○ 第八十二章 「策士策謀深謀遠慮」 ○ 
217年5月

217年の夏。
金旋軍と饗援軍が永安城を攻撃していた頃、
曹操軍領内の上党にて、羽扇を手に思案に暮れる男がいた。
その足元には、各地の内偵から集められた、
各勢力の状況や図面などが散らばっていた。

   諸葛亮諸葛亮

諸葛亮「やはりまともに攻めても勝ち目は薄い。
    金旋軍は洛陽周辺に十分な兵力を集中させ、
    少々の攻撃では揺るがないだけの防衛網を
    作り上げている」

 洛陽周辺

洛陽・孟津港・虎牢関、それぞれに十分な兵力、
及び防衛力があることを報告書は示していた。
また、未確認ではあるが、弘農に城塞が建設される、
という情報も入ってきていた。

諸葛亮「孫権軍はそれに比べるとまだましだ。
    汝南・寿春の兵力はそれほどではない。
    寿春を取ることができれば、それ以降の
    豫州・徐州へ孫権軍の侵攻はなくなる……」

孫権領の報告書には、柴桑・廬江などに兵力が集中し、
汝南・寿春などの前線では、それほど防備が
進んでいるわけではないことを示していた。

だが、諸葛亮は頭を抱えて考え込む。

諸葛亮「だが、孫権領に接する我が軍の都市も、
    軍備に乏しいのが現状だ。寿春を攻めるどころか、
    逆に攻められ、奪われてもおかしくないほどだ。
    かと言って、金旋軍側に向いている兵を動かせば、
    金旋軍の大兵力は我が領内に侵攻してくる。
    これを考えると、迂闊には動かせぬ……」

 徐州周辺

各勢力の力を順にしてみると、
上から一番が金旋、二番が曹操、三番が孫権、
以下、馬騰・饗援・劉璋となる。
曹操軍は、この強大な一番目と三番目の勢力と
矛を交えているのである。

この状態での対外戦略の構築がいかに難しいか。
この年、軍師となった諸葛亮にとって(※)、
一番頭の痛いところがここであった。

(※ 前軍師の賈駆は軍師を降りたが、
 将としては健在)

諸葛亮「両軍を相手にして勝てる戦力はない。
    金旋が死ねばまだ状況は変わるだろうが、
    どうもそんな気配は微塵も感じぬしな」

以前に聞いた潘憲の話では、金旋も長くはない……
ということだったが、そんなことは有り得ない、
と諸葛亮は確信を持っていた。
それは、金旋が次男である金満を重用していることから
感じ取っていた。

諸葛亮「後継ぎとなるべき長子がいるのに、
    元服したばかりの次子を重用するなど……。
    先の短い者はこんなことはせぬ。
    死期が近いとなれば、後継ぎの権力を強化し、
    その障害になるものはなるべく排除するもの。
    いくら金旋本人が常識外れとはいえ、
    それくらいはやるだろう」

そう言って、また書類に目をやる諸葛亮。
だが、現状を打破するような戦略の糸口は掴めない。
金旋軍と孫権軍。この両軍に睨まれた状態では、
彼の智謀をもってしても、よい案は浮かばなかった。

諸葛亮「あと、使える手段としては……。
    山越をけしかけることくらいか。
    しかし奴ら、金旋軍に対しては
    『アソコニハ髭魔神ガイマース』と渋るし。
    あまりあてにはできんな……」

一度は桂陽を攻めさせることに成功したが、
それ以降は彼がいくら促しても、
金旋領への侵攻は断ってきていた。
しょうがなく孫権領の柴桑を攻めさせたものの、
大勢に影響はほとんどなかった。

諸葛亮「ああ、全く……何も思い浮かばん。
    せめて、金旋、孫権が戦い合っていれば、
    まだやりようがあるのだが……」

金旋と孫権とは外交的にも良好である。
そんなことは百も承知だったが、つい彼も
愚痴をこぼすようにそんな言葉を口にした。
……だが、手にした資料と、その自分の愚痴に、
諸葛亮ははっと気付いた。

