○ 第六十九章 「若さ、若さってなんだー?」 ○ 
216年1月

河南

年が明けた河南城塞。
祝賀の宴もそこそこに、金旋は政務を片付けていた。

  金旋金旋   下町娘下町娘

下町娘「金旋さまー。速達きてますよ」
金 旋「お、誰からだ?」
下町娘「鞏志さんからみたいですね」
金 旋「ほう、どれどれ……」

金旋は渡された書簡箱を開け、
中の書類を取り出し読み始める。

金 旋「ふむ、滞りなく行ってるようだな」
下町娘「何の報告ですか?」
金 旋「饗援への支援のことさ。
    余剰金をいくらか、饗援に贈っている」
下町娘「支援? なんでまた」
金 旋「饗援への恩を売るのと同時に、
    支援で饗援軍を強め、劉璋を牽制するためだ。
    ちなみに、昨年は余った米もくれてある」
下町娘「へー。曹操軍ばっかり相手にしてると思ったのに、
    他のところも気にしてるんですね」
金 旋「はっはっは、俺自身はあまり気にしてないけどな。
    うちのブレーン集の進言だよ」

金玉昼やそのほかの者たちの進言で、
饗援軍に一年に1、2度、金や兵糧を贈っていた。
これは、蔵に貯めこまれた金・兵糧を、
有効活用しようと取られた方策である。

下町娘「ふーん。ということは、
    饗援軍が昨年、成都や江州を落としたのも、
    うちの援助があったからなんですねー」
金 旋「ま、何割かは貢献してるかな。
    あちらがどう思ってるかは分からんが。
    ふむふむ……。ほう、面白いことを言ってるな」
下町娘「え? 何て書いてあるんですか?」
金 旋「鞏志が成都入城の祝いの言葉を述べた後だ。
    『貴殿らも、そろそろ洛陽へ入城すべきであろうな』
    と饗援が言っている。
    ようするに、さっさと片付けろってことだな」
下町娘「おー。もう洛陽は落ちたも同然、
    と思われているんですね」
金 旋「よし、それじゃそろそろカタをつけるとするか。
    ここは全軍をあげて洛陽を……」

   金玉昼金玉昼

金玉昼「ちょーっと待つにゃー!」
金 旋「なんだなんだ。盛りあがってるのに」
金玉昼「盛り上がるのは結構だけどにゃ。
    全軍あげて洛陽攻めは却下させていただきまひる」
金 旋「えーっ、いいじゃんいいじゃん!
    ここまでじっくり攻めてきたんだから、
    そろそろ全軍で落としちゃってもいいじゃん!」
金玉昼「まーだ早いにゃ。
    敵兵力を集わせ、それを襲って弱体化させる。
    これが、じっくり攻めてきた理由のひとつにゃ」
金 旋「充分弱体化したと思うんだがなあ。
    こっちの兵力も充実してるし、今が攻め時だろ?」
金玉昼「まだ、洛陽に兵力が集まってまひる。
    全力で行くのは、これをもう少し減らしてからにゃ」
金 旋「やだやだやだ! 今行くのー!」
下町娘「駄々っ子ですかっ」
金 旋「いやほら、俺もいつ死ぬかわからんしー」
金玉昼「確かにそうだけどにゃ……」
下町娘「……そうですね。
    急ぎたくなるのも仕方ありませんよね」
金 旋「ちょっと待てや! なんでそこで納得する!
    普通は『まだまだ若いですよ』とか言うもんだろ!」
下町娘「……だって、ねえ」
金玉昼「ねえ」
金 旋オアー!・゚・(ノД`)・゚・。
    娘と秘書がいぢめるー!」
金玉昼「……ま、とにかくにゃ。
    気分で戦略変えてもらっちゃ困りまひる」
金 旋「ううう……。ん、司馬懿?」

   司馬懿司馬懿

司馬懿「なにやら、議論されていたようですが」
金 旋「ああ、洛陽攻めについてなんだが……。
    俺は今、全力で攻めたいと思っているんだが、
    玉はダメだと言うんだ。お前の意見はどうだ?」

