○ 第七十七章 「管輅を探せ!」 ○ 
216年9月

 頓丘

9月。
高唐港を占拠し平原に上陸を果たした金旋は、
5万の全ての兵を率いて頓丘へ向かう。

  下町娘下町娘  金玉昼金玉昼

下町娘「港を守る兵を置いといた方がいいんじゃないの?
    もし奪われちゃったら、帰る道なくなるよー」
金玉昼「守りに数千程度の兵を置いても、
    敵に狙われたら絶対持ち堪えられないにゃ。
    それなら、最初から兵を置かないことで
    『いつでも取れる』と思わせておく方が、
    結果的には上手くいくのにゃ」
下町娘「そういうものなのかぁ」
金玉昼「兵法とはそういうものにゃ。
    重要な場所だけど、あえてどうでもよいように扱う。
    そうすれば相手もそこを重要ではないと見てしまう。
    『重きを軽きとし、敵を欺く』の計にゃ」
下町娘「ふーん……。確かに、
    がら空きの場所を重要な所とは思いにくいけど」
金玉昼「そこらへんはぬかりはないにゃ。
    それより、町娘ちゃんは頓丘に何があるのか、
    ちちうえから聞いてるのかにゃ?」
下町娘「んー? 痔薬の職人がいるんでしょ?」
金玉昼「あー、はいはい。聞いてないのにゃ……」
下町娘「え? 違うの?」
金玉昼「実は、薬職人ってのはでまかせにゃ。
    みんなを納得させるためにウソついたのにゃ」
下町娘「ええっ、うそ!? 言われてから毎日、
    真面目に薬学の勉強してたのに!
    あの苦しかった日々はなに!?」
金玉昼「全くの無駄になるかにゃ……」
下町娘キシャー!

そうこうしているうちに頓丘に到着。
兵を動員し、その地に砦を作り上げ、
部隊はしばらくそこに駐留することとなった。

  金旋金旋   トウ艾燈艾

燈 艾「と、砦が、完成いたしました」
金 旋「おう、とりあえず兵を休ませとけ」
燈 艾「は、はっ」
金 旋「さて、曹操軍が動く前にカタつけないとな」
燈 艾「痔薬の職人のところを、お、訪れるのですか?」
金 旋「……それは表向きの話な。実は違うんだ。
    本当は、管輅という者を探している」
燈 艾「カン……そ、それは何者ですか?」
金 旋「占いを生業としてるらしいが、詳しくは判らん。
    とにかく、管輅を探せ。会って話がしたい」
燈 艾「はっ、承知しました」

金旋は燈艾らに命じ、管輅を探させる。
やがて10日後、それぞれがそれらしい人物を連れてきた。

まず、燈艾。

燈 艾「つ、連れて参りました。
    この方でよかったでしょうか」
金 旋「おう、よく連れてきて……。
    ってこの人、足がないんだが」
顔 良関羽はどこじゃ〜
金 旋「えーと、カンロじゃなくてガンリョウね。
    名の響きは似てるが、全く別人だな。
    とりあえず丁重に供養してやれ」
燈 艾「は、はい……」
顔 良「コノウラミハラサデオクベキカ〜」

燈艾は祈祷師を呼び、顔良の霊を丁重に供養する。
『劉備が自軍にいるのを教えようとしたのに、
 あいついきなり斬りかかってきてよう……』
たっぷりと愚痴を吐いてすっきりした顔良は、
そのまま成仏したのであった。

次に、鞏恋。

   鞏恋鞏恋

鞏 恋「連れてきたよ」
金 旋「えーっと、お名前は……。
   ……『甘露樹』さんね。
   個人的にはファンだし、会えてうれしいがな。
   この人は『あまづゆ』さんだ。字も違うし」
鞏 恋「ソレハシツレイシマシタ」
金 旋「棒読みだぞ。
    とりあえずスケッチブックに絵を描いてもらえ。
    終わったら帰ってもらうように」
鞏 恋「了解〜」

鞏恋は甘露樹に萌え萌えなキャラを描いてもらい、
謝礼を渡して帰ってもらった。
ちなみにその絵は額縁に入れられ、家宝となったらしい。

そして、下町娘。

下町娘「連れてきました!」
金 旋「ほう、自信満々のようだが……」

   関羽関羽

関 羽「何なのだ、こんなところに連れてきて……」
金 旋「……なんで関羽やねん。
    とにかく違う人だ。とっとと帰しなさい」
下町娘「しょぼーん……。
    すいません、そういうわけですので、
    帰ってもらっていいですか?」
関 羽「ふむ、人違いか。まあ気にするでない。
    この赤兎馬ならば、千里の道もすぐ戻れるからな」
下町娘「申し訳なかったです〜」
関 羽「ではさらばだ、綺麗な御夫人……やあっ!」

