○ 第八十八章 「弱誘挟殺の計」 ○ 
217年12月

夏侯淵が洛陽を攻撃し始めてから、幾日も過ぎた。

   夏侯淵夏侯淵

夏侯淵「……なかなかしぶといな。
    だが、必ず洛陽は落とすぞ」

   夏侯惇夏侯惇

夏侯惇「おお、淵。ここにいたか」
夏侯淵「む、どうした惇兄」
夏侯惇「いや、孟徳から知らせが来てな」
夏侯淵「むっ……何か変事でも!?」
夏侯惇「『次の社員旅行はどこがいい?』だそうだ」
夏侯淵「……は? 今なんと?」
夏侯惇『次の社員旅行はどこがいい?』
    ……と言ったのだ。
    どこに行きたいか希望を聞いてるんだろう」
夏侯淵「こ、この大事な時に社員旅行だと〜!?」
夏侯惇「淵!」
夏侯淵「な、なにか」
夏侯惇「大事な時だからこそ、張り詰めた皆の気を
    和らげるため、旅行を企画しているのだぞ。
    そこをわきまえよ」
夏侯淵「……はいはい、わかりましたよ」
夏侯惇「うむ。わかればいいのだ。
    で、次回の旅行の行き先の希望だが……」
夏侯淵「前回は確か、張遼が『馬とたわむれたい』
    と言って涼州牧場ツアーになったんだったな」
夏侯惇「ありゃ失敗だったな。
    張飛が馬を盗んだり、馬超が乱入してきたりと
    大混乱だったからな」
夏侯淵「うむ、思い出したくない出来事だった。
    まあ、張飛はどこに連れていっても
    何かしら問題を起こしそうだが……」
夏侯惇「その前の寿春への旅行では、
    荀域どのが『弁当の中身がない!』
    と言って泣いていたのが印象深いな」
夏侯淵「あの弁当中身詰め忘れ事件か……。
    あれは実に気の毒だった」
夏侯惇「そのしばらく後に彼が亡くなったのも、
    それが原因だった……と言われるくらいに
    嘆き悲しんでいたからなあ」
夏侯淵「惜しい人物を亡くしたものだ……」
夏侯惇「そういえば、その前に行った遼東旅行の後に
    郭嘉が病に倒れて逝ってしまったな。
    我が軍は旅行に何か因縁があるのか?」
夏侯淵「今年は誰も病では死んでいないだろう」
夏侯惇「ふむ、そうだな……。偶然か。
    で、お前はどこに行きたい?」
夏侯淵「南蛮に象見学に行ってみたいが……」
夏侯惇「……お前も見かけによらず動物好きだな。
    とりあえずそう返事をしておくぞ」
夏侯淵「……もうひとつ、閣下にお伝えあれ」
夏侯惇「ん? なんだ?」

夏侯淵戦闘中にんなこと聞いてくるな!

ちなみに集計の結果、次回の旅行は
『青島うまいものツアー』に決定したという。

    ☆☆☆

今日もまた、夏侯淵隊、田豫隊は洛陽に攻め寄せ、
攻撃を続ける。

   夏侯惇夏侯惇

夏侯惇「弩隊! 一斉に放てい!」

夏侯淵隊は、夏侯惇による弩の斉射を行い、
洛陽の守備兵を次々に討ち倒していく。

  夏侯淵夏侯淵  司馬懿司馬懿

夏侯淵「どうだ司馬懿! まだ城は明け渡さぬか!」
司馬懿「ふふふ、何を世迷言を」
夏侯淵「我が軍の武、まだまだ味わい足らぬか!
    ならば、私が本気を出すしかないようだな!」
司馬懿「貴方がいくら本気を出したところで、
    この城は落ちませんよ」
夏侯淵「なんだと?」
司馬懿「以前に言ったはずです。
    軍略とは冷静に粛々と進めるもの。
    貴方のそれは匹夫の勇というものです」
夏侯淵「ひ、匹夫の勇だと!? この小娘めが!
    百戦錬磨のこの夏侯淵に向かって!」
司馬懿「確かに、幾多の戦いで積んだ経験は尊い。
    ですがそれに頼り切り、経験外のことを全く
    考慮しなくなった時、それは慢心となり、
    敗北の原因となるのです」
夏侯淵「私は慢心などしておらぬ!
    現にこの戦、十分有利に進めておるわっ!」
司馬懿「途中での戦況など、意味を為しません。
    ……あれを見なさい、夏侯淵!」
夏侯淵「むっ!?」