話を振られた司馬懿と、それを黙って見つめる
金玉昼との視線が交差する。
一瞬の間があり、そして司馬懿が口を開いた。

司馬懿「……なるほど。
    軍師殿は洛陽攻めを単なる城攻めではなく、
    曹操軍を弱らせるための戦略のひとつとして、
    考えておられるのですね」
金玉昼「……そうにゃ。
    単に落とすだけでは曹操軍の戦力は残る。
    だから叩いて叩いて、弱らせてから取る。
    そういう戦略なのにゃ」
司馬懿「はい、私も当初はそう考えていました。
    しかし今は、曹操軍も弱まり、我が軍は意気盛ん。
    もはや弱体化させる戦略は要らないでしょう」
金 旋「うむ、そうだよな。
    では、さっそく全軍をもって……」
司馬懿「いえ。今は辞めておきましょう」
金 旋「ん、何故だ?」
司馬懿「洛陽にいる諸葛亮が何やら、
    おかしな動きを見せています」
金 旋「しょ、諸葛亮がおかしな動きだと!」
下町娘「わ、大声出さないでくださいよ」
金 旋「お、おかしな動きというのはもしや、
    妖しく腰をクネクネしてるとか、
    裸でセクシーポーズを決めてるとか、
    そういうことなのか!?」
金玉昼「……ちちうえ、そんなことありえんにゃ」
金 旋「わ、わかるものか!
    あの変態諸葛亮のことだ、何を企むか分からん!」
司馬懿「……まあ、『何を企んでるか分からない』
    というのは、ある意味合ってはいますが……」
金 旋や、やっぱりぃぃぃ! ヒィィィィ!
司馬懿「ですが、少なくとも閣下の思っているような
    変態行為は全くございません。ご安心を」
金 旋「……あ、そうなの?」
司馬懿「怪しい動きとは、そういう意味ではなく、
    何やら策を弄している様子だということです」
金 旋「策だと……? 何をしてくる気だ?」
司馬懿「まだ分かりません。
    ただ、何をしてくるか分からない状態で、
    全軍を動かすのはどうかと思われます」
金 旋「ふむう。では、どうすればいい」
司馬懿「洛陽を攻めること自体は良いでしょう。
    ただ全軍を出すのは、もう少しお待ちください」
下町娘「……結局、結論は玉ちゃんと同じでは?」
司馬懿「ふふ、結論としてはそうなりますね」
金 旋「そうか……。
    二人ともよせというのなら、仕方ないな。
    では、司馬懿」
司馬懿「はっ」
金 旋「郭淮とともに、洛陽攻撃の部隊を任せる。
    洛陽の防備を弱らせよ」
司馬懿「ははっ。では早速、準備に入ります」

司馬懿は一礼すると、その場を退いた。
金旋も話を終えたためか、部屋の外へ出て行く。
後には、金玉昼と下町娘が残された。

金玉昼「……うー」
下町娘「何唸ってるの、玉ちゃん」
金玉昼「悔しいにゃ……」
下町娘「え?」
金玉昼「司馬懿さんは私よりも深く考え、
    臨機応変な戦略を持っている……。
    それに敵わない私が、悔しいにゃ」
下町娘「な、なーに言ってるのよー!
    ほら、うちの正軍師は玉ちゃんなんだから!
    しっかりしなくちゃ、ね?」
金玉昼「うん……分かってる。分かってるけど……」
下町娘「ほ、ほら、智謀ではちょっと負けてても、
    若さじゃ勝ってるしさ!」
金玉昼「それ、励ましになってないにゃ……」
下町娘「あああ、いや、でも、若いっていいことだよ!
    玉ちゃんはうちのアイドルだし!
    可愛さでアピール、アピール!
    トータルなら玉ちゃんの勝ち!」
金玉昼「アイドルなら恋ちゃんがいるし……。
    可愛さなら町娘ちゃんに負けるし……。
    ぐすん……中途半端だにゃ、私……」
下町娘「玉ちゃんの方が可愛いって!
    ああっ、泣かない泣かない!
    泣くとファンデーションが流れるでしょ!」
金玉昼「ふぁんでーしょん? なにそれ?」
下町娘「……え? 玉ちゃん、化粧は?」
金玉昼「一応口紅は薄いのつけてるけど、それだけにゃ」
下町娘……がーん
金玉昼「え? え? 町娘ちゃん?」
下町娘「すっぴんでその肌……。充分勝ってるよ……」
金玉昼「あ、あのー」
下町娘「若さって大事だよ……」
金玉昼「ま、町娘ちゃんも充分若いにゃ!
    肌のハリを見ても、蛮望さんなんかとは
    もう比べ物にならないにゃ!」
下町娘「あんなのと比べられても……」

