○ 第八十一章 「永安城争奪戦、どちらのものに」 ○ 
217年5月

 永安

永安を攻撃していた霍峻隊は、一時退却した。
守備将の庖義に火罠を食らうなどして、
負傷兵が増えたというのが表向きの理由である。

負傷兵を回復させ、また江陵からの増援を加えて、
夷陵城塞の動員できる兵数は6万にまで増えた。

  金満金満   鞏志鞏志

鞏 志「これで、再度出撃する準備も整いましたね」
金 満「しかし、退却する必要もなかったのでは。
    兵たちの士気も十分高かったですし、
    退却せずに戦闘を継続していても、
    まだまだ戦えたと思いますが」
鞏 志「兵の損害を考えたというのは表向きの理由です。
    実際は部隊の再編を行うためです」
金 満「再編……ですか?」
鞏 志「洛陽の殿より戦略の指針が届きまして。
    それに従って部隊の再編、
    及び爵位の授与を行います」
金 満「爵位?」
鞏 志「『金満に討逆将軍の位を授ける』と。
    また、霍峻・金満の両名を大将にして、
    2つの部隊で永安を攻めよ、とあります」    
金 満「えっ? いや、でも確か討逆将軍って、
    大兄(金目鯛のこと)よりも上では?」
鞏 志「金目鯛どのは威南将軍なので、そうですね。
    それだけ、貴方の将軍としての能力を
    期待されてるのでしょう」
金 満「し、しかしまだ私には十分な実績が……。
    そんな者がいきなり上に来ていいんでしょうか。
    陰口とか叩かれたりは……」
鞏 志「実績は後から積めばよいことです。
    部隊を率いて永安を攻め取れば、
    雑音は自ずと封じられましょう」
金 満「……分かりました。
    前向きに考えるとしましょう。
    ところで、永安に饗援軍が向かっていると
    聞きましたが」
鞏 志「我が軍が動いたことに焦ったのでしょう。
    饗援軍が近付いた後、我らも出撃すると
    致しましょう」
金 満「え? すぐ出なくて良いのですか?」
鞏 志「はい、良いのです」

    ☆☆☆

 永安

臨江櫓から出撃した鴻冥の部隊1万5千は、
永安を目指し進んでいた。
行軍しながら鴻冥は、出撃前の饗嶺との
やりとりを思い出していた。

  饗嶺饗嶺   鴻冥鴻冥

饗 嶺「鴻冥、永安は金旋軍に渡すな。
    母上も人材確保に頭を痛めている今、
    みすみす永安の城と将をくれてやる
    訳には行かないのだ」
鴻 冥「はい、お任せを。必ずや、
    良い戦果を御報告致しましょう」
饗 嶺「金旋軍が退いている今が好機だ。
    手を出す隙を与えず、一気に攻め取ってこい!」
鴻 冥「はっ!」

鴻 冥「……気前良い返事はしたものの、
    夷陵から部隊が出てくるのは必然だ。
    さて、どうしたものか……」

鴻冥隊は永安に攻撃を開始。
対する永安は兵が1万程度しかいない状態で
あったが、それでも必死に防戦した。

鴻 冥「太守厳顔もなかなかやる……ん?
    城の反対側が騒がしいが……。
    誰か、何なのか調べてきなさい」
兵 A「はっ」

命じられたその兵士は馬を走らせて、
城の反対側へ様子を見に行く。
しばらくした後、血相を変えて戻ってきた。

兵 A「金旋軍です!
    金旋軍が攻撃を掛けております!
    構成は霍峻、金満の二部隊、総勢6万!」
鴻 冥「やはり来たか……。
    こうなれば一刻の猶予もならないな。
    ……劉璋軍は我らが倒さねばならない!
    金旋軍に先を越されるな!」

