216年1月
1月中旬。
順調に洛陽を攻めていた金旋のところに、
「山越、桂陽を目指し進軍」の報が届いた。
遠き南方の危機に、彼はどう動くのか?
金旋
下町娘
金 旋「くっ、諸葛亮めっ!
山越をけしかけて、桂陽を攻めさせたというのか!
やるな、あの変態野郎!」
下町娘「あのー。別に、前回の台詞のおさらいは
しなくても結構ですよ」
金 旋「な、何を言う!
続きものに台詞のおさらいは付きものだ!」
下町娘「はいはい。で、どうするんですか?」
金 旋「どうするったってな……。
ここは桂陽の防戦を第一に考えるべきだろ。
なあ玉?」
金玉昼
金玉昼「ん〜っ」
金 旋「……玉? どうした?」
下町娘「なんか考え込んでますね」
金玉昼「……うん。
やっぱりこの方向で行くのが上策だにゃ」
金 旋「上策? 上策というと……」
金玉昼「それはチョーサク」
金 旋「ま、まだ何も言ってないぞ!」
金玉昼「……言おうとしてたの言ってみれば?」
金 旋「レツゴー三匹の……スマン、忘れてくれ」
下町娘「玉ちゃんすごーい。まるで予言者だー」
金玉昼「ふっふっふ、ちちうえの考えることなど、
まるっとお見通しにゃ」
金 旋「そ、それよりもだ。上策って、何がだ?」
金玉昼「今後の対応にゃ。
ここはまず洛陽の攻め手を増やし、
洛陽城を落とすべし、にゃ」
金 旋「……は? 今はそれどころじゃないだろ。
桂陽はどうするんだ? いやそれ以前に、
洛陽落とすのは早いってお前言ってただろう」
金玉昼「桂陽にも援軍を送りまひる。
ただし、ここにいる主力は送らないにゃ。
荊州・許昌の空いてる将兵を送りまひる」
金 旋「一時的に撃退するならそれもいいが……。
しかし、この先ずっと攻めてくるようになったら?
異民族はしつこいらしいじゃないか」
下町娘「そうそう。荊州の補給を桂陽に回すと、
今度はこっちが厳しくなるんじゃ?」
金玉昼「だから、早急に洛陽を落とす必要があるのにゃ。
そもそも、洛陽を落とそうと思えば、
いつでも全軍を出して落とすことはできたのにゃ。
これまでそうしなかったのは、被害を抑えるためと、
曹操軍の兵力をじわじわと削っていくため、にゃ」
金 旋「うむ、その通りだ」
金玉昼「しかし、桂陽が攻められるという事態になった。
これが長引けば、こちらへ来ている荊州からの
補給は桂陽に回されるようになるにゃ。
となると、これまでのように攻め続けるのは不可能。
そうなってしまうと洛陽の守りは堅くなり、
今後落とすことは難しくなりまひる。
それこそ、諸葛亮の狙いにゃ」
金 旋「む……そうなのか。
一時しのぎではなくそこまで考えた策だったのか」
金玉昼「洛陽を落とすなら、もう今しかなくなったのにゃ。
ならば、全軍をもって攻めるべきにゃ」
金 旋「……わかった。洛陽を落とすぞ。
それで、まずはどうするんだ?」
金玉昼「まずは外に出てきている敵部隊をぶっ叩くにゃ。
その間に、桂陽への援軍を手配。
敵部隊を殲滅したら、さらに部隊を増強して、
攻城兵器を用いて一気に洛陽を攻略しまひる」
金 旋「よしわかった。すぐに韓遂を出撃させよう。
しかし、いよいよだな……ついに上洛の時だ」
金玉昼「……これまでで最大の激戦になるにゃ。
気を引き締めてかかりまひる」
韓遂隊、兵は3万(凌統・金玉昼・魏緒・謝旋)。
まずは曹操隊を殲滅するため、彼らは出撃した。
韓遂
金玉昼
韓 遂「いいのかね、軍師自ら出陣して。
準備とかいろいろあるんじゃろ?」
金玉昼「作戦の手順や戦い方については、
もう打ち合わせは済んでるにゃ。
後は、いかに早くことを終わらせるか、にゃ」
韓 遂「ふむ、なるほどな……。
一番大事なところを自分でやるのか。
敵部隊の殲滅、そして先行しての城攻め……。
となると、私の責任も重大だな」
金玉昼「ああ、そんなに気張らなくても大丈夫にゃ。
目の前の曹操隊さえ倒してしまえば、
後はまあ後続の部隊に任せても……」
兵 A「申し上げます!
