218年4月
金旋
金 旋「お前たちに、艦隊を任せようというんだ。
……陸口を攻めるための、な」
甘寧
朱桓
朱 桓「陸口を攻める……?」
甘 寧「こちらより先制攻撃をしかけると?」
金 旋「そうだ。
あちらが出なければ、こちらが出るまで。
……もともと、漢津・烏林に配置した将兵は、
呉の陸口に対する押さえとして、だった」
朱 桓「はっ、陸口10万の兵に備えるべく、
それぞれ9万もの兵を割り振っております」
金 旋「……だが、その陸口の兵は全く動きがない。
廬江・柴桑が活発に出兵したのに関わらずな」
甘 寧「それは、単純に攻める利がないから、
攻めることで逆に守りが危うくなるだろうことを
気付いておるからと思いますが」
金 旋「まーな。あっちが漢津・烏林を攻めれば、
攻められてない方から兵を出し、手薄になった
陸口を攻め取り、なおかつ出ていった呉艦隊を
挟み討ちにすることも可能だ」
朱 桓「出方を見て戦えば、有利に戦えましょう。
ですから、そのように呉軍が動くまで
待ち続けるものだと思っておりましたが」
金 旋「そう思ってはいたんだがな。
漢津・烏林に配置をしてもう4ヶ月だ。
流石にこれ以上は待ってはいられん。
あちらがどうにも動かぬのならば、
こちらから動くしかあるまい」
甘 寧「それは道理ですが……」
金 旋「漢津と烏林、18万の兵を総動員すれば、
いかに10万の兵、呉の水軍といえども
勝ち目はあるまい?」
朱 桓「……閣下、呉は水軍にかけては中華一。
勝つにしても相当な被害が出ますぞ」
金 旋「それは重々覚悟の上だ。
だがな、この先もずっとこんな調子で
にらみ合ってる訳にもいかんのだ」
朱 桓「ですが……」
金 旋「朱桓、お前もしかして……。
旧主の軍と戦うのは気が引けるか?」
朱 桓「いえ、そのような情はありません。
私の忠は閣下のみに捧げられるものです」
金 旋「ならばその忠、この機会に存分に示せ」
朱 桓「……はっ」
金 旋「甘寧もいいな?」
甘 寧「もとより異存なしですな。
呉水軍を打ち破る名誉を戴き、光栄の極み」
金 旋「うむ。この漢津港はお前たちを大将に、
烏林港からは徐庶・金満を大将にして
両港の兵を総動員し出撃だ。
陸口の呉軍を打ち砕け!」
二 人「はっ」
二人は、準備のためにその場を辞す。
しかし、朱桓の表情は冴えなかった。
甘 寧「浮かない顔をしてるな。
さっきは旧主と戦いたくないというのは
ないとは言ったが、実際は……」
朱 桓「いや、それはない。
いずれはこうなるとは思っていたのだ。
覚悟はもうすでに決まっている」
甘 寧「ならば……」
朱 桓「純粋に呉の水軍に勝てるかどうか……。
私はそれを心配しているのだ。
閣下はまだ、呉水軍を甘くみている」
甘 寧「……そうか? 18万も注ぎ込むのだ、
多少被害は出るにしろ負けはせんだろ」
朱 桓「甘寧どの、貴殿は水軍に長じているから
わかっているはずだ。
水上では、陸以上に数などアテにならん」
甘 寧「確かにそうだ。
だが、それは将の経験の差がものを言う。
俺は呉軍に遅れを取るつもりなどないし、
お主も経験は豊富だろう?」
朱 桓「……呉の者はみな、馬を乗りこなす前に
船を学び、手足のように動かすようになる。
確かにこちらにも水軍の経験者はいるが、
しかし、呉軍の将たちはそれ以上に
水軍に慣れ親しんでいるのだ」
甘 寧「……む。だが、そのための大兵力だろう」
朱 桓「数はアテにならんと言った」
甘 寧「むむむ……。では、今回の作戦は
考え直すよう進言すべきか?
