突然の『抱いて』の言葉。
金旋、絶体絶命!(んな大げさな)
金旋
花梨
金 旋「な、なんで急にそうなるかねチミは!?」
花 梨「一晩でいいの、愛してほしい。
ううん、愛する真似ごとでもいいから。
私、もう淋しくてダメなのっ」
金 旋「だ、抱き付くんじゃない……。
や、やめなさい、早く」
花 梨「奥さんや娘さんへの愛を分けてっ。
ほんの少しでいいのっ」
金 旋「ぬ、ぬうう〜、や、やわらかい……。
い、いかん、なんかムラムラしてきた」
花 梨「……やっぱり、私じゃダメなのかな?」
金 旋「い、いや、十分魅力的だがな、
だからと行って今行為に走るのは、
俺のポリシーが、いやしかし乳の感触が、
待て待て何を考えて……ぬおー」
とりあえず金旋は、気分を落ち着かせようと
深呼吸をした。
金 旋「すうぅー。はあぁー。すうぅー。はあぁー。
……よし、ヤるぞ」
花 梨「あん」
深呼吸をした後の金旋は別人のようであった。
彼は優しく彼女を抱きしめてやり、
その身体をベッドに横たえさせる……。
彼は、行為自体は実に久しぶりであったが、
妻と培ってきた彼のそのテクニックは、
行為の経験がほとんどないはずの花梨を
メロメロメロンパンにしてしまった。
そして、翌朝……。
金 旋「……はぁ〜」
花 梨「溜息つかないでよ。
何か悪いことしたみたいじゃない」
金 旋「だってなぁ、雰囲気に流されて俺は……。
俺は……ヌオォーッ!」
花 梨「ごめんね。
でも、私なんだか元気が出てきたよ。
残りの人生、頑張って生きてみようって。
私を愛してくれる人、探してみようって。
そういう気になってきたよ」
金 旋「……そうか。そう言ってくれると、
少しは気が紛れ……まぎ……マギィー!」
花 梨「ま、まあまあ。
……で、どうしようか、この後」
金 旋「ああ、そうだな。とりあえず逃げる算段だが、
そのアテはあるから安心しな」
花 梨「えっ?」
金 旋「ちょっと軍に知り合いがいてな。
護衛を何人か借りてくるから、
それまでここで待っててくれ」
花 梨「そんなこと……できるの?」
金 旋「ふん、この金さんは顔が広いのさ」
花 梨「確かに頭は大きいけど……」
金 旋「あ、頭の大きさは関係ない!
とにかく、待ってるんだよ」
花 梨「うん……あ、それと、あの飯屋。
どうなってるか見ておいて……。
ちょっと心配だから」
金 旋「おう、任せろ」
金旋は彼女の言葉に頷いてみせる。
そして部屋を出て、受付のところに向かった。
受 付「どうでしたか、昨晩はお楽しみでしたか」
金 旋「……まーな」
受 付「そうでしょう、そうでしょう。
なにせ亀の間は、『その気にさせる香』を焚いて
興奮度大幅アップ!の部屋ですから」
金 旋「……おーまーえーかー!」
受 付「な、なんです、怖い顔をして」
金 旋「……な、なんでもない。
それより、精算を頼む」
受 付「はい。一晩ご宿泊の10%割引ですので、
この金額になりますが」
金 旋「おう。……娘の方はまだ寝てるから、
時間ギリギリまでいさせてくれ。
後でまた迎えに来るから」
受 付「わかりました」
金旋は精算を済ませ、まず昨日の飯屋へ向かった。
だが、そこで見たものは……。
金 旋「な、なんじゃあ、こりゃあ!」
飯屋は、すっかり様相が変わっていた。
それなりに立派だった入り口は黒焦げ、
客間の中もすでに真っ黒で何も無く、
屋根も燃え落ちたのか、なくなっていた。
金 旋「ど、どういうことだ」
女 将「……なんだい、あんた。
戻ってきたのかい……」
金 旋「女将……どうしたんだ、これは」
