○ 外伝2 「武陵の金さん 後編」 ○ 
突然の『抱いて』の言葉。
金旋、絶体絶命!(んな大げさな)

  金旋金旋   花梨花梨

金 旋「な、なんで急にそうなるかねチミは!?」
花 梨「一晩でいいの、愛してほしい。
    ううん、愛する真似ごとでもいいから。
    私、もう淋しくてダメなのっ」
金 旋「だ、抱き付くんじゃない……。
    や、やめなさい、早く」
花 梨「奥さんや娘さんへの愛を分けてっ。
    ほんの少しでいいのっ」
金 旋「ぬ、ぬうう〜、や、やわらかい……。
    い、いかん、なんかムラムラしてきた」
花 梨「……やっぱり、私じゃダメなのかな?」
金 旋「い、いや、十分魅力的だがな、
    だからと行って今行為に走るのは、
    俺のポリシーが、いやしかし乳の感触が、
    待て待て何を考えて……ぬおー」

とりあえず金旋は、気分を落ち着かせようと
深呼吸をした。

金 旋「すうぅー。はあぁー。すうぅー。はあぁー。
    ……よし、ヤるぞ
花 梨「あん」

深呼吸をした後の金旋は別人のようであった。
彼は優しく彼女を抱きしめてやり、
その身体をベッドに横たえさせる……。

彼は、行為自体は実に久しぶりであったが、
妻と培ってきた彼のそのテクニックは、
行為の経験がほとんどないはずの花梨を
メロメロメロンパンにしてしまった。

そして、翌朝……。

金 旋「……はぁ〜」
花 梨「溜息つかないでよ。
    何か悪いことしたみたいじゃない」
金 旋「だってなぁ、雰囲気に流されて俺は……。
    俺は……ヌオォーッ!
花 梨「ごめんね。
    でも、私なんだか元気が出てきたよ。
    残りの人生、頑張って生きてみようって。
    私を愛してくれる人、探してみようって。
    そういう気になってきたよ」
金 旋「……そうか。そう言ってくれると、
    少しは気が紛れ……まぎ……マギィー!
花 梨「ま、まあまあ。
    ……で、どうしようか、この後」
金 旋「ああ、そうだな。とりあえず逃げる算段だが、
    そのアテはあるから安心しな」
花 梨「えっ?」
金 旋「ちょっと軍に知り合いがいてな。
    護衛を何人か借りてくるから、
    それまでここで待っててくれ」
花 梨「そんなこと……できるの?」
金 旋「ふん、この金さんは顔が広いのさ」
花 梨「確かに頭は大きいけど……」
金 旋「あ、頭の大きさは関係ない!
    とにかく、待ってるんだよ」
花 梨「うん……あ、それと、あの飯屋。
    どうなってるか見ておいて……。
    ちょっと心配だから」
金 旋「おう、任せろ」

金旋は彼女の言葉に頷いてみせる。
そして部屋を出て、受付のところに向かった。

受 付「どうでしたか、昨晩はお楽しみでしたか」
金 旋「……まーな」
受 付「そうでしょう、そうでしょう。
    なにせ亀の間は、『その気にさせる香』を焚いて
    興奮度大幅アップ!の部屋ですから」
金 旋「……おーまーえーかー!
受 付「な、なんです、怖い顔をして」
金 旋「……な、なんでもない。
    それより、精算を頼む」
受 付「はい。一晩ご宿泊の10%割引ですので、
    この金額になりますが」
金 旋「おう。……娘の方はまだ寝てるから、
    時間ギリギリまでいさせてくれ。
    後でまた迎えに来るから」
受 付「わかりました」

