218年5月
5月中旬、揚子江は陸口付近。
金満艦隊は完全に囲まれ、それを助けようとした
徐庶艦隊も孫韶隊に手痛い反撃を食らった。
鞏恋
魏光
鞏 恋「もしかして、囲まれてる?」
魏 光「もしかしなくても囲まれてます!」
鞏 恋「……囲いが出来たってねー。かっこいー」
魏 光「逃避しないでくださいって〜」
両軍の差は、大きな『意志』の有無であった。
楚軍は個々の艦隊がバラバラに戦っているのに対し、
呉軍はひとつの意志の元に連携して動いていた。
それは、軍師庖統の手腕によるものである。
孫尚香
庖統
孫尚香「正直、これまでは冴えない風体のように
考える策も冴えないと思っていたけれど……
それは改めないといけないようね」
庖 統「正直な方ですな。
……ですが、現時点で有利だというだけ。
厳しい状況には変わりはござらぬ」
孫尚香「わかっている……各艦隊に伝えよ!
速やかに金満艦隊を殲滅せよとな!」
戦術で上手く戦い、兵力差は若干縮まったとはいえ、
全体では未だ楚軍の方が多かった。
呉軍が最終的な勝利を得るためには、
個々の敵艦隊を速やかに倒していく必要があった。
一方の金満艦隊は、まだ退こうとはしなかった。
いや、退けなかったという方が正しいか。
金満
鞏志
鞏 志「金満どの……包囲されてしまっては危険です。
ここは一旦退くべきではないですか」
金 満「いえ、この囲まれた状況で退こうとしても
損害が大きくなるだけです。
ここは、戦闘を継続します」
鞏 志「しかし……」
金 満「とにかく、今は正面の駱統艦隊を潰しましょう。
周りは敵ばかりですが、駱統艦隊だけなら
3千もいません」
金満はこの時も、潰せるところから潰すという
セオリー通りの戦い方を続ける。
だが、この駱統艦隊がなかなかしぶとかった。
駱 統「まだだ、まだ粘れ! 呉軍の勝つ率は
我らが粘るほどに高くなるのだぞ!」
駱統の指揮のもと、兵たちは粘り強く戦った。
兵の数を200程度にまで減らされた時点で、
ようやく駱統艦隊は退却を始める。
楚 兵「駱統艦隊、退いていきます!」
鞏 志「……追撃しますか?」
金 満「そんな余裕は全くないですよ……。
それよりも、現在の状況は?」
鞏 志「我が艦隊の数は、1万前後です。
徐庶艦隊は孫韶艦隊に攻撃中の模様。
対する呉軍は、孫尚香・潘璋・孫韶の艦隊、
全てがこちらを向いています」
金 満「不利な状況は変わりないですね……。
甘寧・朱桓艦隊は、まだ来ないんですか」
鞏 志「ええ、まだ……ん!? いや、来ました!
孫韶艦隊の向こう! 朱桓隊です!」
その視界には小さいながらも、朱の旗をかざした
楚軍の艦隊がしっかりと捉えられていた。
☆☆☆
朱桓
朱 桓「間に合ったか……!? 味方の状況は?」
朱 異「金満艦隊が敵の包囲を受けている模様。
徐庶艦隊はなんとかその包囲を崩そうと
孫韶の隊を攻撃している様子です」
朱 桓「よし、ならば我らも狙いは孫韶だ!
包囲をこじ開け、金満艦隊を救い出せ!」
朱 異「はっ! 全艦、孫韶隊に攻撃を集中せよ!」
朱桓はすぐに孫韶の隊に襲い掛かった。
徐庶艦隊のみの攻撃は凌いでいた孫韶隊だが、
ここで朱桓隊が新たに攻撃に加わってきたため
苦境に立たされる。
孫韶
孫 韶「むっ……朱桓の隊が来たのか。
だが、相手をしている暇はない。
目の前の金満艦隊がまず先だ……!」
呉 兵「大将、徐庶艦隊が強攻してきます!」
孫 韶「陳武に防がせよ!
へっぽこ艦隊の強攻など彼に任せておけ!」
徐庶艦隊の周倉、呉懿らが強攻するも、
呉水軍の百戦錬磨、陳武に防がれてしまう。
徐庶
李厳
徐 庶「なんか、悪口を言われた気がするぞ」
李 厳「悪口?」
徐 庶「ぽんぽこ艦隊とか言われてる気がする」
李 厳「むむっ、我らがタヌキだということか!?