女 将「奴らに……火をつけられたんだよ。
最初は腕っぷしでかかってきたけど、
あたしの尻に敵わないと見たら
いきなり油を撒いて、火を……」
金 旋「な、なんて真似を……」
女 将「それでも……。
なんとか厨房だけは守ったよ……。
あそこは、死んだ亭主との思い出が
いっぱい詰まってるからね……。
厨房さえあれば、料理は作れるし……」
金 旋「本当だ……厨房だけは無事だ。
よくやったな」
女 将「でも……もう……。
限界……だ……よ……」
どさり
金 旋「お、女将!? 女将ーっ!」
ぐぉーっ ぐぉーっ
金 旋「……って寝るだけかよ。
まあいい……後は任せておけ。
店のカタキは、俺が取ってやるからな」
女将を近所の主婦に預けると、
金旋は太守府へ戻っていった。
☆☆☆
金 旋「鞏志! 鞏志はいるか!?」
鞏志
鞏 志「太守!? 今まで一体、
どこに行っておられたのですか!?」
金 旋「んなこたいいから、誰か腕利きの兵士、
10人くらい貸してくれ」
鞏 志「何をする気です?」
金 旋「要人警護だ。
それと町中の飯屋で放火事件があった。
これの調査を頼む」
鞏 志「太守……また、
いらぬ事件に首を突っ込んでますね」
金 旋「街の治安を守るのは太守としての務めだ。
いいから、早くしろ」
鞏 志「承知しました……。では、虎の子の
ゴレンジョイを出動させましょう」
金 旋「……ゴレンジョイ?」
鞏 志「ゴレンジョイ、出動!」
鞏志が声を張り上げると、
5人の兵士たちが集まってきた。
赤 「アカレンJOY!」
青 「アオレンJOY!」
緑 「ミドレンJOY!」
黄 「キレンJOY!」
桃 「モモレンJOY!」
5 人「五人揃って、ゴレンJOY!」
ズギャァァァァン!!
金 旋「……で、鞏志よ。
この色取り取りのアフロヘア軍団は?」
鞏 志「特殊戦隊ゴレンジョイです。
あまり表に出せない事柄に当たるための
特別な兵士たちです」
金 旋「すでにこいつら自体が表に出せないぞ、
この派手派手な頭……」
鞏 志「確かに姿は奇抜ですが、
彼らは突出した能力を持っております。
この5人だけで100人くらいの敵を
相手にできるでしょう。
是非とも、この者たちをお連れください」
金 旋「……もう少しまともなのはいないのか?」
鞏 志「是非とも!
この者たちをお連れください」
金 旋「……どーしてもダメか」
鞏 志「はい」
金 旋「はぁ……。わかったわかった。
いくぞゴレンジョイ!」
5 人「イーーーーッ!」
金 旋「……それは悪役が言う奴なんじゃないか?」
☆☆☆
金旋とゴレンジョイは『ホテルくちびる』に急行した。
途中、道行く人々に奇異の目で見られたが、
そんなことには構っていられない。
金 旋「よし、ついた。ここだ……。
って4人しかいないぞ?」
桃 「ああっ、ミドレンジョイがいないわ!」
青 「ミドレンジョイめ、また道に迷ったな!?」
赤 「彼は一度道に迷うと、3日は帰ってきません」
金 旋「……そんな奴を特殊部隊に入れるなよ」
赤 「しかし、戦闘力は5人中最強なのです。
彼の力は、我が隊に必要なのですが……」
金 旋「だからって探してる時間はない。
いいから、中に入るぞ」
4 人「イーーーーッ!」
金 旋「……なんだかなあ。
まあいい、とりあえず受付に挨拶だ」
金旋は受付のところまで行き、声を掛ける。
金 旋「おっす、戻ってきたぞ……。
……って、おい、大丈夫か!?」
受付の男は、頭から血を流し、
カウンターに突っ伏していた。
受 付「お客様……申し訳ありません。