 永安

今までにも増して激しい攻撃を加える鴻冥隊。
その様子は、金旋軍側にも知ることとなった。

鞏 志「我らに気付いたようですね。
    攻撃が目に見えて変わりました」
金 満「……結局、我々の思惑なんて、とっくに
    気付かれてるような気がするんですが」
鞏 志「永安が欲しい、ということですか?
    別に気付かれていても構いませんよ。
    いや、むしろ気付かないはずはありません」
金 満「それじゃ、当初の配慮なんて無意味では……」
鞏 志「外交に関してだけ言えば、
    我々の真意などはどうでも良いのです。
    建て前さえしっかりしていれば、
    それで十分なのですよ」
金 満「ううむ、政治はよくわからん……」
鞏 志「それよりも、今はこの戦闘です。
    恥ずかしくない指揮ぶりを皆に見せて
    くださいませ」
金 満「わ、わかりました」
鞏 志「大将なのです。もっと威厳を持って」
金 満「わ……わかった。
    ……永安は我々が頂く!
    井闌を前に押し出し、敵兵を討ち倒せ!
    饗援軍に遅れを取るな!」

霍峻隊3万(陳応・刑道栄・高翔・蔡瑁)、
金満隊3万(鞏志・魏劭・樊郭・胡渉)、
総勢6万の井闌部隊は、大量の矢を放ち
守備側を圧倒した。

名将厳顔といえど、饗援軍、金旋軍、
二つの勢力の部隊を相手に持ち堪えることなど
出来はしなかった。
永安城は戦える兵を全て失い、陥落。

この戦いで、金満は「混乱」「罵声」「井闌」の
各兵法を習得した。

さて、永安の所有をどちらの勢力とするのか。
これについて、代表者の鞏志と鴻冥との間で
一悶着あった。

これまでの慣例では、
「敵に多くの損害を与えた者が城を有する」
ということになっており、鞏志もそれに則って
話を切り出したのだが……。

  鴻冥鴻冥   鞏志鞏志

鴻 冥「その慣例は知っている。
    だが我々は、貴殿らよりも先に攻撃を始め、
    被害も多く、兵の損耗率もそちらより高い。
    それで城はそちら側、となっては
    我が軍が丸損ではないか」
鞏 志「しかし、それはそちらの都合でしょう。
    この慣例は理に叶っているから
    これまで使われてきたのです。
    それを覆されては、こちらが困ります」
鴻 冥「だから、こうして頼んでいる。
    益州平定は我が軍の皆の願い。
    どうかここは譲ってもらえぬか」
鞏 志「そう言われても……」

話は平行線を辿っていたが、
金満がそこへ助け船を出した。

   金満金満

金 満「それほどまでに欲しいというのなら、
    あげてもよろしいでしょう」
鞏 志「金満さま!?」
鴻 冥「……金満? なるほど、
    貴殿が金旋どのの子という……。
    永安を譲っていただけるのか?」
金 満「ええ。我々が永安を攻撃したのも、
   永安が荊州への玄関口であり、
   敵に侵入される恐れがあったからです」
鞏 志「そうです、だからこそ!
   我々が抑えておく必要が……」
金 満「しかし、信頼関係にある饗援軍が
    永安を治めるとなれば、
    荊州に攻撃を受ける心配もないはず。
    ならば、必ずしも我らのものにする
    必要もないでしょう」
鞏 志「む、むむ……」
金 満「鞏志どのも分かってくれたようだ。
    というわけで、永安はお渡し致しましょう」
鴻 冥「あ、ありがたい……。では……」
金 満「とはいえ、そうなると今度は我々が丸損だ。
    慣例には『捕虜は城を得ない側に渡す』
    というのがある。だからここは、
    捕虜は我々、城はあなたがたに、
    ということにしましょう」
鴻 冥「……そ、それは困る!
    我が軍ではまだまだ人材が少ない。
    捕虜を全て渡してしまっては、
    戦いの意味さえなかったようなもの!」
金 満「ですが、城も人も欲しい、となると、
    少しムシのよすぎる話ではないですか?
    城を選ぶのか、人を選ぶのか。
    どちらかにして欲しいのですが」
鴻 冥「く……確かに、その通りだ……。
    分かった、捕虜だけいただこう。
    城は諦めることにする」
金 満「良いのですか? 益州平定は……」
鴻 冥「先ほどの貴殿の言葉を借りるならば、
    永安を貴殿らが治めていれば、
    我が領内に侵攻される心配はない。
    そういうことだ」
金 満「そうですか」
鴻 冥「……だが、梓潼には手を出すな。
    梓潼まで取られては、我らの攻め手は
    貴殿らの領しかなくなってしまう。
    そのような事態は、招きたくないものだ」
金 満「覚えておきましょう。では、調印を……」

