216年6月
金旋、倒れる!(トイレで)
この報は一気に洛陽を駆け巡った。
失血のため気を失った金旋は、すぐに医務室に運ばれ、
ちょうど洛陽に滞在していたスーパードクターKadaが、
彼の緊急オペを行うこととなった。
華佗
下町娘
華 佗「それでは、オペを始めるぞ」
下町娘「は、はい」
看護士免許を持つ下町娘を助手にした華佗は、
神のメス捌きを見せ、手術を進めていく。
そして患部を開いた時、華佗は唸った。
華 佗「こ、これは……」
下町娘「ど、どうかしたんですか!?」
華 佗「……金旋どのは、毎日青汁を飲んでおるな」
下町娘「え、ええ。最近は欠かさず飲んでますが……。
何で知ってるんですか?」
華 佗「ほーれ、ウンコがこんな緑色〜」
下町娘「キャー!
ま、真面目にやってください!」
……このように緊迫したオペであったが、
そこは流石に名医華佗である。
流れるような早さで患部へ治療を施し、
すぐに傷口を縫合してしまった。
☆☆☆
金旋
金 旋「皆には心配をかけたな」
術後、意識が回復した金旋は、
翌日に諸将を集めて元気な姿を見せた。
魏延
楽進
魏 延「倒れたと聞いて驚愕しましたが、
実はただの痔だったとは……」
楽 進「椅子に座っていても大丈夫なのですか?」
金 旋「うむ、流石は華佗だな。
こうして座っていても、何の痛みもないぞ」
金目鯛
金玉昼
金目鯛「全く、人騒がせな親父だな……。
もう少し深刻な病なのかと思ったぜ。
手術の翌日に、こう元気になられてもなあ」
金玉昼「いっそ、しばらく寝ててくれてた方が
こっちとしてもやりやすかったけどにゃ」
金 旋「はっはっは。
この金旋、そう簡単には倒れんよ」
こうして、騒動は二日で収まった。
皆に元気な姿を見せた金旋は、その後、
執務室にて下町娘の淹れた茶をすすっていた。
金旋
下町娘
金 旋「皆、それほど心配した様子はなかったな」
下町娘「それはそうですよ。
あそこまで元気な姿を見せつけられて、
おまけに痔だと言われては……。
心配する方が変ってものです」
金 旋「そかそか。そうだろうな、痔だもんな〜」
下町娘「……あの」
金 旋「ん、どうした」
下町娘「……本当に、ただの痔なんですか?」
金 旋「な、何をいきなり。疑ってるのか?」
下町娘「手術中、助手として横から見てましたけど、
そんな単純な手術じゃありませんでしたよ。
華佗先生だからすんなり終わりましたけど」
金 旋「……そうか、看護士免許を持ってたんだっけ。
いや、そんな設定すっかり忘れていたよ。
いやー失敬失敬」
下町娘「とぼけないでください。
華佗先生に聞いてみても、
『金旋どのに全て話しておくから、彼に聞け』
としか言わないし……」
金 旋「ふむ……そうだな。
町娘ちゃんになら、話しておいてもいいか」
下町娘「ということは、やっぱりただの痔ではなく……」
金 旋「うむ」
下町娘「ものすごい痔なんですね!」
金 旋「なんでそうなる!
……って確かに外れてはいないが、ううむ」
下町娘「違うんですか?」
金 旋「ものすごい痔なのは確かだ。
だが、ただのものすごい痔ではない。
……次にもう一度出血すれば、死ぬ」
下町娘「ええっ!? し、死ぬって?」
金 旋「華佗のオペで応急処置はできたが、
この痔はかなり特殊なんだそうだ。
華佗の腕でも、根治治療は無理らしい」
下町娘「そ、そんな……」
金 旋「次に出血する時期はわからんらしい。
半年後か、1年後か、2年後か……。
だが確実に病状は進行していき、
次には今回以上の出血量となる。
そして失血死で、ポックリ」
下町娘「なんで、なんでそんな、
平気な顔で言ってられるんですか!?」
金 旋「今年で62歳……。
長寿という程じゃないが、それなりに長く生きた。
そろそろお迎えが来てもしょうがないだろう」
下町娘「それじゃ、統一の夢はどうするんですか!?
