○ 第七十三章 「それは王者の証」 ○ 
216年4月

 ミニマップ

216年4月、季節は夏。
前年に金旋を盟主として結成された反曹操連合は、
1年の期間を経たために自動的に解散となった。

  金旋金旋   下町娘下町娘

下町娘「盟主じゃなくなっちゃいましたねー」
金 旋「そうだな。あーせいせいした」
下町娘「あれ、残念じゃないんですか?
    盟主になった時はあんなに喜んだのに」
金 旋「選ばれるのは名誉だけどな。
    盟主を続けることには何ら旨みがないからな」
下町娘「そんなもんですか」
金 旋「それよりも今は、洛陽近辺の防衛網整備とか
    再開発とかでいろいろ忙しい。
    余計なことをしてる暇はないんだ。
    ほれ、仕事するぞ」
下町娘「はーい。それじゃその他の報告書です。
    弘農を探索してた厳峻さんと、
    洛陽を探索してた蔡瑁さんから、
    それぞれ結果報告が来てますね」
金 旋「ふむふむ……ほう。
    戦国策(※1)と周書陰符(※2)を見つけたか。
    どちらも政治能力向上に有効だな」

(※1 漢代に著された戦国時代の人物たちの言行録。
    戦国時代というのはこれが元になってつけられた)
(※2 周の太公望呂尚が著したとされる書。
    周書のなかの陰符編、という意味と思われる)

下町娘「これで金旋さまの政治力も向上しますねー」
金 旋「マテ、なぜに俺が名指しだ」
下町娘「金旋さまが持ち主になるからですけど?
    それとも、何かほかにそう思う理由があるとでも?」
金 旋「……いえ、ありません」
下町娘「それにしても、この洛陽近辺では
    いろいろなものが見つかるみたいですね」

 べんべべん (中阮の音)

   徐庶徐庶

徐 庶「その通りだぜベイベー。
    洛陽には、お宝がいっぱい埋まってるのさ」
金 旋「徐庶か……。ところでその中阮、
    俺はくれるなんて一言も言ってないんだが?」
徐 庶「チッチッチ。
    俺は以前、確かに言ったぜ、ボス。
    『ちょっと借りていいか?』ってな」
金 旋「ちょっとでこんな長期間借りるのか!」
徐 庶「まあいいじゃん、どうせ使わないんだろ。
    こいつもちゃんと使ってもらった方が、
    生まれてきた甲斐があるってもんだ」
金 旋「まあ、そう言われるとそんな気もするが……。
    でも何かごまかされてるような気が……」
下町娘「それより、お宝が埋まってるってホントですか!?
    始皇帝の隠し財宝とか!
    武帝の埋蔵金とかが!?
金 旋「ものすごく目が輝いてるな……」
徐 庶「残念ながら、そういうお宝じゃないな。
    洛陽にあるのは、実用的・文化的な財宝だ」
下町娘「なぁんだ……はぁ」
金 旋「一気に萎えたようだな。
    ……で、その実用的な財宝ってのは?
    この戦国策みたいな書物とかか?」
徐 庶「詳しく知ってるわけではないが……。
    いろいろ、お宝の噂を聞いている。
    どうだろう、俺を探索に出してくれないか」
金 旋「ふむ……自信があるようだな。
    ならば、任せてみるとしよう。
    いい報告を待っているぞ」
徐 庶「OK、ボス。期待していてくれ」

こうして、徐庶の他、司馬懿や金玉昼などが
洛陽でのアイテム探索に向かった。

    ☆☆☆

さて、徐庶らが探索に出て数日後。
金旋と軍を代表する三将、魏延・楽進・韓遂が、
この部屋に集まりなにやら行っていた。

 金旋  魏延  楽進  韓遂

楽 進「ここは、こう行かせてもらう」
韓 遂「ほう……なかなか強気だな。
    流石はずっと先陣で戦い続けてきた男よ」
楽 進「ふ……下手に退くと負ける。
    ここはそういう局面だ」
金 旋「な、なるほどな……」
魏 延「ならば、私はこうだ!」
韓 遂「むっ、これも強気な……。
    さて、殿はどうされますかな?」
魏 延「楽進や私とは立場が違いますからな。
    ここは、安全な道を選んだ方が……」
金 旋「う、うーむ……」