諸葛亮「これは……そうか。
    仲が良ければ、その仲を裂けばよい。
    ただ、それだけのことだったのだ。
    そして、この状況。十分に使えるな」

先ほどまでの悩んでいたのは嘘のように、
諸葛亮はほくそ笑みながら、書類を整理していく。

諸葛亮「上手くいけば、金旋軍を追い詰め、
    孫権軍の侵攻も止めることができ、
    また、我らにも逆転の芽が出てこよう。
    さあ、そうとなれば早速種を撒かねば」

策士孔明、いかなる策を思いつきたるや。
傾きかけた曹操軍に再び、
隆盛の時を迎えさせることができるのか。

    ☆☆☆

7月下旬。
金旋軍は洛陽の西、弘農に城塞を建設していた。

 弘農城塞建設予定地

この建設部隊の指揮を執るのは、魏延。
そして指南役のような位置付けで費偉が、
そのほか、甘寧・魏光・金目鯛が参加していた。

  魏延魏延   魏光魏光

魏 延「このようなまったりとした建設は、
    これまでで初めてかもしれんな」
魏 光「今まで、戦闘しながら最前線に建設、
    というのが多かったですからねえ」
魏 延「ここも一応、前線ではあるんだがな」
魏 光「ま、それはそうですけど。
    ……ところで、妙な噂が流れていますけど、
    父上は聞いていますか?」
魏 延「妙な噂?」
魏 光「……ちょっと大きな声では言えないんですが、
    『殿が金満どのを嫡子にする』というのが、
    兵たちの間で話されてたんですよ」
魏 延「何? 不謹慎な話だな。
    だが、ここのところの金満どのの活躍、
    それに殿自身、彼に期待している様子だ……。
    そういう話が出るのも仕方ないかもしれん」
魏 光「しかし、ここには長子の金目鯛どのがいます。
    もし耳に入ったりしたら……」

   金目鯛金目鯛

金目鯛「実はもう耳にしてるんだがな」
魏 光ギャアー! 出たァーー!
金目鯛「おいおい。出たはねえだろ、出たは」
魏 光「す、すいません……つい」
魏 延「すでにお聞きだったのか」
金目鯛「ああ。俺としても、別に構わねえし。
    以前は俺の順番飛ばして閣寺に継がせたい、
    って言ってたが、俺が継がないで済むなら
    どっちでもいいや」
魏 光「どっちでもいいや、ってそんな軽く」
魏 延「長子が跡目を継ぐのが本来の筋。
    そのようなことでは……」
金目鯛「俺は人の上に立つ器じゃない。
    いずれは満か閣寺が、俺をも使いこなす
    立派な大将になるだろう。
    そうなってくれれば俺は満足だ」
魏 延「むう。そこまで割り切っているのか……」
金目鯛「それよりもだ、そっちの噂よりも、
    もうひとつの方が気になるんだが」
魏 延「もうひとつ? それは?」
金目鯛「……孫権軍が、柴桑と廬江に兵を集め、
    荊州に攻め入る準備をしている。
    と、そういう噂を耳にした。
    いや、兵に聞かれた、という方が正しいな。
    『こういう噂があるんですが本当ですか』てな」
魏 延「そんな噂が……私は初耳だが」

   甘寧甘寧

甘 寧「いや、それは俺も聞いた」
魏 光「甘寧どの?」
甘 寧「どうもかなり広まってるみたいだな」
金目鯛「俺も、んなわけねーだろ、と笑い飛ばしたが、
    ここまで広まると捨てておけないんじゃないか」
魏 延「……私の耳には全然入って来ないぞ。
    これはどういうことだ」
甘 寧「どうせ、お前が近付くと皆が口をつむぐからだろ。
    くっちゃべってると怒鳴られるからな」
魏 延「むっ……。(←図星)
    ……そんな噂があったとはな。
    ううむ、どうすべきか」
魏 光「真実かどうかはわかりませんし、
    取り立てて騒ぐこともないかと。
    ただ、洛陽の殿には、知らせた方がいいのかも」
魏 延「ふむ……わかった。費偉に頼んで、
    建設の進捗を兼ねた報告書を送ってもらおう」
甘 寧「ただの噂で済むならば、よいのだがな……」