敗色濃厚ならば、見直しは必要だぞ」
朱 桓「さあ、それだ」
甘 寧「どれだ?」
朱 桓「勝てるのかどうか、だ。
私は呉水軍の強さはよく知っている。
しかし、味方である楚水軍の能力の方は、
正直まだ量りかねているのだ。
果たして、この作戦を止めさせるほど
こちら側は弱いのだろうか……と」
甘 寧「ふむう。これまで水軍での戦いは
ほとんどなかったからな。
特に今回のような大兵力での戦いは
全くなかったと言っていい」
朱 桓「また、そのような戦いを経験することは、
勝敗に関わらず我が軍の糧となるのでは、
とも考えるのだ。……だから、迷う」
甘 寧「なるほど、その迷いはもっともだ。
しかし、それで迷ってるなら話は早い」
朱 桓「なぜだ?」
甘 寧「殿もつねづね言っているだろう。
勝敗はどうでもいい、得るものがあればいい。
ただ、負けてならん時には勝て……とな」
朱 桓「……この戦いは負けてもよいものなのか?」
甘 寧「あまりにも動きがないため、
こちらからその動きを作ろうとする戦いだ。
負けたとしても挽回はできるだろう」
朱 桓「むむ……。しかし、負けを最初から意識して
戦うというのは……」
甘 寧「無論、全力は尽くすがな。
将たちの水軍戦の経験を積むためにも、
この戦いは必要ではないか?」
朱 桓「なるほど……」
甘 寧「楚の水軍は我らが鍛えていくんだ。
その気構えを忘れるな」
朱 桓「承知した、甘寧どの。
……楚水軍を強めるための戦いと思おう。
さすればこの戦い、例え負けたとしても、
大いに意味はあるというもの」
甘 寧「……俺は負ける気はさらさらないがな」
4月上旬。
漢津を甘寧・朱桓の艦隊が出港した。
甘寧艦隊は凌統、蒋欽、魯圓圓、雷圓圓が付き、
闘艦を主とした船団である。兵は4万5千。
朱桓艦隊には朱異、留賛、孔奉、陳応が付き、
こちらも闘艦を主とし、兵は4万5千。
金旋からの攻撃命令は、すぐに烏林港にも送られた。
こちらも準備を整えて艦隊を出撃させる。
徐庶艦隊には李厳、呉懿、周倉、張允を乗せ、
闘艦を主とした船団に兵は5万。
金満艦隊は金玉昼、鞏恋、魏光、鞏志が付き、
闘艦を主とした4万の兵。
烏林は漢津と比べて若干陸口に近いので、
多少出撃を遅らせ、甘寧・朱桓艦隊とほぼ同時期に
陸口に到着するように出港した。
彼らは5月初めには陸口に到着するだろう。
その時、楚軍初めての大海戦が始まるのだ。
☆☆☆
4月中旬、呉国は陸口港。
ここは兵10万の駐屯する大軍港である。
ここしばらくは潘璋がここをまとめていたが、
楚の艦隊が向かってくることが分かり、急遽、
将たちが柴桑・廬江などから派遣された。
その中には、潘璋に代わって大将となり
この戦いの指揮を執るべく寄越された人物もいた。
孫尚香
孫尚香「それでは、軍議を始めます」
呉公孫権の妹である孫尚香を大将に戴き、
陸口の軍は楚艦隊の小船一艘たりとも
陸へ上がらせない体勢を取る。
庖統
孫韶
庖 統「楚艦隊は総勢18万。
漢津より9万、烏林より9万。
どちらも、あと20日もしないうちに
ここへ押し寄せてきましょうな」
孫 韶「どの艦隊も闘艦を主としているらしい。
こちらも闘艦を使って迎え撃つべし」
脇を固めるは軍師ホウ統、そして孫姓を戴く孫韶。
孫韶は孫河の甥、孫桓の従兄であり、彼もまた
孫河と同じく孫姓を賜った武勇の士である。
孫尚香「港は防衛に向かないし、艦隊で迎え撃つ
というのはわかるけど……。
18万という兵の数、これはどうなの?
ここにいる将兵で勝てる?」
孫尚香の投げたその疑問に、皆が押し黙った中、
潘璋が口を開いた。
潘璋
潘 璋「敵はこれまで例のないほどの大軍。
また、それに見劣りはするものの、こちらの
10万という兵もまた大軍には違いない。
この両軍がぶつかれば、どうなることやら」
だが、それに末席から罵声が飛んだ。
その声の主は、関興(関羽の次男)であった。
関興
関 興「どうなるかわからんのなら最初から言うな!
内容のないことをごたごたと抜かすは
軍議の邪魔だぞ!」
潘 璋「なにっ!? この若造がっ!
貴様は水軍に関しては素人だろう!
