○ 第七十五章 「緊急召集洛陽大会議」 ○ 
216年7月

洛陽

ただいま軍議会場は、突然の騒ぎに紛糾致しております。
金旋の挙げた議題に紛糾しているわけではなく、
蛮望が突如として「一番美しいのは私よおっ!」
と暴れ出したため、これを抑えようと大乱闘に
なってしまった模様です。

なお未確認情報ですが、蛮望が暴れ出す直前に
『ミス金旋軍には下町娘』と呟く声が聞こえたとのこと。
この呟きが誰のものなのか、当局が現在調査中、
という情報が入っております。

しばらく軍議再開の目処が立ちませんので、
ここで、金旋楚公就任に伴う爵位変更時に録りました
各者のインタビューをお送り致します。
軍議再開まで、しばらくそちらを御覧ください。

    ☆☆☆

   杏

 杏 「はい、こちら爵位発表の掲示板前です。
    現在ここは、掲示板を見ようとする諸将で
    かなりごった返してます。
    ここで爵位の変わりました方々に、
    それぞれインタビューをしたいと思います。
    各者、悲喜こもごもの表情を御覧ください」

 杏 「まずはどなたから行きましょうか……。
    あっ、あの頭に突き出した2本の角、もとい反骨。
    魏延将軍ですね、インタビューお願いします。
    今回の人事は、総じてどう思われるでしょうか」

   魏延魏延

魏 延「不満だな。
    いや、殿のお考えが判らん訳ではないぞ。
    だが武官の序列は、実績をもっと考慮して欲しく思う」
 杏 「魏延さんは右将軍から安東将軍に昇格しましたが、
    これでも不満があると?」
魏 延「いや、私のことではない。
    実績のない者が上に来ることに、納得できんのだ」
 杏 「なるほど。魏延さんの上位に抜擢された方々、
    徐庶・燈艾といった面々ですね」
魏 延「うむ。司馬懿・郭淮といった辺りが、
    ようやく実績を積んできたというのに、
    また新参の者を上位に置かれるとは……。
    これでは下の者が不満を持つのは必然だ」
 杏 「ふむ。どうも不満タラタラのご様子。
    流石は反骨の士の魏延さんですね。
    もう不平分子の筆頭格ですね。
    ありがとうございましたー」
魏 延「ちょ、ちょっと待て!
    それでは私が先頭きって不満を言ってるように……」
 杏 「さて、サクサク行きましょう。次の方は……」
魏 延人の話を聞けー!

 杏 「あっ、あの目立つ被り物は燈艾さんですね。
    失礼します、インタビューお願いします」

   トウ艾燈艾

燈 艾「あ、は、はい」
 杏 「今回、いきなり上位の鎮南将軍に抜擢ですが、
    これについて一言、どうぞ」
燈 艾「こ、光栄の、い、至りです。頑張ります」
 杏 「しかし、未だ戦場での実績はなく、
    他の人から不満の声もあがってますが……」
燈 艾「そ、そうですが、今後能力を示せばよいことです。
    実績は、こ、これから積み重ねて行きます」
 杏 「うーん、謙虚な中にも自信が見られますね。
    期待の若手将軍、燈艾さんでした」

 杏 「次は……あっ、目立たないけど実は影の実力者、
    楽進さんを発見です。
    楽進さん、インタビューお願いしまーす」

   楽進楽進

楽 進「目立たないは余計だが……」
 杏 「あ、聞こえてましたか。失礼しました。
    今回、討逆将軍から軍師将軍に昇格しましたが、
    李厳・霍峻という面々に上に行かれてしまいました。
    これについて、一言お願いします」
楽 進「別に気にしてはいない。彼らも一流の将だ。
    これからの金旋軍を背負っていくのは、
    彼らのような若い者たちだ」
 杏 「あらあら、急に老けこんだ言葉が……」
楽 進「はっはっは、勘違いしないでほしいな。
    たしかに大将としての軍の指揮は彼らに任せるが、
    戦場の先陣は譲る気はない」
 杏 「あ、なるほどー。結局は大将でいるより、
    先陣切って戦いたいだけですね」
楽 進「はっはっは、その通り。
    あと二十年は先陣で戦い続けるぞ」
 杏 「うーん、今年で57歳とは思えませんねえ。
    まだまだ若い楽進さんでしたー」