そのような侮辱の言葉、許せん!」
タヌキが何故に侮辱なのかよくわからないが、
李厳の怒りの矢嵐が孫韶隊を襲う。
孫韶隊もよく防いでいるものの、じわじわと
その戦力は削がれていくのだった。
☆☆☆
金満
鞏志
金 満「……よし! 我が隊も孫韶隊を狙うぞ!」
鞏 志「はっ、孫韶隊さえ倒してしまえば、
後は他に任せて退却できますな」
金 満「やられっぱなしでは終われない。
この鳥巣胆の勇姿を敵の目に焼き付ける。
退くのはそれからだ」
兵数は1万を切るほどになった金満艦隊だが、
旗艦鳥巣胆を中心に孫韶隊へ攻撃を掛ける。
『金旋が父であることでこの立場にいる』
そういった後ろ指を指されたくない、
という気持ちが彼にはあったようだ。
それが、不利な状況にあってもなかなか退かない
ことに繋がっていたのかもしれない。
だがそのとき、これまで一番静かだった艦隊が
突如唸りを上げて突っ込んでくる。
楚 兵「大将! 右翼より潘璋隊が来ます!」
金 満「な、なんだって!?」
少し距離を置いて矢を撃っていた潘璋艦隊は、
金満艦隊を倒す好機とみるや、突如豹変し
強攻してきたのだった。
潘璋
董襲
潘 璋「今が好機! 全艦、突っ込め!
手柄を立てる時は今だぞ!」
董 襲「潘璋将軍、美味しいところを持っていこう
というその心意気、実に見事だな」
潘 璋「ふっ、皮肉ですかな、董襲どの。
色眼鏡抜きで戦術を見てほしいですな」
董 襲「……確かに、一番無傷な我らがここで
強攻するのは、有効ではあるが……」
潘 璋「戦機を見極め、獲物を逃さず仕留める。
それが私の戦いの主義でしてな」
董 襲「……左様か。ものは言いようだな」
潘 璋「貴殿も水軍の将として名を挙げた方だ。
ここでまたその武名を上げるのは名誉な
ことではないか。何も小娘や若造に名を
上げさしめることもない」
董 襲「その小娘や若造というのは……」
潘 璋「さて、誰のことでしょうな。
さあ董襲どの、我らの力を存分に示し、
呉水軍の強さを見せつけましょうぞ」
董 襲「……承知した。
私はただ目の前の敵を討ち果たすのみだ」
潘璋、董襲、呂岱、朱拠といった面々が
めいめいに金満艦隊に襲い掛かった。
数を減らしていた金満隊はこれで決定的な
打撃を受け、艦隊はほぼ壊滅してしまう。
だが、なんとか旗艦鳥巣胆だけは生き残った。
潘 璋「ちっ、旗艦を討ち漏らしたか……」
金 満「な、なんとか残った……。
撤退! 速やかに戦場を離れるぞ!」
なんとか九死に一生を得た金満は、
すぐに撤退命令を出した。
金 満「これ以上の戦闘はもう無理……。
ならば、父上から預かったこの鳥巣胆
だけでも生き残らねば……」
楚 兵「大将!」
金 満「どうしたか!」
楚 兵「孫韶隊の艦が突っ込んできます!」
金 満「なっ……」
ずどーん!
金満が命令を出す暇もなく、
孫韶隊の艦が鳥巣胆の横腹にぶつかった。
鳥巣胆が受けた損傷は大きかった。
艦は大きく開いた穴から浸水し、その巨体は
徐々に傾きながら、次第に沈んでいく。
楚 兵「うわあっ! 沈んでいるっ!?」
金 満「この艦までも失うのか……!
くっ……皆、ここから脱出せよ!
早く、一刻も早く外へ出るんだ!」
楚 兵「は、ははっ!」
金 満「さあ、早く行け! ここは危険だ!」
楚 兵「はいっ! 大将も、ご無事で!」
艦橋から、最後の一兵が逃げ出した。
金満はそれを確認した後、悔しさに顔をしかめた。
金 満「……父上から預かったこの鳥巣胆、
初陣で沈めてしまうことになるとは。
これでは、父上に申し訳が立たない……」
そこに、バタバタと慌てて駆けてくる足音。
金玉昼
魏光
魏 光「いた! ここにいましたよ!」
金玉昼「何やってるにゃ、この馬鹿!」
金 満「姉上と魏光さん? 何やってるんですか、
この艦はもう沈みますよ!」
金玉昼「何をアホ言ってるにゃ!