関羽はそう言って赤兎馬にまたがると、
ものすごい勢いで去っていった。

下町娘「綺麗な御夫人だって。きゃっ♪」
金 旋「……俺が誰なのか気付いてなかったようだな。
    案外、抜けてるんだな……」

そして最後に、金玉昼。

金玉昼「連れてきたにゃ」
金 旋「頼むぞー。合っててくれよー。
    もうネタ要員はいらねーよー」
金玉昼「……? よく判らないけど、どうぞー」

   管輅管輅

管 輅「なるほど、貴方様が金旋さまですか」
金 旋「お、お前が管輅か!?」
管 輅「そうです、私が変な管輅です」
金 旋「……変?」
管 輅「あそーれ、変なかーんろ、だかーら変なかーんろ。
    変なかーんろ、だかーら変なかーんろ」
金 旋「あ、頭おかしいぞ、このジジイ。
    一体、どうすりゃいいんだ?」
金玉昼「わ、私に聞かれても困りまひる」
管 輅「……はっ!? し、失礼しました。
    新しい占い用に試してみた薬が、
    まだ抜け切っておらぬようで」
金 旋「……何の薬かは聞かないでおく」
管 輅「薬の作り方は大麻の葉を乾燥させ……」
金 旋「そんなの言わんでいい!
    と、とにかく、管輅本人だということは判った。
    では、玉。ちょっと席外してくれんか。
    管輅と二人で話がしたい」
金玉昼「……はいにゃ」

パタンと扉が閉まり、部屋には金旋と管輅が残された。

金 旋「で、だ。今日、お主を呼んだのは……」
管 輅「如何にして寿命を延ばすか。
    それを聞きたいのでございましょう」
金 旋「ま、まだなにも言ってないぞ? なぜ判る」
管 輅「何も驚くことはございませぬ。
    今朝、卦を立ててみましたらそう出ました故。
    ですので、身支度を整えてお迎えが来るのを
    待っておりました」
金 旋「……流石だな。では、説明は不要だな。
    寿命を延ばす方法、是非に教えてくれ」
管 輅「判りました。
    天下の楚公である金旋さまの頼みです。
    ただ、ひとつだけお断りしておきます」
金 旋「断り?」
管 輅「寿命とは天命です。
    これを延ばす方法、これを皆が知ってしまいますと
    天地の理がひっくり返ることになります。
    ですので、他言は絶対に無用でございますぞ」
金 旋「そこらへんは心得ている。安心しろ」
管 輅「では……。
    桂陽の地に、南山という山がございます。
    この山は、人の寿命を司る北斗と南斗、
    この二人が時折、碁を打ちに参る場所なのです」
金 旋「ほう……そのようなところが」
管 輅「貴方さまはそこで待ち受け、この二人が現れたら、
    気付かれぬように肉と酒を差し出しなさいませ。
    そして二人が飲み食いを終えた後、こう頼むのです。
    『私の寿命を延ばしてください』と」
金 旋「それで、延ばしてもらえるのか」
管 輅「はい、施しを受けた後ならば必ずや」
金 旋「ふむ……わかった。桂陽だな。
    よく教えてくれた。礼を言うぞ」
管 輅「はい。しかしひとつだけ、ご注意がございます」
金 旋「……なんだ?」
管 輅「人の寿命は、あらかじめ決められております。
    これは、人である限り皆同じにございます」
金 旋「そうか。それが天命というものか?」
管 輅「はい、天がお決めになったことです。
    そして、金旋さまの尽きかけた寿命を延ばすには、
    それ相応の代償が必要となります。
    例えば、同じ分だけの他人の寿命とか……」
金 旋「なにっ? では、俺の寿命が延びる分、
    誰かの寿命が縮むというのか?」
管 輅「はい。これを『等価交換の法則』と申します。
    この法則は、例え神であっても変えられません。
    一人の寿命を増やした分、違う者の寿命が減る。
    全く、この世はよく出来ているものです」
金 旋「むむ……ということは、
    誰かの命を吸って寿命を延ばすということか」
管 輅「その通りでございます。
    ただ、金旋さまはすでに60歳を過ぎております。
    いくら寿命を延ばしたとて、80歳前後が限度。
    これは私見ですが、20年程度ならば、
    金旋さまに少しでも長く生きてもらい、
    この世を平和に導いてもらった方が、
    その者にも民全てにも良いことと考えます」
金 旋「うむう……」
管 輅「ただ、何かしら代償はあるということだけ、
    記憶に留め置きくださいますよう……」
金 旋「うむ……。ある人物にこう説かれた。
    俺の命は俺一人の命ではない、とな。
    他人の命を吸って生き長らえるのは心苦しいが、
    まだ俺は倒れるわけにはいかん」
管 輅「はい、必ずや平和な世をお作りください。
    ……では、私はこれにて失礼いたします」
金 旋「あ、待て管輅。まだ褒美も何も……」
管 輅「ははは。私は占いをする以外に能のない爺。
    金旋さまに呼び出され、たわ言を申しただけです」
金 旋「たわ言?」
管 輅「そうです。たわ言です。
    それを信じる信じないは金旋さまの勝手。
    どう転んでも、それは金旋さまが選んだ道。
    私は何もしてないも同然なのです」
金 旋「ふむう。そう言われるとそうかもしれん」
管 輅「ですから、褒美を貰うような理由はありません。
    それよりも、早くこの戦乱を終わらせ、
    平和な世を築かれますよう」
金 旋「わかった。だが礼だけは言わせてくれ、管輅。
    必ずや、平和な世を作り上げてみせるからな」
管 輅「はい、では失礼致します……。
    あ、変なかーんろ、だかーら変なかーんろ」