 杏 「えーと、他にめぼしい人は……あら、あれは。
    いや、とても珍しい取り合わせですね。
    蛮望さん、公孫朱さんのお二人です」

  蛮望蛮望   公孫朱公孫朱

蛮 望「あら、なに、インタビュー?」
 杏 「はい、よろしくお願いします」
蛮 望「しょうがないわね、これだから人気者は……」
 杏 「えーと蛮望さんは何か勘違いされてるようなので、
    先に公孫朱さんにお聞きします」
蛮 望「ちょっと! それってどういう……」
 杏 「(無視無視)今回、文官の主簿に任じられましたが、
    これについてはどう思ってますか?」
公孫朱「別に文官の爵位を受けたからといって、
    自分の本質が変わるわけではない。
    武官の一員として、戦場で懸命に働くつもりです」
蛮 望「あーら、何を真面目ぶってるのよこの娘は。
    戦場で生死を賭けて戦う屈強な男たちを、
    ヨダレたらしながら鑑賞したいってのが本音でしょ?」
公孫朱「そんな理由で戦ってるのは多分貴方だけです」
蛮 望「口ではどうとでも言えるわね、おーほほほ」
 杏 「えー、蛮望さんも文官爵位を貰ってますが……」
蛮 望「私の才能を戦だけに使うのは勿体無い、
    金旋さまはそう思ってるのでしょうね。
    でも、でもダメなのよ……。
    私は戦場でしか生きられないオ・ン・ナ
    文官として部屋の中に篭って仕事するなんて、
    この私には似合わないわ」
 杏 「オンナじゃなくてオカマですが。
    あ、最後の言葉だけは激しく同意します」
公孫朱「正直なところ、余りにもお馬鹿さんなので
    爵位ボーナス(知力+1)を何とか足しにしたい、
    というところだと思うのですけど」
 杏 「しーっ、あまり本当のことを言うものじゃないわ」
蛮 望「(聞こえてない様子)
    ふふふ、でも金旋さまに期待されてると思うと、
    まんざら悪い気はしないわね。おーっほっほ!」
 杏 「えーっと、文官の爵位を受けました、
    蛮望さんと公孫朱さんでしたー」

 杏 「えー、そろそろインタビューを切り上げ……。
    あら、何か涙を流し咽び泣いている方が。
    もしもし、大丈夫ですか?」

   魏光魏光

魏 光「うっうっ、いえ、大丈夫です、はい」
 杏 「今回、文官爵位の侍郎となった魏光さんですね。
    どうしましたか、お腹でも痛いんですか」
魏 光「い、いえ。ようやく私も爵位を貰えたんだと。
    そう思ったら、涙が止まらなくて……」
 杏 「そうだったんですか、よかったですね。
    あ、このハンカチで涙ふいてください」
魏 光「は、はい。ありがとうございます……。
    あまり見かけない顔ですけど、どちら様ですか?」
 杏 「あ、私のことは気にしないでください。
    どこの人でもありませんから」
魏 光「は? それは一体、どういう……」
 杏 「それじゃ、インタビューも録り終わったので、
    これで失礼しますね。さよなら〜」
魏 光「失礼するって……え、ええっ!?」

すーっと、杏の姿が消えていった。
魏光が何度瞬きしても、目の前には誰もいない。

魏 光「……んな、んななすいにしちほほほほ!」

訳の判らないことを叫んで、その場から魏光は逃げ出した。

☆ 文 官 爵 位 ☆
尚書令 金玉昼
太僕 鞏志
太常 費偉
光禄大夫馬良
中書令 潘濬
御史中丞劉巴
執金吾 韓浩
少府 魏劭
秘書令 劉曄
侍中 張既
留府長史蒋済
太学博士崔炎
謁者僕射厳峻
都尉 萌越
黄門侍郎伊籍
太史令 蔡瑁
郎中 田疇
従事中郎孔翊
長史 王粲
司馬 秦泌
太楽令 何曾
大倉令 卞志
武庫令 糜竺
衛士令 郭奕
主簿 公孫朱
諌議大夫蛮望
侍郎 魏光
中郎 下町娘
☆ 武 官 爵 位 ☆
鎮東将軍司馬懿
鎮南将軍燈艾
鎮西将軍徐庶
鎮北将軍郭淮
安東将軍魏延
安南将軍甘寧
安西将軍朱桓
安北将軍韓遂
左将軍 于禁
右将軍 李厳
前将軍 金閣寺
後将軍 霍峻
軍師将軍楽進
安国将軍李典
破虜将軍満寵
討逆将軍(空位)
威東将軍鞏恋
威南将軍金目鯛
威西将軍凌統
威北将軍蒋欽
牙門将軍文聘
護軍 魏緒
偏将軍 秦綜
碑将軍 髭髯龍
忠義校尉趙囲
昭信校尉卞柔
儒林校尉黄祖
建議校尉謝旋
奮威校尉髭髯鳳
宣信校尉髭髯豹
破賊校尉(空位)
武威校尉(空位)