両軍は調印を済ませ、城は金旋軍に、
捕虜は饗援軍に、と決まった。

鴻冥は捕虜を受け取り、すぐに引き揚げていく。
その行軍を、城から金満と鞏志が見つめていた。

金 満「あんな感じでよかったのですか?」
鞏 志「上出来です、名演技でした。
    一度は『譲る』と言ったことで、
    彼女の心情にもよく映ったと思います」
金 満「『捕虜を取る』と自分で選んだのですからね。
    確かに不満は薄らぐと思いますが……」
鞏 志「どうかしましたか?」
金 満「いえ、正直、驚いています。
    鞏志どのがこんな芝居まで考えていたとは。
    実直なのが取り柄の人だと聞いていたのに、
    こんな智謀まで持ち合わせていたなんて……」
鞏 志「ああ……なるほど。
    持ち上げてくださるのは嬉しいですが、
    実はこれを考えたのは軍師ですよ」
金 満「……姉上が?」
鞏 志「そうです。軍師はああ見えて、
    かなりのやり手ですから」
金 満「そうか……あの姉上が。
    可愛い顔してババンバンだったか」

    ☆☆☆

   金玉昼金玉昼

金玉昼ひっ……くしょんっ!

  鞏恋鞏恋   下町娘下町娘

鞏 恋「……グレーシー?」
下町娘「それはヒクソン。
    で、えーと、何の話だったっけ」
金玉昼「んーと、今後のことにゃ。
    今のところ敵は曹操のみだけど、
    勢力を伸ばしていけば、他の勢力も
    敵に回る可能性があるにゃ」
鞏 恋「昨日の友は今日の敵」
下町娘「……そうあっさりと変わるかなあ?
    孫権・饗援・馬騰とも関係は良好でしょ」
金玉昼「確かに、今はそうだけど。
    でも、これからもそうだとは限らないにゃ。
    何かのきっかけで変わることは十分考えられるにゃ」
下町娘「そういうものかぁ……」
鞏 恋「そうそう。何かのきっかけで変わるもの。
    意識してなかった人を意識するようになったり」
下町娘「なーんでそっちの話になるのよ」
金玉昼「そうそう、町娘ちゃん。
    うちの金満なんてどうかなー。
    将来性は抜群だにゃ。かなり年下だけど」
鞏 恋「老け顔がいいなら燈艾とか。
    やっぱり年下だけど」
下町娘「だーかーらー! 余計なお世話!
    それに年下は却下、却下!
    だいだい、あんたたちだってもういい歳でしょ!
    恋ちゃんは秦綜とはどうなったのよ?」
鞏 恋「……どうって? 何が?」
下町娘「何がって……出会った時は、
    あんなにときめいていたじゃないの」
金玉昼「あ、恋ちゃんはただの筋肉フェチなだけだから」
下町娘「……そうなの?
    じゃあ別に彼が好きとかそういうのは……」
鞏 恋「全然、さっぱり」
下町娘「なんだぁ……じゃあ、どんな人が好み?」
鞏 恋「んー。私より強い人」
下町娘「魏光……憐れなり。
    それじゃさ、玉ちゃんはどうなの」
金玉昼「え? 何が?」
下町娘「好きな人を教えなさいってことよ!
    ほら、白状しなさい!」
金玉昼「ええっ、やだー」
鞏 恋「ほほう……言うのがいやだということは、
    気になる人はいるということね」
金玉昼「ぐっ……」
下町娘「ふっふっふ。さあ、早く教えないと、
    私のくすぐり地獄が発動するぞー」
金玉昼「こ、断りまひる」
下町娘「では仕方ない、くすぐり地獄発動!
    こちょこちょこちょこちょ……」
金玉昼「にゃ、にゃああああっ」