  下町娘下町娘

下町娘「失礼しま……何やってるんです?
    叫んだり、唸ったりして……」

金 旋「ええい、男は負けた時のことは考えぬものだ!
    これでいくぞっ! たあっ!」

 ズガーン

韓 遂「……殿、そいつは無謀ですな」
金 旋「な、まさか……」
韓 遂「ロン、ド高めですぞ。
    リーチ一発ホンイツイッツードラ1。
    倍満、16000
金 旋「あがあああっ! づがぁぁぁん!」

下町娘「……麻雀?」
楽 進「うむ、ちょうど4人おったのでな」
下町娘「こんな陽の明るい時間からですか?
    みんな、仕事はどうしたんですか」
韓 遂「今日は早く終わったのだ。
    まあ、ここのところ休む暇もなかったし、
    息抜きにいいだろう」
下町娘「うーん、兵たちが見たら何て言うか……」
韓 遂「ちなみに、現代麻雀の起源は太平天国の乱の頃、
    と言われとるが、今回そんなことは完全無視しとる」
下町娘「……誰に向かって言ってるんですか」

その時、寂しい点箱の中身を数えていた金旋が、
がっくりとうなだれた。

金 旋「ダメだ……アカン。
    16000もねえや。ぶっとびー(※3)

(※3 ぶっとび:持ち点棒を全て失いマイナスになること。
 この時点でゲームは終了となる)

韓 遂「お、ということは私の逆転勝ちかな」
楽 進「残念ながら、そのようだ。
    まあ、2位は確保できたからよしとするか」
魏 延「……殿、困りますな〜。
    ビリはビリらしくおりてもらわないと。
    せっかく、いい感じで揃っていたのに」
金 旋「ううう、俺だって揃ってたんだ……。
    これさえ、この手さえあがることができれば、
    10連荘くらいする予定だったのに……」
韓 遂「はっはっは、予定は未定と言いますぞ。
    これで殿は三連続ぶっとびですな。
    では、次に行きますか」
金 旋「くっ……ツカンポー。
    町娘ちゃん、代わりに打ってくれんか」
下町娘「ええっ? 私ルールほとんど知りませんよ?」
金 旋「うーむ、それじゃ無理だな。
    マイナス分がますます膨らんでしまう」
下町娘「……どれだけ負けてるんです?」
金 旋「こんだけ」(収支表を見せる)
下町娘「こんだけ……って!
    私の俸禄の1年分じゃないですか!
    なにやったらそんなに負けるんですか!」
金 旋「うう、昔はそれなりの腕前だったんだがなあ」

楽 進「どうも、殿は続けられそうにないな。
    殿が抜けるとなると、3人打ちか……」
魏 延「いや、それは勘弁してくれ。
    それでは、私がむしられてしまう」
金 旋「……こういう奴がいるからなあ。
    今日はもう、勘弁してほしいんだが」
下町娘「そんなことよりも。用事があったんですけど」
金 旋「ん? 用事?」
下町娘「ええ、金旋さまにご挨拶を、と来てる……」

   トウ艾燈艾

燈 艾「し、失礼します」

じーっと燈艾の姿を見つめた後に、
金旋は下町娘に聞いた。

金 旋「……どこの大道芸人だ?」
下町娘「芸人じゃありませんよー。燈艾さんです。
    待たせてたんですけど、待っても来ないから、
    こっちに来ちゃったんですね」
燈 艾「は、はじめまして。と、燈艾にございます」
金 旋「ああ、王粲の紹介の。そうか、お前が燈艾か。
    王粲からの手紙でいろいろ聞いている」
燈 艾「は、はい。よ、よろしくお願いします」
金 旋「……そうだ、燈艾。お前麻雀打てるか?」
燈 艾「は、はい、少しばかりでしたら」
金 旋「じゃ、早速で悪いが、代打ちを頼む。
    物足りなそうなこいつらの相手をしてくれ。
    別に、大勝ちしようなんて思わんでいいからな」
下町娘「……でも負けたら怒るんでしょ」
金 旋「そりゃまあ、大負けされては困るからなあ。
    なに、少しばかり原点から増やす程度でいいぞ」
下町娘「けっこうプレッシャーですよ、その言葉」

燈艾は、金旋の代わりに席についた。

燈 艾「よ、よろしくお願いします」
楽 進「新入りか。よろしく頼む」
韓 遂「いきなり負けて、殿の不興を買わないようにな」
燈 艾「が、がんばります」
魏 延「しかし、ずいぶんと貫禄のある顔立ちだが……。
    歳はいくつなのかな?」
燈 艾「こ、今年で、は、二十歳になりました」

