○ 第九十一章 「桂陽老将大集合」 ○ 
218年1月

前回まで、江夏の戦況をお伝えし終えたので、
今回は桂陽の戦況をお伝えすることにしよう。

    ☆☆☆

218年、正月。
本来ならば、年が明けためでたい祝いの日。
しかし、桂陽にはそんなムードはカケラもない。

11月末に宣戦布告をした後、
柴桑からの孫権軍は桂陽へ向けて進軍中であり
また、それとは別に山越軍も向かってきていた。

桂陽

未だ敵部隊は領内に入っていないとはいえ、
桂陽の守備兵は敵の半分以下である。

そのような状況下では、新年を祝う気に
なれなくとも、仕方ないことだといえよう。

太守霍峻が援軍を集めに行っている今、
桂陽の守備は黄祖(71歳。金旋軍最高齢)に
任されているのだが……。

  黄祖黄祖   孟達孟達

黄 祖「ええい、霍峻はまだ戻らんのか!?」
孟 達「集めた援軍を連れ、こちらに
    向かっているとは聞いております」
黄 祖「それは知っておるわい。
    問題は後どれくらい掛かるのか、
    それが知りたいんじゃ」
孟 達「そう言われましても……」
黄 祖「それでは、馮習、張南もまだ戻らんか?」

霍峻・馮習・張南らは、少数でも援軍の兵を
連れてくるべく、荊南の各都市へ出ていた。
そろそろ、兵を率いて桂陽に着いてもいい頃
ではあるのだが。

孟 達「はあ、もう少しで到着するとは聞い……」
黄 祖「だから……いつ来るんじゃっ!
孟 達「……(これって八つ当たり?)」

孟達は昨年末に、金旋軍に登用された。
その後すぐに桂陽の救援に遣されたのだが、
黄祖にはあまり大事にされてはいなかった。
(もっとも、黄祖が人を大事にすること、
 それ自体が滅多にないのだが)

孟 達「(上司に恵まれなかったら、オー人事……)」
黄 祖「何をブツブツ言っとる。
    全く、馬良や劉巴などもどっか行っとるし、
    こんなでどうやって守れというんじゃ……」
馬 良「おや、私はすでにここにいますよ」
孟 達「馬良どのの声……?
    しかし、お姿が見えないが」
黄 祖「馬良め、また人間椅子かっ!?
    ……おや、違うな。どこだ?」

   馬良馬良

馬 良「ここですよ、ここ」
孟 達「おおおおっ!?
    天上にぶら下がっている!?」
馬 良「これぞ馬家秘伝、吸盤逆さ吊り……!」

<図解>
           ↓天井
 ̄ ̄ ̄  ̄|_|○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ↑馬良

黄 祖「……そんな体勢でずっとおったのか?」
馬 良「そう、お二人が来る前からいました。
    しかし、流石に手が疲れてきましたぞ」
黄 祖「だったら降りろ」
馬 良「そうさせていただきます。
    よっこいしょ、と……」

黄 祖「全く暇じゃのう」
馬 良「なんと! 私が贈るささやかな驚きを、
    『暇』の一言で片付けられますか!
    殺伐とした皆の心に、一服の清涼を与える
    私のちょっとした気遣いがっ!」
黄 祖「そんなもんいらんわい。
    もう慣れたからあんまり驚かんし」
馬 良「くっ……慣れてしまった、ですか。
    そう言われると弱りますね」
黄 祖「まあ、見慣れてない孟達には、
    かなり有効だったようだがのう。
    さっきから言葉が出てこんようじゃな」
孟 達「……はっ。い、いや、大丈夫です」
馬 良「ふむ、やはり初めての方には
    かなり強い印象を与えるようですね」
黄 祖「悪い意味でな。
    ……で、どこに行っておった?」
馬 良「おっと、驚かせるのに夢中で
    大事なことを忘れるところでした。
    吉報ですよ、将軍」
黄 祖「吉報? 何がじゃ」
馬 良「予測では、山越軍と孫権軍、
    同じ頃に来ると思われていましたが」
黄 祖「うむ。それが最大の懸念だった」
馬 良「このたび、私や劉巴どのの偽報で、
    山越軍の到来を遅らせることに
    成功致しました」
黄 祖「ほう……それはいい知らせじゃな。
    これで時間差で孫権軍、山越軍を
    叩くことができよう」
孟 達「ですが……。
    孫権軍を叩くには、将も兵も足りません。
    援軍の霍峻将軍らもまだ戻ってません」
馬 良「しかし、孫権軍は間近に迫っております。
    彼らが戻るのを待っていては、
    敵が城まで来てしまいましょう」
孟 達「しばらく籠城しては?」
馬 良「敵は井闌を用意してる模様。
    少しでも外で叩いておかねば」
孟 達「そうは言っても……。
    将も兵も足りなくては負けます」
黄 祖「うむう、将か。
    確かに兵を率いて戦える者はおらんな。
    ワシだけでは抑えられぬし……」