御連れの方が……連れ去られました」
金 旋「なにっ!?」
受 付「陳虎の組の者が……女を捜していると。
中に入るのを断ったのですが……。
鈍器のようなもので殴られて……」
金 旋「くっ……やられたかっ」
金旋は、それでも部屋に向かい、様子を伺ってみる。
しかし、部屋の中には誰もいなかった。
ただ昨日の行為の後始末をしたティッシュが、
床に転がっており……。
金 旋「……いやいや、思い出すな思い出すな。
それより、どこへ連れて行かれたんだ……」
ハト子「あ、あたし知ってるわよ」
金 旋「き、君は昨日の……」
ハト子「はーい、ハト子でーす。
あいつら、『南の屋敷に連れていくぞ』
って言ってたわ」
青 「あ、陳虎組の南にある屋敷といえば、
私が知っております」
金 旋「そうかっ! 案内を頼む!」
青 「はっ!」
こうして、金旋らは陳虎組の屋敷に急行。
それなりの門構えの屋敷に辿り着いた。
金 旋「ここが陳虎の屋敷か。
って『チンコのやしき』って嫌な響きだな。
まあいい、とにかく中に入るぞ……。
って三人しかいないんだが、どうした」
青 「キレンジョイがいない!?」
桃 「キレンジョイは……キレンジョイは、
さっきのハト子とホテルへ……!」
金 旋「はあ!?」
赤 「くっ……奴がホテルに女を連れ込むと、
半日は出てきません!」
金 旋「……そいつは後で大減俸な。
とにかく、中へ入るぞ!」
赤 「えっ、この人数でですか?」
金 旋「花梨を取り返し、そして陳虎とやらに
ギャフンと言わせてやるんだ」
赤 「わ、わかりました」
青 「戦闘力ナンバー1のミドレンジョイ、
ナンバー2のキレンジョイがいないのが
少し心配だが……しょうがない」
金 旋「……後で鞏志に戦隊の再編を促すか。
とにかく、突っ込むぞ!」
3 人「イーーーーッ!」
金 旋「ははは……もうどうでもいいや」
☆☆☆
金 旋「……なんか無用心だな。
鍵も掛かってなければ見張りもいない」
青 「案外、ヤクザというものは、
そんなものなのかもしれません」
金 旋「ま、この方が都合がいいけどな……。
むっ、話し声が聞こえるぞ?」
耳を澄ますと、女の声、
そして中年の男の声とが聞こえてきた。
花 梨「何度言ったらわかるのよ。
あんたなんかの妻にはならないわ!」
陳 虎「そうは言うがなぁ、花梨よ。
部下たちを纏め上げるには、やはり
馬桓の娘たるお前の存在が必要なのだ」
花 梨「死んだ親父の威光に頼るほど、
あんたのカリスマが足りないってことでしょ!
それに、私の意志は全く無視じゃないの!」
陳 虎「何を言うかね。私の妻ともなれば、
なに不自由のない暮らしが送れるし、
何より私の愛を受けることができるのだぞ。
悪くない話だとは思わんかね?」
花 梨「あんた一回、鏡見てみなさいよ!
結婚云々言う前に、自分の魅力を磨きなさい!
キモイのよ、このナルシストデブ!」
陳 虎「むっ……鏡なら毎日見ているぞ!」
花 梨「なおのこと悪いわ!」
陳 虎「くそっ! 口で言ってもわからぬなら、
もはや身体で教え込むしかないな!」
花 梨「ちょっ……何で服脱ぎ出してるのよ!」
陳 虎「ふん、服を脱いですることなど、
ひとつに決まっているだろうが!」
花 梨「……おふろ?」
陳 虎「そう、もう一週間も入ってなくて……
って違うわぁ! 夫婦の契りじゃあ!」
花 梨「ええっ!? い、いやあっ」
陳 虎「ふっ、今更謝っても遅いからな。
花梨、お前は私を怒らせた……」
花 梨「いやあっ!
一週間もお風呂入らないなんて!