    ☆☆☆

以上が、爵位変更時のインタビュー、及び爵位表になります。

さて、軍議会場の騒ぎがようやく収まり、
軍議再開の目処が立った模様です。
なお、ボコボコにされ気絶した蛮望が運び出されましたが、
このことは、軍議には全く影響しないと思われます。

それでは、軍議会場から中継を再開します。

   金旋金旋

金 旋「というわけでだ。
    部隊を曹操領内、頓丘にまで進める。
    陣を築いてしばらく駐屯した後、軍を引き揚げる。
    この侵攻作戦を実行するぞ」

頓丘まで何マイル
  頓丘への道のり

   司馬懿司馬懿

司馬懿「それは、決定事項ですか?
    頓丘まで侵攻して、なおかつすぐに引き揚げるとは。
    あまりにも利のない作戦のように思いますが」
金 旋「うむ。確かに利はないように見えるだろう。
    しかし、この作戦を成功させることこそ、
    我が軍の未来を開く結果になると思ってくれ」
司馬懿「その理由の説明は、していただけませんか」
金 旋「……すまん。それは言えんのだ」
司馬懿「しかし、それでは将も兵も納得致しますまい」
金 旋「む、むむ……」

司馬懿にそう言われ、言葉に窮する金旋。
その時、新たに発言する人物がいた。

   金玉昼金玉昼

金玉昼「曹操軍の領内に深く攻め入ることで、
    敵の防衛網を混乱させ、我が軍の力を示す。
    それだけで十分ではないかにゃ」
司馬懿「……ふむ。確かに曹操軍にしてみれば、
    晴天の霹靂となりましょう。
    ですが頓丘まで行く必要は……」
金玉昼「しょうがないにゃ。本当のことを言いまひる」
司馬懿「本当のこと? それは一体……」
金玉昼「実は、頓丘には『重要な人物』がいまひる」
金 旋「い……っ!?」

いきなりの金玉昼の言葉に、金旋は驚いた。
管輅のことは、誰にも話してないはずなのに。

司馬懿「重要な人物、ですか?」
金玉昼「それは……痔の治療薬を作る職人なのにゃ」
金 旋「……へ?」
金玉昼「ちちうえの痔は、完全に治ってはいないにゃ。
    そこで、治療薬を作る職人に会い、
    調合方法を伝授してもらう必要がありまひる。
    ちちうえ、そういうことにゃ?」
金 旋「はあ……あ、うん、そ、そうなんだ」
司馬懿「なるほど……それで頓丘にこだわるのですか。
    しかし、それで軍を動かすのは大げさでしょう。
    その職人をこちらに招けばよいだけでは?」
金玉昼「その職人は高齢で、自宅から出られないのにゃ。
    そのため、直に会って習うしかないのにゃ。
    ……下町娘ちゃんが」

   下町娘下町娘

下町娘「え、えええええっ!?」
金玉昼「下町娘ちゃんは治療の技術を持ってるにゃ。
    その彼女に、調合方法を習わせて帰ってくる。
    これが作戦の真の目的にゃ」
司馬懿「ふむ……。なるほど……。
    確かに閣下が言いよどむのも判ります。
    ご自分の痔を理由に軍を動かすなど、
    恥ずかしい限りですから」
金 旋「そ、そうなんだ……。すまなかったな」
司馬懿「お聞きの通りです、皆さん。
    この作戦、異議のある者はおりませんね?」

 『異議無し!』
 『金旋さまの痔の治療のため頑張るぞ!』
 『痔は辛いですからねえ……』

司馬懿の問いに、諸将からはそんな声が挙がった。
その声に、金旋は少し照れたのか頬を赤くした。

金 旋「う、うむ、皆ありがとう……。
    では、出撃する陣容だが……」
金玉昼「部隊の大将は、ちちうえ自ら率いるにゃ。
    職人さんに一度診てもらう必要がありまひる。
    付随する将は、まず下町娘ちゃん。
    そのほかは、私、鞏恋ちゃん、燈艾さん。
    兵は5万、と。これでいいかにゃ」
金 旋「う、うむ。それで問題はない」
金玉昼「燈艾さん、恋ちゃん、町娘ちゃん、
    それぞれも大丈夫かにゃ?」

  トウ艾燈艾   鞏恋鞏恋

燈 艾「は、はい。お任せください」
鞏 恋「はーい」
下町娘「あんまり大丈夫じゃないけど、はぁい……」
金玉昼「じゃあ、部隊の陣容は以上で。
    出撃中の留守役は、司馬懿さんにお任せするにゃ。
    洛陽、及び孟津港をしっかり守るように」
司馬懿「は。承知致しました。
    しかし、留守役は受け賜りますが、
    少しばかり、作戦を変えていただきたい」
金玉昼「作戦を変える?」
司馬懿「虎牢関を攻めてはいかがでしょう。
    ここを攻めることで、曹操軍の目を逸らし、
    また洛陽の防衛にも繋がることになります」
金 旋「ふむ、それはなかなかいい考えだ。
    虎牢関を落とせば、洛陽も安泰だしな。
    血の気の多い連中も満足させられるし」