金旋は精算を済ませ、まず昨日の飯屋へ向かった。
だが、そこで見たものは……。

金 旋「な、なんじゃあ、こりゃあ!」

飯屋は、すっかり様相が変わっていた。
それなりに立派だった入り口は黒焦げ、
客間の中もすでに真っ黒で何も無く、
屋根も燃え落ちたのか、なくなっていた。

金 旋「ど、どういうことだ」
女 将「……なんだい、あんた。
    戻ってきたのかい……」
金 旋「女将……どうしたんだ、これは」
女 将「奴らに……火をつけられたんだよ。
    最初は腕っぷしでかかってきたけど、
    あたしの尻に敵わないと見たら
    いきなり油を撒いて、火を……」
金 旋「な、なんて真似を……」
女 将「それでも……。
    なんとか厨房だけは守ったよ……。
    あそこは、死んだ亭主との思い出が
    いっぱい詰まってるからね……。
    厨房さえあれば、料理は作れるし……」
金 旋「本当だ……厨房だけは無事だ。
    よくやったな」
女 将「でも……もう……。
    限界……だ……よ……」

 どさり

金 旋「お、女将!? 女将ーっ!」

 ぐぉーっ ぐぉーっ

金 旋「……って寝るだけかよ。
    まあいい……後は任せておけ。
    店のカタキは、俺が取ってやるからな」

女将を近所の主婦に預けると、
金旋は太守府へ戻っていった。

    ☆☆☆

金 旋「鞏志! 鞏志はいるか!?」

   鞏志鞏志

鞏 志「太守!? 今まで一体、
    どこに行っておられたのですか!?」
金 旋「んなこたいいから、誰か腕利きの兵士、
    10人くらい貸してくれ」
鞏 志「何をする気です?」
金 旋「要人警護だ。
    それと町中の飯屋で放火事件があった。
    これの調査を頼む」
鞏 志「太守……また、
    いらぬ事件に首を突っ込んでますね」
金 旋「街の治安を守るのは太守としての務めだ。
    いいから、早くしろ」
鞏 志「承知しました……。では、虎の子の
    ゴレンジョイを出動させましょう」
金 旋「……ゴレンジョイ?」
鞏 志ゴレンジョイ、出動!

鞏志が声を張り上げると、
5人の兵士たちが集まってきた。

 赤 アカレンJOY!
 青 アオレンJOY!
 緑 ミドレンJOY!
 黄 キレンJOY!
 桃 モモレンJOY!
5 人五人揃って、ゴレンJOY!

キレンジョイアオレンジョイアカレンジョイミドレンジョイモモレンジョイ
  ズギャァァァァン!!

金 旋「……で、鞏志よ。
    この色取り取りのアフロヘア軍団は?」
鞏 志「特殊戦隊ゴレンジョイです。
    あまり表に出せない事柄に当たるための
    特別な兵士たちです」
金 旋「すでにこいつら自体が表に出せないぞ、
    この派手派手な頭……」
鞏 志「確かに姿は奇抜ですが、
    彼らは突出した能力を持っております。
    この5人だけで100人くらいの敵を
    相手にできるでしょう。
    是非とも、この者たちをお連れください」
金 旋「……もう少しまともなのはいないのか?」
鞏 志是非とも!
    この者たちをお連れください」
金 旋「……どーしてもダメか」
鞏 志「はい」
金 旋「はぁ……。わかったわかった。
    いくぞゴレンジョイ!」

5 人イーーーーッ!

金 旋「……それは悪役が言う奴なんじゃないか?」

    ☆☆☆

金旋とゴレンジョイは『ホテルくちびる』に急行した。
途中、道行く人々に奇異の目で見られたが、
そんなことには構っていられない。

金 旋「よし、ついた。ここだ……。
    って4人しかいないぞ?」
 桃 「ああっ、ミドレンジョイがいないわ!」
 青 「ミドレンジョイめ、また道に迷ったな!?」
 赤 「彼は一度道に迷うと、3日は帰ってきません」
金 旋「……そんな奴を特殊部隊に入れるなよ」
 赤 「しかし、戦闘力は5人中最強なのです。
    彼の力は、我が隊に必要なのですが……」
金 旋「だからって探してる時間はない。
    いいから、中に入るぞ」
4 人イーーーーッ!
金 旋「……なんだかなあ。
    まあいい、とりあえず受付に挨拶だ」