   公孫朱公孫朱

公孫朱「失礼いたします。軍師……」

部屋に入ってきた公孫朱の目に入ってきたのは、
下町娘に押し倒されて悶える金玉昼の図。
それを見て、彼女は一瞬凍りついた後、
深々と御辞儀をした。

公孫朱「失礼しました。お取り込み中でしたようで」
下町娘「ちょ、ちょっと! 勘違いしないで!
    ただふざけ合ってるだけ! 遊び遊び!」
公孫朱「遊び?」
鞏 恋「そうそう、大人のイケナイ遊び」
下町娘イケナイ遊び違うー!
金玉昼「ま、気にしないで……。
    それで、私に何か用でもあったかにゃ?」
公孫朱「あ、閣下がお呼びです。
    相談事があるとのことでした」
金玉昼「んー? 何の相談かにゃ。
    とりあえず行ってきまひる」
鞏 恋「行ってラッシー」

金玉昼は逃げるように部屋から出ていった。

下町娘「……ちっ、吐かせそこなったか」
公孫朱「吐く? 何をです?」
鞏 恋「ゲロ」
下町娘「違うって。
    あの子の好きな人を吐かせようってね。
    あ、そうだ、公孫朱さんまだ独身だよね。
    誰か好きな人いる? おねーさんに教えてみ?」
公孫朱「す、す、すきなひと?」
下町娘「ほらー、いつも真面目でクールな貴女でも、
    好きな人くらいはいるでしょ?
    応援してあげるから、教えてみそ」
公孫朱す、す、すすす好きな人など、
    んだなことかたってんでね!
    ほだごど、さすけねえでけろ!
下町娘「は? いや、別に減るものでもないし、
    できれば教えてくれないかなーと……」
公孫朱それはそうだげんちょも!
    プライバシーちゅうもんもあっがらない!
    んだなことかだれね! わがんね!
鞏 恋「……どこの言葉?」
公孫朱あれま! おれなまっでっかい!?
下町娘「う、うん。めちゃくちゃ訛ってる」
公孫朱まだやっちまったべ……。
    たまげっと出ちまうんだ……。
    やんだぐなっちま……

公孫朱は深呼吸を数回して、落ち着きを取り戻した。

公孫朱「……すいません。
    汚い言葉を聞かせてしまいました」
下町娘「あ、べ、別に気にしないよ。びっくりはしたけど」
公孫朱「元々は遼東訛りが酷かったのですが、
    曹操軍に登用されて以降は田舎者と馬鹿にされぬよう、
    普通に喋れるようにしたのですが」
鞏 恋「驚くと戻っちゃうんだ」
公孫朱「はい……一度出始めると止まらなくて」
下町娘「そうかあ。大変だねえ……。
    今度私らがいる時に訛り出ちゃったら、
    私らがフォローしたげるから。
    だから、気を楽にしてていいよ」
鞏 恋「うん。腹話術で町娘ちゃんがフォローする」
下町娘腹話術なんてできんわ!
公孫朱「……ありがとうございます。
    少し、気が楽になりました」
下町娘「ん、それじゃあ楽になったところで、
    好きな人をキリキリ吐いてもらおうかー」
公孫朱や、やんだべ
下町娘「ちぇー」