貴様こそ口を開くな!」
太史慈
太史慈「潘璋どの。私も水軍の扱いは
さほど上手いとは言えない方なのだが、
やはり私にも何も言うなと申されるのか?」
潘 璋「あ、いや、太史慈どの。
貴殿ほどの実績があるなら話は別だ」
太史慈「そうか。しかし席に座っている以上は、
今までの実績など関係ないでござろう。
……関興どの、良い案があればなんでも
言ってよいのですぞ」
関 興「ありがとうございます、太史慈どの。
いやあ、大物は言うことが違いますな」
潘 璋「なにっ! き、貴様!
私が小物だとでも言いたいのか!」
関平
沙摩柯
関 平「ま、まあまあ潘璋どの、抑えてくだされ。
弟はまだまだ血の気の多い若輩者、
潘璋どのほどの方が目くじらを立てて
怒るほどでもありますまい」
沙摩柯「怒ル、ヨクナイ。血圧、アガルゾ」
潘 璋「うっさいわ!」
関興の兄である関平、異民族の出である沙摩柯が
潘璋をなだめるが、潘璋の怒りは収まらない。
もともと、この潘璋と関興、ソリが合わないのか、
ここに配置されて以来いつも口喧嘩ばかりである。
以前からいる者にしてみれば、いつものことかと
思ってそれを見ていたのだが……。
孫尚香「潘璋っ!」
潘 璋「は、はっ」
孫尚香「騒ぐなら外に行きなさい」
潘 璋「いや、私は騒いでなど……」
孫尚香「だったら真面目にやりなさい」
潘 璋「……はっ」
孫尚香の一喝で、潘璋は黙ってしまった。
普段から金銭欲が強く、他の将兵からもあまり
好かれていない潘璋が小さくなってるのを見て、
他の者たちはいい気味だとほくそえんだ。
孫尚香「……関興。貴方も控えなさい。
ここは意見を交わす場であって、
罵声を飛ばし合う場所ではないわ」
関 興「……は、はい」
孫尚香「気合が有り余ってるのなら、
それは戦場で敵にぶつけなさい」
関 興「はっ!」
一方で関興もたしなめ、彼女は
すぐさま軍議としての場を取り戻した。
その見事な収拾に、その場にいたとある老将は
次のような言葉を残している。
???「うむ、あの時は『あのお転婆姫がよくもまあ
ここまで成長したものだ』と思ったな。
その立派な様は、まるでお父上の孫堅さまが
おるのかと思ったくらいだ」
さて、軍議では活発に意見が交わされたが、
結局のところは出て戦うしかない、
ということが確認されただけであった。
しかし、厳しい状況ではあるが、全く
悲観的でもない……と孫尚香は感じていた。
楚艦隊が近付いてきた4月下旬。
陸口より、迎撃のための艦隊が出撃する。
その準備の最中、庖統は馬を連れている
孫尚香の姿を見つけた。
庖 統「……馬を、船に乗せるのですか?」
孫尚香「そのつもりだけど」
庖 統「別に陸で戦うわけでもなし、
置いていかれてもよいのでは」
孫尚香「……この五花は、元は策兄(孫策)の馬。
一緒にいれば、策兄が守ってくれる……。
そんな安心感があるのよ」
庖 統「左様でござるか。
……そういえば、劉備どのも以前、
船に愛馬を乗せておりましたしな」
孫尚香「劉備か……。私が陸口に行くと言ったら
『私も行きますぞ〜』と言っていたのに」
庖 統「しかし、彼は廬江に残ってますな。
何か、不都合でもありましたか」
孫尚香「大したことじゃないわ。
水軍での戦いになる、と言った途端、
『船酔いが嫌なので止めときます』
……だものね。頼りにならないわ、全く」
庖 統「ほう」
孫尚香「……なに?」
庖 統「いえ、なんでもありません」
孫尚香「そう。それじゃ、準備を急がせて」
庖 統「承知いたしました」
孫尚香は、五花馬を旗艦に乗せる。
その様子を見ながら、ホウ統は呟いた。
庖 統「『頼りにならない』というのは裏返せば
『本当は頼りにしたい』という心理。
……なかなか、面白いかもしれませんな」
準備を終え、船は陸口から続々と出港していく。
孫尚香艦隊(関興・関平・沙摩柯・庖統)、
