○ 第九章 「切り札はJOKER?」 ○ 
218年5月

金満艦隊の全滅により、金玉昼、金満、鞏志、魏光は
捕らえられ、孫韶の旗艦に乗せられた。

 金満艦隊全滅後

彼女らは孫韶とその兵に案内され、艦内を歩く。

   孫韶孫韶   金玉昼金玉昼

孫 韶「……しかし私もついているものだな。
    こうして楚王の子を、それも二人も捕らえることが
    出来るとは。これは、運が我が軍に傾いてきた
    ということですかな」
金玉昼「運不運で捕まったわけでもないにゃ」
孫 韶「ほう。……では、呉軍の戦術が勝っていた、
    そうお認めになられると?」
金玉昼「そういうことだにゃ」

    金満金満

金 満「姉上……」
金玉昼「……相対的に言えば、の話だにゃ。
    一方がまずい戦い方をして負けを呼び込めば、
    もう一方がその上に行くのが道理」
孫 韶「はっはっは……。流石は軍師どの。
    実に聡明であられるようで」
金 満「くっ……」
孫 韶「さて、しばらくの間は、この艦で貴方がたの
    身柄を預かることになりましょう。
    戦いが終わった後、港の施設に移ってもらう故、
    それまでは我慢してくだされ」
金 満「どっちにしろ閉じ込められるんでしょうが」
孫 韶「捕虜とはそういうものですからな。
    ……そう心配なさらずともよい。
    それなりの待遇でおもてなししよう」

   魏光魏光   鞏志鞏志

魏 光「聞きました? もてなしてくれるんですって」
鞏 志「……言葉通りに取らない方がいいと思うよ」
魏 光「え」
鞏 志「冷や飯を食わせてもてなすとか、
    どうせそんなところではないかな」
魏 光「む、むむむ……あいつ、やな奴ですね」
鞏 志「敵対してる相手などそんなものだよ」

孫 韶「さて、こちらです。
    軍師どのにはここに入っていただく」
金玉昼「わわっ、こ、これはすごいにゃ!?」

金玉昼に与えられた部屋は、天蓋付きの牀(※1)が
置いてある豪華な一室であった。

(※1 ベッドのようなもの)

孫 韶「本来は賓客用の部屋だが、使ってくだされ。
    女性には不自由させたくないですからな」
金玉昼「は、はあ」
孫 韶「外に見張りは付けさせていただくが、
    中を覗いたりはさせぬ故、ゆっくりと
    おくつろぎなされよ」
金玉昼「あ、ありがとうございまひる」

魏 光「す、すごい部屋じゃないですか。
    ちゃんともてなされてますよ?」
鞏 志「ほう……思ったより寛大なようだね」
魏 光「あいつ、けっこういい奴ですねぇ」
鞏 志「…………」

次に、金満の入る部屋に案内される。
金玉昼の部屋ほどではないが、こちらも調度品などは
揃っており、はた目にもいい部屋とわかった。

孫 韶「金満どのはこちらへ。
    先ほどの部屋よりは質は落ちますが、
    それなりに休めるはずです」
金 満「これは……捕虜の身にはもったいないですね」
孫 韶「何か不自由があれば、用意させましょう。
    遠慮なく見張りの兵にお言い付け下され」
金 満「ど、どうも……」

魏 光「おー、こっちもいい部屋ですよ。
    あの方、性格悪そうに見えますけど、
    実はすっごいいい人みたいですねー」
鞏 志「……はぁ」
孫 韶「さて、後は君たちか」
魏 光「はいっ、よろしくお願いします!」
孫 韶「……彼らを案内してやれ。
    私は艦隊指揮に戻る」
呉 兵「ははっ」

孫韶は二人を残し、去った。
そして、魏光・鞏志が呉兵に案内された場所は……。

呉 兵「貴方がたはここだ」
魏 光「……え? ここ?」
呉 兵「ええ、二人でここに入っていただく」
魏 光「ま、まさか……冗談でしょ?」
呉 兵「冗談なものか。……早く入ってくれ」

