○ 第八十七章 「洛陽防衛戦 〜司馬懿VS夏侯淵〜」 ○ 
217年11月

孟津

前回からすこしばかり時間は遡り、
夏侯淵らが到着した頃の孟津港。
新たに派遣された諸将が到着して早々に、
皆を集めて軍議が開かれた。

  黄月英黄月英  李通李通

黄月英「到着してすぐに軍議を開くとは。
    一体、何のことについてでしょう」
李通娘「今後の方針などでしょうか」

他に夏侯惇、曹休なども集まり、
最後に大将である夏侯淵が着席。

そして軍議は始まった。

   夏侯淵夏侯淵

夏侯淵「では、早速軍議を始めよう。
    議題は、この後の洛陽攻撃についてだ。
    攻撃すること自体はすでに決定しているが、
    部隊の陣容などについて皆の意見を聞こう」
黄月英「えっ……ちょ、ちょっと!」
夏侯淵「……黄月英か。なにか?」
黄月英「あっ……、いえ、その。
    李通どのが何かご意見がある様子です」
李通娘「え、ええっ?」

チクリ

月英はすばやく懐から小針を取り出し、
すぐさま、それを李通の腕に刺す。
すると李通はすうっと意識を失い、
そのまま椅子の背もたれに背中を預けた。

針に仕込まれた眠り薬の効果である。

夏侯淵「うん? 何か意見があるのか、李通よ」
李通娘「ハ、ハイ」

李通の声色を使って、黄月英は進言した。

李通娘「洛陽を落とすためには、
    まだ戦力が十分に整っておりません。
    現在、大量にいる負傷兵の回復を
    待ってからにすべきと存じます」
夏侯淵「すでに出撃は決定済だと申したはずだが。
    ……まあよい。戦には、『機』というものがある。
    先の関羽の勝利。この勢いをそのままに、
    洛陽を攻め落とすのだ」
李通娘「しかし、ここの戦力は……」
夏侯淵「負傷兵の回復を待っている間、
    洛陽が守りを強化するかもしれん。
    仕掛けるならば今しかないのだ。
    負傷兵は回復次第、出撃させればよい」
李通娘「しかしながら、今仕掛けては、
    港の守りが危うくなりませぬか」
夏侯淵「我らが洛陽を攻撃すれば、後はすんなり港を
    攻撃できるのは、楽進のいる弘農城塞のみ。
    しかし、そことて兵はそれほどおらん。
    攻撃部隊を出しても2万にも満たないだろう。
    その程度ならば、そうそう簡単に落ちはせん。
    その前に攻撃部隊が戻ればよいのだ」
李通娘「……そう思惑通りに戦が進むでしょうか」
夏侯淵「いつになく心配症だな、李通。
    私の見識が間違っておるとでも言いたいのか」
李通娘「い、いえ。そのようなことは」
夏侯淵「ならばよかろう。
    もう決まったことだ、これ以上の意見は無用」
李通娘「……ははっ」

その李通(voice黄月英)の進言は、
とうとう夏侯淵に届くことはなかった。

黄月英「(……夏侯淵どのは関羽どのの勝ちを見て、
    自分も早く手柄を立てねばならぬ、と
    焦っているのでは……。
    これは少しばかり、危ういかもしれない。
    しかし、李通どのからの進言でも却下された。
    私にはもう、止める術がない)」

夏侯淵「それにしても……。
    李通、少し姿勢が悪くないか。
    シャンとせい、シャンと」
李通娘「あっ……も、申し訳ありませぬ。
    今朝から少々腰が痛みまして、
    こういう座り方しかできぬのです」
夏侯淵「む、腰か……大事に致せよ。
    武人にとっても、女子にとっても腰は大事だ」
李通娘「はっ。しかし今日だけだと思いますので、
    ご心配は無用にございます」
夏侯淵「そうか。
    では、攻撃部隊の陣容だが……」

この後、部隊構成について意見が交わされた。
しかし、夏侯淵はすでに案を固めているようで、
諸将の意見に頷くことはほとんどなかった。

夏侯淵「……では、陣容を次のようにする。
    私を大将にして、兵は3万連れてゆく。
    副将は夏侯惇、曹休、李通。以上で構成する。
    この港の守りは張哈に任せる」