 『うそっ!?』

韓 遂「……え? ギャグ?」
金 旋「ここ笑うところか?」
燈 艾「い、いえ、ほ、本当に二十歳です」
魏 延「……お、驚いた」
楽 進「甘寧とかと逆のパターンだな。
    典型的な老け顔だ……」
燈 艾「よ、よく言われます……。
    そ、それよりも、は、始めるとしましょう」

下町娘「わ、私より、年下……?」

彼女のその小声の呟きは、
麻雀牌のかき混ぜる音にかき消された。
そして燈艾を加え、麻雀は開始される。

魏 延「ツモった! トイトイ場風!」
韓 遂「ロンだな。ホンイツのみ」
楽 進「ん、ツモだ。タンヅモドラ1」

前半の東場に魏延、韓遂、楽進が何度もあがる中、
燈艾は振り込みこそしなかったものの、
一度もあがることなく南場を迎える。

金 旋「お、おい。大丈夫か? このままだとビリだぞ」
燈 艾「お、お任せください。これからです」
金 旋「せめて一回くらいはあがれよ?
    なんとかプラスに……」
燈 艾「いえ。い、1位を取ります」
金 旋「……おいおい、ホントかよ」

そして後半戦。
いきなり、人が変わったように燈艾があがり始めた。

燈 艾「……し、失礼します。タンピン三色」
魏 延「げっ……もうテンパっていたのか!」

燈 艾「ロ、ロンです。リーチ、チャンタ、ドラ2」
韓 遂「なっ、なにっ。ドラ単騎待ちだと!?」

燈 艾「い、一発です。リーチ一発、三暗刻」
楽 進「ま、まさか……引っ掛けとはな」

燈 艾「……ツ、ツモです。
    ホンイツチャンタ、白、中、ドラ3」
金 旋「おおっ! 4枚目をツモるとはっ!」

楽 進「……飛びました」
魏 延「お、同じく」
韓 遂「わ、私もだ……スッカラカーン」

燈艾は、最後のツモあがりで他の3人全員をハコにした。
総点数は10万を超えている。

金 旋「す、すごい! 完全に一人勝ちだ!
    やるなあ、燈艾!」
燈 艾「は、ははは。へ、兵法の応用です。
    相手の打ち筋を読み、自分の手を考える。
    そ、それほど大したことはしておりません」
金 旋「いや、びっくりしたぞ。さすがは王粲の推薦だ。
    見た目もすごいが、中身もすごいな。
    今度は戦場でその力を見せてくれ!」
燈 艾「は、はいっ、承知いたしました」

結局、麻雀はそこでお開きとなった。
魏延、韓遂、楽進が並んで戻っていく。

韓 遂「やれやれ、またすごいのが現れたな。
    こりゃ、うかうかできんぞ、魏延」
魏 延「うむ、奴に麻雀で勝つのは難しそうだ……」
韓 遂「……私が言ってるのは、そういう意味ではないぞ」
魏 延「ん? どういうことだ?」
楽 進「戦でお主以上に活躍できそうな奴が来た、
    という意味だろう?」
韓 遂「うむ。殿の覚えもよいようだ。
    しばらくすると、お主の上になるかもしれんぞ」
魏 延「な、なにぃー!?」

この一件で、燈艾の評価は急上昇した。
荊州の無名の士だった男が、天下の金旋軍にて、
期待の若手として一目置かれるようになったのである。

    ☆☆☆

また、数日が経った。

  金旋金旋   下町娘下町娘

金 旋「さて、そろそろ探索に行ったメンバーが
    帰ってくる頃だと思うのだが……」
下町娘「そうですねー。玉ちゃんも行きましたし、
    徐庶さんも何を見つけてくるんでしょうね」
金 旋「あれだけ偉そうなこと言ったんだ、
    さぞすんごいもの見つけてくるんだろ」

   金玉昼金玉昼

金玉昼「ただいまにゃー!」

下町娘「玉ちゃんお帰りー」
金 旋「よし。早速、成果を聞こうか」
金玉昼「ふっふっふ、これを見るがいいにゃー!」

 
 ババーン

金 旋「こっ、これはっ!? かの有名な……」
下町娘「……有名な?」
金 旋聖剣エクスカリパー!
金玉昼「全然ちがーう!」
下町娘「よりによってパーの方を挙げますか(※4)