そのもう沈む艦に、何を間抜け面して
残ってるにゃ! さあ、とっとと避難する!」
金 満「し、しかし、大将たるもの、
最後まで艦に留まっているものでは……」
金玉昼「それは戯曲の世界だけにゃ!
逃げるときは真っ先に逃げるのが大将!
それに誰もいなくては危険すぎるにゃ!」
金 満「わ、私なら一人でも大丈夫ですよ!」
魏 光「武力1の貧弱坊やが何言ってるんです!
あんたの武力では、ばったり出会った
敵兵の一人も殺せんでしょうが!」
金 満「い、いやしかし、沈む船に乗り込んでくるような
兵はいないと思いますよ?」
金玉昼「そんな問答してる暇はないにゃ!
船が沈むのは、想像以上に早いにゃ!
さっ、魏光さん!」
魏 光「はいっ!
……御免っ! うりゃあっ!」
魏光はがっしりと金満の腰を持ち、
そのまま肩の上に抱え上げた。
金 満「う、うわっ!? 自分で行けますよ!」
魏 光「時間がないって言ってる!
運動音痴の人は大人しくしてなさい!」
金 満「後ろには倒れないでくださいよ!?
北斗原爆固めになっちゃいますからね!」
魏 光「あーもう、大丈夫だって!」
金玉昼「さあ、早く!」
大きく傾き、揺れている旗艦鳥巣胆の中を、
魏光は金満を抱えたまま抜け出した。
そして外に出て金満を下ろすと、
今度は力任せに彼の鎧を引きちぎる。
金 満「ひええ!? 襲われるぅ!?」
魏 光「アホか!! 鎧つけてちゃ泳げんだろ!」
金 満「じ、自分で脱げますってば!」
魏 光「もたもたしてられないっつーの!
私だって男の鎧なんて脱がしたくないんだー!」
金 満「……鞏恋さんなら脱がしたいんですか?」
魏 光「う、まあ、その気持ちはあるにはある……。
けど、そんなことしたら殺されるし……って
時間ねーっつってんだろうがっ!
ちょっと黙ってろ!」
金 満「は、はいいいい」
金玉昼「あの小舟まで泳いでいくにゃ!」
少し離れたところにいる小舟を指差し、
金玉昼は水の中に飛び込んだ。
金 満「あれは緊急脱出用の……」
魏 光「そういうこと! さあ、早く!」
金 満「あっ、ちょっと待って!
水に入る前にはまず準備体操を……」
魏 光「んな暇ないんだっちゅーに!」
魏光はぐずぐずしている金満を川に放り出し、
すぐにそれを追うように自らも飛び込んだ。
金満は波に揉まれながらも泳ぎきり、
なんとか小舟まで辿りついた。
金 満「ぷはぁっ……し、死ぬかと思った」
金玉昼「あの艦にあのまま乗ってれば、
簡単にそれが実践できただろうけど?」
小舟になんとかしがみついた金満に、
先に辿りついていた金玉昼がそう諭す。
言われて金満は、鳥巣胆の方を振り返ったが
その艦体のほとんどが水中に沈んでいた。
金 満「鳥巣胆が……沈む」
金玉昼「最新鋭艦といえど、脆いものだにゃ……。
側面に一発食らっただけなのに」
鞏志
鞏 志「……兵器がどれだけ優れていようと
それだけで勝てるわけではないという、
いい教訓だと思いますよ」
金 満「鞏志どの……。ご無事でしたか」
鞏 志「ええ、なんとか……ね。
勝利を得るためには、人の力こそが大事。
金満どのも、今日のことを糧にして、
もっと大きい将になってください」
金 満「はい……」
魏 光「ごぶっ……ごぼっ……ぷはぁっ!」
金玉昼「お疲れ〜」
魏 光「ふいぃぃ、泳ぎは苦手なんですよ。
危うく溺れてしまうとこでした」
金 満「そういえば……鞏恋さんは?」
魏 光「姿は見ませんでしたが……。
心配はいらないと思います」
鞏 志「あの娘なら大丈夫でしょう。