   張哈張哈

張 哈「本音を言わせていただくと、
    自分も攻撃に加わりたいのですが……」
夏侯淵「流石に、この港の守りをおろそかに
    するわけにもいかんだろう。
    お前を頼りにするからこそ、残すのだ。
    すまんが、ここは我慢してくれぬか」
張 哈「はっ。そこまでおっしゃるのなら。
    ここに残り、守りを固めます」
夏侯淵「すでに田豫隊も近くまで来ている。
    我らも出陣して彼らと連携し、
    憎き金旋軍の手から洛陽を奪い返すのだ!」

諸 将「おおーっ!」

夏侯淵「では、解散! 準備に取りかかれ!」

   夏侯惇夏侯惇

夏侯惇「ふっふっふ、腕が鳴るな!」
曹 休「奴らに目に物見せてやりましょう!」

諸将が席を立ち、外へ飛び出していく中、
黄月英は席に座ったまま動けなかった。

黄月英「(……あなた、申し訳ございません)」

彼女は心の中でそう詫びた後、ようやく席を立ち、
気落ちした様子でその場を後にした。

李通娘「う、うーん……あ、あれ?
    軍議は……? 皆は一体どこに?」

黄月英が懸念する中、夏侯淵隊3万は孟津を出撃。
田豫隊2万と合流し、すぐ近くの洛陽を目指す。

    ☆☆☆

孟津より夏侯淵の部隊が出撃。
この報が届いた洛陽では、司馬懿と郭淮とが
方策について検討をしていた。

  司馬懿司馬懿   郭淮郭淮

郭 淮「……敵は夏侯淵隊、田豫隊合わせて5万。
    関羽ほどの凄さではないが、
    それでも名将の誉れ高い夏侯淵が相手だ。
    司馬懿どの、ここは下手に動かず、
    城に篭って守りきるしかありますまい」
司馬懿「確かに、この城の兵は現在3万余。
    最初は守りから入るしかありませんね」
郭 淮「くっ……。
    ここまで状況が悪化したのも、元を正せば
    貴女が閣下の荊州行を進言したため!
    何を悠長にしておられるかっ!」
司馬懿「落ちつきなさい、郭淮将軍。
    声を荒げるなど、冷静な貴方らしくもない。
    言われずとも、この状況は逆転してみせますよ」
郭 淮「まだそのような……」
司馬懿「ふ、苦境の中にも勝機はあるのです。
    それを掴み、不利から有利に転ずることも、
    戦ではままあること」
郭 淮「……その勝機、貴女は見つけておいでか」
司馬懿「さて、どうでしょう?」
郭 淮「司馬懿どのっ!」
司馬懿「戦いの前に頭に血が昇って倒れますよ。
    まずは、敵軍の到着を待つとしましょうか」

    ☆☆☆

孟津

11月半ば。
孟津港を出撃した夏侯淵隊は、田豫隊を随え、
洛陽の城に迫った。
ずらりと並ぶ5万の敵軍の兵を見て、
洛陽の守備兵もいささか気圧され気味であった。
守将の一人、于禁は楼閣からその様子を見て
顔をしかめた。

   于禁于禁

于 禁「いかん……兵が萎縮している。
    決して圧倒的不利というわけではないのだが。
    やはり、先の関羽との戦が影響しているのか」

いまにも夏侯淵隊は襲い掛かってきそうな殺気を放ち、
両軍の緊張は最高潮となってきていた。

   司馬懿司馬懿

司馬懿「……今にも押し寄せてきそうですね。
    まずは、こちらから仕掛けてみるとしますか」
于 禁「仕掛ける……?
    だが、この距離では弩でも届かぬぞ。
    わざわざ無駄な矢を放たずともよいだろう。
    近付いてくるのを待ったほうが良かろうに」
司馬懿「いえ、弩も矢も全く使いませんよ。
    使うのはこの舌です」
于 禁「し、舌……?」

 もわんもわん……(妄想中)

司馬懿「ふふ、こんなに大きくして……。
    私のこの舌の攻撃に耐えられるかしら?」

 ……もわんもわん(妄想終了)