 けりっ

魏 光「あいだっ」
呉 兵「貴殿もだ」
鞏 志「……やれやれ。
    入りますから蹴らないでくださいよ」

 ぎぎい……

鉄格子の扉が締められた。
兵はすたすたと去り、少し離れたところにいる
見張りに声を掛けて出ていった。

あとに残されたのは、呆然とした表情の魏光と、
諦め顔の鞏志。

魏 光「ここって、牢じゃないですか?」
鞏 志「牢だなぁ……」
魏 光「ものすごく、待遇悪くないですか?」
鞏 志「悪いなぁ……」
魏 光「あの二人と、思いっきり差がないですか?」
鞏 志「確かに差はあるけれども……。
    あっちは楚王の子だからじゃないかな」
魏 光「み、身分でここまで差をつけるというのか!?」
鞏 志「そういうものだよ、世の中は……」
魏 光「くそっ、いい奴だと思ってたのに裏切られた!
    あいつはやっぱり嫌な奴だったんだー!」
鞏 志「ころころ評価が変わるなぁ……」

 牢屋

魏光・鞏志の両名は、金玉昼・金満とは大きく違う
待遇で牢に閉じ込められたのであった。

    ☆☆☆

孫韶の艦に捕らえられた4人の将。
楚軍は彼らを救い出すべく、奪還作戦を計画し、
それを今まさに実行に移していた。

夜。
航行する孫韶の旗艦にひとつの人影が泳ぎつき、
するすると昇ってその船尾に上がった。
その人影は物陰に身を隠すとなにやら筒状のものを
腰から取り出した。
そして、そこに小声で話しかける。

   鞏恋鞏恋   李厳李厳

鞏 恋「こちら鞏恋……。敵旗艦、船尾に潜入した」
李 厳「『予定通りだな。見事なものだ』」
鞏 恋「そりゃ、どうも」
李 厳「『さて……。今回の君の任務だが。
    敵に捕らえられた4人の捕虜を捜索し救出、
    そして無事生還させることだ』」
鞏 恋「了解」
李 厳「『この作戦は単独での潜入任務だ。
     他に代わりがいるわけではないのだ、
     失敗は許されないぞ』」
鞏 恋「わかってる……で、ひとつ質問」
李 厳「『何か?』」
鞏 恋「この変な筒は何?
    どうしてこれで会話ができてるの?」
李 厳「『……これか。
    この筒はイト・デンワと言ってな。
    現在のハイテク技術が詰め込まれた、
    最新式の通信器具だ』」
鞏 恋「はあ」
李 厳「『要は振動の伝達を利用したものだ。
    糸が繋がっており、垂れずにピンと糸が
    張っていれば、いつでも通信可能だ。
    状況は逐次報告するように』」
鞏 恋「らじゃ」

 イトデンワ

李 厳「『なお、この作戦中の君のコードネームは、
    【ジョカ】だ。これ以後、作戦中はそう呼ぶ』」
鞏 恋「ジョーカー? ……切り札って意味?」
李 厳「『いや。意味も違うし、伸ばしたりしない。
    短く【ジョカ】だ』」
鞏 恋「ふーん……まあいいけど」
李 厳「『私にもコードネームが与えられている。
    私のことは【シンノウ】と呼ぶように』」
鞏 恋「……皇族の人?」
李 厳「『その親王とは違う。
    とにかく、コードネームで呼ぶように。
    では、任務を開始するんだ、【ジョカ】。
    健闘を祈る』」
鞏 恋「らじゃ……。任務を開始する」

鞏恋は辺りに気を配り、音を立てないように、
そしてときには物陰に身を潜めながら、
慎重に進んでいった。

鞏 恋「こちらジョカ……船内に入った。
    近くに歩哨が二人いる部屋が見える」
李 厳「『ふむ……夜なのに二人も置いているのか。
    それだけ重要なものがあるということだろう』」
鞏 恋「捕虜が捕まっている?」
李 厳「『その可能性は高いだろうな。
    何とか中を確認したいところだが……』」
鞏 恋「OK。敵兵を排除する」
李 厳「『えっ? ちょ、ちょっとま……』」

 ガッ! ボコッ!

鞏恋の金属バットは、瞬く間に二人の兵をKOした。

鞏 恋「はい、倒した」
李 厳「『た、倒したじゃない! 派手な行動は慎め!
    これは潜入任務なんだぞ!?』」
鞏 恋「他の兵に見つからなければ問題はない」
李 厳「『全く……! もういい、部屋の中を確認しろ』」
鞏 恋「了解……」