孫韶艦隊(太史慈・陳武・陳表・張承)、
潘璋艦隊(呂岱・董襲・全端・朱拠)、
駱統艦隊(宋謙・賈華・呂拠・孫匡)の4隊。
総勢8万5千の艦隊が陸口を出た。
☆☆☆
4月中旬、揚子江を下る金満艦隊にて。
金満
金 満「揚子江……なんと大きい川だろう。
こんなところで呉軍と戦うのか……。
うーむ、緊張するな〜」
金満艦隊の旗艦『鳥巣胆』の艦上で、
この艦隊司令官である金満は眼前に迫った
呉水軍を見て、武者震いをしていた。
なお、この戦いに先立ち、各艦隊の旗艦には
最新鋭の闘艦がそれぞれ与えられていた。
甘寧には黒く塗られた『荊弐比巣帝下流』、
朱桓には赤く塗られた『馬流馬朗査』、
徐庶には軽量化され動きの速い『米於烏流布』。
そして金満にはこの『鳥巣胆』である。
米於烏流布と同型だが、こちらは軽量化はされず、
あくまで攻撃力・防御力を維持しており
旗艦としての威厳・優雅さを保っていた。
金 満「しかし、いい艦だなあ……。
上品で、しかし華美すぎてもいない。
揺れもほとんどなく、乗り心地も最高だ。
ああんっ、もう離れたくないわ〜ん」
誰もいないと思って彼が柱に抱きつき
それに頬を寄せてスーリスーリとしていると、
なぜかそこに誰かの視線を感じた。
金玉昼
金玉昼「…………(じーっ)」
金 満「あっ、姉上〜っ!?」
金玉昼「…………」
金 満「な、何か御用でもっ!?」
金玉昼「…………」
金 満「も、もしや呉軍に動きがっ?」
金玉昼「…………」
金 満「……な、何か言ってくださいよ」
金玉昼「………………………………
………………………………変態」
金 満「ぐわーーーーーーっ!」
金玉昼「とまあ冗談はさておき」
金 満「あ、ああ、冗談ですか〜」
金玉昼「心情としては完全本気だったけどにゃ」
金 満「のわーーーーーーっ!」
金玉昼「はっはっは、面白いにゃ〜」
魏光
鞏恋
魏 光「何遊んでるんですか」
鞏 恋「遊ぶならまぜて」
金 満「うっうっ、遊んでなんかいません〜。
私が遊ばれてるんです〜」
金玉昼「何も泣かなくても」
鞏 恋「じゃ、私も満太郎をオモチャにして遊ぶ」
魏 光「……満太郎って何です?」
鞏 恋「金満のあだな」
魏 光「初めて聞きましたが……」
鞏 恋「今初めて呼んだし。ねっ満太郎」
金 満「『ねっ』とか言われても困りますっ。
魏光さん、なんとかしてください〜」
魏 光「鞏恋さんに……。あだ名で……」
金 満「……魏光さん?」
魏 光「鞏恋さんにフレンドリーなあだ名を……!
う、羨ましい……そして憎いっ!」
金 満「魏光さんの目に憎しみの炎がっ!?
な、なぜ、私は何もしてない、
というかむしろ被害者なのに!」
金玉昼「恋する男は狂ってしまうのにゃ〜」
金 満「な、何が……ぐわぁっ!
く、首を絞めないでください〜!」
魏 光「憎い……。憎い……っ!」
鞏志
鞏 志「何をやってるんですかあなた方はっ!」
金玉昼「あ、鞏志さん」
鞏 恋「嫌なのが来た……」
魏 光「……はっ!? こ、これはお父上!」
鞏 志「は? 誰が父上ですか」
金 満「そ、それより……、まず……この手を……」
魏 光「あれ、なんで首に私の手が?」
金玉昼「……覚えとらんのかにゃ」
金 満「すーはーすーはー……死ぬかと思った」
鞏 志「全く、何やってるんですか。
もう目前に敵軍が迫ってるんですよ!
それなのに何を遊んでるんですか!」
金 満「私は遊んでませんってばー!」
鞏 恋「私も遊んでない」
魏 光「……遊ぶ気は満々でしたよね」
鞏 志「そんなことより、早く指令を!
もうすぐ互いの射程圏に入ります!」
鞏 恋「だってさ。満太郎、グズグズしてないで
早く指令を出しなさい」
金 満「私のせいですかっ!?
ううっ……全軍、第一戦備体制で待機!
号令あるまで攻撃はならんっ!」
鞏 恋「……はい、指令出したよ」
鞏 志「出したよ、じゃない!