(※4 ファイナ○ファンタ○ーには、
 強力な剣であるエクスカリバー(BAR)とは別に、
 エクスカリパー(PAR)という剣が登場する。
 与えるダメージが常に1という最弱の剣)

金 旋「冗談だ、冗談。七星宝刀だろう」
金玉昼「……ありゃ? 知ってるのにゃ?」
金 旋「その昔、元の持ち主の王允どのに見せてもらった。
    その時は、鞘に納まったまま見たのだがな。
    その後は曹操の手に渡り、そして董卓に、
    と持ち主が変わっていったと聞くが……」
下町娘「へえ……人に歴史あり、
    物にも歴史あり、ってところですねえ」
金 旋「そして、こうして俺の元に来たってわけだ」

金旋はそう言って、鞘から抜き、刀身を眺める。

金 旋「……見事だな。飾りばかりではなく、
    実際の武器としても素晴らしい出来だ」
金玉昼「時の権力者が、みんな欲しがったというにゃ。
    言うなれば、王者の為の剣ってところかにゃ?」
金 旋「そうだな。しかし『王者の剣』と言っても、
    別にオリハルコンでは出来てないぞ(※5)
下町娘「そんなのは当たり前です。
    道具で使ってもバギクロスは出ません(※6)

(※5、6 ともにドラ○ンク○スト3に登場する
 『王者の剣』の設定。後にロトの剣となる)

金 旋「ま、十分強い武器だってのは確かだが。
    よく見つけてきたな、玉。偉いぞ」
金玉昼「え、えへへ」
金 旋「さて、玉がこんなすごい物を見つけたわけだが。
    徐庶は一体どうなってるのかな?」

そう言っていた時、ちょうど徐庶が戻ってきた。

   徐庶徐庶

徐 庶「オス。戻ったぜー」
下町娘「あら、噂をすれば」
金 旋「おう、徐庶。玉は七星宝刀を見つけてきたぞ。
    お前は何を見つけてきたんだ?」
徐 庶「フッ、まあ、こいつを見てくれよ」

 
 ドドーンッ

下町娘「……龍の置物?」
金 旋「ちょ、ちょっと待て。こ、こいつは……」
徐 庶「おっ、ボスは気付いたかい?」
金 旋「徐庶、お、お前、な、なんてものを……」
徐 庶「フッ、大口叩いただけはあるだろ」

気取る徐庶に、いきなり金旋は襲い掛かった。

金 旋なんてものを盗んできやがったー!
徐 庶「のわー!? なんでそうなるんだっ!?」

 ドッタンバッタン

下町娘「ちょ、ちょっと! どういうことですか!?」
金玉昼「この龍の置物がすごいものだからにゃ」
下町娘「すごいもの? 一体、これって何なの?」
金玉昼「これは、玉璽にゃ。すなわち、皇帝の持ち物。
    それがここにあるってことは……」
下町娘「なるほど、それを徐庶さんが盗んできたと……。
    だから金旋さまが怒ってるのね」

徐 庶「ぼ、ボス、ちょっとタンマ! 待ってくれっ!
    話を、話を聞いてくれっ!」
金 旋「聞いてられるか! てめえ漢帝室を舐めとんのか!
    こんな大層なもん盗んできやがって!」
徐 庶「盗んでない! だから話を聞いてくれって……。
    あ、あれ、ボスと俺の武力はほぼ同じなのに、
    なんでこんなに押し負けるーっ!?」
金玉昼「あ、さっき渡した七星宝刀の武力+10の効果にゃ。
    今は徐庶さん65に対してちちうえは76にゃ」
徐 庶「そ、そんな!? 軍師、ヘルプヘルプ!
    まずは俺の話を聞いてーっ!」
金玉昼「んー、しょうがないにゃ。ちちうえー」
金 旋「玉がなんと言おうと聞かんぞ!
    俺はなんとしても漢を守らねばならない!
    そして漢を侮辱する者には、死!
徐 庶「ひーっ!」
下町娘「こりゃ聞く気ないわね……」