金旋は受付のところまで行き、声を掛ける。

金 旋「おっす、戻ってきたぞ……。
    ……って、おい、大丈夫か!?」

受付の男は、頭から血を流し、
カウンターに突っ伏していた。

受 付「お客様……申し訳ありません。
    御連れの方が……連れ去られました」
金 旋「なにっ!?」
受 付「陳虎の組の者が……女を捜していると。
    中に入るのを断ったのですが……。
    鈍器のようなもので殴られて……」
金 旋「くっ……やられたかっ」

金旋は、それでも部屋に向かい、様子を伺ってみる。
しかし、部屋の中には誰もいなかった。
ただ昨日の行為の後始末をしたティッシュが、
床に転がっており……。

金 旋「……いやいや、思い出すな思い出すな。
    それより、どこへ連れて行かれたんだ……」
ハト子「あ、あたし知ってるわよ」
金 旋「き、君は昨日の……」
ハト子「はーい、ハト子でーす。
    あいつら、『南の屋敷に連れていくぞ』
    って言ってたわ」
 青 「あ、陳虎組の南にある屋敷といえば、
    私が知っております」
金 旋「そうかっ! 案内を頼む!」
 青 「はっ!」

こうして、金旋らは陳虎組の屋敷に急行。
それなりの門構えの屋敷に辿り着いた。

金 旋「ここが陳虎の屋敷か。
    って『チンコのやしき』って嫌な響きだな。
    まあいい、とにかく中に入るぞ……。
    って三人しかいないんだが、どうした」
 青 「キレンジョイがいない!?」
 桃 「キレンジョイは……キレンジョイは、
    さっきのハト子とホテルへ……!」
金 旋「はあ!?」
 赤 「くっ……奴がホテルに女を連れ込むと、
    半日は出てきません!」
金 旋「……そいつは後で大減俸な。
    とにかく、中へ入るぞ!」
 赤 「えっ、この人数でですか?」
金 旋「花梨を取り返し、そして陳虎とやらに
    ギャフンと言わせてやるんだ」
 赤 「わ、わかりました」
 青 「戦闘力ナンバー1のミドレンジョイ、
    ナンバー2のキレンジョイがいないのが
    少し心配だが……しょうがない」
金 旋「……後で鞏志に戦隊の再編を促すか。
    とにかく、突っ込むぞ!」
3 人イーーーーッ!
金 旋「ははは……もうどうでもいいや」

    ☆☆☆

金 旋「……なんか無用心だな。
    鍵も掛かってなければ見張りもいない」
 青 「案外、ヤクザというものは、
    そんなものなのかもしれません」
金 旋「ま、この方が都合がいいけどな……。
    むっ、話し声が聞こえるぞ?」

耳を澄ますと、女の声、
そして中年の男の声とが聞こえてきた。

花 梨「何度言ったらわかるのよ。
    あんたなんかの妻にはならないわ!」
陳 虎「そうは言うがなぁ、花梨よ。
    部下たちを纏め上げるには、やはり
    馬桓の娘たるお前の存在が必要なのだ」
花 梨「死んだ親父の威光に頼るほど、
    あんたのカリスマが足りないってことでしょ!
    それに、私の意志は全く無視じゃないの!」
陳 虎「何を言うかね。私の妻ともなれば、
    なに不自由のない暮らしが送れるし、
    何より私の愛を受けることができるのだぞ。
    悪くない話だとは思わんかね?」
花 梨「あんた一回、鏡見てみなさいよ!
    結婚云々言う前に、自分の魅力を磨きなさい!
    キモイのよ、このナルシストデブ!
陳 虎「むっ……鏡なら毎日見ているぞ!」
花 梨「なおのこと悪いわ!」
陳 虎「くそっ! 口で言ってもわからぬなら、
    もはや身体で教え込むしかないな!」
花 梨「ちょっ……何で服脱ぎ出してるのよ!」
陳 虎「ふん、服を脱いですることなど、
    ひとつに決まっているだろうが!」
花 梨……おふろ?
陳 虎「そう、もう一週間も入ってなくて……
    って違うわぁ! 夫婦の契りじゃあ!」
花 梨「ええっ!? い、いやあっ」
陳 虎「ふっ、今更謝っても遅いからな。
    花梨、お前は私を怒らせた……」
花 梨「いやあっ!
    一週間もお風呂入らないなんて!
    不潔! 近寄らないでっ!」
陳 虎「……そっちじゃないだろう!
    ええいもう問答無用だ! イタダキマース!」
花 梨「やっ、来ないで! だ、誰かぁっ!」