この城で、武官爵位を持つ者は数名のみ。
孟達も統率力はそれなりにあるが、
爵位がなくては少数の兵しか率いられず、
あまり意味がない。

三人が考え込みしばらく黙った時、
大声で部屋に入って来る者たちがいた。

『将がおらぬとは、あまりなお言葉!
 我らがおるではありませぬか!』


   髭髯龍髭髯龍  髭髯豹髭髯豹
   バァァァァンッ!!
        髭髯鳳髭髯鳳

黄 祖「おお、ヒゲ部の奴らか」
孟 達「ヒゲ部!?」
髭髯龍「我ら、将軍のためならば命も捨てる覚悟!
    我らをお忘れになられますな!」
黄 祖「おう、すまんすまん。
    すっかり失念しとったわい。
    では、ワシとおぬしらとで二部隊。
    この戦力ならばなんとか……」
馬 良「しかし、敵は孫権軍。
    計略を仕掛けてくるやも知れません。
    失礼ですが、この方々のみの部隊では、
    少々不安になるのですが……」
髭髯豹「なんだとう!?
    誰がアホたれのアンポンタンだ
    こんちくしょうめ!」
髭髯鳳「豹、誰もそこまでは言っておらぬ」
黄 祖「馬良と孟達、お主らがいるではないか。
    それぞれが補佐すればよいじゃろ?」
馬 良「孟達どのならばよろしいのですが、
    私は別な方に掛からねばなりません」
黄 祖「別な方?」
馬 良「山越軍の到着をさらに遅らせるため、
    もう一度偽報を仕掛けたいのです。
    私と劉巴、潘濬でそれを行いたいので、
    この出撃には……」
黄 祖「ふむう。それならば代わりは……。
    おお、そうじゃそうじゃ。
    あいつがいたであろう、あいつが」
馬 良「あいつ?」
黄 祖「あれじゃ、最近入ってきた、よ、よ……
    そう、ヨモギとか言ったかのう」
孟 達「それを言うなら楊儀です」

楊儀は、孟達とほぼ同時期に登用され、
同じように桂陽に遣された人物である。
もとは孟達と同じく劉璋配下であったため、
孟達とも顔なじみであった。

黄 祖「し、知っとるわそれくらい!
    わざとボケたのもわからんのかっ!
    『ヨモギ餅食べたいなぁ』とか
    ボケ返したりしてみせんかっ!
    もっと気の効いた返し方をしてみせい!
    何が『それを言うなら楊儀です』かっ!」
孟 達「ううっ……。オー人事……」
馬 良「あー、ええと、楊儀どのならば
    智謀に優れ、参謀役に向いておりますな」
黄 祖「うむ、そうじゃろ?」
髭髯龍「うむう、楊儀どのか……」
黄 祖「ん、何じゃ。何やら不満気じゃな」
髭髯龍「あ、いえ……。
    能力は申し分ないと思うのですが」
髭髯豹「俺は、どうもあいつは好かん。
    あの目は人をバカにしてる目つきだ」

   楊儀参考資料:楊儀の顔

黄 祖「まあ、少々性格に難があるとは
    聞いてはおるがのう」
髭髯鳳「いえ、それだけではなく……。
    彼には我々と友好を深めることのできぬ、
    重大な理由があるのです」
孟 達「重大な理由……それは一体?」

髭髯鳳「彼には……ヒゲがないのです!