洛陽より徐晃隊が出撃!
郭淮隊に攻撃を仕掛けている模様!」
韓 遂「……曹操隊だけでは済まぬようだな」
金玉昼「むむ……」
諸葛亮によるものか、徐晃隊1万5千が新たに出撃。
両軍による戦闘は激しさを増していく様相であった。
いよいよ、洛陽を巡る最終決戦が行われようとしていた。
☆☆☆
さて、時は2月。
南の桂陽では、山越軍が迫ってきていた。
5万の守備兵とともに城を守るは、黄祖。
彼は今か今かと援軍を待ちわびていた。
黄祖
黄 祖「援軍はまだ来んのか!」
潘 濬「落ち着かれませ。そのうち援軍も参りましょう。
兵を安心させるためにも、どっしり構えてください」
黄 祖「そうは言うがのう、山越軍といえば、
孫権領の会稽を破壊し尽くしたというではないか」
潘 濬「この城の5万の兵がいれば、
いくら山越とて少々の攻撃では落とせません。
また、劉巴が山越大王に偽報を仕掛けています。
これでしばらく時間が稼げましょう」
黄 祖「そ、そうか。ならば安心じゃな」
潘 濬「……ですが、少々到着が遅いですね。
そろそろ来る頃だとは思うのですが……」
黄 祖「そうだ、お主は誰が来るか聞いておるのか?
山越を迎え撃つのだ、それなりの連中だろうな」
潘 濬「ええ、多少は。山越の将にも引けをとらない、
かなりの猛者たちですよ」
黄 祖「ほう……、猛者たちか。それなりに殿も、
この桂陽に気を使っているということかの」
丁度その時、援軍を引き連れて霍峻が到着した。
霍峻
霍 峻「お待たせいたしました。増援部隊、到着しました」
潘 濬「お疲れ様でございます、霍峻どの」
黄 祖「おお、霍峻か。して、援軍の詳細は?」
霍 峻「私を含めて将が10名、兵は2万です」
黄 祖「……兵2万? ちと少なくないか?」
霍 峻「今回はこれで充分ということです。
今後も侵攻が続くのなら、また増援がありましょう」
黄 祖「そうか。では、将たちは誰が来たのだ?
李厳や文聘あたりか? それとも甘寧か?」
霍 峻「ははは、それは実際に会った方がよいでしょう。
どうぞ、皆さん」
霍峻の声に、ぞろぞろと9人の将が入ってきた。
髭髯龍「髭髯軍団第二隊長、髭髯龍」
髭髯豹「同じく髭髯軍団第三隊長、髭髯豹」
髭髯鳳「同じく第四隊長、髭髯鳳」
楽 淋「楽進が子、楽淋」
陳 応「弩ならお任せを。陳応にござる」
刑道栄「マサカリ担いだ、刑道栄」
馮 習「風習の違いなど大丈夫、馮習です」
張 南「長男の張南です、なんつって」
高 翔「高所恐怖症の高翔です。なんちて」
黄 祖「……コラァ霍峻ー!」
霍 峻「な、なんですかいきなり!?」
黄 祖「ほとんど二軍、三軍の奴らじゃろうが!
しかもなんだ最後の方の駄洒落トリオは!?」
霍 峻「な、何を言いますか!
彼らは我が軍で最強を誇る者たちですよ!?」
黄 祖「どこがじゃい!」
髭髯龍
髭髯龍「……一言申し上げたい。
黄祖将軍、我々3人は最強を誇る髭髯軍団。
そこらの異民族などに遅れは取りません」
刑道栄「俺だって突撃覚えてるんだぜ?
以前とは違うところを見せてやるよ」
黄 祖「フン、口ではなんとでも言えるわい!」
髭髯豹
髭髯豹「アアン? このじじい、黙って聞いてりゃ偉そうに!
ブッころがすぞゴラァ!」
ぐわしっ(首根っこ掴む音)
黄 祖「ぐわっ!? な、何をするんじゃ!?」
髭髯豹「テメエよりは強いってことをわからせてやるんだ!
このクソジジイが!」
黄 祖「し、締まる締まる! ぐ、ぐるじい……」
髭髯鳳
髭髯鳳「やめぬか豹!
上官に手を上げるなどもってのほかだぞ!」
髭髯豹「離せ兄者! バカにされて引き下がれるか!」
髭髯龍「全く……。将軍、大丈夫でございま……」
黄 祖「ゲホゴホ……全く、大した暴れん坊じゃな。
腕っ節の方は期待できそうじゃが……」
髭髯龍「おおお! 神よ!」
黄 祖「……は?」
髭髯龍「将軍のその髭……。実に見事!
