対そこに辿り着く
大大部隊 大大軍勢
きわどくかわす キ印野郎さ

ひとつの歌を唄うのは
無限の未来を唄うこと(WAOO!)

クレイジー・アーティスト もっと速く
危険な演奏 掻き鳴らしてく
クレイジー・アーティスト もっと強く
かがやく音楽 今 響かせて
Save the 楚 Save the 漢
唄え! 究極変態Jo・Sho・ゲンチョク!

徐 庶……Save the 楚ゥゥゥ!!
    Save the 漢ンンン!!
    唄え究極変態!!
    JO・SHO・ゲンチョクゥゥゥゥ!!

歌が終わった時、太史慈は口をあんぐりと開け、
その場で固まっていた。

太史慈「……な、なんなのだ一体?
    奴が徐庶だということは分かった……。
    しかし分からん! こいつの存在が分からん!
    自分のことを究極変態とか言ってるし!」
徐 庶「はっはっは、そう褒めるなベイビー。
    照れるじゃないか」
太史慈「褒めておらん!」
徐 庶「まあ、俺って●チガイだからさー」
太史慈「じ、自分で言うな!」
徐 庶「ま、歌に聞き入ってくれてありがとよ。
    お陰で、二人を逃がす時間は十分稼げたぜ」
太史慈「……な、なにっ!?」

言われて後ろを振り返る太史慈。
だが、そこには鞏恋、金玉昼の姿はなかった。
二人はすでに川に飛び込み、泳いでいた。

太史慈「な、なに……バカな!?
    味方もいないのに泳いで逃げる気か!?」
徐 庶「俺がここにいる意味をよく考えるんだな。
    どうやって俺がこの艦に来たのかを……」
太史慈「むっ! あの大型艦は……!?」
徐 庶「そうだ。『人狼』……俺の旗艦だ」

『人狼』を先頭に、徐庶の艦隊がすぐ近くにいた。
そこへ鞏恋と金玉昼は泳いでいったのである。

太史慈「くっ、いつの間に……!?」
徐 庶「……あんたはジョカって知ってるか?」
太史慈「ジョカ……?」
徐 庶「さっきの鞏恋のコードネームなんだがな。
    元ネタの『女渦』(※1)ってのはな、
    いにしえの三皇の一人なんだ。
    蛇の化身といわれる神だよ」

(※2 渦の字は本来は女へんに咼)

太史慈「三皇なら知っている。だがそれがどうした」
徐 庶「……でな、三皇の残りは伏羲と神農。
    そのうち、伏羲ってのは女渦と対にされてる
    蛇の神様なんだよな」
太史慈「だから、何を言いたい!?」
徐 庶「この作戦には二人の蛇がいたんだ。
    鞏恋の【ジョカ】と対になる【フクギ】がな」
太史慈「なにっ……?」
徐 庶「ジョカは潜入し、かき回す役目。
    そしてフクギは、そのかき回したところを
    一気に噛み砕く役目だ。つまりは……。
    最初からこういう作戦だったってことさ」
太史慈「ば、バカな!?」
徐 庶「……まあ、ちょっと狂った部分はあるけどな。
    俺が注意を引くためにここに上ったのも
    そのひとつだが、まあ気にすんな。
    では、全軍! 切り込めっ!
太史慈「……て、敵艦隊がっ!」

徐 庶「それではBGM代わりにもう一曲!
    『突撃LOVE HEART』いってみようかァ!!」
太史慈「歌うなーっ!」

徐庶艦隊は孫韶艦隊に切り込んできた。
先に朱桓隊の攻撃を受けていた孫韶の隊は
さらにこの攻撃で壊滅的打撃を受ける。

 徐庶強攻

徐庶隊はこの攻撃の際に、金玉昼の救出に成功。
鞏恋とともに、徐庶隊に身を移すことになった。

    李厳李厳

李 厳「お疲れ様でしたな」
金玉昼「ふー。ひと心地ついたにゃ」
李 厳「通信が途絶えたときはどうなるかと思ったが、
    徐庶の機転のお陰で助かった」
金玉昼「……これって最初から、潜入よりも殲滅に
    重きを置いた作戦だったのかにゃ?」
李 厳「私も詳しくは聞かされていなかった。
    だが、どうやらそうであったようですな」
鞏 恋「じゃ、私は当て馬か」
李 厳「囮ではあったのだろう。
    しかし、どうでもいい役目ではなかったはず。
    通信が切れた時の徐庶の慌てぶりを見れば、
    それはすぐにわかった」
金玉昼「へえ、あの徐庶さんが慌てるなんて」
鞏 恋「それ以上に慌てそうな人もいるけど」
李 厳「ななな、何を言っている」
金玉昼「伏羲、女渦、神農。三人で三皇。
    一人でも欠けたらダメな作戦だったのにゃ。
    神農の李厳さんも、お疲れさまにゃ」
李 厳「いやいや、大したことはしてませんぞ」
金玉昼「恋ちゃんも女渦の重要な役目、お疲れ様。
    だから、そうスネないでもいいにゃ」
鞏 恋「別にスネてはいない。
    フクギに美味しい所を持ってかれたのが、
    ちょっと悔しいだけ」
李 厳「美味しい所?」
鞏 恋「私もあんな登場をして、唄いたかった」
李 厳「……はあ」
金玉昼「それはまた今度にでも……」
鞏 恋「ところで……。
    捕虜が二人残ってるんだけど、大丈夫?」
李 厳「敵を全滅させれば、その二人も戻ってくる。
    そう心配せずともよい。
    父君は無事に帰ってくるはずだ」
鞏 恋「べ、別に親父の心配なんてしてない」
金玉昼「あ、それじゃ魏光さんの心配かにゃ。
    恋ちゃんもなんだかんだ言って結構……」
鞏 恋「そ、そっちの心配もしてない」
金玉昼「それじゃ、誰の心配かにゃー」
鞏 恋「最初から心配なんてしてない」
金玉昼「……ふーん。
    ま、そういうことにしとこうかにゃ」
李 厳「さて、これからどうされる?
    呉軍はまだ残っており、戦闘はまだ続くが。
    一度、烏林へ戻られるか?」
金玉昼「やられたら戻るのが基本だしにゃー。
    恋ちゃんはどうしまひる?」
鞏 恋「私も戻る。いい加減疲れたし」

金玉昼と鞏恋は、艦隊から一隻の船を借りて
烏林港へと戻っていった。
金満艦隊の全滅の報が金旋の元に届くのと、
彼女らが烏林についたのはほぼ同時期となる。

さて、徐庶艦隊はさらに孫韶隊への攻勢を強め、
これを殲滅。鞏志・魏光の救出にも成功した。

……なお、魏光が救出された際、彼は極度の下痢で
かなり衰弱した状態であったという。

   魏光魏光   鞏志鞏志

魏 光「もう……キノコは……食べないぞ」
鞏 志「だから言ったのに……」

こうして、楚軍は4人の捕虜を全て救い出した。
だが、まだ戦いは続いている。
孫韶艦隊は殲滅したが、まだ孫尚香と潘璋の
艦隊が残っているのだ。

陸口での艦隊戦は、最終局面を迎える。

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