管輅はトリップした表情で、その場を辞していった。

金 旋「北斗と南斗か……。
    なにやら秘孔とか突かれそうだが……」

10月半ば頃、金旋の部隊は砦を放棄し、
高唐を経由して黄河を遡り、洛陽へ向かって戻っていった。
その早すぎる引き際は、曹操軍や民たちが
何事なのかと首を傾げるほどであった。
12月の頭には、すでに金旋は洛陽に到着し、
次の行動の準備をしていたという。

    ☆☆☆

洛陽・虎牢関

さて、金旋が頓丘で管輅を探させていた頃。
場所は洛陽の東、虎牢関。
この関を20万の大軍で陥落させた司馬懿は、
5万の守備兵を残し、残りの軍を徐庶らに預け、
洛陽に戻させていた。

  徐庶徐庶   韓遂韓遂

徐 庶「さーて、司馬懿の姐さんが戻るまで、
    しっかり内政やっとくかね」(ベンベン)
韓 遂「その楽器をベンベンはじくのやめてくれんか。
    気になってかなわん」
徐 庶「そう気にすんな。音楽は人の心を癒すもんだ。
    韓遂のおっさんも城壁修復とか、よろしくな」
韓 遂「うむ、それは任せてもらってかまわないが……。
    しかし、司馬懿はなにゆえ虎牢関に残ったのだ?」
徐 庶「人材登用のため、だとさ。
    登用し終わったらすぐに戻るそうだ」
韓 遂「捕虜の登用か?
    別に、他の者に任せてもよかろうに……」
徐 庶「一人、自分でないとダメな奴がいるそうだ」
韓 遂「……ああ、確か兄弟がいるんだったな。
    名は確か……グリーン、じゃなかった、
    バンカー、でもない……なんだっけ」
徐 庶「……それは狙ってるボケなのか?
    司馬孚(しばふ)だろ」
韓 遂「ああ、それそれ」
徐 庶「司馬孚は確か、弟だったはずだが。
    しかし、ちょっと変なんだよな……」
韓 遂「変? 何が?」
徐 庶「司馬家には8人の優秀な兄弟がいる、
    というのは聞いていた。
    だが、中に女がいるとは全く聞いたことがない」
韓 遂「司馬懿は男の着ぐるみを着ていたのであろう?」
徐 庶「子供の頃からか? 30年近くも?
    子供の時分からなら、別に着ぐるみではなく、
    男の格好をしているだけでいいだろう?」
韓 遂「……む、そう言われると不自然だな。
    なぜに着ぐるみなど着ていたのであろう……」
徐 庶「これは推測でしかないが……。
    司馬懿は司馬懿本人ではないのではないか?」
韓 遂「なに? どういうことだ?」
徐 庶「……いや、不確かなことは言うのはやめておこう。
    彼女の才が一流であるのは確かなのだし」
韓 遂「気になるところでやめるでないわー!
    一体どういうことなのだ!?」
徐 庶「ま、端的に言うとだな。
    『過去にいろいろあったんだろう』ってことさ」
韓 遂「い、いろいろ、だと!? で、では、
    あーんなことこーんなことが!?」
徐 庶「おっさんおっさん、変な妄想しすぎ」
韓 遂「あ、いかん、鼻血が」
徐 庶「……どうしようもないな、このおっさん」