泳ぎも得意だし、逃げるのも上手い」
魏 光「ええ、前に泳ぐ姿を拝見しましたけど、
そりゃもう達者な泳ぎでした。
あれならば捕まったりもしないでしょう」
金玉昼「魏光さん、鼻の下伸びてまひる。
恋ちゃんの水着姿でも思い出したかにゃ」
魏 光「あ、あはは、その時の鞏恋さん、
すっごい綺麗でしたからー」
鞏 志「……(ジロリ)」
魏 光「……えーと、泳ぎ方が実に綺麗でー。
そりゃもうお手本にしたいくらいでしたー」
金 満「じゃあ、鞏恋さんは大丈夫ですね」
金玉昼「そうだにゃ。むしろ、心配すべきは……」
そう言って、金玉昼は周りに目を向けた。
そこには……。
孫韶
孫 韶「そう。心配すべきは、君たち自身だ」
孫韶の艦隊が、彼らを完全に包囲していた。
金満艦隊は、呉軍に見事なまでの集中攻撃を
受け、ここに壊滅した。
脱出した鞏恋以外の将は捕らえられ、しばらく
孫韶艦隊の牢に身柄を置くこととなった。
☆☆☆
朱桓
朱 桓「なにっ!? 金満艦隊が全滅だと!?」
朱 異「はい……!
旗艦鳥巣胆が沈むのが確認されました!」
朱 桓「自分の目で確かめよう。どっちの方向だ」
朱 異「あちらの方向です。
現在は孫韶隊の船しか見えませんが……」
朱 桓「確かに、金の旗はひとつも見えぬな……。
くそっ、間に合わなかったか。
して、将たちの行方はわからんのか?」
朱 異「はい、生死不明です。
生きていたとしても、あの状況では皆、
敵に捕らえられたかと」
朱 桓「むむむっ……我らが早く来てさえいれば!
彼らが全滅した責は私にある……!」
朱 異「父上! それよりもまずは目の前の敵を倒し、
この戦いを勝利で終わらせるのが先決!」
朱 桓「う、うむ。わかっている。
……それにしても、甘寧どのは何をしてる?
到着が余りにも遅すぎるぞ!」
朱 異「まだ艦隊の影も見えません……。
何か問題でも発生したのでしょうか」
その頃の甘寧隊。
甘寧
蒋欽
甘 寧「騙された……! 奴は敵の間者だったのだ!」
蒋 欽「してやられましたな……。
それにしても、単身で敵艦隊に乗り込んで
くるとは、いい度胸をしていますな」
甘 寧「感心している場合か。
こうなると、南方の戦線が心配になってきた。
朱治といいこの偽報といい、呉軍の策は、
一貫して我らの軍を分断するよう仕向けて
いるのではないか」
蒋 欽「各個に撃破していく腹でしょうか」
甘 寧「よもや全滅してるなどとは思わんが……。
急ぐぞ! 進路を南に転換せよ!」
朱 桓「何が起きているかはわからんが……。
今いないものに頼るわけにはいかん。
徐庶艦隊と連携し、敵を叩くぞ!
兵力比でいえば、こちらの方が多いのだ」
朱 異「はい!」
徐庶・朱桓隊合わせて8万ほど。呉軍は6万弱。
まだまだ勝敗は決していないのだ。
朱桓は、まず目の前の孫韶隊を叩くつもりだった。
……ごぼっ……
朱 桓「ん? 今、何か音が……」
朱 異「船外……川面の方から聞こえましたが」
朱桓・朱異は、音がしたところの様子を見ようと
船べりに身を乗り出そうとした。
その時、川面から、がっ……と船べりを
掴む手が現れた。そして……。
ざばあっ!!
???「ぷはあああっ!!」
水で滴らせた長い髪を顔の前に垂らし、
『それ』は朱桓たちの目の前に姿を見せた。
朱 桓「のわあ!? 海坊主!?」
朱 異「い、いやっ、貞子です父上!」
朱 桓「よ、よよ妖怪退散っ!!
オンバサラギッタンディスカー!!」
朱 異「な、なんです父上、その呪文は!」
朱 桓「これは破魔の呪文だ!