すうっと息を吸うと、金玉昼はもう一度金旋に言った。

金玉昼「ちちうえ。……ベッドの下

それを聞いた途端、ピタリと金旋の動きが止まった。
その顔は怒りの赤から真っ青に急変する。

下町娘「うわ、いきなり止まった。
    ……何の呪文? ベッドの下がどうしたの?」
金玉昼「ちちうえの名誉に関わるので、答えられないにゃ。
    でも、徐庶さんの話を聞く気がないというなら……」
金 旋「い、いや! 聞く! 何でも聞く!
    だから勘弁して! というか何で知ってる!?」
金玉昼「ふっふっふ。秘密にゃー」

冷や汗をかきつつ、金旋は徐庶を解放した。
そして居住まいを正した二人は、下町娘の淹れた茶を飲み、
落ち着いた後に話を始める。

徐 庶「……まず、俺は盗みは働いてはいない。
    これを大事に持っていた方に譲ってもらったんだ」
金 旋「ちょっと待て、玉璽は帝室の宝だ。
    陛下が大事に保管していたはずだろう。
    いつ外に出たというんだ?」
徐 庶「玉璽は、実は二つ存在している。
    ひとつはこれ、もうひとつが帝が持つものだ。
    本物なのはこっちの方で、
    帝のは、無くした後に作られたレプリカだ」
金 旋「初耳だぞ、そんなの」
徐 庶「そりゃそうだろうな。
    『失くしたんで新しく作りました』
    なんて、口が裂けても言えない」
金 旋「……この玉璽が本物だという証拠は?
    こっちがレプリカかもしれんだろ」
徐 庶「本物の玉璽には、王莽の簒奪時についた傷がある。
    この角のところにある補修跡がそうだ。
    これを見ても、本物はこれだと言える」
金 旋「ふむう……。わかった、お前の言葉を信じる。
    さて、そうなるとだ。
    こいつは、陛下に返さないといけないな」
徐 庶「いや、それはお奨めできないな」
金 旋「なに?」
金玉昼「私も反対にゃ。
    この玉璽は、ちちうえが持っているべきにゃ」
金 旋「おいおい……玉までどうした。
    これは帝の持ち物であり、国の宝だぞ?
    それを何で返しちゃダメなんだ」

   司馬懿司馬懿

司馬懿「この玉璽は王者の証となる物。
    閣下がお持ちになるべきです」
金 旋「司馬懿?」
下町娘「あー、お帰りなさい」
司馬懿「探索から先ほど戻りました。
    アイテムは見つかりませんでした。
    申し訳ありません」
金 旋「いや、それは別にいいが……。
    俺が持つべきってどういうことだ?」
司馬懿「伝国の玉璽。この輝きは国を安んじ、
    王者の威光を強めてくれます。
    そして王者とは、閣下、貴方です」
金 旋「……ちょっと待て。
    お前ら、俺に簒奪を奨めているのか!?
    玉璽を持ち、陛下に取って代われと、
    そう言いたいのか!?」
金玉昼「私はそこまでは言わないにゃ」
徐 庶「俺も、簒奪は行き過ぎだと思うがね」
司馬懿「私は別に、閣下が皇帝となるのも、
    それはそれで良いかとは思いますが。
    ただ今言いたいのは、その玉璽の力を以って、
    統一のための力とするべき、ということです」
徐 庶「統一が成ったら、その時にノシつけて返せばいい。
    今は、利用できるものは使わせてもらうべきだ」
金 旋「むむむ……。しかしな……」

迷う金旋に、思わぬ人物から一喝が飛んだ。

下町娘「金旋さま! 何を迷ってるんです!
金 旋「えっ?」
下町娘「中華統一が貴方の使命じゃなかったんですか!?
    英雄金旋が統一して、この戦乱の世を
    終わらせるんじゃないんですか!?
    それに使えるのなら、何でも使うべきです!」
金 旋「そ、そんな……。
    町娘ちゃんの口からそんな台詞が……。
    く、くうう、おいちゃん泣けてきたぜ」
金玉昼「うんうん、立派な台詞だにゃ……。
    ……で町娘ちゃん、本音は?」
下町娘「この置物、なかなか格好いいですからね。
    この部屋に置いておきたいですねー」
金 旋「…………く、くうう、おいちゃん泣けてきたぜ」

結局、玉璽は金旋の手元に置かれることとなった。
外に話が漏れたわけではなかったが、玉璽の効果なのか、
金旋の信望が急上昇したのであった。

    ☆☆☆

そして季節は6月へ。
うだる暑さの真っ盛りである。

すでに洛陽には25万の兵が駐屯しており、
近郊の孟津港には朱桓以下3万の兵を置いていた。
このように、防衛網はほぼ完成しており、
現在は洛陽の復興、探索などが行われていた。