諦めちゃうんですか?」
金 旋「それは、死ぬまで諦めるつもりはない。
だが、俺が生きているうちに達成するのは、
難しくなったのは事実だろうな」
下町娘「……そんなぁ」
金 旋「そんな泣きそうな顔するない。
大丈夫、死ぬまではもう少し余裕がある。
それまでは泣かずに俺の補佐を頼むよ」
下町娘「は、はい。わかりました」
金 旋「それで、だ。
この話は他の奴には内緒にしてくれ。
特に玉や目鯛たちにはな」
下町娘「でも、家族じゃないですか。
折りを見て話しておくべきですよ」
金 旋「いや、あいつらのことだ。そんな話をしたら、
無理矢理に隠居させられてしまうだろう。
それは勘弁だ」
下町娘「うーん……確かに、
健康第一で考えたらそうですね……。
なるべく長生きしてほしいって思いますし」
金 旋「俺は死ぬまで現役でいたいんでな。
だから、バレそうになったら上手く誤魔化してくれ。
特に、玉はああ見えてかなりの心配症だから」
下町娘「はい……。で、でも、
なるべく無理しないようにしてくださいね」
金 旋「ああ、努力しよう」
下町娘に衝撃の事実を告白した金旋。
彼のその瞳には、絶望の色はなかった。
ただ、自分が亡き後どうなるか……。
どう転ぶかわからないそちらの方が、心配であったのだ。
???
???「な、なんだって……」
……その金旋と下町娘の会話を、
部屋の外から盗み聞きしている者がいた。
その者の名は、潘憲(ハンケン)という。
春頃、金旋に兵士から抜擢され、
司馬懿の指導を受けた後、将に昇格した人物である。
潘憲(ハンケン) 統率68 武力70 知力85 政治75
性格:冷静 兵法:奮闘・突進・罠破・教唆・混乱・罠など
この男、武芸・智謀ともになかなかの者なのだが、
少しばかり利己的な性格をしており、
司馬懿などにはそれを危ぶまれていた。
潘 憲「なんだよ……。
将に抜擢されてこれからって時に。
いや、待てよ……」
潘憲の頭の中ではじき出される打算。
それは、『こいつはネタになる』というものだった。
そして、翌日。
司馬懿「潘憲が行方をくらませました」
金 旋「うそっ!?」
司馬懿「本当です。このような手紙が……」
金 旋「……ぐ、ぐぬぬ。
目を掛けてやった恩を忘れたかっ!」
『世話になったぜ、あーばよっ』の置き手紙を残し、
潘憲は金旋軍を去った。
そして彼が向かった先は……。
諸葛亮
諸葛亮「我が軍に寝返りたいだと?」
潘 憲「はっ。それと、面白い情報を持って参りました」
諸葛亮「面白い情報……?」
潘 憲「金旋の命、長くはありません。
彼は不治の病を患っております」
諸葛亮「なんと」
潘憲は曹操軍に走り、金旋の病の情報をネタにして
登用を願い出る。
曹操はそれを認め、潘憲を登用した。
曹操
諸葛亮
諸葛亮「よろしいのですか。
金旋の差し向けた埋伏の毒、という可能性は?」
曹 操「心配ならば、見張りをつけておけばよい。
なに、あそこまで功名にこだわるような男だ。
偽りなどなかろう」
諸葛亮「では、金旋の病の話も本当だと?」
曹 操「金旋が術後、すぐに家臣の前に現れたそうだ。
その時点で、奴の命は短いと分かる」
諸葛亮「それは家臣の動揺を抑えるためなのでしょう。
しかし、なぜそれが命が短いと……」
曹 操「もし私が同じ立場にあったとして、
本当に大したことがないのならば、
『病に倒れて動けぬ』と噂を流しただろう」
諸葛亮「ふむ……敵を油断させるためにですな」
曹 操「金旋がそういう策を思いつかなかった、
という線もあったが、潘憲の証言で裏が取れた。
まあ、先が短いのは私も同じなのだがな」
諸葛亮「何をおっしゃいます。
閣下は大病を患ってはおりますまい」
曹 操「しかし、金旋の死を待てるほどではない。
今はまず、軍備再編を急ぐのだ」
諸葛亮「はっ」
曹 操「さて金旋……。
お前は死を目の前にして、何を為す?」
☆☆☆
季節が秋に変わり、7月。
金旋は朝廷より公に任じられた。
荊州(楚)を領していることから、
以後、彼は楚公と呼ばれるようになる。
なお、公となったことを機に、
配下の爵位変更が行われた。
燈艾と徐庶が武官の上位に抜擢され、
その他にも順位の変動が行われた。
(なお、この時の様子は次回お送りする予定)
金旋
下町娘
金 旋「いよいよ公か。
金旋とやらも偉くなったもんだな」
下町娘「そうですね。中身は大して変わってないのに」
金 旋「マテ、それはどういう意味だ」
下町娘「いい意味ですよ。
偉くなってもそれを鼻に掛けることもなく、
威張り散らすわけでもない。
ホント、いい上司の見本のような人です」
金 旋「そ、そうか? そう言われると、て、照れるな」
下町娘「おだてに乗りやすい性格も、
まーったく変わってませんけどねー」
金 旋「…………」
下町娘「キャー!
