○ 第二章 「各国それぞれのお家事情」 ○ 
218年3月。
魏公曹操は、恒例行事の社員旅行を催した。
少し前に異民族の烏丸の征伐がようやく成り、
将たちの慰労を図るためでもあった。

今回の旅行先は、青州は青島(チンタオ)となった。

 チンタオ位置

  夏侯淵夏侯淵  夏侯惇夏侯惇

夏侯淵「南蛮で象を見たかったのに……」
夏侯惇「しょうがなかろう、情勢が情勢だ。
    それに、皆からのアンケート結果でも
    遠いところは敬遠されていたらしいぞ」

  曹洪曹洪   曹仁曹仁

曹 洪「あかんがな。
    南蛮なんぞ行ったら金がもったいない」
曹 仁「お前はいつもそれだな。
    ケチが過ぎると身を滅ぼすぞ」

今回は前年に徐州を呉軍に奪われるなど、
戦況が厳しくなってきている面もあり、あまり
遠くには行けない事情があった。

とはいえ、青島も有数のリゾート地である。
魏軍の将たちも皆、この時ばかりは戦を忘れ
観光旅行を心から楽しんでいた。

そして夜。
ホテルの宴会場にて、酒宴が催された。

    曹操曹操

曹 操「皆、よく働いてくれているな。感謝するぞ。
    この旅行は皆の鋭気を養うためのものだ。
    今回はこのように近場になってしまったが、
    この青島は食い物も酒も美味いところだ。
    今宵は大いに飲み食いし、楽しんでくれ」

挨拶の後、軍師である諸葛亮が乾杯の音頭をとる。

    諸葛亮諸葛亮

諸葛亮「それでは僭越ながら、私が乾杯の音頭を。
     ……烏丸征伐完了を祝すとともに、
     魏国の発展を願い、乾杯!」

 『乾杯!』

  張飛張飛   関羽関羽

張 飛「おおう、うめえなこの麦酒!
    よーし、今宵は浴びるほど飲むぞ!」
関 羽「今宵も、の間違いだろう?
    暴れても私は止めぬからな」
張 飛「止めてくれなくて結構!
    むしろ、思いきり暴れたいくらいだしな」
関 羽「……やはり止めることにする。
    しかし劉兄(劉備)と別れて大分経つが、
    お前は全く変わらんな……」
張 飛「……そうかい? むしろ俺は、
    あんたが変わり過ぎだと思うがな」
関 羽「私が変わったと? どこが?」
張 飛「完全に曹そ……じゃねえや、
    魏公の忠実な犬に成り下がったよな。
    昔は気高い虎のような人だったのによ」
関 羽「……結構ではないか。今の私は魏の将だ。
    ならばその魏のために忠を尽すのみだ」
張 飛「はん、根本の『義の人』は変わっていねえ。
    と、そう言いたいのか。
    その堅苦しい所は、確かに変わってねえかもな」
関 羽「お前は、まだ劉兄の影を追ってるのか。
    新野が落ち、皆散り散りになったあの時に、
    『劉玄徳を戴き漢王朝を復興する』
    という、その夢は潰えたのだ」
張 飛「俺だってそれほど夢見てるわけじゃねえ。
    これから新たにあのバカが国を作る、
    そんなのは無理だってことくらいは
    分かっているつもりだ」
関 羽「ならば分を弁え、一武将として生きよ」
張 飛「分かってる……分かってはいるが、
    頭ん中がぐちゃぐちゃでよう。
    どうも割り切れねえんだよなぁ……。
    もうあれから10年近く経つのによ」
関 羽「全て割り切る必要はない。
    その思いは胸に仕舞っておけ。
    ……ここにいる者たちの多くも、そういう
    思いを胸に抱えているのだ」
張 飛「……あん? どういうこった?」
関 羽「魏公個人のため働いている者は別だが、
    漢帝室を守るために帝を擁する魏公に仕えたり、
    先が長そうだからと仕えたりした者もいる。
    それらの者は、このまま魏に仕えてもいいのか、
    という思いを胸に抱えているのだ」
張 飛「ま、確かにな。
    最近ちょっと落ち目だからなぁ。
    だが、魏がもう終わりってわけじゃない」
関 羽「そうだ。だから今は魏のために働け。
    今はそれだけでいいのだ。岐路に立った時に
    その思いをまた思い出せばいいのだ」
張 飛「ふうむ……。それじゃ兄貴にも、
    まだ長兄への思いはあるんだな」
関 羽「当たり前だ」
張 飛「じゃ、俺もそれに倣うことにするぜ。
    今のうちはせいぜい忠義の者でいるさ」
関 羽「うむ。それでいいのだ」
張 飛「よし、もやもやしたもんも一応スッキリしたし、
    今日は浴びるほど飲むぞ!」
関 羽「……結局お前はそうなるのだな」