司馬懿の指差した城の南方。
その小高い丘に、軍勢が並んでいた。
その数、ざっと2万。

  韓遂韓遂   文聘文聘

韓 遂「待たせたな! 韓文約参上じゃ!」
文 聘「許昌・宛の兵、合わせて2万。
    洛陽の危機を救うべく到着致した!」

夏侯淵「な、なんと……!? 馬鹿な、許も宛も、
    援軍を送れるほどの兵はおらぬはず!」
司馬懿「ふふふ、その判断こそが、
    自らの経験に奢りきっている証拠ですよ。
    宛・許を守っていた全ての兵を集めれば、
    2万程度の数は揃うのです」

孟津

夏侯淵「なっ、なんだと? 城を空にして、
    全ての兵を送ったというのか!?」
司馬懿「まだいますよ。今度はあちらに」
夏侯淵「なんだと!?」

   満寵満寵

満 寵「満寵、虎牢関の兵を引き連れ、推参!」

東の方角から現れたのは、虎牢関よりの部隊。
満寵が引き連れた、1万5千の兵である。

孟津

夏侯淵「げえっ!? 虎牢関の兵までも!?
    虎牢関の兵は2万しかいないはずだ!
    ここまでの兵を出せるはずが……!?」
司馬懿「虎牢関の守りを一時薄くしたからとて、
    それを狙い敵軍が迫るには時間差がある。
    その押し寄せてくる前にこちらの片を付け、
    兵を戻せばいいだけのこと」
夏侯淵「そのようなもの、机上の空論だ!」
司馬懿「空論かどうかはいずれ分かりますよ」
夏侯淵「ぐっ……ここまでの援軍を用意するとは」
司馬懿「貴方は、許・宛からの援軍はほとんどなく、
    虎牢関の兵も動かさないと判断した。
    だからこの時点での攻撃を決めたのでしょう」
夏侯淵「ぐう……」
司馬懿「今までの経験からそう導いたのでしょうが、
    しかし、我らはその判断の上を行ったのです」
夏侯淵「くっ、まだだ! まだ負けたわけではない!
    孟津には回復を待つ負傷兵がいるのだ!
    一時退却してそれを動員すれば、
    この数を相手にしても十分戦える!」

司馬懿「孟津に帰れるならば、そうすればよろしい」
夏侯淵「なにっ!?」

伝 令「しょ、将軍! 急報です!」
夏侯淵「なんだっ!」
伝 令「孟津港が、孟津港が楽進隊の攻撃を受け、
    陥落いたしましたっ!」
夏侯淵「ば、馬鹿な!?
    守る大将は張哈なのだぞ!?
    ど、どこにそんな戦力が……」
司馬懿「貴方はまず最初に、
    弘農城塞の守りに必要な兵数を考え、
    全体の兵数からそれを引いた数が、
    実際に攻撃に動員できる数だと考えた。
    だから、孟津が落ちるまで時間がかかる、
    その間に戻ればいいと判断した……」
夏侯淵「貴様……まさか、弘農もっ!?」
司馬懿「その通りですよ。
    城塞全ての兵を動員し、攻撃させました。
    楽進将軍率いる3万の井闌隊。
    攻城兵器を活用すれば、張哈とて……」

孟津

夏侯淵「ぐぬぬ……。
    いかに張哈が大将であったとしても、
    相手がそれでは、防げるものではない……」
司馬懿「ふふふ、どうですか。これでもなお、
    年季の違いとやらを見せてくださりますか?」
夏侯淵「……ふ、ふはははははは!
    洛陽を落とすことは叶わぬ、
    孟津に戻ることも叶わぬか……。
    ……だが! まだ全ては決していない!」
司馬懿「む……? 何を今更。
    勝敗はほぼ決しているではありませんか」
夏侯淵「いいや、まだだ。
    お主らの勝ち、『大勝』か『辛勝』か、
    これはまだ決してはいない!」
司馬懿「……なんと」
夏侯淵「全軍、一兵でも多く倒せ!
    少しでも奴らに損害を与えてやるのだ!」
司馬懿「くっ、往生際が悪い。
    韓遂どの! 夏侯淵隊へ攻撃を!
    満寵どのは洛陽へ入り城の守備を!」
韓 遂「おうさ!」
満 寵「心得た!」
司馬懿「郭淮! 于禁! 李典! 出陣します!
    夏侯淵隊、田豫隊を殲滅しますよ!」