いつの間にか、慰める立場が逆転している二人であった。

    ☆☆☆

金旋軍は、攻撃部隊を出撃させる。
司馬懿隊、3万5千(魏延・張常・金閣寺・李厳)、
郭淮隊、3万5千(鞏恋・魏光・于禁・田疇)。
合計7万の軍が洛陽へ向かった。

洛陽攻撃

  魏延魏延   李厳李厳

魏 延「さぁて、暴れてやるとするかっ」
李 厳「おや、今回は機嫌悪くはないのですな。
    以前の時は不機嫌極まりなかったのに」
魏 延「ふ、悟りを開いたのだよ」
李 厳「悟り?」
魏 延「自分の持ち場で全力を尽くす。
    そうすれば、自らの評価も上がるし、
    軍も勝って万々歳だ」
李 厳「ほう、それはそれは。で、本音は?」
魏 延「勝てば評価されるし、負けても大将の責任。
    命令される不愉快さを除けば、気楽で良かろう。
    あわよくば大将を蹴落として……」
李 厳「……あー、みなまで言わなくて結構。
    結局、大して変わってないんですな」

司馬懿・郭淮の両部隊は洛陽に到着。
騎馬射撃隊・弩兵隊を以って攻撃を掛ける。

  曹操曹操   諸葛亮諸葛亮

曹 操「来たか。兵は7万……まだ余裕はあるな。
    諸葛亮、お前の策は大丈夫なのか?」
諸葛亮「はっ、必ずや動きます。
    それまで、何とか凌げれば……」
曹 操「よし、ではまず敵の出鼻をくじくとするか。
    弩兵、火矢を用意せよ!
    次の号令で、郭淮隊近くの場所を射るのだ!」

曹操は郭淮隊を迎撃するために、
あらかじめ用意していた罠を発動させようとする。

  魏光魏光   郭淮郭淮

魏 光「攻撃は順調です、郭淮将軍」
郭 淮「了解……って私はカクワイダーだが」
魏 光「は、ははは。そーんな細かいこと、
    どうでもいいじゃないですか」
郭 淮「当人としては重要な問題なのだが……」
魏 光「ほら、殿も言ってますでしょ。
    『カクワイダーを略して郭淮』って」
郭 淮「むっ……」
魏 光「……あっ、お、怒りました?
    き、気にしてるんなら謝りますから、
    だからそんな睨まないでください」
郭 淮「いや、睨んでるわけではなく。
    あそこの、あの茂み……」
魏 光「茂み?」
郭 淮「……手の空いてる者! 水を持って来い!
    飲み水用のを全部だ!」
魏 光「の、飲み水をどうするんですか!?」
郭 淮「早く持って来い! 早く!」

彼の命令で、兵たちが水桶を積んだ馬車を引いてきた。

兵 A「持って参りました。で、これをどうすれば……」
郭 淮「よし、ではそれを全部、あの茂みに撒くのだ!」
魏 光「えっ、それを撒いたら飲み水は……」
郭 淮「飲み水は後で汲み直せばいい! 早く!」
兵 A「は、はっ!」

兵たちは、茂みのところに水を撒き始めた。
城から見ていた曹操は、それを見つけて驚愕する。

曹 操「ああっ! 火罠用に埋めた火薬玉がぁぁぁぁ!」
諸葛亮「あれでは、もはや罠には使えませんな……」
曹 操「くっ、おのれ郭淮めぇぇぇ!」

郭淮は、曹操の火罠を見つけ、それを潰していたのである。
対する曹操は、仕込んだ罠が使えなくなったからか、
3万の部隊を率いて出陣する。

曹 操「まずは司馬懿隊を狙え! 攻撃開始!」
曹 宇「お任せください、父上!」
夏侯徳「司馬懿隊なぞ、蹴散らしてくれましょうぞ!」

曹操は、夏侯徳、程立、曹操の子の曹宇、
そして司馬懿の弟の司馬孚らを率い、司馬懿隊を迎撃。

   程立程立

程 立「兄弟だからと言って手加減するでないぞ」
司馬孚「はっ、敵味方である以上、血縁など関係ありません。
    ……罠を発動させよ! 奈落の底に落とせ!」

司馬孚の仕掛けた穴罠が口を開ける。
しかし、それはすでに司馬懿の知るところであった。
司馬懿隊の兵は全て、落とし穴を回避し、
被害が出ることは全くなかったのである。