第一戦備体制というのはいつでも戦闘に
入れる状態のことなんだぞ!
それは将であるお前も入るんだ!」
鞏 恋「戦闘いつでもOK。ノープロブレム」
鞏 志「どーこーがーだーっ!」
金玉昼「ま、まあまあ、これ以上やると戦闘前に
血管切れて医務室に運ばれまひる」
魏 光「そ、それに、そろそろ冗談抜きで
準備をしておくべきじゃないんですかね」
鞏 恋「……ちっ。ハーイワカリマシター」
鞏 志「全く……。我が軍としては初めての
大規模な水軍の戦いなんですよ。
もっと真面目にやるように!」
金 満「す、すいません。
……ってなんで私が謝ってるんだろう」
魏 光「……そういえば、水軍戦ということで、
ちょっと気になることがあるんですが」
金玉昼「ん、何にゃ?」
魏 光「各艦隊にはそれぞれ、闘艦を使える
将が乗ってますよね。
甘寧さん、朱異さん、張允さん……。
皆、水軍のエキスパートですよね」
金玉昼「そうだにゃ」
鞏 恋「朱異・張允は地味だけどね」
魏 光「で……この艦隊には?」
金 満「そういえばそうですね……。
誰が闘艦を使えるんですか?」
鞏 志「ん? 金満どのではないのですか?」
金 満「私じゃないです」
鞏 恋「使えるのは私」
魏 光「……え?」
鞏 志「……え?」
鞏 恋「正確には、養由基の弓が教えてくれる。
こう、耳元で、ボソボソと(※)」
(※ 養由基の弓を持つと闘艦の兵法が使える)
魏 光「……鞏恋さんに水軍の経験は?」
鞏 恋「洛陽から頓丘に行く時、川下りで使った。
……戦闘したことはほとんどないけど」
『不安だ』
金満・魏光・鞏志の心中を同じ言葉がよぎった。
(金玉昼は知ってるので今更思わない)
鞏 志「さ、さて、時間もないことし、
それぞれの持ち場へ行ってください!」
魏 光「は、はい、分かりました、お父上」
鞏 志「だから誰が父上かっ!」
鞏 恋「ぎゃーぎゃーうるさい。
まるで遠足についてきた引率の先生みたい」
金 満「……キョウシだけに教師役ですか」
鞏 恋「んー、ざぶとん一枚」
魏 光「おちちう……じゃなかった、
鞏志さんが思い切り睨んでますけど?」
鞏 恋「ん、それじゃー行くよー」
前線に立って戦う鞏恋・魏光は、一足先に
そこを離れた。
鞏 志「ふう……疲れる。
これまで、ずっとこんな調子で?」
金玉昼「恋ちゃんのことかにゃ?
まあ、たまに真面目になる場合も
なきにしもあらず……かにゃ〜」
鞏 志「そうですか……。
大丈夫なんでしょうか、この戦いは」
金玉昼「まあ、なんとも言えないにゃ」
金 満「兵力ではほぼ倍の差です。
いくら水軍の強い呉軍でも、この差を
跳ね返すことは無理でしょう」
鞏 志「そう思いたい所なんですが、
いかんせん私は戦下手ですから」
金 満「まずは、生きて帰れるように頑張りましょう。
人間謙虚にいけば、何とかなるものです」
金玉昼「……そろそろ、射程圏に入りまひる」
金 満「では……弩隊、構え!」
甘寧
朱桓
甘 寧「ふふふ。心躍るな、この緊張感」
朱 桓「さて……どこまでやれるか。願わくば、
私の心配が杞憂であることを……」
孫尚香
関興
孫尚香「兄上……陸口は守り抜きます。
先の戦いの借りも、ここで必ず……!」
関 興「やるぞ。魏にいる父上も知るほどに、
思いっきり暴れまわってやる」
金満
金玉昼
金 満「いくぞ鳥巣胆、呉の艦隊など蹴散らすぞ」
金玉昼「……敵軍の士気は高いみたいだにゃ。
これは、苦戦させられそうかも……」
魏光
鞏恋
魏 光「今度こそ、目を見張る働きをして、
鞏恋さんに認めてもらうんだ……!」
鞏 恋「ここを泳いでる川魚食べたら、
お腹壊しちゃうかなあ……」
皆それぞれの思いを胸にこの戦いに望んでいた。
月は五月。夏も盛りを迎えている頃。
いよいよ、両軍の大艦隊がぶつかり合う。
|