さて、他の者たちも酒を酌み交わし合い、
宴もたけなわとなってきた。

  程立程立   賈駆賈駆

程 立「旅行に行くと病で死す呪い、
    前回分は荀攸どのに降りかかったのう」
賈 駆「さて、次は誰になるのでしょうな」
程 立「郭嘉、荀域、荀攸と参謀ばかりじゃからな。
    次は、わしか、お主か。それとも……」
賈 駆「諸葛亮ですかな? だが彼はまだ30代。
    そうそう倒れるとは思えぬが……」
程 立「いやいや、わからんぞ。
    それとも、参謀クラスの知力を持つ者、
    ということで殿が標的になることも……おっと」
賈 駆「程立どの、口が滑ったようですな。
    酒の席とはいえ、あまりそのようなことは
    言わぬ方がよろしいですぞ」
程 立「いや、失敬失敬。
    よもや殿には聞かれておらぬだろうな」
賈 駆「先ほど外へ参られた模様。
    まだ戻ってきてはおりませんな」

その頃、曹操は厠で気張っていた。

曹 操「ふんっ……。くそ、なかなか難産だな。
    出す気は満々だったのに、少しも出ぬ」

    許猪許猪

許 猪「とのぉ〜」
曹 操「なんだ、許猪。
    人が気張ってる時くらい静かにしろ」
許 猪「変なもん見つけたんだぁ〜」
曹 操「……刺客か?」
許 猪「いや、ありゃ四角くはねえぞぉ」
曹 操「敵かと聞いてるんだ」
許 猪「見ればわかるから、ちょっと見てくれよぅ」
曹 操「……ちっ、産むのはまた後にするか。
    ちょっと待っていろ、すぐ出る」

衣服を整え、曹操は厠を出る。

許 猪「とにかくだあ、あれを見てくれよぉ」
曹 操「なんだなんだ……。
    何か珍しいものでも……」

そこまで言って曹操は言葉を失った。
許猪の指差した東の方向……。
山東半島から先にある海の向こう。

そこには、今まで見たことのない島があった。

 倭

そう、今まではただ海原が広がっていた所に、
突如として現れた光景……。
後に『倭』と呼ばれることになるその地が、
彼らの前に現れたのである。

曹操の行動は迅速であった。
その島に女王が統べる国の存在を知ると
すぐに貢物を贈り、その領を侵さぬことを
約束した。
倭の女王はその曹操の礼遇に感激し、
返礼の貢物を届けたという。

曹操は、烏丸との長い戦いを反省したのか、
異民族と争わない方針を取ったのである。
倭は国土は小さいが、その兵は屈強であった。
そんな相手を敵に回さず、うまく手懐け、
あわよくば利用しようと考えていたのだ。