孟 達「……は?」
髭髯豹「そう! 奴のヒゲのない顔を見るたび、
    もうどうしようもないくらいの
    ムカツキがこみ上げてくるんだ!」
髭髯龍「理不尽な感情かもしれないが、
    自分の心に嘘はつけぬのです……」
孟 達「ええっ? そ、そんなことで!?」
黄 祖「そうか、ヒゲか……。
    その感情、わからんでもないがのう」
孟 達「……こっちはこっちで理解を示してるし」
黄 祖「しかしこの戦、わだかまりを捨て
    力を合わせねば勝てんのじゃ!
    少々のことは我慢せい!」
髭髯豹「しかしなあ……。
    そう割りきれるもんでもないしな」
黄 祖「ふむ。感情とは難しいものよのう。
    ならば、お主らにこの言葉を授けよう。
    『ヒゲを整えるにはまず地肌から』

孟 達「(……なんだそりゃ)」
髭髯龍「くうっ……! なんという至言……っ!」
髭髯豹「か、感動しちまったぜ……」
髭髯鳳「流石は我らの上に立つお方……!
    くくっ、涙が止まりませぬ!」
孟 達「(ええーっ!?)」
髭髯豹「わかったぜ大将。
    俺らが間違っていた……」
髭髯龍「楊儀どのと力を合わせ、
    敵軍を打ち破りましょうぞ!」
黄 祖「うむっ! わかってくれたか!」
髭髯豹「ああ、大将にそこまで言われちゃな」
髭髯鳳「我らは貴方に従うのみです」
髭髯龍「仰せのままに……さあ、ご命令を!」
孟 達「(なんだ!? なんなんだこいつら!?)」

黄 祖「よし、では出撃するぞ!
    髭髯龍の隊とワシの隊、2万ずつ。
    この2隊で、孫権軍を叩くのじゃ!」
三 人「おおう!」
孟 達「お、おー」
黄 祖「それでは準備にかかれ!」

こうして、黄祖やヒゲ部一同はそれぞれ
準備に取りかかるため、退室していく。
しかし、孟達はその場を動けずにいた。

馬 良「ん? どうされましたか?
    早く準備しないと置いてかれますよ」
孟 達「馬良どの……。私はこの先、
    彼らと一緒にやっていく自信がない……」
馬 良「……ああ、そういうことですか。
    無理に彼らに合わせることはありませんよ。
    そのうち、自然に慣れてきますから」
孟 達「ううむ。あまり慣れたくもないが……。
    そういう馬良どのは慣れたのですか」
馬 良「ええ、最初は面食らいましたけど。
    まあ、時間が解決してくれますよ」
孟 達「ふむう」
馬 良「さてと。天井からの登場は、
    黄祖どのにはどうも印象イマイチの様子。
    インパクトを与える新しい登場方法を
    考えておかねばなりますまい……」
孟 達「(……そうだった。
    この人もまともではないんだった)」

準備を整えた黄祖らは、
2部隊、それぞれ2万を率い出撃する。
黄祖隊には、孟達・高定・鄒興・簡雍。
髭髯龍隊は、髭髯鳳・髭髯豹・楊儀が付いた。

黄 祖「……こうしてみると、
    ワシの隊はかなり見劣りするな」
馬 良「期待できるのは孟達どのくらいですね。
    しかし、誰もいないよりはマシかと」
黄 祖「そうじゃな、いないよりは……
    って、なんでワシを見ておる」
馬 良「いえ。別に深い意味は」
黄 祖「こうなると、ヒゲ部一同の武が頼りじゃな」
馬 良「ええ、勝敗の行方は彼らの働き次第……。
    ご武運をお祈り致します」
黄 祖「うむ……。行ってくるぞ」

こうして、霍峻たちの援軍が到着しないまま、
彼らは孫権軍を迎え撃つ。

いくら攻城兵器中心の部隊とはいえ、
10万もの孫権軍が相手である。
彼らは持ち堪えられるのであろうか?