無言で玉璽を投げつけようとしないで!
それって国宝ですよ、国宝!」
金 旋「全く、君主なんだからもう少し敬ってくれい」
下町娘「敬ってますよー。給料分くらいは」
金 旋「……それは暗に『給料安いぞ、上げろ』
と言ってるのかな」
下町娘「いえいえ、そんなこと思ってませんよー。
爵位もらえて給料上がってますしー。
ほんの少しだけですけど」
金 旋「……はぁ、ちと疲れた。少し横になるぞ」
下町娘「えっ……? だ、大丈夫ですか?
お尻痛かったりしませんか?」
金 旋「急に心配な顔すんな。大丈夫だ」
下町娘「は、はい」
金 旋「ちょっと昼寝するだけだから。
少ししたら起こしてくれな」
下町娘「はい、わかりましたー」
金旋は下町娘を外に出し一人になると、
よっこらせと牀(ベッド)に寝そべった。
金 旋「さて……残り少ない命だが……。
この先……どうすべきか……」
そんなことを思案しながら、
金旋は眠りの世界へと入っていった。
☆☆☆
???「……どの。金旋どの……」
金 旋「……うーん。なんだよ、
そんなに時間経ってないだろ……」
???「起きなされよ、金旋どの」
金 旋「はいはい、今起きますよ。しかし町娘ちゃん、
いつの間に声がそんなにしわがれて……」
劉髭
ジャーン
金 旋「なっ……。そ、そんな……」
劉 髭「フォフォフォ。久しぶりじゃな」
金 旋「いつの間にそんなに老けた、町娘ちゃん!?
いつの間にかヒゲまで生えて!」
劉 髭「……まったく、寝ぼけとる場合か。
ワシの顔を見忘れたのかの?」
金 旋「……え? うそ、軍師?」
劉 髭「うむ、お主の初代軍師、劉髭じゃ。
死後の世界から、お主に会いに来たのじゃ」
金 旋「てーことは……もうお迎えかよ!?
うそー!? 早すぎだってばよー!」
劉 髭「はっはっは、そう動揺するでないぞ」
金 旋「た、頼む、頼みます死神博士!
せめて、せめてあと3日!
まだ食べてみたい食い物とかあるし、
遺言とかも残す暇を……」
劉 髭「誰が死神博士じゃ!
早合点するでないわ、お主はまだ死なんよ。
今日来たのは、お主に助言をしにきたのじゃ」
金 旋「助言をしに……?
も、もしかして、痔の治療法とかを?」
劉 髭「知ってるなら教えるがの、わしゃ知らん」
金 旋「なんだ……期待して損した」
劉 髭「ほう、そんなことを言うのか?
『寿命の延ばし方』を教えようと思ったんじゃが」
金 旋「ええっ!? じゅ、寿命を延ばすだって!
そんなことができるのか!?」
劉 髭「うむ。じゃがこれは、
本来やってはいけないことなのじゃ。
じゃから、他言は無用じゃぞ、よいな?
他人に話してしまうと、延ばした寿命も
無効になってしまうかもしれんぞ」
金 旋「わ、わかった……。
誰にも話さないと誓おう」
劉 髭「ふむ、では教えよう。
頓丘の地に、管輅という占い師がいる。
その者が、寿命を延ばす方法を知っておる。
そやつに方法を聞き、それを行うのじゃ」
金 旋「……なんだ、てっきり直接寿命を延ばす方法を
教えてくれるのかと思ったのに……。
まあいいや、とにかく、
頓丘の管輅に会えばいいんだな。
頓丘の……頓丘!?」
頓丘への道のり
金 旋「思いっっっっきり、
敵の領内真っ只中じゃないか!」
劉 髭「そ、そう言われてものう。
しかし、他に方法はないんじゃ」
金 旋「頓丘に行くには、軍を率いて行く必要があるぞ。
俺個人の延命のために、軍を巻き込むなど。
そんなのは却下だ、却下」
劉 髭「……金旋の馬鹿ァ!」
ボグゥッ
金 旋「ひでぶっ!」
劉髭のコークスクリューが金旋の頬に見事にヒット。
金旋の身体は錐揉みしながら放物線を描き、
地面にたたきつけられた。
劉 髭「この大馬鹿者がっ!
お主はいつからそんなワガママ君主になった!」
金 旋「わ、ワガママって……逆だろう!
自分の都合で軍を動かすわけには……」
劉 髭「いや、そうではないぞ!