不潔! 近寄らないでっ!」
陳 虎「……そっちじゃないだろう!
ええいもう問答無用だ! イタダキマース!」
花 梨「やっ、来ないで! だ、誰かぁっ!」
『まてえええええい!』
陳 虎「……な、なんだ!?」
???「己の欲望の為に、好き放題の悪行三昧……。
そのような者は、いつかその報いを受ける……。
人、それを因果応報という……!!」
陳 虎「なにいっ、庭の木の上に!?」
花 梨「……ああっ! 金さん!」
金 旋「助けに来たぜ、花梨!」
陳 虎「だ、誰なんだ貴様は!?」
金 旋「貴様などに名乗る名はな……!」
赤 「アカレンJOY!」
青 「アオレンJOY!」
桃 「モモレンJOY!」
3 人「五人揃って……もいないけど! とにかく!
ゴレンJOY! 参上!」
ズギャァァァァン!!
金 旋「お、お前らー!
おいしいとこ持ってくんじゃない!」
赤 「も、申し訳ありません!
我々はいつもこう登場するよう、
厳しく訓練されておりますゆえ!」
陳 虎「な、なにぃっ!?
五人いないのにゴレンジョイだと!?」
金 旋「ほれ、変な印象を与えちまっただろうが。
……にしても、ううむ。陳虎よ」
陳 虎「な、なんだ!?」
金 旋「お前……ホントにキモイな。
花梨が嫌がるのも無理はない」
陳 虎「う、うるさいわ! 者ども、であえであえ!」
陳虎の声に、ずどどどど……と子分が現れる。
その数は100人近くにも上った。
金 旋「うわ、結構出てきたな……。
よしゴレンジョイ、お前たちの出番だぞ」
赤 「はっ、お任せあれ! いくぞ、青、桃!」
青 「承知!」
桃 「行きまーす!」
陳 虎「やれ! この奇抜な奴らをたたき出せ!」
子分達「オオーーーッ」
青 「まずは俺からだ! てぇぇぇぇい!」
子分A「うわっ……こっち来た!」
ぺしんっ(←アオレンジョイの攻撃)
ドバキッ(←子分Aの攻撃)
子分A「え?」
青 「や、やられたぁぁぁぁっ……」
ばたり
金 旋「よ、よわっ!」
赤 「……そうなのです。
アオレンジョイは頭は良いのですが、
腕っ節はゴレンジョイ最弱……。
なのに……無茶しやがって」
金 旋「い、いや、無茶以前の問題だろう!?
どうすんだ、もう二人しかいないぞ!?」
赤 「く……アレを使うしかないか」
桃 「ええっ!? アレを……。
アレを使うというの!?」
金 旋「……な、何だ、話が見えんぞ」
赤 「後は頼んだぜ、桃……。
ゴレンジョイリーダー、アカレンジョイ!
吶喊します! てぇぇぇぇぇい!」
桃 「アカレンジョイ!!」
アカレンジョイは、一番子分らの密集している
ところへ、全力で突っ込んでいった。
赤 「必殺! 自爆!」
ズドォォォォォォン!!
桃 「あ、アカレンジョイ……!」
金 旋「い、いきなり自爆するな!」
桃 「そう言わないでやってください。
彼は命を掛けて私達を守ろうと……!
どうか、彼に言葉をかけてあげてください!」
金 旋「言葉って言われても……ううむ。
アカレンジョイの名誉の戦死に報いるため、
二階級特進の栄誉を与える。
……ということでどうだ」
桃 「二階級特進……!
そ、それだけ、それだけですか!
それだけでおしまいなんですか?
リュウさんや他の人に、
ありがとうの一言ぐらい!」
金 旋「は? リュウさんって誰?」
桃 「もういいです! たあああああっ!」
モモレンジョイはそう叫んで、
残っている子分のところに突っ込んでいった。
ズドォォォォォォン!!