 洛陽周辺

そして金旋本人は、大司馬として朝廷の行事に出たり、
軍のトップとしても軍務の決済などをこなし、
精力的に働いていた。

  金旋金旋   下町娘下町娘

下町娘「失礼しまーす……って、
    まだ仕事やってたんですか?」
金 旋「おー。ようやく帝が旅から戻ってくるからな。
    その前に上奏文完成させとこうと思って」
下町娘「……ちょっと最近働きすぎですよ。
    もう少し、休みながらやった方が……」
金 旋「なに、俺はまだ若い! これくらいは大丈夫!」
下町娘「……年寄りの冷や水」
金 旋「なんか言ったか?」
下町娘「いーえ、なにも……あ、それより用事が」
金 旋「うん?」
下町娘「蒋欽さんが面会したいと来てるんですけど」
金 旋「蒋欽……ああ、以前捕虜にしたあいつか。
    費偉が登用したと聞いたが」
下町娘「はい。どうします?」
金 旋「別に暇だし、いいぞ。連れてきなさい」
下町娘「わかりましたー」

ほどなくして、蒋欽が訪れる。

   蒋欽蒋欽

蒋 欽「蒋欽にございます。この度は……」
金 旋「ああ、堅い挨拶は抜きでいい。
    過去は皆それぞれ色々あるだろうが、
    これからは我が軍の将として頑張ってくれ」
蒋 欽「はっ、ありがとうございます。
    この蒋欽、懸命に働かせていただきます」
金 旋「うむ。期待しているぞ」
蒋 欽「はっ……。ところで、甘寧将軍は……?」
金 旋「甘寧? たしか、巡察に行ってると思ったが?」
蒋 欽「左様でございますか……」
金 旋「どうした? 何か用でもあったか?」
蒋 欽「いっ、いえ、何も……。
    ただ、少しだけでも話ができればと思いまして」
金 旋「そうか。まあそのうち帰ってくるだろう。
    酒でも飲みながら話せばいい」
蒋 欽「はっ、ありがとうございます!」

蒋欽は、少し頬を紅潮させながら礼をし、
退室していった。

下町娘「ふふふふふ」
金 旋「……何だその不気味な笑いは」
下町娘「やおいの匂いがしますよ〜」
金 旋「は? やおい?」
下町娘「蒋欽さん、妖しいですよ。
    あれはもう、恋しちゃってる瞳ですっ。
    恋する蒋欽さんはせつなくて、
    甘寧さんを想うとすぐ○○しちゃうの」
金 旋「アホなこと言ってないで、仕事しなさい」
下町娘「はーい」
金 旋「さて……ちょっとだけ席はずすぞ」

下町娘「あれ、どちらに?」
金 旋「ちょっとウンコ
下町娘「ウ……厠とか雪隠とか言ってくださいよ!」
金 旋「はいはい、わかりました。
    厠へウンコしに行ってくるからなー」
下町娘「だーかーらー!」
金 旋「はっはっは、そうカリカリしない。
    仕事疲れを和ませるための、ちょっとした冗談だ」
下町娘「逆にイライラしますよ、そんなの。
    それよりも、とっとと出すもの出して、
    すぐに戻ってきてくださいね。
    決済してもらう書類がありますんで」
金 旋「へいへい」

金旋は厠に入り、衣服を脱ぎ始める。

金 旋「ふー、町娘ちゃんにはああ言ったが、
    流石に少し疲れたかな。
    さて、ウンコするか……おや?
    なんか尻がヌルヌルするような……。
    やべえ、この歳になって漏らしたかっ?」

金旋は、思わず尻に手をあて、
そのヌルヌルの正体を確かめようとした。

金 旋「あ、思わず触っちまった……えんがちょ。
    まあ後でしっかり手を洗うとして……。
    え、何……赤?

金旋は、自分の手を見て、目を疑った。
そこに付いている色は、汚い茶色ではなく。
色鮮やかな、赤。

金 旋「な……。
    なんじゃあ、こりゃあ!

…じゃあこりゃあ
…ぁこりゃあ
…りゃあ
…あ

金旋の叫び声が、厠に響いた……。

次回へと続く。

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