    ☆☆☆

呉公孫権。
彼は、荊州侵攻のために桂陽へ出兵したが、
霍峻らの反攻を受け敗走、柴桑に逃げ戻る。
その後、周瑜と今後の方針を話し合った。

  孫権孫権   周瑜周瑜

孫 権「江夏でも桂陽でも負けてしまった。
    楚軍があそこまで強いとは思わなんだ」
周 瑜「お言葉ですがご主君。
    あの勝敗がそのまま呉楚の力の差とは
    なりません」
孫 権「わしもそう思いたいが……」
周 瑜「戦い方に問題があったのです。
    いかに数を揃えても、地の利の得ている
    相手を倒すのは難しいのです」
孫 権「ふむう……。
    では、楚に勝つにはどうすればよいのだ」
周 瑜「攻めなければよいのです」
孫 権「……おい、周瑜。
    今のわしは冗談など聞く気はないぞ」
周 瑜「冗談ではありませんよ。
    地の利を得ている敵を倒すには、その利を
    上回るだけの戦力・戦術が必要になります。
    しかし、呉の今の力ではそれは無理です」
孫 権「では、楚との和を結び直せというのか?」
周 瑜「いえ、それではあまりにも面白くない。
    そんなことをすれば呉の面目は丸潰れです」
孫 権「まあな。
    こちらに多くの利があるなら考えんでもないが、
    今和したところで、しばらくの間の不可侵が
    約束されるだけだ。
    その和の間に、力の差はまた広がるだろう」
周 瑜「呉の安泰を願うのみならば構いませんが、
    天下を取るならば、楚と和してはなりません」
孫 権「わかっておる。
    ……しかし、以前からお前の言っていた
    『まず荊・益・涼を取り、天下を二分した後に
    中原に乗り込み天下を制す』
    という方策は、全く使えなくなったのう」
周 瑜「さあ、そこです」
孫 権「どこだ」
周 瑜「だから、今こそその策なのです」
孫 権「全然使えんだろう。最初の荊を取る時点で
    楚国に阻まれてるではないか」
周 瑜「私が言いたいのは、その根本の部分です。
    以前その策を示した時は、曹操と対決する前に
    天下の半分を領しておき、対等以上の力で
    決戦に挑むべきである……と言ったのです」
孫 権「うむ、そうだったな」
周 瑜「今は魏よりも楚の方が強大です。
    つまり、天下二分とまではいきませんが、
    楚と同じくらいの力をまず得ることが、
    今は先決だと言っているのです」
孫 権「……なるほどな。
    楚は後回しにしろということか」
周 瑜「はっ。楚との戦いは小競り合い程度に留め、
    その間に、弱っている魏を飲み込みましょう」
孫 権「弱ってるというほど、魏は弱くはないぞ」
周 瑜「それは言葉のあやなれば……。
    しかし、今の呉は魏と対等以上に戦えます」
孫 権「うむ、そうだな。
    まずは黄河以南を押さえるとしよう」
周 瑜「はっ……では、その指揮は私にお任せを。
    徐州にいる呂蒙・陸遜らを使い、すぐに
    残る陳留・濮陽・北海を飲み込みましょう!」
孫 権「…………」
周 瑜「どうかなさいましたか?」
孫 権「いや……。お前だけに負担は掛けられん。
    わしも行くことにしよう」
周 瑜「ご主君……?
    私には任せてはおけぬと?」
孫 権「そうではない。
    わしはどちらにいた方がいいのか、
    それを考えた結果だ」
周 瑜「対楚、対魏のどちらか、ですか」
孫 権「そういうことだ。
    楚に対しては魯粛に任せることにする。
    廬江・柴桑などの軍団は魯粛に委任しよう。
    彼ならばわし以上に上手く操ってくれるはずだ」
周 瑜「は、そういうことならば」
孫 権「では、わしは廬江に寄ってから徐州に向かう。
    妹に渡す物があるのでな」
周 瑜「承知しました。
    では、私は魯粛と協議した後に発ちますので」
孫 権「……周瑜。
    お前もそれほど若くなくなってきたのだ。
    あまり無理するなよ」
周 瑜「ははは、何をおっしゃいます。
    ご主君もお老けになられましたかな」
孫 権「な、なに? わしはまだ若いわ!」
周 瑜「私もまだまだ若いうちです。先の戦いでは
    老将たちの戦いぶりを御覧になったのでしょう。
    それに負けるわけには参りません」
孫 権「……ううむ」
周 瑜「では、これにて。徐州でお会いしましょう」

周瑜はその場を辞して戻っていく。
その足取りは彼の言うように十分に若々しかった。

孫 権「……わしの取り越し苦労ならばいいんだがな」

孫権もすぐに仕度をし、廬江へと向かった。

柴桑の北、廬江城。
孫権は到着するやすぐに孫尚香の所へ向かう。

  孫権孫権   孫尚香孫尚香

孫尚香「あら、お兄様? いつこちらに?」
孫 権「つい先程だ」
孫尚香「あら、いやですわ。
    先に遣いをよこしていただければ、
    盛大にお迎えを致しましたのに。おほほ」
孫 権「その話し方はやめい。気持ち悪いわい」
孫尚香「……何ですか、兄上。
    普段は『おしとやかにしろ』とか
    言ってくるじゃないですか」
孫 権「あれは家臣たちの手前だからだ。
    わし個人はどうでもいいと思ってる。
    婿の来てさえあればな……」
孫尚香「……また婿取りの話ですか?
    でも私はまだ、戦場を駆けていたいのです」
孫 権「そういうと思ったぞ。
    ……そこで、お前にくれてやる物がある」
孫尚香「くれる物?」
孫 権「先の戦いでは敵将との一騎討ちで敗れ、
    もう少しで捕われそうになったらしいな」
孫尚香「……はい。面目ない話ですが」
孫 権「そこで、あの馬をお前にやる」
孫尚香「……あれは!?」