 郭淮  于禁  李典

郭 淮「は、はっ!」
于 禁「任せておけい!」
李 典「承知した!」
司馬懿「さあ! 彼らを叩き伏せ、
    この計を完成させるのです!」

戦いは激戦となった。
部隊の兵数は、曹操軍側4万強、金旋軍側6万と、
それほど大きな差はない。

于 禁「突進せよ! 敵を押し潰せ!」
郭 淮「我らも遅れを取るな! 突進!」

だが、一方はすでに帰る場所がなくなり、
構成も城攻め用に編成された夏侯淵隊・田豫隊。
もう一方は、洛陽城の援護も得られ、
野戦に特化した陣形を採った司馬懿隊・韓遂隊。

  夏侯惇夏侯惇  李通李通

夏侯惇「むむっ……だれぞ一騎討ちを受けぬか!
    我は夏侯惇ぞ!」
李通娘「夏侯惇どの! もはや形勢の決まった戦、
    誰も一騎討ちなど受けませぬ!」

戦局を逆転できるような一騎討ちもなく、
夏侯淵隊、田豫隊ともに討ち減らされ、
どちらの隊も壊滅した。

司馬懿「お前たちの軍師に伝えなさい!
    貴方の弄する策など、この
    司馬懿には全てお見通しだと!
    はは、はははははっ!」

夏侯淵らの将たちは行方をくらませ逃げたが、
この戦いで金旋軍が獲得した負傷兵は
かなりの数に上った。

金旋軍は孟津港を奪い返したばかりか、
攻撃してきた全ての敵部隊を打ち破ったのだ。
これはかなりの大戦果といえよう。

    ☆☆☆

各部隊は洛陽に戻り、戦果報告を行っていた。

  司馬懿司馬懿  郭淮郭淮

司馬懿「全て、我が計のうちだったのです。
    弱いと見せて敵を誘き寄せ、退路を断った後、
    その軍を打ち破る『弱誘侠殺の計』です。
    どうです、何かおっしゃりたいことは?」
郭 淮「……お見事でありました。
    しかし、いつの間に援軍の手はずを?」
司馬懿「洛陽に急変あれば、許に残った韓遂どの、
    宛の文聘どのが援軍として掛けつける……。
    閣下の南征が決まった時点で、すでに
    それらのことは決められていたのです」

   韓遂韓遂

韓 遂「そういうことだ。まあ、わしとしては、
    耐えきれず司馬懿が泣きついてくるのを
    待っていたかったのだがのう」
司馬懿「私は、泣きつきなどしませんよ?」
韓 遂「つれない言葉だのう、司馬懿」
司馬懿「いえいえ。感謝はしていますよ、韓遂将軍」
韓 遂「ほう。では、今夜はゆっくり、たっぷりと、
    その感謝を身体であらわして……」

   文聘文聘

司馬懿「文聘どのもありがとうございます」
文 聘「いや、軍略とはこういうもの。
    別段、感謝されることでもない」
司馬懿「満寵どのもお疲れ様でした」

   満寵満寵

満 寵「なに、気にされることはない。
    この戦い、洛陽はもとより、虎牢関や弘農、
    許・宛の援軍など全ての軍の勝利であろう」
司馬懿「申し訳ありませんが、このあとすぐに
    虎牢関に戻っていただきますが……」
満 寵「うむ、祝杯をあげる暇のないのが残念だ。
    虎牢関が攻められ危なくなった時は、
    よろしく頼みますぞ」
司馬懿「はい、ご安心を」

韓 遂「くぉらぁー! 無視するでないわあ!」
司馬懿「あ、韓遂どのもお疲れ様でした。
    許昌にお戻りくださって結構ですよ」
韓 遂「な、もう帰れと!?」
司馬懿「元々、韓遂将軍は許昌を任されたのでしょう。
    ならば、帰っていただかないと……」
韓 遂「いや。ここに残るぞ」
司馬懿「え?」
韓 遂「許昌なら閻柔に任せてある。陳矯もおるし、
    わしがおらんでもどうにかなる」
司馬懿「そんなことを言われても……」
文 聘「いや、韓遂どのはここに残るべきと思います」
司馬懿「文聘どの?」
文 聘「今回、孟津を上手く落とし勝ちを得ましたが、
    もし守りが堅ければ戦いは長引きました。
    その時、韓遂どのの飛射があれば、
    かなり有利な戦いができるはず」
司馬懿「ふむ、確かに……。
    ここには野戦の得意な将は揃ってますが、
    城や施設を攻める将は少ないですね」
郭 淮「役に立たずに申し訳ない」
司馬懿「少ない、と言っただけですよ。
    ……そうですね、いてもらった方が
    何かと心強いかもしれません」
韓 遂「ひゃっほう! なんでも頼りにしてくれい!
    戦や政治、なんなら夜の寂しい時とか……」