魏延に請われ、費偉は報告書をしたため、
洛陽にいる金旋の元に送った。

城塞建設の進捗、そして孫権軍の動向の噂。
これらを費偉独自の軽妙な文章と挿絵付きで
書かれた、総ページ数128頁の超大作である。

    ☆☆☆

8月初頭、洛陽。

   金旋金旋

金 旋「……すごいな費偉は。
    世が世なら小説家にもなれるぞ」

費偉からの報告書を読み終えた金旋は、
心地よい達成感を感じていた。
……だが、すぐに厳しい表情に戻る。
報告書に書かれていたのは、架空の出来事でも
妄想などでもなく、現実なのだから。

金玉昼、司馬懿、燈艾、徐庶、郭淮を呼び、
金旋は臨時会議を開いた。

金 旋「孫権が荊州を狙っているという噂。
    この洛陽でも聞こえている。
    どうみる、これは? デマか?
    それとも……」

  金玉昼金玉昼  徐庶徐庶

金玉昼「事実関係だけを言えば、柴桑・廬江の兵は
    確かに増えているそうだにゃ。
    港などに配備されてるのも含めて、
    30万近くはこの一帯にいまひる」
徐 庶「確かに、ちぃっとばかり多いな。
    その理由が荊州侵攻である、となれば、
    一番分かりやすいんだが」
金 旋「ふむう……郭淮はどう見る」

   郭淮郭淮

郭 淮「不肖カクワイダー、お答え致します。
    孫権軍と我が軍の外交関係はこれまで良好。
    その関係を崩してまで、荊州に攻め入る利は
    全くないと申しても過言ではありません」
金 旋「確かに、利で考えればな……燈艾はどうだ?」

   トウ艾燈艾

燈 艾「ほ、ほぼ郭淮どのと、ど、同意見です。
    た、ただ、利のみで判断は、で、できません。
    調査と対策は、お、行った方がよろしいかと」
金 旋「調査と対策……例えば?」
燈 艾「け、荊州の国境付近、た、例えば江夏あたり。
    ここの兵を増やしては、いかがでしょう」
金 旋「兵をねえ……。
    俺としては、孫権の真意を確かめたい。
    それをやるには、どうしたらいい?」

ここで、それまで口を閉ざしていた司馬懿が、
ようやく口を開いた。

   司馬懿司馬懿

司馬懿「それならば、よい方法がございます」
金 旋「おう、司馬懿。何かあるか?」
司馬懿「軍事演習を行うと称し、閣下自ら、
    洛陽から兵を率いて南下なされませ。
    孫権が侵攻の意志を抱いていれば警戒し、
    心を許しているならば何も致しますまい」
金 旋「ほう、俺自身が、か。しかし、
    孫権が警戒しつつも知らぬふりをしたら?」
司馬懿「演習を行った後、城塞を築いて兵の何割かを
    そこに置けばよろしいのです。さすれば、
    万一の際の防備も万全でしょう」
金 旋「なるほど。確かに、防御はそれで固まるな」
金玉昼「……うーん?」
金 旋「どうした、玉」
金玉昼「現地で徴兵して兵を増やす分には、
    別に構わないと思うにゃ。
    でも、こちらの兵を引きつれていくと、
    今度はあっちが『攻められるのでは』
    と心配になるんじゃないかにゃ」
司馬懿「ですから、余計な警戒をさせぬため、
    演習だと最初に断っておくのです」
金玉昼「うーん……」
徐 庶「納得いかないってか?」
金玉昼「言ってることはわかりまひる。
    でも、なんか……ひっかかるというか」
郭 淮「この噂が、何者かが故意に流したのでは、
    ということでしょうか」
金玉昼「ん、そんな感じ。
    どうも、嫌な意志を感じるような……」
徐 庶「なら、噂の発生の時期を調べてみな。
    曹操軍が流した噂なら、まず北から広まる。
    そうではなく、孫権領が元となってるならば、
    南から広まってきてるはずだ」
金 旋「おお、徐庶、お前頭いいな!
    そんな言葉が聞けるとは思わなかったぞ!」
徐 庶「……ボス、俺の知力いくらか分かってる?(※)」

 (※徐庶の知力は96)