『ゴレンジョイ、全 滅』
金 旋「また自爆かよ……。
なんかめちゃくちゃだなオイ」
陳 虎「な、なんという奴らだ……。
だ、だが残っているのは一人だぞ!」
花 梨「金さん! 危ない!」
二度の爆発を生き残った50人くらいの子分が、
金旋の上っている木に向かって突進してくる。
(↑実はまだ木から降りてなかった)
金 旋「うわっ、来るなお前ら!
わわっ、木を揺らすんじゃない!
お、落ちるだろうがっ!」
陳 虎「早く引きずり下ろせ!
引きずり下ろして、ギタンギタンにしてやれ!」
金 旋「あ、足を掴むな! うわーっ!」
『まてぇぇい!』
陳 虎「こ、今度はなんだ!」
緑 「ミドレンジョイ、遅ればせながら参上!」
ズギャァァン!!
金 旋「おおっ!? 道に迷ってたんじゃ……」
緑 「詳しい話は後で! ぬおおおお!」
ミドレンジョイは得物も持たず、素手のまま
金旋の真下に群がる子分どもに突っ込む。
緑 「ダブルジャイアントスイング、
トルネードスペシャル!」
手近な子分×2の足をそれぞれの手にひっつかみ、
それを振り回して他の子分を蹴散らしていく。
そして当たらないように遠巻きに離れた子分たちに、
今度は人間大砲の如く手にした子分をブン投げた。
金 旋「……すげー。流石は戦闘力ナンバー1だ」
陳 虎「な、なんて奴だ……ゆ、弓矢だ!
遠方から弓矢で射殺せ!」
陳虎がそう言った瞬間、
陳虎の足元にブスリと矢が突き刺さった。
陳 虎「な、何をしている!
射る相手を間違うな、馬鹿者!」
???「いえいえ。間違っていませんよ」
陳 虎「な、なに!?」
声の主は、鞏志だった。
弓矢で陳虎に狙いを定めながら、彼は勧告する。
鞏志
鞏 志「屋敷の周りは武陵軍が取り囲んでいます。
命が惜しくば、抵抗をやめて投降しなさい」
陳 虎「な、なんだと!」
金 旋「鞏志? どうしてここに……」
鞏 志「道に迷ったミドレンジョイを兵が保護しまして。
もしやと思い、部隊を動員して町を捜索し、
騒ぎを聞きつけて参ったわけです」
金 旋「そうか、よく来てくれた」
陳 虎「な、なぜだ! なぜ軍が出張ってくる!?
わ、私は何もしてないぞ!
この騒ぎだって、侵入した不審者を
退治しようとしただけだ!」
金 旋「往生際が悪いぞ、陳虎!
てめえがその花梨を手篭めにしようと、
いろいろひでえことをやっただろうが!
俺は全て知っているぞ!」
陳 虎「い、一体誰なのだ貴様はっ!?」
金 旋「ふん。……鞏志、よろしく」
鞏 志「はっ……。この方こそ!
漢の車騎将軍金日テイの末裔!
武陵太守、金旋さまなるぞ!