孫権の指差した先には、彼女にも見覚えのある、
一頭の馬が繋がれていた。

孫尚香「五花(※1)ではありませんか!?
    兄上(孫策)の乗っていた……」

(※1 新登録Item。孫策の愛馬。
 所持していれば戦場で捕まることはない)

孫 権「うむ。わしでも乗りこなせんじゃじゃ馬だ。
    同じようなお前となら気が合うと思ってな」
孫尚香「だ、誰がじゃじゃ馬ですかっ!
    で、でも、本当にもらってもよいのですか」
孫 権「乗り手がいないのだ、気難しい馬でな。
    ……お前が乗りこなしてみせよ。よいな」
孫尚香「は、はい!」
孫 権「これで万一負けても、捕われることはあるまい。
    それと、これもお前にやろう。
    三尖刀(※2)と孫ビン兵法(※3)だ」

(※2 既存Item。元は紀霊の武器。武力+3)
(※3 既存Item。孫ビンの書いた兵法。統率+5)

孫尚香「こ、こんなにもらってもよいのですか」
孫 権「……女とはいえ、他の弟たちよりも
    お前の方が将器は大きい。
    だから、これからお前は孫家の者として
    恥ずかしくない戦いをせねばならんのだ。
    戦に生きるということは、そういうことだぞ」
孫尚香「……はいっ。その言葉、胸に刻んでおきます。
    必ずや、孫家の名を更に高める働きを見せます」
孫 権「頼んだぞ。……では、わしは徐州に参る。
    魯粛らと協力し、楚に当たれ」
孫尚香「はいっ!」

孫権は孫尚香にそれらの物を渡すと、
すぐにその場を後にした。
……だが、しばらくしてすぐに立ち止まり、
ある方向へ声を掛けた。

孫 権「劉備。いるのだろう」

    劉備劉備

劉 備「……ありゃ、気付いておられたか」
孫 権「気配丸出しでよく言う。
    ……妹を頼むぞ、よいな」
劉 備「ははっ。
    末永く幸せに致します
孫 権「そーいう意味でなくてだなぁ〜」
劉 備「わかっておりますよ。
    出来得る限り、彼女をお守りしましょう」
孫 権「頼んだからな!
    妹の顔に傷のひとつでもついてみろ。
    お前の顔に何本もの碁盤状の傷をつけて
    人間碁盤にしてやるからな!」
劉 備「はいはい、わかりましたよお兄様。
    全くもうシスコンなんだからぁ」
孫 権「き、きさま〜」
劉 備「早く行きませんと、妹君に話を聞かれますぞ」
孫 権「いいかっ! 絶対だぞ! わかったな!」
劉 備「了解しましたぞ、おにいちゃま
孫 権おにいちゃまと言うなっ!

ずんずんと足音を立てて孫権は去っていく。
それを見送りながら、劉備はそっと呟いた。

劉 備「……ふむ。
    孫家と姻戚になり、内側から乗っ取る。
    その方が手っ取り早いかもしれんな……」

    ☆☆☆

蜀炎。
蜀公饗援の治める、『男女同権』を謳う国である。

この『蜀炎』という名は、本来の『蜀』という地に
饗援の部族『炎』を加えたものである。
これは、公に任じられた時に、饗援が『蜀』という
国号にすることに難色を示したのだが、金旋が
『それじゃ蜀にある炎の国、で蜀炎でええやん』
となだめ、饗援もこれを気に入ったことで
以降はこう呼ばれるようになったものである。

饗援は公に任じられると、求賢令を発した。
これは曹操の『唯才』を求めたものと似ているが、
饗援は「性別を問わず。ただ才があれば登用する」
と布告したのだった。

これが功を奏したのだろうか、
益州の賢人・名士が次々に仕官を申し出る。
人材難を嘆かれていた軍団の将の人数は、
たちまち倍以上になったのである。

宗預(※4)・楊洪(※5)・陳祗(※6)・
孟光(※7)・呂乂(※8)・呂凱・尹黙など、
政治・知謀に長けた者たち。

(※4 新武将登録の史実武将。
 剛直で知られ孫権にも気に入られた)
(※5 新武将登録の史実武将。
 無学であったが誠実、頭脳明晰であった)
(※6 新武将登録の史実武将。
 学があり容姿も良く、劉禅に気に入られた)
(※7 新武将登録の史実武将。
 蜀の宮中儀礼の制定に尽力。剛直の士)
(※8 新武将登録の史実武将。
 綿竹の県令として蜀一の善政を行った)

柳隠(※9)・王平・張翼・張嶷・馬忠など、
統率・武勇に優れた者たち。

(※9 新武将登録の史実武将。
 姜維の幕下では武勇計略は軍随一だった)