現在虎牢関では、司馬孚・閻柔・張苞・周倉といった
陥落の際に捕らえられた人物が捕虜になっていた。
司馬懿は、そのうちの一人、司馬孚と面会する。

  司馬懿司馬懿  司馬孚司馬孚

司馬孚「やはりあなたか、司馬懿……いや……」
司馬懿「……それ以上は言わないでください。
    今の私の名は司馬懿です。
    それ以外には何もありません」
司馬孚「何故そこまで、司馬懿の名に拘るのですか。
    兄上の名に……」
司馬懿「私は司馬懿の名を歴史に残したい。
    ただそれだけです。それ以外には何もない」
司馬孚「歴史に名を?」
司馬懿「ええ、そうです。
    そのためには、どんなことでもやるつもりです。
    例えそれが、悪名を上げる結果になっても……」
司馬孚「悪いことで名が残っても良いと、そう申されますか」
司馬懿「ええ……とにかく、『あの人』の名が、
    人々の記憶に残りさえすればいいのです。
    生きてさえいれば、必ずや歴史に、人の記憶に、
    その名を残したでしょうから……」
司馬孚「義姉上……」
司馬懿「そのために、貴方には我が軍に来てほしい。
    才を備えた貴方に協力してほしいのです。
    そしてそれは、司馬家の名を高めることにも
    繋がるでしょう」
司馬孚「……しかしそれは、私の主義に反します。
    私は、忠義を貫きたいのです」
司馬懿「兄のために主を変えることは、
    全く恥ずかしいことではありませんよ。
    それに、貴方が曹操の元に戻ったとて、
    曹操は貴方を斬るでしょう」
司馬孚「えっ!? い、一体、なにを……」
司馬懿「言ったはずです。どんなことでもやると。
    貴方に選ぶ道は、もはやひとつしかないのです」
司馬孚「くっ……恨みますぞ」
司馬懿「恨んでくれて結構です。
    その分、貴方の心に司馬懿の名が
    刻み付けられるのですから」
司馬孚「……義姉上! 貴女は狂っている!
    まともな精神ではない……!」
司馬懿「まともではない。そうかもしれません。
    ですが、今更私はやめるわけには行かない。
    死するその瞬間まで、私は司馬懿の名を
    人々の心に刻み込みます」

この月、司馬懿は司馬孚を登用。
その他、閻柔・張苞・周倉など、捕虜を全て登用し、
陣容を強化していった。

    ☆☆☆

12月。
場所は、虎牢関から東にある陳留。

現在の皇帝劉協が、幼少の頃は陳留王として
この地を与えられていたこともあり、
民には、今の漢に対して好意的な者が多かった。

その皇帝は、今は金旋に保護されている。
陳留を曹操の手から解放し、金旋に献じようとする
動きが出てきても、さほど不思議なことではない。

そして、その計画は実行に移された。
12月も末、風の強い日を待って火を放ち、
その騒ぎに乗じて太守らを殺し、軍を掌握。
金旋軍を迎え入れる……という計画であった。

だが、その計画は失敗した。
陳留太守である王凌が、騒ぎの拡がりを阻止。
首謀者たちは兵たちに包囲され、追い詰められていた。

韋 晃「……ここまでか。上手くいくと思ったのだがな」
耿 紀「相手を甘く見ていたのかもしれぬ。
    だが、今更それを言ってもしょうがあるまい」
韋 晃「確かにな。では、壮絶に討死でもするか」
耿 紀「うむ。我々の意思は、彼が継いでくれるはずだ」
韋 晃「無事逃げのびただろうか……。
    あいつはまだ若い。我らと共に死ぬことはない」
耿 紀「彼の活躍を、是非見てみたかったものだ。
    しかしそれも叶わぬか……。
    そろそろ、来るようだな」
韋 晃「では、行くか」
耿 紀「うむ。……夢を託すぞ、金偉!」

包囲された韋晃・耿紀らは全て討ち果たされる。
彼らの一族も捕らえられ、斬首された。
しかし、この事件はそれほど大事として扱われず、
金旋軍にも『陳留で反乱が失敗した』としか
伝えられなかった。

だが、その中で一人生き延びた少年がいた。
彼の存在が、後の金旋軍に影響を与えることとなる……。

[第七十六章へ戻る<]  [三国志TOP]  [>第七十八章へ進む]