この髭こそまさに、キングオブヒゲ!
髭の王と呼ぶに相応しい!」
髭髯豹「何言ってるんだ兄者、そんな汚い髭のどこが……。
こっ、こりゃすげえ!」
黄 祖「な、何じゃ、何なんじゃ!?」
髭髯鳳「おお……。確かに見事な髭です。
この見事なハリ、手に突き刺さるほどのこの逞しさ。
なんと素晴らしい! まさに神の髭!」
黄 祖「わ、訳が分からん! どういうことじゃい!?」
霍 峻「ええとですね。彼らは、髭の神を崇拝してまして、
髭の神の化身、即ち見事な髭を持つ方を敬うのです」
黄 祖「はあ? それがワシか?
しかしワシは髭の手入れなんぞしとらんぞ。
ただ生やしっ放しなだけじゃ」
髭髯鳳「手入れされてる、されてないは別です。
いやむしろ、手入れ無しでこのような髭が出来る、
これこそまさに髭の神の祝福の賜物!」
髭髯龍「我ら髭髯兄弟、貴方様のご命令ならば、
何でも聞きましょう! さあ、ご命令を!」
髭髯豹「先ほどは大変な失礼を致しました!
なんとお詫びをして良いか……。
この髭髯豹、貴方様を命を賭けてお守り致します、
それゆえ、どうかご容赦を!」
黄 祖「……なんか懐かれてしもうたのう」
霍 峻「良いではありませんか。
それよりも、山越に対しての備えを」
黄 祖「おう、そうじゃな。では潘濬、軍議を開くかの」
潘 濬「はい。では、皆さん席へついてください」
黄 祖「ふう、どっこいせ、と……。
……なんじゃ、生暖かい椅子じゃな」
『ふっふっふっふっふ』
黄 祖「な、なんじゃ、この笑い声は!?
どこから聞こえる!?」
『この軍議、私も混ぜていただきましょうか』
霍 峻「黄祖どの! 椅子! 椅子!」
黄 祖「なんじゃ、椅子がどうし……うわあ!?」
なんと、黄祖が座っていた椅子と思われるものは、
実は馬良であった。
馬良
馬 良「ふふふ、これぞ馬家直伝の技、人間椅子!」
黄 祖「な、なんなんじゃ馬良! 驚かすな!」
馬 良「まあまあ、良いではないですか。
場を和ませるためのちょっとしたお茶目です」
黄 祖「和むというか……皆あっけに取られてるぞ」
( ゚д゚)ポカーン(゚д゚)ポカーン(゚д゚ )
馬 良「……では、山越軍との戦いについての戦略を」
黄 祖「(流したか……)」
いつのまにか現れた馬良も加わり、
山越軍に対する軍議が行われた。
2月下旬、桂陽付近に近づいた山越軍の迎撃のために、
桂陽城より5万の部隊が出撃した。
内訳は、霍峻隊(楽淋・馬良・馮習・張南)2万、
髭髯龍隊(髭髯鳳・髭髯豹・刑道栄・胡渉)1万5千、
趙囲隊(陳応・魏劭・樊郭・鄒興)1万5千。
桂陽城は黄祖が守り、潘濬・劉巴などが計略を担当する。
山越軍側は、山越武将の隊が2部隊、共に兵1万。
山越大王の部隊、兵2万が、遅れて進軍していた。
部隊は山越軍と交戦を開始、激しい戦いの幕が開いた。
数の上では金旋軍が有利であったが……。
山越A「HA−HAHAHA!
キンセン軍ナド、ワレワレノ敵ジャナイネ!」
山越B「ヘイ、YOU!
奮迅ヲオミマイシテヤルヨ!」
山越A「OK! イッツアフンジーン!」
山越武将Aの率いる部隊が、霍峻隊に襲い掛かる。
たちまち数千の兵が彼らの凶刃に倒れた。
霍 峻「くっ……流石は屈強な異民族。
だが、我々も負けるわけには行かない!
続け楽淋! レッツフンセーン!」
楽 淋「OK! イッツアフンセーン!」
馬 良「うつってるうつってる」
霍峻隊も奮戦で反撃。
また、髭髯龍隊も突撃し、一気に押し返す。
一方、山越武将Cの率いる隊は趙囲隊を振り切り、
桂陽城へ矢を射掛けていた。
黄 祖「くっ、趙囲隊はなにやっとるか!