于 禁む、むはー
司馬懿「……何か、邪まなことを考えてませんか?」
于 禁「はっ!? い、いや!?
    舌でレロレロしている様子など考えておらぬ!」
司馬懿「……ふう。とりあえず、その想像とは
    違うことは明言しておきますよ」
于 禁「か、考えておらぬというに!」

司馬懿は慌てる于禁を無視しつつ、
拡声器を手に、声を張り上げた。

司馬懿「私は洛陽太守、司馬懿である!
    夏侯淵どのはおられるか!」

声が届いた夏侯淵隊では、ざわざわと声がした後、
やがて部隊を割って一騎の将が現れた。

   夏侯淵夏侯淵

夏侯淵「魏公国鎮南将軍、夏侯淵である!
    降伏でも願い出る気になったか!?」
司馬懿「これはこれは、夏侯淵どの。
    降伏などと、とんでもない。
    以前お世話になった将軍にご挨拶を、
    と思っただけです」
夏侯淵「……別人かと思ったが、やはり司馬懿本人か。
    話には聞いていたが、本当に女だったとはな。
    だが、女とて容赦はせん。
    曹軍を裏切った罪は、必ず償わせてやる」
司馬懿「おお、怖いことで。しかしながら、
    あまり頭に血を昇らせぬ方がよいかと。
    軍略は冷静に粛々と行うものですよ」
夏侯淵「大した戦もしておらぬ者が何を言うか。
    見よ、この軍勢を。そして孟津には、
    まだまだ出撃を待つ兵がいるのだ。
    これを相手に耐えきれるものでもあるまい!」
司馬懿「戦は数だけで行うものではありません。
    将の才覚というものが勝敗を左右するのです」
夏侯淵「ははは、それとてこちらの方が上だ!
    私をはじめ、百戦錬磨の将が揃っておるのだ!
    年季の違いというものを見せてやるわ!」
司馬懿「ほう、年季……。
    確かに老いだけはそちらが上のようで。
    是非とも見せてほしいものですね、
    その老いくたびれた年季というものを」
夏侯淵「……ほざいたな?
    この夏侯淵を老いくたびれたと……。
    後で泣いて謝っても許さぬぞ!」
司馬懿「泣きもしなければ謝りもしませんよ。
    早く見せてください。年増の夏侯淵、
    略して『としまえん』の年季とやらを!」
夏侯淵「と、としまえん……としまえんだと!
    この夏侯淵を、としまえんと言ったな!?」
司馬懿「……あら、何か古傷にでも触りましたか」
夏侯淵「き、きさまぁぁぁ……」

  夏侯惇夏侯惇  李通李通

夏侯惇「淵に『としまえん』と言ったか……。
    もはや、奴は司馬懿を許してはおくまい」
李通娘「ええっ? どういうことです?
    としまえんとは一体……」
夏侯惇「実は、あいつは以前に戦った相手に、
    名前を何度も間違われたことがあるのだ。
    『知ってるかね、としまえん君』
    『かかってきたまえ、としまえん君』
    ……とな」
李通娘「まさか、そんな間違い方など……」
夏侯惇「無論、わざとだろう。
    『わたしの名前は夏侯淵というのだ!』
    と、夏侯淵がそう何度言っても、
    結局最後まで正しい名では呼ばなかった」
李通娘「そ、それでどうなったのですか」
夏侯惇「……その戦いの結末は知らん。
    だがそれ以来、あいつは『としまえん』という
    言葉がトラウマになっているのは確かだ」
李通娘「なんと……それでは、としまえんに
    遊びに行けないではないですか!」
夏侯惇「うむ、以前に社員旅行で行った時も、
    奴だけ留守番をしていた」
李通娘「な、なんと寂しいのでしょう……。
    可哀想な夏侯淵将軍……」