これを唱えれば妖怪は逃げていくはず!」
???「……あの」
朱 異「逃げるどころか寄ってきてますよ!?」
朱 桓「な、なんだとぉーっ!?
この呪文は、とある妖術士から高額で買った
巻物に書いてあったんだぞ! なぜだ!?」
朱 異「それ騙されたんですよー!」
朱 桓「く、くそっ! しかしなぜ私ばかりが、
こうも妖怪に好かれるんだ!」
朱 異「知りませんよそんなの!」
朱 桓「以前の首の取れる女(※)も怖かったが、
こっちの貞子も怖いーっ!」
(※ 朱桓の下女に首の取れる者がいた逸話がある)
???「……いい加減にしないと殴るよ」
シャキーン
朱 異「ひいっ! 父上!
奴は金属バットを取り出しましたよ!
あれで我々に殴りかかる気です!」
朱 桓「金属バットを使う妖怪なのかっ!?
ん……金属バットだと?」
その時、朱桓はふとあることを思い出す。
彼は、金属バットを使うような人物を、
一人だけ知っていた。
朱 桓「……鞏恋?」
鞏 恋「気付くの遅すぎ」
顔の前に掛かっていた髪をかき上げると、
そこには彼らの見知った顔があった。
鞏恋
朱 異「鞏恋さま!? も、申し訳ありません!
さ、貞子なんて言っちゃって……」
鞏 恋「……別にいいよ。分かってやってたら
ボコボコにするところだったけど」
朱 異「ひいいっ」
朱 桓「金満艦隊にいたはずだが……。
泳いでここまできたのか?」
鞏 恋「そう。……他の者は、皆捕まった。
皆が孫韶の艦に乗せられるのを確認した後、
泳いだり潜ったりしてこっちに来たの」
朱 桓「孫韶の艦に……そうか。
軍師や金満どの、鞏志どのが……」
朱 異「……あれ? 一人、忘れてませんか」
朱 桓「そういえば、4人いるはずだな。
……残りの一人は誰だっけ?」
朱 異「うーん……思い出せない」
鞏 恋「そんなのはどうでもいいから。
皆の救出をお願い」
朱 桓「うむ、それはもちろんだ。
艦隊に斬り込み、奪還を図ろう」
鞏 恋「ところで……妖怪、苦手?」
朱 桓「うっ……、うむ、少しだけだがな。
しかし、妖怪などを得意にしてる者など
いるわけでもあるまい」
鞏 恋「ふーん……。まあいいけど。
それじゃ、後はお願い」
朱 桓「……ん? どこに行く気だ?
まずはこの艦で休んでおけ」
鞏 恋「これから徐庶のとこ行くから。
あっちにも教えておかないと」
朱 桓「いや、それならば足の速い船で……」
鞏 恋「泳いだ方が速いから。じゃ」
どぽーん
鞏恋は川に飛び込むと、驚異的な速度で
徐庶艦隊の方向へ泳いでいった。
朱 桓「おお、見事な泳ぎ。
まるで人魚のように美しいフォームだ」
朱 異「そうですねぇ……。ホント綺麗だなぁー」
朱 桓「……お前、目がいやらしいぞ」
朱 異「だって、服が濡れて身体のラインが
ぴったり出てたじゃないですか。
スタイルもいいですよねぇ」
朱 桓「まあ、軍の若い者たちに人気があるのも
確かに頷けるな……」
朱 異「うーん、ああいうお姉さんに憧れますねぇ」
朱 桓「お前には高嶺の花だ。やめておけ」
朱 異「まあ、釣り合わないとは思ってますが。
歳の差もありますし」
朱 桓「例え釣り合ったとしても、彼女を嫁に
貰う者には、相当な覚悟が必要だろうな。
……さて、捕虜奪還作戦を開始するぞ」
朱 異「はっ!」
朱 桓「奪還すべき将は四名。
軍師であり閣下のご息女である金玉昼どの。
同じくご子息、金満どの。鞏恋の父君、鞏志どの。
あとは……ええと……」
朱 異「誰でしたっけ」
朱 桓「誰かの子だった気もするが……。
とにかく、四人だ。必ず助け出すぞ!」
朱 異「了解です!」
孫韶に捕らえられた金玉昼、金満、鞏志、
それからええともう一人……の運命は如何に。
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