司馬懿「文聘どのも、残っていただきたい」
文 聘「……私ですか?」
司馬懿「港を攻撃された時から思っていたのですが、
    ここにいる将はみな、水軍が使えない」
郭 淮「于禁どのは使えますが?」
司馬懿「そうですね、しかし他にはいません。
    そこで、文聘どのにも孟津港に入ってもらい、
    敵の艦隊を迎撃していただきたいのです」
文 聘「そういうことであれば、喜んで。
    宛は卞志・夏侯徳に任せれば大丈夫でしょう」

韓 遂ええい、無視するなっちゅーに!
郭 淮「韓遂将軍、相手にされてないだけです」

こうして、洛陽周辺の守備は改められた。

洛陽に司馬懿、郭淮、韓遂ら。
孟津に于禁、文聘、李典などが入った。
弘農の楽進、虎牢関の満寵は引き続いて
それぞれの施設を守る。

    ☆☆☆

……さて、曹操軍の将はほとんどが逃げ遂せたが、
ただひとり、荀攸だけは捕らえられた。
彼は洛陽に送られ、捕虜検分が行われる。

荀 攸「……ふふ、私も老いたものだ。
    この程度の策を見抜けなかったとはな」
司馬懿「そのようですね。
    貴方がこの戦に参加していると聞き、
    多少の変更は必要になるかと思ってましたが」
荀 攸「郭嘉が存命であれば……いや、
    諸葛亮が自ら指揮を取っていれば……」
司馬懿「今更、そのようなことを言っていても
    どうにもなりませんよ。それより、
    これからのことを考えた方がよろしいかと」
荀 攸「これから?」
司馬懿「要は、我らの味方になっていただけぬか、
    ということなのですが。
    皇帝陛下は我ら、金旋軍の保護下にあります。
    貴方に漢への忠がお有りならば、
    是非とも我らの下に来られませ」
荀 攸「いや。お断りいたそう」
司馬懿「……金旋も貴方であれば優遇しましょうに」
荀 攸「それはありがたい話だ。だが無理だな。
    もう少し若ければ考えただろうが……」
司馬懿「そうですか……残念です。
    では、しばらく捕虜として留まってください。
    また後ほど、お気持ちをお聞かせ願いたい」
荀 攸「ふ、無駄なことだ」
司馬懿「……誰か、荀攸どのを案内せよ」