こうして公孫朱は、次第に打ち解けていった。
彼女についてはまだ秘密があるのだが、
それはいずれ語られる時が来るだろう。

さて、金旋に呼ばれた金玉昼は……。

  金旋金旋   金玉昼金玉昼

金玉昼「城塞の建設?」
金 旋「うむ。弘農にな、防衛用の城塞を
    作ろうかと思うのだが」

洛陽の西、潼関と孟津港の中間あたりにある弘農。
このあたりは、洛陽を押さえている金旋の所有になる。
そこへ、城塞を建設しようというのだ。

 弘農城塞建設予定地

金玉昼「ふーん。いいんじゃないかにゃ。
    孟津港防衛の補助的な役割も持てるし、
    万一馬騰軍が敵に回っても、潼関からの
    攻撃を防ぐことができる。いい案だにゃ」
金 旋「じゃ、秋になったら建設を始めよう」

これを受けて7月には、洛陽から部隊を出して
城塞を建設することとなる。

金 旋「それとだな。
    饗援・馬騰に大将軍の位を与えることになった。
    これは朝廷から印綬を送ることになっている」
金玉昼「あんまり、ホイホイと官爵をあげるのも、
    どうかと思うけど」
金 旋「劉璋討伐の褒美みたいなもんだ。
    これで両者とも悪い気はしないだろう」
金玉昼「ま、外交重視で考えるならそれもありかにゃ。
    ただ、それでずっと手懐けられるとは
    思わない方がいいにゃ」
金 旋「それは分かっている。
    あくまで現状を維持するための施策だ。
    で、あともうひとつ……」
金玉昼「何?」
金 旋「玉ももう年頃なんだし、そろそろ……」
金玉昼却下
金 旋「ま、まだ用件を言ってないぞ」
金玉昼「今の言い口と、その手に持ってる釣書、
    それらから大体は察しがつきまひる」
金 旋「い、いや、かなりいい話なんだぞ。
    陛下の御血族の方で、顔も頭もなかなか……」
金玉昼却下却下却下ーーーーっ!
    今の私は金旋軍の軍師!
    結婚も見合いもノーサンキューにゃ!」
金 旋「わ、わかった……。
    でも一応、会うだけでも……」
金玉昼キシャー!
金 旋「……俺から断りを入れておきます」
金玉昼「全く! みんなして好きな人やら見合いやら!
    ちょっと気が緩んでるんじゃないかにゃ!?
    これまで上手く事が進んで来ているからって、
    これからもそうだとは限らないにゃ!」
金 旋「そう目くじら立てんでも……。
    実際上手く来てるし、対策も打ってるだろ?
    弘農城塞だってその一環だ」
金玉昼「心の油断が一番の敵にゃ。ちちうえも最近、
    なんか緊張感がなくなった気がするにゃ」
金 旋「……そうか? 自分ではそうは思わんけど。
    痔が治ってホッとしてるってのはあるが」
金玉昼「とにかく、私に見合いさせたかったら、
    早く全土統一してちょうだいにゃ。
    そしたら考えなくもないにゃ」
金 旋「……お前、それじゃ行き遅れるぞ?
    悪い事は言わないから、会うだけでも……」
金玉昼ガァーーーーッ!

目標であった上洛を果たし、王の地位も手にし、
寿命までも延ばすことが出来た。
金旋は自分では否定していたが、
その緊張感が薄れていることは明らかだった。
また、自分から攻めるばかりで、攻められることが
ほとんど無くなって来ていたことも、
油断の一因となっていたようである。

だが、彼も人の子。
ちょっとした余裕が油断を生んだとしても、
それを責められるだろうか……。

    ☆☆☆

さて、少し時期は前後する。217年初頭、
呉の孫権は曹操領の汝南を攻め、これを落とす事に成功。
彼は居城である廬江にて、ささやかな祝杯を挙げた。

ミニマップ

  孫権孫権   劉備劉備

孫 権「久しぶりの攻めた戦の勝ちだ。酒が美味い」
劉 備「いやはや、全くですな!
    ここ最近は攻められっぱなしでしたからな!」
孫 権「一時は黄河以南を制する勢いだっただけにな……。
    今度は着実に行くぞ。曹操を打ち倒すのだ」