 『まてえええええい!』

陳 虎「……な、なんだ!?」
???「己の欲望の為に、好き放題の悪行三昧……。
    そのような者は、いつかその報いを受ける……。
    人、それを因果応報という……!!
陳 虎「なにいっ、庭の木の上に!?」
花 梨「……ああっ! 金さん!」
金 旋「助けに来たぜ、花梨!」
陳 虎「だ、誰なんだ貴様は!?」

金 旋「貴様などに名乗る名はな……!」

 赤 アカレンJOY!
 青 アオレンJOY!
 桃 モモレンJOY!
3 人「五人揃って……もいないけど! とにかく!
    ゴレンJOY! 参上!

  アオレンジョイ  アカレンジョイ  モモレンジョイ
  ズギャァァァァン!!

金 旋「お、お前らー!
    おいしいとこ持ってくんじゃない!」
 赤 「も、申し訳ありません!
    我々はいつもこう登場するよう、
    厳しく訓練されておりますゆえ!」
陳 虎「な、なにぃっ!?
    五人いないのにゴレンジョイだと!?
金 旋「ほれ、変な印象を与えちまっただろうが。
    ……にしても、ううむ。陳虎よ」
陳 虎「な、なんだ!?」
金 旋「お前……ホントにキモイな。
    花梨が嫌がるのも無理はない」
陳 虎「う、うるさいわ! 者ども、であえであえ!」

陳虎の声に、ずどどどど……と子分が現れる。
その数は100人近くにも上った。

金 旋「うわ、結構出てきたな……。
    よしゴレンジョイ、お前たちの出番だぞ」
 赤 「はっ、お任せあれ! いくぞ、青、桃!」
 青 「承知!」
 桃 「行きまーす!」
陳 虎「やれ! この奇抜な奴らをたたき出せ!」
子分達「オオーーーッ」

 青 「まずは俺からだ! てぇぇぇぇい!」
子分A「うわっ……こっち来た!」

ぺしんっ(←アオレンジョイの攻撃)
ドバキッ(←子分Aの攻撃)

子分A「え?」
 青 「や、やられたぁぁぁぁっ……」

ばたり

金 旋「よ、よわっ!」
 赤 「……そうなのです。
    アオレンジョイは頭は良いのですが、
    腕っ節はゴレンジョイ最弱……。
    なのに……無茶しやがって」
金 旋「い、いや、無茶以前の問題だろう!?
    どうすんだ、もう二人しかいないぞ!?」
 赤 「く……アレを使うしかないか」
 桃 「ええっ!? アレを……。
    アレを使うというの!?」
金 旋「……な、何だ、話が見えんぞ」
 赤 「後は頼んだぜ、桃……。
    ゴレンジョイリーダー、アカレンジョイ!
    吶喊します! てぇぇぇぇぇい!」
 桃 「アカレンジョイ!!」

アカレンジョイは、一番子分らの密集している
ところへ、全力で突っ込んでいった。

 赤 必殺! 自爆!

ズドォォォォォォン!!

 桃 「あ、アカレンジョイ……!」
金 旋「い、いきなり自爆するな!」
 桃 「そう言わないでやってください。
    彼は命を掛けて私達を守ろうと……!
    どうか、彼に言葉をかけてあげてください!」
金 旋「言葉って言われても……ううむ。
    アカレンジョイの名誉の戦死に報いるため、
    二階級特進の栄誉を与える。
    ……ということでどうだ」
 桃 二階級特進……!
    そ、それだけ、それだけですか!
    それだけでおしまいなんですか?
    リュウさんや他の人に、
    ありがとうの一言ぐらい!
金 旋「は? リュウさんって誰?」
 桃 「もういいです! たあああああっ!」

モモレンジョイはそう叫んで、
残っている子分のところに突っ込んでいった。

ズドォォォォォォン!!