音を立てぬように扉のかんぬきを抜き取り、
ゆっくりと戸を開き、部屋の中を確認する。

その部屋の隅には、金満の姿があった。
何か小さいものを一心不乱にいじり続けている。

    金満金満

金 満「んー、ここをこうすれば……」
鞏 恋「何やってんの?」
金 満「あ、鞏恋さん。
    いや、ここから脱出するための道具です。
    この棒と糸をうまく組み合わせれば、扉の外の
    かんぬきを抜いて、外に出れるんじゃないかと」
鞏 恋「ほー」
金 満「ただ、外に見張りがいるから、気付かれないよう
    音が出ないようにするのが難しくて……。
    ……あれ?」
鞏 恋「どうしたの」
金 満「なんで鞏恋さんここにいるんですか〜っ!?」
鞏 恋「しっ……大声出さない」
金 満「あ、すすすすいません」
鞏 恋「助けにきた。だからその道具は全くムダ。
    何の役にも立たないから」
金 満「そ、そんなハッキリいわなくても」
鞏 恋「ちょっと待ってて。本部と通信するから」

鞏 恋「こちらジョカ。部屋で金満を発見。
    怪我もなく、脱出に一切の支障なし」
李 厳「『よし、ではまず彼を先に脱出させるんだ』」
鞏 恋「脱出方法は?」
李 厳「『船尾に非常用の小舟があっただろう。
    それを彼に漕がせて、艦の索敵範囲から出せ。
    そうすれば我々が回収する』」
鞏 恋「……あー、訂正。脱出に支障あり」
李 厳「『ん? どういうことだ』」
鞏 恋「金満には舟を漕ぐだけの腕力がない」
李 厳「『むっ……そうだったな、盲点だった。
    しょうがない、こちらで何か手を考えるから、
    とりあえず彼を連れて船尾に向かえ』」
鞏 恋「らじゃ」

金 満「……すいませんね、武力1の貧弱坊やで」
鞏 恋「人間誰しも欠点はある。
    喧嘩はからっきしの三級品だけど、度胸は満点、
    いたずら厳しく、とんちは鮮やか一級品なんだから
    別に気にしなくても大丈夫だよ」
金 満「別にいたずらなんてしてませんし、
    とんちなんて知りませんけども……」
鞏 恋「とりあえず、帰ったら筋トレね」
金 満「は、はい」

鞏恋と金満は船尾に無事到着。
しかし、李厳から明確な脱出方法は出てこなかった。

李 厳「『どうすべきか……頭が痛いところだな』」
鞏 恋「他はまた後で来るから、ここは私が舟を漕ぐよ。
    まずは彼だけでも脱出させれば……」
李 厳「『そ、それはダメだ』」
鞏 恋「どうして」
李 厳「『軍師も回収しないと、後で殿に怒られ……
    い、いや、諸般の事情があるのだ』」
鞏 恋「でも、他に方法がない」
李 厳「『うーむ……』」

 つんつん

鞏 恋「……何? 通信中だけど」
金 満「あの、あれって何ですかね?
    こっちに向かってくる船団があるんですけど」
鞏 恋「……え?」

金満の指差した方向から、確かにいくつかの船団が
向かってきていた。
そしてその先頭に立つのは、真っ赤な色の大型艦。

呉 兵「敵だ!! 朱桓の艦隊だぞーっ!」

そのひと声で、一気に艦上は慌しくなった。

 朱桓強攻

兵士たちが大量に外に出てきたため、船尾に隠れた
鞏恋と金満は身動きが取れなくなる。

鞏 恋「ちょっと……?
    朱桓艦隊が攻撃してきたんだけど!?」
李 厳「『……何? 朱桓の隊が……。
    そうか、彼らはこの作戦を知らない。
    だから彼らが独自に奪還作戦を試みても、
    別におかしくはないな』」
鞏 恋「で、どうすればいいの……?
    一気にやりにくくなったけど」
李 厳「『いや、逆に好機だ。
    味方の艦が近くに来た時に、金満どのを小舟に
    乗せて脱出させるんだ。舟が漕げぬのならば、
    近くの朱桓隊に拾い上げてもらえばよいのだ』」
鞏 恋「ああ、なるほど」
李 厳「『タイミングは見誤るな。
    一歩間違うと、朱桓隊が気付かず、金満どのが
    危険に晒されることになるからな』」
鞏 恋「……そこは任せてもらって大丈夫」