応戦せい、異民族にこの城を渡すでないぞ!」
城を守る黄祖の指揮で、矢を射返す守備兵たち。
だが、山越軍は怯む様子もなく、城へと押し寄せてきた。
山越C「HAHAHA! ヒンジャクヒンジャク!
ショセンハ、コノ程度シカ攻撃デキナイネ!」
黄 祖「ううっ……いかん、このままでは……。
だ、誰か……誰か助けを……」
黄祖は神に祈るように、救いを求めた。
その時である。
『心配いらぬ……敵は動きを止めるぞ』
黄 祖「……な、何だ今の声は?」
『お主自身の力を信じるのじゃ……。
さすれば、光明は見えてこようぞ……』
黄 祖「……神の声、だとでも言うのか?」
その時、押し寄せていた山越部隊の動きが止まった。
潘濬が仕掛けたかく乱に引っかかったのである。
山越C「OH!? ナニゴトデス!?」
黄 祖「敵が動きを止めおった……!?
今だ! 一斉射撃! はなてぇぇぇ!」
黄祖の号令で、弩が一斉に放たれる。
かく乱され動きを止めていた山越の兵たちは、
次々に倒れていった。
山越C「NO! コレハタマランバイ!」
山越兵「サー! モウシアゲルデス、サー!」
山越C「エエイ、今度ハ何デスカ!?」
山越兵「敵ノ2部隊ガ突ッコンデクルデス!」
山越C「ナンデストー!」
山越部隊Aを霍峻隊に任せ、髭髯龍・趙囲の隊が揃って
山越部隊Cに襲いかかる。
刑道栄の突撃、陳応の連弩などで、山越部隊Cは壊滅した。
山越C「エエーイ、覚エテロデース!」
続いて山越部隊Aも壊滅。
遅れて山越大王の部隊2万が到着したが、
新たに出撃した黄祖隊を中心にした金旋軍が、
この部隊も散々に打ち破った。
山越王「ムムッ……アノ虎髭ノ将。
ナカナカヤルデース! 退ケ、退ケッ!」
こうして、山越軍の部隊は全て打ち破られた。
見事、桂陽の地は守られたのである。
霍 峻「お見事でした、黄祖どの」
黄 祖「いやなに。皆が力を合わせた結果じゃ」
馬 良「それにしても、予想を上回る攻撃力……。
異民族は要注意でございますな」
霍 峻「確かに。兵力は充分と思っておりましたが、
もう少し多めに駐屯させるべきかもしれません」
髭髯龍「ご安心を。我々、髭の神に仕えし者がいれば、
必ずや髭の神が守ってくださいましょうぞ」
髭髯豹「うむ、髭の神のご加護があれば、我々は無敵!」
髭髯鳳「髭の神よ! 我々に祝福を!」
霍 峻「は、ははは……参りましたな」
馬 良「全くです、髭の神など実際にはいないのに」
黄 祖「いや、いるぞ」
馬 良「……は?」
黄 祖「ワシは髭の神の声を聞いた。
うむ、あの声こそ、髭の神の声なのだろう。
あの声がなければ、ワシは負けていたぞ」
馬 良「黄祖将軍、一体何を……?」
黄 祖「髭の神の加護……。
あの声を聞いた今なら信じられる。
ワシは、髭の神に選ばれし者じゃと!」
髭髯龍「おおお! 目覚められたのですな!」
髭髯鳳「それでこそ我らの上に立つお方だ!」
髭髯豹「万歳! 髭の神とその御遣いに万歳!」
黄 祖「おうよ! 髭の神よ、我々に力を与えよっ!」
霍 峻「……どう思われる、馬良どの」
馬 良「……放っておくしかありますまい」
桂陽は平和を取り戻した。
この戦いで叩かれた山越軍は、黄祖たちを恐れたのか、
しばらく桂陽へ侵攻してくることはなかったのだった。
☆☆☆
劉髭
杏
杏 「あら、どちらに行かれてたんですか?」
劉 髭「なに、ちと下界に遊びにの」
杏 「駄目ですよ、生きてる方々に干渉するのは
ご法度だと言われてるじゃないですか
劉 髭「なーに、少々ささやいてやっただけじゃ。
罰を受けるほどではないわい」
杏 「どうなっても知りませんよ」
劉 髭「死んでからずっと、暇で暇でのう。
下を見ていた方が楽しいわい」
髭の神の声。
それは、死した劉髭のただの気まぐれであった。
髭の神を信じる者たちに、祝福を。
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