夏侯淵聞こえているぞ! 惇兄! 李通!」
夏侯惇「うっ……これ以上は危険だ。
    とにかく、あいつに『としまえん』は禁句だ」
李通娘「わ、わかりました」

夏侯淵「全く、ぐちゃぐちゃと過去のことを……。
    ……全軍、攻撃開始っ!
    目にもの見せてやれええええっ!」

夏侯淵隊、田豫隊の兵はおーっと雄たけびを上げ、
洛陽城へと襲いかかる。

司馬懿「ふむ、これでよし……と」
于 禁「な、なにが『これでよし』か!
    彼を怒らせてどうしようというのだ!」
司馬懿「冷静さを失わせるのが策の基本というもの。
    違いますか?」
于 禁「どんな策があるというのだ、この状況で!」
司馬懿「じきにわかります。それより、今は城の守備を」
于 禁「くっ……弩を放て! 城に近付けるなっ!」

こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。

夏侯淵「これが夏侯淵の武だ!
    その目に焼き付けるがいいっ!」

怒りに燃える夏侯淵は、得意の飛射で矢を撃ち込む。
この一撃で、かなりの城兵が倒れた。

夏侯淵「見たか、司馬懿よ!
    これが幾多の戦いを経験してきた我らの武だ!
    今すぐ城を明け渡し、私の元にひざまずけ!
    さすれば命だけは助けてやってもいいぞ!」
司馬懿「ふふふ、勝ち誇るのは少々早いのでは?
    まず、城を落としてからにするべきかと」
夏侯淵「……ふん、まだまだ余裕があるようだな。
    だが、それも今のうちだ!」

その後も、夏侯淵・田豫隊の攻撃は続く。
しかし司馬懿もよく守り、戦いの決着は
まだまだ先のようであった。

    ☆☆☆

日は過ぎ、12月上旬。
この時、攻撃を続ける夏侯淵の隊に、
孫権が金旋軍に対し宣戦布告を突き付け、
荊州へ侵攻を開始したとの報がもたらされた。

  夏侯淵夏侯淵  夏侯惇夏侯惇

夏侯淵「ほほう……孫権がな」
夏侯惇「これで金旋はしばらく荊州に釘付けだな。
    孫権軍の攻撃で命を落とすことも有り得るぞ」
曹 休「これはまさに我らにとって吉報、
    金旋軍にとっては凶報でありましょう!」
夏侯淵「うむ。孫権軍が南側を攻めているとなれば、
    洛陽の者たちも希望を失うであろう。
    司馬懿の慌てる顔が目に浮かぶようだ」

   李通李通

李通娘「(あの司馬懿が慌てる姿なんて、
    私には想像つかないのだけど……)」
夏侯惇「李通、何か言いたいことでもあるのか」
李通娘「あ、いえ、別に」
夏侯淵「フッフッフ……。
    このことを早速、洛陽へ知らせてやらねばな!
    李通! 兵たちを使い、口々に叫ばせよ!」
李通娘「は、ははっ」

夏侯淵の命に従い、李通は声の大きい者を選び、
彼らに『孫権が荊州へ攻め込んだぞ』、
『金旋は当分戻らぬぞ』と洛陽へ向け叫ばせた。

これを耳にした洛陽の兵たちは動揺した。
すでに金旋が荊州に向かっていることから
この言葉には真実味があり(実際に真実だが)、
このことを笑い飛ばすことはできなかったのだ。

  司馬懿司馬懿   郭淮郭淮

郭 淮「孫権が荊州に攻め入ったと聞き、
    兵たちが動揺しております」
司馬懿「私の元にもその報は入ってます。
    孫権も大きな賭けに出たということでしょう」
郭 淮「司馬懿どの! 私はそのような
    情勢の話を聞きたいわけではない!
    今はこの洛陽をどう守るかの話を……!」
司馬懿「郭淮将軍。
    貴方の言うことももっともですが、
    いずれ貴方も大局を見ながらの戦いを
    迫られるようになるはずです。
    少しは情勢にも目を向けなさい」
郭 淮「ご忠告、胸に刻んでおきましょう。
    しかし、洛陽を落とされてはその大局も
    大きく変わりますぞ」
司馬懿「兵を不安にさせなければいいのです。
    荊州の情勢など、この戦いには関係ない、
    それを敵にも味方にも知らせてあげなさい」
郭 淮「……そのようなことを言ったところで、
    一度抱いた不安はなかなか払えぬもの。
    ましてや、敵の言を止めることなど……」
司馬懿「ふふ、いい言葉がありますよ、郭淮どの。
    この一言でどんな流言も無効にしてしまう、
    魔法の言葉です」
郭 淮「魔法の……? どういう言葉ですか」
司馬懿「なに、先ほどの説明を端的にするのです。
    この言葉に掛かれば、どんな雄弁な敵兵も
    黙ってしまうことでしょう」
郭 淮「もったいぶらないで頂きたい。
    なんと言う言葉なのですか」
司馬懿「敵兵がまた同じことを言ってきたら、
    味方の兵にこのように叫ばせなさい。
    『…………』と」
郭 淮「えっ、そんな言葉でよろしいのですか」
司馬懿「言葉とは面白いもので、そう思ってなくとも
    口にすることでそうであるように錯覚する。
    この言葉を敵に向かって叫ぶことで、
    自らの心の不安も取り除いてくれるでしょう」
郭 淮「わ、わかりました……」