『ゴレンジョイ、全 滅

金 旋「また自爆かよ……。
     なんかめちゃくちゃだなオイ」
陳 虎「な、なんという奴らだ……。
    だ、だが残っているのは一人だぞ!」
花 梨「金さん! 危ない!」

二度の爆発を生き残った50人くらいの子分が、
金旋の上っている木に向かって突進してくる。
(↑実はまだ木から降りてなかった)

金 旋「うわっ、来るなお前ら!
    わわっ、木を揺らすんじゃない!
    お、落ちるだろうがっ!」
陳 虎「早く引きずり下ろせ!
    引きずり下ろして、ギタンギタンにしてやれ!」
金 旋「あ、足を掴むな! うわーっ!」

 『まてぇぇい!』

陳 虎「こ、今度はなんだ!」
 緑 「ミドレンジョイ、遅ればせながら参上!」

   ミドレンジョイ
  ズギャァァン!!

金 旋「おおっ!? 道に迷ってたんじゃ……」
 緑 「詳しい話は後で! ぬおおおお!

ミドレンジョイは得物も持たず、素手のまま
金旋の真下に群がる子分どもに突っ込む。

 緑 ダブルジャイアントスイング、
    トルネードスペシャル!

手近な子分×2の足をそれぞれの手にひっつかみ、
それを振り回して他の子分を蹴散らしていく。
そして当たらないように遠巻きに離れた子分たちに、
今度は人間大砲の如く手にした子分をブン投げた。

金 旋「……すげー。流石は戦闘力ナンバー1だ」
陳 虎「な、なんて奴だ……ゆ、弓矢だ!
    遠方から弓矢で射殺せ!」

陳虎がそう言った瞬間、
陳虎の足元にブスリと矢が突き刺さった。

陳 虎「な、何をしている!
    射る相手を間違うな、馬鹿者!」
???「いえいえ。間違っていませんよ」
陳 虎「な、なに!?」

声の主は、鞏志だった。
弓矢で陳虎に狙いを定めながら、彼は勧告する。

   鞏志鞏志

鞏 志「屋敷の周りは武陵軍が取り囲んでいます。
    命が惜しくば、抵抗をやめて投降しなさい」
陳 虎「な、なんだと!」
金 旋「鞏志? どうしてここに……」
鞏 志「道に迷ったミドレンジョイを兵が保護しまして。
    もしやと思い、部隊を動員して町を捜索し、
    騒ぎを聞きつけて参ったわけです」
金 旋「そうか、よく来てくれた」
陳 虎「な、なぜだ! なぜ軍が出張ってくる!?
    わ、私は何もしてないぞ!
    この騒ぎだって、侵入した不審者を
    退治しようとしただけだ!」
金 旋「往生際が悪いぞ、陳虎!
    てめえがその花梨を手篭めにしようと、
    いろいろひでえことをやっただろうが!
    俺は全て知っているぞ!」
陳 虎「い、一体誰なのだ貴様はっ!?」
金 旋「ふん。……鞏志、よろしく」
鞏 志「はっ……。この方こそ!
    漢の車騎将軍金日テイの末裔!
    武陵太守、金旋さまなるぞ!
    頭が高い! 控えおろうっ!
陳 虎「げえっ!? た、太守だって!?」
花 梨「金さんが……太守さま!?」
金 旋「陳虎よ。今ならばまだ命は許す。
    武器を捨てて投降せい!」
陳 虎「は、ははっ……」