   魏延魏延

魏 延「血の気の多いとは誰のことでしょうか!?」
金 旋「はっはっは、言わなくても判るだろう。
    司馬懿、魏延は出陣メンバーに加えろよ」
司馬懿「はっ、承知しました」
金玉昼「では、二方面作戦を採るということで……。
    詳細な作戦は、後日に発表するにゃ」
金 旋「よし、これで軍議を終わる」

 『起立!』
 『礼!』
 『ありがとうございましたー』

どうやら軍議が終わった模様です。
席を立った諸将がそれぞれ、
会議室を退室していっております。
それでは、軍議会場より失礼致します。

☆☆☆

諸将が皆退室していき、
会議室に残ったのは、金旋と金玉昼。

  金旋金旋   金玉昼金玉昼

金 旋「……どういう風の吹き流しだ?」
金玉昼「それを言うなら『吹き回し』にゃ」
金 旋「……そうとも言う。俺が聞きたいのはだな、
    なんであんなことを言ったのかということだ」
金玉昼「あんなこと?」
金 旋「痔の治療とか、でまかせ言っただろう」
金玉昼「んー。ああでも言わないと、皆が納得しないにゃ。
    それとも、ちちうえが本当のことを話すのかにゃ」
金 旋「い、いや……それは言えん。
    助かったのは確かだ、すまん」
金玉昼「いえいえ。
    娘としては父を助けるのは当たり前にゃー」
金 旋「で、部隊の陣容は、何か意図があるのか?
    町娘ちゃんは習得に行くということだろうが、
    他の連中は……」
金玉昼「私は、計略防止用。ちちうえアホだから」
金 旋「はいはい、アホです。すいませんね」
金玉昼「残る二人、燈艾さんと鞏恋ちゃんは、口が堅いから」
金 旋「……燈艾はともかく、鞏恋は堅いかあ?」
金玉昼「あの人は約束したことは絶対守りまひる。
    安心して欲しいにゃ」
金 旋「そうか、ならいいんだが……。
    しかし玉、頓丘には……」
金玉昼「何か知らないけど、ちちうえが頓丘に用がある、
    というのは、表情見れば判ったにゃ。
    だから、別に説明してくれなくても結構にゃ」
金 旋「……すまんな、玉。
    俺はいい娘を持った……」(ひしっ)
金玉昼ひゃ、やーめーてー!
    ヒゲが、ヒゲがチクチクするー!

ひとしきり金旋に抱擁された金玉昼は、
ようやく解放されて、会議室を後にした。

金玉昼「まったく、ちちうえにも困ったものにゃ……」
???「そうですね」
金玉昼「ひっ!!!!」

誰もいないと思って独り言を言った金玉昼であったが、
思わぬ返事が返ってきて、心臓が飛び出るほど驚いた。

   司馬懿司馬懿

司馬懿「本来でしたら、このような作戦、
    認めたくはないのですが……」
金玉昼「し、司馬懿さんかにゃー。
    まったく、驚かさないで欲しいにゃ」
司馬懿「それは失礼しました。
    ですが、ひとこと言っておきたかったので。
    今回は騙されておきましたが、今後はあのような
    偽りごとはあまり言わない方がいいと思いますよ」
金玉昼「……ちちうえとの話、聞いてたのかにゃ」
司馬懿「いえ、そのようなことは。
    あの時の閣下や下町娘の反応を見て判ったことです。
    あの場を収めるために、信じたふりをしたまで」
金玉昼「……それはありがとう、にゃ」
司馬懿「いえいえ、礼には及びません。
    では、言いたいことも言ったので、失礼致します」

司馬懿はそれだけ言うと、背を向け去っていった。
それを見送り、金玉昼は一言呟く。

金玉昼「全てを見切るあの知謀……。
    とても、今は敵わない……。
    でも、いつかは……」

彼女の瞳には、決意の炎が灯っていた。

    ☆☆☆

7月上旬。
洛陽より、金旋を大将とする部隊が出撃した。
随行する将は金玉昼、燈艾、鞏恋、下町娘。
率いる兵は5万。

部隊は、まず孟津港へと向かう。
虎牢関を回避して、孟津から黄河を降り、
水路から侵攻するためである。

金 旋「行くぞ! 俺の……いや、
    わが軍の未来を勝ち取るための行軍だ!」

金旋は、無事に頓丘に着けるのだろうか?
そして管輅に会うことはできるのか……。

次回につづく。

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