郭淮は命令を各守備兵に伝えた。
その変わった命令に兵たちは面食らったが、
命令ならば無視するわけにもいかない。

その翌日。
夏侯淵隊がまたも押し寄せ、口々に
『孫権が荊州を攻めているぞ』と叫んだ。
しかしそれを受けた洛陽の守備兵たちは、
一斉にある言葉を叫び返した。

 『それがどうした!』

李通娘「そ、それがどうした……ですって」
司馬懿「そう、それがどうしたと言うのです。
    孫権がここに攻め寄せるのならともかく、
    遥か遠方での戦いが、何の影響があると!?」
李通娘「え、影響ならあるでしょう!
    金旋が援軍として来ることはないのですよ!」
司馬懿「閣下がお戻りになるのは元よりしばらく先!
    閣下の援軍など誰もアテにしておらぬ!」
李通娘「……むむむ」
司馬懿「更に言えば、この孫権軍の侵攻、
    すでに私も閣下も予見していた!
    なぜ予定通りのことに動揺せねばならぬ!」
李通娘「し、知っていた……!?」
司馬懿「その通り!
    そのために閣下は荊州に下られたのだ!
    だからこそ、我らはこう言う!
    『それがどうした!』と!」

李通はそれ以上は何も言えず、
すごすごと引き下がるしかなかった。

夏侯淵「……口では奴に敵わんということか」
李通娘「申し訳ありません……」
曹 休「田豫隊の荀攸どのに頼まれては?
    あの方であれば、司馬懿を言い負かすことも
    できるかもしれません」
夏侯淵「いや、その必要はない。
    元より武で決するべき戦だったのだ」
曹 休「はっ」
夏侯淵「それに、荀攸は最近は体調が悪いらしい。
    あまり無理はされられん」
李通娘「この度の出陣も、かなり無理を押しての
    出陣と聞いてます」
夏侯淵「……攻撃を続けるぞ。
    口先など関係ない戦いを見せてやれ!」
諸 将「ははっ」

    ☆☆☆

郭 淮「見事な演説でした」
司馬懿「いえいえ、それほどでも」
郭 淮「しかしながら……。
    ひとつ気になった言葉があるのですが。
    ……孫権軍の侵攻を予見していた、とは?
    どういうことなのか、ご説明頂きたい」
司馬懿「ふふふ、そのようなことですか。
    嘘も方便というではありませんか。
    ああ言えば、味方は安心し敵は動揺する」
郭 淮「では、閣下に荊州行きを進言したのは、
    あくまで孫権への牽制の意図のみだと?」
司馬懿「それ以外に何があると?
    私が何か腹に一物持っているのか……と、
    そのようにお疑いですか?」
郭 淮「い、いや……そこまでは言わないが」
司馬懿「では、この話は終わりということで。
    それより、そろそろ反撃の機が来ますよ」
郭 淮「反撃の機ですと?
    この洛陽の守備兵はまだ敵軍より少ない。
    それでも反撃できる機会だと?」
司馬懿「ええ、これははかりごとです。
    そうですね、言うなれば弱誘侠殺の計」
郭 淮「はかりごと……?」
司馬懿「出陣準備は万端整えておいてください。
    この司馬懿の計、あの男の遥か上をいくことを
    証明してみせましょう。ふふふふ……」

司馬懿のその不敵な笑いにうすら寒さを覚え、
郭淮はそれ以上のことを聞けなかった。

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