司馬懿「では、噂の広まり方の調査。
    そして、軍事演習の実行。
    この二つで、孫権の意志を判断しましょう」
金 旋「うむ。そうしよう」
金玉昼「んー。わかったにゃ」

こうして、司馬懿の推す軍事演習案が採用された。

なお、噂の広まり方を調査したところ、
まず孫権領との国境付近で確認され、
その後、急速に洛陽に向けて広まってきたことが
わかったのだった。

金玉昼「……何か、変……。何かが……」

妙なひっかかりを覚えていた金玉昼だったが、
それが何かまでは知ることはできなかった。
いや、ただの『女のカン』だったかもしれない。

結局、洛陽の金旋軍は、10万の兵をもって
荊州へ向かうこととなった。
月も9月となり、君主金旋以下、
金玉昼、燈艾、徐庶、魏延、甘寧など、
そうそうたる面々が、南へと向かったのである。

洛陽一帯の守備を任されたのは司馬懿。
それを郭淮、于禁などが補佐し、洛陽の守備兵は4万。
北からの侵攻を防ぐ孟津港には李典。兵3万。
新築ほやほやの弘農城塞に楽進、兵3万。
そして虎牢関には満寵。兵3万。

 洛陽周辺

曹操軍をよく知る元曹操軍の将。
そして合計13万ほどの兵。
これだけいれば、いかに曹操軍とて、
迂闊に手は出せないだろう。
金旋は、そう判断していた。

    ☆☆☆

さて、金旋が荊州に向け出発したのと同じ頃。
益州では、最終局面に入っていた。
饗援軍が、劉璋の最後の都市、
梓潼を攻撃し始めたのである。

 ミニマップ

  饗援饗援   慧雲慧雲

饗 援「馬騰軍は、動く気配はないか?」
慧 雲「はい。我々の攻撃を傍観している様子」
饗 援「それでよい。いずれは敵に回す相手だ。
    しゃしゃり出てこられる方が困るわ」
慧 雲「劉璋の後は、馬騰ですか。
    金旋との関係を、今後もお続けに?」
饗 援「永安の件は、正直腹立たしいがな。
    しかし、戦力比では雲泥の差だ。
    まともに戦える相手ではない」
慧 雲「何もこちらから手を切る必要はないと」
饗 援「そういうことだ」
慧 雲「しかし、その金旋……。
    大軍を率いて荊州に向かうとか」
饗 援「軍事演習と聞いている。
    ……なにか裏はありそうだがな」
慧 雲「その軍勢の矛先ですが、
    我らに向けられる可能性は?」
饗 援「いや、それはないだろう」
慧 雲「その根拠は……?」
饗 援「我らが脅威だとは思われておらぬからだ。
    見てみよ、永安、零陵の兵の数を。
    合わせても10万にも満たぬわ。
    我らを脅威に感じるならば、
    もっと兵は多く置いているはずだ」
慧 雲「なるほど……」
饗 援「さらに言えば、な。
    私が金旋の立場ならば、饗援と馬騰を戦わせ、
    弱ったところをふたつとも吸収する。
    何も今、大兵力を差し向ける必要はない」
慧 雲「では、金旋軍の動きは……」
饗 援「西の我々ではない。となれば、東だ。
    この荊州行き、孫権軍に対して、
    何らかの意味を持つのだろう」
慧 雲「……流石です、饗援さま。
    この慧雲、感服いたしました」
饗 援「うむ……今はまだまだ力を蓄える時だ。
    金旋の力、借りられるだけ借りておく。
    牙を剥くのは、それからだ」
慧 雲「はっ!」
饗 援「差し当たっては、目の前の劉璋だ。
    一気に落とし、捕虜を獲よ!
    人材を確保し、人材貧乏を卒業するのだ!」
慧 雲「ははっ……。
    (だいぶ気にしておられるのだな……)」

将軍急募の饗援軍。
梓潼を落とし、劉璋軍の人材を
根こそぎゲットできるのだろうか?

