(※このリプレイ『続・金旋伝』は金旋伝の続きです。
金旋伝を読まれてない方はそちらを先にお読みください)
建安二十三年(218年)の四月。
各地方に割拠していた群雄も次第に淘汰され、
曹操の魏、孫権の呉、馬騰の涼、饗援の蜀(炎)、
そして金旋の楚、の五つの勢力が残るのみとなった。
その中でも抜きん出ていたのが、金旋の楚である。
彼はこの十年余のうちに勢力を急速に拡大させ、
荊州一帯、許昌・洛陽といった『肥えた』都市を抑え、
軍備でも他勢力の倍以上の兵を抱えており
他に追随を許していない。
また、帝を迎えて王に任じられるなど、権威の面でも
先に進んでいた。
それに続くのが曹操の魏、孫権の呉であるが、
それなりに戦力(兵・人材)は整ってはいるものの、
楚にはかなり劣っており、両軍合わせてようやく
互角になるかどうか、というところであった。
また、魏と呉は長らく戦闘を繰り返す間柄であり、
共同して楚に当たれるほど仲が良い訳ではなかった。
残る饗援の蜀と馬騰の涼。
この二国は比較すれば前の三国ほどではないが、
それでも無視できない程度の力は備えていた。
この南北に接する二国は金旋と盟を結んでおり、
両者、互いの領を奪おうと画策している様子であった。
なお、今の所、金旋はこの両軍の争いに
関わる気はないようである。
前年まで楚と盟を結んでいた呉が突如、意趣を返して
楚国荊州に侵攻。
楚はこれを撃退したが、呉に縁を切られたことで
楚はナンバー2の魏、ナンバー3の呉との
二つの戦いを同時に強いられるようになった。
これが今後どう影響していくのか。
中華の覇権を争う戦いは、これからが本番である。
☆☆☆
さて、金旋は今、荊州は襄陽付近の漢津港(※)にいた。
呉の陸口港にいる10万の兵の抑えのためである。
(※ 本来「津」だけで港の意味となるが、
ここではゲームでの表記に従う)
漢津港、烏林港にそれぞれ9万の兵を置いたことで、
陸口の動きを封じた形になっていた。
そのため、ここ数ヶ月、この一帯での戦局は
膠着していたのだった。
そんな時期のことである……。
金 旋「食らえ、大魔王李俊! でええい!」
李 俊「ぐわあああっ! な、なぜだ! 私は神だぞ!
なぜただの人間が私を斬れる!」
金 旋「ふっ……ただの人間ではない! 英雄金旋だ!
人々の思いを刃に乗せて斬ったのだ!
神を騙る魔性の者など敵ではない!」
李 俊「な、なんだと……」
金 旋「さあ、これでとどめだ!
エビ反りハイジャンプエルボースペシャル
ゴールデンデラックスローリングサンダー
グラップラーデリシャスハイパー金旋斬り!」
李 俊「ぐぎゃああああっ!!」
金 旋「見たか、正義の刃を!」
……
…………
???「起きてくださーい、かっかー」
金 旋「むにゃ?」
鈴の鳴るような女性の声で、金旋はまどろみの中から
意識を浮上させた。
目を開けて入ってきたのは、先ほどまで見ていた
大魔王李俊の城ではなく、漢津の宿舎の風景である。
金旋
金 旋「……なんだ、夢か。大魔王を倒し、
ようやく中華に平和を取り戻したと、
そう思ったのになー」
???「はあ、大魔王ですか〜。
さっきのエビ反りハイジャンプなんちゃら斬りで
倒したのですね〜?
でも名前の中に『エルボー』が入ってたのに、
『斬り』ってどういうことですか〜?」
金 旋「ふっふっふ、それは複合技でな。
肘打ちから斬りに移行する技なのだよ」
???「なるほど〜。私も今度やってみますね〜」
金 旋「いやいや下町娘君、それは無理というものだ。
この技は英雄金旋しか使えないもので、
いわゆる『キャラ固定技』という……」
???「かっかー、名前間違えてるですよぉ。
人違いですから〜」
金 旋「は? 人違い?」
バーン
金 旋「お前誰だーーーっ!?」
女子A「きゃ、大きな声〜。
って、『誰だ』だなんて失礼ですね。ぷんぷん」
金 旋「い、いや、マジで誰ですか」
女子A「そ、そんなひどいですよぅ。
やることやっちゃったらもう他人なんですかっ」
金 旋「や、やっちゃっただとっ!?
い、いやそんな覚えは……いやまさか……」
???「どうしました!?」
先ほどの大声を聞きつけたのか、誰かが入ってきた。
女子B「何か変事でもありましたかっ!?」
金 旋「また知らん人がっ!?」
女子B「……はい? 何のことです、閣下」
女子A「ルゥお姉さま〜。かっかが酷いんです〜」
ル ゥ「あっ……ライ!
あなた、また閣下の所に忍び込んで!」
ラ イ「忍び込んでないですよぉ〜。
ちゃんとノックはしましたですよ」
ル ゥ「で、そのノックの返事はあったんでしょうね?」
ラ イ「かっかは寝てたので、返事はなかったのですよ」
ル ゥ「返事ない時は入らないのっ!