司馬懿「……ふ、まだまだのようね」
司馬孚「な、なにぃっ!?
    あの落とし穴は会心の出来だったのに!?」
司馬懿「司馬孚、貴方の罠は素晴らしかった。
    しかし、それゆえ私には分かりやすかったわ」
司馬孚「そ、それはどういうことなのだ!?」
司馬懿「貴方の罠の欠陥……。
    それは……あまりにも綺麗過ぎるということよ!
    ここまで整えすぎては、バレるのは自明の理!」
司馬孚「な、なんだって……」
司馬懿「次は、もっと自然さを大事にすることね!
    次があれば、の話だけれど!」
司馬孚「くうう……私もまだまだ青いということか」

程 立「……結構な距離があるのに、
    この二人はなんで普通に会話できてるのじゃろ」

そんな細かいことは黙殺しつつ、戦いは続く。
郭淮隊は城への攻撃を継続。
司馬懿隊は、曹操隊への攻撃に切り替える。

対する曹操隊は、曹宇の騎射で司馬懿隊へ攻撃。
そのイキのよさそうな18歳の若武者を見て、
魏延が単騎で駆け出す。

魏 延「こわっぱめ! この魏延が相手してやる!」

これに驚いたのは当の曹宇である。
彼の武勇はお世辞にも大したものではなく、
魏延の相手をしようものなら、一刀でやられてしまうだろう。
その彼を助けるべく、夏侯徳が魏延の間に入った。

夏侯徳「若君! ここは私に任せてお下がりください!」
魏 延「邪魔をするな、どけい!」
夏侯徳「この猛牛め、この夏侯徳が退治してくれるわ!」

夏侯徳は勇ましく魏延に挑んでいった。
だが、所詮は武力70台の二線級の将。
一合で倒され、怪我を負った上に捕らえられてしまう。

魏 延「ふん、この魏延に挑もうなど、100年早い!」
夏侯徳「ぐうう……無念」

夏侯徳を捕らえ意気上がる司馬懿隊は、
司馬懿・金閣寺らの弩連射、さらに張常の連弩で
曹操軍に大量の矢を浴びせた。
その最中、曹操や程立なども矢を浴び負傷。
さらには……。

ジャーンジャーン

ワァー ワー

曹 操「……なにっ、新手だと!?」

   甘寧甘寧

甘 寧「鈴の甘興覇が御身の首いただきに参った!
    曹操、覚悟!」
曹 操「げえっ甘寧!?」

新たに甘寧隊3万5千(金目鯛・蛮望・楽進・牛金)
が参戦、曹操隊を包囲し殲滅にかかる。
形勢は、完全に金旋軍に傾いていた。

司馬懿「……老いたり、曹操。
    さあ、曹操隊を全て討ち果たすのです!」

    ☆☆☆

司馬懿隊・甘寧隊が有利に戦いを進めている頃、
金旋は、河南城塞からじっと戦況を見ていた。

金 旋「おー。完全に我が軍のペースだ。
    やはり甘寧隊の投入が効いてるな」
金玉昼「叩ける時に叩いておかないとにゃ。
    できればもう一部隊投入して、
    完全に殲滅したいところだけど」
金 旋「そうか、では韓遂に用意をさせてお……」

そこへ、慌てた様子の下町娘が駆けてくる。

下町娘「て、ていへんじゃボス! ていへんだべー!」
金 旋「な、なんだ、ていへんって」
金玉昼「その前に訛りが変にゃ」
下町娘「そんなことはどうでもいいんです!
    とにかく大変なんですよ!」
金 旋「とにかく何が大変なんだ?」

下町娘は、手に持っていた書簡を差し出した。

下町娘「これ、桂陽の黄祖さんからです」
金 旋「黄祖から? なんで黄祖が桂陽にいる?」
金玉昼「徴兵のために各都市巡ってたみたいにゃ。
    それはいいとして、何て書いてあるのかにゃ」
金 旋「どれどれ……えーと」

『金さんピンチです。山越軍が宣戦布告、
 桂陽に向かって一直線にやってきます。
 至急救援を請う、OVER』


金 旋……やまごし軍?
金玉昼「それは『さんえつ』と読むんだにゃ。
    東南部にいる異民族のことにゃ」
金 旋「そ、それくらいは知っている!
    ちょっとボケてみただけだ! 本当だぞ!」
下町娘「何を必死に弁解してるんですか」
金 旋「う、うるさい!」
金玉昼「……諸葛亮が何やら動いていたというのは、
    多分これだにゃ」
金 旋「山越をけしかけて、桂陽を攻めさせたというのか!
    くっ、やるな、あの変態野郎……」

ミニマップ

突如降って沸いた山越軍の宣戦布告!
桂陽を守る黄祖の運命は!?
そして上洛を目指していた金旋は、どうするのか!

次回につづく!

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