結局、それはお主の自己満足にすぎぬわい!」
金 旋「じ、自己満足だと……」
劉 髭「そうじゃ!
お主は、自分の命を軽く見すぎておる!
味方の誰もが、今お主に死なれては困るんじゃ!
それを慮れないようでは、君主失格じゃ!」
金 旋「ムムム……」
劉 髭「何がムムムじゃ!
すでにお主の命は、お主だけの命ではない!
それを延ばすためならば、皆喜んで戦うわ!
それを何が『自分の都合』じゃ、このたわけめ!
ここまで言っても判らんのなら、
君主などとっとと辞めてしまえ!」
金 旋「……い、いや。すまん軍師。
あんたの言葉、よくわかった。
わかったから、顔に唾飛ばすのやめて」
劉 髭「うむ。わかればよろしい。
では、頓丘を目指すのじゃ……。
お主の運命、お主自身で変えてみせい……」
金 旋「軍師……? ちょ、ちょっと待ってくれ。
まだあんたと話したいことが……」
劉 髭「フォフォフォ、ワシなどもう用無しじゃ……。
後は、お主の優秀な配下に頼るがよい……」
金 旋「軍師! 待ってくれ!」
むんず
劉 髭「い、いだだだ! ひ、髭を掴むな!」
金 旋「待ってくれ軍師、俺は……
俺はまだアンタと話がしたいんだ」
劉 髭「そんなこと言われても……。
い、いだだだ、抜ける、髭が抜ける!」
ぶちぶちぶちっ
劉 髭「ぎゃーっ!」
金 旋「軍師! ま、待ってくれ! 軍師ーっ!」
☆☆☆
金 旋「ぐんしー!」
ごちーんっ☆
金 旋「あいでーっ!」
下町娘「あいたーっ!」
金旋がいきなり起き上がったので、
起こそうとしていた下町娘と、頭と頭がごっつんこ。
下町娘「な、なんなんですかぁー、いきなりー」
金 旋「す、すまん……いててて」
下町娘「何か、夢でも見てたんですか?
ぶつぶつ寝言を言ってましたけど」
金 旋「夢……夢? 夢だったのか、あれは……」
だが、夢ではない証拠は、
金旋の手のひらの中にあった。
金 旋「ひ、髭だ……軍師の髭だ。
やはり、あれは夢じゃなかったんだ」
下町娘「うわ、何ですかこの毛は……。
汚いですね、もう。ふーっ!」
金 旋「ああっ! 吹き飛ばさないで!」
金旋の懇願もむなしく、その毛は吹き飛んで無くなった。
下町娘「ほら、仕事残ってますよ。
それと、玉ちゃんが今後の戦略のことで話したい、
って言ってましたし」
金 旋「……自分の運命は、自分で変えろ、か」
下町娘「金旋さま?」
金 旋「いや、なんでもない。
とりあえず仕事は後回しにする。
それより、諸将を集めてくれ。緊急招集だ」
下町娘「き、緊急ですか?」
金 旋「おう、緊急だ」
下町娘「わ、わかりました……」
観念した下町娘は、法螺貝を取り出し、
外へ向けて思いきり息を吹き込んだ。
ぷぉ〜 ぷぉ〜
気の抜けるような音だったが、
その音を聞きつけた諸将が続々と集合した。
☆☆☆
会議室に集まった諸将は、金旋の登場を待ちつつ、
隣にいる者とボソボソと話をしていた。
魏延
楽進
魏 延「この緊急招集はなんなのであろうな」
楽 進「わからんな。すでに爵位も変更済みのはずだ」
徐庶
韓遂
徐 庶「何か重大発表でもあるのかねえ?」
韓 遂「だとしても、何のことか予想もつかぬな」
鞏恋
魏光
鞏 恋「今夜は皆で焼肉パーティーをしようと……」
魏 光「いや、それはないです。確実に」
蛮望
甘寧
蛮 望「『衝撃発表、セクシーランキング!
ミス金旋軍となるのは蛮望!』なーんて」
甘 寧「たのむおまえしゃべるな」
各々がそんな話をしていると、
金旋が入室し中央の壇に上がった。
途端に、場内はしんと静まり返る。
金旋はひとつ咳払いをすると、
真剣な表情で話を切り出した。
金 旋「皆に集まってもらったのは他でもない。
これより、曹操領内への侵攻作戦を発動する!」
金旋の宣言に場内はどよめいた。
何の前触れもなかった上での、この宣言。
しかも検討ではなく、発動すると言い切っているのだ。
驚かない方がおかしいくらいである。
彼らの未来はどうなるのか。次回へ続く。
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