    ☆☆☆

桂陽に向かう孫権軍。
その中で、孫権の隊の三人の老将は
駒を並べ、話に花を咲かせていた。

 程普程普  黄蓋黄蓋  韓当韓当

程 普「荊南か……久しぶりだな。
    孫堅さまと共に長沙にいた頃以来か」
黄 蓋「懐かしいな。あの頃は、皆若かった」
韓 当「それが今じゃこんな、
    シワや白髪だらけのジジイだからな」
程 普「なんの、まだまだ若い者には負けぬ」
韓 当「俺も負けるつもりはないぞ。
    しかし、見た目は確実に年寄りだと
    言いたかったのだ」
黄 蓋「うむ、皆も老人に対するように接しよる。
    全く失礼な話だ。今の呉軍があるのは、
    我らが懸命になって働いたからなのにな」
韓 当「孫堅四天王と呼ばれていた頃が懐かしい。
    あの頃は、名乗っただけで相手が
    ビビったものだった」
程 普「あの頃は良かったのう。
    できるならあの頃に戻りたいものだ」
黄 蓋「いやはや、全く」

程普(68歳)、黄蓋(65歳)、韓当(63歳)の
その会話を聞いて、周泰は辟易としていた。

   周泰周泰

周 泰「……(あういう会話をしてるところが、
    すでに年寄りなんだがなあ)」

   孫権孫権

孫 権「どうした周泰。
    呆れたような顔をしてるぞ」
周 泰「こ、これはご主君。
    べ、別に何でもありませんよ」
孫 権「周泰、お前も来年には五十路だろう。
    そろそろ老将の域に入って来るぞ」
周 泰「は、はあ……ですが、
    私はまだまだ衰えておりません」
孫 権「そうだな。しかしあの三人とて、
    武はまだまだ若い者にも負けてはおらぬ」
周 泰「はっ、その点は見習いたいものです」
孫 権「その武、桂陽城を落とすために発揮して
    もらわねばならん。気合を入れておけよ」
周 泰「はっ……。
    しかし、我が軍は攻城兵器ばかりですが、
    敵は出撃してくる可能性はないのでしょうか」
孫 権「それなら心配いらん。
    敵軍は6万程度、一方こちらは10万。
    山越軍も奴らを攻撃するとなれば、
    出撃しようなどと考えもせんだろう」
周 泰「そうはおっしゃいますが、
    山越軍は味方というわけではありますまい」
孫 権「敵の敵は味方というではないか。
    せいぜい利用すればよい」
周 泰「しかし……傷が疼くのです。
    我が身についている48の傷が、
    何かが起こると知らせているのです」
孫 権「傷が知らせる……?
    お前、ちょっと電波入ってるぞ。
    それになんか傷の数が増えておらぬか?」

周泰はもともと江賊だったが、孫策に降り、
孫権と共に曲阿を守っていた。
しかし、防備の薄い所を賊に襲われてしまう。
そんな中、彼は身を挺して孫権を守り通したが、
大小12の傷を負う大怪我をしてしまった。

まさに、彼の忠節を表わしている傷である。

周 泰「実は、あれからいろいろと増えまして。
    犬に噛まれた傷とか、転んでできた傷、
    髭剃りで失敗してついた傷とか……」
孫 権「忠義の傷が台無しだなオイ」
周 泰「まあ、中でも一番多いのが、
    嫁と喧嘩した時の傷なんですが」
孫 権「そんなこと言わんでいい。
    泣きたくなってくるわい」
周 泰「とにかく、何か嫌な予感がするのです」
孫 権「しかし、この状況で何か起きるとは
    考えにくいが……」

その時、ばたばたと伝令が駆け込んで来る。

伝 令「魯粛隊より急報です!
    黄祖・髭髯龍隊、総勢4万が出現!
    加勢を願いたいとのこと!」

孫 権「ほう、迎撃の部隊を出してきたか。
    しかし4万程度とはな……。
    大方、残りの2万で山越を抑え、
    この4万で我が軍を止める気だろうがな」
周 泰「しかし、我が軍の隊は野戦向きではなく、
    かなりてこずると思われますが」
孫 権「なに、敵部隊を倒す必要はない。
    突破し、城を落とすだけで良いのだ」
周 泰「しかし、相手は黄祖。
    我が軍の荊州侵攻を、何度も何度も
    阻んできた老将ですぞ」