また、孟獲・孟優・祝融といった南蛮の将や
劉倩容・鮑婉君・朱紅といった兵士から抜擢した
者を加え、その陣容は大いに強化された。

  饗援饗援   櫂貌櫂貌

饗 援「ここに来て、人材は以前とは比べものに
    ならぬほどの充実ぶりであるな。
    これも方針を新たにした効果か」
櫂 貌「それもありましょうが、求賢令にて
    行列効果が起きたのかもしれませんね」
饗 援「行列効果?」
櫂 貌「求賢令の布告で人材が入ったのを見て、
    『あれくらいの者たちが入るのなら、自分も』
    とまた登用者を呼ぶ……という連鎖効果です。
    『コミケの中堅どころのサークルに、
    何かの拍子で列が出来てしまうと
    途端に人が集まり大行列になる』
    という、あの原理です」
饗 援「……コミケとやらはよくわからんが、
    人の心理を上手く突いたということであろうか」
櫂 貌「左様です」
饗 援「人材は整った。となると、いよいよだな」
櫂 貌「はい。まずは漢中、いずれは涼州を……」
饗 援「弱きを叩いて大きくなるのが戦国の常だ。
    馬騰には悪いが、早いうちに戴くとしよう」
櫂 貌「あまり油断はされませぬように。
    涼軍の陣容も最近強化されております」
饗 援「わかっている」

饗援は次の獲物を馬騰に定めていた。
粛々と準備を進め、虎視眈々と
涼国を飲み込むことを目論んでいるのだった。

    ☆☆☆

涼公馬騰。
彼の国、涼もまた、人材が強化された。
在野の者たちを登用したこともあるが、
兵士より抜擢をしまくったことが大きかった。
都合9人の抜擢将たちが、
涼軍を支えるようになっていたのである。

また、以前からいる法正・楊阜らに加え、
成公英(※10)の登用に成功。
これで知略・政略の面でも層が厚くなった。

(※10 新武将登録の史実武将。
 韓遂の参謀役を務めた、智謀に優れる人物)

  馬騰馬騰   成公英成公英

馬 騰「ふ、ふ、ふ。この私も公となったか。
    もはや貧乏勢力などとは呼ばせはせんぞ」
成公英「しかし、現存の五勢力の中では
    一番規模が小さいのですけれども……」
馬 騰「確かに数字の上ではそうかもしれぬな。
    だが、新興勢力の食塩といったような
    しょっぱそうな奴らには負けぬぞ」
成公英「いえ、食塩ではなくて蜀炎です」
馬 騰「わかっている。
    我が軍は以前より薄味傾向だからな。
    何しろ金がなくて塩も十分に買えぬ、
    まさに貧乏だった時代が……」
成公英「ですから、塩は関係ありません」
馬 騰「バカモン、関係ないわけあるかっ!
    塩は生きていく上で必要なのだぞ!」
成公英「そういうことではなく……
    今話しているのは塩のことではなくて
    蜀炎のことですよ」
馬 騰「わしは最初からそのつもりじゃが」
成公英「……はあ。その蜀炎ですが……。
    漢中への侵攻を目論んでいるとの噂。
    如何致しましょうや?」
馬 騰「ふん、饗援の女狐め。
    こそこそと何やら準備をしとるらしいな。
    しかし、この陣容の整った我が軍を倒せると
    思ったのが運のツキよ。
    馬超や馬雲緑らを葭萌関に派遣するのだ。
    我が軍の武を思い知らせてやれ」
成公英「はっ」
馬 騰「さて……蜀炎への対策はそれでよいが、
    涼国を全土の者たちに知らしめるには、
    それだけではいかん。
    ……皆をあっと驚かせてやらねばな」
成公英「驚かす……?」
馬 騰「夷戎の言う所の『ビッグ・サプライズ』だな。
    中華全土の民が我らを注目するようなことを
    やってのけるつもりだ」
成公英「……何をやるおつもりですか?
    何か、ものすごく不安なのですが……」
馬 騰「ははは! 何を弱気になっておるか!
    なに、これはそれほど危険は伴わぬはずだ。
    国を脅かすようなことにもならぬ」
成公英「はあ……。
    閣下のそのご見識が確かであることを
    ただ祈るのみです」
馬 騰「見ておれ。
    涼公馬騰の名、一躍広めてみせようぞ」

馬騰は一体、何を企んでいるのだろうか?
その答えは、そのすぐ後に出ることになる……。

全体


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