頭が高い! 控えおろうっ!」
陳 虎「げえっ!? た、太守だって!?」
花 梨「金さんが……太守さま!?」
金 旋「陳虎よ。今ならばまだ命は許す。
武器を捨てて投降せい!」
陳 虎「は、ははっ……」
陳虎以下、子分らは平伏し、武陵軍に投降。
後に、陳虎は刑に服し、組は解散させられた。
なお、陳虎の部下に火をつけられた飯屋は、
郡の財政援助を受けて建て直され、その後
武陵一の料理店として名を馳せるのだが、
それはまたのお話。
花 梨「金さんって、太守さまだったんだ」
金 旋「すまんな、黙ってて」
花 梨「ううん。ありがとう、助けてくれて。
助けに現れた時、すごく嬉しかった。
現れ方もカッコ良かったよ」
金 旋「ははは、その後はドタバタしてたがな。
とりあえず鞏志に身柄を預けるが、
陳虎らの罪が確定するまで我慢してくれ」
花 梨「……はい」
金 旋「じゃ、鞏志。花梨をしばらく預かってくれ」
鞏 志「は……はあ。わかりました」
金 旋「なんだ、何かあるのか?」
鞏 志「い、いえ、その……ちょっとお耳を」
金 旋「ん?」
鞏 志「あの……彼女とのご関係は?」
金 旋「いっ!? か、関係っ?」
鞏 志「や、やはりそういうご関係で……」
金 旋「な、何納得してんだ、何も言ってないぞ」
鞏 志「その動揺具合でわかります。
では、お子様たちには知られぬよう、
情報を漏らさぬように致します」
金 旋「あ、ああ。できればそうしてくれ。
……じゃあな、花梨。また今度な」
花 梨「……うん。ありがとう、金さん」
金 旋「おう」
こうして花梨は、しばらくの間
鞏志邸に滞在することとなった。
しばらくした後、金旋は彼女の働き口などを
世話してやるつもりだったのだが……。
事件から10日後。
金 旋「……花梨が、いなくなっただと?」
鞏 志「申し訳ありません、太守。
部屋がきっちり片付けられて、
このような手紙が置いてありました」
金 旋「手紙……俺宛にか」
その内容は、金旋に対する感謝、
そして一夜といえど彼を惑わせてしまった
ことを謝る内容が綴られていた。
『愛と自由を与えてくれてありがとう』
最後にそう書かれて、文はまとめられていた。
金 旋「彼女の行き先はわからないのか」
鞏 志「申し訳ありません」
金 旋「……そうか」
金旋はそれ以上のことは聞かなかった。
多分、鞏志は知っているのだろう。
しかし、彼女が決めたことなのだから、
このまま行かせるべきだと、彼は思った。
金 旋「いずれ、また会える日が来よう」
一抹の寂寥感を抱きながらも、
金旋は自分にそう言い聞かせた。
こうして、『陳虎の変』は解決した。
その出来事自体は取るに足らぬものだった。
だが金旋の心には、忘れられぬ思い出として
深く刻み込まれたのだった。
☆☆☆
金旋
下町娘
下町娘「……結局、その後生きてる間には
会えなかったんですね」
金 旋「ああ。これも運命って奴かな。俺の方は、
こんなにしぶとく生き存えてるのにな」
下町娘「頭潰しても死なないですもんね」
金 旋「ムカデか俺は!?」
下町娘「洛陽に移ってきてたって話ですけど、
やっぱり鞏志さんの手配で?」
金 旋「ああ、知人を紹介してやったらしい。
口止めされてたんで、どうしても
話せなかったんだと」
下町娘「そのまま留まって、金旋さまと
一緒にいればよかったのに……。
そうすれば、もっと……」
金 旋「……それは言ってくれるな」
下町娘「でも、ちょっとスッキリしたかな」
金 旋「ん? 何が」
下町娘「いえいえ。金満さんの扱いとか、
大事にしてるなーと思ったので」
金 旋「……まあ、そうだな。
もし他の女が産んだ子だったら、
もう少し扱いが違うかもな」
下町娘「ええっ!?
い、いるんですか、他に女が!?」
金 旋「い、いないって! 例えばの話!」
下町娘「動揺するところが怪しい……」
金 旋「あのなー!」
下町娘「冗談ですよ、冗談。
さあ、それよりもこれからのことですよ!
花梨さんのためにも、ぱーっと
中華統一を果たしちゃいましょう!」
金 旋「ぱーっとなんて、んな簡単にやれるかい。
……ま、頑張るけどな。
彼女だけではなく、皆のためにも」
下町娘「では、私のためにもっ!」
金 旋「へ? 統一すると何かいいことでも?」
下町娘「えーと……。
統一したら給料アップしますよね!」
金 旋「……はいはい、考えておきましょ」
下町娘「あー。別に今でもいいですよ?
むしろ、今上げる方向でお願いします!」
金 旋「さー! 早く帰って仕事しようかーっ」
下町娘「ああっ、聞こえない振りしないでくださいっ!」
武陵の金さん −了−
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