兵が荀攸の側に歩み寄り、立ち上がらせる。

荀 攸「司馬懿よ、さらばだ」
司馬懿「……お連れせよ」
 兵 「はっ」

荀攸は兵に連れられ、牢へ入れられた。
だが、彼の牢生活もすぐに終わる。

荀攸は翌年の1月、急逝した。
病を患っており、すでに
余命いくばくもない状態だったのだ。

司馬懿「自分の死期を悟っていた……。
    だから登用にも応じず泰然としていたか。
    惜しい方を亡くしたものです」

荀攸の遺骸は、曹操の下に送られた。
曹操は、すでに亡くなっていた荀域の墓の
その側に彼を葬り、盛大な葬儀を行ったという。

   曹操曹操

曹 操「荀攸よ……お前も私より先に逝くのか」

郭嘉、荀域、荀攸……。
曹操を支えた軍師たちはこの世を去った。
それは世代交代の波を感じさせるとともに、
曹操軍の衰退を表していたともいえる。

   ☆☆☆

さて、洛陽での戦いが決着したので、
少々時間を戻し、荊州における
金旋・孫権の攻防を語ることにしよう。

時は11月下旬。
孫権は金旋へ宣戦布告を通達すると同時に、
荊州へ向け進軍を開始させた。

   孫権孫権    庖統庖統

孫 権「江夏への部隊は動いておるか」
庖 統「廬江から先発隊が出撃したようです。
    太守の孫尚香どのと補佐する劉備どのが
    上手くやっておるようですな」
孫 権「……うーむ」
庖 統「どうされましたかな、ご主君」
孫 権「いや、妹の身が心配でな……」
庖 統「ははは、ご心配は無用かと。
    孫尚香どのは武芸も達者、ひとかどの将です。
    敵に遅れを取るような真似はしますまい」
孫 権「いや、そっちの心配でなくてな……。
    まあよい、こちらも軍を動かすぞ」
庖 統「はっ。桂陽への部隊ですな。
    ……実は、少々面白いことになってますぞ」
孫 権「面白いこと?」
庖 統「実は、山越軍が桂陽に向かい軍を発した、
    との報がございます」
孫 権「ほう……確かに面白い。
    散々我らの邪魔をしてくれた山越軍が、
    我らの助けをしているようなものだからな」
庖 統「ここは彼らを利用した戦略をもって、
    桂陽を攻めるべきでしょう」
孫 権「具体的には?」
庖 統「先に彼らの部隊を城へ辿りつかせて戦わせ、
    城兵を疲弊させるのです。
    我が軍は攻城部隊をゆるゆると進め、
    山越軍が去る頃に城攻めを致せば……」
孫 権「ふむ……他人の手も借りて敵を減らすか。
    面白い、そのように致そう。
    よし、出陣の用意を!」
庖 統「む、ご主君も出陣を?」
孫 権「この戦、わしもただ見ている訳にはいかん。
    周瑜、魯粛の部隊とともに、わしも出るぞ」
庖 統「承知いたしました。ご武運を」
孫 権「うむ」

柴桑より、孫権隊・周瑜隊・魯粛隊が出撃。
全て井闌で構成された隊のため、桂陽への到着は
年明けになりそうであった。

先頭を進むのは魯粛の隊、2万。
副将は、孫桓・朱然・陸凱・王惇といった
若手将校たちが先陣を切る。

次を行くは孫権の隊、4万5千。
副将は、韓当・程普・黄蓋・周泰といった
古参の将たちが脇を固めた。

そして、その後ろを周瑜の隊、3万5千。
副将は徐盛・閑沢(かんたく)(※注1)・顧雍といった
中堅クラスの者で構成されている。

(注1 当て字。表記不可文字 変換表を参照

総勢10万の大部隊は、桂陽へ向け行軍を続けた。

対する桂陽は、太守黄祖を中心に兵6万。
ここに、前述の孫権軍10万の他、
山越軍4万も向かってきていた。

桂陽

霍峻が増援を集めているとはいえ、
相手は倍以上の兵力である。
彼らは桂陽を守りきれるのだろうか。

    ☆☆☆

同じ頃、揚州は廬江。
太守孫尚香の指示のもと、
こちらは江夏へ向け軍を発していた。

  孫尚香孫尚香  劉備劉備

孫尚香「董襲の隊は出撃したな」
劉 備「は、滞りなく出たようで」
孫尚香「では、他の隊にも出撃準備を。
    我が隊も定刻通りに出るぞ」
劉 備「了解いたした」
孫尚香「では、私も鎧に着替えるので……」
劉 備承知!

 はしっ

孫尚香「……なんで私の服に手を掛けている?」
劉 備「いや、着替えをお手伝い致すためですが?」
孫尚香「結構! お主の手を借りるまでもない!」
劉 備「別に私は気にしませんぞ」
孫尚香わ、私が気にするのだ!
    いくら男勝りと言われていても、
    私にも少しくらいの恥じらいはある!」
劉 備「左様ですか……。では外でお待ちしましょう」
孫尚香「覗くでないぞ」
劉 備「な、なんと!? 私を信用できないとでも
    おっしゃるおつもりですか!」
孫尚香「うむ、全く出来ぬな。
    お主は一足先に部隊のところへ参れ」
劉 備「むむむ……。
    ではどうやって着替えを拝見しろと!?」
孫尚香「やはり覗くつもりではないか!
    とっとと出ていけ!」

 どかっ

劉 備「ああっ、怒った顔も素敵だ!」

廬江からは、まず先発に董襲の部隊、2万。
副将は太史慈・全綜・賈華・公孫康。
これが先行して江夏に向かって出撃した。

後続には、孫尚香の本隊2万のほか、
1万程度の小規模部隊が複数、出撃した。

燈芝、諸葛瑾、諸葛恪、沙摩柯、虞翻が
それぞれ部隊を率いる。

これで、総勢9万の部隊……。
これらが全て、江夏へ向けて進軍を始めた。

対する江夏は、太守卞柔、派遣された魏延らが
総勢6万の兵(江夏城は4万)で迎え撃つ。
増援の兵とともに派遣された燈艾は、
未だ行軍中であり、江夏に到達してはいなかった。

桂陽

江夏は荊州の玄関口。重要な拠点である。
これを孫権軍が奪うのか、金旋軍が守り切るのか。
全く目の離せない状況となっていた。

劉 備「むふふ、では参りましょうか!」
孫尚香「な、なんでお主がすぐ隣りを行くのだ!?
    もっと離れぬか! しっしっ」
劉 備「ああ〜っ、つれないところもいいっ」

この二人も別な意味で、
かなり目の離せない状況となっていた。

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