陳虎以下、子分らは平伏し、武陵軍に投降。
後に、陳虎は刑に服し、組は解散させられた。

なお、陳虎の部下に火をつけられた飯屋は、
郡の財政援助を受けて建て直され、その後
武陵一の料理店として名を馳せるのだが、
それはまたのお話。

花 梨「金さんって、太守さまだったんだ」
金 旋「すまんな、黙ってて」
花 梨「ううん。ありがとう、助けてくれて。
    助けに現れた時、すごく嬉しかった。
    現れ方もカッコ良かったよ」
金 旋「ははは、その後はドタバタしてたがな。
    とりあえず鞏志に身柄を預けるが、
    陳虎らの罪が確定するまで我慢してくれ」
花 梨「……はい」
金 旋「じゃ、鞏志。花梨をしばらく預かってくれ」
鞏 志「は……はあ。わかりました」
金 旋「なんだ、何かあるのか?」
鞏 志「い、いえ、その……ちょっとお耳を」
金 旋「ん?」
鞏 志「あの……彼女とのご関係は?」
金 旋「いっ!? か、関係っ?」
鞏 志「や、やはりそういうご関係で……」
金 旋「な、何納得してんだ、何も言ってないぞ」
鞏 志「その動揺具合でわかります。
    では、お子様たちには知られぬよう、
    情報を漏らさぬように致します」
金 旋「あ、ああ。できればそうしてくれ。
    ……じゃあな、花梨。また今度な」
花 梨「……うん。ありがとう、金さん」
金 旋「おう」

こうして花梨は、しばらくの間
鞏志邸に滞在することとなった。
しばらくした後、金旋は彼女の働き口などを
世話してやるつもりだったのだが……。

事件から10日後。

金 旋「……花梨が、いなくなっただと?」
鞏 志「申し訳ありません、太守。
    部屋がきっちり片付けられて、
    このような手紙が置いてありました」
金 旋「手紙……俺宛にか」

その内容は、金旋に対する感謝、
そして一夜といえど彼を惑わせてしまった
ことを謝る内容が綴られていた。

『愛と自由を与えてくれてありがとう』 

最後にそう書かれて、文はまとめられていた。

金 旋「彼女の行き先はわからないのか」
鞏 志「申し訳ありません」
金 旋「……そうか」

金旋はそれ以上のことは聞かなかった。
多分、鞏志は知っているのだろう。
しかし、彼女が決めたことなのだから、
このまま行かせるべきだと、彼は思った。

金 旋「いずれ、また会える日が来よう」

一抹の寂寥感を抱きながらも、
金旋は自分にそう言い聞かせた。

こうして、『陳虎の変』は解決した。

その出来事自体は取るに足らぬものだった。
だが金旋の心には、忘れられぬ思い出として
深く刻み込まれたのだった。

    ☆☆☆

  金旋金旋   下町娘下町娘

下町娘「……結局、その後生きてる間には
    会えなかったんですね」
金 旋「ああ。これも運命って奴かな。俺の方は、
    こんなにしぶとく生き存えてるのにな」
下町娘「頭潰しても死なないですもんね」
金 旋「ムカデか俺は!?」
下町娘「洛陽に移ってきてたって話ですけど、
    やっぱり鞏志さんの手配で?」
金 旋「ああ、知人を紹介してやったらしい。
    口止めされてたんで、どうしても
    話せなかったんだと」
下町娘「そのまま留まって、金旋さまと
    一緒にいればよかったのに……。
    そうすれば、もっと……」
金 旋「……それは言ってくれるな」
下町娘「でも、ちょっとスッキリしたかな」
金 旋「ん? 何が」
下町娘「いえいえ。金満さんの扱いとか、
    大事にしてるなーと思ったので」
金 旋「……まあ、そうだな。
    もし他の女が産んだ子だったら、
    もう少し扱いが違うかもな」
下町娘ええっ!?
    い、いるんですか、他に女が!?」
金 旋「い、いないって! 例えばの話!」
下町娘「動揺するところが怪しい……」
金 旋「あのなー!」
下町娘「冗談ですよ、冗談。
    さあ、それよりもこれからのことですよ!
    花梨さんのためにも、ぱーっと
    中華統一を果たしちゃいましょう!」
金 旋「ぱーっとなんて、んな簡単にやれるかい。
    ……ま、頑張るけどな。
    彼女だけではなく、皆のためにも」
下町娘「では、私のためにもっ!」
金 旋「へ? 統一すると何かいいことでも?」
下町娘「えーと……。
    統一したら給料アップしますよね!」
金 旋「……はいはい、考えておきましょ」
下町娘「あー。別に今でもいいですよ?
    むしろ、今上げる方向でお願いします!」
金 旋「さー! 早く帰って仕事しようかーっ」
下町娘「ああっ、聞こえない振りしないでくださいっ!」


武陵の金さん −了−

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