兵 B「失礼いたします!」
孫 権「なんだ騒々しい。祝いの酒を邪魔する気か?」
兵 B「い、いえ……そのようなことは決して」
劉 備「まあまあ、何用かくらいは聞いておきましょうぞ。
    で、何かあったのかな?」
兵 B「は、柴桑の軍師よりご報告の書簡が参っております」
孫 権「庖統からだと? どれ、見せよ」
兵 B「はっ、こちらになります」

兵は書簡を渡すと、そそくさと退室していった。

劉 備「(酒が入ると少しのことで機嫌が良くなったり、
    また悪くなったりするからな……。
    この人の側に仕える者は大変であろうな)」
孫 権「……ん? わしの顔に何かついとるか?」
劉 備「い、いえいえ、別に何も。それより、書簡の内容は?」
孫 権「うむ、近況の報告のようだが……。
    むむっ……山越が!?」
劉 備「な、何か異変でも?」
孫 権「山越が柴桑まで出張って、攻撃を仕掛けてきたそうだ!
    撃退には成功したそうだが……ええい、異民族風情が!」
劉 備「うむむ。汝南攻撃のための兵を、
    柴桑からも拠出してましたからな。
    その隙を突かれましたか」
孫 権「くそ、山越め! 討伐だ! 討伐の軍を挙げるぞ!」
劉 備「お、お待ちあれ!
    山越の本拠は10万以上の兵がおります。
    我が軍の全力を傾けてようやく落ちるかどうか、
    それでは他の守りががら空きになりますぞ」
孫 権「では、奴らの好きにさせろというのか!?
    柴桑は我が都市の中でも重要な拠点だ、
    落とされずとも攻められるだけで痛いのだぞ」
劉 備「さすれば……。
    この劉備に会心の策あり!
孫 権「……あまり聞きたくないな。
    お主の策はイマイチ信頼性に欠けるからな」
劉 備……この劉備に会心の策ありぃぃぃ!
孫 権「わかったわかった。とりあえず聞くだけ聞こう」
劉 備「フッ、聞いてブッたまげないでくだされよ。
    そうですな、ここは山越に……」
孫 権「貢物をやるなどというのは却下だぞ。
    どうせすぐに恩を忘れて攻めてくるのは目に見えている。
    攻められるたびに貢物など、やってられぬわ」
劉 備「……い、嫌ですな。貢物などやらずとも大丈夫ですぞ」
孫 権「ほう。ではどんな手を使うのだ」
劉 備「それは……その……兵を増やすのです!」
孫 権「……は?」
劉 備「山越が狙うのはそこそこ兵がいるところ!
    兵がほとんどいないか、逆に多すぎるところは狙わない!
    この習性を利用し、柴桑の兵を普通よりも多くし、
    攻めさせないようにしてしまうのです!」
孫 権「兵が多くいれば攻めないのは当たり前だ。
    がしかし、理には適っているな。
    兵を全て引き揚げれば攻めてはこないが、
    それでは金旋軍に奪われる心配が出る……。
    ならば、兵を増やすしかないか」
劉 備「どうでござるか、我が策は!」
孫 権「策というほど高尚なものではないがな。
    よし、今後、柴桑では兵を増強することにして、
    攻められないだけの数を保つことにしよう」
劉 備「曹操領への侵攻は、それらが終わった後、
    ということになりますな」
孫 権「まず、後方の不安をなくさぬとな。
    これまでの教訓を生かしていかねばならん」

山越に攻められたことで、孫権軍はこれ以降、
柴桑周辺の兵力増強に努めることとなる。
だがこのことが、思わぬ災いを招こうとしていた。

「これを利用すれば、付け入る隙を作れよう……」

羽扇を手にほくそ笑むその男は……。

事態は急転するか。次回に続く。

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