結局は忍び込んでるんじゃないの!」
金 旋「……ここはどこなんだ」
金旋は、先ほどから繰り広げられる、見た事もない
女の子二人のやりとりを見てそう呟いた。
頬をつねってみたが、夢ではないようである。
金 旋「ちょっとつかぬことを伺うが。
……今、何年何月で、この場所の名称は?」
ル ゥ「は? ええと、今は建安二十三年四月、
ここは漢津港です」
金 旋「……合ってるよなぁ。じゃ、ここは平行世界か?」
金旋は最近、奇想天外な話を綴った書を暇潰しに
読んでいたので、彼の考え方はその方面に関しては
かなり柔軟であった。
ちなみにここでいう平行世界とは、俗にいう
『パラレルワールド』である。
ほとんど同じ構成でありながら何かしら微妙に違う世界。
つまり、このライとルゥが金旋の周りにいる世界、
そこに飛ばされたのではないか、と金旋は考えた。
金 旋「俺はいないみたいだな。
こっちの俺が代わりにあっちに飛んだのかな」
ル ゥ「あのー閣下、先ほどからどうされましたか?
いつもと様子が違うように見えますけど」
金 旋「いや、気にするな。言っても分からんだろう」
ラ イ「ああっ! かっか、今バカにしましたですね!
『こいつらバカだから話聞かせてもムダだな』
とか思いましたですねっ!」
金 旋「バカにしてはいない。
しかし理解してくれんだろうとは思う」
ラ イ「むむむ。そうやって煙に巻く気ですか」
金 旋「煙に巻いてるつもりもないが……参ったな」
ル ゥ「こらライ、閣下が困ってるでしょう。
すいません、この子には後でちゃんと
言って聞かせますから」
金 旋「すまんね。……ところで。
君らのフルネームって何て言うんだっけか」
ラ イ「う〜、名前忘れるなんて酷いですよぉ〜」
ル ゥ「……まあ、いつも略称で呼ばれてますしね。
私の名は魯圓圓(ロエンエン)、
この子は雷圓圓(ライエンエン)です」
金 旋「あー。魯・雷で、ルゥ・ライか。
しかし、名が同じってのは面白いな」
魯圓圓「そうですよね。
私も名前を知った時は驚きました」
雷圓圓「名が同じ二人は一心同体なのです。
血は繋がらなくとも姉と妹なのですよ」
魯圓圓「そう思ってるのはあなただけだから……」
下町娘
下町娘「おはようございます〜。
……ってなにやってんですか?」
金 旋「お、ようやく見知った顔」
下町娘「へ? ……あ、そうそう。
魯、雷? 甘寧さんが探してたわよ。
今日の訓練のことで打ち合わせしたいとかって」
魯圓圓「あ、了解しました。ほら雷、行くわよ」
雷圓圓「うう〜。かっかのお世話していたいです〜」
魯圓圓「何言ってるの。あなたはもうメイドじゃないのよ。
ほら、さっさと行くの!」
雷圓圓「あーん、かっか〜。何か言ってやってください〜」
金 旋「ちゃんと仕事しろ」
雷圓圓「ぎゃふん」
魯圓圓・雷圓圓は、揃って出ていった。
下町娘「……全く、そろそろ将としての自覚を
持ってもいいと思うんだけどなぁ」
金 旋「あの二人、両方とも武官なのか?」
下町娘「そうですよ」
金 旋「……そうは見えんがなぁ」
下町娘「確かにそうですけどねぇ……。
って何で今更そんなことを聞くんですか?
初めて会ったわけでもあるまいし」
金 旋「いや、その……なんつーかな」
今の俺は初めて会った、などと言える訳もなく。
苦し紛れにテキトーに言葉を並べていく。
金 旋「そうだ、夢! 夢を見ていたんだ。
それで、夢と現実がごっちゃになってて、
頭の中が混乱しまくってるんだよ」
下町娘「夢ですか」
金 旋「うむ、めっちゃリアルだったのだ。
武陵時代から今までを追体験するような夢でな。
ほとんどここと同じ世界観だと思うんだが、
あの二人は全然出て来なくてな」
下町娘「なるほど。それは混乱しますよね」
金 旋「他にも設定が違うことがあるかも知れん。
そんな混乱状態では支障があるだろ?
だから、ちょっと教えてくれんか。
いろいろ確認しておきたいんだ」
下町娘「……はあ、わかりました」
金 旋「今、『歳だからしょうがないな』
って思っただろ」
下町娘「ななななに言ってるんですかっ!
そんなことないですよぉー、はははー」
金 旋「……そういうところは変わりないよな」
金旋はこうして下町娘にいろいろ確認し、
この世界の知識を覚えていった。
だが、ここが本当に平行世界なのかは定かではない。
彼が言ったように、ただ夢の中の出来事を
ごっちゃにしているだけかもしれない。歳だし。
とにかく。金旋はこの新たな世界での中華統一、
これを目標として戦っていくのだった。
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