黄祖は、もともと劉表の将である。
彼は荊州の玄関口である江夏の太守として、
孫策や孫権の侵攻を何度も受けてきた。

局地戦では勢いのある孫軍に負け続けたが、
それでも彼は何度も反攻し、結果的に
江夏の地を渡すことはなかったのである。

孫 権「そうか、黄祖か……。
    つくづく奴とは縁があるものだな。
    父が殺されたのも、奴の兵にであった」
周 泰「決して戦上手ではありませんが、
    いつもただでは転ばぬ男です」
孫 権「ふ、だがその悪運も今日で終わりだ。
    ここは奴の良く知る江夏でもなければ、
    兵も我が軍より多いわけでもない」
周 泰「確かに、そうですが……」
孫 権「はっはっは、心配症だのう周泰も。
    齢70過ぎの老いぼれに何ができよう!」
周 泰「ご、ご主君……!
    そ、そのようなことを大声で……」
孫 権「ははは、何を言っているのだ。
    老いぼれた者を老いぼれと言って
    何が悪いというのか!」

 程普  黄蓋  韓当

程 普「別に悪くはありませんが」
黄 蓋「しかし癪に障るのはなぜでしょうな」
韓 当「我らも老いぼれてるからかのう」
孫 権「なっ……お、お前たちっ!?
    いつの間にっ!?」
周 泰「だから止めましたのに……」
孫 権「い、いや、なにか誤解しておらぬか!?
    さっき老いぼれと言った相手はだな、
    敵の黄祖のことだぞ!」
程 普「分かっております。
    しかしながら、彼が老いぼれならば
    3歳しか違わぬ私もやはり……」
黄 蓋「そうなると、その3つ下の私も当然……」
韓 当「その2つ下のわしも、老いぼれ、と」
孫 権「か、勘弁せい……。そんなことより、
    敵部隊への攻撃用意をせぬか!」
程 普「はあ。ではそう致します」
黄 蓋「ここは誤魔化されておきますか」
韓 当「今日はこれくらいにしといたらぁ〜」

持ち場に戻っていく老将3人。

孫 権「くそう……不覚をとったわ。
    それというのも、黄祖が元凶だ!
    奴が歳を食ってるのが悪いのだっ!」
周 泰「はあ、八つ当たりですか」
孫 権「こうなればこの戦いで黄祖を捕らえ、
    奴の首を刎ねてくれよう!」

孫権は怒りの矛先を敵軍に向け、
打倒黄祖の決意を新たにしたのだった。

    ☆☆☆

一方、先を行く魯粛隊。
こちらは、すぐにも黄祖・髭髯龍隊と
戦火を交える所まで来ていた。

  魯粛魯粛   朱然朱然

呉 兵「敵部隊、視界に入りました!」
魯 粛「敵は野戦用の陣を布いているようだな。
    だが、4万程度で我ら10万の軍を倒す気か?
    だとしたら、実に甘い考えだな」
朱 然「魯粛どの、攻撃命令を」
魯 粛「うむ。しかし無駄な戦闘は避けよ。
    我々の目的は桂陽を落とすことである」
朱 然「はっ」

一方、黄祖も魯粛隊を視界に捉えていた。

  黄祖黄祖   孟達孟達

黄 祖「おお、来おった来おった。
    まだ魯粛の隊しかおらんな……。
    後続が来る前に、一気に叩くぞ」
孟 達「黄祖将軍……。
    果たして、我らだけで孫権軍を
    止めることができますでしょうか?」
黄 祖「なんじゃなんじゃ。
    敵を前にして臆病風に吹かれたか?
    戦う前からそんなではいかんぞ」
孟 達「いえ、そういうわけでは。
    冷静に分析した上での判断です」
黄 祖「ふむう……確かにな。
    冷静に見れば厳しいかもしれん。
    あちらの大将は孫権、周瑜、魯粛。
    皆、大物揃いだ」
孟 達「はっ。それに比べてこちらは……」
黄 祖誰が小物かあっ!
孟 達「ま、まだ何も言っておりません!」
黄 祖「……ま、将器では負けるじゃろうな。
    それは自覚しておるわい。
    ……フッ、しかしワシは負けぬ」
孟 達「そ、その自信はどこから……?」
黄 祖「フワハハハハ!!
    髭の神の加護を受けしワシが、
    この程度の苦境で負けようか!」
孟 達「(ま、また訳のわからんことを!)」

黄 祖「まあ見ておれ、この黄祖の戦いぶりを。
    髭の神に勝利を捧げてみせようぞ!」

桂陽の北の地、いよいよ両軍がぶつかる。
勝利の行方はどちらに……?

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