☆☆☆

同じ頃、廬江。
孫権は不機嫌な顔で、兵の報告を聞いていた。
先日、陸遜が小沛を陥落させたとの報を
聞いていた時とは、別人のような顔をしている。

   孫権孫権

 兵 「……なお、付随する将は、軍師金玉昼、
    燈艾、徐庶、魏延、甘寧……」
孫 権「もういい。下がれ」
 兵 「は?」
孫 権「下がれ! 細かい話はいらん!」
 兵 「は、ははっ!」

怒鳴られた兵は、怯えた様子で逃げるように
その場から去った。

孫 権「……全く、不愉快な話だ」

   劉備劉備

劉 備「不愉快とは、何がでござるかな。
    先日の小沛陥落の報には、
    あんなにも喜んでいたではありませぬか」
孫 権「劉備か……。
    確かにあの時は喜んでいたぞ。
    あまり援軍も出してやれぬ中で、
    陸遜がよくやってくれたのだからな」

7月、陸遜を大将にする兵1万5千程度の部隊は、
小沛を落とすことに成功した。
補充の兵をあまり出せない中でのこの大戦果に、
孫権は小躍りするほど喜んだものだった。

 ミニマップ

孫 権「だが、それとこれとは全く関係ない!
    この報、笑って聞いてなどいられぬわ!
    金旋め……わしを舐めている!」
劉 備「……ああ、金旋が大軍を引き連れ、
    荊州にて軍事演習を行う、という話でしたな」
孫 権「演習と言ってはいるが、
    実際は我が軍に対する牽制だ。
    お主は、例の噂を聞いているか?」
劉 備「我が軍が廬江・柴桑の兵をもって、
    金旋の荊州を攻める……。
    そういう噂は、先頃から聞かれてますな。
    まあ、聞いた時は一笑に付しましたが」
孫 権「そうだろう。
    これまで『仲良く』というわけではないが、
    金旋とは協力して曹操に当たってきた。
    それを考えれば、この程度の噂、
    笑って受け流すべきものだろう」
劉 備「しかし、金旋は殿を疑っている。
    そう思っておられますか」
孫 権「ああ。はらわたが煮えくり返る思いだ。
    奴が弱小の頃から不戦の立場を取り、
    勢力を広げる手助けをしたのはこの孫権ぞ!
    それをなんだ!? これがその礼か!?」
劉 備「ま、まあまあ、落ち着かれませ。
    金旋もすでに高齢の身でござる。
    実際に殿にお会いになったこともなく、
    急に心配になったのでしょう」
孫 権「……そんなものなのか?」
劉 備「は、年寄りというものはそういうものです。
    そう目くじらを立てることではありますまい」
孫 権「ふむう……そうだな。
    同世代のお主が言うと説得力があるな」
劉 備「ふぐっ……ひ、ひどい」
孫 権「……しかし、どうしたものだ?
    本音を言うと、金旋軍と争いたくはない。
    これが正直なところだ。
    かといって、表向き軍事演習と言ってるところに、
    『あの噂は根も葉もない噂だ』などと説明するのも
    間抜けすぎる話だ」
劉 備「ならば、放っておけばよろしい。
    柴桑・廬江などには兵は十分おり、
    金旋が本気で攻めてくるとは到底思えませぬ。
    ここは、どう動くか様子を見るべきかと」
孫 権「そうだな……。
    金旋がどう考えているのであれ、
    今の戦力であれば奴も迂闊には攻め込めぬ。
    よし、金旋軍の動き、しっかと見定めよ」
劉 備「はっ」
孫 権「わしは柴桑に向かう。
    今後について、軍師と話をしておきたい」
劉 備「では、廬江は私にお任せを」
孫 権「それは却下だ。後は妹に任せる。
    ちゃんと命令を聞くのだぞ」
劉 備「うほっ、孫尚香どのですか」
孫 権「……なんだ、そのウホは?」
劉 備「い、いえ、何でもありませぬぞ」
孫 権「まあいい。ではな」
劉 備「ははっ、孫尚香どのの補佐は、
    この劉備にお任せあれ。ムフ」
孫 権「不安だ……」

不安を抱えながらも、孫権は柴桑に向かった。
金・孫の緊張が次第に高まっていく中、
どういう状況になっていくのか。

『全ては、我が策の通りに……』

[第八十一章へ戻る<]  [三国志TOP]  [>外伝2へ進む]