鞏恋と金満は、舟を下ろすタイミングを図りながら
味方の艦が近付くのを待ち続ける。
そこへ、朱桓隊旗艦『赤ひげ』が向かってきた。

    朱桓朱桓

朱 桓「あれこそが孫韶の旗艦だっ!
    あの艦に捕虜が囚われている!」
朱 異「し、しかし父上、ここまで突っ込むだけでも
    皆が力を尽くし、体力を消耗させてます。
    その上であの艦に斬り込んで戦い、捕虜を
    助け出すほどの余裕はありません!」
朱 桓「むむっ……。
    しかし、彼らを助け出さぬことには、
    この夜襲は全くの無意味となってしまう!」
朱 異「孫韶隊の戦力をいくらか削りとったのです。
    無意味とまでは行きません」
朱 桓「いや、あくまでもこれは捕虜奪還が主だ。
    せめて、一人だけでも助けることができれば」

 びょいいん

その時、朱桓の立っていたすぐ隣りの柱に、
一本の矢が突き刺さった。

朱 異「むっ? 敵の矢が飛び込んできたのか!?」
朱 桓「いや、この矢は……彼女の使っている矢だ。
    ……そうか、あそこに来ているんだな」
朱 異「彼女?」
朱 桓「この矢は、何かを知らせるためのものか……。
    ……敵旗艦の周りに異常はないか!?」
楚 兵「はっ……。一艘の小舟が見えます!」
朱 桓「小舟?」
楚 兵「は、敵旗艦から出た舟のようです!
    乗員は1人、こちらを向いて手を振ってます!」
朱 桓「それだ! よし、その者を回収しろ!
    回収済み次第、この場を離れる!」
楚 兵「はっ!」

朱 異「父上、その小舟は……」
朱 桓「捕虜のうちの一人が乗っているのだろう」
朱 異「自力で脱出したのでしょうか?」
朱 桓「いや、そうではない……。
    ふ、なかなか面白いことをやっているようだな」

小舟に乗った金満は、朱桓隊に救出された。
その後すぐに朱桓隊はその場を離れ、
孫韶隊も危険が去ったことで戦備体制を緩める。

……その艦の中を、また鞏恋が進んでいた。
戦闘中のように大勢の兵がいるわけではないが、
夜襲後のため、警戒する兵が増えているようである。
難易度にすれば、夜襲前はEASYであったが
夜襲後はVERY HARDになっていたのだ。

鞏 恋「シンノウ、聞こえる?」
李 厳「『聞こえている。現在位置は?』」
鞏 恋「船内B1にいるんだけど……。
    ここで牢部屋が並んでいる所を発見した」
李 厳「『牢部屋か……。誰かいるのか?』」
鞏 恋「歩哨が2人。
    それと、牢の一室からは声が聞こえる」
李 厳「『……声?』」
鞏 恋「よくは聞こえないが、『腹減ったー。死ぬー。
    何か食わせろー』と言ってる」
李 厳「『よく聞こえてるじゃないか……。
    どうやら、そこには魏光がいるようだな』」
鞏 恋「助ける?」
李 厳「『いや、まずは軍師を探せ。
    彼は軍師を助けた後に助ければいい』」
鞏 恋「……薄情だね」
李 厳「『物事には優先順位というものがある。
    彼を助けた後でそれがバレて、警戒を更に
    強められたらどうするんだ。
    ……先に軍師を探すんだ。いいな』」
鞏 恋「らじゃー」

鞏恋はその場を離れ、軍師金玉昼の居場所を探す。

しかし彼女はそこに父、鞏志もいるということを
知らなかった。
知っていたならば、同様の態度を取っただろうか。
表向きは父を嫌ってるむきのある彼女だが、
このような時も同じような態度を取ったのか……。
興味のあるところである。

さて、さきほど鞏恋が聞いた声の主は、
李厳の言った通り、魏光であった。
彼と鞏志は、捕まえられてからこれまで一度も
食事を与えられていなかった。

   魏光魏光   鞏志鞏志

魏 光はらへったーなんかくわせろー!
鞏 志「叫んでも体力減らすばかりだよ」
魏 光「……よく平静でいられますねー。
    鞏志さんは我慢できるんですか、この空腹」
鞏 志「今は我慢しておくしかない……。
    脱出する時に備え、体力を温存しておかないと」
魏 光「飯食えば体力回復しますよ。
    鞏志さんもやりましょうよ。一緒になって叫べば、
    干し米くらいは出てくるかも」
鞏 志「干し米くらいでは割に合わないと思うが。
    それに、船上での食糧は配給制で量も厳しい。
    上の者が特別に出さない限りは、何もないよ」
魏 光「うー、そうですかぁー。
    ちくしょ〜、腹へった……むむっ?」
鞏 志「ん、どうかしたのかい」
魏 光「しょ、食糧を発見しました……!」
鞏 志「えっ?」
魏 光「ふっふっふ、キノコ、キノコですよ。
    この部屋の片隅にひっそりと生えている……!
    まるで、じっと私たちに食べられるのを
    待っていたかのようですよ!」
鞏 志「いやあ……それは前に見つけていたけれど。
    そんな変な色のキノコ、食べられないよ」
魏 光「あ、食べないんですか?
    じゃ私が全部戴きます! ぱくっ」
鞏 志「あ、食った。しかもまるまる……」
魏 光「うっ……」
鞏 志「ああ、やっぱり! だから食べられないと」
魏 光「う……うーまーいーぞー!」
鞏 志「え!?」
魏 光「いや、本当に美味いですって」
鞏 志「し、信じられない……」

などと彼らが馬鹿なことをやっているうちに、
鞏恋は金玉昼のいる部屋を発見していた。

鞏 恋「こちらジョカ……。
    軍師がいると思われる部屋を発見。
    いや、確実に中に軍師がいる」
李 厳「『なに? どういうことだ?』」
鞏 恋「部屋の中が少し見えたが、豪勢な感じだった。
    金満の言っていた話と合致する」
李 厳「『それだけでは不充分だな。
    他にもそういう部屋があったらどうする』」
鞏 恋「それだけじゃない……。
    部屋に軽食が運ばれていった。
    とても高そうな感じのメニューだった」
李 厳「『……それだけではわからんだろう。
    将校の部屋なのかもしれんぞ』」
鞏 恋「それはない」
李 厳「『なぜだ、なぜそう言い切れる』」
鞏 恋「運ばれていったメニューは、高級プリンだった」

 高級ぷりん

李 厳「……なるほどな。
    しかしプリンが大好きな将校の可能性も……」

李厳はそこまで言ったが、やはり可能性としては
金玉昼がいるのが一番高いと思われた。

李 厳「『その部屋、扉以外に入るところはないか』」
鞏 恋「……どういうこと?」
李 厳「『部屋の外での戦闘は避けた方がいい。
    敵も警戒しているはずだ』」
鞏 恋「別なところから侵入しろってことね……」

鞏恋は何か侵入口がないか探したが、それは
すぐに見つかった。
賓客用の部屋ともなれば、空気のこもらない工夫を
こらし、排気がされる穴が作られている。
そのダクトを発見したのだ。

鞏 恋「めっちゃ狭そうなんだけど?」
李 厳「『男なら無理かもしれないが……。
    細身の君ならば、何とかなるだろう?』」
鞏 恋「とりあえずやってみるけど……。
    糸が絡まるといけないから、イト・デンワは
    ここに隠しておく。だからしばらく通信は無理」
李 厳「『了解した。
    部屋に入ったら、見張りの兵を誘き入れて倒せ。
    中ならば、他の兵に気付かれはしないだろう』」
鞏 恋「はいはい……じゃ、また後で」

鞏恋は武器や装備をほとんど外し、身軽な状態で
排気ダクトの中へと入っていく。

鞏 恋「胸が……つかえる……ぐぬ」

彼女は悪戦苦闘しながらも、ダクトを通り
金玉昼のいる部屋の上へ辿り付いた。
そこから、部屋の中の様子を窺うと……。

    金玉昼金玉昼

金玉昼「ふっふーん、ぷりんぷりーん♪
    ぷるんぷるんぷりんぷりーん♪」

ちょうど金玉昼が先ほど運ばれたプリンを
食しているところだった。

金玉昼「んまんまー。んー、おーいちー」
鞏 恋「おーいちーじゃないって」
金玉昼「……え?」
鞏 恋「人が苦労してここまできてるのに、
    自分だけ美味しい思いしてるんじゃない」
金玉昼「あれ、恋ちゃん?」
鞏 恋「……今、降りるからちょっと待ってて」

ダクトから部屋の中に降り立つ鞏恋。
そして二人は、再会を喜び抱きしめ合った。

鞏 恋「……プリン食わせなさい」
金玉昼「や、やだにゃ。これは私のにゃー」
鞏 恋「よこしなさい」
金玉昼「だめー」

ぐいぐいと二人は身体を寄せ合い押し付け合い、
喜びをかみ締めていた。
それだけ、二人の友情は深いものであった。

決して、プリンを巡って争っているわけでは
ないはずである。……多分。

[第八章へ戻る<]  [三国志TOP]  [>第十章へ進む]